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シラクザーノ_IS-10_「狼の主」_戦闘後
若者たちを前にして、ミズ・シチリアは微笑んだ。
[レオントゥッツォ] ザーロ……! 狼主たちには約束事があるだろう! 人間のことには干渉しないはずじゃないのか!
[ザーロ] 気が変わった! ベルナルドに計画を台無しにされたのでな!
[ザーロ] これまで六十八年もかけて丹念に育ててやったというのに――
[ザーロ] 奴は自ら命を絶って私の勝利を葬ったのだ!
[レオントゥッツォ] 今……なんて……
[レオントゥッツォ] 親父が……自殺した……?
レオントゥッツォの脳内に、父が狼の主とそのゲームについて話した時のことがよぎった。
そして唐突に、教会でかけてもらった言葉が、自分を認めてくれるものであると同時に――
遺言でもあったということを理解した。
父は初めから死ぬつもりだったのだ。
[ザーロ] 狼主を愚弄した代償は高くつくぞ。
[ザーロ] 奴が死んでも、その血筋までをこの大地から消し去ってやる。
[ザーロ] ベルナルドの子よ……お前には父に代わってその代価を払ってもらおう。
[ザーロ] 命を以て贖うがいい!
[レオントゥッツォ] ……
[レオントゥッツォ] 贖う……?
[レオントゥッツォ] 代償、だと……?
[レオントゥッツォ] 親父は確かに間違っていたが、その理想の根底にはこの時代を変えたいという思いがあった。
[レオントゥッツォ] ファミリーの存在しないシラクーザを切望し、そのために生涯をかけて計画を立てていたんだ。
[レオントゥッツォ] 始め、親父は自分のファミリーを駆け引きの道具にしただけだとばかり思っていた。
[レオントゥッツォ] この時に騒ぎを起こしたのも、偶然タイミングが良かったからだろうと……
[レオントゥッツォ] だが今、俺は理解した。
[レオントゥッツォ] 親父はもう時間がないと思っていたんだ。この機を逃せば、理想を実現することは二度とできなくなり、お前への復讐も果たせずじまいになると考えていたんだろう。
[ザーロ] 奴の短い生涯の間に、私はすべてを教えてやった。だというのに奴は裏切りでその恩に報いたのだ!
[レオントゥッツォ] ……お前には決してわからんだろうな。
[レオントゥッツォ] 高みに座して、自らがすべてを支配していると思い込む狼主よ。
[レオントゥッツォ] ――親父は自らの命さえも、駆け引きの道具にしていた。
[レオントゥッツォ] 命を賭して、お前のような傲慢な存在に抗ってでも、己の理想を現実のものにしようとしたんだ!
[レオントゥッツォ] 代償を払うべきなのはお前のほうだ!
[ザーロ] 無知蒙昧の若造が!
[エクシア] テキサス! おっかえり~!
[エクシア] そっちは全部片付いた?
[テキサス] ああ。
[テキサス] 次はこちらの面倒ごとを片付けるとしよう。
[ザーロ] 最後のテキサスか。
[ザーロ] あの時お前がシラクーザの支配から逃れることを許したのは誰か、忘れたわけではあるまいな。
[ザーロ] 今さら私に逆らうつもりか?
[テキサス] ベルナルドとの約束を果たした以上、お前にはもう借りはない。
[ザーロ] 愚かな!
[ラヴィニア] ……ベルナルドが、自殺を……?
[ラヴィニア] どうして?
[ベルナルド] ゲームは終わったんだ、ラヴィニア。
[ラヴィニア] つまり……これが、あの言葉の真意だったってこと?
[ラヴィニア] ファミリーの存在しないシラクーザこそ、あなたの本当の理想なのね……
[ラヴィニア] どうして、それを言ってくれなかったの……
[ラップランド] 戦ってる時にぼーっとしちゃダメでしょ、裁判官さん。
[ラヴィニア] ラップランド――
[ラップランド] もう、こんなに面白そうな戦いに呼んでくれないなんて水臭いじゃない、テキサス。
[テキサス] どの道呼ばずとも来るだろう?
