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吾れ先導者たらん_GA-6_レクイエム_戦闘前
セシリアが自らの第一歩を踏み出した。彼女がどこまで歩みを進められるかは、誰にもわからない。いずれにせよ、彼女は最初の同行者を得たのだ。
[にこやかな隣人] やぁ、エゼル、おはよう! 今日も仕事か?
[エゼル] おはようございます。今日は……お休みをもらってます。
[にこやかな隣人] 休みにこんな早起きしてどうしたんだ? 浮かない顔だけど、悩み事か? まさか公証人役場でいじめられてるとか……?
[にこやかな隣人] それ見ろ、見栄は張れるけど大変な職場だって言っただろ!
[エゼル] ハハハ……
[にこやかな隣人] ほら、さっき買ったカップケーキだ。これ食って元気出しな。
[にこやかな隣人] どんなに大変な職場でも、所詮は仕事だからな。勤務中以外は考えない方がいいぞ! そもそもまだ研修期間中なんだし、面倒事は誰かが片付けてくれるって。自分を追い込み過ぎるなよ!
[にこやかな隣人] そんなにしおれてないで元気出せって。悩むだけ無駄さ!
[エゼル] 無駄ですか……でも……
[にこやかな隣人] だから悩むなって……ハハ、じゃあ俺は行くからな。
[エゼル] ケーキ……ありがとうございました。
これ以上ないほどに普通の朝、大通りを行き交う人はまだ少ない。
しかし、もうしばらくすれば、賑やかで騒がしい普段の様子に戻るだろう。
ラテラーノ人の生活とは……そういうものだ。
[???] クレープはいかがかな?
[エゼル] ありがとうございます、大丈夫です……まだケーキが……
[エゼル] アンドアインさん!?
[アンドアイン] 向こうの角のクレープ屋さんだけどね、看板メニューが一日限定二百個なんだ。早起きしないと買えないんだよ。
[アンドアイン] もう何年も経っているのに、オープン時間が変わっていないのは幸いだった。
[エゼル] ……ここで何してるんですか?
[アンドアイン] 散歩さ。
[エゼル] 指名手配されてる都市で……散歩ですか。
[アンドアイン] ああ、気にすることはない。
[エゼル] ……安魂教会の人たちはどうしてるんですか?
[アンドアイン] 皆安全な場所にいるよ。事が終われば、私と一緒にラテラーノを去る予定だ。
[エゼル] どこへ行くんですか?
[アンドアイン] どこだろうね。
[エゼル] ……セシリアも連れて行くんですか?
[アンドアイン] いいや、あの子はもう私たちのもとを離れたよ。
[エゼル] ……!?
[エゼル] なっ、どうして……?
[アンドアイン] やりたいことがあるそうだ。今はまだ、ほんの些細な願望かもしれないが……それでも、自分の道を見つけたのさ。
[アンドアイン] あの子は歩み続けるだろう。……我らには越えられぬイバラを踏み越え、我らには踏み込めぬほどの苦境に立ち向かいながら……およそ想像も及ばぬような、遠くへと。
[エゼル] ……どういう意味ですか?
[アンドアイン] 案ずることはないよ、エゼル君。あの子は我々よりもずっと立派なんだ。
[アンドアイン] しかし、君のことは必要としているかもしれないね。
[エゼル] ……僕みたいな一般人に何ができるんですか。
[エゼル] 恥ずかしい話ですが……これまで僕はずっとヒーロー気取りで、約束は絶対に果たすとか、仕事がなくなっても構わないとか言ってましたが……
[エゼル] 昨日家に帰ってから、怖くなって一晩中ずっと考え込んでしまったんです。
[エゼル] 混血のサンクタ、堕天使、レガトゥス、サルカズ、サミット、怪しい異端組織……
[エゼル] どうして僕がこんなことに関わってるんだ……って。
[エゼル] 僕はもともと、それなりにまともな仕事に就いて、できることなら事務職を割り振られて、黙々と働きながら平穏に一生を過ごす……それだけで良かったんです。
[エゼル] ここ数日はちょっと脇道に逸れましたが、すぐにもとの道に戻れたのは幸運でしょう? 数十年後にふと思い出して、武勇伝として友達に語れるような不思議な経験をしただけ……
[エゼル] それじゃダメですか?
