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苦難揺籃_7-19_11:15:38
パトリオットの死は全ての人に影響を与えた。Wはケルシーとドクターを挑発するも、あえなくケルシーが起こした爆発で吹き飛ばされてしまう。メフィストは石棺の中で眠りにつく。そしてウェイの前に現れた鼠王。 龍門に、雪が降る。
[スワイヤー] アンタ、怪我してるじゃない!
[ホシグマ] なに、些末な事ですよ。
[スワイヤー] そんなわけないでしょ! 消毒用のウェットティッシュを持ってるから、こっちに来なさい。
[ホシグマ] 本当に平気なんですがね……
[スワイヤー] 顔、こっち!
[ホシグマ] は、はい。
[スワイヤー] ……傷口は小さいけど、深いわ。それに……アーツによる痕跡も。
[スワイヤー] ……まさか、チェンが? あの*龍門スラング*!
[ホシグマ] ふふ……心配要りませんよ。年頃の娘ですからね、何をしでかしてもおかしくありません。
[スワイヤー] ……ねえ、ホシグマ。アタシ、怖いの。もし、アイツが——
[ホシグマ] レユニオン・ムーブメントに傾倒したら、と?
[スワイヤー] ……ええ。
[スワイヤー] 小さい頃ね、アタシもタルラと遊んだことがあるの。
[スワイヤー] 今となっては、ぼんやりとした記憶しかないけど……あの子と友達になれて良かったって、そう思ったことは覚えてる。
[スワイヤー] 生意気でムカつく性格してたけど、何かあった時は必ずアタシたちを庇ってくれたわ。
[スワイヤー] 何も言わずに、いつも一番先頭を突っ走ってね……逃げるってことを知らず、そして絶対誰にも助けを求めなかったのよ……
[スワイヤー] 年上の子にだって平気で突っ掛かってコテンパンにしてた。小さい頃ふさぎ込んでたチェンのお馬鹿を、あの厄介な状態から引きずり戻せるのも、あの子しかいなかったのよ。
[スワイヤー] だから怖いの。アイツがもう帰って来ないんじゃないかって……
[ホシグマ] 杞憂ですよ。
[スワイヤー] …………
[ホシグマ] 私に言わせれば、あの人は口にすることと、頭で考えることが一致しないタイプです。
[ホシグマ] 「龍門のチェン」ですからね、あの人は。口先でなんと言おうと、あの人の夢は、目標は、生涯の全てはここ龍門にあるんですから。放っといても、勝手に戻ってきますよ。
[スワイヤー] じゃあなんでアイツを止めようとしたの?
[ホシグマ] ……死にに行くんじゃないか、と心配してしまって。
[ホシグマ] そんなことよりミス・スワイヤー、今後はあなたが近衛局を背負うんですよ。
[スワイヤー] アタシにできるわけないでしょ? アイツじゃないんだから……
[ホシグマ] おや、彼女には及ばないと、ご自身で認めるんですか?
[スワイヤー] 近衛局は性に合わないっていうだけよ!
[ホシグマ] いいえ、お嬢様。きっと適役ですよ。
[ホシグマ] チェンでもなく、ナインでもなく、私でもない。
[ホシグマ] あなたなんですよ、近衛局の真価を引き出せるのは。
[ホシグマ] この責任はあなたが担うほかありません。あなたにしか担えない。
[ホシグマ] 私は十分観察してきたつもりですが、それでもまだ全てを見通せてはいません。この街が、本当の意味で全ての人のための都市になることを願っています。
[???] 私もです。
[スワイヤー] ——あなたは!
[ユーシャ] 久しぶりね、スワイヤー。
[ユーシャ] ごきげんよう、ホシグマ督察。
[ホシグマ] 鼠王の所のお嬢さんが、なぜ近衛局の縄張りに?
[ホシグマ] どういうつもりです? 断っておきますが、もしミス・スワイヤーの髪の毛一本でも傷つけたら……
[ユーシャ] 敵意はないわ。
[スワイヤー] アンタも……失敗したのね。
[ユーシャ] たぶん……そうね。
[ユーシャ] でも選択の余地がない時だってあるのよ。
[スワイヤー] だけど選ぶ権利もない時なんて……ないと思うわ。
[ユーシャ] ……空を見上げてごらんなさい。
[ユーシャ] もうすぐ雪が降るわ。それを降らせないことを選ぶ……そんな権利があなたにはあるの?
[スワイヤー] 屁理屈を……
[スワイヤー] え……雪?
眠れ、眠れ♪
父の白髪よ、母の針と糸よ♪
[オペレーター] だめだ、溶解の閾値を超えている! ダクトを強制開放しろ!
[オペレーター] さっきの揮発で大量の熱が失われたんだ、排気量を上げなければ、船室全体が壊れるぞ!
[オペレーター] 雨雲が近づいてる……大雪になるかもな。
[オペレーター] フロストノヴァ……なんてヤツだ。
全ての夢は湖の底に沈み♪
……時さえもここで凍える♪
[メフィスト] ゲホッゴホッ……ふう。
[メフィスト] …………
[メフィスト] 聴くに堪えない歌だな、くそっ……
[メフィスト] ちくしょう!
[メフィスト] なんでフロストノヴァは、あんなに上手に歌えるんだろう? 僕には……やっぱり無理みたいだ。
[ロスモンティス] 雪……
[ロスモンティス] あのおじいさんは……?
