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翠玉の夢_DV-3_パワードスーツ_戦闘前
路地裏にいるドクターたちは、パワードスーツを操る仕組みの秘密が銀色の液体にあるようだと検討をつけた。都市の外では、皆がひとまず安全地帯に入ったものの、開拓隊はドロシーを信用しようとはしていないようだ。
アーツの本質とは何か?
その原理を解明するため、リターニアにおける高塔の術師と、クルビア科学アカデミーの教授たちは、まったく異なる二つの理論を発展させていった。
ただし、理論というものは、それぞれの「信者」を納得させるための理屈を並べたパッケージであり――両者の用いる用語がどれほど異なろうと、そこで説明されている内容は同じだ。
つまり――アーツとは、ある媒介を通じて人間の意識が外界の物質に影響を与える現象である。これまで我々は、この極めて重要な媒介物をアーツユニットだと考えていた。
アーツユニットは術者の神経活動を受信して暗号化し、様々な形のエネルギーを放出することで、外部にあるほかの物理的システムに干渉している。その作用の対象は、特定の物体から物質を構成する素粒子にまで及び、最終的にそれは術者の願った通りに変化する。
現代におけるアーツユニットの飛躍的な進化は、アーツ理論と応用工学の発展、双方の生んだ結果であり、そのコアとなるコンポーネントは、複雑なエネルギー変換回路を集積したものである。このことからも、すべての源石製品がアーツユニットとなるわけではないことは明らかだ。
加えて、感染者がアーツユニットを頼らずにアーツを行使できるという事実を無視することはできない。彼らの感染した身体は、アーツユニットと同様の効果を発揮することができるのだ。
とある恐ろしい噂によると、リターニアにおける高塔の術師は、一名あるいは複数名の感染者をアーツの媒介として用いるという。もしこの話が真実ならば、その効果は大型のエネルギー変換回路に匹敵すると言えるのではないだろうか。
もちろん、ここはクルビアであり、そうした非道徳的な行為を容認することはできない。
しかし安全で人工的に移植可能な埋め込み型アーツユニットがあるとしたら、どうだろうか?
交通事故に遭った人が義肢を利用して再び駆け回るように、生来全盲だった人が他人の角膜を移植して光を得るように、仮にアーツの運用能力に欠陥がある人でも、すべてを変えるエネルギーを持つことができるようになるのだ。
皆さん、そう驚かなくてもいい。これは単なる推測上の話だ。
私はただ、母校からの招待を受けて、この大学に足を踏み入れたばかりの若い人たちに、我々のラボで取り組んでいる最近の研究について発表させてもらっているにすぎない。
私は学生時代から、アーツというものがこのクルビアと、急速な発展を遂げる社会に生きるすべての人々にとって、より有用なものとなることを願ってきた。
リターニアでは各人のアーツ適性に基づいて、社会的資源を分配しているそうだが――
このクルビアには、皆が生まれながらにして平等であれるような国であってほしいと私は思っている。
――ローキャン水槽ラボ創設者、ローキャン・ウィリアムズ(クルビアトリマウンツ工科大学入学式におけるスピーチより抜粋)
[Mechanist] 成分解析に失敗した。
[Mechanist] この銀色の液体は、既知の化合物のいずれにも一致しないようだ。
[サリア] ……では、見ていろ。
白い結晶が彼女の指先に凝縮し、それはすぐさま手のひら全体を覆い尽くすと、そのまま前腕の半分辺りまで広がっていく。
あなたからすれば、それは先ほど目にしたばかりの光景であり、過去にも戦場や作戦記録で数え切れないほど見てきたものだった。
[ドクター選択肢1] 硬質化……
[ドクター選択肢2] ――敵か!?
