aklib_story_また会えたね_ヤニーと一緒

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また会えたね_ヤニーと一緒

女の子のペットを探し出すため、アグンは迷子の動物保護センターに手がかりを探しにやって来た。しかしアグンは先に、保護施設のオーナーの「ちょっとした」手伝いをこなさなければならなかった。


龍門アップタウン 上廠(じょうしょう)街 近衛局ビル

正午

近衛局――何もない者は訪れる必要がなく、何かある者は訪れたがらない、なんとも風変わりな場所である。しかし常に、余計な面倒事を持ち込む者はいる。

[近衛局員] ……

[???] すんません、十二年前に咸祥(かんしょう)飯店で起きた抗争事件について知ってますか?

[近衛局員] ……

[???] なら十年前の雨の夜に起きた、宝華(ほうけ)街でとある大物が強盗に遭った事件は?

[近衛局員] ……

[???] じゃあ七年前の二本刀事件は?

[近衛局員] 申し訳ありませんが、どれも存じ上げません。警護勤務中の身ですので、どうか邪魔しないでいただけますか。

[アグン] はぁ……

[アグン] ……しょうがないか。

[アグン] 警察官さん、通報したいことがあります!

[アグン] そのおじさん、さっきそこの広場で自転車を盗んでました!

[???] なに? そんなわけあるか!

[???] 冤罪です! このガキがでたらめを言ってるんです!!

[近衛局員] ……何をそんなに慌てているんですか。

[近衛局員] 監視カメラをチェックすれば分かりますので、ちょっとご同行願えますかね。君も、調書を取るのに協力してもらうよ。

[???] あ……はい。

[アグン] 分かりました、警察官さん。

[アグン] (小声)計画は順調です、ロックロックさん。

[ロックロック] (小声)了解。ロック二十七号、ステルスモード起動。

一日前

[アグン] 間違ってなければ、ここのはずだけど……

[アグン] すみません、ここは迷子の動物の保護施設でしょうか?

[アグン] すみませーん。

[???] 失せろ、俺は忙しいんだ!

[アグン] ……ちょっと聞きたいことがあるんです。迷惑をかけるつもりはありませんよ。

[???] ここに来るようなクソガキどもの考えなんてわかってんだよ!

[???] 面白そうだからって俺んとこから一匹もらって、飽きたら捨てちまおうって魂胆なんだろ?

[アグン] 誤解ですよ! 僕はペットをもらいに来たんじゃなくて、迷子の烏雲獣について聞きに来たんです!

[???] んなの信用できるか! 言ったはずだ、失せやがれ!

[???] 大して面倒も見てやらねぇくせに、何かあったらすぐに俺んとこに来て騒ぎやがって。

[???] 俺ぁてめぇらみてぇな無責任なクソガキの尻ぬぐいなんてやらねぇんだよ!

[???] てめぇのケツはてめぇで拭きやがれ!

[???] さっさと失せろ!

[アグン] おじさん、少しだけでも話を聞いてください!

[???] 失せろってんだ!!!

[アグン] 待ってください、おじさん!

[アグン] ……はぁ、まさか話そうともしてくれないなんて。

[隣人] いくらノックしても無駄よ、絶対開けてくれないから。

[隣人] ここの人、いっつもあんな風に怒ってて、感じ悪いのよね……

[アグン] こんにちは。あなたは……ご近所さんでしょうか?

[隣人] ええ、隣に住んでるの。でもここの人とはほとんど喋らないわ。すぐ感情的になるし、素性も……噂じゃシラクーザのマフィアって聞くから、普通の人はまず関わりたがらないわね。

[アグン] でも動物を保護してるんですよね? 悪い人ではないんじゃ……

[隣人] あんまり人を信じ過ぎちゃダメよ。ドアを閉め切っちゃえば、中で何してたってわからないんだから。

[隣人] 腹に抱えてるものだってわからないのに、間にドアが挟まっちゃったらもうお手上げよ。

[アグン] そこまで言うってことは、もしかして何か見たんですか?

[隣人] ……ええ。数日前、近衛局の人がここへ来たの。

[アグン] 近衛……局?