[ケルシー] …………
[ケルシー] 全身の結晶化が60パーセントを超えている。いかに鉱石病と相性がいいサルカズであろうと、もはや1ミリも動けないだろう。
[ケルシー] その意識はすでに霧散している……だが、鋼鉄のごとき意志は貫き通され、身体が崩れ落ちることを拒否している。
[ケルシー] ……ボジョカスティ。
[アーミヤ] 悲嘆、憎悪、後悔……
[アーミヤ] 全て消え去りました。
[アーミヤ] 最後に残ったのは、憤怒でした。
[アーミヤ] フロストノヴァさんの死に対する悲嘆。タルラの裏切りへの憎悪。ウルサスとカズデルへ残した果てしない後悔……
[アーミヤ] そして、燃え盛り決して尽きぬ憤怒。全ての不公平と、不条理な死への怒り……全ての人の一生を弄ぶ運命に対する怒りです。
[ケルシー] 運命への抵抗は、事実上すべてのモノへの抵抗だ。ありとあらゆるものすべてが「運命」という概念に収束されるのだからな。
[ケルシー] ボジョカスティの怒りの矛先は、この大地全てだと言ってもいい。
[アーミヤ] ……不公平を生む、この大地全て。
[アーミヤ] パトリオットさん……
[盾兵] その手をどけろ。
[盾兵] お前のことだ、コータスの感染者。
[盾兵] ……大尉が遺した偉業は、我々が受け継ぐ。
[ロスモンティス] ……もうやめて。
[ロスモンティス] 彼の死を無意味なものにしたいの?
[ロスモンティス] 彼は、あなたたちに死んで欲しくない。自分の道を選び、進むことを望んでいたはずでしょ?
[ロスモンティス] あなたたちを生かすために、孤独な死を選んだの。
[盾兵] 誰が死ぬのは俺たちだと言った?
[盾兵] それに、聞こえたぞ。
[盾兵] ……コータスの娘。お前は未来の禍根だ。
[盾兵] 古き預言は、外れることはないのだ。
[ドクター選択肢1] だがフロストノヴァは我々を信じることを選んだ!
[盾兵] …………
[盾兵] フロストノヴァのことは……大尉でさえも……
[ドクター選択肢1] そう、フロストノヴァの判断を彼は鵜呑みにしなかった!
[ドクター選択肢1] 彼だけが、娘の遺志に左右されなかった……
[ドクター選択肢1] 盲目じゃなく、冷静だったんだ!
[ドクター選択肢1] 彼の判断は……極めて公正なものだった!
[ドクター選択肢1] なのにお前たちはたかが預言を信じるのか?
[盾兵] ……いや、我々は預言を信じるわけではない。
[盾兵] 大尉を信じているんだ。
[ドクター選択肢1] ……フロストノヴァのキャンディは辛かった。
[盾兵] ……なに?!
[盾兵] エレーナは……あのキャンディをお前にやったのか?
[ドクター選択肢1] 自分と彼女は、お互いを信用し合えたんだ。
[ドクター選択肢1] 本気で誰かの命を狙うというのなら……
[ドクター選択肢1] せめて、まず自分の目で確かめろ!
[ドクター選択肢2] 他人の言うがままに行動するな!
[ドクター選択肢3] 最後まで自分の意志で生き抜くんだ!
[盾兵] …………
[盾兵] いや。
[盾兵] ロドスの指揮官よ。お前が言うことはわかる。だが、全てには賛同しない。
[盾兵] 我々が、大尉に生涯尽くすと誓ったのは、何も彼という個人だけに限るものではない。
[盾兵] もしも――もしもいつか、お前の横にいるコータスの娘が、本当にタルラのような暴君になり果ててしまったなら……
[盾兵] 俺たちが葬ってやる。
[盾兵] 大尉が反抗した全ての敵……圧政者、暴君、独裁者どもは、誰一人として逃さない。
[盾兵] 大尉は知っていた。天災で死んだチェルノボーグ人を。志半ばで命を落とした感染者の戦士を。訳も分からず犠牲となったレユニオンのメンバーを……
[盾兵] 大尉は大いに悔んだが、運命からは逃れられなかった。だが今の俺たちは違う。俺たちはただ大尉とその信念にのみ従う。レユニオンなんかじゃない。
[盾兵] 今から俺たちは「盾」となるのだ。感染者だけの盾ではない。迫害され、搾取される全ての弱者たちの盾だ。
[盾兵] 俺たちはお前を見ているぞ、コータス人の娘よ。お前が少しでも道を誤れば、容赦はしない。
[盾兵] それまで預言は……秘密にしておく。
[盾兵] その前に、ブリッジで俺たちを待つ暴君がいるからな。
[ケルシー] ……諸君を我々と戦わせ、この一連の惨劇をもたらした張本人は、他ならぬ、レユニオン・ムーブメントのリーダー・タルラだ。
[盾兵] 我々は部隊を再編する。遊撃隊にこのことを伝えなければ……
[盾兵] お前らは……そうだな、好きにしろ。ただし邪魔はするな。
[盾兵] 雪の華……
[盾兵] この雪は……エレーナが大尉を迎えに来たのか……?
[ケルシー] …………
[ケルシー] あまり気に病む必要はない、アーミヤ。
[ケルシー] サルカズ人は、長時間源石に触れるため、一部の生体記憶が源石の結晶と一体化し、大地を循環し続けることがある。それがサルカズ人の体内で記録、蓄積されていくのだ。
[ケルシー] 代々、源石の結晶を受け継いできた部族は、時折、蓄積された情報を自身の内で無意識に統合させることがある。
[ケルシー] 彼らがアーツを使い続ける中で、それらの情報は稀に、様々な形で表層意識に開示される。それを預言と称したのだ。
[ケルシー] ほとんどが意味を為さぬ散文で、すでに古くなった情報が大半だ。つまり預言には、参考にする価値などない。
[アーミヤ] ですが、人の心に働きかけます。
[アーミヤ] その理由の一つは……預言を聞いた者は、無意識にそれと符合するような選択や行動をしてしまう……そういうことですよね?
[ケルシー] …………
[アーミヤ] それが暗示なのか……それとも本当に結果を導く力が働いたのかはわかりません。私には見通せないんです。でも……
[アーミヤ] 彼はあの時、私を殺すこともできたはずです。
[アーミヤ] ですが、彼は思い出しました……思い出したのです……
[パトリオット] 今ここで彼女を殺す。
[フロストノヴァ] だめだ、なぜ彼女が悪だと断言できる?
