aklib_story_在りし日の風を求めて_異郷の同胞

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在りし日の風を求めて_異郷の同胞

アレーンは証明書のサインを貰いに工房へ行くが、あいにく見習いのアドナキエルしかいなかった。無駄足を踏みたくないアレーンは同族であるアドナキエルに武器の検査を頼み、ついでにサンクタ人について話をする。


[アレーン] 武器の信頼性証明?

[アレーン] 何それ?

[アレーン] 武器を工房に持って行って、検査を受けて、それから職人のサインをもらって戻ってこいっていうの?

[アレーン] 自分の武器を使うのにも、そんなプロセスが要るなんて……はぁ、面倒くさそう。

[アレーン] 融通が利かないな。センセーがサインしてくれればいいのに。

[アレーン] ダメ? ロドスの規則?

[アレーン] つまんないなぁ。はいはい、センセーがそこまで言うなら行ってくるよ。

[アレーン] 僕だって、来て早々あのケルシー先生を怒らせたくないしね。

[アレーン] じゃあまたね、センセー。

ロドス艦船 第三修理工房 早朝

[アレーン] 誰かいないの?

[???] やぁ、こんにちは。工房は休業中ですよ。職人が五人ともメンテナンスコンペに参加中なんです。

[???] 何か用なら、午後三時にまた来てください。

[アレーン] メンテナンスコンペ? 何それ。

[アレーン] 武器を壊してからどうメンテナンスするか競うわけ? それとも誰が剣の柄を一番ピカピカに磨けるかとか?

[???] 残念ですが、違います。戦場で半壊した武器のメンテナンスや改良の腕を競うありきたりな競技ですよ。

[???] ですが、武器をすっごくピカピカにして、目くらませとか新たな攻撃手段を生み出せたら、優勝する可能性もありますね。

[???] ……あれ? 考えてみればなかなかいいアイディアですね? 今度試してみよう。

[アレーン] はぁ、変な奴。どうぞご勝手に。

[アレーン] けど出直すなんて面倒くさいなぁ。職人はいなくても、あんたがいるでしょ。

[アレーン] どうせ形だけの検査なら、そんなに真面目にやることないでしょ。ねえ、ちょっと見て証明書にサインしてくれない?

[???] 武器の信頼性証明ですか?

[アレーン] そう。

[???] 武器の信頼性証明は、二人の職人が同時に検査してサインしないといけないんです。

[???] それに、オレの名前をサインしても無駄ですよ、まだ見習い中の助手ですから。すみません、お役に立てなくて。

[アレーン] サインが二人分いるなら、僕とあんたで二人いるし丁度いいんじゃない?

[アレーン] 僕のアーツユニットのことは僕が一番よくわかってる。不具合は何もないよ。事故が起きなきゃバレないし、バレなきゃ問題ナシ、そうでしょ?

[???] 面白い考えですね。

[???] でも、ここの人を甘く見ないほうがいいですよ。特にいつも目を光らせてるあの人たちのことは。

[???] 万が一問題があって大事故にでもなったら、オレたちはもちろん、いま不在の職人まで処罰されちゃうんですよ。

[アレーン] チッ、融通きかないんだね。面倒くさ。

[???] でも必要な決まりですよ。こういう決まりがないと、武器のメンテナンスすら疎かにする人もいますからね。

[???] 戦場で慌てて弓弦を交換することになるよりは、工房で武器の信頼性証明やメンテにやきもきしてる方がずっと楽です。

[アレーン] 戦場で弓弦を交換なんて、そんなバカどこにいるの?

[アレーン] まあいいや。そういうことなら、せっかくだし――

[アレーン] 武器を見てもらおうかな。

[アレーン] それくらいなら見習いさんでもできるでしょ? こっちもただの無駄足なんて嫌だし。

[???] まあ……いいですよ。ちょっと待っててくださいね。

[???] 最後のネジをしめてからと――よし。

[???] お待たせしました。

[???] ……おや、その顔はまだ何か企んでいそうですね。信頼性証明の方は諦めたんじゃなかったんですか?

