このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。 各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。 著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。 |
マリア・ニアール_MN-1_エレンズチョイス_戦闘後
叔父のムリナールの反対を押し切り、マリアはゾフィアによる訓練を数週間にわたって受け、ある程度の戦闘技術を習得する。
[マリア] (装備は、完了っと。剣は……お姉ちゃんが使ってた訓練用の剣、まだ使えるよね?)
[マリア] (そろそろ出発しよう……)
[???] ......
[マリア] あっ! ムリナール叔父さん……
[ムリナール] どうした? まだニアール家に恥をかかせ足りないというのか?
[マリア] え? そんなんじゃ――
[ムリナール] 騎士競技の件……部署の同僚が教えてくれたよ。
[ムリナール] お前は騎士競技にふさわしくない。そもそも騎士競技自体、ニアールの名にふさわしくない。
[マリア] ……
[ムリナール] ゾフィアがそそのかしたのか?
[マリア] 違う! 私が自分から――
[ムリナール] そうだろうな。ゾフィアはニアール本家に仕える分家筋――ただの世話係に過ぎなかったが、あのマネーゲームで一定の地位を得た。彼女は今や「騎士階級」だ。フッ……
[ムリナール] だが、お前はどうなんだ?
[マリア] わ……私はただ家を守りたくて……
[ムリナール] たとえ貴族の身分を剥奪されようと、ニアール家の信条は微塵も揺らぎはしない。何からも守ってもらう必要などないのだよ。
[マリア] それでも……
[ムリナール] ましてやお前に守ってもらう必要などないのだ、マリア。
[ムリナール] マーガレットのようにはなるな。若くて血気盛んなあまり、容易に慎ましさを失い――
[ムリナール] はい……これは部長、お疲れ様でございます。
[ムリナール] ……はい、そうです。確かに私です。
[ムリナール] ご安心ください。もし先ほどの会議で不明点があればなんなりと私に……え? そ、そんな、もう一度お考え直しを……どうかお願いいたします……
ムリナールはマリアを一瞥すると、冷ややかな表情で階段を上がっていった。
[ムリナール] いえ、そちらは確かに私のミスです。部長とは関係ございません。後ほど修正した資料を送りますので……明日、明日には必ず……大変申し訳ございません。
[ムリナール] それだけは、どうかもう一度お考え直しいただけないでしょうか。はい必ず。ええ、このようなミスは二度と致しません。本当に申し訳ありませんでした……
[ムリナール] ――マリア、さっきの件はまた今度だ。身の程を弁えるんだぞ。
[マリア] 叔父さん……
[マリア] ダメ……今動揺しても意味がない。早くしないとゾフィアとの約束の時間に遅れちゃう。
[マリア] ……
[マリア] うっ――!
[ゾフィア] しっかり立って、リズムを崩さないで!
[ゾフィア] ふぅ――
[ゾフィア] この十分間、たった一度の反撃もできなかったわね。
[マリア] うぅ……片手で相手するって言っても、ゾフィア姉さんの剣は元々片手用じゃない!
[ゾフィア] 全力ならもう片方の手も使うことになるわ。リターニア人の戦闘術を味わってみたい?
[マリア] 各国の騎士はそれぞれ全く異なるスタイルで戦うって聞いたけど、ゾフィア姉さんはそんな戦い方までできるの!? ずるいよ!
[ゾフィア] 見様見真似よ。私だって何も準備せずにあの試合に負けたわけじゃないの。
[マリア] おばさん……?
[ゾフィア] いえ……もうずっと前のことよ。特に掘り返すことじゃないわ。
[ゾフィア] そんなことよりマリア……今の君のレベルじゃ、騎士競技に出てもコテンパンにやられるだけよ。
[マリア] うぅ……
[ゾフィア] ほら、続けるわよ。
[マリア] わ、わかった。でもあと三十秒だけ待って、足が震えちゃって――
[ゾフィア] この程度で音を上げるなら、騎士競技なんか諦めたほうがいいわ。
[マリア] うぅ――! わかった、やるよ!
翌日
[マリア] はぁ……はぁ……ど、どう?
[ゾフィア] 何がどうなのよ……フラフラじゃないの。
[マリア] 睡眠と食事以外の時間は……基本的に……ずっと動きっぱなしなんだもん。ゾフィア姉さんは……疲れてないの?
[ゾフィア] ……団体混戦って知ってるかしら?
[ゾフィア] 騎士競技の中で一番注目される試合よ。それぞれの騎士団から一名ずつ選手が出場するの。君の場合は独立騎士として参加する。
[ゾフィア] そして巨大な競技場で数十人が一斉に試合をする。鎧兜に攻撃を命中させた数でポイントを判定し、最終的にそれが競技ポイントへと変わる。
[ゾフィア] もちろん……もし制限時間内に倒されたり戦闘能力を失ったりしたらそこでおしまい。0ポイントよ。
[マリア] そ、それは私も知ってるよ……
[ゾフィア] そう。なら団体混戦の試合時間がどれくらいか知ってるかしら?