[ラップランド] まあいいさ、その通りだしね。
[ザーロ] 幼きはぐれ狼よ、退くがいい。ここにお前の居場所はない。
[ラップランド] 一つ良いことを教えてあげようか、狼の主……いや狼の子かな? なんでもいいけどね。
[ラップランド] この時を以て、シラクーザのすべてはボクの敵になったんだ。
[ラップランド] 人間を超越したキミみたいな存在も含めて、ね。
[ザーロ] 身の程知らずめ!
[ディミトリ] ドン……あなたも、俺の目の前に立ったら……レオンのようにはっきりと、理想を選ぶと告げたんでしょうか。
[ディミトリ] その答えすら……もう、わからないんですね。
[ルナカブ] 死にたくなければ集中するのだ。
[ディミトリ] あんたは――
[ザーロ] アンニェーゼの惰弱なる牙か。
[ザーロ] 我が牙の死を知ったとて、我が前に立つこと叶うと思うのか?
[ルナカブ] ルナカブは、ベルナルドと約束をした。奴の子供を助けると。
[ザーロ] 軟弱な。アンニェーゼの牙がこの程度とはな。
[ザーロ] あの女にも、今日でこのゲームを降りてもらうとしよう。
[ザーロ] ――どう足掻こうと私を滅ぼすことはできぬ。
[ザーロ] お前たちには、私を傷つけることすらできぬのだ。
[ザーロ] 人間よ……お前たちは自ら建てた都市に閉じこもり、この大地の主は自分たちだと思い込んでいるのだろうが……
[ザーロ] 道具の使い方を少し学んだくらいでつけあがるな。
[ザーロ] お前たちが荒野を征服したことなどないのだから。
[エンペラー] ――レディース&ジェントルメン。
[エンペラー] ここに登場いたしますのは龍門から来たスーパースター、そう――このエンペラー様だ。
[テキサス] ボス!?
[エンペラー] よう、テキサス。お前の休暇だが、ぼちぼち終わりだぜ。
[テキサス] ……どうしてここに?
[エンペラー] おいおい、それを聞くか?
[エンペラー] お前が行ったあと、ソラたちまで追っかけて行っちまってよ。
[エンペラー] この一か月、俺がどんなふうに過ごしたかわかるか?
[エンペラー] ありゃあ、ここ三千年で一番つまんねえ毎日だったぜ!
[エンペラー] 俺とパーティーしてくれる奴が誰一人いねえんだからよ!
[テキサス] ……
[ザーロ] エンペラー……
[エンペラー] そう焦んなっての、ザーロ。
[エンペラー] 大方、このシラクーザではお前に干渉する権利はないとかなんとかまた言うつもりなんだろ?
[エンペラー] 正直、そんなんどうだっていいんだが……
[エンペラー] よく考えてみりゃ、お前と意味のねえ喧嘩をするよりいい方法があると思ってな。
[エンペラー] お前らのルールに則ってお前を叩きのめしたほうが良い憂さ晴らしになるだろ?
[エンペラー] だからな――
一つ、また一つとエンペラーの足元から影が広がり、凝縮して、実体を持ち始める。
無論ザーロは彼らを知っていた。それは皆、すでに今回のゲームに敗北した狼主たちだ。
彼らがここに現れる理由はただ一つ。
ザーロがルールを破ったからだ。
彼らはザーロのやり方自体は受け入れても、それだけは決して許さない。
[エンペラー] 暇してたほかの狼主たちをわざわざ集めてやっといたぜ。
[エンペラー] ここで素敵なお知らせなんだが――
[エンペラー] 親愛なる友よ、お前の負けだ。
[エンペラー] それも、完膚なきまでのボロ負けだぜ。
狼の主は不滅の存在だ。しかし、長い歳月を経る中で彼らは互いを牽制し、抑圧し、さらには苦しめる方法までもをとうに見つけ出していた。
自らと同じ存在を多く前にして、ザーロは悟った。自分の行いはもはや意味をなさないということを。
彼はしばらく黙り込み、ついにその高慢な頭を俯けた。
[エンペラー] 正直言うとよ……
[エンペラー] お前が権力を理解してると思い込んでそれをもてあそんでるのを見ると、こっちは全身むずがゆくなってくるんだよ。
[エンペラー] それよりも今みたく逆上して、自分に逆らうすべてを引き裂いてやろうとしてるほうが――
[エンペラー] お前の本質通りに見えるぜ。
[エンペラー] っつーか、お前らほかの狼どもにしても、何千年もこんなくだらねえゲームやってて飽きねえのか?
