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風雪一過_BI-ST-3_敗着の一手
大典の真っ只中、エンシオディスは他の両家がよからぬことを企んでいると指摘した。 民衆はエンシオディスに味方し、両家の当主はSharpの助けによってかろうじて逃げ延びた。
[イェラグ民間人A] なにっ? 昨日エンシオディス様が山で襲われただと!?
[イェラグ民間人B] うそ? 本当に?
[イェラグ戦士] ああ。アークトス様が大長老に報告するよう、グロ将軍に命じたらしい。
[イェラグ戦士] 俺の叔父さんの甥っ子が、グロ将軍と一緒に戻ってきたもんでな。
[イェラグ戦士] さっきここを通りかかったときに、そいつから聞いたんだ。
[イェラグ民間人A] 小僧、そりゃ大変なニュースじゃないか!
[イェラグ戦士] だろ!?
[イェラグ民間人B] でも、エンシオディス様を襲うなんて、そんな度胸のある人は一体どこの誰なのかしら!? しかも聖猟の最中でしょ!
[イェラグ民間人A] まさかチェゲッタか?
[イェラグ民間人C] 人だろ、チェゲッタなんているわけない。
[イェラグ民間人C] どうせペイルロッシュかブラウンテイルの連中の仕業だ。
[イェラグ民間人C] これまでもペイルロッシュ家とブラウンテイル家は、示し合わせてシルバーアッシュ家を抑えつけてきたんだ。口ではエンシオディス様の行いが信仰を踏みにじったなんて言っているが──
[イェラグ民間人C] 本当はシルバーアッシュ家の土地を狙ってるんじゃないのか?
[イェラグ戦士] 憶測で喋るのはやめとけよ。
[イェラグ民間人C] 憶測? エンシオディス様が留学に行った時、ブラウンテイル家がシルバーアッシュ家の土地をどれだけ奪ったか知らないわけじゃないだろ?
[イェラグ民間人B] ……
[イェラグ民間人C] 今、エンシオディス様は改心して、巫女様に従順な態度を示した。その結果、両家はシルバーアッシュ家を抑えていられなくなって、焦り始めたんだろうよ。
[イェラグ民間人A] それは……
[イェラグ戦士] お、お前はどこの家のもんだ!?
[イェラグ民間人C] ブラウンテイル家の者だが、それがどうした?
[イェラグ戦士] ブラウンテイル家だと? ならどうして自分のとこをそんなふうに悪く言うんだ!
[イェラグ民間人C] 長い間谷地で働いているうちに、エンシオディス様が受けている不公平な扱いを心底実感したからさ!
[イェラグ民間人C] エンシオディス様はイェラグにたくさんの素晴らしいものをもたらしたにもかかわらず、三家会議では常に抑圧を受けている。
[イェラグ民間人C] 今、エンシオディス様は自ら主権奉還を申し出て、蔓珠院と巫女様との関係も修復しようとしているんだ。それなのにこんな扱いを受けていいと思うのか?
[イェラグ民間人C] 君がペイルロッシュ家の者だろうが、その良心は痛まないのか!?
[イェラグ戦士] お……俺は……
[イェラグ民間人A] それは……確かにそうだ……
[イェラグ民間人B] そうね……いずれにしても、エンシオディス様を襲うなんてことは絶対にあってはならない行為よ。
[イェラグ民間人A] しかも聖猟という神聖な儀式の真っ最中に行うとは、イェラガンドに対する不敬にもほどがある。
[イェラグ民間人C] そうだ! 今回の件は何がどうあれ、犯人にきっちりと責任を取らせなきゃならない!
[イェラグ民間人B] そうよ。
[イェラグ民間人A] そうだ、必ず犯人を見つけ出すんだ!
[ヤエル] どうしたの? 顔色があまり良くないわ。昨晩はよく眠れなかったのかしら?
[ドクター選択肢1] エンシオディスがやはりトラブルに巻き込まれた。
[ヤエル] ええ、噂はもう広まって、みんなその話題で持ちきりね。
[ヤエル] この件について納得のいく説明を求めている人がたくさんいるわ。
[ヤエル] その難しい表情……まさかあなたの予想をも超えてきたのかしら?
[ドクター選択肢1] 予想を超えていなかったからだ。
[ヤエル] え? じゃあ何が不満なの?
[ヤエル] ノーシスはエンシオディスとの不和が原因で決別し、彼を打ち倒そうと密かに企んでいた。
[ヤエル] だけどあなたは、エンシオディスには対策があるはずだと予想し、三家のいざこざにも首を突っ込みたくないから、ここでのんびりと大典を楽しむことにした。
[ヤエル] 私は表面上の事柄を並べているだけだけれど、でも実際、そういうことでしょ?
[ドクター選択肢1] 各勢力が把握している情報には差異がある。
[ドクター選択肢2] そうとも限らない。
[ヤエル] あなたが頭の中で何を考えているのか、ほんとわからないわ。
[ヤエル] でもあなたのおかげで、私も考えるのが楽しくなってきたみたい。そうね……
[ヤエル] うーん……エンシオディスは昔ノーシスと友人関係にあって、相当な策士でもある……そうなると、エンシオディスは最初からノーシスの裏切りに備えていたはず。
[ヤエル] だけど結果として、エンシオディスは襲われた。しかもこんな大きな騒ぎにまでなって……
[ヤエル] つまり、民衆がエンシオディスに同情し始めたこの状況は、意図的に作られたものである可能性もあるということ?