[パトリオット] 彼女はコシチェイを継ぐ者だ! かの老いた毒蛇のように、我々に必ず毒を盛るだろう。
[フロストノヴァ] 違う! この石頭……そんなはずがないだろう!
[フロストノヴァ] いや、たとえ未来の彼女がそうなる定めだとしても、今の彼女を殺すべきではない。
[パトリオット] …………
[フロストノヴァ] 彼女はそのコシチェイとやらではない。いや、そもそも何を言っている? コシチェイとは誰のことだ? 彼女はタルラだ、それ以外の何者でもない。
[パトリオット] ……そういう理屈をどこで習った? そんなものはお前の闘争心を乱してしまうだけだ。
[フロストノヴァ] 闘争心を乱す……何を言っている、この頑固おやじ。純粋な闘争心だか何だか知らないが、父さんにそんなものがあったら、私は父さんと出会ってなかった。そうだろう?
[フロストノヴァ] そうしたら、今のように焚火のそばに並んで座って、スープを一緒に飲むこともなかった。
[パトリオット] お前はまだ……たった十六歳だ。
[パトリオット] スープが冷めたか?
[フロストノヴァ] 最初から冷めている。こっちのほうがいい。
[パトリオット] …………
[パトリオット] 今回だけ、お前の意見を聞き入れてやる。
[フロストノヴァ] 違う。父さん、違うんだ。
[フロストノヴァ] 私の意見が正しいと思うなら……今後、何があろうが、それに変わりはないはずだ。
[フロストノヴァ] 今後もしタルラがおかしくなったとしても、それはその時に、タルラ自身と、その周りの者たちが向き合うべき問題だ。
[フロストノヴァ] 私たちにとっては、彼女の今の姿だけが真実なんだ。そうだろう、父さん?
[フロストノヴァ] 未来がどうなろうが今とは関係ない。今ここにいるのは今の私で、今の父さんは今ここにいるんだから。
[フロストノヴァ] どんなにこねくり回して考えても、今の父さんと私は、今の父さんと私のまま。これからどう変わっていくかは私たち次第で、それを決断するのも私たち自身だ。
[フロストノヴァ] 彼女と共に歩んでみよう、騙されたと思って。
[パトリオット] ……お前は優秀なリーダーになるだろうな。
[フロストノヴァ] リーダーになんてなりたくない。私はただ、父さんと、兄弟や姉妹たちと、おじさんおばさんたちと一緒に、ちゃんと生きていきたいだけだ。
[パトリオット] 覚えておこう。
[フロストノヴァ] 覚えていてくれるのか?
[パトリオット] 忘れたりはしない。
[アーミヤ] ロスモンティス……先生……ドクター……
[アーミヤ] パトリオットさんは……私を殺せるはずでした。
[アーミヤ] でも、見えたんです……あの人の考えが、私には見えました。
[アーミヤ] 彼は、手を下さなかったんです。彼は止まってくれたんです。
[アーミヤ] そして、聞こえました……私には、聞こえて……
[ケルシー] アーミヤ。
[ケルシー] 肝心なことを教えてほしい。彼は何と言ったんだ?
[アーミヤ] …………
「悪夢と惨劇を見た。」
「死と殺戮を見た。」
「遺棄と冒涜を見た。」
「だが、ある者が言った。事を成せるのは人なのだと。たとえ未来の総てが、お前と私の目に映っていたとしても……」
「それがもし運命だというのなら……私は運命を信じない。」
「幼き魔王よ。事を成せるのは人なのだ。」
[アーミヤ] 彼は……あの人は問いかけました。
溜息混じりに——
「我が王よ……貴方はどこへ向かう?」
[アーミヤ] ――と。
[アーミヤ] 先生……私、読めました。全てを読み取れました。
[アーミヤ] 彼の一生を読み取ったんです。
[ケルシー] アーミヤ……
[ケルシー] ボジョカスティは、長い生涯において自らの信仰を二度裏切ったと考えている。
[ケルシー] 一度目は、カズデルを離れた時。サルカズの戦士として、サルカズ人として生きることを放棄した時だ。
[ケルシー] 二度目は、ウルサスに反旗を翻した時だ。ウルサス帝国の一戦士として生きることを放棄した時……
[ケルシー] あるいは、三度目の裏切りを、たった今選んだのかもしれんな……尽くしてきたレユニオンと感染者たちを裏切り、レユニオンの戦士として生きることを放棄した。
[ケルシー] 彼は死んだのだ。その裏切りもこれで最後だ。
[ケルシー] しかし――
[アーミヤ] 彼は「感染者を守る」という確固たる信念を掲げていたからこそ、大切に思ってきた全てを裏切ったのですね……
[ロスモンティス] でも、それこそが正しいこと、なんでしょ?