[エンペラー] 龍門に来りゃポーカーくらいは教えてやるぜ。
[エンペラー] ちなみに俺は麻雀も得意なんだがな。
ザーロがエンペラーの皮肉に構うことはなかった。
彼は最後にレオントゥッツォをじっと見つめ――次第にその姿はぼやけて、風に消えていった。
まるで初めから存在していなかったかのように。
[テキサス] ありがとう、ボス。
[エンペラー] 礼なんざいらねえよ。
[エンペラー] 実際、俺が動かなくても誰かが動いてたわけだしな。
[エンペラー] 彼女は俺にショーの主役を譲ってくれただけなんだ。そうだろ、美人さん。
[ミズ・シチリア] 美人だなんて言ってもらうのは久しぶりね。
[ミズ・シチリア] よければ、シラクーザでしばらく遊んで行ってもらっても結構よ、紳士さん。
[エンペラー] エンペラーと呼んでくれ。
[ミズ・シチリア] 興味深い名前ね。だけど狼主たちと違って、傲慢でも無知でもないし……シラクーザはあなたを歓迎するわ、エンペラー。
[エンペラー] ああ。きっとこの国は俺の来訪に大喜びするこったろうな。
[レオントゥッツォ] ミズ・シチリア……!
[ミズ・シチリア] ごきげんよう、ベルナルドの息子――レオントゥッツォ。
[ミズ・シチリア] 狼主たちのゲームときたら、つくづく時代遅れのお笑い種ね。
[ミズ・シチリア] だけど安心していいわ。彼はもうあなたに迷惑をかけたりなんてしないから。
[レオントゥッツォ] ……!
レオントゥッツォは動けない。
老婦人が現れた瞬間、彼は――終わりを悟った。
狼主がもたらした茶番劇だけでなく、彼らの抵抗も含めたすべてがここで終わったのだ。
彼女は穏やかで優しげに見えるが、彼の中には予感があった――下手に動けば次の瞬間、最も悲惨な方法で死ぬことになるという予感が。
しかし、それと同じように、ここで怯めば、これまでの努力と信念が何もかも水の泡になってしまうことも理解できていた。
ラヴィニアのほうを見やれば、彼女の目にも同じ考えがあるのが読み取れた。
[レオントゥッツォ] ……申し訳ない。あなたとの対面はいくつも想定してきたが、このような形でお会いするとは思ってもみなかった。
[レオントゥッツォ] あなたはすでに何が起きたかをご存知なのかもしれないし、すでに決断を下しているのかもしれないが……
[レオントゥッツォ] それでも、俺とラヴィニアにチャンスを与えてくださると嬉しい。
[ミズ・シチリア] チャンスというのは、どういうものを?
[ラヴィニア] 対話するチャンスを、です。
[レオントゥッツォ] 俺たちが最終的に死ぬことになるのだとしても、その前に考えを聞いてもらいたいんだ。
[ミズ・シチリア] ……
[ミズ・シチリア] ふふっ。
[ミズ・シチリア] アグニルはいつも、もっと若者の考えに触れてほしいと言ってくるけれど……
[ミズ・シチリア] 彼は自分を老人扱いしすぎてると思うのよね。
[ミズ・シチリア] ついてきなさい、若人たち。あなたたちはもうその機会を勝ち得ているわ。
[ラヴィニア] ……すみません、その前に少しだけ待っていただけますか?
