aklib_story_闇夜に生きる_DM-6_遁走_戦闘前

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闇夜に生きる_DM-6_遁走_戦闘前

一夜にして戦局は傾いた。情報を得たヘドリーは戦場へ戻ることを余儀なくされ、そこで復讐に興じるWと再会する。ヘドリーはウルサスの凍土を目指すことを告げ、Wを再び部隊に誘う。


もう誰も無関係は貫けない。俺自身の言葉だ。

そんなことを言っておきながら、俺は……バベルから……Wと殿下のところから――

逃げ出した。

……矛盾だらけだ。

後悔していないと言えば、嘘になる。

だがあの場所に留まっても、俺はきっと、何も成し遂げられなかっただろう。

a.m. 5:58 天気/小雨

カズデル最北部郊外 戦場エリア境界の傭兵拠点

バベルを離れて数ヶ月後

[ヘドリー] この情報……

[ヘドリー] ……

[イネス] ……ちょっと。

[イネス] 何か喋ってよ、あなた、喋るのは得意でしょ。

[ヘドリー] ……何を喋れば良いんだ?

[イネス] 私に聞かないでよ……

[イネス] ……あれだけ長く拮抗していた戦況が、一晩で傾くなんて……

[イネス] こんなことありえる? この半年、一体どこで何があったのよ?

[ヘドリー] 問題が起きたことは明らかだが――

[ヘドリー] おそらく、その原因は誰も知らないだろう。

[ヘドリー] いや、知る勇気がないと言うべきか……

[ヘドリー] 殿下……そして殿下の周りの者たちは、あんな結末を迎えるべきではなかった。皆同じ考えさ。

[イネス] じゃあ私たちはこれからどうなるの? 私たちの結末は?

[ヘドリー] わからない。……早すぎたんだ。この戦争の終結は、あまりにも……

[ヘドリー] 連絡が途絶えたのは、先月、まだバベルの戦略契約を履行しているときだったな。

[ヘドリー] 皆我々がどちら側についているのかは知っている。だがあまりにも急すぎた。ここを離れる準備など……

[ヘドリー] もしこのまま音信不通が続けば、我々は逃げ場を失うことになる。

[ヘドリー] トランスポーターに各地の情報員に連絡をとらせ、できる限りの情報を集めるが……

[ヘドリー] もしかすると……また、戦場の真っ只中に戻らねばならないかもしれん。

[イネス] いつか、そんな日が来るんじゃないかと思ってたわ。

[イネス] 本当は、あなたもわかってたんじゃない?

[イネス] もし完全に無関係非干渉を貫くつもりなら、最初から彼らの要求に答える必要なんてなかったもの。

[イネス] 最初から私たち自身の力でウォールデン湖を越えて、ここから離れたどこかの場所で活躍するなんて選択を――

[ヘドリー] イネス、俺は――

[イネス] やめて。言わないで、ヘドリー。

[イネス] わかってるわ。あそこの呪縛から抜け出すのは難しい。あの暖かさは簡単に人を陶酔させるもの。私たちはそれに酔いしれていた。

[ヘドリー] ……お前が言うように、我々はバベルを完全に捨て、仲間たちを連れて去るべきだったな。

[イネス] ――また感傷的になってるのね。後悔して立ち止まっても意味はないわ。

[ヘドリー] ……だが俺はもう長い間、自分たちに有利な決定を下せていない。

[ヘドリー] もう、戦場に留まるべきではないのかもしれないな……

[イネス] 何言ってるの、いい加減にして。あなたはそれでもサルカズなの? 私の方がよっぽどサルカズらしいんじゃない?

[イネス] 私たちみたいに手を血に染めたサルカズを受け入れてくれるところなんて、ううん、たった一夜雨風を凌ぐ小屋だって、この大地には残ってないわ。

[イネス] 今回のことはあなただけのせいじゃない。責任はみんなで背負えばいい。自分を責めるのはやめて。

[イネス] それに今のところ、私は、あなたがWを受け入れたのは正解だったと思ってるわ。

[イネス] 彼女のおかげで大金を稼げたし、厄介な奴もたくさん始末してくれたしね。

[ヘドリー] ……本当に、正解だったと思いたいものだ。

[ヘドリー] Wは……まだ生きているだろうか?