[ヤエル] でも、これがどんな影響をもたらすのかしら?
[ヤエル] 今頃、聖猟隊も帰路についているはず。
[ヤエル] すぐに大典最後の儀式が始まり、それと同時に巫女様の戴冠の儀も執り行われるでしょうね。
[ヤエル] 儀式で犯人を見つけ出したところで、エンシオディスがより厚い人望を手にする……せいぜいその程度よね?
[ドクター選択肢1] 実は、もう一つ可能性がある。
[ヤエル] 何かしら?
[ドクター選択肢1] まだ可能性にすぎない。
[ドクター選択肢2] すぐにわかる。
[大長老] ……巫女が聖猟において自ら獲物を射貫いたというのか。
[長老A] いかにも。
[大長老] それに加えて、エンシオディスが襲撃されたことが、すでに民衆の間で広まっておると。
[長老B] ええ。
[長老A] それだけでなく、一部の民衆からは、戴冠の儀の前に犯人の処罰を求める声も上がっております。
[長老C] 聖猟において同胞を傷つけるとは、イェラガンドへの不敬であるからして、当然処罰されるべきだ!
[長老B] だが巫女様の戴冠の儀というめでたい場でそのような……
[長老A] 二人が言っておることはどちらにも理がある……大長老よ、どうご決断なさるおつもりで?
[大長老] ……
[大長老] 黒幕が誰だろうが、エンシオディスの手腕をもってすれば、ひっ捕らえることは可能じゃろう──
[大長老] ただ、この件は恐らくそう単純なものではない。
[長老A] ……大長老、それはどういうことでしょう?
[大長老] 巫女の行いはますますタガが外れ、それに対してエンシオディスはがらりと態度を変えた……
[大長老] この兄妹は、一体何がしたいのじゃ?
[長老A] それはつまり……あの兄妹が……?
[大長老] いいや、あの兄妹が通じておる可能性は皆無じゃ。
[大長老] ただ、これこそがあやつらシルバーアッシュ家の血の結束なのやもしれぬ──
[イェラグ戦士] 長老方、大長老……巫女様一行がまもなく到着いたします。
[大長老] ……仕方ない。参ろうぞ、巫女を迎えに。
[イェラグ民間人A] 見ろ、聖猟隊だ!
[イェラグ民間人B] 見て、エンシオディス様が包帯を巻いているわ!
[イェラグ民間人C] やっぱり噂は本当だったんだ!
[イェラグ民間人A] 巫女様、エンシオディス様のために公平な裁きを!
[イェラグ民間人B] 聖猟を穢した悪人を捕まえてください!
[イェラグ貴族A] ラタトス様とアークトス様の顔色が良くないぞ。
[イェラグ貴族B] まさか今回の事件……本当にあの二人が関係しているのかしら?
[イェラグ民間人A] 大長老が来たぞ!
[イェラグ民間人B] 蔓珠院には、エンシオディス様のために公平な裁きをしてもらわないといけないわ!
[イェラグ民間人C] このまま大典を続けるなんて私たちは認めないぞ!
[エンシオディス] 諸君の気遣いに心から感謝する。
[エンシオディス] 犯人はまだ見つかっていないが、捕まるのも時間の問題だ。
[エンシオディス] 今は儀式を優先しよう。
[エンシオディス] 巫女様のご意見は?
[エンヤ] エンシオディス様が、そこまで真摯にイェラガンドのことを考えてくださるのなら、もちろん身共に異存はございません。
[大長老] では、イェラガンドの民たちよ、お主らも恐らく知っておろうが、今年の大典が持つ意義は、これまでとは異なる。
[大長老] シルバーアッシュ家の当主、エンシオディスによって提案された、巫女様への主権奉還が、先日の三家会議において可決した。それについてはイェラグ全土に通知済みじゃのう。
[大長老] そして今日、このイェラグ最大の祭日にて──巫女様の戴冠の儀を執り行う。
[大長老] またこれは、このわしが主宰する最後の大典でもある。
[大長老] ――はじめにイェラガンドは、己の血肉を分け、ペイルロッシュ家にお与えになった。土地は肥沃になり、イェラグ人から飢餓が消えた。
[アークトス] ヴァレス。
[ヴァレス] はい。
[???] 私は研究者だ。たとえ私が詭弁家だとしても、自分の研究に対しては嘘をつかない。
[???] 私の分析結果を信じなくてもいい……だが君はあの時のサンプルを保持しているだろう。
[???] それをもとに実験を行い、私の言葉を検証してみるといい。
[???] それとも、君はこのような「事実」を受け入れるというのか?
[???] 君は本当に、自分の父が「イェラガンドへの不敬」のせいで死んだと信じられるのか?