サリアはそれに答えず――
ふと手を上げた。と、その硬い拳が一瞬で目前へと迫ってくる。
岩が金属にぶつかる鋭い音が響き――その一撃を防いだのが、Mechanistのロボットアームであることが伝わってきた。
しかし、そこへ息つく間もなく白い光が喉元に突きつけられる。
サリアの片手はロボットアームに阻まれており、もう片方の手は動いてもいなかった。
だが、カルシウム質の刃は確かに首筋へと当てられている。
あなたは、無意識に息を止めていた。
[Mechanist] ……サリア。今の行動について説明してもらおうか。
[サリア] こうすれば、直感的な理解がしやすいと思ってな。
[サリア] 私のアーツは、周囲のカルシウム元素を含有する物質を粒子レベルで再構築することができる。――これを、お前たちは単に硬質化と呼んでいるわけだが……
[サリア] そうして形成されたエナメル質は、このように私の意識で直接操ることができ、その制御に身体的な動作は必要ない。
[サリア] これを制御する際には、リモコンも、オートメーションプログラムの設定もいらない。
[サリア] 言うなれば、私の手足の延長のようなものだからだ。
[Mechanist] つまり、あのスーツは――
[サリア] あれはあくまで、ただのパワードスーツだ。
[サリア] 鍵となっているのはチューブの中を流れる銀色の液体――
[サリア] これがパワードスーツの神経伝達物質であり、操縦者の神経活動を機械に結びつける媒体となっている。結論、この液体を通じて、遠隔操作しているということだ。
[Mechanist] というと……アーツユニットのようなイメージか?
[サリア] 一般的なアーツユニットの概念を超越した存在かもしれないがな。
[ドクター選択肢1] 実に直感的な説明だった。
[ドクター選択肢2] い、息が……
[サリア] 今の行動で不快にさせてしまっていたなら申し訳ない。
[Mechanist] ……もしドクターからの合図がなければ、私の攻撃目標は君の拳ではなかったかもしれないぞ。
[サリア] 我々の意思疎通が取れていたのは幸いだったな。
[サリア] さて、このあとだが、私はある人物に会わねばならない。
[サリア] それが私の知る限り、この試作型パワードスーツを最初に使用した人物でな。
[サリア] お前とMechanistさんにも同行を頼みたいのだが、構わないか?
[ホルハイヤ] あの人たちが大学付近のバーへ向かうのを見たのね?
[クルビア傭兵] はい。三人全員が入っていきました。
[ホルハイヤ] なるほど。サリアが誰を探しているかは検討がつくわ。
[ホルハイヤ] 私たちが先週会ったばかりの彼でしょうね。
[クルビア傭兵] 奴のことですか? しかし、奴であれば、ライン生命の人間には会わないとあなたに誓ったではありませんか。
[ホルハイヤ] だけどサリアは……まだ「ライン生命の人」って言えると思う?
[ホルハイヤ] 多分それは、彼女自身にも判然としてないと思うのよね。
[クルビア傭兵] では、対面を止めるべきでしょうか?
[ホルハイヤ] その必要はないわ。
[ホルハイヤ] サリアがどのくらい情報を持っているかは気になるところだし……
[ホルハイヤ] 彼女とお喋りしてみましょ。
[ホルハイヤ] ああ、そういえば……ローキャン・ウィリアムズは、クルビアトリマウンツ工科大学の卒業生だったわよね。
[クルビア傭兵] ローキャン・ウィリアムズ……? どなたですか?
[ホルハイヤ] ……時が経つのって本当に早いのね。
[ホルハイヤ] たった一度の実験事故でも、学界の新星を地に落とすには十分……そのあとにはもう、それを知る人もいなくなってしまう。
[ホルハイヤ] まあ、何にせよ、サリアとライン生命統括もあの大学の卒業生だし……
[ホルハイヤ] こうなると、クルビア科学技術界の社交パーティーは、彼らの同窓会のようなものね。
[ホルハイヤ] あーあ。こんなに賑やかになるって知ってたら、私もきっとあの大学にしばらく通っていたでしょうに。
[ホルハイヤ] ともあれ、そろそろ行きましょうか……お楽しみに混ぜてもらうだけなら、今からでも遅くないはずだもの。
[開拓隊の隊員] これが最後の火炎瓶だ!
[サニー] できるだけ遠くに投げてくれ!
[開拓隊の隊員] 了解!
[サニー] 撤退だ! 俺に続いて、中へ走れ!
[サニー] 全員揃ってるか?
[開拓隊の隊員] ふぅ……ああ、なんとかな。
[サニー] 化け物は? 追いついてきてるか?
[開拓隊の隊員] 今のところは大丈夫そうだ。まだ火炎瓶の火を取り囲んでる頃だろうさ。
[サイレンス] ありがとう、みんな。
[サイレンス] おかげで、負傷者も全員ここへ連れてきてあげられた。
[サニー] サイレンス先生、このあとはどうする?
[開拓隊の隊員] っ! リーダー、ドアが――!
[開拓隊の隊員] クソッ、開かねえ! これが出入り口なんだぞ、何のつもりだ!?
[サニー] 先生、ドアを閉めたのはあんたか?
