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登臨意_WB-7_「屛風衛」_戦闘後
間一髪のところで、ワイ・テンペイが山海衆の首領を退け、親子二人がついに再会を果たした。一方、本物の天災データがズオ・シュアンリャオの手に渡る。速やかに都にたどり着くため、ズオ・シュアンリャオは天災を真正面から迎え撃つことに決めた。
[ドゥ] 誰か……! 誰か出てきて……!
[巡防営守備軍] またお前か! 解放してやったばかりだろう?
[巡防営守備軍] 物覚えが悪い奴だ。これ以上騒げば、本当に遠慮しないぞ!
[ドゥ] バカは、あんたたちよ……
[ドゥ] この箱にはね、玉門の運命を左右するものが入ってるの……ごちゃごちゃ言っていないで早くズオ将軍に……
[巡防営守備軍] これは……欽天監のデータケース? それに、特使の令牌も?
[巡防営守備軍] おい、お嬢ちゃん? なんでこれをあんたが持ってるんだ! おい、大丈夫か!
[巡防営守備軍] 軍医だ! 軍医を呼べ!
[チェン] こいつ、一体何者だ?
[ユーシャ] チェン警司でも、そんな驚く相手がいるのね?
[チェン] 赤霄でも斬れないアーツだぞ。
[チェン] もしこれが、本当にアーツならな……
[ワイフー] 武術の心得もないようです。ですが刀がありえないほど速いですね。
[ワイフー] 本当に空間距離を無視しているような……まるで、デタラメな秘伝書によく載ってる「瞬間移動」みたいです。
[ワイフー] 色々技を試してみて、素性を探れるかどうかやってみます……
[チュー・バイ] 気を付けて、これは試合ではありません。
[チュー・バイ] 気を抜けば本当に死にますよ。
[山海衆首領] ……
[山海衆首領] 気を抜かずとも、死ぬ。
[山海衆首領] 技を試すと言ったか? ならばお前からだ。
[ワイフー] ――!
刀は先ほど渡り合った時よりも速かった。ワイフーは秋風が顔に当たるのを感じただけで、反応すらできない。
――と、目の前に突然一つの壁、あるいは、壁のような大きくて分厚い背中が現れた。
十数年ぶりのはずだ。だがワイフーの目に映る背中は、記憶の中のものと一致した。
再会は想像よりも早く、あまりに突然の出来事で、どうすることもできなかった。
[ワイ・テンペイ] リーの言っていた面倒事とは、こいつのことか?
[山海衆首領] またお前か。
[ワイ・テンペイ] 道理で、ここ数日あまりよく眠れなかったわけだ。会いたくない者と出くわすからだったのか。
ワイ・テンペイは後ろを見やると、並ぶ者たちを確認した。
彼の動きは無造作で、素早いものだったが、ワイフーにははっきりと見えた。
[ワイ・テンペイ] 宗師と拳を交えるまで、他の者と戦う気はなかったのだがな。
[ワイ・テンペイ] はぁ……今日は禁を破ってやるか。
[ワイ・テンペイ] おい、お前も多少は腕に覚えがあるようだが、若輩者をいじめるとは何事だ?
[ワイ・テンペイ] それほどまで手がうずくのなら、俺が付き合ってやるぞ。こい!
[チュー・バイ] ワイ殿、武器と素手では具合が悪い。私の剣をお貸しします。
[ワイ・テンペイ] いらん。
[ワイ・テンペイ] 俺の拳で壊せぬものなら、剣が役に立つとも思えん。
[山海衆首領] 身の程知らずめ。
[ワイ・テンペイ] ハッ――!