[ケルシー] このような「崇高なる裏切り」は、名誉を欲する者にとっては確かに一種の救いであり、自身の望む最善の結果へたどり着くための、最も簡単な道といえよう。
[ケルシー] だが、ボジョカスティにとってはそうではなかったのだ。
[アーミヤ] もしかして……ううん……
[ケルシー] アーミヤ、続けて。
[アーミヤ] ……カズデルはパトリオットさんの故郷です。
[アーミヤ] 遠く離れた地にいても、カズデルの方角に目を向けていました……帰りたくないわけではなく、帰れなかったのです。最初の裏切りの代償として……
[アーミヤ] ウルサスは彼の第二の祖国です。彼は生涯をかけてウルサスのために戦い続けてきました。そして、息子さんの死は自分のせいだと、自らを責めていました。
[アーミヤ] ウルサスは悪であると認識しながらも、この大地のために最後まで戦い抜いて……命まで捧げました。二度目の裏切りに対しての代償を支払ったのです。
[アーミヤ] 最後は……タルラに反旗を翻さねばなりませんでした。しかし、彼は予見しました。これまで守ってきた人たちの中には、そんな彼の行動で命を落としてしまう人もいるであろうことを……
[アーミヤ] たとえ彼の決断が感染者の未来を守るものだとしても、彼はただ、死にゆく者たちのために……心を痛めていました。
[アーミヤ] 三度目の裏切りにして、なぜ贖罪を決断したのか……この戦いは最初から最後まで、彼の裏切りがもたらしうる結末を補うためのものでした。
[アーミヤ] 三回とも運命は彼をより遠くへ追いやりました。彼の振り返りたいという望みに反して。運命の悪戯と残酷さを憎みながらも、それに流されることを拒んだ彼は、全ての結果を一身に背負いました。
[アーミヤ] 十年、二十年ならばまだ理解はできたかも知れません。ですが……長過ぎました。彼が抗い続けた運命が、その代償としてもたらした後悔は、あまりにも永きにわたるものでした。
[アーミヤ] 最後の最後は、私にも理解し得ないほどに……
[アーミヤ] 私の息の根を止めることもできたはずなのに、最終的に彼は、なぜか踏みとどまることを選びました。
[ケルシー] 勝ったのだ。彼だけを苛む個人的な苦痛……数百年の永きにわたり不変とした信条と、この大地全てに対する無償の「愛」。その鎖、その呪縛に、彼は勝利したのだ。
[ケルシー] だが、数え切れぬ歳月の中で自らに課してきた規則を反故にした。その意味で彼は……運命に屈したと言える。
[ケルシー] いや、その表現は彼への侮辱になるな。アーミヤの言う通り、彼は選んだのだ。ずっと抗ってきた運命を無視すること選択した結果、心のわだかまりを乗り越えることができたのだ。
[ケルシー] 彼は未来を君に託した。今度こそ、彼は躊躇なく自らが正しいと思うものを選ぶことができた。一つの理念を維持するために、苦難を受け入れるのではなく……
[ケルシー] そして当然ながら、彼の心の奥深くには、彼女の居場所があった。
[ケルシー] 以前まではそこにタルラが居たが、今はアーミヤが成り代わった。だが、それもひっくるめてその場所全ては、最初から最後まで彼女の……フロストノヴァの居場所だったのだ。
[アーミヤ] ……パトリオットさん。……フロストノヴァさん。
[アーミヤ] ケルシー先生。ロスモンティスさん……そしてDr.{@nickname}。
[アーミヤ] 私は、この戦争を終わらせます。
[アーミヤ] ここで。今度こそ……。
[ロスモンティス] うん。
[ロスモンティス] あなたについてくよ、アーミヤ。ずっとついてく。
[ケルシー] (……待てよ、今思い出したが、あの預言は——)
「たとえ多くの人を救おうとも、同時に無数の苦痛をもたらすことになるだろう。」
「憤怒。我が怒りは、運命がこの大地へもたらす、全ての不公平に対するものである。」
[ケルシー] (まさか……無数の歳月を超えて今結実したというのか?)
[ケルシー] (そんなことが有り得るのか? 預言とやらは、サルカズの歴史の断片ではなかったのか?)
中枢区画 倉庫エリア
[サルカズ傭兵] ――あ?
[サルカズ傭兵] パトリオットの配下どもがどうしてここに? ここはお前らの巡回区域じゃないだろう。
[遊撃隊戦士] おい、そいつを放せ。
[ロドス前衛オペレーター?] うっ……!
[サルカズ傭兵] 今回は見逃してやる。次から余計な真似はしない方がいいぞ。
[遊撃隊戦士] 先ほど知らせを受けた。
[遊撃隊戦士] ……パトリオットが死んだ。
[ロドス前衛オペレーター?] なに?!
[サルカズ傭兵] …………
[サルカズ傭兵] それは一大ニュースだな。
[遊撃隊戦士] だからもう、このクソみたいな現状を維持する理由はなくなった。
[遊撃隊戦士] 貴様ら魔族どもは、我々のところのサルカズより何倍もクズだ。
[ロドス前衛オペレーター?] おい! パトリオットが死んだってどういうことだ!?
[遊撃隊戦士] 後にしろ。まずはこのレユニオンのクズを処分するのが先だ!
[サルカズ傭兵] レユニオンに敵対するつもりか?
[遊撃隊戦士] 今頃気づくとは、頭が鈍いな。
[ロドス前衛オペレーター?] ……パトリオットが死んだだと? もし事実なら、それはお前たちレユニオンのせいだ!
[ロドス前衛オペレーター?] パトリオットが死んでしまったとしたら、もはやレユニオンに何の存在価値もない!
[ロドス前衛オペレーター?] なぁ、遊撃隊……パトリオットの死に報いるにはどうすればいい?
[遊撃隊戦士] ああ。まずは感染者の命を弄ぶこいつらクズどもを、中枢区画から放り出そう!
[ケルシー] Mantra-2、制服を着用せよ。識別コードはクロージャがすでにハッキング済みだ。内蔵している装備を表に出さないように。
[ケルシー] 例の件はおそらくもう広まっている。お前たちに必要なのは……
[エリジウム] 撹乱ですか?
[ケルシー] いや、秩序だ。遊撃隊メンバーをサポートせよ。感染者や善意あるレユニオン兵など、この地に蔓延する不条理に抵抗する者たちを、彼らの下に一致団結させるのだ!
[ケルシー] たとえタルラが、パトリオットの死を計画に織り込んでいなかったとしても!
[レユニオン構成員] 何だ……何なんだ? いま何て言った?
[ロドス前衛オペレーター?] パトリオットは死んだ!
[ロドス前衛オペレーター?] 本当にレユニオンのことを思い、我々のために戦ったパトリオットが死んでしまったんだ!
[遊撃隊戦士] タルラが裏切った……タルラはウルサスのスパイだったんだよ!
[レユニオン構成員] 誰がそんな話を信じるか!
[レユニオン術師] いや……タルラはおかしい。あの女は、我たちが市内で通信できないようにしているし……
[レユニオン構成員] そんなものが証拠になるか!
[レユニオン構成員] 俺は信じるぞ……傭兵どもが遊撃隊を待ち伏せしようとしていた。奴らの計画をこの目で見たんだ……完全に狂ってる!
