aklib_story_マリアニアール_MN-3_ローズ新聞_戦闘前

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マリア・ニアール_MN-3_ローズ新聞_戦闘前

試合後の祝勝パーティーで、皆がそれぞれの過去を話しているところに、企業からのスポンサー依頼が舞い込んだ。そうこうしているうちに、次の試合はもう目前だ。


[全員] かんぱ――い!

[老職人] いやぁ、おめでとう嬢ちゃん! 素晴らしい試合だったな。今の老いぼれたフォーより断然強いぞ!

[老騎士] そりゃ、わしより強いのは間違いないが――お主に言われる筋合いはないわ!

[老職人] ああ!?

[ゾフィア] またすぐそうやって喧嘩する……他のお客さんに迷惑でしょ!?

[マリア] あはは……腕相撲始めちゃったね。

[禿頭マーティン] いい試合だったよ、お嬢さん。この一杯は君に捧げよう。

[マリア] あ……ありがとう!

[禿頭マーティン] あの試合中にシェブチックの弱点を見つけ、一撃で勝負を決めた。見事だったな。

[禿頭マーティン] 試合時間約二十分、常に劣勢だった状況下で逆転の糸口を見つけ、僅かな攻撃チャンスを逃さずに勝利するとは――

[禿頭マーティン] ――実に大したものだよ。

[マリア] そ、そんなことないよ! もし彼の装備が欠陥品じゃなかったら、全然打つ手がなかったかもしれないし……

[マリア] Jack2モデル……冷却システムがアーマーの機能を一時的に止めるなんて聞いたことがない。あんなのただの欠陥品だよ。

[禿頭マーティン] しかし、シェブチックは歴戦の競技騎士だ。欠陥品の販促の片棒を担がされることは度々あれど、常にそれらの欠点をうまく誤魔化してきた。こんなことは滅多に起きないんだよ。

[禿頭マーティン] あまり謙遜しなくていい。乱暴な言い方だが、事実として騎士競技はどんな時でも結果論だからね。

[マリア] う、うん……

[ゾフィア] ……マリア!

[マリア] はい!

[ゾフィア] 自惚れるにはまだ早いわ!

[マリア] は、はい!

[ゾフィア] これからは、感情を意識的にコントロールすることを学ぶのよ――平常心を保つだけじゃ足りないの。自省を繰り返し、常に冷静でいないと。

[ゾフィア] ……自負や自慢はね、自分の中にないと思えば思うほど危険なの。勝利がもたらす心境の変化は、自分ではなかなか気づけないものなのよ……

[ゾフィア] そしてそこから来る油断が……君の警戒心を麻痺させてしまうんらから……

[マリア] わ、わかったよ!

[マリア] あの……おばさん? もしかして……酔ってる?

[ゾフィア] 酔ってらいわよ! あと、おばさんって呼ばないれ……

[老職人] ――勝ったぞ!!

[老騎士] くそっ、コーヴァル! なんで半年前より強くなっとるんじゃ!?

[老職人] 水道管の修理で鍛えられたんだよ、文句あるか?

[老騎士] ちっ……

[マリア] コーヴァルおじさん、フォーゲルヴァイデおじさん、ちょっと いい? ……ゾフィアおばさんのあの様子、やっぱり酔って――

[ゾフィア] マリア……おばさんって呼んじゃ……らめ……

[老職人] おお……これは酔ってるな。珍しい。

[ゾフィア] 酔ってらんか……らいわよ!

[老職人] はいはい。マリア、あんたのおばさんを後ろのソファに寝かせといてやってくれ。

[マリア] え……あ、うん。おばさん……少し足を上げてくれる?

[ゾフィア] らからおばさんって呼ぶら……!