[サイレンス] ……この実験基地に入るのは初めてだし、そんなことはできない。
[サニー] じゃあ、ウビカ博士が?
[エレナ] ううん。ラボのドアは自動式だよ。
[開拓隊の隊員] にしたって、ロックされてるんだぞ!
[エレナ] ……
[サニー] 博士……
[エレナ] 何でロックされたかはわかんないけど……キミたちは外にいる銀色の奴らが怖いんでしょ? それなら、ちょうど良かったじゃない。
[開拓隊の隊員] あんたが化け物を締め出そうとしてるのか、俺たちを閉じ込めようとしてるのかなんてわかんねえだろうが!
[開拓隊の隊員] ひょっとしたら、これも全部あんたらの計画かもしれねえしな!
[エレナ] ……何言ってるの?
[エレナ] あはは、まさか私が意図的にキミたちを操って自分を誘拐させたとでも言いたいわけ?
[開拓隊の隊員] あんまり調子に乗るんじゃねえぞ。あんたらの命運は、まだ俺たちが握ってるんだからな!
[サニー] サム!
[開拓隊の隊員] 止めんなリーダー! 俺らがこの研究者どもに騙されてるって初めに言い出したのはお前だろうが!
[サニー] 違う、大声を出すなって言ってるんだ……!
[サニー] サイレンス先生……何か聞こえないか? カサカサ地面を這ってきてるような音が……
[サイレンス] ……
[優しい女性の声] みんな、立ち止まらないで。振り返ってはダメよ。
[優しい女性の声] 右側三番目のドアを押して、開いて。
[開拓隊の隊員] ……! 本当に開いたぞ!
[優しい女性の声] 怖がらないで。私があなたたちを守るから。
[優しい女性の声] ……そう、いつもと同じように。
[フェルディナンド] ……最新の伝達物質のテスト結果というのが、これかね?
[ライン生命研究員] はい。
[ライン生命研究員] ですがこれはあくまで理論上の値ですので……
[フェルディナンド] 伝導効率1.7パーセント上昇、か。
[フェルディナンド] 一ヶ月が過ぎたが、これは大きなブレイクスルーだな。
[フェルディナンド] よくやってくれた。あとどれくらい時間がほしい? 十日か? それとも二十日か?
[ライン生命研究員] あ、え、ええと……も、申し訳ございません、あの……
[???] 彼は怖がっているようだよ。
[???] この様子では、エネルギー課主任の賞賛は叱責よりも恐ろしいと言われているのも無理はないな。
[フェルディナンド] おや。ご自分の人望をひけらかしにきたのか? パルヴィス。
[パルヴィス] たまたま通りかかっただけさ。
[パルヴィス] 同情するよ、お若いの。私が彼の話し相手になっておくから、ラボにお戻り。
[ライン生命研究員] は、はい!
[ライン生命研究員] ありがとうございます……!
[パルヴィス] ははっ、やっぱり若い人は足が速いな。もう見えなくなってしまったよ。
[フェルディナンド] しかし、主任会議以外でラボを出てくるとは珍しいな。
[フェルディナンド] 君が私を訪ねてくるとは、一体どんな要件だ?
[パルヴィス] ふむ……何から話したものかな。少し考えさせてくれ。やれやれ、歳は取りたくないものだね。使い古しの頭では何を考えるのも一苦労でいけない。
[フェルディナンド] 冗談はよせ。君の白髪は生まれつきだろう、キャプリニー。
[パルヴィス] はっはっは……
[パルヴィス] そうだ。何を聞きたかったか思い出したよ――ミュルジスの居場所を知らないか?
[フェルディナンド] ……
[パルヴィス] 彼女と賭けをしていてね。私が勝ったら、生態課の実験農場で栽培している黒豆茶を十箱くれるそうなんだ。
[フェルディナンド] その賭けというのは?
[パルヴィス] 二日前、彼女は私にこう言ったんだ――「フェルディナンドは今月中に、自分の肩書きから主任の二文字を取り払おうとしている」とね。
[サイレンス] ……サニーさん?
[サニー] ……
[サイレンス] どうして立ち止まってるの?
[サニー] これは間違いだ。
[サイレンス] ……? 何のこと?
[サニー] あの声に従うことが、だよ。
[サイレンス] あの声っていうと……ドロシーの?
[サイレンス] でも、彼女はこのラボの責任者だし、どのエリアが安全かなんて私やエレナよりずっとよく知ってる。
[サニー] だから信じられないんだよ!