[イネス] そう簡単には死なないでしょ。

[ヘドリー] Wが殿下の下についてしばらく経つ。もしかしたら、我々より多くのことを知っているかもしれん。

[ヘドリー] 会えれば、カズデルの動向について何か聞けるかも――

[イネス] 彼女を頼るつもり?

[ヘドリー] ……

[イネス] そう。

[イネス] ……残念だわ。

[W] ――やっと見つけた。はぁ、よく走ったものね。

[サルカズ戦士] ……死んだみたいな顔をして。お前が最近何をしてるかは聞いているぞ、W。

[W] じゃあ、あんたが最後の一人ってことも知ってるのね。

[サルカズ戦士] ああ。この戦争で多くの命が散っていった……

[サルカズ戦士] にも関わらず、お前はさらに死者を増やそうとしてる。

[サルカズ戦士] まだ生きてる奴は、お前がやってきたことよりずっと意味のあることをやってると言えるだろうな。

[W] 黙りなさい。

[サルカズ戦士] いや、もう一度、お前に教えてやったほうがいいと思ってな。

[サルカズ戦士] ――W。テレジアは死んだ。そしてカズデルには、新たな王が誕生した。すぐにでもカズデル、いや、テラ大陸全体に知れ渡る事になるだろう。

[サルカズ戦士] あれはただのテレジア斬首作戦だった。お前たちの主要メンバーの多くは生き延びただろう?

[サルカズ戦士] そして生き延びた奴らは、正しい選択をしたんだ……例えばあの指揮官だってあれから一度も顔を見せていない。

[サルカズ戦士] 殿下がお前たちを皆殺しにしなかったのは、一刻も早く混乱した局面を終わらせるためだ。これからのカズデルは、殿下が道を切り開いていく。

[サルカズ戦士] それなのに、お前は何をしてる? 善悪について考えでもしたか?

[サルカズ戦士] まさかな。お前はただ感情のままに、視界に現れた顔を一つ一つ塗りつぶしてるだけだ。

[サルカズ戦士] 結局、そうやって個人的な感情をぶちまけてるだけだ。ちっぽけな傭兵が、くだらない復讐の中でいつまでももがいてる。

[サルカズ戦士] 今のお前は、誰にも勝てない。

[W] 人が黙って聞いてればごちゃごちゃと……。誰にも勝てない? 偉そうに。あたしはあんたに勝てるわよ、それも楽勝でね。試してみる?

[サルカズ戦士] やりたいならやればいい。だが、俺を殺して何になる? 自慢にもならないだろうよ。

[W] ……ほんとよく喋るわね、私の心を探ろうとしてるの? それとも死に際に自分の考えを語ってるだけ?

[サルカズ戦士] どちらも正解だ、今更否定する意味もない。

[サルカズ戦士] あのケ――いや、仲間の身体から噴き出した血で窒息しそうになってから、俺は武器を握れなくなった。

[サルカズ戦士] 俺たちは皆血を流し、バベルの殿堂は血に塗れた。お前の目に映った光景は、俺の中ではもっと現実味を帯びたものさ。

[サルカズ戦士] そして俺はここで死ぬ。お前に見つかったときから、生き残ることは諦めてる。

[サルカズ戦士] そう、ここで死ぬんだ。

[W] バベルがどうとか、あんたが戦えないとか、あたしにはどうでもいいわ。あたしはただそうしたいから、あんたを殺すだけ。そうね、失業したストレス発散ってことにしとくわ。

[サルカズ戦士] ケッ……狂人が。

[サルカズ戦士] お前は怒りもないまま引き金を引けるんだな。それとも、自分の感情もわからない程イカれてやがるのか?

[サルカズ戦士] ……ああ、俺たちはこんな奴に殺されるのか。

[サルカズ戦士] まさかお前は……お前の行動はテレシス殿下の狙い通りじゃないとでも思っているのか? お前は今、実質殿下のために後始末をつけて、しかも……

[W] うるさい! 死にたがってるのはあんたの方でしょ!