[サルカズ傭兵] 貴様――
[遊撃隊戦士] 動くな傭兵! 命が惜しければ大人しくしているんだ。さもなくば粉微塵に押しつぶしてくれよう!
[遊撃隊戦士] 我々は「盾」だ! 感染者のためなら、全ての敵を相手に最後まで戦い抜く! たとえその相手がタルラだとしてもだ!
[遊撃隊戦士] パトリオットの名のもとに!
[ロドス前衛オペレーター?] パトリオットの名のもとに!
[サルカズ戦士] 何だか様子がおかしいな……ここらへんでいい。さっさと行け。
[迷彩狙撃兵] お前たちはどうするんだ?
[サルカズ戦士] 俺たち傭兵にもそれぞれ好みの違いはあるさ。俺はタルラの陰謀とやらには興味がない。お前もせいぜい頑張って生きろよ。
[遊撃隊戦士] 感染者の未来のために!
[迷彩狙撃兵] ……とに…
[迷彩狙撃兵] ……ファウスト隊長の名のもとに!
[迷彩狙撃兵] ファウスト隊長の名のもとに! タルラに裏切られたすべての同胞のために!
「パトリオットは死んだ!」「パトリオットが死んだ!」「タルラの陰謀でパトリオットが殺されたんだ!」「タルラだ! タルラが俺たちを裏切った!」
「だがパトリオットを殺したのは余所者だろ? 俺の仲間がその現場を見たんだ、タルラじゃない!」
「パトリオットは、ウルサス軍と結託してリーダーを殺そうとしたんだ!」「ちゃんと見分けろ、裏切り者はパトリオットの方だ!」
......
[ケルシー] …………
[ケルシー] パトリオットは、きっとこの状況を予見していたのだろうな。
[ケルシー] パトリオットはこれまで、孤独に嵐のような矛盾に立ち向かい続けていた。盾たちですら彼の方針そのものには目を向けず、彼の掲げた崇高な理念しか見ていなかった。
[ケルシー] 今後、中枢区画は混乱に陥るだろうな。レユニオン・ムーブメントは事実上崩壊する。
[ケルシー] ロスモンティス、これは君が欲した復讐の形か?
[ロスモンティス] …………
[ロスモンティス] 違う。こんなんじゃない。私はまだ復讐の相手を見つけていない。これは私の復讐なんかじゃない……
[ケルシー] 相手が誰だろうと、結果は似たようなものだ。
[ケルシー] レユニオン・ムーブメントというのは単なる記号に過ぎない。彼らは単独の個体ではなく、集団の一部なのだ。我々は、彼らの個々の顔を識別することはできない。
[ケルシー] たとえ、直接手を下した者を見つけ出したとて結局は同じことだ。レユニオンに復讐したいというのならば、記号そのものを消し去るしかないのだ。
[ケルシー] 君が納得するまで続けても別に構わん。だが、ロスモンティス……この復讐の中で、君は得るものがあったと思うか?
[ロスモンティス] ケルシー先生……教えて。
[ロスモンティス] 私は間違ってたの?
[ロスモンティス] 私は……でも……
[ケルシー] ただ、答えだけを与えるのは無責任というものだ。
[ケルシー] ロスモンティス、その問いに答えられるのはおそらく私ではない。君が納得する答えを見つけ出す力は、君自身にしかないものだ。
[ケルシー] 怒りが我々の中に巣食うとき、それが堆積し、憎しみへと凝縮していく様を、我々は黙って放置するのか?
[ケルシー] それとも、それを物事を測るための物差し、理知の力へ昇華させ、自らの行動を律するのか?
[ケルシー] 君は正誤を判別したいのか、それとも起きたことの原因を知りたいのか?
[ケルシー] 仲間の生死、君を動揺させる状況……そして我々の感情に影響をもたらす全ての事象、それらの原因を。
[ケルシー] さらには、ロスモンティス……なぜ一部の出来事は、たとえ君の症状がそれらを記憶から消し去っても、君の心に確かな痕跡を残すのか……
[ケルシー] 我々の命には、正しさも過ちもないのかもしれない。すべての記号を取り去った時にようやく、命そのものに価値が生まれる。
[ロスモンティス] …………
[ロスモンティス] ケルシー先生。
[ケルシー] うん?
[ロスモンティス] 私、原因を知りたい……この戦いが始まった本当の原因を。
[アーミヤ] Dr.{@nickname}。ここから先は二手に分かれることになります。
[アーミヤ] 私とロスモンティスさんは司令塔に向かいます。そしてドクターはケルシー先生と共に、司令塔の地下にある動力制御エリアへお願いします。
[ドクター選択肢1] しばらく会えなくなるんだね。
[アーミヤ] たったの数時間、そうですよね?
[アーミヤ] それに、ドクター……
[アーミヤ] たとえ傍にいなくても、同じ大地でDr.{@nickname}という人が共に戦っていることを……私は知っていますから。
[アーミヤ] 私の見えないところで、同じ目標のために戦っているのなら——
[アーミヤ] それで満足なんです。
[ドクター選択肢1] ミッション終了後に会おう!
[ドクター選択肢2] それじゃ後で……
[ドクター選択肢3] またすぐに会える、アーミヤ。
[アーミヤ] はい。
[アーミヤ] チェンさんは、おそらくもうブリッジ付近に到着してるはずです。私たちより先に行動開始していますから。私たちも急がないと。
[アーミヤ] ドクター……これだけは忘れないでくださいね。
[アーミヤ] 私たちみんなが、無事にロドスに戻れてこそ、我々の仕事に意味があると言えるんです。
[アーミヤ] くれぐれもお気をつけて!
[ドクター選択肢1] アーミヤ、君も無事で!
中枢区画 動力制御エリア
3:00 p.m.
[ドクター選択肢1] なぜ自分をこのチームに?