最も近くにいたワイフーには、一番はっきり見えていた。
体を躱し、刀の峰を打って制する。歩法で一息に相手まで肉薄し、弓腰で力を溜めて、肘を突き出す。すべて自分が学んだことのある動作だ。
女の顔に浮かぶ苦しそうな表情を見れば、ワイ・テンペイが尋常でない勁を発しているのは明らかだった。
ワイフーは、壁が思い切りぶつかってくる感覚を想像した。
[ワイ・テンペイ] うむ……
[ワイ・テンペイ] 凶悪な刀法だな。髪一筋で躱してもなお、傷がつくか。
[山海衆首領] 愚物風情が――
一丈あまりも吹き飛ばされた女は、刀を使って体勢を安定させた。拳の衝撃はそれほど残らなかったようで、すぐに再び刀を構えた。
しかしこのような失態を晒したこと自体が、彼女はいたく腹立たしいようだった。抑えきれない怒気が冷風と化して吹き抜け、その場にいた者たちの背筋をひやりとさせる。
月の光が一層に強く煌めいた。
[チェン] まだ手を残していたのか?
[チュー・バイ] また、この感覚……
[ワイ・テンペイ] おお? 気迫が増したな……いいぞ、仕切り直しだ!
[諦獣] (低い雄たけび)
[山海衆首領] ……
女が空を見上げる。遠くから来る雲が、月の半分を覆い隠すところであった。
彼女は、持ち上げかけた刀を下ろした。
[山海衆首領] あの娘がデータを届けたからには、これ以上お前たちに付き合う気はない。
[山海衆首領] しかしデータを手に入れたところで、お前たちにはもう時間がない。
[山海衆首領] 玉門はこの災いから逃れられぬ。
[ワイフー] ……
[ワイ・テンペイ] ……
[チョンユエ] どうやら我々は無用であったな。
[ウェイ] 見事な対決でした。無駄足ではありません。
[チョンユエ] 後生、畏るべしだ。
[ウェイ] てっきり、あの男のことを評価しているものと思っていましたが。
[チョンユエ] ウェイ殿の武をよく継いでいる。七割といったところか。
[ウェイ] 宗師は、彼女の剣術をいかに評価しますか?
[チョンユエ] うむ……
[チョンユエ] 熟練の域ではあるが、それまでだ。
[ウェイ] ほう?
[ウェイ] つまり、宗師は……
[???] モンの兄貴――!
悲痛な声がウェイの言葉を遮って、大通りに響き渡った。
[チョンユエ] ……
探偵事務所にいた時、ワイフーは昼ドラの中で親子の再会シーンを何度も見たことがある。
泣き叫ぶ者もいれば、机や椅子を壊す者もいた。役者が声を枯らせて叫ぶ演技にワイフーはどこか馴染めず不思議に感じた。
ウンやリーは彼女もテレビを見ていると気付くと、いつも黙ってチャンネルを変えた。
彼と再会したときに、自分がどのような感情を抱くかワイフーは想像したことがある。十数年の積もった恨み、怒り、戸惑い、不満……それらを、どう彼に訴えたらいいのだろうか?
しかし今、その人が本当に目の前に立っているこのとき、顔に当たる冷たい風の方が現実味があった。
[ワイフー] 先程は、助けてくれてありがとうございます。
[ワイ・テンペイ] うむ……
[ワイフー] 何か他に言いたいことはありますか?
[ワイ・テンペイ] 言わなくてもいい。
[ワイフー] では、いきます。
[ワイ・テンペイ] ああ。
父さん、「紅眉詠春」ってどういう意味?
世に無数にある拳法の一つだ。この一冊を選んだからには、お前にこれを教えてやる。
父さんはどの武術を使うの? 私も父さんと一緒のがいいな。
俺のは、今のお前ではまだ習得できん。まずは体を作り、基礎を体得して、ようやく俺の技を学べるのだ。
わかった!
流れるように攻撃と防御を繰り返す。技を繰り出してはさばかれ、相手の技をさばいてはまた攻撃に転ずる。物心ついた頃から、こうした組手の練習もどれほどやってきたかわからない。
拳と拳がぶつかる瞬間、腕が筋肉の記憶に従って反応する。奥深くにしまわれた記憶が、それに伴って溢れ出す。
青みがかった煉瓦が敷かれた小さな中庭。いつも並々と水が入っていた粗末な磁器製の甕。布が巻かれた練習用の木人椿……そして、何度思い出そうとしても顔がぼやけたままの大きな姿。
そんな場所で、来る日も来る日も苦しい鍛錬に励み、何年も耐え忍んだ。
組手の相手は父から木人椿に変わったけれど、一日たりとも怠ったことはない。この十数年間、武術の鍛錬は寝食よりも当然のこととなった。
自分は、彼にあの質問をしたことがある気がする。
「なぜ?」
なぜ私に武術を教えるのか。なぜ私をあなたのような武人にさせるのか?