[W] もしあんたが敬愛する摂政王の下に逃げ帰っていたら、あたしは、カズデルの奴らをしらみつぶしに殺していかない限り、あんたにたどり着けなかった。

[W] でもあんたはそうしなかった。彼女を殺したあんたたちは、もうカズデルにも、昔にも戻れないわ。

[W] だって、あの本物の怪物たち以外、彼女の最期を見て平静でいられる奴なんているはずないもの。

[W] だからあんたたちは、口では偉そうに言いながら、ずっとあたしみたいな処刑人を待ってた。違う?

[W] あたしはね、あんたたちを解放してあげてるの。お金を取らないのがせめてもの情けだわ。

[サルカズ戦士] ……

[サルカズ戦士] チッ……自分勝手な狂人だ……

[サルカズ戦士] だが、お前の言う通りだ……

[サルカズ戦士] 俺たちは……自らこの手をあの人の血で染めた……それでもあの人は最後まで……

[サルカズ戦士] 俺は……

[W] あんた、あんな奴を「殿下」なんて呼ぶべきじゃなかったわね。そうじゃなきゃもう少し喋らせてあげたのに。殿下の名に相応しいのはテレジアだけよ。

[W] 簒奪者は戴冠を急ぐべきじゃないわ。どうせ首ごと獲られておしまいだし、王冠がもったいないもの。テレジアが……

[W] チッ。

[W] テレジア……

[???] 投降を拒んだ人は、他の傭兵に追われることになるわ。次の獲物はあなたよ。

[W] ――あんたたち。

[W] とっくの昔にカズデルから離れたと思ってたわ……久しぶりね。

[ヘドリー] ……この戦争に比べたら短い別れだ。お前の成長の速さには驚かされた……W。

[W] だから手が震えてるの?

[ヘドリー] ああ、不慣れな仕事なのでな。

[イネス] あなたがこの近くで単独行動しているという情報を受けて、来てみたけど――

[イネス] そんなフラフラの身体でどこへ行くつもり? ここはターバ村から二百キロも離れてるのよ。

[イネス] ……って、まさか、あれから何ヶ月も一人で移動していたの――?

[W] それほど大変でもなかったわよ。不便なことも多かったけど。

[イネス] でもあなたのその怪我、手当したつもりでしょうけど、いつ感染が悪化してもおかしくないわよ。

[W] 死ななければいいわ。

[W] それよりあの塔……見覚えがあるけど、ここはどこなの?

[ヘドリー] 紛争エリアの西部辺境だ。位置は――

[ヘドリー] ――ああ、そうか、ここは「W」が死んだ場所だ。

[ヘドリー] そして、お前が我々の仲間になった場所でもある。

[イネス] ……でももう、完全に廃墟になってるわね。

[イネス] 何、まさか思い出に浸りたいの?

[W] あたしがそんな風情のある人に見える? 最後のターゲットを追って来たら、ここにたどり着いただけよ。

[W] あんたたちが何のためにあたしに会いに来たかはわかってる。さっさと本題に入りましょう。昔みたいにね。

[ヘドリー] ……摂政王は既に、カズデルの武装勢力を全て統一した。

[ヘドリー] 残った傭兵も間もなく軍隊として組織され、各地に派遣されようとしているところだ。

[W] 慌ただしいわね。

[ヘドリー] そうだな。だが、それも理解できる。

[ヘドリー] どんな問題も、解決直後のほっとしたときにこそ油断が生まれる。その一瞬の隙を、ヴィクトリアとラテラーノの権力者たちは見逃さないだろう。

[W] そんな即席の体制なら、あたしたちにも誰かの手を借りて内乱を煽る機会があるかもしれないわ。

[ヘドリー] お前が復讐しようと考えているとしても、それは良い選択とは言えない。

[W] ヘドリー、忘れないで。今あたしたちについてきてくれている人たちの多くが、テレジアと肩を並べて戦ったことがある人よ。

[イネス] サルカズ傭兵は明確な立場を持たない。そして、考えることを諦めてる人がほとんどよ。あとは方向性を与えてやればいいだけなの。

[イネス] だからきっと、サルカズはみんな摂政王に従うわ。もうあいつの勝利よ。

[W] ――イネス、昔、あんたがサルカズの角に似せて自分の角を削ったとき、痛かった? 血は出た?