[老職人] “ウィスラッシュ”ゾフィアはここらじゃあ“千杯”ゾフィアって呼ばれるほど酒は強いんだがな……まあ、俺には勝てないが。

[老騎士] はいはい、“万両”フルーテン様じゃろう? 炎国の奴らに一回飲み勝ったというだけですっかり調子に乗りおって。若いお嬢さんと酒量を比べるなんぞ、恥ずかしくないのかのう?

[禿頭マーティン] 彼女も相当気を張ってたんだろう。初めて教官として大会に関わったうえ、あのビッグマウスモーブの減らず口を延々と聞かされたんだからな。

[禿頭マーティン] しかし、懐かしいな……はぁ……マリアが勝ってからというもの、懐古主義になったらしい。私もそういう歳だということか。

[老騎士] 何を言うておるんじゃ? わしらはほぼ同い年じゃろうが!

[禿頭マーティン] そうか、なら無理もないか。

[老騎士] おい!

[禿頭マーティン] ……そうだな。初めてゾフィアが出場したのはどれくらい前だ? 十二年? いや、十五年前か?

[老騎士] 時間もわからなくなるほど老いぼれるのは仕方ないが、ゾフィアはそれほど歳をとってはおらんぞ?

[老騎士] たしか九年前じゃったかのう。ええと血騎士、耀騎士、黒騎士……ふむ、三シーズン前の話じゃな。

[禿頭マーティン] 黒騎士……あのキャプリニーか。はるか昔の名に思えてくるな。

[老騎士] なんたって、大会をさらに三回分遡ったところから彼女は頂点に君臨し続けておったからのう。メディアも彼女を「時代の象徴」と呼んでいたほどじゃ。

[マリア] あ、あの前代未聞の三連覇を成し遂げたっていう……?

[老職人] ああ。騎士の称号は普通「黒」なんて広い表現は使わん。皆がそんな称号を冠すれば、他と被ることになるのは明白だし、間違われたりして面倒だからな。

[老職人] しかし、あのリターニアの女は、確かに「黒」の称号を独り占めできるほどの実力を持っていた。あれは化け物だ。

[老職人] まあ今は、境外のどこぞの財閥に仕えているらしいがな。なんて嘆かわしい……

[老騎士] あんなものは騎士とは呼べぬわ……騎士であってたまるか。

[マリア] そ、そうなんだ……

[老騎士] ……マリア、ゾフィアから彼女の競技経歴を聞いたことはあるか?

[マリア] ううん。録画や戦績データは残っているけど、本人から直接聞いたことは――

[マリア] たしか、たしかあの年、ゾフィアおばさんはベスト8決定戦で……

[老騎士] ああ、重傷を負ったんじゃ。

[老騎士] 相手はあの「亀裂」騎士じゃったな。はっ、そういえば奴は今年も参加しておったかのう?

[禿頭マーティン] ……

[老職人] ……おい! なんだなんだ、今日は打ち上げだろう? なんで急に昔の話を蒸し返したりするんだ?

[老職人] マリア、どうせ楽しい話じゃないんだ、無理して聞く必要ないぞ。

[マリア] で……でも、やっぱり知っておきたいかな。

[マリア] 今回運よく試合に勝てたのはいいけど、おばさんは……あんまり嬉しくなさそうで。さっきもほとんど喋ってなかったし、ただひたすらお酒を飲んでばかりで……

[マリア] おばさんは私のことをすごく考えてくれてるから、期待を裏切りたくなくて……おばさんが何を考えてるか知りたいの。そのためには過去も知っておかなきゃって。

[老職人] ふむ……そういうとこはやっぱりお前の姉ちゃんに似ているな。

[マリア] 私が? お姉ちゃんに?

[老騎士] そうじゃのう。悪いことには妙に鋭いし、それを良くしようと頑張るところなんぞ、姉そっくりじゃな。

[老騎士] それに最後の剣捌き、あれはゾフィアから教わったのか?

[マリア] あ、いや、実は――

[禿頭マーティン] マーガレットだね?

[マリア] え? あ、うん……そんなにわかりやすかった?

