aklib_story_登臨意_WB-1_春の訪れ_戦闘後

ページ名:aklib_story_登臨意_WB-1_春の訪れ_戦闘後

このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。

各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。

著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。

登臨意_WB-1_春の訪れ_戦闘後

事件が次々と積み重なり、歳獣の意識が封印されたチョンユエの剣を謎の少女が盗み出した。ズオ・シュアンリャオは巨獣信者捕縛のための一連の作戦を命じる。リン・ユーシャはワイフーとドゥ・ヤオイェに出会い、三人は協力して犯人を追うことにした。


[ズオ・ラウ] 何者ですか?

[異民族の装いの少女] ……

[ズオ・ラウ] 止まりなさい。

[ズオ・ラウ] あなたはご自身が今どこにいて、手に持っているそれが、どんな代物かご存知ですか?

[異民族の装いの少女] 一振りの剣。私が探してた剣。

[ズオ・ラウ] ……

[ズオ・ラウ] あなたが誰の指図を受け、なぜここに侵入できたかはひとまず問いません。

[ズオ・ラウ] 剣を渡してください。私と共に宗師の所まで行きましょう。

[異民族の装いの少女] 情に薄く、信義に背く人は、この剣を持つに相応しくないよ。

[ズオ・ラウ] 無礼な!

[ズオ・ラウ] 宗師は百年もの間、玉門の安全を守ってきた方だ。あなたごときが侮辱するなんて、許されると思いますか?

[異民族の装いの少女] 偉そうに、お前こそ何を知っているの? どいて!

[ズオ・ラウ] これまで無法者は数多く捕らえてきましたが、あなたほど生意気な方は初めて見ましたよ。

[異民族の装いの少女] 真面目みたいな顔して、実は私利私欲に走っている。そういう人、私はたくさん見てきた!

[ズオ・ラウ] では、力尽くでご同行いただくしかないですね。

[異民族の装いの少女] どうぞ。かかってきなよ。

[チョンユエ] 勝敗は決した。

[冷淡な女性] 我らの決着は、ここでつけるものではない。

[チョンユエ] 身柄か、納得のいく理由か、どちらかを残してもらおう。

[冷淡な女性] 我は答えを欲す。しかしお前では我に与えられない。

[リィン] 逃げられたね。

[リン] あれだけの重傷を負っておる、遠くへは逃げられんじゃろう。

[リン] ウェイよ、お主の老骨も役立たずになったのう。

[ウェイ] 助太刀に感謝致します。

[リン] 赤霄の剣の主ともあろう者が、仇に追われ、他人に救われるとな?

[ウェイ] あんな仇、記憶にはありませんが――

[チョンユエ] ……

[チョンユエ] 陽動だ!

[異民族の装いの少女] フンッ……!

[ズオ・ラウ] その負傷した体で、どこへ逃げるつもりですか!?

[チョンユエ] お前は……?

[異民族の装いの少女] ……

[ズオ・ラウ] 宗師、危ない!

[チョンユエ] ……

[ズオ将軍] 宗師、今度は何事だ?

[チョンユエ] 私の不注意だ。

[チョンユエ] 剣が盗まれた。

[巡防営守備軍] 将軍、内城楼の周囲五里以内に刺客の痕跡、および他の賊等は見当たりませんでした。

[巡防営守備軍] ほかに襲撃を受けた者はおらず、都市の核心部と武器庫にも賊の痕跡はありません。

[ズオ将軍] 「痕跡」がないだけなのか、それとも確実に侵入されていないと言えるのか。

[巡防営守備軍] それは……まだ確認できません……

[ズオ将軍] 玉門の軍営を、その辺の民家のように出入りする者がいるとは思わなんだ。しかも、あなた方ほどの腕利きが四人がかりでも止められぬとはな。

[ズオ将軍] 奇怪極まりない。

[チョンユエ] 私が迂闊だった。

[ズオ将軍] ウェイ殿、刺客の正体に心当たりは?