[ミズ・シチリア] どうしたの?
[ラヴィニア] ベルナルドに一目会いたいんです。
[ミズ・シチリア] 構わないわ。
[ソラ] エクシア! テキサスさん!
[クロワッサン] 二人とも、なんともないか!?
[エクシア] へーきへーき!
[テキサス] ……ああ。
[テキサス] お前たち、なぜここに?
[ソラ] やっぱり二人のことが心配で……ジョヴァンナさんの容体も安定してきたので、クロワッサンと一緒に駆けつけてきたんです。
[クロワッサン] せやねんな。けど、こっちはもう一件落着ってとこ?
[テキサス] そんなところだ。
[エクシア] ふぅ……なんか物足りなくはあるけど、これでやっとパーティーができそうじゃない?
[テキサス] そうだな。
[テキサス] どんなパーティーにするかはお前たちで決めておいてくれ。
[ソラ] テキサスさん、どこへ行くんですか?
[テキサス] 手洗いに行ってくる。
[ラップランド] こっちのほうにトイレはないよ。
[テキサス] わかっている。
[ラップランド] 一仕事終えて、やっと一息つけそうってところかな?
[テキサス] 目の前にまだ大きな面倒ごとが待っているように思うがな。
[ラップランド] アハハッ。それじゃ、ちょっと歩こうか?
[テキサス] そうしよう。
[ラップランド] そうだ、テキサス。
[ラップランド] 実は、キミがシラクーザに戻る前、ミズ・シチリアから手紙が来てたんだよね。
[テキサス] そうか。
[ラップランド] なんて書いてあったと思う?
[テキサス] 興味ない。
[ラップランド] ほんとつまんない反応だなあ。正解は、あの人直々に「巨狼の口」にお誘いしてくる内容だよ。
[テキサス] 巨狼の口……
[ラップランド] まあ、ボクを子飼いの狼にしたいだけだろうね。
[ラップランド] だからその手紙は燃やしちゃったんだ。
[ラップランド] それで最初は、しばらくシラクーザからのお客さんに手間をかけさせられそうだって思ってたんだけど……
[ラップランド] キミが突然シラクーザに帰っちゃうとはね。
[ラップランド] もう出て行ったって知った時、ボクがどんなに驚いたと思う?
[テキサス] はぁ……
[ラップランド] それで、結論は出たの?
[テキサス] ああ。
[テキサス] 私はここに残って、ラヴィニアとレオントゥッツォを手助けする。
[テキサス] お前は?
[ラップランド] ボクも考えがまとまったところでね。
[テキサス] 自分のファミリーで大きな騒ぎを起こしたと聞いたが。
[ラップランド] ただお父様にお別れを言ってきただけだよ。
[ラップランド] ……テキサス……ボクがキミに何を求めてるのか、本当はわかってないんじゃない?
[テキサス] ……時折、わかっていると思う時もあった。
[テキサス] だが、わからないと思う時も同様にある。
[テキサス] 何にせよ、前よりも吹っ切れたように見えるな。
[ラップランド] あれ? ボクのこと気にしてくれる時もあるんだね。
[テキサス] さてな。私にとってお前は単に少し面倒な奴くらいのものなんだ。
肩を並べて歩いていた二人は、言葉なく通じ合ったかのように、それぞれ広場の両端へと歩いていく。
[ラップランド] ここまで色々あったけど、結局ボクらはこうでないとね。
[テキサス] まあな。
[ラップランド] ねえ、覚えてる?