[禿頭マーティン] ははは、もちろん。君たち姉妹は本当にそっくりだ。私はあの日を忘れたことはないよ。

[禿頭マーティン] 史上最年少の優勝者、耀騎士の奇跡……彼女は自分の力であの場所まで登り詰めたんだ。

[禿頭マーティン] 特に表立って公言してはいなかったが、ゾフィアもマーガレットをかなり慕っていてね。

[禿頭マーティン] ただの従者だった彼女は、誰にも負けたくない一心で、私たちのような老いぼれに訓練に付き合ってほしいと頼み込んできた。

[禿頭マーティン] そして彼女は騎士競技に参戦し、メジャー入りを勝ち取ったんだ。順風満帆に見えるが、彼女は最初から最後まで、スポンサーを受け入れたこともなければ、他人に援助を求めることもなかった。

[禿頭マーティン] 私が顔の利く小さな企業数社に声を掛けてやろうかと聞いた時も、彼女はやんわりと断っていたよ。

[老職人] ……どの企業もゴミみたいなもんだ。断って正解さ。

[老騎士] お主は黙っておれ……そういうわけじゃから、ゾフィアは「亀裂」のような輩に敗北したんじゃ。

[マリア] おばさんが……?

[禿頭マーティン] マリア……競技騎士がどれほどの後ろ盾を必要としているか、君にはまだわからないだろうが、武器や装備の性能差は、どうあがいても補えないものがある。

[禿頭マーティン] シェブチックが君に負けたのも、欠陥のあるアーマーを着せられたせいかもしれないが――

[禿頭マーティン] もし、彼が欠陥など一切なく、なおかつ性能面でも優秀なアーマーを着ていたとしたらどうだ? それでも勝てたと言い切れるかな?

[マリア] それは……

[マリア] 勝てなかった、と思う……

[禿頭マーティン] ゾフィアは、そういう騎士を相手に戦ったんだ。完璧な鎧、完璧な武器、そして完璧なサポート。その戦力差は計り知れない。

[禿頭マーティン] 自分のわずかな蓄えで揃えた装備に、自分で磨いてきた戦闘技術、そして自分一人で築いてきた人脈。彼女はそれらを武器に、孤軍奮闘した。

[老職人] ……はぁ。

[禿頭マーティン] 私たちは何もしてやれず、彼女が怪我を負い、退場するのを黙って見ているしかなかった。

[禿頭マーティン] あのとき、私たちは無力だったんだ……

[マリア] マーティンおじさん……

[老職人] まあ、少なくとも今は、この嬢ちゃんの教育を手伝ってやることくらいはできるんじゃないか?

[禿頭マーティン] ははは! ゾフィアの怪我の元凶とも言えるこのマーティンだぞ? おまけに自分の腕まで失くしてるんだ、私に教育係が務まるわけがないじゃないか。

[マリア] そんな――とんでもない! みんなのことは、これまでずっと尊敬してきてる! 本当だよ!

[禿頭マーティン] おや? 珍しいな、君たち以外のお客さんが来るとは。

[老騎士] それじゃこの店が潰れるのも時間の問題じゃのう。

[企業職員] ……ええと。

[企業職員] あのう……失礼ですが、あなたがマリア・ニアール様でしょうか?

[マリア] あ……はい、そうですけど。

[企業職員] お目にかかれて光栄です、マリア様。少しお時間をいただいても?

[マリア] ええ、大丈夫です。何かご用でしょうか?

[企業職員] ご挨拶が遅れました、私はスウォマー社の者でございます……こちらが私の名刺です、どうかお見知り置きください。

[企業職員] 今まで何度かご邸宅に招待状をお送りしたのですが、ご返信を頂けませんでしたので、大変失礼ながら、直接お伺いさせていただいた次第でございます。

[マリア] あ……屋敷のほうにですか。すみません、たぶん……郵便ポストが壊れてたんじゃないかと! ははは……

[マリア] それで、ご用件は?

