aklib_story_潮汐の下_SV-3_異邦人_戦闘後

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潮汐の下_SV-3_異邦人_戦闘後

スカジは、住民たちが海に食料を求めるため行う特殊な儀式を目撃する。若き審問官は怒りも露わにその儀式を中断させ、スカジこそ諸悪の根源だと決めつけて、戦いを挑むのだった。


[アニタ] あっ、お帰りなさい! ちょうど探しに行こうと思ってたんです。

[アニタ] あれ? 砂がついてますよ……もしかして海岸に行ったんですか?

[スカジ] ええ。

[アニタ] もう、行くなって言ったのに……全然聞いてくれないんですから。

[アニタ] 早く入りましょう。部屋の方が暖かいですよ。

[スカジ] やめとくわ。

[アニタ] そうですか。あっ、これあげます。食べ物ですよ、もらってきたんです。途中まで縫った服を暖炉おじさんにあげて、その代わりに。まだたくさん残ってたみたいですし、遠慮なくどうぞ。

[アニタ] 冬まではまだ時間がありますから、大丈夫です。もっと一生懸命探せば、使える布が見つかるはずですし。

[スカジ] この貝の身……

[スカジ] あなたたち、一体何を食べてるの?

[アニタ] わっ、いたた、痛いです……あんまり強く掴まないでください!

[スカジ] あなたたちが食べてるのは、一体……

[アニタ] か、海岸で拾った物ですよ!

[スカジ] この海に食べる物なんてないわ。何も得られるはずない。海が静まり返っているもの。

[アニタ] だから言ったじゃないですか、今日行っても、何にも見つかりませんよって。

[アニタ] 「その時」が来ないと……

[スカジ] 「その時」って……いつのこと?

[住民] 百……

[住民] 百!

[アニタ] あっ! 数字のこと忘れてました。もう百だったんだ。

何か合図があったかのように、街中に散らばっていた生ける彫刻たち……「実に多忙な」人々が集まり始めた。

口々に同じ数字を呟きながら、一つの缶を取り囲む。そして一人また一人と、缶の中から何かを取り出すと、黙って去って行った。

[スカジ] あの缶は?

[アニタ] さっき、どこで食べ物を拾ったのか、聞きましたよね?

[アニタ] 潮が百回満ち引きしたら、大人たちは皆こうするんです。一箇所に集まって、缶の中から一つずつ、貝殻を取るんですよ。

[アニタ] ほとんどは白い貝殻ですけど……でも、一つだけ赤いのが入ってるんです。

[アニタ] そして赤の貝殻を取った人は、空が暗くなったら海岸に行きます。

[アニタ] すると、次の日には海岸いっぱいに食べ物があるんです!

[スカジ] 海岸に行った人は……どうなるの?

[アニタ] 海の中で暮らすんですって。そういうルールだって聞きました。

[スカジ] あなたたち……そんなことまで信じてるの?

[アニタ] ええと……だったら、その人はどこへ行くっていうんですか?

[男性住民A] ……百。ようやくだ。

[男性住民A] おい、木枠。なんだその顔は? ようやく訪れた、素晴らしい日だというのに……

[男性住民A] もうすぐ、俺たちの中から、幸運な者が選ばれる。残りの者より一足早く、より素晴らしい生活を送れるんだぞ。

[男性住民A] 明日になれば、誰でも、新鮮な食べ物が手に入る。誰もが生きていける。海に行く者も、海岸に残った者たちも。

[アニタ] わ、私は……

[男性住民A] 焦らずとも、大丈夫だ。お前はもう、十分大きくなった。もうすぐ大人の仲間入りだ。この素晴らしい機会を、得られるんだ。

[男性住民A] 今は、これまで通りでいい。選ばれた兄弟姉妹を、祝福するんだ。

[男性住民B] トタン……お、俺は……

[男性住民A] 何を転んでいる。まったく、ダメな奴め。さっきの……海岸で起きたことで、腰が抜けたんだな。

[男性住民B] どうしてか、わからない。すごく、腹が減った……力、入らない。俺は、病気だ……俺は、死ぬんだ。

[男性住民B] そうだ、貝殻は? さっき取り出した、貝殻……

[男性住民A] 落としたぞ、ほこり。

[男性住民B] 赤……俺の、赤じゃなかったか?