[マリア] ……数時間とか?
[ゾフィア] 歴史上最も長時間だった団体混戦は、熱狂した観客と企業によって何度も何度も延長され、一昼夜通して行われたわ。
[ゾフィア] 騎士たちは、幾度となく立ち上がることを強要され、まるで檻に入れられた鉗獣のように戦い合ったわ。
[マリア] い、一昼夜も……?
[ゾフィア] ええ。丸一日かけて戦い、負けた者は何も得られず重傷を負った。しかし最後まで残った三人は本選への参加資格と、十分なポイントを一挙に獲得したの。
[マリア] つ、つまり……えっと、一日戦って三人しか次に進めないってこと……?
[ゾフィア] ええ、その通りよ。とあるスポンサーがこの方式を採用してからというもの、真似する企業がうじゃうじゃと出てきたわ。オリジムシが湧き出るスピードよりよっぽど速くね。
[ゾフィア] 何ていうか……利益のために無残に変わり果てた競技ってところ。でも悲しいことに、観客が喜べばどんな結果になろうと関係ないのよ。
[ゾフィア] だから少なくとも、君には丸一日は戦い続けても疲れないくらいの体力を付けてもらうわ!
[マリア] ――ま、丸一日!?
一週間後
[ゾフィア] ふぅ……
[ゾフィア] 今日はここまでにしよう、少しは成長したわね。
[マリア] ふあーーっ!
[ゾフィア] 動いた後すぐに寝転ばないの。少し歩いて、晩ご飯は何食べようかとか考えてなさい。
[マリア] わ、わかったよ。うぅっ……足がだるい……
[ゾフィア] 当然でしょ、君の足捌きには無駄が多いから。
[ゾフィア] レースは……望み薄ね。有名騎士団の中にレースに特化した選手がいたら、私たちに勝ち目はないわ。
[ゾフィア] でもたとえそうでなくたって、人工地形の中においては、機動力はとても重要になるのよ。
[ゾフィア] もちろん……レース競技も装備に頼るところが大きいわ。私たちには使える資金なんてそんなにないけどね。だから体力が勝負――
[ゾフィア] ちょっと……聞いてる?
[マリア] あっ――! そうだ!
[ゾフィア] な、なによ?
[マリア] 前回ジュークボックスを修理した時、マーティンおじさんがレストランのクーポン券をくれたんだった。晩ご飯はそこにしようよ!
[ゾフィア] 君ねぇ……確かに晩ご飯のことを考えろとは言ったけど――
[マリア] もう、そんなすぐ怒らないでよ。私はただゾフィア姉さんを労ってあげようと思っただけなのに……
[ゾフィア] べつに怒ってないわ。で、いつ出掛けるの?
[マリア] せっかく一緒に外食するんだから……せめてシャワー浴びて服を着替えようよ?
[ゾフィア] わかったわ……でも帰ってきたらまた続きをやるわよ、気を緩めすぎないように。
[マリア] うん!
[ゾフィア] ……
[ゾフィア] (マリアは明らかに成長している。騎士競技出場を決めたのは、一時の感情に流されてのことだと思ってたけど……)
[ゾフィア] (見た目以上に本気のようだわ。この訓練もあの子にとっては厳しすぎるもの……というより元々は早く諦めさせようと思って組んだ訓練メニューなんだけど――)
[ゾフィア] (ついてくるのがやっとの状態なのに、まだあの普段の前向きな態度を崩さずにいられるなんて……誰に似たのかしらね)
[ゾフィア] (これもある意味、一種の闘志といえるのかしら……?)
ゾフィアは顔を上げた。雑草がはびこる庭園のはるか遠くに、高層ビル群の灯りが、あかあかと輝いている。
彼女はふと、まだ使っていない方の手でそっと剣の柄を掴んだ。
剣が鞘から抜かれる前に、激しい痛みが腰から腕に掛けて伝わる。痛みで全身の力が抜けてしまう前に、彼女は柄から手を放し、軽く舌打ちをした。
三週間後
[老職人] 嬢ちゃん二人は一体いつになったら現れるんだ? 休憩時間くらいこのバーに顔を出したっていいだろうに。まったく水臭いぜ。
[老職人] それとも何か? 「秘密の特訓」なんてのが、今の若い連中の間でも流行ってるのか?
[老騎士] ……そんなものがいつの時代に流行ったんじゃ?
[老職人] 俺が若い時だ。
[老騎士] 騎士とは四方を渡り歩いて己を鍛えるもの。いつ秘密の特訓などができるというんじゃ?
