aklib_story_赤松林_レッドパイン

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赤松林_レッドパイン

赤い尾を持つザラックは大騎士領を行く。赤い尾を持つ感染者は生活を変えようとする。赤い尾を持つ騎士は、リーダーとなる。


[競技解説] ――競技場に集いし騎士は総勢十五名。みなさまには、巨万の富を手にするチャンスが十五通り与えられています!!

[競技解説] 今宵、みなさまは、誰の剣に運命を託すのでしょうか? 今宵、血だまりを踏み越え、金塊を手にし、栄誉を勝ち取るのは果たしてどの騎士なのでしょうか!?

[競技解説] 試合開始まで、あと十分となりました! 一山当てれば、一夜にして大富豪! このチャンスをお見逃しなく! 新たな英雄の誕生を共に見届けましょう!!!

[ソーナ] こんにちは。あなたのお名前は?

[クールな騎士] ……何の用だ?

[ソーナ] そんなに警戒しないで。ここじゃザラックの騎士なんてめったに見かけないから、挨拶しただけだよ。

[クールな騎士] ……

[ソーナ] 黙っちゃってどうしたの? 緊張してるのかしら?

[クールな騎士] あなたも……感染者か?

[ソーナ] ここに並んでる人で、そうじゃないのなんているの? こんな試合に出るのは感染者だけだって。……命をかけた戦いだもの。

[クールな騎士] ……

[ソーナ] なによ? じっと見られると、おっかないんだけど。

[クールな騎士] いや……どこかで、会ったことはあるか?

[ソーナ] ん? ナンパかしら?

[クールな騎士] 違う。本当に見覚えがあった気がしたんだ。……あなたの言う通りザラックの騎士は……あまり見かけないからかもしれない。

[ソーナ] ふぅん。そうね、これも何かの縁だし、どう? あたしたち手を組まない?

[クールな騎士] ……は?

[クールな騎士] バカ言うな、私がここにいるのは――

[ソーナ] ――騎士貴族たちに、目にもの見せてやるため?

[クールな騎士] ……なぜ。

[ソーナ] 顔を見れば分かるわよ。

[ソーナ] すっごく分かりやすいよ? 軽蔑と怒りが、目の奥で渦を巻いてるもの。あと、あっち見過ぎ――観客席にいる騎士のお偉いさんたちも、視線に気づいてこっちに注目し始めてるわよ?

[クールな騎士] ……そういった感情はここでは切り捨てなくてはな。

[ソーナ] あら、決めつけで行動するのはよくないわ。周りを見てみなさいよ、ここの感染者騎士なんて、みんな似たものよ?

[ソーナ] 大体が成金どもに金で買われて、賭けのおもちゃに使われている。勝ったところで、ちょっと夕飯が豪華になるくらいで、万が一負けでもしたら、スクラップにされる心配をしなきゃならないわね。

[ソーナ] だから、あなただけじゃないわ。もちろん、自分から望んで、どこかのちゃんとした騎士のお偉いさんか商人の……道具になりたいと思ってる人たちもいるけどね。

[ソーナ] 彼らは無力よ、感染者はいつだって無力。

[クールな騎士] ……何が言いたいんだ?

[ソーナ] だから、手を組みましょ?

[ソーナ] 「集団混戦」――バトルロイヤルだもの、誰かと手を組んだ方が、勝率が上がるってもんでしょ?

[クールな騎士] ……お前はなぜ勝ちたいんだ? 高額な賞金のためか?

[ソーナ] ううん、他の人を勝たせるわけにはいかないから。

[クールな騎士] ――どういうことだ?

[ソーナ] この試合には裏があるの。おそらく何人かの感染者が……まだ確信はないけど、「約束」をしてるはずよ。

[ソーナ] 自分がより良い生活を送るために、他人を踏みにじってでも這い上がると決めた奴らがいる。

[ソーナ] これって正しい選択、だよね? きっとここにいるほとんどの人がそう思ってるくらい、当たり前に正しいよね。

[ソーナ] ――だからあたしは、彼らを勝たせるわけにはいかないのよ。誰かが勝つことで誰かが負ける、これは別にいいわ。でも誰かが生き残るのなら……誰かが死ぬの。

[クールな騎士] ……薄っぺらい正義感を頼りにしたところで、他人の信頼を得られないぞ。

[クールな騎士] だが、まあいい。今は、騎士協会から認めてもらうための重要な場面だからな……

[クールな騎士] 組もう。素性の知れない奴らと協力するくらいなら、ザラック同士の方がまだマシだ。

[ソーナ] えっ? 本当に?