[男性住民B] だとしたら……俺は、海の中で暮らせるのか?

[男性住民B] 海の中へ行ったら、腹は減らない。そうだろ、トタン? 俺は、素晴らしい生活ができるんだ。

[男性住民B] お前も……えっと、宣教師が言ったみたいに……そうだ、祝福だ。俺を祝福してくれる、そうだろ?

[男性住民A] ……

[男性住民A] お前の見間違いだ。

[男性住民A] ほら、お前の貝殻はこっちだ。よく見ろ、何色だ? 塩水で目がぼやけたんだろ。

[男性住民B] 白? どうして白なんだ……本当に、見間違いなのか? そんなことは、ないはずだ。俺の目は、よく見えている。

[スカジ] ……耳はどう? このハープの音色、聞こえるかしら。

[男性住民A] それは、岩の上に置いてあった……お前もいたのか。

[男性住民A] 妙な音だ……それはそう使うのか。

[男性住民B] うわっ、トタン、お前、貝殻を握りしめたのか。だから、血が出たのか? 赤いのが、見えたぞ……

[スカジ] 祝福をお望みなのかしら。生憎持ち合わせがないんだけど。

[男性住民A] お前は、何もわかっていない。

[男性住民A] これは、意味のあることなんだ。少なくとも、俺にはわかる。どこへ行くべきか……何をするべきなのか。

[???] あんたたち、何をしてるの!?

[アニタ] あの格好……審問官だ!

[アニタ] でも、どうして……滅多に来ないのに……

[アニタ] えっと、以前、審問官が来たのはもう何年も前……私が小さかった頃なんです。皆、ひどい生活をしていた時ですね……

[アニタ] その頃の街はそこら中めちゃくちゃで、何も食べるものがなくて、たくさんの人が病気で倒れてました。毎日人が死んでたんです……

[アニタ] そんな中、審問官が何人かを連れて行って、その人たちはそれっきり戻ってきませんでした。

[アニタ] けど、それからは毎日がちょっとだけ良くなりました。まだ飢え死にしたり、病気で死んだりする人がいましたけど……少なくとも……良くはなってたんです……

[アニタ] ……ともかく、あれは審問官です。

[スカジ] ……そう。

[アニタ] ……歌い手さん、彼女を怒らせちゃいけませんよ。なんだか機嫌が良くないみたいですし。

[審問官] ここで起きていることはすべて見ていたわ。あんたたち、誰かを海に送る相談をしてたわよね……自分たちが何をしているか、わかってるの!?

[住民] ……

[審問官] 何か言ったらどうなの!? まったく……この場所は何もかもがおかしいわ。私はね、ここに来たら間違いなく病気や飢饉を目の当たりにすると思ってたのよ。だってそれが必然だもの。

[審問官] そもそも以前の情報を元に考えれば、これだけ時間が経った以上、あんたたちが生きているはずないのよ。

[審問官] なのに実際に来てみたら……あんたたちは私の予想以上に元気で、ひどい生活を送っていた。

[審問官] ねえ、あんたたち――人を海に送るという行動が、どんな結果をもたらすかわかっているの?

[審問官] 私の方を見て、答えなさい! 私が誰だかわかるわよね?

[住民] 審問官……

[審問官] そうよ。つまりね、市民……あんたには答える義務があるの!

[住民] 選ぶのは海だ。選ばれた者は、自ら受け入れ、海へ行くのだ。

[審問官] ばかばかしい! 選ぶのは海、ですって? まるで海に意志でもあるみたいな言い方して……なんて恐ろしい言葉かしら!