[隣人] あら、君ってば外から来たの? つまり、警察が訪ねてきたってことよ。警察循獣(じゅんじゅう)を捕まえて、違法に蔵匿した容疑がかかってる……とか言ってたわね。

[アグン] 警察の動物を盗んだってことか……それはたしかに犯罪ですね……

[隣人] でしょ? そんなことまでやる人なら、他にどんな悪いことをしてても不思議じゃないわよ。

[アグン] じゃああの人が動物を引き取っている目的って……

[隣人] もしかしたら……闇市の肉売りに動物を卸してるのかも。動物を連れてくるのはよく見るけど、いつもすぐ送り出しちゃってるみたいだし……

[アグン] (たしかに怪しいなぁ……もし本当に保護施設の看板を掲げて悪さしてるんだったら、放ってはおけない。)

[アグン] 色々教えてくれてありがとうございます。

[隣人] いいのよ、じゃあ私は戻るわね。君もこんなとこをうろついてないで早く帰らなきゃダメよ。

女性が家の扉を閉じたのを確認し、アグンは「動物保護センター」の門に近づいた。指を扉の鍵穴に添えると、氷柱が鍵穴の中へ入り込んでいく。ほどなくして、カチャリと小さな音が響いた。

アグンはドアをわずかに開き、そろりそろりと中へ入っていった。

[アグン] うーん、籠も檻もない……ペットフードの備蓄は十分あるけど、餌入れの中の水とペットフードは数日放置されてそうな感じがする。

[アグン] 保護された動物はどこへ行ったんだろう?

[アグン] (まさかお隣さんが言ってたように、本当に肉売りのもとに送られてるのか?)

[アグン] でもそうだとしたら、どうしてこんなに大量のペットフードの備蓄が……?

[アグン] テーブルの上にあるのは……建物の構造図?

[アグン] 近、衛、局、ビ、ル……ん? 赤ペンで何か書いてある……

[アグン] 留置場、循獣舎……「間にはドア一枚だけ」「かなり近い」……

[アグン] (この人、一体何をしようとしてるんだ? まさか、連れて行かれた循獣を……)

[オーナー] おい、ガキ、誰だてめぇ? どうやって入ってきやがった?

[オーナー] おかしい、鍵はかけたはずなんだが……

[オーナー] なっ、どうして鍵が壊れてやがる!? しかも冷てぇ!

[オーナー] まさか、てめぇがやったのか!?!

[アグン] ……ごめんなさい、おじさん。

[オーナー] ごめんなさいで済むわけねぇだろ! 弁償しやがれってんだ、先週変えたばっかなんだぞ!

[アグン] え!?

[オーナー] えっ、じゃねぇ!

[アグン] えーっと……ごめんなさい……

[アグン] あの、それより一つ聞いてもいいですか。この図面に書いてあるのは何の計画でしょう?

[アグン] (机から図面を持ち上げる)

[オーナー] っ、人の物を勝手に触んなクソガキ、殺されてぇのか!

[アグン] 暴れないでください。

[オーナー] うっ、なんだこれ……

[アグン] 気をつけてくださいね、おじさん。動くと首の氷の輪が、どんどん締まっていきますよ。

[オーナー] ぐえっ……ガキのくせになんて力を持ってやがる……!

[アグン] 解放してほしければ教えてください。近衛局ビルで何をするつもりですか?

[オーナー] ……近衛局の図々しいクソどもが、あることないことでっち上げて俺の循獣を奪っていきやがったんだ。そいつを取り戻そうとして何が悪いんだよ!

[アグン] あれ? 先にあなたが近衛局の警察循獣を盗んだって話では?

[オーナー] ケッ……誰が言ってんのか知らねぇが、俺は近衛局の連中に見捨てられて死にかけてたあいつを拾っただけだぜ。

[オーナー] それから俺たちは何年も一緒にうまくやってたんだ……なのに今さら連中が奪いに来たんだよ!

[アグン] ……保護してそのまま養ってただけってことですか……じゃあ他に保護した動物たちはどこにいったんです?

[オーナー] てめぇはこんな場所であいつらが落ち着けると思うのか? 街外れにある廃棄された工業用地を買って、そこに住ませてんだよ。

[アグン] そんな話を信じろと?

[オーナー] 信じてくれとは言ってねえ――

[オーナー] あっ。

[アグン] なんだ!?

[アグン] ……電子レンジか。

[オーナー] どうでもいいだろ。メシをチンしてただけだ!

[アグン] 肉まん一個だけ……晩ご飯ですか?

[オーナー] 余計なお世話だ!

[アグン] これで足りるんです?

[オーナー] ……てめぇにゃ関係ねぇだろ!

[アグン] ペットフードはこんなにたくさんあるのに、おじさんの食事は肉まんだけなんですか?

[オーナー] ……食わせなきゃならねぇ奴らがどんだけいると思ってんだ。節約しなきゃやってけねぇよ!