[ケルシー] ブリッジに向かった行動小隊は、レユニオン兵による全方位攻撃を受けるだろう。そんな戦場に、今の君が介入できる余地はない。
[ケルシー] 遊撃隊との戦闘であれば、一時撤退して隊を整えることもできる。だがブリッジのような狭い場所では、息つく暇もないだろう。
[ケルシー] この戦いには明確なターゲットがある。アーミヤとロスモンティスのチームに、集中を削ぐ要素を僅かでも加えるわけにはいかない。
[ケルシー] それに、私といる方が安全だからな。
[ドクター選択肢1] その方が危険な気もするけど。
[ドクター選択肢2] …………
[ドクター選択肢3] アーミヤと一緒に行かなくていいのか?
[ケルシー] 我々にはそれぞれ、自分しか担えない責任がある。
[ケルシー] ここからさらに下へ進めば、通信状況はさらに悪化するだろう。
[ケルシー] そうなれば、私たちは本当に孤立無援だ。
[ケルシー] 待て……
[ケルシー] ドクター、少し隠れていろ。
[ドクター選択肢1] なぜだ?
[ケルシー] ……息苦しくてどうしてもいやだと言うなら、別に構わんが。
[W] ううっ、ゲホッゴホッ……
[W] ここは? 一体どこまで……吹っ飛ばされたわけ?
[W] あら? あんたは……
[W] ロドスじゃない。ついてないわね……
[W] えっ!?
[W] ……偶然の再会ってヤツね、ケルシー。
[ケルシー] ――傷が深いな。
[ケルシー] 何があった、W……いや、今は何と名乗っている?
[W] Wのままよ。変える暇なんてなかったから。
[W] 待って……あんたがこうも堂々とこんなとこにいるってのは、どういうこと? もしかして——
[W] あのジジイは、もう?
[ケルシー] ああ。
[W] アレが死んだって? 信じられない!
[W] でも……そうね。あんたたちがここにいるんだから、生きてるはずないか。あの爺さんが投降なんてありえないし、ましてや道を譲るなんてなおさら……
[ケルシー] 残念がっているように聞こえるが。
[W] ええ。
[W] レユニオンの中で唯一、このあたしが目をつけてたのが、あの爺さんだもの。
[W] 理想主義の終焉……それが今日だったというわけね。
[ドクター選択肢1] 偉大なる死だった!
[ドクター選択肢2] お前は何もわかってない。
[ドクター選択肢3] 本気で言ってるのか?
[ドクター選択肢1] 彼は我々の目の前で命を落としたんだ。
[W] ——
[W] ケルシー、何か弁解を頂戴。
[ケルシー] 私に何の弁解が必要だと?
[W] あたしに訊くの? ねえ、それをあたしに訊くの? よくもまあ、何も存じません気づきませんなんて、惚けた顔ができるわね?
サルカズの女は、見たことのないような鋭い目で君を見つめる。
ケルシーに向かって話しているが、その目は終始君から離れない。
[W] ケルシー、あんたDr.{@nickname}と行動してるの?
[W] あんたが? Dr.{@nickname}と一緒に!?
[ケルシー] 何か問題でもあるのか、W?
[W] もしあんたがこのド畜生みたいに上辺だけ「何にも覚えてません」の体を取っているわけじゃないなら……まぁ、本当に覚えてないのかもだけど、そこはどうでもいいわ。
[W] そんなフリをしてるわけじゃないってんなら、あんたはきっと自分のヘンテコ実験で脳細胞を焼き尽くしてしまったのね。
[W] あーあ。あたしが狂ってんだか、あんたが狂ってんだか。いいえ、あたしがずっと狂いっぱなしなんだとしても、あんたが狂ってない証拠にはならないものね。
[ケルシー] お前は狂ってなどいない、W。しかし、無駄話なら別の機会にしてくれないか。
[W] いやよ。ねぇどういうことなの? あんたを見ているだけなのに、どんどん吐き気が込み上げてくるわ。
[W] そんで、その吐き気を我慢しながら、笑えてくるのよ。
[W] ケルシー、とうとうあんたもトチ狂ったみたいね。バベルの悪霊を手懐けようってつもり?
[ケルシー] 以前の記憶が残っているかどうかはわからないが、現時点では協力関係を維持できている。
[W] こいつの言う記憶喪失が、演技じゃないって保証はないんでしょ?
[W] 全員をだましていたのよ、コイツは……そう、全員をよ。あんたが認めようが認めまいが、あんただってコイツに騙されてたのよ……あたしはそれを確かに見届けたんだから。
[W] ケルシー、あんたバケモノなんでしょ? 脳みその溝の一つ一つが光を放ってるって噂があるくらい頭のいいバケモノ、そうでしょ?
[W] 自分の隣にいるもう一匹のバケモノが、どれほどの厄災をもたらすかなんて、同じバケモノのあんたの方があたしよりよーくわかっているはずよ。
[ケルシー] ならば、この大地においてバケモノと呼べる生物は多過ぎることになるな。あまり一つの喩えを多用すると新鮮味を失うぞ。
[W] ……まぁ、あんたがマジで狂っちゃったってんなら、話は別よね。
[ドクター選択肢1] お前は何を知ってるんだ?
[W] うるさい。今はあんたが口を挟む余地はないの。いい子にしてて。先にこっちの問題を解決してから、二人でしっかりお話しましょ。
[W] 今のあんたに何を言ったってどうしようもないし。だってあんたは記憶喪失で……まぁ本当は違くてフリをしてるのかもだけど——
[W] あんたの隣の女は、マジで頭をヤっちゃったみたいなのよ。
[W] だって——
[W] あの時、議長室に入った上で、テレジアの居場所を知り得たのは、コイツただ一人なのよ。その意味が分からないの?
[ケルシー] そうだな。お前よりその意味を分かっているつもりだ。
[W] 分かってるってんなら何で!?
[W] 何をやってるの? どういうつもり?
[W] ああ、わかったわ、また損得勘定しているのね、あっちとこっちを天秤にかけて……
[W] でもその片方はテレジアなのよ!
