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塵影に交わる残響_LE-8_運命_戦闘後
死闘の末、ようやくアフターグロー区の危機は回避された。しかしエーベンホルツとクライデはさらなる残酷な運命に直面しなければならないのであった。
[お爺さん] この馬鹿者、大馬鹿者め……
[お爺さん] こんなことをする必要などなかったろうに。
[お爺さん] この大地はお前にこんなにも残酷だったのだ。なのになぜここまでする必要がある?
[ハイビスカス] お爺さん!?
[ハイビスカス] すぐ離れてください! ここにある源石は活性化し続けています!
[お爺さん] わしの孫に最後に一目会いたいのだ。
[エーベンホルツ] この一撃で最後だ。ハイビスカス、彼の注意を引いてくれ――
[お爺さん] クライデ、わしはここにおるぞ。
[エーベンホルツ] お爺さん!?
[お爺さん] クライデ、わしの最愛の孫よ。
[お爺さん] もし恨みがあるのなら、わしにぶつけるがいい。
[お爺さん] 多くのものを滅ぼす前に、わしに向かって来るのだ!
[お爺さん] わしはお前を何年も騙してきた、何年も何年も隠して側にいた……お前のために死ぬかもしれんと考えたことがあるが、お前にこんな結末が訪れるなんて思わなかったぞ!
[お爺さん] 他人を生かす選択をしたのなら、もう先の長くないわしが、お前と共に行こう。
[お爺さん] もう一度、二人で旅をしよう、我が愛する孫よ!
源石結晶でできた化け物は、老人の言葉を理解できない。
先ほど見せた一瞬の覚醒は、もはや奇跡とすら呼ぶのも恐れ多い奇跡だ。この瞬間、化け物はただチェロを弾き、周囲を永遠の虚無に引きずり込もうとするだけだった。
そして彼は、声がした方向へと死の旋律を全力で振りまいた。
[エーベンホルツ] お爺さん!?
[お爺さん] お嬢さん、なぜ――
[ハイビスカス] ――私が盾になります。エーベンホルツさん、今です!
[エーベンホルツ] ハアアアアアア!!!
[ゲルトルーデ] そんな、ありえませんわ!
[ゲルトルーデ] 友情、犠牲、献身――そのような幼稚な信念は、厳然たる現実の前に粉々に砕け散るべきですわ。どうして、どうしてですの!?
[ゲルトルーデ] いいえ、まだですわ。まだ終わってなどいません!
[ゲルトルーデ] クライデは確かに二つの「塵界の音」を、強引に自分の身体の中に収めました。ですが結局はその重なり合った無秩序と狂気を、完全に制御することなどできませんわ!
[ゲルトルーデ] 聴こえますわ。クライデの旋律はすでに消えかけですけど、エーベンホルツの「音」は、未だ消えていない。ならばまだ――
[ゲルトルーデ] ぐっ!
[ビーグラー] もう充分でしょう、ストロッロ伯爵。
たった今ハープへ掛けたゲルトルーデの手から力が抜け、だらりと垂れ下がった。
ビーグラーが彼女の背中に刺した短刀を引き抜くと、噴き出す血飛沫が彼の服を汚した。
源石の外殻がぼろぼろと崩れてゆく。
広場からは一切の音が消え、時折不活性化した源石の外殻が地面に落ちる重苦しい物音が響くのみ。
やがて、すべての外殻が剥がれ落ちた。そこに残ったのは瀕死のクライデ、そして彼の傍らにあるチェロ。
[エーベンホルツ] 待ってろ……待ってろよ!!
[ハイビスカス] 待ってください! 彼は今危険な状態です。私たちがすべきことは末期感染者搬送所に知らせることです……
[エーベンホルツ] 何てこと言うんだ!?
[エーベンホルツ] ……クライデは死なない!
[クライデ] ゴホッ……
[エーベンホルツ] クライデ、目が覚めたか!?
[エーベンホルツ] ほら見ろ、クライデは助かるぞ!
[ハイビスカス] ……
[クライデ] エーベンホルツ……?
[エーベンホルツ] ここだ、私はここにいるぞ!