[アグン] ……

[アグン] ごめんなさい……僕が間違ってました。

[アグン] (術を出していた手を下ろす)

[オーナー] ゲホッ――

[オーナー] うえっ……冷てぇ……

[オーナー] ガキ……てめぇ、とんでもねぇアーツが使えるんだな。

[アグン] アーツですか……ははっ、まあそんなとこです。

[オーナー] じゃあ……他の場所の鍵も破れるってわけだ……

[オーナー] そうだ、烏雲獣の情報が聞きたいとか言ってたな。

[アグン] ええ、去年いなくなった子がいるんです。この辺りで見かけてませんか?

[オーナー] 実を言うと何匹か保護したことはあるが、頭が鈍いもんだから詳しいことは覚えてねぇ。だが全部記録は付けてあるぜ。

[オーナー] 俺の循獣奪還計画に手を貸してくれるなら、見せてやってもいい。

[アグン] いや、それは流石に……おじさんは資料を見せるだけなのに、僕の方は近衛局の中に押し入る手伝いをさせられるなんて……リスクが釣り合いませんよ。

[オーナー] ふん、別に強制はしてねぇよ。嫌ならいい。

[オーナー] だが烏雲獣については、他を当たるこったな。

[アグン] ……

ロドス・龍門事務所

早朝

[ロックロック] アグン、おはよう!

[アグン] うわっ! お、おはようございます。

[ロックロック] ごめんごめん、驚かせちゃったかな。朝から深刻そうな顔してどうしたの?

[アグン] はは、ちょっと考え事してて……

[ロックロック] ふーん……あ、昨晩シャオバイから君が一人でスラム街に行ったって聞いたけど、もしかして何か収穫でもあった? それで今朝も出かけてたの?

[アグン] ……あの、ロックロックさん……

[ロックロック] どうしたの?

[アグン] 僕、とんでもないことに首を突っ込んじゃったかもしれません……

[ロックロック] それで……その人の提案を呑んだってこと?

[アグン] はい、そんなところです。循獣を連れ出すのは流石に難しいと思いますが、おじさんが近衛局へ侵入するところまでは協力するってことになってて……

[ロックロック] その人は侵入した後どうするつもりなの?

[アグン] 中でどんな扱いをされてるかわからないから、直接自分の目で確かめると……それでもし望まない暮らしをさせられてたら、死んでもそこから連れ出してやるって言ってました。

[ロックロック] そんな危険なことに協力するなんてダメだよ! 一人でやらせとけばいいじゃない!

[アグン] でも、今のところおじさんの情報だけが烏雲獣の唯一の手がかりなんです……周辺の聞き込みもしてみましたが、迷子の動物について詳しいのはあのおじさんだけのようですし。

[ロックロック] そうだとしても、こんな子供を巻き込もうとするなんてどうかしてるよ! 何か企んでるかもしれないし、君一人で行くなんて絶対許さないからね。

[アグン] そうは言っても皆さんお忙しいでしょうし、この件は僕一人で片付けますから。

[アグン] もし何かあったら、全部おじさんのせいにしちゃえばいいんです。近衛局はきっとマフィア出身のおじさんじゃなくて、僕の方を信じてくれますよ。

[ロックロック] それでもやっぱり心配だよ。あたしだってちょっと付き添うくらいの時間は作れるから、そんな気を遣わなくていいって!

[アグン] けどロドスは近衛局と懇意にしてるって聞きましたし、関係の悪化を招くようなことには関わらない方が良いと思います。部外者の僕が一人でやったことなら、何かあってもロドスは潔白ですから。

[ロックロック] アグン、あたしはそんなこと気にしてるんじゃないの!!

[アグン] お、落ち着いてください、ロックロックさん……

[ロックロック] ……でも……そうだね、確かに軽率に行動すべきじゃないのかも。

[アグン] ええ、ですからどうか安心して――

[ロックロック] よし! それなら、あたしのドローンについてってもらおう。

[アグン] ……いやいや、そんなのすぐ見つかってバレちゃいますよ!

[ロックロック] ――と思うでしょ? でも大丈夫。出発前にクロージャさんから最新の光学迷彩モジュールをもらったんだ。それを搭載しておけば――なんと! いざというときドローンを透明にできちゃうんだよ!

[アグン] 何だかすごくイキイキしてますね……

[ロックロック] そうだ、プロペラの駆動システムにもちょっとテコ入れして、超静音モードも実装しちゃおう! そしたら静かな室内でも誰かに気づかれることはないはず。

[アグン] いや、いつも工具持ち歩いてるんですか……あのー、もしかしてこの場で作業しようとしてます?