[エゼル] ……今だって、あなたの話に付き合わずにさっさと立ち去るべきなのかもしれません。
[アンドアイン] でも君は、立ち去ろうとしていない。
[エゼル] ……
[アンドアイン] 自分に嘘はつかなくていい。
[エゼル] ……どうすれば自分の本当にやりたいことがわかるんでしょう?
[アンドアイン] セシリアと同じ質問だね。
[エゼル] ……あの子も同じことを?
[アンドアイン] ああ、言い回しは多少違えどね。
[エゼル] 何と答えたんですか?
[アンドアイン] あるお話をしてあげたよ。
[エゼル] ……聞かないほうがいい気がしてきました。
[アンドアイン] どうしてだい?
[エゼル] ……あなたの言葉にはとても影響力があるように思えます。知らず知らずのうちに惑わされてしまうんじゃないかって……
[アンドアイン] そうなりたくないと思うなら、ならないさ。
[エゼル] その言葉すら不気味に感じてしまいます……
[アンドアイン] 実は私は、君にあることを伝えに来ただけなんだ。
[アンドアイン] この後どうするかはすべて君次第だよ。
[アンドアイン] ……セシリアが鐘楼へ向かった。
[エゼル] ……何をしに?
[アンドアイン] お別れを。
[セシリア] ……
[セシリア] あの、何かご用?
[オレン] いやぁ……なぁお嬢ちゃん、朝っぱらから街中でひとりぼっちなんて怖くねぇのか?
[オレン] お兄ちゃんやお姉ちゃんたちは一緒じゃねぇのか?
[パティア] 先導者様、オレンです。
[アンドアイン] 構わない。彼がどうするか見てみるとしよう。
[セシリア] わたしにはやることがあるの。
[オレン] 小せえのにしっかりしてんだな。
[オレン] あの男の考えは全然読めねぇが、残念ながらお嬢ちゃんを行かせるわけにはいかねぇんだ。
[セシリア] わたしを大聖堂に連れて行きたいの?
[オレン] 大聖堂? いやいや、大聖堂なんてとんでもない。
[オレン] むしろ逆だ。お嬢ちゃんが大聖堂に行かずに、あの老いぼれの手に渡らないならどこへ行ってくれても構わないぜ。
[オレン] 元々はアンドアインが連れ去ってくれればいいと思ってたんだが……あいつも気が変わったみたいだし、こうなったら俺がやろうってわけだ。
[セシリア] ……もしわたしが大聖堂に行ったら、何か悪いことが起きるの?
[オレン] 何とも言えねぇな。
[オレン] 俺だってこう見えて、お嬢ちゃんのことをかなり大切に思ってるんだぜ? ずっと昔の話だが、フェオリアとはダチの仲だったからな……
[オレン] とにかくよ、お嬢ちゃんの存在はその小さな頭で考えつくことの何倍も役に立つんだ。うまく使えば……ラテラーノを追い込むことができる。
[オレン] なんせお嬢ちゃんは、サルカズでありながらサンクタになった貴重な存在だからな。
[オレン] 別にラテラーノを危険にさらしたいわけじゃないが、とにかく人や情勢を動かせるだけの仕掛けが……取引や交換に使える交渉材料が必要なんだよ。
[オレン] そんで俺は、お嬢ちゃんみたいな貴重な交渉材料を脅威にさらしたくないってわけだ……その価値が失われるかもしれないような脅威にはな。
[セシリア] お兄さんの言ってること、よくわからないよ。
[オレン] わからなくてもいい……俺の誠意が伝わりさえすればな。ともかく悪いようにはしないからよ。平和的解決ができるなら、こっちも暴力沙汰は御免だってんだ。
[セシリア] だけど、今はダメなんだ。
[セシリア] おねがい、ここを通して。この先の鐘楼に行きたいの。
[オレン] チッ……
[???] ここを通してと言ったのが聞こえなかったんですか。
[セシリア] エゼルお兄ちゃん! 来てくれたの!
