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シラクザーノ_IS-ST-2_切開
ラップランドはテキサスに代わり投獄され、レオントゥッツォは狼主に相まみえる。その頃、ソラは以前劇場で知り合った女性が『テキサスの死』の作者であることに気が付いた。
[過激なマフィア] こんなの聞いてねえぞ!
[忠実なマフィア] 俺だって聞いてねえよ。
[過激なマフィア] まさかあの人の独断なんじゃ……
[アルベルト] いいや、問題ない。
[アルベルト] この件はあいつの好きなようにさせてるんだ。
[過激なマフィア] ドン! まさか初めからこうするおつもりで……?
[アルベルト] 俺たちはベッローネにとっての何になるべきだと思う? 奴らの栄華の添え物か、あるいは窮地を救う救世主か――どっちを選ぶかなんざ決まってるだろう?
[アルベルト] そう簡単に奴らの好きにさせてたまるかよ。
[アルベルト] ベルナルドの力を削いでやれるなら、多少の悪名は安いもんだ。
[忠実なマフィア] 確かに、そうですね。
[忠実なマフィア] それじゃ、これからどうしましょうか?
[アルベルト] 車を出せ。うちの娘に会いに行く。
[忠実なマフィア] はい。
[アルベルト] そういや、ダンブラウンはどこにいる?
[忠実なマフィア] ダンブラウンですか? 今は洗車工をしてるようですよ。
[アルベルト] 住所をよこせ。
[忠実なマフィア] 奴を呼び戻すんですか……?
[アルベルト] あいつの足抜けを認めた覚えはない。
[忠実なマフィア] ……わかりました。
[アルベルト] ああ、それと、パーティーの準備をしておけ。
[忠実なマフィア] と仰いますと……
[アルベルト] ベッローネの息子のほうを招くぞ。
[ガンビーノ] 放せ、てめえ!
[用心棒] ラップランドの提供した手がかりをもとに、二人の殺し屋を捕らえました。
[用心棒] 両名がレオントゥッツォ氏への襲撃に関わっていたという確認も取れています。
[ラヴィニア] ……あなたたち、彼女とは知り合い?
[ラップランド] ハーイ、二人とも。
[カポネ] チッ……あんたと関わるとろくなことがないってことくらいわかってたよ、ラップランド。
[ラップランド] そう言わないでよ。シラクーザの牢獄に入るなんて滅多にできない経験でしょ?
[ラヴィニア] ……
[ラヴィニア] 彼らを牢へ。
[用心棒] わかりました。
[ラヴィニア] ――あなたは現場でチェリーニアさんを足止めして、その間に人を送り込み爆弾でカラチ部長を殺害させた……
[ラヴィニア] と、なおも主張し続けるつもりなのね?
[ラップランド] 随分と疑り深いんだね。
[ラップランド] キミにとってもベッローネにとっても、事件の早期終結は願ってもないことでしょう?
[ラップランド] 犯人がボクだろうとテキサスだろうと同じことじゃない?
[ラヴィニア] ……
[ラップランド] 真面目な話、ボクを処刑するべきだと思うよ。
[ラップランド] ボクはファミリーに追放された捨て駒でしかないんだから、ちょっと頑張ればそのくらい簡単でしょ?
[ラップランド] ね、想像してみてよ。ボクの死がシラクーザにおける司法の公正さにどれだけ良い影響を与えるのか……
[ラップランド] 試してみる価値はあると思わない?
[ラヴィニア] あなたが何をしたいのかはわからないけれど……
[ラヴィニア] 本当にあなたが犯人であれば、そうするわ。
[ラヴィニア] だけどその前に――会わないといけない人がいるの。
[ディミトリ] お帰りなさい、ドン。
[ベルナルド] ああ。ここしばらくよくやってくれたな、ディーマ。少し休んできなさい。
[ディミトリ] はい。
[レオントゥッツォ] ……
[ベルナルド] 納得できない、という顔だな。
[レオントゥッツォ] むしろどうすれば納得できるか知りたいくらいだ。
[ベルナルド] ……ついてこい。
[ベルナルド] そろそろ、お前にも伝えておくべき時がきた。
[レオントゥッツォ] なぜこんな場所へ……?
