aklib_story_将進酒_IW-1_化物_戦闘前

ページ名:aklib_story_将進酒_IW-1_化物_戦闘前

このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。

各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。

著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。

将進酒_IW-1_化物_戦闘前

客桟内、リーは突然ドゥという女性の襲撃を受けた。釈明する間もなく、店内は一瞬にして混乱状態に。近くにいたクルースとウユウはリーだと気づくと、二人も巻き込まれるのだった。


尚蜀には、行裕客桟の支店が十数ある。しかし、どの店も等しく行裕と呼ぶわけではなく、行禄と呼ぶもの、行福と呼ぶものと様々あり行裕の名を冠するのはこの店しかない。

遠く湖面に映る双月、近くそびえ立つビルの照明、その二つを一時に見渡せるのも行裕だけである。番頭が土地を選ぶ時、考慮するのは景観だけだ。客層だの賃料だのは気にもしない。

景色さえ良ければ、客の気分は良くなる。眺望さえ良ければ、すべてが味方につくのだ。繁盛しない方が難しいというものである。

[リー] うむ……確かに茶も景色も良いですねぇ。

[船頭] それは重畳。尚蜀へは初のご来訪ですから、是非良い印象を残していただきたく、ここを選びましたからね。

[リー] 行裕客桟とは、古式ゆかしい名ですねぇ。

[船頭] 有名な店です。元々は他業種を営んでいたそうですが、ここ数年で急に鞍替えをしましてね。主人の腕がいいもので、商いはこの上なく順調です。

[船頭] 商売の規模は大きくなりましたが、主人は今も……

[リー] ……あっちで忙しそうにしている旦那さんですか?

[船頭] まさに。

[リー] 言っちゃなんですが、経営者にはちっとも見えませんねぇ。真面目に働いて、こりゃご立派だ。

[リー] それに引き換え、おれの同窓のリャンくんは……今頃何をやっているんですかねぇ。

[船頭] 今ご自分でおっしゃってたじゃないですか、真面目に働いているんですよ。

[リー] ……ここだけの話、役人としては及第? どうです?

[船頭] 街で適当に聞いてみればすぐに分かりますよ。靴磨きだろうと甘藷(かんしょ)売りだろうと、辻待ち車の運転手だろうと、リャン様の話を聞けば揃って親指を立てます。

[リー] ……あは、ならばあいつの願いが叶ったってもんです、羨ましい限りですねぇ。

[船頭] リャン様から聞きましたが、あなたは彼と十年以上お会いしていないようですね?

[リー] ええ。

[船頭] ですがリャン様はこの荷物の配達役にあなたをお選びになった。

[リー] その通りです。

[船頭] 私は見識が狭いもので、これが一体どういったものかは見極められません。ただ、リャン様の顔を見てわかりました、今回の件は抜かりがあってはならないと。

[船頭] そんなものを任せられるお二人の関係も、きっと親指を立てて賛辞すべきですね。

[リー] とんでもない! おれは「リャン様」とはなーんの関係もありませんしねぇ。ただ、梁洵(リャン・シュン)という人物でしたら、確かに知っている仲と言えなくもないですが。

[船頭] やはりご友人で?

[リー] 頭に「親しい」が付きますね。

[船頭] それはそれは。親友とは得難いものです。十数年会うことがなくともまだ親友でいられる間柄ならば、なお一層に。

[リー] そう言う慎(シェン)さん、あなたの方はどうなんです?

[船頭] はて。私ですか?

[リー] 渡し場にはあんなに船頭がいたのに、おれはわざわざあなたの舟を選んだんですが、それを不思議に思いませんか?

[船頭] 思いませんね。リャン様から言われていましたので、大方あなたにも話が行ってることでしょう。それ以上なにも、私が聞く必要はありません。

[リー] これはリャンのやつのために密輸業者から奪ってきたんです。ずいぶんと骨が折れましたよ。

[船頭] ……聞いてもいないのに話し出すなんて、よほど話したかったのですね。

[リー] いえね、遠路はるばる一人でやってきたもので、とんと話し相手がいなかったんですよね。

[リー] あなたはどうもリャンを大変信頼しているようですね。あーんな仏頂面で、にこりともしないやつだっていうのに。

[船頭] はぁ。あなたが彼を信じているのは、彼があなたの友人だから。私が彼を信じているのは、彼が尚蜀を治める長だからです。

[リー] あいつとは旧知の仲とか?

[船頭] ええ、リャン様は善き為政者です。その意味で、尚蜀の民の一人である私もよく存じ上げていますよ。

[リー] シェンさんは船頭のご稼業を始めてどのくらいで?