[ヴァレス] ……
ヴァレスが酒で満たされた盃を恭しく差し出した。
この酒は、豊穣の象徴である。
[アークトス] 来年の豊穣を願い、穀物で作りし酒をイェラガンドに捧げます。
大長老は盃を受け取り、一息に飲み干した。
[アークトス] ペイルロッシュ家当主、アークトス・ペイルロッシュ。イェラガンドに崇高なる敬意を捧げます。
[エンヤ] あなたの祈りはきっとイェラガンドに届くことでしょう。
[大長老] 次にイェラガンドは、己の毛皮を剥ぎ、ブラウンテイル家にお与えになった。土地には木々が生い茂り、獣たちが住みつき、イェラグ人が寒さに凍えることはなくなった。
[ラタトス] ユカタン。
[ユカタン] はい。
ユカタンが暖かそうなマフラーを恭しく差し出した。
このマフラーは、安泰の象徴である。
[ラタトス] 来年の安泰を願い、毛皮で拵えし衣裳をイェラガンドに捧げます。
大長老はマフラーを受け取り、それを巫女に巻いた。
[ラタトス] ブラウンテイル家当主、ラタトス・ブラウンテイル。イェラガンドに崇高なる敬意を捧げます。
[エンヤ] あなたの祈りはきっとイェラガンドに届くことでしょう。
[大長老] 最後にイェラガンドは、己の骨を取り出し、シルバーアッシュ家にお与えになった。山の奥深くに金属が生まれ、イェラグ人は道具や武器を作り出せるようになった。
[エンシオディス] マッターホルン。
[マッターホルン] はい。
マッターホルンが精巧に作られたナイフを恭しく差し出した。
このナイフは、平和の象徴である。
[エンシオディス] 来年の平和を願い、金属で打ちし武器をイェラガンドに捧げます。
大長老はナイフを受け取り、それを両手で巫女に渡した。
[エンシオディス] シルバーアッシュ家当主、エンシオディス・シルバーアッシュ。 イェラガンドに崇高なる敬意を捧げます。
[エンヤ] あなたの祈りはきっとイェラガンドに届くことでしょう。
[大長老] では──
[ヴァイス] 旦那様、暗殺の実行犯を捕らえました。
[エンシオディス] ……大長老、暗殺の犯人を捕らえたそうです。儀式を続けますか、それとも先に犯人を問いただしますか?
[イェラグ民間人A] 犯人を引っ張り出せ!
[イェラグ民間人B] そうよ! 絶対に罰を与えるべきよ!
[大長老] 民衆の関心がそこにあるのなら……連れてくるのじゃ。
[エンシオディス] わかりました。
[エンシオディス] 連れてこい。
[ラタトス] ……!
[スキウース] (メンヒ!?)
[スキウース] (どういうこと? なんでメンヒが捕まってるのよ! ま、まさか前に言ってた計画って暗殺のことだったの!?)
[スキウース] (……もうっ、あのバカ!)
[ユカタン] (待て、ウース、何するつもりだ!?)
[大長老] 聖猟を乱した刺客よ、名を告げよ。
[メンヒ] ……
[大長老] なぜ……ゴホゴホッ、エンシオディスを殺そうとしたのじゃ?
[メンヒ] ……
[メンヒ] 余計なこと言ってないで、さっさと殺せばいい。
[大長老] ……
[大長老] 刺客よ、そんな態度ではお主の命を救うこともできんぞ。
[大長老] 聖猟の儀式においてイェラガンドへの不敬罪を犯したとなれば、相応の罰を受けてもらわなければならぬ。
[大長老] もしお主がそれほどまでに強硬な態度をとるならば、戒律に従い、今ここでお主を死刑に処すこともできるのじゃぞ!
[メンヒ] ……
[大長老] はぁ、どうやら戒律通りに処罰するしかないようじゃな。
[大長老] ……お主の正体については、たとえお主が口を閉ざそうとも、特定するのは難しくないじゃろう……
[メンヒ] ……
[スキウース] 待って!
[メンヒ] ──!
[ユカタン] ウース!
[スキウース] ユカタン、何するの……放しなさい!
[スキウース] メンヒはあたしの部下よ、勝手に処罰なんてさせないわ!
[大長老] スキウース、それはまことか?
[ラタトス] ……スキウース! 控えろ!
[ラタトス] ここはお前がおふざけをしていい場所じゃない。ユカタン、妻の面倒くらいちゃんと見ておけ!
[ユカタン] ……ウース、まだ状況が飲み込めてないんだろう。ひとまず落ち着いてくれ、頼む。
[ユカタン] ほら、こっちに来るんだ。
[スキウース] 落ち着いてるわよ! 状況だってわかってるわ!
[スキウース] みんなでひどいことをしようとしてるのよ! あたしが言わなきゃメンヒが本当に暗殺の濡れ衣を着せられてしまうの!
[スキウース] あたしは──
[ラタトス] 黙れ!!
[スキウース] ──!
[スキウース] ラタトス、あたしは……
[メンヒ] ……
[大長老] ……どうやら、刺客の正体を調査する手間は省けたようじゃな。
[大長老] 誰か、スキウースを取り押さえるんじゃ。
[スキウース] 待ちなさい、なんであたしが捕まらなきゃいけないのよ!?
[スキウース] メンヒに暗殺の指示なんて出してないって言ってるでしょ、きっとこれはあたしたちを陥れるための罠よ!
[ラタトス] ……
[ラタトス] 大長老、まだ刺客の素性もわからない状態で、ブラウンテイル家の人間に縄を掛けるのは、ちょっと筋違いじゃありませんか?