[ケルシー] 真実を知る前に推測を先走らせ、無闇に己の感情を揺らすべきではないと思うがな、W。
[W] あたしの推測はただ一つ。あんたが人でなしっていうことだけよ。テレジアの死と、その犯人とを並べて勘定できるあんたは、ただのバケモノよ。ケルシー……
[W] この人でなしが。
[W] 真実は当然知るつもりよ。それまでは、手を下した犯人はコイツのままだし、私は人殺しの罪人にかける情けは持ち合わせてないわ。
[W] ああ……なるほど、わかった。
[W] あんた、母性が抑えきれなくなったんでしょ。
[ケルシー] …………
[ケルシー] W、お前はかつてこう言ったな——
[ケルシー] 「あんたはあたしと同類」と。
[W] 何でそう思ったのかはわからないけど、マジで、聞かなかったことにしてくれないかしら。あんたとあたしは、そもそも同じ生き物とさえ言えないわ。
[ケルシー] いいや、W。ある意味私とお前は同類だ。間違ってはいない。
[ケルシー] 例えば、お前もタルラの暴行を止めたいと思っている。そうだな?
[W] ……それは間違いないわ。あいつ、あたしを本気で怒らせたもの。
[W] あと、うちの傭兵どもをあいつから取り戻さなきゃ。あいつ、戦力の無駄遣いばっかで、節約ってものを知らないのよ。このままじゃ私の棺桶代まですっからかんよ。
[ケルシー] ならば、先にレユニオンの問題から取り組もう。
[W] OK。もうターゲットの順番も決めてあるのよ。聞いてみる?
[W] まずは、上の階にいるあのキモい龍女のタルラ。
[W] 次に、その姿が目に入るだけで蕁麻疹が出るあのテレシス。
[ケルシー] かなり先まで計画済みのようだな。
[W] そして、三番目に殺すのが、あんたの隣にいるDr.{@nickname}よ。
[ケルシー] たったの三番目らしいぞ?
[ドクター選択肢1] たったの……ってどういう意味だ?
[W] あは、ちょっとDr.{@nickname}に聞かなきゃいけないこともあるし。
[W] コイツには、じっくり、じっくり聞いてみないとね……
[ケルシー] では、とりあえず現段階の共通目標が決まったな。
[ケルシー] ちなみに、お前がチェルノボーグで行なった、ロドスの人員に対する各種の行為についてだが……
[ケルシー] まずは、お前の取引のおかげで、Dr.{@nickname}および、複数オペレーターの命が守られたことについては感謝する。しかし、それによって我々は、十三名のオペレーターを失った。
[ケルシー] 利害を相殺した結果に加えて——昔のよしみというやつだ。お前をブリッジまで送り届けてやる。
[W] ケルシー、あんた本当に頭にくる女だわ。
[W] あんたの澄まし顔にはもうとっくにキレちゃってんのよ、あたし。まずはそのポンコツ頭をちゃんと物理的に修理してあげなきゃね。お互いの手の内をさら……
[ケルシー] Mon3tr。
[Mon3tr] (遠吠え)
[W] ——この****野郎!!
[ドクター選択肢1] Mon3trが彼女を掴んで……放り投げた?
[ケルシー] 奴の戯れ合いに付き合っている暇はないからな。
[ケルシー] Mon3tr、エアダクトとその隔壁、中基材保護層から外壁までの全部を、彼女ごと爆破しろ。
[W] こっのクソババア! こっ、こっ、今度会ったら絶対に楽な死に方はさせな――――
[ケルシー] せいぜい期待しておくとしよう。
[ドクター選択肢1] ……あんなに喋らせて良かったのか?
[ケルシー] あれだけでは意味も分からんだろう?
[ドクター選択肢1] じゃあなんで説明してくれないんだ?
[ケルシー] まだその時ではない。
[ケルシー] その時が来れば、自ずとわかるだろう。
[ケルシー] 秘密というのは泉のようなものだ。望まずとも勝手にあふれ出してくる。
[メフィスト] …………
[メフィスト] 変な機械。
[メフィスト] 僕をどこに連れてくの?
[メフィスト] もしかして、僕の欠けたところを補ってくれるの? それとも傷痕を癒やしてくれるの?
[メフィスト] それとも、あいつみたいに、全てを忘れさせるの?
[メフィスト] もし全てを忘れられるのなら……
[メフィスト] 僕は、忘れたいの?
[メフィスト] 僕の、望みは……
[メフィスト] …………
選んでも、いいの?
中枢区画
[チェン] ……曇ってきたな。雪か? なぜだ?
[チェン] だが太陽の光も隠してくれた。これからの行動がしやすくなる。
[チェン] うっ……これ以上、傷を負うわけにはいかないな。
[チェン] チッ——この程度の流血で怖気付いたのか? チェン・フェイゼ、あの時の決心はどうした?