[船頭] 覚えていません……何年水上で漂っているかをわざわざ指折り数える人なんていますか? ですがかれこれ……二、三十年ほどにはなりましょうか。

[リー] シェンさん、あなたも尊敬に値する方だ。

[船頭] よしてください、私はただの船頭ですよ。ここ数年で船にはエンジンが搭載されるようになりましたから、もう少しすれば、失業する恐れすらあります。

[リー] にしたって誰かが水先案内して、きちっと空のご機嫌を見なきゃならんでしょう。そうして漕いで漕いでと長く続けたら、船頭だって天災を読むトランスポーターと大差ないと思いますがねぇ。

[船頭] ……天災ですか。

[船頭] そうそう直面するものではありませんが、遭遇すれば、一生忘れられないものです。

[リー] シェンさんは天災に遭遇したことがあるんですか?

[船頭] あります。ですが天災よりもさらに恐ろしいのは、川ではなく――いえ、やめときましょう。こんな話は毒にも薬にもなりません。

[船頭] ……ふむ。

[リー] おや、どうかしましたか?

[船頭] ……これは珍しい、外国人のようです。

[客桟の店員] いらっしゃいませ、お二人様ですか?

[ウユウ] 二人です。

[クルース] この店がウユウくんが言ってた、「知らぬ者がいない超有名店、料理は絶品、サービスも最高、でもって決してぼったくらない」っていう行裕客桟?

[ウユウ] そうですそうです! 私の師匠が大昔に「行裕」のことを褒めていたんですが、尚蜀に来る機会がずっとなかったものですから、今回は是非にと思って恩人様をお連れしたのです!

[ウユウ] はぁ、ただですね……

[クルース] ただ?

[ウユウ] えへへ、お恥ずかしいことに、師匠はただ褒めただけで、具体的にどこが良いかまでは言っていなくてですねぇ……私もこの行裕客桟の何が優れているかまではわからないんですよね。

[クルース] ……

[客桟の店員] どうぞ、お茶です。

[客桟の店員] お二人様は、お食事ですか、ご宿泊ですか?

[クルース] わぁ、客桟の決まり文句だぁ。

[客桟の店員] へへ、この店は開いて数年ですがね、「行裕」って名に関して言えば百年の歴史を持つ老舗の号ですよ。

[ウユウ] 恩人様、どうせどこか仮の拠点を定めて待たなきゃなりません。ここは値段も妥当ですし、待ち合わせ場所の北の渡し場までも遠くありませんよ、いかがです?

[クルース] 私は何でもいいよぉ……

[ウユウ] では二部屋お願いします。見晴らしのいい部屋で頼みますよ。

[客桟の店員] へい、ありがとうございます、とびっきりの部屋をご用意致しますんで! 部屋に上がる前に何か召し上がっていきます?

[ウユウ] はて、ここは何を食べさせてくれるんですかな。

[客桟の店員] あちらの看板にあるものは全部お勧めですよ! 今は昼時なのでどれもお値打ちです! 決まったらお声掛けくだされば、飛んできますんで!

[ウユウ] わかりました、どれどれ……

[クルース] これ美味しそうだよぉ、すっごく炎国っぽいねぇ。

[ウユウ] ……恩人様、さすがに激辛毛血旺(マオシュエワン)セットは少しばかりどうかなって思うんですが……他のにしませんか?

[クルース] どうしてぇ? 郷に入っては郷に従えだよ、食べてみようよぉ。

[ウユウ] 私の経験上ですね、この手の料理は恩人様のようなレム・ビリトン人が昼間に食べるには適さないと思うんですよねぇ。

[クルース] そうなのぉ? 私辛いの結構平気なんだけどなぁ。

[ウユウ] ……

[クルース] ……何見てるのぉ?

[ウユウ] あちらの主人をご覧ください。

[クルース] どうしたのぉ?

[ウユウ] すごいですね。

[クルース] どうすごいのぉ?

[ウユウ] これだけ大きな事業を営んでいるのは当然すごいんですが、それよりもっとすごいのは……

[クルース] ……手にタコがあることぉ?

[ウユウ] さっすが恩人様、素晴らしい洞察力です!

[クルース] それに入った時からずっと、二階の方に私たちを見てる二人組がいるよぉ。

[ウユウ] おや?

[船頭] どうしてあの二人をじっと見てるんですか?

[リー] いやちーとね……あのコータスのお嬢さん、なーんか見覚えがあるんですよねぇ……

[テイ] ……

[客桟の店員] 番頭、今日はずっとここにいるんですかい? 渡し場の方の様子は見に行かなくていいんで?