[ラタトス] 皆さんもご存じの通り、うちの愚かな妹にエンシオディスを暗殺するような真似はできません。こいつにそんな脳みそは入っていませんからね。
[スキウース] どういう意味よ!?
[ラタトス] 黙れと言っただろ!
[ラタトス] (小声)……スキウース、自分の立場を考えな。
[スキウース] ……
[大長老] ふむ……ラタトスよ、お主はつまり、妹は騙されただけであって、この件はまた別に子細があると?
[ラタトス] 仰せの通りです。
[大長老] ゴホゴホッ……では、エンシオディスは……ゴホッ、どう思う?
[エンシオディス] ラタトスには恩がございます。我ら両家にいくらか隔たりがあったとしても、最悪の関係にはまだ至っていないと思っております。
[ラタトス] ……
[エンシオディス] ラタトス、お前はイェラガンドの祭典の場でこのような愚かな真似をするほど信仰心を失ってはいないはずだ。少なくとも私はそう信じている。
[エンシオディス] ただ、私の命などは些事にすぎんが、イェラガンドへの不敬については不問に付すべきではない……
[ラタトス] ……どういう意味だ?
[エンシオディス] この刺客がブラウンテイル家の者である以上、口先だけでこの件がブラウンテイル家とは無関係だと言われても、説得力に欠ける。
[エンシオディス] 有力な証拠がなく、真の犯人も差し出せないとなれば、たとえ私が穏便に済ませたくとも、恐らく……ブラウンテイル家においても民衆を納得させるのは難しいのではないか?
[ラタトス] ……
ラタトスは、目の前の男が言っている意味を理解したが、それらの言葉は彼女の耳にこびりつくように響き、とてもうるさく感じた。
大典の会場全体がざわめいている。群衆からこんな視線を受けたのは初めてだった。満ちあふれる不信感と敵意が、彼女の背中を刺すように不安をあおる。
スキウースも彼女に向かって何かを言った。それはいつものような鋭い叫びではなく、唇だけを無音で震わせるものだった。
ラタトスは彼女の声なき声を一目で理解した。昔、彼女たちがまだ幼かった頃、二人は大人たちに隠れてよくそうした悪ふざけをして遊んでいたからだ。
妹の唇はこう言っていた。
「あたしはただ、ブラウンテイル家のために何かしたかっただけなのよ!」
[ラタトス] ……
[エンシオディス] 大長老? あなたのご意見は?
[大長老] ゴホンッ……エンシオディスの言う通りじゃな……ゴホゴホッ……
[エンシオディス] 大長老、体調がすぐれないようですが?
[大長老] 気にせんでよい……うぅっ……
[修道士] 大長老、どうされました!?
[大長老] ……
[修道士] 大長老の口元に緑色の液体が……毒です!
[修道士] 何者かが大長老に毒を盛ったのです!
[エンヤ] 見せてください。
[修道士] 巫女様、離れてください。まだ別の毒があるかもしれません!
[エンヤ] 構いません。
[エンヤ] ……ダメです。毒性が強すぎて、私の治療アーツでは効きません。かろうじて命を維持することしか……
[修道士] 誰が大長老に毒を!? しかも、一体いつ──
[修道士] 酒……先ほどアークトス様が大長老に渡されたあの酒に違いない!
[エンヤ] 盃を見せてください!
[修道士] こ、これです!
[エンヤ] ……これは、確かに毒の痕跡が。
[アークトス] ありえない!
[エンシオディス] ……なるほど。
[エンシオディス] アークトス、まさかイェラグを手に入れるために、大長老に毒を盛ることまでやってのけるとは!
[アークトス] 貴様! なぜ俺が大長老に毒を盛らねばならん!
[エンシオディス] フン。ペイルロッシュ家は確かに以前から蔓珠院と親密な関係を築いていた。お前たちは蔓珠院との関係によってイェラグで多くの特権を手にしていたのだ。それはこの場にいる民衆も知っている。
[エンシオディス] ここ数年来、お前はその特権を用いて私を抑圧し続け、私はそれに耐え忍んできた。これも皆がその目で見てきた。
[エンシオディス] そして今、私は妥協案として、巫女様に主権奉還を提案したが、お前は我がシルバーアッシュ家への抑圧を止めるつもりはなかったということだな。
[エンシオディス] 一度巫女様に権力を返還してしまえば、三家は共に巫女様の指揮下に入る。そうなればお前たちペイルロッシュ家は、今の特権を享受し続けられるだろうかと、そう考えたのではないか?
[エンシオディス] 恐らく大長老は、これ以上お前を支持することに消極的だったのだろう。だからスキウース殿に接触し、今日の暗殺を画策した。
[エンシオディス] スキウース殿に私を暗殺させ、お前は大長老を毒殺する。そしてお前たち両家がそのままイェラグの政権を握る……なかなかよくできたシナリオだな、アークトス。
[アークトス] エンシオディス、よくもそんな悪意に満ちた言いがかりを!
[エンシオディス] 言いがかり?
[エンシオディス] アークトス、ペイルロッシュ家が蔓珠院と親密であるのは紛れもない事実。ブラウンテイル家とペイルロッシュ家が味方同士であるのも事実。大長老が主権奉還を認めたのも事実、そうだろう?