[ベルナルド] ――我が主よ。
[ザーロ] ベルナルド……己が子一人教育しきれず私にしつけをさせようというのか?
[ベルナルド] 息子にはただ、理解すべきことがあるというだけのこと。
[レオントゥッツォ] ……何者だ?
[ザーロ] 私は狼の主だ、幼子よ。
その言葉を聞いた瞬間、レオントゥッツォはめまいを感じた。
大量の情報と細かな断片が、一瞬にして脳内へ流れ込んでくる。
狼の主――「獣主」。
この大地のいかなる生物とも異なり、生まれ落ちることなく、ただ自らの存在を示す者。
ザーロ。狼の群れより現れたる獣主。
荒野に立ち、群れの足跡すべてを目にしてきた彼らは――
本能に従い、終わりなき殺し合いを繰り広げてきた。
狼の主、そして獣の主。それは不死にして不滅なるものだ。
ゆえに同類同士の殺し合いでは満ち足りず、彼らはとあるゲームを始めた。
それは、狼主たちが各々人間を選び育てて、人間同士で狩りをさせるというシンプルなものだ。
この選ばれた人間は「牙」と呼ばれ……
折れない「牙」を持つ狼主こそが、狼たちの頂点に立つのだ。
[レオントゥッツォ] 狼の主……狩り……「牙」……
[レオントゥッツォ] まさか――
[ザーロ] お前の父は、我が最優の牙だ。
[サルッツォの構成員] 今日はドンがベッローネからの客をもてなす予定でな。
[サルッツォの構成員] 上等な食材を送ってもらいたいんだ。
[ルビオ] ……サルッツォファミリーが……本当に?
[サルッツォの構成員] どうした?
[ルビオ] いえ、何でもありません。
[ルビオ] 差し出がましいようですが……ベッローネの方々をもてなすのなら良い食材だけでは足りないのではと思いまして。
[ルビオ] 両ファミリーのためでしたら、喜んで私自らディナーを振舞わせていただきます、とドンにお伝え願いたいのですが……
[ルビオ] ドン・アルベルトのご意向はいかがでしょう?
マフィアが誰かを厚遇した時、クルビアでは、その誰かは取引における交渉材料になってしまう。
目をかけられているほど、その価値は高くなるのだ。
一方シラクーザの場合、その誰かはある雨の夜に命を落とすことがある。
目をかけられているほど、その人物は苦しむのだ。
つまるところ――結局、冷酷な人間でいるのが一番だ。
テキサスはそれを深く理解していると同時に、嫌悪してもいた。
[ラヴィニア] 今回のこと、ごめんなさい。
[テキサス] 謝る必要はない。
[ラヴィニア] ……すぐにここを去りたいというのなら、少しの手続きを済ませればそうすることもできますよ。
[ラヴィニア] 手続き上は、あなたの容疑は晴れたわけですし。
[テキサス] 別にこのままで構わない。監獄にいたほうが面倒が減るとわかってきたしな。
[テキサス] お前は諦めないつもりか?
[ラヴィニア] あなたの古いご友人……本当にあの人が犯人だと思いますか?
[テキサス] ……
[テキサス] あいつのやりそうなことではある。だが、そうする理由が思い当たらないな。
[ラヴィニア] であれば、諦めるにはまだ早いでしょう。
[ベッローネの構成員] ラヴィニアさん、ロッサティが人をよこしてきました。ウォラックさんがチェリーニアさんと話したいと言ってるとかで。
[テキサス] ……どうやら、私もこのまま休んではいられないようだな。
テキサスがそばを通り過ぎたその時、ラヴィニアは自分のポケットに何かが入れられたのを感じた。
取り出してみれば、それは一枚の紙だ。
番号が書かれたその隅には、幾らかの文字がつづられていた。
雨にも負けずお届けします。――「ペンギン急便」
[不満げな観客] あの、すみませんけど……寝るならせめて足を組むのはやめてくれませんか?
[???] ……ん?
[洗車工] 俺のこと言ってんのか?