[ラップランド] 七年前、炎に包まれた屋敷の前で、このすべてから逃れるために、キミはボクのほうへと向かってきた。
[ラップランド] そしてあの日、ボクは完全に敗北したんだ。
[ラップランド] あれから七年……今度は霧雨の降る公園で、シラクーザという国に無謀にも立ち向かうために、キミは再びボクのほうへと向かってくる。
[ラップランド] 今日ここで、ボクはキミを殺すよ。
[テキサス] その言葉、そっくりそのまま返すとしよう。
それぞれの手にした武器がぶつかり合う音が響く。
二人の動きに派手さはなく、そのどれもが相手の命を奪うためのものだった。
[ラップランド] 詩的な比喩を用いるなら、キミはボクの過去なんだ。
[ラップランド] ボクは、この泥沼からは誰も逃れられないと信じているからね。
[ラップランド] かつて過去から逃げたキミは、シラクーザに戻り、その過去との因果をすべて断ち切ろうと決意した。
[ラップランド] この泥沼から抜け出す能力と資格があることを皆に証明したんだ。
[ラップランド] その上キミは、あの若い狼がこの場所を変えるのを助けるために、自発的にここへ留まることまで選んだ。
[テキサス] 私はお前が言うような立派な人間ではない。
[テキサス] 初めから、仲の良い友人たちと共にごく普通の暮らしを送るという夢を追っているにすぎないんだ。
[テキサス] 誰かがそれを壊そうとするなら、私が守る。
[テキサス] 簡単なことだ。
[ジョヴァンナ] 私は……これまでずっと、あなたのことを本当の意味で理解できてはいなかったのね、チェリーニア。
[ジョヴァンナ] シラクーザに嫌気が差していたことも、クルビアに嫌悪感を抱いていたことも、少しも気付いていなかった。
[ジョヴァンナ] 今にして思えばこれは、おばあちゃんと同じだわ。
[ジョヴァンナ] 実際、おばあちゃんはサルヴァトーレおじいちゃんが振り向いてくれるのをずっと待っていたけれど……
[ジョヴァンナ] そうしてもらえるようにアプローチすることはしなかった。
[ジョヴァンナ] 私もそれと同じだわ。かつてのような楽しい時間がいつまでも続くものだとばかり、当然のように思い込んでいたんだもの。
[ジョヴァンナ] こうしてみると、なんて傲慢だったのかしら。
[ジョヴァンナ] ……あなたはきっと私がそばに留まることを何とも思わないでしょうし、私自身またソラとお喋りがしたいけど……
[ジョヴァンナ] 今の私には、そんな資格なんてないわ。
[ジョヴァンナ] だからせめて『テキサスの死』の第三幕――チェリーニア・テキサスの結末に、ピリオドを打つことだけはさせてちょうだい。
[ジョヴァンナ] だって、あなたはこんなにも自由なんだもの。
[ジョヴァンナ] あなたを定義できる人なんて誰もいないわ。
[ラップランド] だから、別の言い方を選ぼう。
[ラップランド] キミはボクの悪夢なんだ。
[ラップランド] いつもボクの予想を超えてくるし――
[ラップランド] いつだってボクの一歩先にいる。
[ラップランド] キミはボクにできなかった決断をすべて下していった。
[ラップランド] そして今、キミのようにその一歩を踏み出して初めて、ボクはついにこの言葉を口にすることができるんだ。
[ラップランド] キミの言う通り――
[ラップランド] 簡単なことだった。
[ラップランド] ボクはシラクーザのすべてを憎んでいるんだから、何もかもぶっ壊してやるべきなんだ。
[ラップランド] 結局、最後にこの一歩を踏み出させたのはやっぱりキミだった。
[テキサス] だから父親に別れを告げ、私の前に現れたのか。
[テキサス] お前は過去との因縁にケリをつけようとしているんだな。
[ラップランド] そうさ、キミと同じでね。
[テキサス] ……
[テキサス] 私たちは殺し合う必要などなかった。
[ラップランド] だけどそうなってしまったんだ。
[ラップランド] ボクたちはもう理解している。この殺し合いは、相手を殺すことで自分自身との決着をつけるためのものだってことを。
[ラップランド] これはお互いへの贈り物で、最高のお別れなのさ。
[ラップランド] そうして、生き延びたほうはより強くなるんだ。
ラップランドがテキサスより強くなったわけでもなければ、決してテキサスが弱くなったわけでもない。
七年前の対決でラップランドがテキサスに惨敗した原因は、その力量にはなかった。
二人の実力は、初めから互角だったのだ。
勝負の行方を決めるのは、運を除けば――意志だけだ。
七年前、ラップランドはその意思によって負けた。
だが、ファミリーと決別した今、彼女はその点でもテキサスに劣ることはない。
ゆえに、どちらが勝ってもおかしくない状況にあった。
[テキサス] ッ……
[ラップランド] これで終わりだ。
[ソラ] テキサスさん!