[企業職員] 実は、弊社がスポンサーを務めている「ムーンクラスタ」騎士団の団長様が、あなたがシェブチックさんとの一戦で見せた高等技術を大絶賛しておられまして。

[企業職員] そんなあなたが、どこにも所属していないと聞いたものですから、取り急ぎ商務部に連絡し、マリア様と入団の交渉をするよう指示を下されたのです。

[マリア] ……入団、ですか?

[企業職員] はい……実は、スウォマー社のCEOもぜひマリア様にご加盟していただきたいと考えておりまして……

[老騎士] (おいコーヴァル、スウォマーってのは、あの稲穂みたいなマークの食品会社か?)

[老職人] (さっき食ってたクッキーのパッケージ裏側を見りゃわかるだろ、老いぼれが。)

[老職人] (「ムーンクラスタ」も騎士団百強に入ってるはず……だが決して競技のおかげじゃない。あれは広告料とスポンサー料だけで食ってる、くだらない商売人の集まりにすぎん……)

[企業職員] もちろん、それだけではありません。マルト社カジミエーシュ本部の宣伝部門からも、マリア様さえ頷けば、スウォマーと共に騎士団の発展に協力していただけるとのお言葉を……

[マリア] マルト? それって、あのファッションブランドのマルトですか?

[企業職員] ええ、そうです。他にも疑問点がございましたら、どうぞ遠慮なく私にお尋ねください……

[ゾフィア] う……あれ……私、どれくらい寝てた?

[マリア] あ、ゾフィア姉さん、起こしちゃった?

[マリア] そんなに経ってないよ、十分くらいかな。もう少し寝てたら?

[ゾフィア] ダメよ、メジャーまでの必要ポイントも計算しておかないといけないし、今月中には絶対――あれ?

[ゾフィア] 君は……

[企業職員] ……ゾフィア様? あ、あなたなんですか?

[ゾフィア] ええ。君のことはなんとなく覚えてるわ。あの新人マネージャーさんでしょ……

[企業職員] いえ……もう違うんです。今は……スウォマーの使いっぱしりをしている、ただの一社員にすぎません……

[企業職員] なるほど、マリア様の教官は「鞭刃(べんじん)」騎士――“ウィスラッシュ”ゾフィア様でしたか……ならば、話は早いですね。

[企業職員] 「ムーンクラスタ」騎士団には、お二方のような若い騎士が揃っております。弊社の商務部門は、皆さんの価値をより引き出す方法を知っているんですよ。

[マリア] でも、それって――

[ゾフィア] つまり、スターとかアイドルとか、ネットならインフルエンサーとやらになるんでしょ? 競技の成績なんてお構いなし。顔を見せるだけでお金をたっぷり出してくれるお客さんがいるってことね。

[マリア] そんなことって……あるの?

[ゾフィア] マーケティングってのは、そういうものよ。九割の予算で「顔」を探してくれば、後はパクれそうな商品を見つけて、大げさな広告を出すだけ。

[ゾフィア] 簡単な手段だし、君の想像を絶するほど効果抜群なのよ。そういうやり方の問題性に気付ける人だってほとんどいない。

[企業職員] ……端的に申し上げると、確かに仰る通りです。しかしスウォマーは商業連合会を代表して、マリア様が騎士の勲位と称号を授かれるように手配することをお約束いたします。

[ゾフィア] ……どうする?

[マリア] どうするって聞かれても、急すぎて考えが……

[ゾフィア] 本音を言うと……私はこの話に乗ってもいいと思うわ、マリア。

[マリア] え?

[ゾフィア] 怪我を負うリスクもなく、ニアール家の貴族の地位を保てるのよ。美味しい話じゃない? 来年には、私の屋敷より大きい庭園が買えるかもしれないわね。

[マリア] ゾフィア姉さんの庭、手が回らずにあんな風になってるじゃない。私がもっと大きい庭園なんて買っても、同じように雑草まみれにするだけだよ。

[ゾフィア] 同じように? なんですって?