一つ一つの技の交錯は、ありのままで偽りのない会話だ。
あなたは、私に多くのことを教えた。
でも私はあなたを追っているわけじゃない。
私はもう自分の目標を見つけた。自分の武術は、何のために使うべきかわかった。目の前に現れた後ろ姿のために自分が選択した道を変えることはない。
でも私はいずれ、あなたよりも強くなる。
拳が男のたくましい胸を打った。まるで本当に分厚い壁を殴ったようだった。
鈍い音だ。
[ワイ・テンペイ] そこそこ成長したようだが、俺の域までは遠いな。
[ワイフー] 大口を叩かないでください。昔だったら、私はそもそもあなたに触れることすらできませんでした。
[ワイフー] あなたが十数年でこれしか進歩してないとしたら、私はすぐに追いつけます。
[ワイ・テンペイ] 随分と威勢がいいな。俺の娘らしい。
[ワイフー] それは褒め言葉じゃないです。
[ワイフー] 私の負けですね。
ワイ・テンペイはひげを撫でながら、しばらく考えると、突然破顔した。
[ワイ・テンペイ] 俺のあごに蹴りを入れた技は、教えていないものだな。
[ワイ・テンペイ] ……面白い。
[ワイ・テンペイ] まあいい、医館に帰る。
[チュー・バイ] ワイ殿、お待ちを。
[ワイ・テンペイ] お前も俺に用があるのか?
[チュー・バイ] 宗師の剣はどこにあるか知っていますか? ズオ・ラウの居場所も。
[ワイ・テンペイ] 剣は医館から逃げた娘が持っている。あの役人の小僧は多分娘を追って行ったはずだ。
[ワイ・テンペイ] それ以上は知らん。この件はもう俺と関係ない。
[チュー・バイ] ……待ってください。
[チュー・バイ] 宗師があなたに会うと言っています。
[ワイ・テンペイ] ほう?
[山海衆頭目] アナサだということに免じて、手加減してやっていたが。
[山海衆頭目] 剣を渡せ。もう容赦しないぞ。
[ジエユン] ゴホッ……
[ジエユン] 絶対に渡さない。
塞がり切っていない傷口が再び開いてた。アナサの少女は左手で剣を抱きながら、右手で飛輪を振り、敵の攻撃をどうにか防ぐ。
手負いの彼女は一歩一歩後ろへと追い詰められ、腕はますます重くなる。
[ジエユン] ……
[ズオ・ラウ] ふと、思ったんです。私があなたを見逃そうとしたところで、あなたにその力がなければ逃げることもできないだろうと。
[ジエユン] どうしてここにいることがわかったの……
[ズオ・ラウ] 私は玉門で育ちました。
[ズオ・ラウ] これでも子供の頃はやんちゃでしてね。排砂溝からこっそり都市を抜け出して遊ぼうと考えたこともあるんです。そのせいで父にはこっぴどく叱られました。
[ズオ・ラウ] とはいえ、本当に行動に移そうとするのは、あなたのような強情な人だけかもしれませんね。
[ジエユン] やっぱり私の邪魔をするの……
[ズオ・ラウ] あなたが玉門へ来たのは、その剣のためだけなんですよね?
[ジエユン] そうだよ。
[ズオ・ラウ] その剣を、故人に供えたいのですか?
[ジエユン] そう。
[ズオ・ラウ] ではその後、その剣を返しに戻ってきますか?