[ウェイ] この命を狙う者の数が増えることこそあれ、減ることはなかった。だがこのウェイ・イェンウはいまだ健在です。

[ウェイ] そういった者たちはその考えを捨てているか、すでに黄土となっているかのどちらかです。

[ウェイ] しかし今夜の客人は、全く記憶にない相手だ。

[ズオ将軍] ……

[ズオ将軍] ラウ、お前の方で何か発見はあったか?

[ズオ・ラウ] 突然の出来事で、備えることができずに、刺客を逃しました……

[ズオ将軍] なぜ刺客を捕らえられなかったかを尋ねているのではなく、お前は何を見たかと訊いている。

[ズオ・ラウ] 剣を盗んだ刺客は、若い女性で、逃走時に負傷しています。それ以外に……手がかりはありません。

[ズオ将軍] ……

酒杯が砕け、破片はすべて平祟侯が手の中に握り締めた。

賓客がその場にいるにもかかわらず、彼はその一瞬、どうしても怒りを抑えられなかった。それは、昼間弓を引いた時に手の震えを抑えられなかったのと同じだ。

[ズオ将軍] 事ここに至ったのであれば、これ以上の問答は無用。

[ズオ将軍] 命を伝えよ。即刻城門を封鎖し、各市街地間に歩哨所を設け、人々の不必要な移動は一切禁ずる。

[ズオ将軍] 加えて都市全域に通達を。玉門は二日後の申の刻より、航路調整のため減速する。民衆は準備をしておくように。

[巡防営守備軍] はっ。

[ズオ将軍] ズオ・ラウ。

[ズオ・ラウ] ここに!

[ズオ将軍] 刺客を捕縛せよ。宗師の剣を奪還せよ。都市内に潜む山海衆を探し出せ。この三つすべてをやり遂げねばならん。

[ズオ将軍] 三日やろう。私の直属兵の指揮権を与える。

[ズオ将軍] 情報を漏らすな。民衆の安寧を脅かせば厳罰と心得よ。

[ズオ・ラウ] はい!

[ズオ将軍] リン殿は?

[ウェイ] 彼は守備軍が配置された後、すでにこの場を離れましたよ。

[ウェイ] 何といっても、リンは朝廷の者ではありません、平祟侯の命を受けるにも差し障りがあります。

[ウェイ] ほかに私が手伝えることはありますかな?

[ズオ将軍] 今夜の刺客は明らかにウェイ殿を狙っている。ご自分の身の安全を最優先にしていただきたい。

[ズオ将軍] 事が落ち着いたら、ウェイ殿を龍門まで送り届けるために軍を派遣するつもりだ。

[ズオ将軍] それまでの間、ウェイ殿はあまり動き回らないように。

[ウェイ] ズオ殿の言う「動き回らない」の意味とは……

[ズオ将軍] 言葉通りの意味だ。

[ズオ将軍] あとのことは、玉門が解決する。

[ウェイ] ……もちろんです。

[チョンユエ] 今回の敵は尋常の者ではないようだ、やはり私が……

[ズオ将軍] 宗師には軍営に残ってもらい、太傅とウェイ殿の安全を確保していただきたい。

[チョンユエ] しかし賊を都市内で野放しにするのも、危険には違いない。

[ズオ将軍] 今回の件は巨獣に端を発している。宗師の身分で、手を出すのは具合が悪い。

[ズオ将軍] 何せ宗師の正体を知るべき者は、この部屋にいる皆だけだ。

将軍の声はそれほど大きくはなく、部屋は自然と静かになった。

どこかの隅からため息が聞こえてくる。

[チョンユエ] まあ……それもよかろう。

[ズオ将軍] 御覧の通り差配いたしました。太傅に異論はございますか?