[審問官] いい? 私が見たのは、あんたたちが誰かを死に追いやろうとしている現場だけよ! 海に送られた人間が生きられるわけないでしょう。あんたたち、一体何の権利があって罪のない人を裁いてるの?

[住民] 海へ行くことは、死ではない。

[審問官] はぁ? どうしてそう言い切れるの? あなたにはわかるとでも言うの?

[住民] では、お前に、海の何がわかるのだ?

[審問官] そんなの……わかんないわよ。私が知ってるのは、海に送られた人が死よりも恐ろしい目に遭う恐れがあるってことだけだし。

[審問官] とにかく! 私は今、この目で見たわ。あんたたちが、この中の一人を海に行くよう強要しているところをね。

[住民] 私たちは何も強要していない。選んだのは彼自身だ。

[住民] 彼が行きたいのなら、それを止めるべきではない。ルールでは、それを禁じるとは言われていない。

[審問官] でたらめを言って……こんなの、正しいことじゃないわ!

[住民] では、正しいこととは何だ? 審問官、お前が教えてくれるのか。

[審問官] ……少なくとも、何が間違ったことかについてはあんたたちよりも詳しいでしょうね。

[審問官] あんたたちの行いは、決して許されないことだわ。あんたたちが認めずとも、私にはわかる。

[審問官] むせ返る程の邪悪――この剣で誅すべきものがね。

[住民] ……

[審問官] 私の剣を見ても動じないなんて……自分たちの行為は殺人ではないと本気で信じているの?

[審問官] しかも死ぬことすら恐れてないとか……どうやらあんたたち、怪物になりかけてるみたいね。

[審問官] あるいは……あんたたちを怪物にしたい奴がいるのかしら。

[審問官] だとするなら、あんたたちを狂わせたのはきっとそいつね。……誓うわ。私が必ず諸悪の根源を見つけ出してみせると!

[スカジ] ……もう行くわ。

[アニタ] えっ?

[スカジ] 彼女はここに我慢ならないようだけど、私には関係ないもの。

[アニタ] 彼女って……審問官のことですか?

[スカジ] ええ。……まあ、好きにやらせてあげたらいいわ。

[アニタ] 歌い手さん、家をたくさん見て回るんですね。

[スカジ] ついてこなくていいのに。

[アニタ] こんな風に一軒一軒見て人を探すの、大変じゃないですか?

[スカジ] 別に。見つかるまで探し続けるだけよ。

[アニタ] この調子じゃ、街中探し終わるまでに一日か二日はかかるのれす。

[スカジ] ……あなたがついてこなければ、もっと速く歩けるんだけど。

[アニタ] その人はあなたに探されてるって知ってるんですか? 具体的な場所とか教えてくれなかったのれすか?

[スカジ] ……

[アニタ] はぁ、もうすぐ暗くなっちゃいますよ。少し休みましょう、歌い手さん。今夜はどこに泊まるつもりですか?

[スカジ] 適当に探すわ。

[アニタ] じゃあ、私と帰りましょうよ。北の方の家はマシな作りですから、人がたくさん住んでるんです。

[アニタ] それに以前の鱗油が少し残ってたので、暖炉おじさんが部屋を明るくしてくれてますよ。

[スカジ] 必要ないわ。

スカジは適当に道沿いの扉を蹴り開けた。倒壊しかけたその家が、静かに彼女を迎え入れる。

[スカジ] ここに泊まるから。

[アニタ] えっ、この家ですか? でも、ここにはもう長いこと誰も住んでないのれすよ。

[スカジ] 気にしないわよ、そんなこと。

[アニタ] けど、この家にはベッドどころか、平らな場所すらないんですよ。横になることもできないのに、どうやって寝るんですか?