[クライデ] 無駄な……ことはしないでください、僕は……
[エーベンホルツ] ……
[クライデ] (深呼吸)
[クライデ] 今、身体が……とても軽いんです……
[クライデ] さっきまではずっと痛かったんですけど、今はかなり良くなりました……
[エーベンホルツ] ああ、良くなる、きっと良くなるさ……
[クライデ] よく聞いてください、エーベンホルツ、これがあなたと交わす最後の言葉です。
[クライデ] どうか僕の言葉を覚えていて。
[クライデ] エーベンホルツ、生きてください。あなたは長い夜を乗り越えなくてはなりません。
[クライデ] 不公平な運命に抗い、諦めることなく、他人のために手を差し延べてください。
[クライデ] そうして初めて、腰を下ろした時に、僕を思い出すでしょう。
[クライデ] 僕はあなたに尋ねます。エーベンホルツ、今日はどうでしたかと。
[クライデ] そしたら、あなたは胸を張って答えるんです。また充実した一日を過ごしたと。
[クライデ] あなたは自分の良心にしたがって行動するときに遭遇した障害について僕にぶちまけて、運命はやはり自分の味方をしてくれないと文句を言うでしょう。
[クライデ] でも大丈夫です。僕はあなたのどんな言葉にも耳を傾けますから。
[クライデ] だってあんなに努力しているんですから。ふふ、文句を言ったって当然ですよ、罰は当たりません。
[クライデ] これならあなたはこの大地が与える苦しみに負けることなく、日々の生活の中で安らぎを得られるでしょう。
[クライデ] 覚えておいて、エーベンホルツ。僕たちはかつて共に不公平な運命に抗いました。しかも勝って、運命を乗り越えてここにいます!
[クライデ] だから僕を思い出した時は、泣くのではなく、笑ってくださいね。絶対ですよ。
[エーベンホルツ] うん、うん!
[クライデ] それから……ごめんなさい、エーベンホルツ。
[クライデ] あなたにどんな記念品を贈ればいいか……僕はまだ思いついて……ません……
[エーベンホルツ] そんなの何だっていい。お願いだから死なないでくれ、頼むよ……クライデ、なぁ頼む……
[クライデ] ……
[エーベンホルツ] クライデ、クライデ……
[エーベンホルツ] クライデ!!!!!!
[ビーグラー] 確かに彼らの信念はいつの日か粉々に砕け散るでしょう。ですが、それは今ではありません。
[ビーグラー] 友情、犠牲、献身……
[ビーグラー] それらは幼稚かもしれませんが、少なくとも彼らのために同情の涙を流す者はいます。
[ビーグラー] ですがあなたは? ストロッロ伯爵。
[ビーグラー] あなたはその手で自ら、自分とツェルニーの間に芽生えた友情を破壊したのです。
[ビーグラー] そして同じ手で実の兄を殺し、さらには彼の無能さをあざ笑った。
[ビーグラー] あなたはご自身のために尽くすよう他人に強制しましたが、他人に何を与えたのです?
ゲルトルーデは身じろぎすらできず、唇だけが唯一動いていた。
「お前たちを呪う。」
ビーグラーは彼女の唇の動きが読み取れた。
「暗いドブの中で死ぬよう呪う。」
「エーベンホルツがその血に潜む狂気から、永遠に抜け出せぬよう呪う。」
「アフターグロー区が滅びるよう呪う。」
「リターニアが永遠に巫王の影に怯え惑うよう呪う。」
「巫王が永遠に安らぎを得られぬよう呪う。」
[ビーグラー] ……あまりに醜悪ですね。
[ビーグラー] 先程はやや衝動で行動したことを認めます。ですが民衆の安全を脅かす要因を早急に処理するのも、私の責務の一つです。
[ビーグラー] あなたのために詳細な報告を書いておきますよ、ストロッロ伯爵。
[ビーグラー] おやすみなさい、他人を呪わずに済む夢を見られますように。
[ハイビスカス] 手から血が出ていますよ! まさか源石結晶が刺さったんですか?