[ロックロック] シーッ、そこに座ってて!

[ロックロック] すぐ終わるからまだ行っちゃダメだよ! このドローンは色々役に立つはず……近衛局のビルに入ったらすぐに、最適なルートと周囲の局員の状況を探知するようにしておくね。

[ロックロック] 他にも、監視カメラを妨害して君の足取りを隠蔽することだってできるんだから。そのおじさんが何か企んでた場合にも備えて、準備は万全にしておかないと。

[アグン] 分かりました……ありがとうございます。

龍門アップタウン 上廠街 近衛局ビル

午前

[アグン] あれっ、水を買いに行ったんじゃなかったんですか? 何でポテチなんか持ってるんです?

[オーナー] 食え、ほら。

[アグン] まさか、僕のために……?

[オーナー] じゃなきゃこんなガキの食いもんなんて買わねえよ。

[アグン] ……ありがとうございます。

[オーナー] さっさと食えよ。食い終わったら行動開始だ。

[アグン] はい。それで……昨日言ってたビルに入るアイデアって結局なんなんですか?

[オーナー] なんだよ、だいたい想像はついてんだろ?

[アグン] ……流石は元マフィアってところですね。

[オーナー] そう見えなかったか?

[アグン] いや、マフィアにしか見えませんけど……どうして足を洗って保護施設を開こうと思ったんです?

[オーナー] 当時、ファミリーで内部抗争があってな。派閥選びをしくじった俺はボスに追放されたんだ。失意のどん底にいた時、ヤニーと出会ったのさ……俺はあいつを救い、あいつもまた俺を救ってくれた。

[オーナー] とにかく俺は、あいつのお陰でまだ俺を必要とする奴がいるってことに気づけたんだよ。

[アグン] そんなに懐いてたんですか?

[オーナー] 当然だろ。助けたばっかの時は俺を見ただけで震えてたが、そのうち俺がいねぇと逆に不安がるようになってな。

[アグン] マフィアが警察循獣と友達になるなんて……不思議なこともあるんですね。

[オーナー] 「元」マフィアな!

[オーナー] ……ふん、俺だって龍門に来たばっかの頃は、ガキと一緒にポテチを開けて近衛局の前に座り込むことになるなんて思わなかったぜ。

[アグン] じゃあ食べます? 僕はもうお腹いっぱいなんで……

[オーナー] 一枚よこせ。

[オーナー] ったく、時が経つのは本当に早いもんだな……

[アグン] ……

[オーナー] はぁ……おめぇみてぇなガキに愚痴っちまうとは、俺もヤキが回ったもんだ。

[アグン] 気にしてませんよ。さて、ポテチも食べ終わったことですし、行きましょうか。

[オーナー] ……ああ。

龍門アップタウン 上廠街 近衛局留置場

午後

[オーナー] てめぇ正気かよ? 誰が自転車泥棒だって?

[アグン] まぁいいじゃないですか。少なくとも近衛局に入るって目的は無事達成できたんですから。

[オーナー] それより、どうやって取調室から出てきたんだ?

[アグン] 調書を取ってる時に外でちょっとした騒ぎを起こして、警官が様子を見に行った隙にこっそり抜け出してきたんです。

[オーナー] ちゃんと俺が描いてやったルートを通ってきたんだろうな? あれ以外じゃ監視カメラに映っちまうぞ。

[アグン] いえ、もっと安全な方法を使いました。ここに来るまでの間、監視カメラに全く「映っていない」ことは保証します。

[アグン] あ、それより扉には触らないようにしてください。手が凍ってくっついちゃいますから。

[オーナー] 分かった、ほら急げ!

[オーナー] よし、すぐ目の前が循獣舎だ。さっさと事を済ませば、奴らにバレる前に留置場に戻れそうだな。

[アグン] 約束した通り、一目見るだけですからね。

[オーナー] うるせぇな、分かってるよ。さっさと来い。

[アグン] いました、あそこです。

[オーナー] ヤニー!

[ヤニー] (ぐるぐると激しく回る)ウー、キャンキャン。

[オーナー] よーしヤニー、良い子だ。寂しい思いはしてないか? 俺は毎日お前のことを心配してたんだぞ。

[ヤニー] クンクーン――

[オーナー] よしよし、近衛局でも元気にやってるようで安心したぜ。っていうかお前の部屋、俺の寝室よりもデケェじゃねえかよ! はははっ。

[ヤニー] クーン?