[エンシオディス] そして今、お前が大長老を毒殺しようとしたのもまた事実だ。
[エンシオディス] この場にいる皆に聞いてみたいものだ。果たして私が言いがかりをつけているのか、それともアークトスが詭弁を弄しているのか!
[イェラグ民間人A] そんな……アークトス様はそんな人じゃない……
[イェラグ民間人B] エンシオディス様は聖猟中に襲われてお怪我をされたのよ。実行犯はブラウンテイル家の者で、今大長老を毒殺しようとしたのがアークトスとなれば、もう間違いないわ!
[イェラグ民間人C] 見損なったぞアークトス! 長年の信心深さは全部嘘だったのか!
[イェラグ民間人A] ……そ、そんな!
[イェラグ民間人B] 目を覚ましなさいよ!
[エンシオディス] 刺客とスキウース殿を取り押さえろ。
[シルバーアッシュ家戦士] はい。
[スキウース] 触んないでよ、このっ!
[ユカタン] ウース!
[ユカタン] お義姉様……!
[ラタトス] 待っ──
[シルバーアッシュ家戦士] うぐっ……
[マッターホルン] 誰だ!
[ヴァイス] 氷のアーツ……しかもこれほど離れた距離で、まさか──
[イェラグ貴族A] 誰だ!?
[イェラグ貴族B] あそこを見て!
[???] 戦士たちよ、己が当主を救い出せ。
[イェラグ貴族A] あれは──ノーシス! なぜ奴がここにいる? しかも、連れているのはブラウンテイル家の者では!?
[イェラグ貴族B] ……カランド貿易を解雇されてから、どうなったのか知らなかったけど……まさかブラウンテイル家に寝返っていたの!?
[ノーシス] エンシオディスよ……姑息に知恵を絞って信心深い被害者を演じ、舞台上でもっともらしい嘘ばかりを並べ立てるなど、恥を知らんのか?
[エンシオディス] ……
[エンシオディス] ノーシス、どこに雲隠れしたのかと思っていたが……なるほど。ラタトスの所で身を隠していたというわけか。
[ノーシス] 隠れる? 私はただこの瞬間のために準備をしていたにすぎない。
[ノーシス] ラタトス、この期に及んで何をためらっているんだ?
[ラタトス] ノーシス、あんた──
[ノーシス] 舞台の下の民衆を見てみろ。彼らの目にどれほどの不信感が浮かんでいる?
[イェラグ民間人A] ラタトスはイェラガンドを裏切った! 彼女に制裁を!
[イェラグ民間人B] アークトス、本当に見損なったわ!
[イェラグ民間人C] エンシオディス様、そいつらをやっつけてください!
[ノーシス] そして君の妹を見ろ。今まさにエンシオディスに連れて行かれようとしているぞ。
[スキウース] 放して、放しなさいよ!
[ユカタン] ……妻に手を出すな!
[シルバーアッシュ家戦士] おとなしくしろ!
[ユカタン] くっ……
[スキウース] ユカタン!
[ラタトス] スキウース! ユカタン!
[ノーシス] 今が、最後のチャンスだ。
[ノーシス] エンシオディスは君を信じていると言ったが、それが本当だと思うのか?
[ノーシス] もっと早いうちに、彼はただ君に選択を迫っているだけだと理解すべきだったな。だが彼が欲している「犯人」を君が差し出したとして、ブラウンテイル家を果たして守れると思うか?
[ノーシス] 周りを見てみるんだ。人々の、君たちを見る目を……
[ノーシス] エンシオディスがイェラグを手中に収めれば、君たち両家がどのような末路をたどるかわからないのか?
[ラタトス] 私は……
[ユカタン] お義姉様!
[ラタトス] ……
[ノーシス] ラタトス、君は自分の家族だけでなく、領地までをも見捨てるつもりなのか? 本当に民の信託を、そして領地の実権を放棄すると言うのか?
[ノーシス] この期に及んでまだ何もするつもりがないなら……
[ノーシス] 私が後押ししてやろう。
ノーシスが振り返ってエンシオディスを見る。
彼の手のひらで淡い青色のアーツが凝縮し始めるも、エンシオディスは微動だにしない。
[エンシオディス] ノーシス、お前には本当に失望した。
[ノーシス] 奇遇だな、エンシオディス……私も同じことを思っていた。
[エンシオディス] ──デーゲンブレヒャー。
[ノーシス] くっ……
[デーゲンブレヒャー] 知ってるでしょ? そういうアーツは私には無意味なの。
[デーゲンブレヒャー] ほら、私の時間を無駄にしないでちょうだい。
[デーゲンブレヒャー] もうここまでね、ノーシス。
[デーゲンブレヒャー] 哀れね。
[ノーシス] 哀れ?
[ノーシス] たとえここで私を殺しても、もはや何の意味もない。
[ノーシス] 君は私一人なら止められる……百人でも止められるかもしれない。だが千人、一万人となると果たしてどうかな?
[ノーシス] 私の後ろを見てみろ。
[ノーシス] 火は、もう灯された。
[ラタトス] ……
[ラタトス] チッ。
[ラタトス] アークトス。
[アークトス] なんだ?
[ラタトス] あんたは私とエンシオディス、どちらを信じる?
[アークトス] お前たちなど、どちらも信じられん!
[ラタトス] だとしても、今の敵が誰であるかくらいはわかるだろ?