[老職人] ……チッ、天災トランスポーターを雇えて移動手段も持ってるお騎士様には、世間一般の大変さはわからんだろうよ……ジジイの剣をこしらえるために、俺は工房で死ぬほど働いたんだぞ……
[老騎士] 何をぶつぶつ言うておるのじゃ。文句があるならはっきり言ったらどうじゃ、ケンカならいつでも買ってやるぞい!
[老職人] 自意識過剰なんじゃねえか? そのお騎士様があんただなんて一言も言ってないぜ!?
[老騎士] シーッ!
[老騎士] ……聞こえたか? あの子たちの剣の音じゃ。
[老職人] 俺の耳が飾りだとでも思ってるのか? うーむ、それにしてもいい音だ。最近その辺に出回ってる武器ときたら、ゴミメーカーが手抜きして作ったスカスカの訓練用剣ばっかりだが――
[老職人] この剣の音は心地いい、いや、めちゃくちゃいいぜ……いや待て、この剣の響きはどこかで聞いたことある気がするんだが……
[老騎士] それはお主が老いたからじゃ。
[老職人] もうあんたと話すのは疲れた、早く嬢ちゃんたちのとこへ行くぞ!
[老職人] で、訓練場はどっちなんだ? あんた迷ったわけじゃないよな? それともとうとうボケちまったか?
[老騎士] 慌てるでない! しかしゾフィアの庭はこんなに大きかったかの? 入口の使用人にオートバイでも借りるべきじゃったか。
[老職人] オートバイに何の意味があるんだよ。ここにゃ雑草が湖畔の森の何倍もクソほど茂ってるんだぞ、どこを走る気だよ?
[老騎士] おい、足元に気を付けるんじゃ。
[老職人] おっと! 危うく転ぶとこだった……これは何だ? ボンネット? なんで庭にボンネットが落ちてるんだ!?
[ゾフィア] 足さばきに気を配って! 呼吸を乱さない!
[マリア] は、はい!
[老職人] ほう……基礎訓練か。
[老職人] 一か月経ってまだ基礎を叩き込まなきゃならんような状態なのか。どうやら試合はそう簡単にはいかなそうだな。
[老騎士] ……コーヴァル、本当にボケとるのはお主の方じゃな。
[老職人] は?
[老騎士] 確かに一か月間、基礎をやっておったのじゃろう。じゃがマリアは没落したとはいえ、あのニアール家の末娘じゃ……
[老騎士] まだニアールの旦那とマーガレットがおった頃、あの子が「基礎」を練習しなかったはずがあるまい?
[老職人] まあ……そりゃそうだが。
[老騎士] 何が得意分野じゃ、何が社会的地位じゃ、そんなものを追い求めるなんぞ、くだらん奴らのすることじゃ――
[老騎士] 真のカジミエーシュの騎士とは! 基礎に励み、一心に武芸を磨くべきなのじゃ!
[マリア] はぁ……はぁ……
[ゾフィア] 止まるな! 悪くない剣勢よ、続けて!
[マリア] でも……ほんとにもう……
[ゾフィア] あっそう。ならベッドで三日寝込む覚悟をしなさい――!
[マリア] ――!
[老騎士] (口笛)
[老職人] おぉ、今のはなかなかの一撃だ。
[禿頭マーティン] 逆袈裟斬りか? その割にはとても速い……急所も突いてる。これが特訓の成果かい?
[老職人] ……あんた、いつの間に来たんだ?
[禿頭マーティン] ついさっきだよ。
[禿頭マーティン] ハハッ、この光景……まだマーガレットがいた頃を思い出すね。
[ゾフィア] ……
[ゾフィア] 君、さっきのは……
[マリア] えっ? あれ? なんか夢中で……私がどうかした?
[マリア] あれ……ゾフィア姉さんの剣は?
[ゾフィア] ……君に飛ばされたわ。
[マリア] ……
[ゾフィア] ……
[マリア] えぇっ? 私に!?
[ゾフィア] 調子に乗らないの! ちょっとマリアが可哀想だなと思って、一瞬隙を見せてあげただけよ!
[マリア] へぇ、ゾフィア姉さんにも優しいところがあるんだね。
[ゾフィア] チッ――
[マリア] じゃあ……?
[ゾフィア] ……いいわ。騎士競技への参加を認めてあげる。
[マリア] ほんとに?
[ゾフィア] ただし、サポートとして私が全行程に同行するわ。君は騎士競技に関して生半可な知識しかないんだから……試合スケジュール調整やポイントの取り方、情報の分析、私たちにはまだまだたくさん――
[ゾフィア] こら、寝っ転がらないの。立って! 私たちにはまだまだたくさん準備しなきゃいけないことがあるのよ。
[マリア] で、でも……ちょっとだけ、休ませてよ……
[マリア] ……Zzz……
[ゾフィア] ちょっと、そんなとこで寝ちゃダメだってば……マリア!
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