[クールな騎士] ……もし冗談を言いにきただけだというなら、まずはお前から始末する。

[ソーナ] こわい、顔こわいって、冗談なんかじゃないから! それじゃこの後の戦いは、一緒に頑張りましょうね、えーっと……

[クールな騎士] グレイナティ・カリスカ。

[ソーナ] ……カリスカ……?

[クールな騎士] 笑える名前だろう。どこかで聞いたことがあっても、知らないふりをしてくれ。

[競技解説] 続きましては――

[ソーナ] あたしのことはソーナって呼んでね、灰(カイ)ちゃん。

[グレイナティ] ……ソーナ。

[ソーナ] ん? どうしたの?

[グレイナティ] あのとき、集団混戦の最後、私を不意打ちしてポイントを奪ったよな?

[ソーナ] ……アハハ……カイちゃん、それはさ……あー……

[ソーナ] まさか、まだ根に持ってる?

[グレイナティ] これでも割と根に持つタイプだ。とっくに知ってると思うが?

[ソーナ] ううっ……

[グレイナティ] だが私が根に持っているのは、あなたにチャンピオンの栄冠をかっさらわれたことじゃない。

[ソーナ] え……

[グレイナティ] 試合前、あなたは「他の人を勝たせるわけにはいかない」と言ってたよな……私も同じ思いだった。

[ソーナ] えぇ!

[グレイナティ] なにをそんなに動揺しているんだ? あの時の私たちはまだ出会ったばかりだった。相手を信用しないのも当然だろう。

[ソーナ] 違うの……えっと……まあそうなんだけど……

[グレイナティ] ……はあ。ほら、感染者居住区の様子を見に行くんだろう? さっさと向かおう。

[ソーナ] カイちゃん待って! 騎士団内の信頼回復のために! ここはぜひとも言い訳させて、お願いよ!

[グレイナティ] いつから私たちは騎士団になったんだ!?

[ソーナ] ……えへへ。

[ソーナ] 遅かれ早かれのことだよ、カイちゃん。

[グレイナティ] ……あなたが言っているのは、感染者騎士団のことか?

[ソーナ] レッドパイン。

[ソーナ] あたしの故郷ね、実はヴィクトリアの近くなのよ。今はもう、すっかりなくなっちゃったけど、昔はレッドパインがたくさん植ってたわ。

[グレイナティ] ……レッドパインの木……?

[グレイナティ] まさか……あの天災に巻き込まれたザラックか!? ということはお前も当時騎士たちに――カリスカ家に見捨てられた……

[ソーナ] そんな顔をしないで、カイちゃん。ぜんぶ過去のことよ。

[グレイナティ] しかし……それでは、お前が感染したのは……私の家族のせいか?

[ソーナ] 縁を切ってるって言ってたじゃないの。だったら、あの人たちはあなたの家族じゃないでしょ。

[ソーナ] とにかく! あたしに罪悪感なんて抱かないでよね。あ、そうだ、あれよ。さっき集団混戦の話をしてたじゃない。

[ソーナ] それで帳消しにしましょ。

[グレイナティ] ……

[感染者騎士] ……あなたは……焔尾騎士、“フレイムテイル”ソーナ?

[ソーナ] ん? あたしを知ってるの?

[感染者騎士] ハハッ、もちろんさ。騎士称号を得ている感染者はそう多くないからな、全員覚えているとも。

[感染者騎士] レッドパイン騎士団のリーダーは、かの「焔尾」ソーナだったのか……だったら私も安心だ。

[ソーナ] ……あの子供たち、あなたが面倒見てるの?

[感染者騎士] 面倒を見ているというか……拾ってきただけなんだ……実は感染者ではない子もいてな、この子たちは救護所に送り届けようと思っている。

[感染者騎士] だからあなたたちにずっとついて行くことはできないんだ、すまないな。

[ソーナ] あなた、名前は?

[感染者騎士] ……ジェイミーだ。ジェイミーと呼んでくれ。

[ソーナ] ジェイミー、ほかにも感染者の独立騎士を知ってるって言ってたわよね?