[ラタトス] ブラウンテイルの戦士たち、戦闘準備だ!
[ラタトス] まずはスキウースを救出。それからエンシオディスを捕らえろ!
[ブラウンテイル家戦士] はっ!
[アークトス] ……*イェラグスラング*、ペイルロッシュの戦士たちよ、ここに整列せよ!
[アークトス] 逆賊エンシオディスを捕らえよ! 奴こそ裏切り者だと、民衆に知らせてやれ!
[グロ] はっ!
[ペイルロッシュ家戦士] はっ!
[エンシオディス] デーゲンブレヒャー。
[エンシオディス] ノーシスを連れて行け。
[デーゲンブレヒャー] 私はもう必要なし?
[エンシオディス] ああ。
[デーゲンブレヒャー] まあいいわ。
[エンシオディス] ヤーカ。
[マッターホルン] はい。
[エンシオディス] 大長老と巫女様のことは任せる。
[マッターホルン] 承知しました。
[エンシオディス] ヴァイス。
[ヴァイス] はい。
[エンシオディス] アークトスとラタトスを取り押さえろ。
[エンシオディス] できるだけ死人は出すな、今はまだその時ではない。
[ヴァイス] 承知いたしました。
[ヴァイス] 行きましょう。
[ヤエル] ……
[ドクター選択肢1] もう一つの可能性は正しかったようだ。
[ヤエル] つまりどういうことなの?
[ドクター選択肢1] これらすべてが、エンシオディスの計画のうちだ。
[ヤエル] ……それって初めからわかってたことじゃないの?
[ドクター選択肢1] いや、ノーシスの出現も含めたすべてだ。
[ヤエル] え?
[ヤエル] まさか──
[ドクター選択肢1] Sharp.
[Sharp] ドクター、命令か?
[ドクター選択肢1] 見事にエンシオディスの狙い通りになってしまったようだ。
[ドクター選択肢1] アークトスとラタトスを救出してほしい。
[Sharp] ……わからんな。
[Sharp] ……行動するための理由が必要だ。ドクター、これはもうあなたの警護の範疇を超えている。
[ドクター選択肢1] こうなった以上、もはやエンシオディスの勝利だ。
[ドクター選択肢1] たとえアークトスとラタトスが命を落とさずとも──
[ドクター選択肢1] イェラグは必ず大きな変化を迎える。
[Sharp] ......
[Sharp] 俺の職務はロドスの立場を維持し、あなたの安全を守ることだ。
[Sharp] そして現実的な観点から見て、ここで起きているすべてが本来あなたとは無関係だ、ドクター。
[Sharp] ここでエンシオディスが勝ったとしても、あなたが彼の客人である以上、被害を被ることはないだろう。
[Sharp] それにロドスと業務提携を結んでいるのはエンシオディスであり、他の両家でも、ましてやイェラグ自体でもない。
[Sharp] だが、もしエンシオディスの計画に干渉するような真似をすれば、あなたの安全が保証されなくなるばかりか、ロドスの立場さえも脅かされる。
[ドクター選択肢1] 戦争を阻止し、たくさんの命を救いたい。
[Sharp] ......
[Sharp] ドクター、この大地では毎日至る所で人が死んでいる。
[Sharp] 自分の力は人を救うために使うべきだと信じ、それに身を投じる者がいたとしても、そいつは早晩、自らの力不足により生じる悔しさややるせなさに押しつぶされるだろう。
[Sharp] ロドスのほかの奴とは違って、俺はいつも、救うことや守ることはほとんど意味のないことだと思っている。
[Sharp] 俺が信じているのはあなたがもたらす勝利だ。だが勝利にも価値の差というものがある。
[Sharp] イェラグの人口は数百万。たくさんの命を救うと言うのなら、数人でも、数十人でも、数百人でもなく、数千数万、さらには数十万の命を救わねばならんぞ。
[Sharp] ……それを今日あなたが約束する勝利の価値と考えていいのか?
[ドクター選択肢1] 信じてくれ、Sharp。
[ドクター選択肢2] 残業だと思ってくれ。
[Sharp] 了解した、すぐに状況を開始する。
[シルバーアッシュ家戦士] くっ……
[シルバーアッシュ家戦士] チッ、どさくさに紛れて襲ってくるとは……そいつを逃がすな!
[ユカタン] ウース!
[スキウース] ユカタン!
[ユカタン] 早く行け!
[ヴァイス] させません!
[ユカタン] どけ!
[ヴァイス] おとなしくしていてください、ユカタンさん。
[ヴァイス] 投降していただければ、旦那様も悪いようにはしませんよ。旦那様は別にあなた方の命が欲しいわけではありませんから。
[ユカタン] (ウースを逃がせさえすれば──)
[ユカタン] ぐっ……
[ユカタン] ゴホッ……ウース、早く……
[ヴァイス] 申し訳ありません。
[ブラウンテイル家戦士] スキウース様、早く行きましょう!
[スキウース] ユカタンがまだあそこにいるのよ! そ、それにメンヒも!
[ラタトス] あんたまだあの刺客を気にしてるのか? いい加減にしろ!
[スキウース] ……メンヒはそんなんじゃないわ!
[スキウース] ……
[スキウース] じゃあユカタン……ユカタンは!? あたしの夫なのよ!