[エゼル] お待たせ、セシリア。ママを探す約束も、一緒にお別れをする約束もまだ果たせてないからね。
[オレン] いやぁ泣けるねぇ。自由を奪われた混血の少女と約束を守り通そうとする執行人か……今年度の昼ドラ一位はこれに決まりか? 拍手を送りたい気分だぜ。
[オレン] あーあ、できれば俺だって悪役になんてなりたくないんだけどな。
[エゼル] うっ!
[セシリア] エゼルお兄ちゃん!
[オレン] 同族相手に銃は使えねぇが、やりようはいくらでもあるんだぜ。
[エゼル] セシリア、今のうちに行くんだ! 鐘楼はもうすぐそこだ!
[セシリア] でもお兄ちゃんが!
[エゼル] もう一つ約束するよ――僕も後から必ず追いつく! だから先に行くんだ!
[セシリア] ……わかった。
[セシリア] エゼルお兄ちゃん、鐘楼の上で待ってるね。
[オレン] 俺を止めるなんてな……やるじゃねぇかエゼル。お前も準備万全で来たってか?
[オレン] だが、共感嫌いの俺にまでお前の恐怖が伝わってくるぜ。
[エゼル] おしゃべりは結構です。
[オレン] 俺たちが同じ道を歩んでるかもって考えたりはしなかったのか?
[エゼル] 少なくとも、今は違うと言い切れます。
[オレン] へいへい、じゃあお前の実力を見せてもらうとしようか。
[オレン] ……なぁ、お前はこれからどれだけの重荷を背負わされることになるのかわかってんのか?
[パティア] ……あの執行人見習いはオレンを止められるのでしょうか?
[アンドアイン] 難しいだろうね。オレンはまだ本気を出していないし、エゼル君は執行人として行動しているわけでもないから……大きな妨げにはなり得ないだろう。
[パティア] あの……先導者様、あたしは先導者様の決定に従ってはいますが、今の方針に賛同してるわけじゃないんです……
[パティア] セシリアは「求道者」に留まるべきだと思います。あたしたちのためというだけでなく、あの子自身のためにも。
[アンドアイン] 私にあの子の運命を決めることなどできないよ。これは私ではなくあの子自身の決定だからね……あの子に選択の機会を与えてやれただけでも、我々の栄誉と言えるかもしれない。
[アンドアイン] 私の成すべきことは変わらない、心配はいらないさ。
[エゼル] ハァ……ハァ……
[オレン] お前、研修期間の執行人にしては、なかなか悪くなかったぜ。
[エゼル] 僕は……まだ負けていませんよ……
[オレン] そんなに病院送りにされてぇのか? 人の骨をへし折る趣味はねぇんだけどな……
[オレン] エゼル、なんでただの一般人のお前がここまでするんだよ。さっさと帰ってケーキやら茶やらを楽しんで、自由気ままに幸せな日々を満喫してろよ。
[エゼル] もう……決めましたから。
[オレン] 「決定」だの「選択」だの、お前らってほんとにそういうのが好きだよな……「選択」には代償が伴うもんだが、その辺はちゃんと考えてんのか?
[オレン] 万一に備えての準備だったが……みんなすまねぇ、やっぱりちょっくら手伝ってくれ。
[求道者トランスポーター] オレン、君に手を貸すというよりも、これが正しいと思うからこそ協力しているということを覚えておいてくれ。
[エゼル] ……
[オレン] どうだ、エゼル? 「時務を識るは俊傑に在り」だ。
[オレン] おっと、これも炎国のことわざだ。意味は……
[オレン] 残念だぜ、エゼ……
[オレン] ……はぁ。
[エゼル] フェデリコ先輩!
[フェデリコ] 執行人見習いエゼル・パストーレ、臨時招集によりあなたの休暇はここで終了となります。ただいまより私の追跡任務の補佐をお願いします。
[フェデリコ] オレン・アルジオラス、あなたの正体も判明しました。第七庁はすでにあなたのレガトゥスの任を解いています。抵抗は諦め、第一庁までご同行願います。
[オレン] まだやらなきゃいけないことが山積みなんだが、どうしてもか?
[フェデリコ] ええ、どうしてもです。
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