[ソーナ] どこにも属さずに奮闘する感染者の騎士は、みんな盟友みたいなものよ。あたしも会ってみたいわ。

[ソーナ] たしか、最近頭角を現し始めてる騎士がいたわよね? リーベリの狙撃手だったかしら。

[感染者騎士] ああ。加えてもう一人、有望なクランタがいる。一部の感染者たちは彼女のことを姉御とか“ワイルドメイン”と呼んでいるな。

[ワイルドな騎士] ……ペッ。

[ソーナ] あら、イヴォナ。疲れてるみたいね?

[ワイルドな騎士] ソーナか。

[ワイルドな騎士] お前……余裕そうだな、やるじゃねぇか。

[ソーナ] そうでもないわ。ただ……余裕なふりをしておかないとね。

[ワイルドな騎士] ……お前でも疲れるのかよ? てっきりスタミナ無限なんだとばかり思ってたぜ。

[ソーナ] あはは……

[ワイルドな騎士] ……ハッ、でもよ、あたしの前で疲れた表情を見せるってことは、あたしを信用してくれてる証拠だよな。

[ワイルドな騎士] そんで? この……無冑盟の連中、どうするよ。

[ソーナ] できるだけ……感染者たちの具体的な位置は知られたくないわね。

[ワイルドな騎士] この都市に居続ける限り、あいつらにとって絶対の隠れ場所なんてないぜ。

[ワイルドな騎士] いつかは見つかっちまう。ソーナ、逃げ回るだけじゃ何の解決にもなりゃしねぇぞ。

[ワイルドな騎士] 何か積極的な方法を探さねぇと――

[ソーナ] ……うん。

[ワイルドな騎士] ――いや。あたしたちが、あんたに背負わせ過ぎたのかもな。……悪かった。

[ワイルドな騎士] こんなことを言うのはあたしのガラじゃねぇんだけどよ。あんまり抱え込み過ぎんなよ、ソーナ。あたしたちだっているんだからな。

[ソーナ] ……

[ソーナ] そうね……うん!

[無表情な戦士] ……

[観戦する騎士A] おい、あいつって感染者だよな? どうやったらこんなに高い点数が取れるんだ……?

[観戦する騎士B] 不思議だよな。しかも数日前に、「ナイトオブナイツ」が彼女にインタビューしてたのを見たぞ!

[観戦する騎士A] そもそも感染者なんてのは、八百長試合で金を稼ぐか、全く金にならねぇ公式戦で、あくせくポイントを稼いで騎士の身分を得るしかないだろ? あんな奴、どうやって生き残ってきたんだ?

[グレイナティ] ほう、あれがユスティナか?

[グレイナティ] 痩せすぎだし骨格も華奢だ、そこまでの使い手には見えないが。

[ソーナ] 見かけで判断しちゃだーめ。

[ソーナ] とはいえ、最近じゃ新聞も……彼女に関しちゃ偏見山盛りの記事が多いのよね。

[グレイナティ] あいつらが感染者に対してまともに評価したことがあったか?

[グレイナティ] いいや、感染者に対してだけじゃない。メディアが公平性に配慮したところなど、これまで見た覚えがない。

[ソーナ] ……あの無冑盟の捕虜の話、信用できるかしら?

[グレイナティ] 信じないことで生じることを考えれば、信じた方がいいだろう。

[グレイナティ] どうする?

[観戦する騎士] いいぞユスティナ! いけー、飛羽騎士を逃すな!

[観戦する騎士] 奴は左だ! 石の後ろに隠れてるぞ! ……そう、そこだ――あ、まて! 頭を出すな、気付かれる――ああー!

[ソーナ] ……結構人気者ね。

[グレイナティ] 彼女は、私たちの仲間になる気はないかもしれないな。

[グレイナティ] この調子で活躍すれば、称号を与えられるのも時間の問題だろう。人気があるうちにひと財産を築けば、引退後にまともに暮らせる場所が見つかるかもしれない。

[グレイナティ] ソーナ。もし彼女が、そういう考えを持つ感染者である場合、私たちは彼女を説得できると思うか?

[ソーナ] ……あたしたちは説得なんかしないわよ。

[ソーナ] でも、この都市は感染者に選択を迫るの。

[ソーナ] いいえ、感染者だけじゃないわ。全ての人にかもしれないわね。

[グレイナティ] ……悲観的なソーナとは珍しいものを見た。

[ソーナ] ちょっと、あなたが聞いてきたんでしょ!

[グレイナティ] 私は、「問題ないわ、任せておきなさい」とふてぶてしく言い放つ焔尾騎士の姿を期待していた。

[ソーナ] ……アハハッ。

[ソーナ] 問題ないわ……あたしに、任せておきなさい。

[イヴォナ] はっ、監査会が!?