[オーナー] 元々は何があっても連れ帰るつもりだったが……俺の元を離れて、むしろちょっと太ったんじゃねぇかお前。

[オーナー] この数年間、一緒に苦労してきたもんなぁ……

[ヤニー] (鼻をフェンスに押し付け、その間から出ようとする)

[オーナー] へっ、そんな太ってちゃ、挟まって動けなくなっちまうぞ。

[ヤニー] クゥーン……

[オーナー] ああわかってる。一緒にいてぇよなぁ……でもしょうがねぇんだ。

[???] アグン、そろそろ戻って! 一人そっちに向かってるみたい。

[オーナー] なんだぁ? 誰が喋ってんだ?

[アグン] ……ステルスドローンです。

[オーナー] 何でそんなもん持ってきたんだよ!?

[アグン] 説明は後です! 人が来ます、急ぎましょう!

[オーナー] も、もう少しだけ待ってくれ、まだ話したいことがあるんだ!

[ロック二十七号] いいからさっさと戻って! おじさんが捕まろうが知ったこっちゃないけど、アグンに迷惑かけたら許さないからね!

[オーナー] うわっ! びっくりさせんじゃねぇ!

[ロック二十七号] 早くして! 見つかったら監獄行きだよ!

[オーナー] そんなデケェ声出されたら余計に見つかるだろうが!

[オーナー] ……ヤニー、じゃあな。もう……二度と会うことはねぇだろう。良い子にして、たらふく食わしてもらうんだぞ。あんまり悩んでるとまた痩せちまうから、俺のことなんかさっさと忘れちまえ。

[ヤニー] クゥーン! キャン!

[ヤニー] (しきりに頭をフェンスにぶつける)

[ヤニー] クーン……

[オーナー] ……グスン……ヤニー、もうやめろ! いい子だから……頼むよ……

[アグン] ロックロックさん……

[ロック二十七号] なに?

[アグン] 先にドローンを退避させてください。僕が時間稼ぎします。あと少し……あと少しだけでも二人に時間を作ってあげたいんです。

[ロック二十七号] アグン、本気で言ってる? 見つかったらどうするつもり?

[アグン] 大丈夫です。たとえ見つかっても、ロドスの皆さんに迷惑はかけませんから。

[アグン] (服を引き裂く)

[ロック二十七号] 何してるの?

[アグン] こいつで顔を隠すんです。

[ロック二十七号] あたしも手伝ってあげるから、そこまでしなくていいよ!

[アグン] でも――

[ロック二十七号] アグン! これ以上他人行儀なことを言うなら、本当に帰っちゃうからね!

[アグン] ……わかりました。ありがとうございます。

[ロック二十七号] よし。じゃあおじさん、あたしたちが10分だけ稼いであげる。心残りのないように、話したいことは全部話しちゃってね!

[オーナー] ……どうして赤の他人の俺にそこまでしてくれるんだ。

[ロック二十七号] 話せるときに話しておかなきゃ、一生話せなくなることもある……あたしはそれをよく知ってるからかな。

[ロック二十七号] アグン、行くよ。

[アグン] はいっ!

[???] ……急に寒くなってきたな。

[???] !! 壁に氷が張っている……アーツか!

[???] 至急応援を――

近衛局員がヘルメットの通信ボタンに手をかける前に、氷がその両腕を捕えた。

振りほどけないと見るやいなや、その男は歯を食いしばって身体ごと腕を壁にぶつけようとしたが、両脚が地面から離れない。足を這い上がる寒気に目線をやると、既に腰まで氷の層に覆われていた。

[アグン] 警官さん、あなたを傷つけるつもりはありません。ただ少しだけお借りしたいものがありまして……

[アグン] 一つはこの場所、もう一つは数分ほどの時間です。

[???] 顔も隠して名も名乗らない……それが人に物を頼む態度か?

[アグン] すみません、色々と事情がありまして。

[???] ふん――それで場所と時間を拝借し、一体何をしようというのだ。

[アグン] ちょっと思い出話をしたいって人たちがいるんです……信じてもらえますか?

[???] 思い出話? そんなもの喫茶店でやればよかろう。循獣舎でする必要など……

[???] いや待て……まさか!

[???] メイトァンを探しに来たのか!? わざわざ近衛局まで出向くとはいい度胸だな! 出てこい!

[アグン] まずい、気付かれた!

[ロック二十七号] (小声)なかなか切れ者だね……アグン、どうする?