[サニー] まだ気付いてないのか? あいつはずっと俺たちを支配してきたんだぞ! こうして俺たちの行動を逐一誘導することで、こっちの考えを蝕んで……
[サニー] 俺たち全員が喜んであいつの檻の中に飛び込んでいくように仕立て上げるつもりなんだよ!
[サイレンス] ……落ち着いて。感情的になっても、事態は好転しない。
[サニー] こっちに来るな!
[サイレンス] うっ……
[エレナ] オリヴィア! 大丈夫?
[サイレンス] 平気。
[エレナ] ……開拓者さん。私はずっとキミたちに我慢してきてるんだよ。
[エレナ] オリヴィアがキミたちを救おうとしてなかったら、今頃キミたちを外に置き去りにしてたくらい。
[開拓隊の隊員] ハッ、誰があんたらと一緒に行きたいなんて言ったよ!
[エレナ] ……本当に理解できないよ。
[エレナ] ドロシーはキミたちにあんなに親切だったのに。
[ドロシー] ……ディルク、息子さんのご病気はどう?
[開拓隊の隊員] それが、あまり良くないんです。医者からはなるべく早く手術を受けさせるべきだと言われました。
[開拓隊の隊員] ですが……
[ドロシー] もしかして、お金の心配?
[開拓隊の隊員] いやあ、あなたはなんでもお見通しですね。……俺は息子に治療を受けさせたくて開拓隊に入ったんですが、建設に参加するのはこのプロジェクトが初めてで。
[開拓隊の隊員] 家の金はとっくに尽きてしまってるんです。息子の心臓に問題があることを知ってたら、自分の鉱石病の薬に無駄金つぎ込んだりしなかったのに……!
[開拓隊の隊員] 俺はもう助からない身体ですが、あの子は……まだ幼いあの子だけは……ううっ……
[ドロシー] 大丈夫よ、ディルク。私に考えがあるの。
[ドロシー] ほら、これを受け取って。私が知る限り一番腕のいい心臓専門医の連絡先よ。すぐに息子さんを彼女のところへ連れて行ってあげて。
[開拓隊の隊員] ……一番、腕のいい……専門医? それも、トリマウンツの……?
[開拓隊の隊員] そ、そんな人なら、手術代はべらぼうに高いんじゃ……
[ドロシー] その人は私の大学時代の同級生なの。彼女に会ったら、ドロシー・フランクスの友人だと伝えてね。そうすれば、私に免じて安くしてくれるはずだから。
[開拓隊の隊員] ほ、本当ですか?
[ドロシー] ええ、ただしほかの人には言わないでね。手術費をまけたことが知られたら、親切な彼女の市場価値に影響が出ちゃうから。
[開拓隊の隊員] も、もちろんご心配なく! ここだけの秘密にします!
[開拓隊の隊員] そ……それじゃ、もう行きますね! 主任からも、ご友人にお礼を伝えていただけると嬉しいです!
[エレナ] ……
[ドロシー] そんなところに立ちっぱなしでどうしたの? コーヒーが冷めちゃうわよ。
[エレナ] 冷めてるくらいでちょうどいいよ。
[エレナ] このコーヒーをひっかぶらせてでも目を覚まさせなきゃいけないとしたら、そのほうが心が痛まないし。
[ドロシー] ふふっ、心が痛むのは私が火傷しちゃうから? それともコーヒーが無駄になっちゃうから?
[エレナ] ……
[エレナ] そんなふうに愛想振り撒いてもダメだよ、フランクス主任。ご飯代は貸してあげないからね。
[ドロシー] はいはい。じゃあ、来月はレトルト食品でしのぐしかないわね。
[エレナ] あのさあ……キミはライン生命の主任なんだよ? それが私みたいなヒラ研究員にしょっちゅうご飯代たかってるなんて噂が広まったら、笑いものになっちゃうでしょ。
[ドロシー] 仕方ないわよ。アーツ応用課は科学研究課五つの中で一番貧乏だし……
[ドロシー] 私は、フェルディナンドみたいにスポンサーをたくさん集めて、耳から尻尾の先まで金ぴかに着飾るなんてことできないから。
[エレナ] ……うちのボスはそんなに悪趣味じゃないんだけど。
[エレナ] って、話をそらさないでよ。例の同級生なら私も知ってるけど、キミの紹介だなんて聞いたら、彼女はむしろ手術費を一割増しにしたがるような相手じゃない?
[エレナ] どっちにしろ、キミは開拓者のお友達のためならいくらでも払うつもりなんでしょ。お人好しにもほどがあるよ!