[スカジ] 立って寝るか、座って寝るか……まあどうとでもなるわ。

[アニタ] すごいですね……

[アニタ] 本当に変な人。さすらいの歌い手さんがどんな人たちなのかは知りませんけど、あなたはその人たちとは違う気がします。

[アニタ] えっと……歌が好きな人って、もっとお喋りな人だと思ってましたので。だから、静かな人がいるとは思わなかったといいますか……

[アニタ] それに踊りが好きな人は服も綺麗にしておきたがると思うのれす。でも、あなたはほこりだらけの床に平気で座るし……それじゃドレスが汚れちゃいますよ。

[スカジ] ……もう帰りなさい。

[アニタ] 私、お邪魔ですか?

[スカジ] ここにはベッドどころか、平らな場所すらない。あなたがそう言ったんでしょ。

[アニタ] でも、一人だと寂しいんじゃ……

[スカジ] 別に。平気よ。

[アニタ] そんなこと言わずに、ね? ところで、さっきからずっと外を見てますよね? 何か気になるものでもありました? ここから見えるのは海と教会くらいですけど……

[アニタ] もしかして、夜のうちにまだ出歩くつもりなんですか? 例えば……山に登って、教会に入ろうとしてる、とか!

[スカジ] あなたには関係ないでしょ。

[アニタ] まあ、関係ないですけど……興味があるんです。

[スカジ] ……これを。

[アニタ] ……ハープ? どうして私にくれるんですか?

[スカジ] ずっと見てたじゃない。欲しいならあげるわ、持って行きなさい。

[アニタ] ……綺麗ですね。

[アニタ] ちょっとだけ、鳴らしてみようかな……

[アニタ] ……良い音色です。でも、やっぱり私には弾けませんし……もらっても仕方ないですよ。あなたが弾くのを見たいだけなので。

[スカジ] じゃあ、何なら欲しいの?

[アニタ] もしかして、何かもらうためについてきてるんだと思ってます?

[アニタ] 違いますよ。私はただ、あなたについていきたいだけなんです。

[スカジ] ……

[アニタ] あなたがお仲間さんを探したいだけだってことは、ちゃんとわかってますから。

[スカジ] ……確かめたいこともあるのよ。

[アニタ] その人のこと、もう何年も探してますよね?

[スカジ] えっ?

[アニタ] 単なる印象ですけど……人探しのことになると、あなたの目つきが変わったように見えるんです。ずっと歩き続けてきた人の目、っていうか。ペトラおばあさんも時々そんな目をするので……

[アニタ] でも、よかったですね。やっとその人から解放されるんですから。

[スカジ] ……どういうこと?

[アニタ] 背負ってるものが重すぎるんですよ。

[スカジ] 意味がわからないわ……

[アニタ] どれだけ頑張っても、二、三十年も背負い続けてると……そこから解放されることしか頭になくなっちゃいますから。

[アニタ] いや、そもそも……そんなに長く耐えられる人なんていませんし……

[スカジ] さっきから何を言ってるの……?