[太傅] 平祟侯の判断を信じる。

[ズオ将軍] 承知。

[ズオ将軍] では、即刻動きます。

[チョンユエ] ……

[録武官] 先生、大丈夫ですか?

[チュー・バイ] 彼を傷つけられる人がいるなんて、私は死んでも信じませんよ。

[チョンユエ] お前というやつは、随分と私に信を寄せているな……

[チョンユエ] どうやら、お前たちの耳にはもう届いているようだ。

[チュー・バイ] 都市外で軍を率いるのは一度棚に上げるにしても、都市内の治安と警備は元々あなたの責務です。ズオ・シュアンリャオの差配は、あなたを信用していないと言ったようなものでしょう。

[チョンユエ] ズオ将軍の意図は、当然わかっているし、理解もできる。

[チョンユエ] であるから、これから数日の間、お前には私の代わりに動いてもらいたい。

[チョンユエ] 今回の事態は異常で、敵もかなり厄介だ。ズオ・ラウにできるだけ力を貸してやってくれ。

[チュー・バイ] 彼の性格を考えると、私の助力を喜んで受け入れるとは限りませんがね。

[チョンユエ] 我々の間の件についても、今は時宜が悪い。

[チュー・バイ] みなまで言う必要はありません。わかっています。

[チョンユエ] ここ数日は暇だろうし、すまないが、『武典』の最後の数章の執筆にできるだけ付き合ってもらうぞ。

[録武官] 弟子として当然の務めです。

[チョンユエ] 苦労をかける。

[録武官] ほかにお申しつけがなければ、私は失礼します。先生もお早めにお休みください。

壁にある空の刀掛けを見たのか、はたまた別の何かを見たのか、男はため息をついた。

[チョンユエ] この盤面、お前は一体どれだけの人を巻き込むつもりだ……

[チョンユエ] 澄んだ水を濁流に流せば、もう二度と川の中から同じ澄んだ水をくむことはできないんだ。こんな道理もお前にはわからないというのか?

[チョンユエ] たとえお前が取って代わったとしても、混沌の中で再び彼女と会うことは不可能だ。

[チョンユエ] それなのに、お前はなぜこのような……

遠くから、微かに巡回隊が行進する際の鎧と鎧がぶつかり合う音がする。それ以外の音は一切聞こえてこない。

こっくりとした深い闇が辺りを包み、この騒がしかった夜がようやく静まり返った。

そしてまた長いため息が聞こえる。

[冷淡な女性] ……ん?

お前は随分と大胆だ。

[冷淡な女性] お前もここにいることに、気付かなかったとは……

当然いる。

[冷淡な女性] お前も我の邪魔をするか。

秀でた棋士は、一局を通じて妙手無し。お前の行動は、いささか過激すぎる。

あぁ……或いはお前に残された時間が僅かであるからか。

[冷淡な女性] 時についての話ならば、お前にも余裕はないはずだ。

あいつが「自分」を剣に封じたから軽く見れると、本気で思っているのか?

[冷淡な女性] 我は「一」のために来た。なぜ十二分の一を気にかけねばならん?

[冷淡な女性] お前は何をもって、己が彼れと成れると思う。

私はアレになりはしない。私は常に私だ。

[冷淡な女性] 我と彼れの件、決着をつけねばならないのだ。

それはお前とアレの因縁だろう。

私とお前は敵ではない。

[冷淡な女性] それを決するのはお前ではない。

少なくとも今、我々はどちらも、それよりも重要なことを身に帯びている。

互いの妨げにはならないはずだ。

[冷淡な女性] 我に和平を求めているのか?

我々は互角だ。お前に断る理由はない。

[冷淡な女性] ……お前はやはりその他の「兄弟姉妹」と異なる。

[冷淡な女性] 次会う時は、面白いものを披露してくれることを期待している。

[龍門観光客?] お嬢様! 今日は――

[ユーシャ] 静かに。

[ユーシャ] あまり堂々と私に会いに来ないでって、言わなかった?