[不満げな観客] ほかに誰もいないでしょう。よくもまあ劇場で居眠りなんかできますね。
[不満げな観客] しかもそんな風に足を上げたりして、下品すぎますよ!
[洗車工] けど、あんたがこのオペラだかなんだかを見る分には別に邪魔にはならねえだろ?
[不満げな観客] それはそうですが、あなたみたいな品のない人が近くに居るだけで気分が害されるんですよ!
[洗車工] わかったよ、足を引っ込めりゃいいんだろ?
[不満げな観客] ちょ、ちょっとあなた、食べ物まで持ち込んでるんですか?
[劇場の支配人] ……失礼、劇場内で食べ物の販売はしていないはずですが。
[洗車工] そうそう、まさかポップコーンがないとは思わなかったぜ。仕方ねえから近くのコンビニで買ってきたんだ。
[劇場の支配人] もしや、こうした場所は初めてでいらっしゃいますか?
[洗車工] ああ。友達が勧めてくれたんで、気晴らししようと思って。
[劇場の支配人] では……劇のご感想は?
[洗車工] ここまでずっと見てたけど、何やってんのかよくわかんねえや。
[洗車工] どうしてこんなの上演してるんだ?
[劇場の支配人] ……
[劇場の支配人] こちらのお客様を外へご案内してください。
[劇場の支配人] この場所に相応しくない方のようですから。
[洗車工] おい、チケットならちゃんと買ってるぞ!
[劇場の支配人] ではチケット代を返して差し上げなさい。
[軽薄な用心棒] はい。
[軽薄な用心棒] どうぞこちらへ。
[軽薄な用心棒] とっとと失せな。
[冷酷な用心棒] 正直、開演後にこの野郎を見かけた時は……
[冷酷な用心棒] どっかの金持ちが庶民の気持ちを味わおうとでも考えて、こんな格好してるんだと思ってたんだが。
[冷酷な用心棒] まさか本当にオペラをまるで理解してねえ貧乏人だったとはな。
[洗車工] あんたらはああいう舞台が面白いと思ってるわけか?
[軽薄な用心棒] ハッ、当然だろ。役者たちはイカしてるし……
[軽薄な用心棒] 歌に音楽だって、あんなにグッとくるもんはねえよ。
[洗車工] そういうのが……芸術ってやつなのか?
[軽薄な用心棒] お前みたいな奴には、バーで飲んだくれてるほうがお似合いだぜ。
[軽薄な用心棒] おっと、忘れるとこだった。ほらよ、チケット代だ。
[軽薄な用心棒] これで金を騙し取られたなんて言わせねえぞ。
[軽薄な用心棒] あ? 抵抗する気か?
[軽薄な用心棒] チッ……こいつ、思ったより力が強いな……
[軽薄な用心棒] おい、さっさと手伝ってくれよ!
[冷酷な用心棒] ……
[冷酷な用心棒] そいつの目……なんか妙だぞ。
[軽薄な用心棒] うっ、あああああ! 手が、手が折れるっ……!
[洗車工] ……
[軽薄な用心棒] ……て、テメエただじゃおかねえぞ!
[冷酷な用心棒] やめとけって。あいつはただ金を拾っただけだぜ。あんなのに構う必要ねえだろうが。
[冷酷な用心棒] ほら、行くぞ。手当てしてやるから。
[洗車工] ……ごめんな、ラヴィニアさん。
[洗車工] こういう娯楽は、俺にはわかんねえみたいだ。
[洗車工] 俺はやっぱりバーで酒飲んで、映画館で夜を過ごすほうがいいのかもな。
[???] では、一杯ご一緒しませんか?
[洗車工] ……?
ダンブラウンが声のするほうを見やると、一人の男が路地の壁にもたれかかっており――
人目を気にする素振りもなく、手に持った酒瓶を振って見せた。
[アルベルト] で、これは何のつもりだ? ラップランド。
[ラップランド] だって、これがお望み通りの結果でしょう?