[アニタ] あなたはすっごく運のいい人かもしれないって話ですよ。もうその人を探し続けなくてもいいんです。

[スカジ] ……

[アニタ] ここで長生きをする秘訣は、何かを背負い続けたりしないことなんです。一つのことだけ考えていると、人は狂ってしまうから。

[アニタ] 私は、何も知らない子供なんかじゃありません。これでも、何度も……何度も人が狂っていくのを見てきたのれす。

[スカジ] だとしても……あなたにはわからないわ。

[アニタ] 確かに、あなたたちに何があったのかはわかりません。でも、いいものだろうと悪いものだろうと、積み重なりすぎた過去は人を押し潰しちゃいますから。

[アニタ] ペトラおばあさんがマニュエルって人の名前を呼ぶたび、わかるんです。おばあさんの病気、またひどくなっちゃったんだって。

[アニタ] けど、あなたはまだ若いんですから、そんなふうに苦しい道を選ばなくてもいいと思います。

[スカジ] ……そんな簡単な話じゃないの。

[アニタ] 簡単かどうかなんてどうでもいいんです。話してみてください。

[アニタ] 私、ここでちゃんと聞いてますから。

[スカジ] 昔のことは……

[スカジ] 考えないようにしたところで、決して離れてはくれないの。

[スカジ] むしろ、考えないようにすればするほど……迫ってきて……過去に呑み込まれてしまう……

[ホセ] ほら、君も少し飲むといい。

[スカジ] どうも。

[ホセ] 待て待て――そう一気に飲み干すんじゃない。私の分も少しは残しておいてくれ。眠れない夜はそいつが頼りなんだ。

[ホセ] はぁ……まったく。

[ホセ] 自分は厄災を招くだの、ファンは自分が死なせただの……あいつは私の息子だぞ。父親の私すら君を責めてはいないのに、今にも死にそうな顔をして……それじゃ何か言おうにも言えないよ。

[ホセ] 本当に*イベリアスラング*なお嬢さんだな。

[スカジ] ……ごめんなさい。

[スカジ] 敵の狙いは私なのよ。私の傍にいた人は皆、ひどい最期を迎えてばかり……

[ホセ] だから、私も呪われると?

[スカジ] 少なくとも、私から離れた方がいいわ。

[ホセ] いいだろう。言われずとも離れてやるさ。君の言う*ミノススラング*なんて迷信、本気にしちゃいないがね。

[スカジ] ……

[ホセ] ……もとより、この仕事は残酷で危険なものだ。あのバカ息子は利かん坊だから死んだのさ。どんな奴に殺されたのかもわからない。何より君ですら歯が立たなかった相手だ。私に一体何ができる?

[ホセ] 私には、息子の仇を討つことなんてできないのさ。

[ホセ] ……その酒を飲み終えたら、私たちはそれぞれの道を行くんだ。もう関わることもないだろう。

[スカジ] ……ええ。

[ホセ] ……このバカ! 君はずっとそんな調子でいるつもりか? 気の利いた言葉が出なくても、もう少し何か言えるだろう!

[スカジ] こっちの言葉にはまだ疎いのよ。

[ホセ] いいや、違うな。君は誰に対しても「友人」という言葉を口にしたくないだけだ。

[ホセ] ……まあいい。どのみち、もうすぐお別れだ。その前に、もう少しだけ話をするとしよう。君はこれからどこを目指すつもりだ?

[スカジ] ……わからない。

[ホセ] これまで通り放浪しては、取るに足らない仕事を受けて、大したことない雑魚を相手に戦う日々を続けるつもりか? 永遠に覚めない夢の中を生きるように。

[スカジ] ……

スカジは一気に酒を飲み込む。しかし、アルコールが彼女に酔いをもたらすことはなかった。

[スカジ] ……

[スカジ] じゃあ、どこへ行けばいいと言うの?

[スカジ] あなたたちがバウンティハンターなんてやっているのは、お金を稼ぐため……生きていくためでしょ。

[スカジ] でも……私にはもう……何もない。

[スカジ] ここは荒廃していて、無秩序で、まともな生活すら望めない。誰かに必要とされているわけでもないし、こんなところにいたいとも思わない。……正直、どうしてここにいるのか不思議なくらいよ。

[スカジ] いるのは弱くて無知な連中ばかり。欲深く、死を恐れていて……なのに私を怖がらない。訪れる死を避けようともしないの。

[スカジ] ……理解しがたいわ。

[ホセ] おい、よせ。一体どれだけ酒瓶を握り潰したら気が済むんだ?

[スカジ] ……

[スカジ] 獲物を斬り殺し、敵を片付ける。私はそのために生まれたの。

[スカジ] それなのに……私だけを残して、皆死ぬ。……どうして私なの? 厄災はいつもやってくるくせに、どうして私を殺せないの? どうして……私の傍にいる人ばかり殺していくの……?