[マリア] な、なんでもない。

[企業職員] マリア様に頷いてさえいただければ、好条件の契約書が今すぐにご用意できます。どうかご安心ください。

[マリア] ……

[マリア] それは……できません。

[マリア] ごめんなさい……私、ニアール家の紋章を企業の付属品にされたくないんです。少なくとも、私は自分の実力を試したいので……

[企業職員] ……えっと、それはつまり?

[ゾフィア] マリア?

[マリア] うん、ゾフィア姉さん。わかってるよ。

[マリア] ムリナール叔父さんのやり方は好きじゃないし……お祖父ちゃんやお姉ちゃんが守り抜いたものを、簡単に手放すわけにはいかない。

[マリア] だから……ごめんなさい。私にはそれが正しい選択だとは思えないんです……

[企業職員] なんと……マリア様がそのような決断をされるとは、確かに予想外でした。

[企業職員] し、しかし、まだ他にも商業連合会が用意した様々な契約書があります――ぜひ、目を通してください。

[ゾフィア] ……商業連合会? それは協会が担当しているはずでしょう?

[企業職員] ええと……ど、どうかお察しください。これもCEOが、ぜひともマリア様にご加入いただきたい理由の一つでございまして……

[ゾフィア] ……

[マリア] うん……でも、ごめんなさい。全部お断りします。

[企業職員] は、はい、それは確かに聞きました。先ほど、お断りの言葉を……ええと……

[企業職員] その、ゾフィア様、マリア様! これからはもう業務外の話になりますので、私個人のお願いとして、どうか一言だけお聞きくださいませんでしょうか……

[マリア] あの、歯が震えているみたいですけど……え、ちょっと、泣かないでください。断られるくらい、そんな大したことじゃ……

[企業職員] い、いえ、ただ、これだけは知っていただきたいのです。今後誰かが再びお二方のもとを訪ねた時、特にマリア様にお話があるというのならば、どうか――

[企業職員] どうか、それが他の会社の者でも、できる限り話に乗ってやってください! これは、私たちにとっては切実な問題なんです……

[企業職員] で、では。これ以上失態をお見せするわけにもまいりませんので、失礼いたします……

[老職人] なんだ? 他の会社の代わりに頼み込むなんて、おかしな奴だな。

[老騎士] そうじゃな……確かに妙な話じゃ。

[ゾフィア] ……マリア、次の試合はいつ?

[マリア] 三日後だったと思う。

[ゾフィア] 相手は誰? 協会から連絡は?

[マリア] えっと……来てないかな?

[ゾフィア] 帰るわよ、マリア。今回の試合を見る限り、まだまだ課題はたくさんあるわ。

[老職人] 今から? おいおい、打ち上げがまだ終わってないぞ!

[禿頭マーティン] コーヴァル、行かせてやろう。

[禿頭マーティン] ゾフィア、いつも以上に気を付けるんだよ。

[ゾフィア] ――わかってる。行くよ、マリア。

[マリア] え、ええ? ちょっと待ってよ――!

[???] ……イングラ? 「錆銅(しょうどう)」騎士イングラのことか? 国民議会は再び奴を釈放したのだな。

[???] さすがは大企業を味方につけた騎士……奴に使い物にならなくなるまで叩きのめされたヴィクトリア人は、さぞかしご不満だろうな。

[???] まあ……それならそれでちょうどいい。

[ビッグマウスモーブ] レディース&ジェントルメン!

[ビッグマウスモーブ] 規則なし、縛りもなし、そして怪我や命の保障さえもなし!

[ビッグマウスモーブ] 今、目の前に在るのは、鎧を纏った二名の騎士と競技場のみ!