[テイ] 行かん。今日は約束があるのでな、ここで客を待つ。

[客桟の店員] へぇ、番頭が接客するだなんて、きっと大事なお客さんですね。うちも今日は儲けられそうだ。どれくらいの商いなんですか?

[テイ] 稼げるとは限らんが、やることはたくさんあるぞ。

[客桟の店員] ……あっちの商売ですか?

[テイ] そうでもあるし、違うとも言える。

[客桟の店員] どういうことです?

[テイ] 質問ばっかりするな、いいからさっさと客を迎えんか。

[客桟の店員] チッ、ケチだなぁ。

[客桟の店員] いらっしゃいませ、お客様は――

[ドゥ] ……ふんっ。

[客桟の店員] ドゥお嬢様? これは――

[ドゥ] あんたには関係ないわ。どいてなさい。

[テイ] ……

[ドゥ] ねぇあんた!

[ウユウ] わわわ――お嬢さんずいぶん大きな声ですが、私にご用で?

[ドゥ] ……ごちゃごちゃした服に眼鏡、小汚いペテン師の風貌。

[ドゥ] これってあんたのことよね。

[ウユウ] ……えぇっと……その言われようはちょっと……

[クルース] ウユウくんの仇?

[ウユウ] いえ、何がどうなっても、奴らが小娘を仕向けてくるはずはありませんから……

[ドゥ] ちょっと、誰が小娘よ!

[ウユウ] ――!

[ウユウ] (ひと蹴りで椅子を吹っ飛ばすとは――見事な足技!)

[ドゥ] ふんっ。座りながらかわすなんて、なかなかの反応じゃないの。

[街の青年] ちょっとちょっと、お嬢様!

[ドゥ] 何よ、今取り込み中なのがわからないの――

[街の青年] こいつリーベリですよ。確か手紙には相手は龍ってあった気が……

[ドゥ] ……

[ウユウ] ……

[ドゥ] ……だったら二階のあいつしかいないじゃない。ねぇそこの、あんたでしょ!?

[ウユウ] ちょっとちょっと、せめて謝っていくべきでは!?

[クルース] まぁまぁ……うん?

[リー] ……これでも、服のセンスは悪くないつもりですけどね。

[船頭] あの様子だと、ひと暴れしそうですね。

[リー] 入って早々に椅子と取っ組み合いですからね。あっちの可哀想なあんちゃん、意味もなく殴られるとこでしたねぇ。

[ドゥ] 見つけたわよ、この盗人! さあ大人しくブツを渡しなさい。

[ドゥ] ふんっ、にしても白昼堂々と街に紛れ込むなんて、随分と度胸があるのね。

[リー] ……ドゥの嬢ちゃん、って言いましたか? 何かの勘違いじゃありませんか?

[ドゥ] あんた龍門から来たんでしょ?

[リー] えーと、はい。

[ドゥ] 古い酒杯を持ってきたんじゃないの?

[リー] ……

[ドゥ] 言い訳があるなら一分だけ聞いてあげる。それが終わったらさっさとブツを渡して、あたしと一緒に来なさい。

[リー] 今時の娘っ子ってのは、みんなこんなに人の話を聞かないもんなんですか……うちの、あの物分かりのいいガキどもが恋しくなってきますねぇ。

[船頭] ……そんな顔で私を見ないでください。リャン様から、あなたに頼んでわざわざ荷物を運んできてもらったと聞いています。

[船頭] リャン様がそうおっしゃっているからには、私は彼を信じます。

[リー] それはそれは、シェンさんの信頼に感謝しますよっと。

[船頭] ですが妙ですね……リャン様の依頼なのに、こんな堂々と奪うと宣言しますか?

[リー] はぁ。

[リー] この酒杯は、うちにいる娘っ子が密輸業者から奪ってきたものでしてね、それでまぁ合法的な手続きを踏んでいるかと言われれば……あはは。

[船頭] 珍しい品物なんですか?

[リー] それが一通り調べましたが、残っているのは真相不明の伝説だけでしてね。密輸業者どもが地元民の口から聞いたそうなんですが……

[リー] はぁー、どうしてこんな面倒事にぶち当たっちまうもんかね。

[クルース] (ウユウくん、こういうシーンは映画で見たことあるよぉ!)

[ウユウ] (私もですよ! でも、こういう時は大体警察を呼んで逃げるとかして、実際に戦わないじゃないですか……)

[ドゥ] ねえ、コソコソ話は終わった? 言い訳は思いついたかしら?