[アグン] (小声)この氷はちょっとやそっとじゃ溶けません。ですので、このままなんとか誤魔化しましょう。逃げてしまえば氷も溶けて証拠も残りませんし。

[ロック二十七号] (小声)でも10分も誤魔化せる? それに時間が経ったらもっと人が来るよ。

[???] 出てこいと言っている! こそこそしおって、見下げ果てた奴だ!

[???] 貴様のような卑怯者に何年も飼われていたとは、つくづくメイトァンが可哀想だな!

[オーナー] 誰が卑怯者だって!? てめぇこの――

[アグン] (ああもう……堪え性がない人だな……)

[オーナー] おいガキ、そいつを解放してやれ。今日という今日は一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇ。

[???] 貴様……未成年をそそのかして片棒をかつがせるとは、極悪非道もいいところだな!

[アグン] えーっと……誤解ですよ警官さん。

[ロック二十七号] (小声)アグン、話がこじれるから黙っとこう……

[オーナー] 解放しろって言ってるだろ! 氷が邪魔でぶん殴れねぇんだよ!

[アグン] ですが……

[オーナー] いいからさっさとしろ!

[アグン] (はぁ、まずいな……)

[アグン] ごめんなさい、警官さん。

[オーナー] このクソ野郎!

[循獣訓練員] ここが近衛局と知って忍び込むとはな! メイトァンも貴様になんぞ会いたくないだろうに!

[オーナー] メイトァンじゃねぇ! いいか、あいつは俺のペットでありダチでもあるヤニーなんだよ!

[循獣訓練員] いいや違う! あの子の名はメイトァン、近衛局の一等勲功を授けられた警察循獣だ。チェルノボーグ事変での救難に爆発物除去、追跡任務など実績は数知れない。貴様が主人だなどあり得ない話だ!

[オーナー] ふざけたこと抜かすな! 俺じゃなきゃ誰だって言うんだ!?

[循獣訓練員] 特別に教えてやる! あの子の主人はシエ・ミン上級警司だ! 前科まみれの落第者が、上級警司の相棒に手を出すとは身の程知らずもいいところだな!

[オーナー] ふざけんな――そんな奴知るか!

[循獣訓練員] 黙れ!

[オーナー] このクソ野郎、その邪魔な腕をどけやがれ!

[循獣訓練員] 貴様が先に私の足を放せ!

[オーナー] てめぇが俺の首から手を放すのが先だ!

[アグン] ……えーっと……あの人たち、ケンカしてるように見えます?

[ロック二十七号] いや、じゃれ合ってるだけにしか見えないね……

[ロック二十七号] でも、あんな風に床でのたうち回ってたら怪我したりしないかな?

[アグン] 大丈夫ですよ。「ケンカ」って言葉の定義は傷つくでしょうけど――

ドンッ――ドンッ――

アグンが振り返ると、循獣が一心不乱にフェンスへ頭を打ち付ける様子が目に入った。目の前で二人が転げ回る様子に不安を覚え、檻から出なければと思ったのだろう。

ぶつかるたびに勢いは増していき、柔らかい鼻からは血が滴り落ちていた。

[アグン] ……いや、このままだと循獣が大怪我しちゃいますね。

[ロック二十七号] だね。まずあの子を先に止めよう。

[アグン] ストップストップ! そこから出たいんだね?

[ヤニー] (アグンの伸ばした手に顔をこすりつける)

[アグン] あの二人のケンカを止めたいの?

[アグン] 心配しなくても、二人とも大して強くないから、相手を怪我させたりはしないはずだよ。

[ヤニー] クゥーン……?

[アグン] でも確かに、あのままにしとくわけにもいかないね……

[アグン] よいしょっと……鍵はここだな。

[アグン] どっちにつくかはもう決めてあるんだろ?

[ヤニー] キャンキャン!

[アグン] ――ただ、誰も君にそれを聞かなかっただけでね。

[アグン] それなら君が教えてやればいい。

[アグン] さあ行って。

[ヤニー] (しっぽを振る)

フェンスが開き切らないうちにヤニーは隙間から飛び出し、取っ組み合いをしている男たちに向かって吠えたてた。

二人が自分に気づいていないことを察知したのか、ヤニーは焦って訓練員のくるぶしに噛みついた。訓練員はその痛みに身体を硬直させると、しきりに吠える循獣を見やる。

[循獣訓練員] メイトァン、何のつもりだ……?

[オーナー] ヤニー……

[アグン] お二人とも、その辺にしてもらえますか?