[ソーナ] シーッ――!

[ユスティナ] ……まだ確定じゃないよ。

[ユスティナ] 一般の感染者に対する監査会の態度も、まだ曖昧ではっきりしていないし。

[グレイナティ] ああいう騎士家族の中に、感染者のことを考慮する奴がいるか?

[グレイナティ] 奴らにとっては、私たちも単なる部外者だ。機会さえあれば、容赦なくこの都市から私たちを排除するだろう。

[イヴォナ] でもよ、あいつらがどんなに傲慢でも、恥知らずでアホな商業連合会よりかは数百倍マシじゃねぇか?

[グレイナティ] ……お前は征戦騎士に好感を持ってるのか。

[イヴォナ] ハッ、壇上で観客の歓声を浴びたがってるピエロと違って、あいつらは草原でウルサスに勝利した本物の騎士だからな!

[ユスティナ] ……ウルサス。子供の頃ニュースで見たことしかない……

[イヴォナ] ウルサスが極東との戦争で負けた話を、騎士たちが声高に言い広めるのも当然だわな。

[グレイナティ] ……お前……ウルサスと極東の戦史なんて知っているのか?

[イヴォナ] これでも子供の頃は机に縛りつけられてたからな。征戦騎士の近代史ばっか読まされた。

[ユスティナ] ……想像できない。

[ユスティナ] イヴォナが机に座って本と向き合う姿なんて、奇妙で謎すぎる。

[イヴォナ] ……あぁ? どういう意味だよ。

[ソーナ] イヴォナってたしか……征戦騎士家系の出身だったわよね?

[ソーナ] だったら勉強してても……おかしくな……ぷっ、だめだ笑いが。

[イヴォナ] おい! あんたら、あたしのことをどんな目で見てたんだよ!

[イヴォナ] あの戦争が起きたのは、第十次カウ戦争から十年後。きっかけは、ウルサス皇帝が重篤状態になって、カジミエーシュから奪いとったもんが、全部貴族たちの手に転がり込んだことだ。

[イヴォナ] 王位継承前の皇太子が軍の腐敗に気付きそうなのを察知すると、二つの師兵団は慌てて適当な敵国をでっち上げて、大声で戦争の必要性を訴えて、注意をそらそうとした。

[イヴォナ] そんなめちゃくちゃな国だ、意見が一致するわけなんてねぇが、自分らの罪を覆い隠したい貴族たちは、結果的に一も二もなく極東に向けて軍を送り込んだんだよ。

[イヴォナ] 想定外だったのは、極東がウルサスを果敢に迎え撃ったことだな。最後はウルサス国内で決戦が行われたんだ。

[ソーナ] ……噓でしょ。イヴォナがこんなにスラスラと歴史を語るなんて。

[グレイナティ] だが途中、明らかに説明の足りてない部分があるな。

[イヴォナ] ……当時、カジミエーシュ騎士の多くはこう考えた――ウルサスが他国に目を向ける余裕がなくて、内政も不安定な今がチャンスだ。十年前に奪われた都市を取り返すべきだってな……

[ソーナ] イヴォナ?

[イヴォナ] ……それが1072年――二十五年前の話だ。

[イヴォナ] ウルサスに対して圧力をかけるために送られた斥候部隊は、それを予測していた師兵団に国境で殺された……その中にゃあたしの爺さんと婆さんもいたよ。本当なら子供時代に会えるはずだった親戚もな。

[ソーナ] ……

[イヴォナ] ……チッ、重苦しい空気になんなよ、全部過ぎちまったことだ。今のあたしは征戦騎士じゃねぇから、ソーナの言うことに従う、そんだけだ。

[イヴォナ] あたしの話はいいから、お前の計画を話してくれよ。

[ソーナ] ……今朝、ジェイミーの所にまた数人の感染者が来たわ。

[ソーナ] 採掘労働者よ。小規模な工業事故による不慮の感染、でも請負業者は感染者の医療費の立て替えを拒否したの。彼らは行き場を失い、最終的に警察に拘束された。

[ソーナ] 彼らだけじゃないわ……今月あたしたちに加わった感染者は、これで十数人にもなるのよ?