[ラップランド] ベッローネが一番弱ってる時に手を貸してコントロールし、いずれは滅ぼす代わりに支配する。
[アルベルト] こういう時、どうするべきか……
[アルベルト] 教えたはずだろう。
[ラップランド] あ~、忘れちゃってたよ。もう何年も我が家を離れてたからね。
[アルベルト] どうあれ、お前は俺の娘だからな。大抵のことは大目に見てやる。
[アルベルト] 任せた仕事をこなさなくても、俺の意向に背いても、俺は寛容でいてやれる。
[アルベルト] だが俺に代わってファミリーのことを決めるような真似は許さん。
[アルベルト] お前が俺の考えを理解していても――
[アルベルト] ファミリーの主は俺だからだ。
[アルベルト] 七年前、お前は似たようなことをして家を追い出されたってのに、今回もこんな真似をした。
[アルベルト] こういうことをすりゃあ俺の怒りに触れるってことも、こういうことでもしなけりゃ俺は怒らねえってこともわかってるだろうに。
[アルベルト] 言え、娘よ。どうしてこんなことをした?
[ラップランド] こんなことでもしないと楽しくないからさ。
[ラップランド] ボクはね……お父様にとって、当主の地位が何より大切なものかどうかを知りたいんだ。
[ラップランド] ずっと知りたいと思ってたんだよ。
ラップランドは這うようにして立ち上がり――
まるでこの瞬間のためにシラクーザに戻ってきたかのような、明るい笑みを浮かべた。
[扉の外のマフィア] ドン、お時間です。
[アルベルト] 今日はここまでにしておこう。
[ラップランド] 続きはなしってこと?
[アルベルト] ――お前は俺に逆らった。
[アルベルト] それでも、お前は確かに俺の娘だ。
[アルベルト] 誰より俺の考えを理解してるのは間違いない。
[アルベルト] 単にしつけってものが足りないだけでな。
[アルベルト] その点は俺の教育ミスだ。
[アルベルト] だが……まだ時間はたっぷり残ってる。
[レオントゥッツォ] ということは……狼主は皆、俺たちの生活に紛れ込んでいるのか?
[ベルナルド] いいや。彼は狼主の中で唯一、人間社会との繋がりを持つ存在だ。
[ベルナルド] ほかの狼主は今も荒野で暮らしている。
[レオントゥッツォ] それはなぜなんだ?
[ベルナルド] 彼は人間の権力も一種の力であるとみなしている。
[ベルナルド] それを用いてほかの狼主に勝つことも、一種の勝利だと考えているんだ。
[レオントゥッツォ] つまり、奴は親父にミズ・シチリアの統治を覆させ、シラクーザの真の権力者に成り代わらせることで、同族間の殺し合いでの勝利を得ようとしているわけか?
[レオントゥッツォ] 親父も、俺も、ファミリーすらも、奴が勝つための道具だと……?
[レオントゥッツォ] そんなこと、受け入れられると思うか!?
[レオントゥッツォ] 一生操り人形として過ごすなんて、親父は受け入れられるのか!?
[ベルナルド] 一つ勘違いをしているようだな、我が子よ。
[ベルナルド] 私がお前にそうしたように、彼は私に権力を掴む方法を教えた。
[ベルナルド] その権力を用いてほかの狼主の「牙」を倒してやるのは、私にとって事の一部でしかない。
[ベルナルド] 今この時になって行動に移したことも含めて、すべての判断は私自身が下したものだ。
[レオントゥッツォ] ……
それが自分自身の意志だとなぜ言い切れる?
[レオントゥッツォ] (いや……親父は本気だ。)
[レオントゥッツォ] (そもそも、単なる操り人形がこんな風格を持てるはずもない。)
[ベルナルド] 我々は互いの勝利のため利用し合っているにすぎない。
[扉の外のマフィア] ドン、サルッツォファミリーから招待状が届きました。
[扉の外のマフィア] アルベルトさんが、宴席に若旦那をお招きしたいとのことです。
[ソラ] はぁ……
[エクシア] 今日はため息が多いね~。
[クロワッサン] 裁判所であんなことがあったんやから、しゃあないやろ。
[エクシア] じゃあさ、脱獄手伝いに行ってあげよっか。
[クロワッサン] アホなこと言わんといてや。
[エクシア] え~? だってそうすればテキサスに会えるじゃん!