[スカジ] ……ファンは……いい人だったのに……

[ホセ] やめろ!

[スカジ] どうして……どうして彼らが……死ななきゃいけなかったの……?

[スカジ] 私を追ってくる影を皆殺しにしないと……でも、私じゃ影を見つけられないの……見ることすらも……叶わない……

[スカジ] それなら、私はどうすればいいの……? 皆から離れる以外に、守る方法なんてないじゃない……

[スカジ] 仮にあったとしても……一体誰が教えてくれるというの……?

[ホセ] わかった……わかったよ。*サルゴンスラング*、君の勝ちだ。

[ホセ] この一瓶は全部君にやろう。そいつを飲み干したら、私のようにしこたま泣いて、ぐっすり眠るといい。

[スカジ] ……無駄よ、もう試したもの。

[ホセ] なら夢を見ろ。いっそ君にとっては、そっちの方が現実味があるかもしれない。それに手がかりもな――例えば、お前さんだけの宝の地図とか。

[ホセ] ああ、それがいい。地図を見つけるんだ、スカジ。そうすれば、君の旅はきっといいものになる。生きている限り、前へ進め。その方が足踏みを続けるよりずっとマシだ。

[スカジ] 宝の地図……

[アニタ] 歌い手さん? 大丈夫ですか?

[アニタ] なんだか、つらそうでしたけど……あなたでもそんな顔する時があるんですね。

[スカジ] ……大丈夫よ。何でもないわ。

[アニタ] それ、ずっと握りしめてましたよ。大切にしてる物だって知らなければ、握り潰したいほど怒ってるのかと勘違いしちゃうところでした。

[アニタ] えっと……怒ってないん……ですよね?

[スカジ] ……これは彼女の物なの。

[アニタ] 彼女? あなたが探している仲間のことですか? なるほど、本当に諦めるつもりはないみたいですね。

[スカジ] ……彼女は重荷なんかじゃないわ。

[スカジ] 彼女が……私を救ってくれたの。航路を示してくれたのよ。

[スカジ] だったら、示された方へ進み続けていれば、きっと答えが見つかるはずだわ。

[アニタ] 歌い手さんは、何を探してるんですか?

[スカジ] 私にもわからないのよ。もしかすると私が誰なのか、という問いへの答えかもしれないし……ただ為すべきことを知りたいだけかもしれない。

[スカジ] 例えば、廃墟で何かを探している時、そこに何があるのか、事前に知ることができる?

[アニタ] わあ、そう言われると、確かにわからないのれす。

[スカジ] つまり……見つけた時に初めてわかるものなのよ。

[審問官] いるんでしょう!? 中に入れなさい!

[アニタ] た、大変……!

[アニタ] 歌い手さん、彼女に逆らったらダメです。扉を開けましょう。

[スカジ] どうして?

[アニタ] ……

[アニタ] だって、あなたはイベリア人じゃないですから。

[スカジ] それがなんだっていうの。

[アニタ] あの人は審問官ですよ。審問官は……

[審問官] ここにいるのはわかってるのよ。うまく変装したとでも思っているのかしら? あんたが街に来た時から、ずっと見てたんだから!

[審問官] さあ、扉を開けなさい。そこの市民、一体何を匿ってるかわかってるのかしら……

[アニタ] 匿う!? そんな、わ、私は別に何も隠してなんて……

[審問官] 三つ数えるうちに開けなさい。もし抵抗するなら、その時は力ずくでいかせてもらうわ。

[審問官] 一、二――

[審問官] 三! けほっ、けほけほ……何これ、すごいほこりじゃない! どれだけ放置されてたのよ……

[審問官] ……あら、エーギル人。やっぱりここにいたの……ねっ!