[循獣訓練員] むっ、ようやく姿を現したか、少年。

[循獣訓練員] 君はまだ子供だから、この男のもっともらしい騙し文句を簡単に信じてしまったのだろう。叱ったりしないから、もうお家へ帰りなさい。あとは我々二人の問題だから、手出しは無用だ。

[オーナー] そうだそうだ、さっさとどっか行け。おめぇが欲しい資料は、ダウンタウン九番街4号の廃工場にある。部下にはとっくに知らせてあるから、行ったら見せてくれるぜ!

[アグン] ……別に力ずくで引き離すこともできるんですけどね。

[循獣訓練員] 少年、何だこれは!

[オーナー] ちょっ、何いきなり氷なんか出してんだ!

[循獣訓練員] ……よ、よし! 三つ数えたら、一緒に手を放そう。

[オーナー] いいだろう。……1、2、3。

[二人] ふぅ――

[オーナー] ゲホゲホッ……なんか俺、最近首を絞められてばっかじゃねぇか?

[アグン] はは……気のせいですよ気のせい。

[循獣訓練員] それより……貴様はマフィアじゃなかったのか? そんな見掛け倒しの拳法でどうやって今まで生きてきたんだ?

[オーナー] はっ、偉そうに……てめぇも近衛局にしちゃあずいぶん腑抜けた格闘術だったじゃねぇか。

[循獣訓練員] ……私は事務員から抜擢されてこの役職に就いたんだ。

[オーナー] マフィアにだって……事務の仕事がねぇわけじゃねぇよ。

[循獣訓練員] ふっ。

[アグン] はぁ……いいから二人とも離れてください。ほらほら、僕が間に座りますから。

[オーナー] チッ……別に暴れたりゃしねぇよ。

[循獣訓練員] やれやれ……

[ヤニー] キャンキャン!

[オーナー] へへっ、お前も俺の隣に座りてぇのか。

[循獣訓練員] メイトァン、君はどうしてもその男と一緒にいたいのか?

[循獣訓練員] だが、一体そいつのどこがいいんだ? あんなボロボロの屋敷に住まされて、エサだって安いものしかもらってないだろうに……

[オーナー] ……俺はおめぇらみてぇに良い環境を与えてやることはできねぇけどよ……なるべくヤニーが腹いっぱい食って、暖かくして休めるように努力してきたんだ。

[オーナー] 俺が腹七分目まで食ったらヤニーには腹八分目まで食わせて、七分丈の服を着るならヤニーには八分丈を着せて暖かくしてやった。

[オーナー] 十分なものを与えてやることはできねぇけど、俺より一分でも多く与えてやるくらいはできるからよ……もう何年もずっと、そうやってきたんだ。

[循獣訓練員] ふん……ミンは朝のまだ暗いうちから、その子を散歩に連れて行ってやっていたぞ。衣食住何一つとて抜かりなく、すべて最高級の物を与えていたものだ。

[循獣訓練員] メイトァン、まだミンを覚えているか?

[ヤニー] クーン……

[循獣訓練員] 彼は君を心から愛していた……まだ君が小さかった頃から、一生懸命君の身の回りの世話をしていた姿が懐かしいよ。

[循獣訓練員] だがミンは……チェルノボーグが龍門に突撃してきた時、君を連れて任務へ出向き……犠牲になった。見つかった遺体も一部だけさ……君がはぐれたのもその時だな。

[循獣訓練員] なぁ、ミンのことは……もうすっかり忘れてしまったのか?

[オーナー] ……横山ビル。

[循獣訓練員] ああ……

[循獣訓練員] あの場所を私は生涯忘れられんだろう。

[オーナー] ……こいつだって忘れたことはねぇよ。俺はあのビルの前でこいつを拾ったんだが、事あるごとにあそこまで俺を引っ張っていって、キャンキャン吠えてやがった。

[循獣訓練員] そうか……君は悲しみを背負いながらも、前を向いて生きようとしているのだな……

[ヤニー] クゥーン……

[オーナー] (抱えた循獣の鼻先にある傷口を優しく撫でる)

[オーナー] おいガキ、なに黙り込んでんだよ……?

[アグン] ……ちょっと疲れただけですよ。

[循獣訓練員] ……可愛げのない少年だな。

[循獣訓練員] メイトァン、今の君はヤニーという名なんだな?

[ヤニー] ワウ……

[循獣訓練員] その男と一緒にいたいのなら、ついていきなさい。

[オーナー] ……何企んでやがる?