[ラタトス] 状況を見てみろ。ユカタンが命懸けでお前を救い出したんだ。今さら戻ってあいつと心中でもする気か!?
[スキウース] このままユカタンを見捨てろって言うの!?
[ラタトス] 見捨てるつもりなら、そもそも私が手出しするわけないだろ!
[ラタトス] いいからバカな真似はやめろ!
[スキウース] ……わかったわよ、ひとまず逃げればいいんでしょ!
[スキウース] (ユカタン……)
[グロ] チッ、この不気味な鎧のくせ者どもはどっから湧いてきやがった?
[グロ] 旦那、エンシオディスのとこの野郎が多すぎます! うちのもんが押されてますぜ!
[グロ] どうしますか?
[アークトス] ……ペイルロッシュ家に臆病者はいない!
[ラタトス] 強がりはやめろアークトス! まずは協力してここから抜け出す!
[アークトス] ……この怒りが鎮まるものか!
[ラタトス] ここで死んだら鎮まるもクソもないだろ!
[アークトス] ……ぐうぅ、畜生め!
[アークトス] グロ、戦士を集めろ。ここを突破する、俺に続け!
[グロ] おうっ!
[ヴァイス] (小声)申し訳ありませんが……
[ヴァイス] すでに「チェゲッタ」がここを包囲しています。
[ヴァイス] 取り返しのつかないことになる前に、どうかご投降を。
[アークトス] エンシオディスの使いっ走り風情が侮るな! 命を賭すことになろうとも、貴様らにひれ伏しはせん!
[ヴァイス] どうか冷静に。皆様にはもう万に一つの勝機もありません。
[ヴァイス] ここを突破することなどできませんよ。
[???] いや、できるさ。
[ヴァイス] 誰です?
軒下の影になった部分──廊下の入口付近の壁際から、大柄の男が直立不動で睨みをきかせている。
彼の背後には、包囲を命じられていた数名の「チェゲッタ」たちが無造作に倒れている。
クーリエのロドスにおける短い業務経験の中でも、その人となりをよく知るオペレーターの一人。それが影の中からゆっくりと目の前に現れた。
彼が現れたことが何を意味するか、クーリエはよく理解していた。
[ラタトス] ……誰だあんた?
[アークトス] お前らは……あのドクターの……
[ラタトス] ……なぜ私たちを助ける?
[Sharp] 状況説明は俺の仕事ではない。
[Sharp] その扉を使え、外の奴らは俺が黙らせておいた。
[Sharp] オーロラ、皆の先導を頼む。
[オーロラ] 了解!
[「チェゲッタ」] 逃がさん!
[「チェゲッタ」] ぐふっ……
[Sharp] 次は、どいつだ。
[ヴァイス] 下手に手を出すな! 整列!
[「チェゲッタ」] 整列? 敵は一人ですよ!
[ヴァイス] 整列!!
[「チェゲッタ」] ……了解。
[Sharp] 悪くない。
[ヴァイス] Sharp……隊長。
[ヴァイス] 申し訳ありません。
[Sharp] 謝るな、クーリエ。ここには個人的な恨みなどない。
[Sharp] ただの仕事だ。
十五分後
[オーロラ] 隊長! け……怪我してるの?
[Sharp] 人数が少し多かったからな。クーリエの剣筋もなかなか鋭かった。
[オーロラ] 隊長……クーリエさんは……
[Sharp] 手加減はした、安心しろ。
[オーロラ] これからどうするの?
[Sharp] ここでの仕事はもう終えた。
[Sharp] 次のポイントへ向かう。
[マッターホルン] 大長老の状況はいかがですか?
[蔓珠院医者] ……芳しくありません。
[マッターホルン] 大長老を蔓珠院へ運びます。エンシオディス様が専門の医者を用意して大長老を治療させるとのことです。
[マッターホルン] それと、巫女様……エンシオディス様があなたも蔓珠院に戻るようにと。事態が収拾したのち、改めて戴冠の儀を行うとのことです。
[エンヤ] ……わかりました。
エンヤは抵抗しなかった。この時、抵抗の余地などないことを彼女はわかっていたのだ。
ある時から、目の前で起こっているすべてが、早くから計画されていた茶番劇にすぎないということに彼女は気付いていた。
そしてこの茶番劇の脚本家は、自らの兄なのだ。
彼女がこの時のためにしてきたすべての心の準備、そして未来への展望を、兄は容赦なく打ち砕いた。
仮に今、彼女がこの場の者たちを全員たたき伏せても、人々の願いは変わらないのだ。民衆はエンシオディスが彼女のために用意した結末を──彼女が蔓珠院にて戴冠することを迫るだろう。
彼女は辺りを見渡した。
彼女の瞳に、自分の視線に気付き、故意に目をそらすマッターホルンが映った。
彼女の瞳に、現代的な装備の戦士が、シルバーアッシュ家の戦士たちをはねのけ、アークトスとラタトスを連れて行く姿が映った。
彼女の瞳に、民衆の視線がすべてエンシオディスに集まっている様子が映った。まるで彼こそがこの舞台の主人公であるかのように。
彼女の瞳に、希望と熱狂を目に宿す民衆たちが映った。
彼女の瞳に、ヤエルが──そしてそのヤエルのそばに立つあなたの姿が映った。
あなたたちの視線が交差する……あなたは彼女の目の中に悲しみ、悔しさ、そして──怒りを見た。
すべての感情が一瞬にして消え去る。
彼女はふいに視線をそらし、歩き出した。
[シルバーアッシュ家戦士] だ、旦那様! ロドスの奴が突然現れて、アークトスとラタトスを逃がしました!