[アレーン] なに? 何のことかわからないなぁ。

[アレーン] はい、これ。僕のアーツユニット。

[???] うーん……まあいいか。

[???] 分かりました。オレが検査しますよ。

[???] (小声)事故が起きないよう気をつければ問題ないはず……

[アレーン] じゃあ、お願いね。

[???] 武器の検査には時間がかかるので、しばらくそこで待っていてくださいね。

[???] 見学するならご自由にどうぞ。でも工房内のものには触らないでくださいね。危険なものを作るのが好きな職人もいますから……

[???] 分かりますよね? 未完成品が一番危ないんです。

[???] それに、ここには源石成分の混じっている鉱石も多い……感染者だとしても気をつけた方がいいですよ。

[アレーン] 心配ご無用。僕はそんなうっかり屋さんじゃないよ。

[アレーン] ……待って。

[アレーン] おかしいな、僕が感染者だってことは言ってないよね?

[???] はい。でも見れば大方予想はつきます。

[アレーン] どうやって見抜いたの? そんなに分かりやすい?

[???] う~ん……説明するのはちょっと難しいですねえ。

[???] 強いて言えば、よく観察することですかね。表情や立ち振る舞い、行動ロジックから、いろんなことが見えてくるんです。

[アレーン] 何それ、ウソっぽいなぁ。

[???] 本当ですよ。

[???] それで、検査が必要なのはこのアーツユニットだけですか? ほかにもあるなら一緒に見ますよ。

[アレーン] いや、それだけ。

[アレーン] 残念ながら、検査が必要な守護銃だって持ってないし。

[???] 奇遇ですね、オレも持ってないんです。

[アレーン] ……

[アレーン] あんた、ホントに変わってるけど面白いね。

[???] えーっと……ありがとう、でいいんですよね?

[アレーン] 褒めてないけど。

[アレーン] これ、使ってて特に問題もないし、適当に見てくれればいいよ。

[???] でも、ちゃんと検査しないと。

[???] なるほど……高級な材質を使っていますね。

[???] ぶら下がっているのもアーツ源ですか?

[アレーン] うん。でもどっちかっていうと個人的な趣味かな。振り回せば打撃武器にもなるんだ。

[???] いいじゃないですか。接近戦には役立ちそうですね。

[アレーン] ねえ職人さん、なんて呼べばいい?

[アドナキエル] オレはまだまだ職人とは呼べませんよ。

[アドナキエル] 行動予備隊A4所属のアドナキエルです。バイトのついでにここで実習してるんです。

[アドナキエル] 君のことは何と呼べばいいですか?

[アレーン] アレーン。

[アドナキエル] 君にピッタリの名前ですね。

[アドナキエル] んー、アーツユニット自体に損傷はないですね。このぶら下がっているアーツ源の表面にも目立つキズや欠けはありません。

[アドナキエル] 状態は良さそうです。

[アレーン] そうさ、言ったでしょ。何も問題ないって。

[アドナキエル] じゃあ次は、このアーツユニットで実際にアーツを使ってもらえますか? 動作フィードバックから駆動状態を確認しますから。

[アレーン] え、ここで使っちゃって大丈夫? 僕のアーツはそこそこ物騒なタイプなんだけど。

[アドナキエル] なるほど。アーツのタイプを簡単に説明してもらえますか?

[アレーン] 分解と毒素。

[アドナキエル] うわっ、それは確かに危なそうですね。

[アドナキエル] ではアーツユニットをそこの透明なボックスに入れて、横の差込口から手を入れてやってみてください。

[アドナキエル] それならどれだけ揮発性が強くても、全く心配いりません。

[アドナキエル] 便利でしょう?

[アレーン] 面倒くさっ……

[アレーン] はぁ、いいよ。やってあげる。

[アレーン] これでいい?