[ソーナ] 彼らは大騎士領の一番暗く湿ったところで隠れて暮らしてる……あたしたちじゃ、彼らを安全な場所に住まわせることができない。

[グレイナティ] ……ソーナ。

[ソーナ] あたしたちにはまだ時間がある。力もある。方法を考えることだってできるわ。

[ソーナ] でも……あたしたちのせいで……罪なき感染者たちを危険にさらすわけにはいかない。

[ソーナ] だから、もし監査会が、あたしたち全員に、再び合法的な身分を……このカジミエーシュで生きていくことを、認めるというのなら――

あたしたちに選択肢はない。

[ソーナ] ――随分とにぎやかなお出ましね。

[無冑盟メンバー] ……焔尾騎士ソーナ。

[無冑盟メンバー] 貴様には、感染者を蔵匿した疑いがかかっている。事実であれば、重大な騎士協会条例違反だ。抵抗は諦めるんだな。

[無冑盟メンバー] 貴様が匿っている感染者たちを引き渡せ。そうすれば、騎士協会にはお前の事情を汲んだ上で報告してやる。

[ソーナ] 一体いつから無冑盟は、警察や騎士たちに代わって裁定を下す権限を持つようになったのかしら?

[無冑盟メンバー] ……

[ソーナ] あなたたち、そんな偉そうに法律をかさに着て無茶苦茶言ってるの恥ずかしくないの?

[無冑盟メンバー] 挑発しても無駄だ、焔尾騎士。

[無冑盟メンバー] お前たちはすでに越えてはならない一線を越えた。この大騎士領で連合会に目をつけられることは、死と同義だ。

[ソーナ] 死? あたしたちを殺すわけ? こっわー。

[無冑盟メンバー] ……死とは、生物学的な意味だけではないぞ、焔尾騎士。

[無冑盟メンバー] カジミエーシュは、多岐にわたる生存の方法を我らに与えた。その反面、我らはより多様な死の形式を持つことになったのだ。

[無冑盟メンバー] 全員、狙え!

[無冑盟メンバー] なにっ――背後から砲撃だと!?

[グレイナティ] ソーナ! 無事か!

[無冑盟メンバー] レッドパイン騎士団の援軍か、奴らを包囲しろ!

[イヴォナ] ユスティナ!

[ユスティナ] うん。狙撃で援護する。

[イヴォナ] 悪ぃなソーナ、お先にやっちまうぜ!

[プラチナ] 感染者って、泣いたりしないの?

[無冑盟メンバー] ……はい?

[プラチナ] 感染者だよ。なんかいきなり連合会に刃向かってきた、命知らずの騎士たちじゃなくて、普通の感染者たちの方。

[プラチナ] 彼らはただ鉱石病を患っただけ、でしょ?

[無冑盟メンバー] ええと……あの、どういう?

[プラチナ] 彼らは化け物でもなきゃ、大罪人でもないよね。

[プラチナ] 私、この任務嫌いだなぁ。

[無冑盟メンバー] そんなセリフ、絶対にラズライト様の前で言ってはいけませんよ!

[無冑盟メンバー] はぁ……しかしプラチナ様、まさか彼らに対して同情なさっているのですか?

[プラチナ] 同情かぁ……ていうわけでもないかな。自分のことで手がいっぱいだし。

[プラチナ] 同情心なんて、今のこの国じゃ贅沢品だよ。

[無冑盟メンバー] ……ハハッ。

[プラチナ] 私はほかの任務があるからさ、感染者の処理なんてちっちゃいことは、アンタたちに任せるよ。

[プラチナ] 監査会がいくら商業連合会とそりが合わないとはいえ、感染者を大騎士領で匿ったりはしないだろうしね。

[プラチナ] 貴族たちは感染者の生死なんて気にも留めない、でしょ?

[ソーナ] これは……いったい……?

[感染者騎士] 焔尾!

[感染者騎士] 無冑盟だ……無冑盟がいきなり……!

[ソーナ] 落ち着いて、何があったの?

[感染者騎士] 二時間前、奴らがこの付近の通りを封鎖したんだ。俺たちの居場所はとっくにバレてた。それで、奴らは……ガスを使って俺たちを家からいぶり出しやがったんだ……!

[ソーナ] ――!