[ウユウ] (あのお嬢さん、すさまじい威勢ですね……二階のお二人が容疑者でしょうか?)

[クルース] ……

[ウユウ] (恩人様?)

[クルース] (ウユウくん……あの人……私知ってるかもぉ……)

[ウユウ] (なんと。あの確かに見た目が七割、雰囲気が二割ほど私に似ている人物ですか!?)

[クルース] (いや、あの人は、えーっとぉ……ロドスに協力してる人というか……ん? 残りの一割はぁ?)

[リー] まあまあ、嬢ちゃんね。どうせお前さんに捕まったんだ、おれは逃げられない。それならいっそ警察を呼んで……

[ドゥ] 時間稼ぎをしたいのかしら、別にいいわ。あんたがどれだけ長引かせられるか見てあげる。

[ドゥ] かかりなさい!

[街の青年] そいつを逃がすな!

[ウユウ] お待ちを!

[ドゥ] ……何よ、さっきのことで文句でもあるわけ?

[ドゥ] 終わるまで邪魔せず黙っててくれるなら、あんたのここでの出費はこのあたしがすべて持ってあげてもいいわ、どう?

[ウユウ] 恩人様、首を突っ込む前によーく見ましょう。もし人違いだったら関わっても割を食うだけですよ!

[クルース] ……リーさん?

[リー] ……ん?

[リー] あなたは……金の髪で、目を開けてるのか閉じてるのかよくわからない子ウサギの……ロドスのオペレーターですね?

[ウユウ] おお、天下広し、炎国広し、尚蜀広し、異郷の酒楼にてこの時この場で、恩人様のお知り合いに巡り会うとは、なんと驚くべき奇遇……

[ウユウ] いやはや皆々様方、ここは私に免じて、ひとまず休戦といたしませんか。

[ドゥ] ――なに訳のわからないこと言ってんのよ、あんたたちやっぱりグルだったのね!

[ドゥ] そいつらを囲みなさい! 盗んだブツを差し出さない限り、誰もここから離れられるとは思わないことね!

へえ? なぜ突然そのような考えを?

罔両(もうりょう)が影(かげ)に問うのを夢に見て、感じるものがあってね。

ではお手並み拝見といこうか。これら尋常の品に、君はどうやって験を現す気かな?

無意識に為したことで、笑わないでほしいな。

[リー] ……!

[リー] 何だ……今のは……

[ウユウ] 恩人様、お気を付けて!

[クルース] みんな普通の人だから、手加減してあげてねぇ。

[街の青年] あのリーベリは武術を心得てるから気を付けろ! コータスの方は俺に任せ――ってあれ? どこ行きやがった?

[クルース] どうしてそうやってすぐ手を出すのかなぁ……

[街の青年] い、いつの間に二階に!?

[クルース] 怪我させる必要はないよ、ウユウくん。ほどほどにねぇ。

[クルース] リーさん、こっちこっち~。

[リー] 本当に、あなた方まで巻き込んじまって申し訳ありませんねぇ。

[クルース] リーさんに会うとは思ってなかったよぉ。とりあえず、ここを離れようかぁ。

[ドゥ] あんたたち! あたしを無視するつもり!? なに勝手に行こうとしてるのよ!

[ウユウ] おっと、ここから先は通行止めですよ!

[ドゥ] しゃしゃり出てこないで!

[客桟の店員] ……扇子? あのペテン師……いや、あのお客様の戦法は変わってますね。

[テイ] ……

[客桟の店員] 番頭、いいんですか。さっさと喧嘩を止めないと、あいつらに店をめちゃくちゃにされますよ?

[テイ] ……はぁ。

[客桟の店員] あの扇子使いは飄々と技を受け流してますし、お嬢様も全力ではありません。いま番頭が間に入ればまだ丸く収まるのでは?

[客桟の店員] お嬢さんも多少は遠慮してくれてるみたいですね……

[テイ] はぁ。

[テイ] これだからこの商売は!

早春の夕暮れ。風は過たず吹き渡り、雨は降るのか降らぬのか。尚蜀の春というのは、いつもこうだ。

男が空を見上げた。紗のように霞がかかり、明るいとも暗いとも言えぬ具合だったが、それの向こう側、遥か遠くの方にはかえって明瞭に光が見える。

軽やかな風が衣を払う。春なれど未だ寒く、しんと肌に染み込むようだ。

[仏頂面の男] 時間からして、彼もそろそろ着いた頃だろう。

[仏頂面の男] ……うむ……

[仏頂面の男] 何事もなく事が済めばいいが。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