[アドナキエル] はい。では機械を操作しますね。

[アドナキエル] 腕に圧迫感があってもびっくりしないでくださいね。正常な現象ですから。

[アドナキエル] 準備完了です!

[アドナキエル] ではアーツを使ってみてください。オレのことならご心配なく。

[アレーン] 誰が心配なんか。

[アレーン] ……!

[アドナキエル] よし、OKです!

[アドナキエル] ここからはオレの仕事です。まずアーツユニットを預かりますね。ひとまずそこで休んでいてください。

[アレーン] うん。

[アレーン] サンクタ人は銃とクロスボウにしか興味ないと思ってたけど、あんたはアーツユニットにも詳しいんだね。ラテラーノの外にいるサンクタ人はみんなそうなの?

[アドナキエル] オレが師事しているアイアンハンマー師匠が、アーツユニットのメンテナンスと鍛造が得意なだけです。それに小隊の仲間たちの武器にもメンテナンスが要りますしね。

[アレーン] アーツユニットを作るのが得意なのに、コードネームがアイアンハンマー?

[アドナキエル] はい、そうなんです。

[アドナキエル] 師匠たちはみんな勝手気ままにコードネームを付けてるんです。オレも初めて実習に来たときはすごく驚きました。

[アドナキエル] ほら、そこに掛かってるのが師匠たちの名札です。

[アドナキエル] 良かったら見てみてください。

[アレーン] ……

[アレーン] じゃあ遠慮なく。

[アレーン] (第三修理工房職人名簿)

[アレーン] (ティンカン、ロック、ガンジェクト、レックシールド、アイアンハンマー)

[アレーン] (確かに勝手気ままだな……)

[アレーン] (だけど、チャンスかも……)

[アレーン] 職人たちの名札は、みんな自分のサインを彫るものなの?

[アドナキエル] まさか。

[アドナキエル] それは元々、師匠たちがカッとなって作ったものなんです。

[アドナキエル] 前に技術に関することで言い争いになったことがあるんですが、その時にみんながそれぞれ得意な方法で名札を作って腕を競ったんです。

[アドナキエル] 怒りが収まった後にみんな面白がって、工房ではその自作の名札を使うことにしたってわけです。もちろん、外出時にはロドスで支給される正式なものを使っていますよ。

[アドナキエル] 面白いでしょう?

[アレーン] 面白い……かな。

[アレーン] (全員のサインが揃ってる)

[アレーン] (どれも手書きだ)

[アレーン] (よし、手間が省けた。二つほど拝借しよう……)

[アレーン] (タイミングを見計らって……)

[アレーン] (よし、今だ!)

[アレーン] (トレースして……)

[アレーン] (できた。アーツってホント便利だね)

[アレーン] (あれ? このサイン、ラテラーノ語だ)

[アレーン] アドナキエル、この職人さんは?

[アドナキエル] ん?

[アドナキエル] ああ、それはガンジェクト師匠です。

[アドナキエル] オレたちと同じで、ラテラーノ出身ですよ。

[アドナキエル] でも師匠は銃器は作りません。剣を作るのが好きなんです。

[アレーン] まさか、この人も守護銃を持ってないの?

[アドナキエル] ただ銃を嫌っているだけで、一応守護銃はあるようです。

[アドナキエル] 師匠はラテラーノに銃を置いてきて、それから一度も戻ったことないらしいです。

[アドナキエル] ……「あの薬莢だらけの場所を見ると頭が痛くなる。」

[アドナキエル] そう言ってました。

[アレーン] 確かに。

[アレーン] この人とは気が合いそう。

[アドナキエル] その一件で師匠はご家族と仲が悪くなったみたいで、ラテラーノにも帰りづらいようですよ。

[アレーン] もし本当に銃が嫌いだったんなら、ラテラーノでの暮らしにはあまりいい思い出はなかっただろうね。

[アレーン] それでもやっぱ帰りたいものなのかな?

[アレーン] ラテラーノにそんな執心する価値なんてある?