審問官の鋭い剣が、空気を斬り裂かんばかりの勢いで振るわれる。

しかし、その一撃をもって仕留められるはずだった相手は、低く屈むことで斬撃を躱すと、するりと横へすり抜けた。

そして彼女は、こともなげに審問官の剣を躱し続ける。切っ先はそれを追うものの、髪の一本にも触れられない。

[アニタ] 歌い手さんが……よ、避けた!?

[アニタ] す、すっごい速さ――あの体勢……どうなってるの?

[アニタ] 椅子の……背もたれに立ってる! どうってことないって顔してるけど、一体何がどうなってるの? すごいバランス感覚……

[審問官] ふん、ただのまぐれよ!

[審問官] そのまぐれが、いつまで続くか……見せてもらおうじゃない!

[アニタ] また避けた! 一瞬であっちまで跳んでいっちゃうなんて……風に飛ばされる海草なんかよりもずっと軽くて速く見える!

[スカジ] そんな棒切れを振り回したところで、私には通用しないわ。

[審問官] ぼ、棒切れ……ですってぇ!?

[審問官] よくも侮辱してくれたわね……

[審問官] この代償は必ず支払ってもらうわ!

[アニタ] わっ――すごい力! 椅子が真っ二つになっちゃった! 周りの棚にも……あっ、床にまでひびが入ってる!

[アニタ] も、もう見てられないよ……でも、歌い手さんが……

[アニタ] あれ、大丈夫そう……まさか、全部避けたの? すごい!!

[アニタ] ううん……避けてすらいないみたい。追い込まれてる感じが全然しないもん。それどころか、不思議なリズムで踊ってるみたいで……

[アニタ] ……き、綺麗……!

若き審問官の顔は今や真っ赤になっており、額から次々と汗が滴り落ちていく。彼女は未だその剣をしっかりと握りしめてはいるが、呼吸は弾み、速さを増していた。

狭い室内は切り刻まれていく一方だったが、スカジにとってはそれすらも広い荒野をのんびりと歩いているのと大差なかった。

[審問官] くっ……いつまで逃げ回るつもり?

[審問官] エーギル人は皆そう。私たちの国に忍び込み、こそこそと物陰に隠れて――

[審問官] ――はぁっ!

[アニタ] ……外した? 壁を斬ったの?

[アニタ] 審問官……疲れてるのかな?

[審問官] ふん、私が狙いを外すわけないでしょう――

[アニタ] か、壁が崩れちゃった!

[アニタ] よかった、反対側にいて……

[アニタ] でも、歌い手さんは……逃げ場がなくなっちゃった。そうか、審問官はわざと壁を崩したんだ……!

[審問官] さぁ――もう逃げられないわよ。

[審問官] この剣を受けなさい。それが罪への判決よ!

[スカジ] ……面倒ね。

[審問官] えっ……そ、そんな!

[審問官] 私の剣が、簡単に止められるなんて……

[審問官] いくら全力じゃないとは言え……エーギル、あんた一体何者なの?

[スカジ] さすらいの歌い手よ。

[審問官] バカ言わないで! こっちは、あんたがサルヴィエントに入った時から、ずっと後をつけてたのよ。

[審問官] 誤魔化せると思ったら大間違いなんだから! ただの歌い手がこんなに強いわけないでしょ!?

[スカジ] ……はぁ、ホセさんの努力は無駄だったみたいね。

[審問官] 誰よ、ホセって?

[審問官] とにかく私は、あんたが海辺でやったことも全部見てたのよ!

審問官が息もつかせず剣を繰り出す。斬りつけたと思えば刺突を叩き込み、振るわれるその剣は先ほどまでより速く、そして正確だ。

しかもその剣は、目の前のエーギルを攻撃するにとどまらず、ありとあらゆる角度から空間を素早く斬り裂いていく。そう、相手に隙がないのなら、剣術を以て隙を作り出す算段だった。

――しかし、そもそもスカジは隙だらけだった。彼女には初めから防御しようという気すらなかったのだ。

繰り出した斬撃はすべて、無情にも彼女の持つケースにぶつかり、無力化されていく。

[審問官] 答えなさい! あんたの目的は何?