[カタリナ] やめておきなさいな。
[ソラ] あれ、カタリナさん。どうしてここに?
[カタリナ] こっちが聞きたいくらいよ。この辺りは危ないんだから。どうしてこんな所でお散歩してるわけ?
[ソラ] この近くにお宿を取ってるんです。
[カタリナ] 嘘でしょ、誰かに騙されたんじゃない?
[クロワッサン] ウチとエクシアはんがおるさかい、大丈夫やって。
[エクシア] ソラ、このお姉さんは?
[ソラ] あっ、そうだった。この人はカタリナさんだよ。何日か前に劇場で知り合ったの。
[カタリナ] こんにちは。……まあ、見た感じ頼もしいお友達がいるみたいだしまだよかったかしらね。
[ソラ] ところで、危ないって言ってましたけど、カタリナさんこそ大丈夫なんですか?
[カタリナ] 平気よ、心配しないで。こういう騒がしい場所のほうが創作には向いてるしね。
[ソラ] 創作……? も、もしかして『テキサスの死』の作者さんって……
[カタリナ] 私よ。
[ソラ] 本当ですか!? 同じ名前だとは思ってたんですけど……だからテキサスファミリーに詳しかったんですね!
[クロワッサン] え、ほんまか! ウチもあれは読ましてもろたけど、ごっつええ脚本やったで!
[クロワッサン] せやから、サインもろてもええかな?
[カタリナ] ええ、もちろん。まだ大して売れてない名前だけどね。
[クロワッサン] 大丈夫、『テキサスの死』は大ヒット間違いなしやってウチは信じとる!
[カタリナ] ありがとう。
[ソラ] それより、さっき言ってた――
[カタリナ] あなたたち腕は立ちそうだし、シラクーザのほかの都市でなら、本当に監獄を突破することもできるかもしれないわね。
[カタリナ] でも、ウォルシーニにはラヴィニアみたいな人がいる。入り込むのはそう簡単じゃないわ。
[カタリナ] それに、今はどのファミリーもあの場所に視線を向けているから、軽率な行動はトラブルの元よ。
[クロワッサン] あははっ、あんなんは冗談で言うてただけやって。
[カタリナ] その目を見てると、冗談だったとは思えないけどね。
[カタリナ] ……一つ聞いてもいいかしら?
[ソラ] なんでしょう?
[カタリナ] あなたたち……チェリーニアのことはよく知ってる?
[ベン] お掛けください。
[洗車工] ……
[ベン] ご存知かとは思いますが、芸術関係の界隈にはある不文律がありました。
[ベン] マフィアに関する創作をしても構わないが、ファミリーの名に直接触れることは許さないというものです。
[洗車工] 聞いたことはあるよ。
[ベン] ですが今、『テキサスの死』が公然と発表されました。
[ベン] これは、実在していたファミリーの名をそのまま用いた初めての作品となるでしょう。
[洗車工] それが何だっていうんだ?
[ベン] これは、どのファミリーも今や公然と自らの身分を誇り、その名を舞台に立たせることを望んですらいることを意味しています。
[ベン] そして――このすべてが、クルビア人の功績なのです。
[ベン] 彼らがシラクーザの芸術界への介入を始めてから、多くのことが変わり始めています。
[ベン] もっと金を稼ごうと、一部の欲深い芸術家――いや、もはや「芸術家だった人たち」と呼ぶほうが適しているかもしれませんが……彼らの作品も、ひどいものになりつつあるのです。
[ベン] 彼らは人生を観察しているのではなく、観客が喜んで金を出すような偽りの人生を作り出している……
[ベン] それはもはや積み重ねではなく流行や文化のコラージュです。昨日人気を博したものが、明日には劇場で演じられるかもしれません。
[ベン] そうなっていけば最後には、本当の名作は埋もれていき、目にすることの叶う「芸術」はすべてこうしたゴミばかりとなるでしょう。
[ベン] 恐ろしいことだと思いませんか?
[洗車工] みんなこういうのが好きなんだったら、あんたの言う名作はなくてもいいんじゃないのか?