[龍門観光客?] 無事ならよかったです……

[ユーシャ] 何か進展はあった?

[龍門観光客?] 玉門の市場は数年に一度しか開かれませんからね。貨物も人もかなりの数で、人目につきやすいです。今のところ、まだ手がかりはありません。

[ユーシャ] ……

[ユーシャ] 私たちでは難しいというなら、人に調べてもらいましょう。

[龍門観光客?] それはつまり……

[ユーシャ] 玉門の市場にいる商人、現地の人間は何人で、龍門からやってきた人間はどれほどいるかしら?

[ユーシャ] 後者のうち、近衛局の方での手続きに不備があって、私たちの世話になった人はどれだけいるかしら? 篩にかけて、動きやすい人を見つけてちょうだい。楽な仕事よ。

[龍門観光客?] お嬢様、それは……あまり仁義にのっとってないのでは。

[ユーシャ] 言う通りにやりなさい。

[ユーシャ] ……

半月前

[ユーシャ] 巨獣信者?

[ウェイ] 情報の出所について、詳しく知る必要はない。

[ウェイ] 炎国が数千年にわたり相手にしてきた敵は、何も光の当たる場所にいる者たちだけではないんだ。

[ユーシャ] 玉門は一年を通して龍門の補給に頼っていますが、都市内の治安に関しては龍門総督の職責を外れるのでは?

[ウェイ] 玉門は破ることのできぬ盾。しかし盾の内側に潜む害虫は、持ち手以外の誰かが駆除する必要がある。

[ウェイ] 君にこの問題を解決してもらいたい。

[ウェイ] 龍門近衛局特別指揮官としての行動を許そう。名目上の仕事は、両都市の接続期間中における治安問題の解決だ。私もある程度の支援を提供する。

[ウェイ] 玉門に潜む危険分子を徹底的に調査し、玉門が無事帰航できるよう確保するんだ。必要とあらば、極端な手段を用いても構わない。

[ユーシャ] ……

[ユーシャ] なぜ私なんですか?

[ウェイ] 理由があるとすれば、君がリン・ユーシャだからだ。君ならばこの件を解決できる。

[ウェイ] あの時に鼠王が龍門で行ったことを、この玉門でもう一度君に行ってもらう必要がある。

[ユーシャ] ウェイ長官……私を訪ねる前に、このことについてお父さんに話してはいませんよね?

[リン] ユーシャ。

[ユーシャ] お父さん? 来るって言ってなかったわよね。

[リン] お主はウェイの任務を受けたんじゃ。そりゃあ見に来なければな。

[ユーシャ] ……全部知ってたのね。

[リン] 「密輸犯の捜査」だと言ったか?

[ユーシャ] お父さんを悩ませたくなかったの。

[リン] ワシに隠すために随分と苦労したようだな。じゃが本当に悩むべきはウェイの方じゃ。

[リン] 断ろうとは思わなかったのか?

[ユーシャ] 悪を倒して、人々の平穏な暮らしを守ることっていうのは、誰かがやらないと……

[リン] ウェイの手下にこの件を処理できる者は、いくらでもおろう。なぜわざわざお主に首を突っ込ませる必要がある?

[ユーシャ] それは……

[リン] まあよい。ウェイの奴がどんな言い訳をするかなんて、尻尾の先だけでもわかるわい。

[リン] 今晩起きたことは、お主にも知らせておかねばな。

[ユーシャ] さっき守備軍が、玉門の城門を封鎖していたのは、このためだったのね。

[ユーシャ] 一日のうちに、立て続けにこんなことが起きるなんて、偶然というのなら、あまりに偶然すぎるわ。

[リン] 龍門総督の暗殺未遂、宗師の剣の盗難、欽天監信使の殺害、どれ一つを取っても大地を揺るがすほどの大ごとじゃ。

[リン] それらが同時に起こったからには、背後で動いておる勢力は、想像もできぬわい。

[リン] ウェイは今回の件がどれほど危険であるか告げなかったのか?