[ドロシー] あはは……
[エレナ] 笑って誤魔化さないの。本当、どうしようもないんだから……
[エレナ] もういい、ラボに戻るね。
[エレナ] キミのお財布を救うためにも、早くこの実験を終わらせないと。
[エレナ] これまで口止めされてたけど、ドロシーはキミたちのためにずっと尽くしてきたんだよ。
[エレナ] なのにこんなことするなんて、どう考えてもやりすぎじゃないの?
[サニー] あんたはドロシー・フランクスの友人だよな。
[サニー] だからあの女が見せたい側面のことしか知らないんだよ。
[サニー] 奴の本当の目的がどんなに恐ろしいものか、少しもわかってない。
[開拓隊の隊員] フランクス主任! あなたにお礼をお伝えしたくて……実は、息子の手術が成功したんです! お医者さんの話では、来週には退院できるとかで!
[ドロシー] 本当に? よかったわね、ディルク! ――それなら、あなたもお家に帰って息子さんに会いたいんじゃない?
[開拓隊の隊員] え……? と、都市に戻るってことですか?
[開拓隊の隊員] でも……俺は感染者ですよ。規則上、勝手に移動都市に入ることはできませんし……
[ドロシー] だけど、それは保険料を支払えるような仕事が見つからない限りの話よね。
[ドロシー] ディルク、これはチャンスなのよ。――定められた運命から逃れるためのね。
[ドロシー] この同意書にサインしてくれたら、あなたをお家に帰してあげられるわ。
[開拓隊の隊員] だったらもちろん……
[ドロシー] 待って。回答までの猶予として二十四時間設けるから、焦らずよく考えて決めてほしいの。
[ドロシー] 私はあなたたちに嘘をつく気も、隠し事をする気もないし――
[ドロシー] 書類の一番大事な注意事項には丸をつけておいたわ。きちんとリスクを加味して検討してちょうだい。
[ドロシー] わからないところがあれば、いつでも聞いてね。
[サニー] ディルク!
[開拓隊の隊員] リ、リーダー? どうしてここに? もしかして、あんたも――
[サニー] その同意書を渡せ。
[開拓隊の隊員] い、嫌だよ、なんでこれを取り上げたがるんだ?
[サニー] 今のでわからなかったのか? あいつはお前を檻の中の実験動物にしようとしてるんだぞ!
[開拓隊の隊員] そ……それがどうしたって言うんだよ。
[開拓隊の隊員] あの人は、これがチャンスだって言ってたんだぞ……
[開拓隊の隊員] 俺たちはもう長いこと、「チャンス」なんて言葉自体聞いてやしないのに。
[サニー] ……
[開拓隊の隊員] やっぱり、二十四時間もいらないよ。
[開拓隊の隊員] もう一度あの子に会える可能性があるなら、一分だって待ってられない!
[サニー] そのまま、ディルクはあいつに連れて行かれたよ。
[サニー] 何もディルクだけじゃない。アランにゲイル、ソフィアも同じだ……
[サニー] あいつは俺たちの弱みにつけこんでくるのさ。だから、誰もあいつに「ノー」とは言えない。
[サニー] これがドロシー・フランクスのやり方なんだ!
[サニー] あの銀色の妙な生き物だって、あいつが……
[エレナ] 生き物って……あれはどう見ても人工物でしょ?
[エレナ] ……じゃなくて、とにかく――なんにもわかってないのはキミのほうだよ!
[サイレンス] ……
[サイレンス] 二人は、私たちを追いかけてくるあれについて何を知ってるの?
[サニー] ……
[エレナ] ……
[サイレンス] あれが生き物であるにしろ、人工物であるにしろ……さっきから、二人とも何か心当たりがありそうな言い回しをしてるでしょう。
[サイレンス] 聞き間違いじゃないのは確か。私たちの一族は、リーベリの中でも聴力が優れているほうだから。
[サニー] 俺のはただの推測だ。
[エレナ] 私もそうだよ。
[サイレンス] ……
[サイレンス] こういう時だけ気が合うんだね。
[サイレンス] まあ、今は置いておこう。とにかく――あなたたちがドロシーをどう思っていようと、少なくとも今、私たちを逃がそうとしてくれてるのは確か。
[サイレンス] ひとまずは、彼女の指示通り移動しよう。
[サイレンス] 廊下の向こうに追手が来てる。今は言い争ってる場合じゃない。
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