[エンシオディス] ……
[エンシオディス] Dr.{@nickname}。
[エンシオディス] お前はいつも……私に想定外の喜びをもたらしてくれる。
[デーゲンブレヒャー] 私がノーシスを連行しているわずかな間にやられたの?
[エンシオディス] 確かにロドスが動くとは思っていなかった。彼らの関与は想定していたが、その実力を見誤っていたようだ。今回、暴力により計画を打ち砕かれるのは私の方だったか。
[デーゲンブレヒャー] 追いましょうか?
[エンシオディス] 必要ない、私にもまだ手はある。
[エンシオディス] それに、あの二人の生死は、次の計画には何ら影響しない。
[エンシオディス] Dr.{@nickname}もその点に感づいたからこそ、手を出したのだ。
[エンシオディス] お前は、ドクターが何をするつもりだと思う?
[デーゲンブレヒャー] もしあの人が衝動的な愚か者でないのなら、きっとあの二人を利用するんでしょうね。
[デーゲンブレヒャー] それで何をするつもりか、ね……
[デーゲンブレヒャー] あなたがそれほど評価している人物なら、両家を駒として操ってあなたに挑むくらいのことはやってのけるんじゃない?
[エンシオディス] ドクターがそのように浅はかな野心家だとは思えないな。
[デーゲンブレヒャー] あなた、本当にあの人のことよく「理解」してるのね。
[エンシオディス] これは直感だ……指し手としてのな。
[エンシオディス] だが、部外者であるドクターがペイルロッシュ家とブラウンテイル家の当主を救ったとて……
[エンシオディス] この状況下で、これ以上何かできるとは思えない。
[エンシオディス] ゆえに、ドクターが何をしようとしているのかとても興味深い。
[エンシオディス] もちろん、もし本当にお前の言う通りになるならば、ドクターと一局交えられることを楽しみにするとしよう。
[デーゲンブレヒャー] まあいいわ。そういうことを考えるのは後にしましょう、あなたは今日の勝者なんだから。
[デーゲンブレヒャー] みんな勝者の言葉を待っているわ。
[エンシオディス] わかっている。
混乱が残る会場はまだ片づけられておらず、先ほど起こったことについて人々が興奮しながら議論している。
しかし、エンシオディスがゆっくりと中央に向かっていくにつれ、誰もが皆、口を止めて、エンシオディスに視線を向けた。
その場の全員が、彼がこの騒ぎに終止符を打つことを待っている。
[エンシオディス] ……
[エンシオディス] イェラグの民よ、私は実に遺憾だ。
[エンシオディス] この神聖なる日に、こんな心の痛む事件が起きてしまうとは。
[エンシオディス] だがこれにより、イェラグの土地に潜む真の裏切り者があぶり出された。
[エンシオディス] 裏切り者の名は、アークトス、そしてラタトスだ!
[エンシオディス] あの両名は、主権奉還がもたらす変革に不満を持ち、私と大長老を殺すことで全イェラグを掌握しようとした。
[エンシオディス] これは紛うことなき、イェラガンドに対する最大の冒涜。
[エンシオディス] 先ほどは、その場での処刑こそかなわなかったが、この件がこれで終わることは絶対にない。
[エンシオディス] アークトスとラタトスには必ず公正な裁きを受けてもらう!
裁きを! 裁きを!! 裁きを!!!
[エンシオディス] だが、私は両名を捕らえたいと考えてはいるが、争いを引き起こすつもりは毛頭ない。
[エンシオディス] イェラグはイェラガンドのイェラグ、ひいては雪境の民のイェラグであり、私個人のものではない。
[エンシオディス] 従って、ペイルロッシュ家とブラウンテイル家の領民には安心してもらいたい。皆が心配している内戦など──決して起こらない。
[エンシオディス] 今後、我がシルバーアッシュ家は、蔓珠院を守るためだけに武力を行使する。大長老が目覚めたのち、イェラグの未来について大長老と巫女様と共に協議をしよう。
[エンシオディス] だがペイルロッシュ家とブラウンテイル家の領民には、誰がイェラグの真の敵であるかを認識してもらいたい。
[エンシオディス] 皆で同じ目標を掲げてこそ、より良い道を見つけることができると私は信じている。
[エンシオディス] その時こそ、我々はより良いイェラグを迎えることができるのだ。
エンシオディス! エンシオディス!! エンシオディス!!!
シルバーアッシュ! シルバーアッシュ!! シルバーアッシュ!!!
人々がエンシオディスの名を高らかに叫び出した。この祭典は元々巫女の主権奉還のために用意されたはずだった。だが、そのことを気にする者はもういない。
山の頂──蔓珠院の方向から、抑揚のある鐘の音が響き渡る。
「ゴーン」「ゴーン」「ゴーン──」
本来なら巫女の戴冠を祝う鐘の音。それが今や、変革の到来を予言しているかのようだった。
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