[ユーシャ] ただ事ではないことだけは理解したわ。

[リン] 玉門は龍門ではない、お主もワシではない。

[ユーシャ] 知ってる……慎重に事に当たるわ。

[ユーシャ] 今回龍門から連れてきた暗部は、みんなお父さんの下について長いベテランのやり手だし。

[ユーシャ] 私もそれなりに長いもの。多少の経験はあるわ……

[リン] お主に考えがあるのなら、ワシがしつこく言う必要もないな。

[リン] 今回の件が早く終わり、お主のヴィクトリア行きに遅れが出ないことを願うばかりじゃ。

[ユーシャ] ただの遊学だもの、行かなくても構わないわ……

[リン] ここ数年お主はワシを手伝い、近衛局のためにも、多くのことを片付けてきたのじゃ。そのせいで自分が本当にやりたいことをやれんかったではないか。

[ユーシャ] 全て自分で選んだ道よ。私がやったことも、龍門のためだし。

[リン] 別の道を知りもせず選んだものを、自分の選択とは言えぬだろう。

[リン] 時折思うのじゃ、なぜ、チェンのように――

[リン] ゴホッ……ゴホッ……

[ユーシャ] お父さん! 怪我してるの!? 医者を探してくる!

[リン] 必要ない。

[リン] 長いこと体を動かしていなかったからのう、身体が硬くなっていたのじゃ。毎日公園を散歩するだけでは、運動量が足りぬようじゃのう。

[ユーシャ] じゃあ将軍府まで送るわ。

[リン] それも必要ない、今宵はこの客桟で休むとしよう。

[リン] 旧友には一度挨拶すれば十分じゃ。今晩のズオ将軍府がどうなっているかは想像がつく。わしは一秒たりともあんなところにはおれんぞ。

[リー] おや、こいつは偶然ですねぇ。

[リー] 暮れに街外れで騒ぎがあったと耳にしましてね、一体何があったのかと思っていたんですが、今リンさんを見て確信しました。こりゃあ、どうも大変な事が起きているようだ。

[リン] リーさんは、このネズミを疫病神か何かと思っておるのかな?

[リー] いやいやまさか、冗談ですって。

[リン] ユーシャ、ワシはリーさんと少し話がある。

[ユーシャ] 私はお先に失礼するわ。

[リン] どうやら玉門での人探しは、うまくいっていないようじゃな?

[リー] 言わんでくださいよ。十年以上失踪していた奴を、一ヶ月で見つけられるなんておれも思っちゃいませんて。

[リー] とはいえ、どれだけ時間がかかろうが、探し出さにゃいかないもんでね。

[リン] リーさんはかねてから気ままな方じゃが、その古い友人のことに関する時だけは粉骨砕身するのじゃな。

[リー] さぁて、前世であいつに借りでもあったのかもしれませんねぇ……

[リン] 今お急ぎでないのなら、ワシからリー探偵事務所に一つ依頼をしてもよいかのう?

[リー] リンさんに言われちゃあ、断る道理なんてございませんや……

[リー] とはいえ、最近のおれは、ちーとばかり面倒事を引き受け過ぎな気もするんですよねぇ?