[テキサス] ……来るな。
テキサスはソラを一瞥し、ゆっくりと目を閉じた。
――ラップランドは、テキサスのことをすでに十分理解したと思っていた。
彼女について知らないことなど、ほかに何があるだろうかというほどに。
そのシラクーザへの嫌悪を目の当たりにし、この国と戦おうと決心した瞬間までもを目撃してきたが……
彼女の選択はいつも、ラップランドの予想を超えるものだった。
けれども、今回ばかりはほかの結末など――
生きるか死ぬか以外の結末など、ありえないと思っていた。
しかしこの瞬間、テキサスの目に名残惜しさを見た時、彼女はまたも気付いたのだ。自分が間違っていたことに。
最後の最後に、ラップランドが自らのために作り上げた結末の渦中にありながら――テキサスはまたしても想像を超えてきた。
[ラップランド] ……アハッ、なるほどね。
ラップランドはこの殺し合いを、ある種の決別と解放として見なしていた。
負ければ自らの死を受け入れ――
勝てば、これきりあらゆる心配と制約から解き放たれる。
「テキサス」というくさびが心の中から引き抜かれた瞬間、「ラップランド」という狂人が完成するはずだったのだ。
けれども、そうはならなかった。
なぜなら――
[ラップランド] 結局、キミはただのテキサスだったんだ。
[テキサス] 無論、私はただのテキサスだ。
[テキサス] それで、お前は?
[ラップランド] どうやら、ボクもただのラップランドだったみたい。
ラップランドがテキサスに手を差し伸べた。
テキサスはその手を取る。
[ラップランド] ボクはキミの友達なのかな。それとも、敵なのかな。
[テキサス] お前は私の友でもあり、敵でもある。
[ラップランド] じゃあ、行こうか。
[ラップランド] ボクに友達らしいことをさせてよ。
テキサスはほかの三人に向かって頷いて見せ、ラップランドと共にグレイホールへと向かった。
本来そうあるべきだったとでも言うように、すべてはとても自然なことだった。
教会に足を踏み入れ、長椅子に静かに座る亡骸を目にして初めて――
ラヴィニアは、ベルナルドの死を現実のものとして受け入れた。
[ラヴィニア] ……
自分の人生に影響を与え続けてきた厳格なる父のようでもあり、世話になった叔父のようでもあるその人のそばに座って、彼女はしばらくの間沈黙した。
何一つ言葉を口にすることなく過ごして――
最後に、彼女はベルナルドの力なく垂れ下がった手を握り締めた。彼に何かを伝えるように、そして何かを受け取るように。
そうして、踵を返して去っていった。
彼は逝き、彼女は前へ進むよりほかにないのだ。
[ミズ・シチリア] あなたがしたことについては、友人から聞いているわ。
[ミズ・シチリア] そこで、あなたに聞きたいことがあるの。
[ミズ・シチリア] 今日この大地にある多くの国は時代に順応し、変革を求めている。
[ミズ・シチリア] でも、それを求める理由というのは、足りないところに気付いたからか、あるいは突破口を探しているからよ。
[ミズ・シチリア] であれば、シラクーザに変化は必要なのかしら?
[レオントゥッツォ] あなたは……ファミリーの存在を当然のこととお思いなのか?