[循獣訓練員] なにも。私は疲れたんだ……何年もミンの想いを背負い続けてきたものの、やはり私には重すぎる。

[オーナー] そうやって投げ出していいのかよ?

[循獣訓練員] 投げ出すとは言っていない。いいかよく聞け、この子が貴様を選んだからには、貴様もこの子のために全力を尽くせ。

[循獣訓練員] 私も今後は定期的に君のボロ屋敷を訪ねる。もしなまけていたら、ただではおかんぞ。

[オーナー] バカ言ってんじゃねぇ! 俺がこいつに辛い思いをさせるわけねぇだろ!

[循獣訓練員] ふん……通信するから静かにしていろ。

[オーナー] (小声)おい、止めねぇのかよ!

[アグン] シッ――

[循獣訓練員] フー、悪いが三階の資料を取ってきてくれないか?

[循獣訓練員] トン、循獣舎の空調が故障したようだ。申し訳ないが、修理依頼を出しておいてほしい。

......

[ロック二十七号] (小声)アグン、ここに向かって来てた人がみんな離れていってるみたい。

[アグン] よし。じゃあ行きましょうか。

[オーナー] ヤニー、家に帰るぞ!

[オーナー] ……おい、どうして檻に戻るんだ?

[循獣訓練員] メイトァン……どうしたんだ?

[循獣訓練員] ここへ残りたいのか?

[循獣訓練員] あっ……

[循獣訓練員] 君のその食い意地は、ずっと変わらんな。

ヤニーは丸々としたお尻を左右に振りながらケージの中に戻ると、そそくさとジャーキーの袋をくわえ、男の元へと駆けて行った。

近衛局ビル入口

[循獣訓練員] 送ってやれるのはここまでだ。

[オーナー] ったく……近衛局出てくるだけでずいぶん目が回っちまったぜ。

[循獣訓練員] 同僚があまり通らないルートを選んでやったんだ、感謝しろ。

[オーナー] ははっ、ありがとよ。

[循獣訓練員] ふん――貴様のためではないがな。

[循獣訓練員] メイトァン……いや、ヤニー、また会おう。

[オーナー] 暇があったら……いつでもこいつに会いに来いよ。

[循獣訓練員] はぁ……

[循獣訓練員] ……ミン、安心してくれ。私が目を光らせておくよ。

ダウンタウン九番街4号

[オーナー] 入りな。引き取った動物の資料は全部ここに保管してある。

[アグン] こんなに……天井まで積み上がってますよ。

[オーナー] 確か種別に分けてあったはず……烏雲獣……烏雲獣は、っと……

[オーナー] うーん……どこだ……?

[アグン] おじさん、気をつけてくださいね!

[オーナー] 余計なお世話だ。……あった。投げるから受け取れよ。

[アグン] はい……よっと。

[オーナー] どれどれ……去年の記録から見ていこう。

[オーナー] 去年は全部で四匹の烏雲獣を保護してるな……

[オーナー] あ、こいつじゃねぇか? 確か保護して何日もしないうちに、近くに住んでるばあさんが里親に名乗り出たんだっけな。

[アグン] 違うと思います。この子は耳が欠けてますけど、僕が探してる子は耳に傷はないはずですから。

[オーナー] じゃあこいつはどうだ? いや、こいつはただの迷子だったから飼い主の元に帰ってるな……

[アグン] はい。それに僕が探してる子は、この子みたいに口の周りが白くありません。

[オーナー] うーん……おっ、今度は間違いねぇ、こいつだろ。ほら、そっくりだぜ。

[アグン] いやいや、どう見ても違いますよ。この子は胸のところの毛が茶褐色じゃないですか……

[オーナー] おお、すまんすまん。目が良くねぇもんでよ。

[オーナー] ん? なんか落ちたぞ? どっか転がってっちまったか?

[アグン] 僕が探しますよ。こっちは気にせず次の子の情報を読み上げてください。

[オーナー] ああ、次は……毛色は混じりけのない黒で、身体には傷一つない。七月二十八日の早朝に窓から脱走して……そうだ、こいつは……こいつは最後に……

[アグン] あ! 見つけました、ネームプレート付きの首輪みたいです。……おじさん?

[オーナー] ……最後に、ちぎれた首輪だけが見つかったんだ。その場には大量の血痕が残ってて……失血量から判断するに、おそらくもう……死んでいる。

[アグン] ……

[アグン] じゃあこの首輪は……

[オーナー] ああ……ネームプレートには何か書かれてるか?

[アグン] ……はい。

[オーナー] 何て書いてある?

[アグン] 六……七……ロクナナ……

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