[ビッグマウスモーブ] カジミエーシュ騎士競技の肝となるメジャー選抜戦は、すでに三か月も行われてきました! ですが、新たな参戦者は未だに後を絶ちません!

[ビッグマウスモーブ] しかし! 私は本日、今までの予選試合とは一味も二味も違う戦いが観られることを、ここでお約束いたします!

[ビッグマウスモーブ] そして今、舞台に立っているのはなんと! 古の伝統ある貴族を代表する二名の騎士!

[ビッグマウスモーブ] おっとっと! ブーイングが聞こえてきましたよ。しかし心配はご無用! 本日の試合の面白さは、私の長年の伴侶であるこのマイクに賭けて誓いましょう!

[ビッグマウスモーブ] 彼らの名前を聞けば、皆様はきっと叫ばずにはいられなくなる! そう言い切れる自信が私にはあります!

[ビッグマウスモーブ] さあ、前置きはこのくらいにして、まずはこちらの選手からご紹介致しましょう――イングラ家の末子、オルマー・イングラ!

[ビッグマウスモーブ] そう! 彼こそが、対戦相手をことごとく血祭りにあげ、度重なる審判堂送りにもかかわらず、多額の企業献金によって無罪判定を出させ続けた「錆銅」騎士イングラです!

[ビッグマウスモーブ] ブラッドボイル騎士団を代表する競技場のブッチャー! 決して敵を五体満足のままでは退場させない残酷なる騎士!!

[ビッグマウスモーブ] その威容、暴力、そして残虐性――彼が戦いで放つ全てが、相手の骨と心の髄まで刻み込まれるのは必至!

[ビッグマウスモーブ] さてさて、もう片方の騎士は――!

[ビッグマウスモーブ] Oh! Yeah!! 現存する中では最も悠久な歴史を誇る、伝統ある騎士名家の一つ! その名を大きな声で叫びましょう、せーの! ニアーーーーール!!

[ビッグマウスモーブ] たった一人の知恵のみでリターニアに立ち向かったカジミエーシュの英雄、国賊に仕えた侍従を刺殺した無光騎士、そして耀騎士の名を持ちながら、鉱石病に感染し流罪に処された屈辱の象徴!

[ビッグマウスモーブ] これらは全て、彼女のファミリーの歴史にございます!

[ビッグマウスモーブ] おや、歴史に興味はない? いいでしょう! それではつい先日、無称号の身でありながらロアー騎士団の大先鋒であるシェブチックを倒したのは誰だ!?

[ビッグマウスモーブ] ロアー競技場の月間MVPを獲得し、現在最高の人気を誇っている騎士は誰だ!?

[ビッグマウスモーブ] 果たしてこの名誉が、今日の試合で覆されてしまうのでしょうか? あの美しい御令嬢の顔が「錆銅」によって原形を留めないほどに滅茶苦茶にされるのでしょうか?

[ビッグマウスモーブ] そんな姿は見たくないというあなたも、いやそれこそが見たいんだというあなたも! 共に大きな声で迎え入れようではありませんか――マリア・ニアール――!!

[ビッグマウスモーブ] さあ、この戦いの結末はどうなる? 最後に笑うのはどっちだ? 座席の横の端末から、彼らに投票してください!

[ビッグマウスモーブ] ルールはいつも通り! お金を出しても試合の結果を100%決定づけることはできませんが、皆様のお財布の未来はそれで決まることでしょう!

[ゾフィア] ――マリア!

[マリア] え?

[ゾフィア] お願い……お願いだから、棄権して! 今回だけは私の言うことを聞いて。せめてこの一戦だけは……

[マリア] ……おばさん?

[マリア] 一度戦いの舞台に降りたら……騎士に引き返すなんて選択肢はないはずだよ。

[ゾフィア] ……そうだったわね。

[ゾフィア] 頑張りなさい、マリア。

[ゾフィア] 君の力を、皆に見せつけてやって。

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