[アドナキエル] 言われてみると、そんなことは考えたこともないですね。

[アレーン] じゃあ今考えて。

[アレーン] あんたは今でも、ラテラーノを懐かしむことはある?

[アドナキエル] う~ん……どうでしょうね。

[アドナキエル] ……

[アドナキエル] ラテラーノから離れて、もうずいぶん経ちましたから。

[アドナキエル] ラテラーノを離れたのは、このズレた光輪のせいだったんですが――

[アドナキエル] それから鉱石病にもかかって、どうやっても帰れなくなりました。

[アレーン] ってことは、その輪の位置は……鉱石病のせいじゃないの?

[アドナキエル] はい。オレは生まれつきこうだったんです。

[アレーン] それは……大変だったね。

[アドナキエル] 「生まれつきみんなと違うって、カッコいいだろう?」

[アドナキエル] 子供の頃、両親はいつも笑顔でそう言って褒めてくれました。オレは今でも、ほかの人と違ったことを幸運だったと思ってます。

[アドナキエル] って、もちろん冗談ですけどね。

[アレーン] 別に謙遜しなくたっていいんじゃない? 確かにみんなと違って変人だもん。

[アドナキエル] え、そうですか? いたって普通だと思うんですが……

[アドナキエル] 他のサンクタ人と大して変わらないですよ。共通点だってたくさんあります。

[アレーン] 共通点? 例えばどんな?

[アドナキエル] えーっと……例えば帽子が被れないとか。

[アレーン] ……

[アレーン] アハハハハハハ!

[アレーン] ハハハ……ケホケホッ、うん、確かに。

[アレーン] 帽子なんて被ったら輪っかが中で閉じ込められて気持ち悪いよね。

[アレーン] あれを我慢できるサンクタ人は、公証人役場とか教皇騎士の連中みたいにそれなりの訓練を受けた奴らか、あとは戦いしか頭にない戦闘狂くらいだろうね。

[アドナキエル] そうなんですよ。

[アドナキエル] まあ、とにかく、オレが銃の所持資格審査に落ちたのは、たぶんこの輪のズレが原因です。それからしばらくして、家族みんなでラテラーノを離れました。

[アドナキエル] 鉱石病にはその後感染したんです。

[アドナキエル] 君も感染してからは帰ってないんでしょう? ラテラーノは感染者を受け入れませんし。

[アレーン] ……うん。

[アドナキエル] だから、ラテラーノを懐かしむことは……そんなにない、かな。

[アドナキエル] 子供の頃のことは、あんまり憶えてないですし。

[アドナキエル] ……

[アドナキエル] あ、でも通りにお店を出していたヨハネ師匠のことははっきりと憶えてます!

[アドナキエル] あの人がオレにスイーツの作り方を教えてくれたんですよ。オレが街を離れる時には、店内にあるスイーツのレシピを全部本にしてプレゼントしてくれたんです!

[アレーン] (あーあ……出た出た。サンクタとは切っても切れないスイーツの話題だ)

[アドナキエル] 引っ越す時にあのレシピ本を失くしてなければなぁ。はぁ……

[アレーン] (僕が食べきれないって知ってて、毎年でっかいケーキを用意する親のことを思い出しちゃったじゃないか。僕を一人で留守番させておいてさ、甘くてギトギトのケーキを全部処理させるんだ)

[アドナキエル] でも、バレットマフィンだけなら、ヨハネ師匠と同じように作れますよ。

[アドナキエル] あの店に漂っていた小麦の香りは、今でも覚えています。

[アレーン] (僕だってそうさ。あの匂いを嗅ぐたびに喉がイガイガするんだ)

[アドナキエル] ……

[アドナキエル] おや、スイーツが嫌いでしたか?

[アドナキエル] 珍しいですね。スイーツの嫌いなラテラーノ人は初めてです。

[アレーン] ……また見抜かれたの?