[イネス] ……いいえ。

[W] じゃああんたのそのツラは、血肉にまでサルカズを刻み込んだものだなんて到底言えないわね。このままいつまでもサルカズのふりを続けたら、死ぬわよ。

[イネス] そのひねくれてねじ曲がったアドバイスには感謝しておくわ。

[W] あたしはただ、この期に及んであんたが「サルカズ」を自称するのを聞きたくないだけよ。

[イネス] でも私は、こうやって生きていくことに決めたの。こうでしか、生きられないわ。

[ヘドリー] W、テレジア殿下の失踪後、カズデルは変わってしまった。まるで天地がひっくり返ったかのように。

[ヘドリー] そして、サルカズに選択の余地はなくなった。だが残された唯一の選択肢は、多くのサルカズにとって、あまりにも魅力的だった……

[W] ……で、完全にカズデルから抜け出せなかったあんたたちも、その殺人犯の提案を呑んだの?

[ヘドリー] そうでなければ、死体になるだけだったからな。

[W] じゃああんたたちに、あたしのことは諦めてって言っても無駄ね。

[W] まああたしは、昔のヘドリーみたいに意地悪なことは言わないわ。あたしたちの仲だもの。殺るならさっさと殺りなさい。

[ヘドリー] そう結果を急ぐな。今から話すことは、きっとお前も興味を持つ。

[ヘドリー] ……俺たちはカズデルには戻らず、ウルサスに向かう。

[W] ――確かに意外な答えね。なんで先にそれを言わないの? もう少しでこっちから手を出すところだったじゃない。

[W] 面白くなってきたわ、話して。ヘドリー「隊長」。

[ヘドリー] 最近、カズデルの外の大地にも、感染者勢力が増え始めている。

[ヘドリー] 彼らは傭兵に手厚い待遇を提示している。摂政王はそれに乗じて一部の感染者を操り、自らの計画に使おうとしているんだ……

[W] ……へえ……新しい感染者勢力ねぇ。

[ヘドリー] ああ、レユニオンという名前らしい。彼らは現状、ウルサスの凍土に留まっているそうだ。

[ヘドリー] 摂政王の野望はとうの昔にこの崩れたカズデルを離れ、玉座も空席となっている。

[ヘドリー] 迫害され、差別された者たちが集まったレユニオンは、次にサルカズの指標となるにはちょうど良い存在だ。

[W] つまり、カズデルを離れて先にそのレユニオンに加入しても、誰も疑問に思わないってことね。

[W] それから?

[ヘドリー] ……慌てる必要はない。なるようになるさ、W。

[ヘドリー] お前は俺の目的をわかっているだろう。俺もお前の目的がわかるかもしれん。そうしたら、協力できることもあるだろう。

[W] ......

[W] そうね。そっちの方が現実的かもね。

[W] あたしが探してる人は、本物の怪物だもの。そう簡単にいなくはならないわ。

[W] それにあのババアも消えたし……そう考えると、確かにこのままカズデルに留まり続けるのは賢明じゃないわね……

[W] でもあたしは、あんたたちの命令に従うだけじゃないわ。自分のやることは自分で決める。いいでしょ?

[ヘドリー] ウルサスに向かう傭兵団に関しては、摂政王が人を遣わせて統合運用するだろうが……我々の小隊内部でのことなら構わない。

[ヘドリー] 俺たちも力になる。

[W] 小隊外のことは心配しなくても大丈夫よ。上司を「相手にする」のは昔から得意だから。

[ヘドリー] ……ならいい。

[ヘドリー] 帰属を歓迎する、「W」。

……カズデルから離れて――

Wは変わった。自分の考えを持ったようだ。

イネスは俺のせいでこの道を歩むことになったと言える。しかし彼女は想像よりもずっと強かった。

……では、俺自身はどうだろう?

危険な高地などから、時折、煙に包まれたかの地を目にすることができる。

――カズデル。

もしかすると俺こそが、あのカズデルから最も逃げ出したかった一人なのかもしれない。

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