[ミズ・シチリア] あって当然のものなんて存在しないけれど、ファミリーの存在は私が生まれる何千年も前からこの地に根差していたのよ。
[ミズ・シチリア] 私たちに歴史を否定することはできないし、すでにそこにあるものを軽率に打ち壊すことだってできないでしょう。
[レオントゥッツォ] それが、グレイホール設立時、あなたがマフィアの体系を維持することを選んだ理由なのだろう。すべてのファミリーがあなたの支配下に置かれる必要はあるが……
[レオントゥッツォ] そのことを否定するつもりはない。
[レオントゥッツォ] むしろ、当時の選択としては正しかったと思っている。
[ミズ・シチリア] 今は正しくない、と?
[レオントゥッツォ] ああ。
[レオントゥッツォ] クルビアにいたファミリーの帰還は、先進的な技術と思想をも持ち込んだ。
[レオントゥッツォ] そうして少しずつ、ファミリーによる統治の形は揺り動かされてはいるが、多くの人間はまだそれを認識していない段階だ。
[レオントゥッツォ] 親父のやり方が極端なものだったことは、俺も認めざるを得ない。
[レオントゥッツォ] その考えの原点は俺とは違うし、だからこそ、アプローチにも大きな違いが生まれている。
[レオントゥッツォ] だが、共通する部分もあるんだ。
[レオントゥッツォ] 俺たちはどちらも――
[レオントゥッツォ] シラクーザにファミリーはもはや必要ないと思っている。
[ミズ・シチリア] だったら、どうするつもりかしら?
[レオントゥッツォ] ……一番簡単なのは、ここであなたと命を懸けて戦うことだろう。
[レオントゥッツォ] だが、それは親父がやるような選択だ。
[レオントゥッツォ] 俺は……
[レオントゥッツォ] あなたから、都市を一つ借りたいと思う。
[ミズ・シチリア] とても魅力的な提案ね。
[ミズ・シチリア] 確かに、新しい都市には新しい血を注ぐべきだわ。
[ミズ・シチリア] だけど、今のあなたはたった一人でしょう。
[ミズ・シチリア] それが実現できるということを、どう信じればいいのかしら?
彼女がそう言い終えた瞬間、グレイホールの扉が開かれた。
[ミズ・シチリア] あら?
[ミズ・シチリア] 最後のテキサス……チェリーニア。
[ミズ・シチリア] おいでなさい、よく顔を見せてちょうだい。
[ミズ・シチリア] ……お祖父さんにそっくりね。
[テキサス] ……どうも。
[ミズ・シチリア] どうやら、ジョヴァンナは私があげたネックレスをあなたに渡していたようね。
[ミズ・シチリア] あなたの望みは何かしら?
[ミズ・シチリア] 龍門に帰りたいというのなら、シラクーザは二度とあなたの生活を邪魔立てしないと約束するわ。
[テキサス] ……
[テキサス] ロッサティファミリーを見逃してほしい。
[ミズ・シチリア] まあ、意外な答えだこと。
[ミズ・シチリア] ウォラックはジョヴァンナを殺そうとしたし、幾度となくあなたの命を狙っていた。
[ミズ・シチリア] それでも彼を見逃すというの?
[テキサス] 彼らも、自分のやり方で生き延びようとしただけだ。
[ミズ・シチリア] そう。元々彼らに手を下す気はなかったし、ネックレスはそのままあなたが持っていても構わないわ。
[ミズ・シチリア] あるいは、シラクーザを永久に去る権利に換えてもいいけれどね。
[テキサス] ……
彼女はレオントゥッツォに歩み寄り、ゆっくりと腰を下ろした。
[テキサス] 今のところ、その必要はない。もうしばらく休暇を延長するつもりでな。
[ミズ・シチリア] あなたはどうなの? ラップランド。
[ミズ・シチリア] サルッツォを裏切った一匹狼さん。
ラップランドは笑って、テキサスに歩み寄る。
[ラップランド] アハハッ、ボクの考えはそこまで複雑じゃないよ。
[ラップランド] この子たちと同じで、今のシラクーザを壊したいんだ。
[ラップランド] 一つだけ違うのは、ボクのやり方はそこまで文明的じゃないってことだけどね。
[ミズ・シチリア] では、ラヴィニア裁判官。私の意志の代理人たるあなたの考えは?