[ベン] そうした意見もあるでしょうが、誰しもがそう思っているわけではありません。
[ベン] 名作を埋もれさせたくはないものの、流れにあらがうすべを知らない人もいるのです。
[洗車工] ……これまでのオペラだって、俺には良さがわかんねえんだぞ。
[ベン] ですが、あなたが過去から抜け出せていないことは確かでしょう。
[洗車工] あんた、何者だ?
[ベン] ベントネキシジオス、と申します。綴りは『週刊ウォルシーニ芸術新報』の批評欄をご参照ください。
[洗車工] ベントネ……なんつった?
[ベン] ベンで構いません。
[洗車工] じゃあ、ベン……
[洗車工] 俺は……今のシラクーザに疑問を抱いてるんだ。
[洗車工] お偉いさん方はもっと文明的な方法で問題を解決しろって言うが……
[洗車工] 俺がその文明的な方法で何かしようとしても、実際起こることはこれまでと何も変わらねえ。
[洗車工] だったら文明的になんてやらなくたっていいはずなのに、どうして自分を偽らなきゃいけないんだ?
[ベン] マフィアたちは多かれ少なかれ、そのような変化を遂げるのが時勢だと感じ取ってはいますが、すでに得ていたものを手放そうとはしていないからです。
[ベン] さて、一杯いかがですか?
[洗車工] その酒、かなり高いやつだろ。
[ベン] ええ。
[洗車工] それに引き換え、ここは安っぽい店じゃねえか。
[ベン] そうですね。
[洗車工] どうしてそんな酒をここのピッツァに合わせようとするんだ?
[ベン] 私にとっては、このお酒もピッツァも、等しく価値あるものだからです。
[ベン] このお酒の製造工程は確かに素晴らしいものですが、ピッツァの元となった小麦もまた丁寧に育てられたものです。
[ベン] この二つの間には、本当に大きな差異などあるのでしょうか? そこに文明という名の虚飾が含まれてはいないでしょうか?
[ベン] あなたはどう思いますか?
[洗車工] ……文明という名の、虚飾……?
[ベン] このお酒に貼られたラベルのように、文明と名付けた旗を掲げれば何食わぬ顔で人を騙して略奪することができるのですよ。
[カタリナ] チェリーニアは龍門まで逃げ延びてそこで暮らしていて、あなたたちは彼女の友達……ね。
[ソラ] あはは……信じられませんよね。
[カタリナ] ……いいえ、信じるわ。
[ソラ] 本当ですか?
[カタリナ] あなたたちが私に嘘をつく必要なんてないでしょうし、私も彼女なら生きてるんじゃないかと思ってたから。
[カタリナ] 今の話を聞いて、むしろ納得がいったわ。彼女が突然この都市に現れた理由にね。
[カタリナ] 多分、当時の粛清の中で彼女はベッローネと取引したんでしょう。そして今、その借りを返すために戻ってきたんだと思うわ。
[ソラ] ……確かに、テキサスさんらしい話ですね。
[カタリナ] でも、あなたたちは偶然にもデッラルバ劇団に辿り着いたわけで……ううん、偶然でもないのかもしれないけど……
[ソラ] えっ? デッラルバ劇団がどうかしましたか?
[カタリナ] ……いいえ、何でもないわ。
[カタリナ] ショービジネスを通じてベッローネに近づきたいのなら、あの劇団を選んだのはいい判断ね。
[カタリナ] だけど……そうだ、三人ともついてきてくれる?
[エクシア] ここは……
[カタリナ] 私の家よ。
[クロワッサン] んわ~、本と紙ばっかりやな。
[カタリナ] あはは、ごめんなさいね。人を呼ぶと思ってなかったから、掃除をしてないの。
[カタリナ] それで……これを渡しておくわね、ソラ。
[ソラ] カギ……? ここのですか?
[カタリナ] ええ。外は危ないし、練習場所がほしくなった時はうちに来てもらえたらと思って。
[カタリナ] 参考になりそうな台本もたくさんあるし、ここなら静かでしょ?
[ソラ] そんな、悪いですよ……
[カタリナ] 気にしないで。私たち、もう友達でしょ?
[ソラ] ……そうですね。ありがとうございます!
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