[ジエユン] 元々は……
[ジエユン] うん、返しにくる。
[ズオ・ラウ] 先ほどあの医館にいた変人が、わざわざ保証してくれましたよ。もしあなたが約束を違えれば、彼があなたを連れ戻すとね。
[ズオ・ラウ] しかし、剣を取り戻すことは、もともと私の義務です。
[ズオ・ラウ] 排砂溝に飛び降りることになろうと、必ず剣を取り戻します。あなたの先ほどの言葉は、一度信じてあげても構いません。
[ズオ・ラウ] 「一諾千金」です。あなたにはこの言葉の意味はわからないかもしれませんが、私は自分の名誉にかけて約束を守ります。もしあなたが約束を違えたなら、私自らあなたを捕らえに行きます。
[ジエユン] ……わかった。
[山海衆頭目] 格好をつけてるとこ悪いが。こいつのこの傷なら、うまく飛び降りたところで死ぬからな。
[ズオ・ラウ] 酉の三刻……タービンの回転速度はすでに落ちています、抜けられるとしたら今しかありません。
[ズオ・ラウ] 行くなら急いで!
年若い持燭人は、少女を背にして敵へと向き直ると、刀を鞘から抜いた。
――彼の声に押されるように、アナサの少女は剣をきつく抱きしめたまま、砂の滝に向かって飛び降りた。
[欽天監観測員] 先ほど届けられた情報に基づく再計算の結果が出ました。
[欽天監観測員] 接近の危険がある天災は、やはり砂嵐という形で、規模は四年前玉門の側面に接触したあの砂嵐のおよそ三倍です。
[欽天監観測員] しかも今回は突発的な出来事によって情報の初期伝達にミスがあり、すでに深刻な遅れが生じています。状況は予断を許しません……
ズオ・シュアンリャオは手中の箱に視線を走らせた。その表面には砂漠にもまれた痕がはっきりと残っていた。
数日前にも、同じようにこの箱を眺めていた者がいたかもしれない。その時、その者はどのような気持ちだったのだろうか?
もし天幕の中に鏡があったとしたなら、彼は恐らくここ数日の間に自分の白髪が増えたことに気付いただろう。
[ズオ将軍] 結論を言え。
[欽天監観測員] 現在玉門は天災の進行方向のど真ん中にあり、どの方向に航路を変更しても回避は間に合いません。
[欽天監観測員] 現状我々が採りうる唯一の方法は、一度玉門の各区画を分割し、それぞれ別の方向へと進ませることです。
[ズオ将軍] もし区画を分割して天災を回避すれば、予定にどれだけの遅れが生じる?
[欽天監観測員] 分割後に再接続し、その後最高航行速度へと加速するまで、およそ半年の時間が必要となります。
[ズオ将軍] ……
[ズオ将軍] 間に合わん。
[欽天監観測員] 都市の安全を確保するためには、これ以外に術はありません。
[ズオ将軍] 我々が守るべきは、玉門一都市だけの安全ではない。
将軍は天幕の中を落ち着きなく歩き回っていた。窓の外には静かな夜が広がっていた。一見平穏な都市の向こうに、危険がある。今は見えないが、それが確実に存在していることを彼は知っていた。
このような風景を、彼はもう何十年も経験してきた。だが、今ほどにこの砂漠の広大さを恨んだことはなかった。
[ズオ将軍] もし民の安全を確保するだけならば……
[欽天監観測員] 将軍、つまり……?
[ズオ将軍] 真正面より天災に対する準備をし、都市の中心から東の民を西へと移す。
[ズオ将軍] 防御設備を全て起動して、天災が城壁を越えた後の二度目の衝撃は、欽天監術師に防がせるのだ。
[ズオ将軍] この場合、天災突破後に損傷した都市を修復するのに、どれだけ時間が必要だ?
[欽天監観測員] ズオ将軍、それはあまりにも危険すぎるのでは……
[ズオ将軍] どれだけ必要だ?
[欽天監観測員] 正面の城壁に対する衝撃、それと都市内のインフラ設備の損傷も加味して……控えめに見積もって……三ヶ月です。
[ズオ将軍] うむ……
[欽天監観測員] 事態は急を要します、将軍、急ぎご決断を。
[ズオ将軍] リャン殿?
[ズオ将軍] 私が身勝手な決断をしないよう、監督をしに来たのか?
[リャン・シュン] 太傅からのお言葉です――ズオ将軍の判断を信じると。
[ズオ将軍] うむ。
[ズオ将軍] ……
[ズオ将軍] ――これより玉門は天災を迎え撃つ。備えよ。
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