ラヴィニアはレオントゥッツォの後ろへ歩んで、そこに立つ。
[ラヴィニア] あなたの意志はシラクーザのすべてでした。
[ラヴィニア] ですがこれからは、私がそれを変えていきます。
[ミズ・シチリア] 私は間違っていると言いたいの?
[ラヴィニア] 人間が常に正しくあり続けるとは限らない、と思うだけです。
ミズ・シチリアは四人の若者を見やった。
一人は、シラクーザで最も強大なファミリーに生まれながら、周囲の影響で文明に憧れを抱き、しかし立場に縛られ何もできずに、自らを欺くことを選んだ。
一人は、平凡な生まれでありながら、偶然にもファミリーの後ろ盾を得て生き延び、しかしそのために自身を疑い、自らを騙し続けることを選んだ。
一人は、シラクーザで最も古いファミリーに生まれながら、自らの身に押しつけられたこの地にまつわるすべてを憎み、狂人の如く抵抗を選んだ。
一人は、クルビアで最も栄えたファミリーに生まれながら、そのあり方に嫌気が差し、声も上げずに逃げることを選んだ。
四人がシラクーザを変えたいと望む理由はそれぞれだが、それでも導き出した結論は同じだった。
[ミズ・シチリア] 私の命は永遠ではないけれど、あと数十年は残っているわ。
[ミズ・シチリア] このまぶたが閉じられる瞬間まで、シラクーザは私がもたらす安寧を享受することでしょう。
[ミズ・シチリア] けれど、あなたのほうはどうかしら。
[ミズ・シチリア] 父親の積み上げたものの上に立ち、より効率的で公正なシステムを追求しようとしているあなたは……
[ミズ・シチリア] 自分の選んだ道が正しいものだと思う?
[ミズ・シチリア] 仮に私があなたにシラクーザを明け渡したとして、この国は必ずより良い道を進み、より良い国家になると保証することができる?
[レオントゥッツォ] ……保証はできない。
[レオントゥッツォ] だが、あなたが今日俺の考えを聞いてくれたように……
[レオントゥッツォ] 俺のやり方を覆そうと考える若者たちが現れた時には。
[レオントゥッツォ] 俺も、そいつらの考えを聞くことにするだろう。
ミズ・シチリアは笑った。
[エクシア] ほーらね、あたしの言った通りでしょ。やり合ってる音なんかしないし、みんな大丈夫だって。
[ソラ] そんなふうにのんきでいられるのはエクシアだけだよ。あの人はこの国のリーダーなんだから……
[テキサス] すまない、心配をかけたな。
[ソラ] 大丈夫ですよ。
[ソラ] あれ? ラップランドは……?
[テキサス] あいつなら……
テキサスは視線をどこかへと向けた。
[テキサス] 友人としての使命を果たし終えたからな。次会う時には、敵か味方かもわからない。
[テキサス] ただ一つ、確信を持って言えるのは――
[テキサス] あいつはまた、私たちの前に現れるということだけだ。
[クロワッサン] ん~、考えただけでもめんどくさいなあ。
[ソラ] 今はほっとこう。それよりも、ジョヴァンナさんの様子を見に行かないと。
[テキサス] そうだな。
[ソラ] ジョヴァンナさん、今戻りました!
部屋には誰もいなかった。
ソラの喜びが困惑に変わっていく。
しかし彼女はすぐ、テーブルの上にきれいに積まれた紙の束に気が付いた。
それは一冊の台本だった。
ソラが1ページ目をめくってみると、そこにはこう書かれていた。
我が親愛なる旧友、チェリーニアに――
そして新たな友人、ペンギン急便の皆に捧ぐ。
[ソラ] これって……『テキサスの死』の第三幕? ずっと結末が思い浮かばなかったっていう……
[ソラ] この台本だけ残して行ってしまうなんて……
[ソラ] あなたが立ち去る必要なんて、ないじゃないですか……
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