[チェン] ……しかし、騒がしくなってきた。
[チェン] レユニオンにも内紛が起こったようだな。行動を起こすには最適のタイミングだ。
[チェン] やっとお前に会えるからだろうか、手が震えるなんて。
[チェン] ……私は私が正しいと思うことを、必ずやり遂げてみせる。
[チェン] お前が昔のままだろうが、どんな姿に変わっていようが関係ない。
[チェン] タルラ……約束を果たしに来たぞ。
[スワイヤー] …………
[スワイヤー] すごい雪ね……
[スワイヤー] まるで……あの時のクリスマスみたい。
[ユーシャ] その話、決して私にはしてくれないのね。
[ホシグマ] …………
[スワイヤー] でも、知ってるでしょう。
[ユーシャ] 知ってるのと、話してもらうのとでは、意味が全然違うのよ。
[ホシグマ] リンお嬢さん、近衛局(うち)のお嬢様を虐めないでくださいよ。
[ユーシャ] ――「鬼の姉御」さま。
[ホシグマ] ……その呼び名は勘弁してください、リンお嬢さん。
[ユーシャ] あなたがしてくださった全てのことは、リン家にとっては忘れてはならない恩義です。
[ユーシャ] ただ、今となってはもう、お返しの機会を得ることができないかもしれません。龍門はもう——
[スワイヤー] 何言ってるの。私たちならできるわよ。
[スワイヤー] いえ、あいつなら……絶対できるわ。
[スワイヤー] あいつなら……チェンなら……
[スワイヤー] ううっ……
[ユーシャ] ――あなた、意外と泣き虫なのね。
[ホシグマ] はぁ……仕方ありません、彼女はいつもこうですから。
[ホシグマ] 大丈夫ですよ、お嬢様、泣かないでください。いい子いい子。
[スワイヤー] アンタねぇ……子供をあやしてるんじゃないんだから……
[ホシグマ] 大丈夫です。すべて良い方へ進みますよ。
[スワイヤー] でも……今日が私たちが顔を合わせる最後の機会だったのよ。準備なんて……心の準備なんてできないまま……もうあのバカ龍に会えなくなっちゃった……
[ホシグマ] そんなことはありませんよ。
[ホシグマ] 小官の好きな言葉にこういうのがあります。ええと……何だっけ、ああ、「生きていればいつかまた会える」です。
[ユーシャ] ……ええ。生きていればいつかまた会えるわよね。
[タルラ] ……なぜだ?
[タルラ] 何が起こった? なぜ私は涙を流している?
[タルラ] 誰かが……死亡したのを感じ取ったようだ。
[タルラ] 死んだのは誰だ?
[タルラ] 中枢区画で起こる総ての出来事は、私の計画通りのはずだ。
[タルラ] パトリオットは感染者たちの手によって死に、サルカズの傭兵軍はレユニオンの一般兵と交戦する……
[タルラ] ああ。
[タルラ] そうか、パトリオットか。パトリオットが死んだ、か……
[タルラ] 偉大なる愛国者よ。その名だけではもはや貴方を語りつくせない。ウルサスはやはり、貴方にとっては狭すぎた。
[タルラ] パトリオットか。
[タルラ] ……なぜ涙が流れる? 私を殺そうとする者のために流れる涙は、礼儀か、それとも弔いか?
[タルラ] 「すべての罪には終わりがある」?
[タルラ] ならば見届けようではないか。罪ならば、当然その果てまで歩もう……
その最果てで、私はお前を待つ。その最果てで、私は彼女を待つ。
[ウェイ] ここでお前と会ってはならないはずだが? グレイ。
[鼠王] 数十年前と同じじゃな。誰かさんは、焦ると頭が働かなくなる上、無意識のうちに此処へ散歩に来る……
[鼠王] 奇妙なことに、その癖は何十年たっても変わらんようじゃな。
[ウェイ] 私が何をしようとしているかわかるとでも?
[鼠王] 偶然にもな。お主の馬鹿な姪御が、お主に瓜二つだったお陰じゃ。
[ウェイ] …………
[ウェイ] グレイ、お前こそ、ただ散歩に来たというわけではあるまい。仮にそうだとしても、私の時間を無駄にしないでほしい。
[鼠王] はて、旧友との思い出話が時間の無駄だと? 寂しいことを言う。
[鼠王] まだ儂を友人と思ってくれておるのかの? ウェイ・イェンウよ。
[鼠王] もしそうであれば、一つ了承して貰いたいのじゃが……
[ウェイ] 不可能だ。お前のいかなる要望にも了承しかねる。
[鼠王] では、おっ始めるとしよう。今日この後の予定はすべてキャンセルした方が良いぞ。
[ウェイ] ……あまり自分を高く評価し過ぎないことだな。
[鼠王] そのままそっくり返すわい。ウェイ・イェンウ、お主は永く頂点に居座り過ぎた。人としての生気が完全に抜けておる。偶には降りて来ぬか、地上の風にあたってみるのもお主の為になるぞ。
[ウェイ] 腰を痛めんようにな、老い耄れめ。
[鼠王] 老い耄れなのは……お互い様じゃろうて。
考えらんない。パトリオットのジジイまで死んじゃうなんて。
笑えばいい? それとも数滴くらいは涙を零してやった方がいいのかしら?
笑うべきポイントとしては、アイツまで死んじゃったら、あんたはレユニオンの中でもトップに登り詰めたことになるってとこよね。リーダーのすぐ下のポジションだもの。
ほんと、よくやったわねぇ、W。自分に拍手でもしてあげたら?
パチパチパチパチ! コングラッチュレーションってね。
泣けるポイントは……はぁ、アイツまで死んじゃったら……ああ、哀れなパトリオット!
死に際どんな姿で何を考えていたのかしら? 立ったままで死んだとか、ありそうな話じゃない? でもアイツが死んじゃうんだったら、死なないヤツなんてもうこの大地にはいないでしょ。
それとも、今は彼みたいなのが最も死にやすい時代なのかしら……
自分を偽ることを知らず、実体のない思いを貫くことしかできず、永遠に歩き続けて、周りに誰もいなくなったら、ようやく安心して死ぬことができる——
最悪じゃん。
待って。それってあんたっぽくない? W。
いやいや、どこが?
W、自分を騙すのはやめなさいって。そっくりじゃん。
いいえ、自分自身は騙せないわ。あたしはパトリオットなんかにはなれない、だって無理だもの。
あたしにはアイツの真似はできないの。
それにアイツにとって、死はある種の解放でしょ?
確かに、あんたにとっては違うわよね、W。死はあんたにとって、命のゲーム。
あんたを殺せなかったモノは、あんたをより死の淵へと追いやる。
死に近くなればなるほど……狂気に堕ちていく。
[W] ……ありがとね、ケルシー。
[W] あんたがいなきゃ、あのゴミ山から這い上がって来るのに難儀していたところよ。
[W] そして、タルラ……
[W] 聞いてる、タルラ? もしもーし?
[W] まぁ、いいわ、ちょっとした挨拶ってだけだし。
[W] ――戻ってきたわよ、あたし。
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