[エーベンホルツ] あぁ、そうみたいだ……少し血が出ているな。
[ハイビスカス] すぐに治療を受ける必要が――
[エーベンホルツ] 治療? 今治療しなければならないのはクライデだ!
[ハイビスカス] エーベンホルツさん、彼は……
[エーベンホルツ] ……
[エーベンホルツ] やめろ。
[エーベンホルツ] その先は言わないでくれ、ハイビスカス、お願いだ……
[ハイビスカス] ……わかりました。
[ハイビスカス] 彼は……感染者です。エーベンホルツさん、もし末期感染者搬送所に連絡するのが嫌だというのであれば、せめて密閉性の高い部屋を探さないと……彼のためにも。
[エーベンホルツ] ああ、わかってる……
[エーベンホルツ] ならば……コンサートホールの休憩室に行こう。
[ハイビスカス] わかりました。彼を運びます。
[エーベンホルツ] 私がやる。
[エーベンホルツ] クライデ、ほら、抱えてやるからな。
エーベンホルツは慎重にクライデを抱きかかえた。源石が刺さり、さらに多くの傷ができたが、彼はそれに構う余裕はなかった。
彼はゆっくりと温もりを失っていく友の身体を、まるで短くて美しい夢に触れるように、柔らかく抱きかかえていた。
[エーベンホルツ] クライデ、もうすぐ着くぞ。
[エーベンホルツ] もうすぐ、あと少しだ。
[クライデ?] ありがとうございます。
[エーベンホルツ] クライデ――まだ意識があるのか!?
[エーベンホルツ] すぐにハイビスカスの所に――
[クライデ?] この建物の中に置いてください。
[クライデ?] もしあなたがまたアフターグロー区へ戻ることがあれば、思い出すでしょう。ここにはとても仲の良い友人がいたことを……彼とここで喧嘩して、笑って――
[クライデ?] 最後には、共に素晴らしい演奏をしたことを。
[エーベンホルツ] 違う、クライデではない、お前は――
[クライデ?] これが貴様の望みではないのか?
[エーベンホルツ] 黙れ、老いぼれめ。こんなやり方で彼を汚すことは許さん。
[エーベンホルツ] クライデは「塵界の音」を消し去るために、自分の命まで捧げたというのに、なぜ……未だ私の脳内にあるのだ!?
[エーベンホルツ] ……
[エーベンホルツ] 警告するぞ。もしこれ以上彼の真似をしようものなら、私はここで自分の頭を吹き飛ばすことも辞さない。
[頭の中の声] はぁ……
[頭の中の声] ……我の血族がこれほど愚かだとはな。
エーベンホルツの耳元に再びその声が響くことはなかった。
彼は徐々に重くなるクライデの身体を抱え、アフターグローホールの休憩室に向かって歩いていった。
[エーベンホルツ] 着いたぞ。
[エーベンホルツ] 部屋を密閉してくるから、ソファで寝ていてくれ。
[エーベンホルツ] ここのソファは柔らかいからな、きっと寝心地がいいはずだ――
[エーベンホルツ] 柔らかいソファ……
[エーベンホルツ] 君は家のベッドで寝たことすら……
[エーベンホルツ] ……
[エーベンホルツ] ……どうやら私も感染したようだ。
[エーベンホルツ] 以前は苦労してやっと使えていたアーツが、今は簡単に使えるようになった……感染するのも悪くないな。
[エーベンホルツ] よし、こんなものか。扉は出てから封じるとしよう。
[エーベンホルツ] 他に……何か望みはあるか?
[エーベンホルツ] 記念……そうだ、記念だったな。
[エーベンホルツ] そのチェロ、貰い受けるぞ。
[エーベンホルツ] 君に買ってやったものを貰って行くことになるとは、まったく……
エーベンホルツの唇は少し震えたが、それ以上は何も音になりはしなかった。
彼はしばらくその場に立ち尽くし、ふいにひざまずくと、使い慣れたフルートをクライデの傍らにそっと置いた。
[エーベンホルツ] 君は穴のあいたコインが欲しいと言っていたな。しかし、今私の手に残っているのはこのフルートだけだ……
[エーベンホルツ] すまない。
[エーベンホルツ] 許してくれ……
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