[スカジ] あなたには関係ないでしょ。お節介なのね。

[アニタ] す、すごい!

[アニタ] 審問官を怖がらないどころか、挑発してる!

[アニタ] あっ、もしかしたら挑発じゃないのかも……歌い手さんってずっとあんな感じだし。半日一緒にいたせいか、私はすっかり慣れちゃったけど……あーあ、審問官はさっきよりも怒ってるみたい。

[審問官] 私は……審問官なのよ!

[審問官] イベリアで起こることに、私たちと無関係のものなど一つもない。

[審問官] 法律が禁じた全ての過ちを察知し、それらを正す必要があるの。

[審問官] ここの海は間違っているわ。あいつらが増え続けている。この都市はもうすぐ……いいえ、既に邪悪な何かの巣窟となっているのかもしれない。

[審問官] 言いなさい、エーギル。この異常はすべて、あんたがもたらした……そうでしょう?

[審問官] あんたが厄災をもたらし、あいつらをここへと集めた――

[スカジ] ええ、そうね。

[審問官] そしてあんたがここの住民に異端思想を植え付けて、海に行くよう扇動した。彼らを見なさい! あの不気味な様子……あれじゃあ、まるでエーギルじゃない!

[スカジ] ……何ですって?

[審問官] この海で何が起きたか、あんたがわからないわけないでしょう。なのに、あんたのその目ときたら――

[審問官] まったくの無関心じゃない!

[スカジ] そうね……

[審問官] その冷酷な態度のどこが普通だって言うのよ! まさか、そんなざまで自分はやってないとでも言うつもり!?

[審問官] 逃がさないわよ、エーギル――! あんたたちがこの国にどれだけの災いをもたらしたと思ってるの? 何を企んでいるのかぐらい、私にはわかってるのよ!

[スカジ] ……さっきから何を言ってるの?

[アニタ] 審問官、何言ってるんだろ?

[アニタ] 歌い手さんは今日来たばっかりなのに……それに、厄災って? 私たちが不気味って……どうして?

[アニタ] 海に行くのは……私たちが自分で決めたこと、だよね?

[アニタ] それに、エーギルって何なの?

[アニタ] わからないことばっかり。

[スカジ] あなたじゃ私を倒せないわ。

[審問官] そんなの、やってみなければわからないじゃない。

[スカジ] 時間の無駄よ。

[審問官] ちっ。確かにあんたの言う通りね。こんな話をしたところで、時間の無駄だわ。

[審問官] もっと早く――あんたを仕留めるべきだったのよ。

突如、審問官が剣を収めた。すると彼女は懐からハンドキャノンを取り出し、それを両手で握りしめる形でスカジに照準を定めた。

[アニタ] えっ……!?

[スカジ] 伏せて。出てきちゃダメよ。

[審問官] ふっ……エーギル、私のすごさが身に沁みたかしら?

[スカジ] スカートが……

[スカジ] 一箇所、穴が空いちゃったじゃない。ホセさんに返さないといけないのに……

[審問官] あ……あんた、まさか無傷なの!? そんな……ちゃんと狙ったはずなのに!

[スカジ] まだ続けるつもり?

[スカジ] というか、それ……扱いが難しいみたいね。

[スカジ] そうでなきゃ、お喋りなんかせずに、もう一度狙いを定めるはずだもの。

[審問官] わ、私は……

[スカジ] あなたの話だけど、私には意味がわからないし、興味もないわ。

[スカジ] だから……

その時、一筋の光が夜闇を裂いて、スカジの頬を照らした。

光は、何者が手にした灯りから差されたものだった。

スカジは無表情に、ただ灯りを持つ人影を見やった。彼女の顔には今や先刻までの煩わしげな様子さえもなく、一切の機微を覗かせない。

その光を目にした途端……若き審問官は瞳を輝かせた。

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