[リン] 有能な者ほど多く働くもんじゃ。この件でお主はわしに貸しを作ったと考えてよい。

[リー] そんな、貸しだなんてよしてくださいや。リンさんがそこまで言うなんて、どんな大変なご依頼なんです? 解決できるか、ちーと不安になってきましたよ。

[リン] フッ、こういったことは、お主のような食わせ者が一番適任じゃ。

[ワイフー] 一、二……九、十……

[ワイフー] 番付上位の人たちは、皆さん手強い相手ですね……

[ワイフー] 平常心、平常心です。ベストを尽くしましょう……

[ドゥ] どうして都市から出られないの? 仲間が二人、外で死んでるのよ……

[巡防営守備軍] 城門はすでに閉じられています、お引き取りください。

[ドゥ] ちょっと、あんたたち話が通じないわね――

[ワイフー] あなたでしたか。

[玉門通行人] うわっ、双錘(そうすい)使いが蹴り落とされちまった。フォルテの男だぞ? 体格も随分違うってのになぁ。

[玉門通行人] これであのフェリーンの娘は五連勝だ。

[ワイフー] ふぅ――

[ドゥ] ねえ、ちょっといいかしら。今日のあんたの試合は、全部見させてもらったわ。

[ドゥ] 良い腕ね。うちの鏢局に入らない?

[ワイフー] 鏢局?

[ワイフー] お断りします。

[ドゥ] つれないわね。すぐに断らなくてもいいでしょ。それだけの技量があるなら、給料だって弾むわよ!

[ワイフー] 私は拳法で食べていくつもりはありません。こう見えても、機械工学専攻の大卒なんですよ。

[ドゥ] 機械工学って……?

[ドゥ] まあいいわ! とりあえず理系ってことよね? いいじゃないのよ理系。あたしが言った鏢局は、新しいタイプの物流会社なの。理系なら大いに活躍の場があるわ!

[ドゥ] ちょっと! 行かないでよ、本気なんだからね……

[ワイフー] そんなことが起きていたなんて……

[ワイフー] 訃報もご友人の遺品も、戒厳令の終了を待ってから尚蜀に送るしかないんでしょうね……

[ドゥ] あたしが二人を連れてきたの。だから、どんな手を使ってでも連れて帰るわ。

[ワイフー] 玉門に来る前、尚蜀でたまたまテイさんに一度お会いしました。

[ワイフー] テイさんはこう言っていました、誰一人己を守るために武術を学ぶ必要のなくなる日が来たら、その時が本当に泰平の世であると。

[ドゥ] 父さんの言ってるのは正しいわ。でも今に限って言えば、あたしは江湖の言葉の方が好きね。血は血でもって償うべきよ。

[ドゥ] 犯人は必ず見つけ出すわ。

[ユーシャ] あなたたちどうしてここにいるの?

[ワイフー] ユーシャ姉?

[ドゥ] 昼間のお役人様?

[ドゥ] 事件を調査するって言ってなかった? 戒厳令を敷いてどう調べるのよ?

[ワイフー] お二人とも知り合いなんですか?

[ユーシャ] 状況が変わったのよ。事態は想像以上に厄介だわ。

[ドゥ] ならあたしも一緒に調査させて!

[ワイフー] 私も、力になれます……

[ユーシャ] 今回の件はかなり危険よ、だから部外者は――

[ドゥ] うん? 何の音?

[ワイフー] 玉門城門外の方からですね。軍防区の太鼓でしょうか?

[ワイフー] 見てください、城壁の上でのろしが上がりました。

[ユーシャ] 玉門の伝統、望烽節ね。毎春に行われる儀式で、三日間続くわ。

[ユーシャ] 軍営の太鼓が都市内の将士や市民たちのために叩かれるのよ。鼓の音の一つ一つが人々に、都市が無事であることを、山河が無事であることを、炎国が無事であることを伝えているの。

[ユーシャ] 城壁の上に立ち昇る烽火は、戦場で犠牲になった英霊たちのために家に帰る道を示しているのよ。

[ドゥ] 家に帰る……

天災が迫り、外敵が国境を脅かしたかと思えば、賊は時を選ばず騒ぎを起こす……

十七回にも及ぶ軍鼓の音が、過去一年に玉門が経験した様々な災いを象徴している。

数百年もの間、北方にあったこの辺境の都市は、出会った災いに比例して重厚である。この都市の人々は、災いをその心に刻んでいるからこそ、気骨稜々としているのだ。

長風原上の火を滅せず、一夜にして征人尽く望郷す。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