[感染者騎士] ……何人かの騎士が異変に気付いて、身を挺して無冑盟の放つ矢を防いでくれた。だがそれでも……

[ソーナ] ……

[感染者騎士] なぁ……俺たちは……

[感染者騎士] 俺たちはこれからどこへ行けばいい? 無冑盟に一度でも目をつけられたら、絶対に二度目も三度目もある。もう逃げられない……俺たちは……

[ソーナ] ……悲観的になるのは後よ。今は……残った人を移動させるわよ。

[感染者騎士] 大騎士領を去るべきじゃ? もっと田舎の方に行けば、あるいは……

[感染者騎士] せめて! せめて一般の感染者だけでもここから逃がさないと――

[グレイナティ] 私たちが辛うじて彼らを守ってこれたのは、感染者騎士という身分があったからだ。

[グレイナティ] この大騎士領を去って身分を失えば、状況は悪化するだけだ。

[感染者騎士] それじゃあ俺たちは……ただ黙って不当な扱いされるのを待ってるしかないのかよ!?

[ソーナ] ……監査会。

[ソーナ] まだ……生きる道は残されている。

[グレイナティ] ソーナ!

[イヴォナ] 戻ったか。

[ユスティナ] ……どうだった?

[ソーナ] ……相手は老騎士一人だった。監査会上層部のメンバーで間違い無いわ。

[グレイナティ] ソーナ、大騎士領の貴族をあまり信用し過ぎない方がいい。

[ソーナ] ……デミアンよ、騎士協会の副会長の。

[グレイナティ] ……!

[イヴォナ] ハッ、そいつは大物じゃねぇか。デミアン副会長つったら、超有名な征戦騎士だぞ!

[イヴォナ] たしか、突然退役して大騎士領に戻ってきて、文官に鞍替えしたんだよな。当時はやたらニュースで流れてたぜ。

[イヴォナ] 彼も英雄の子孫だ、あのマリアと似てるな。

[ユスティナ] ……条件は?

[ユスティナ] ソーナが戻ってきたということは進展があった、そういうこと。監査会はどんな条件を出してきたの?

[ソーナ] ……大分断よ。

[ソーナ] 彼はあたしたちを利用して……この都市を……眠らせたいみたい。

[グレイナティ] ……

[ユスティナ] ……

[イヴォナ] ……ああ? どういう意味だそりゃ?

[ソーナ] 説明するわ。おおよその計画はこうよ――

[ソーナ] ……あたしたちならやれる、そうよね?

[グレイナティ] ……私に訊くのか?

[グレイナティ] 多分な。あの愚かな騎士貴族どもがひれ伏して赦しを請うまで、私は諦めない。

[ソーナ] あなたたちは?

[イヴォナ] 簡単なこった。死ななきゃいいんだろ?

[イヴォナ] 失敗したとしても、力が足りなかったってことで、次はもっと強くなりゃいい。死ななけりゃ負けじゃねぇ、それだけだ。

[ユスティナ] ……緊張しないで、リラックス。

[ユスティナ] レッドパインが、レッドパインであれば……それで充分。

[ユスティナ] 成功しようとしまいと、私たちには一つの道しかない。大きな違いはないよ。

[ソーナ] ……違い、か。

[ソーナ] ……

[グレイナティ] ソーナ!

[ソーナ] うん?

[グレイナティ] 最近よくぼうっとしてるが、どうかしたのか?

[ソーナ] ううん……何でもないわ。

[ソーナ] 行きましょう。あたしたちを頼ってきた感染者たちを、安全な場所に移さないといけないわ。

......

......

逃げないと……早く!

火の粉を吸い込まないように……空気が熱い……喉が灼ける……焦げた匂いが……焼けた土が熱い……

鉱石……源石……傷……

カリスカ家は領民を見捨てた――

[ソーナ] ――!

[ソーナ] (あたし……寝てた? ベンチで?)

[ソーナ] ……カイちゃんがそばにいたら、またお説教されてたわね。

[ソーナ] ふぅ……

[ソーナ] 通りは……本当に人が多いわね。

[ソーナ] (……騎士協会に管理されている感染者は、勝手に出歩くことを許されていないのよね。)

[ソーナ] (もしこの通行人たちが……ここに感染者が堂々と座っていることを知ったら、どう思うのかしら?)

[ソーナ] ……

ふと、ソーナの頭の中に一つの答えがよぎった。

「別に何とも思わない。」

人々は生活に追われ、慌ただしく歩き去り、日常の景色の中に溶けていく。

「焔尾」の名を冠するザラックは、黙って目の前の都市を見つめていた。

[ソーナ] もしもし? カイちゃんか、どうしたの――

[グレイナティ] ソーナ、まずい、奴らに地下の隠れ家がバレたんだ!

[グレイナティ] 全員を逃す時間はない、可能な限り救出する! お前も早く戻っ――

[ソーナ] ……あぁ、これが……

[ソーナ] 感染者なのよ……!

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