[アドナキエル] ええ。

[アドナキエル] 普段は分かっても言わないんですけどね。気にする人も結構いますから、黙ってることも多いんです。

[アドナキエル] でも、君はそういうのは気にしなそうだったので。

[アレーン] うん。だね。

[アレーン] 気にしないよ。普通の人より変人の方が面白いし。

[アドナキエル] スイーツ嫌いって、オレよりずっと変ですけどね。

[アドナキエル] 今度、甘過ぎないスイーツを作りますから、その時はぜひ味見してください。

[アドナキエル] ヨハネ師匠は今も元気かな……

[アドナキエル] あとで後方支援部のトランスポーターに訊いてみよう。

[アレーン] ……

[アレーン] 一つわかったことがある。

[アドナキエル] え?

[アレーン] やっぱりあんたは生粋のラテラーノサンクタみたいだ。

[アレーン] 銃は持ってないし、光輪もズレちゃってるけどさ。

[アドナキエル] うーん……

[アドナキエル] そうなのかもしれませんね。

[アドナキエル] 帰れなくなったのはあくまでただの一都市であって、故郷は思い出の中にずっとあります。

[アドナキエル] 都市間の往来、手紙や他の通信手段、それに写真だってあるので、触れようと思えばいつだって故郷に触れられます。

[アドナキエル] 懐かしむなら、やり方なんていくらでもあるんです。

[???] まぁ言ってることはわかるけどさー。

[???] けど、匂ってみたり、壁をなでてみたり、前に住んでた場所にもう一回行ってみたいってやつもいるっしょー。そういうやつがホームシックになんだよ。

[???] まあ、どうでもいいけどねー。

[???] てかさ、スイーツ食べるんならあたしも呼んでよね。あんま甘くないのも食べるからさー。

[アドナキエル] やぁ、アンブリエル。

[アンブリエル] うぃーっす。

[アンブリエル] あれ、よっ! 新入り。

[アンブリエル] イケメン君、なんて呼べばいい?

[アレーン] アレーン。

[アンブリエル] よっ、アレーン。

[アンブリエル] アドナキエル、いつも通り銃よろしく~。

[アドナキエル] そこに置いといてください。今アレーンの武器を見ていますから。

[アンブリエル] あーい。

[アンブリエル] あれっ、なにこのいい香り。その辺で売ってるやつっぽくないけど……

[アンブリエル] 誰か香水つけてる?

[アレーン] 気に入ったなら、近寄って嗅いでもいいよ。

[アンブリエル] ん~……やめとくー。

[アンブリエル] なんかろくなことなさそうだし。

[アンブリエル] けど、その香りを嗅いだら一発でコロッと一日気絶できるんなら考えてもいいかなー。

[アンブリエル] あの一日じゅう怖い顔してるヤツいるっしょ、あいつがまた「義務を果たせ」とか言ってきててさー。

[アンブリエル] 逃げ回るより、一日気絶してる方が楽にかわせるっしょ。

[アンブリエル] けどあいつらしつこいから、一日寝てるぐらいじゃ足んないかも。

[アンブリエル] マジうざっ。

[アレーン] 怖い顔の人って、公証人役場の人のこと?

[アンブリエル] ほかに誰がいんのよ。

[アンブリエル] あんたはあいつらにちょっかい出されてないの? 公民の責任や義務をちゃんと果たしているか監督するとか言ってさ。

[アレーン] ああ、それは僕も言われてる。

[アレーン] でも、こないだ昼寝中に叩き起こしてきた奴なんかは、今、僕のために色々奔走してくれてるんだ。

[アレーン] 鬱陶しいけど、面倒事を片付けるには役立つよ。

[アレーン] 上手く使えば、あの程度の鬱陶しさは何でもないさ。

[アンブリエル] ワオ、その言い方、悪役みたい。いいじゃん!

[アレーン] 褒められたのかな。お礼を言うべき?

[アンブリエル] いらなーい。

[アドナキエル] アレーン、君のアーツユニットの検査、終わりましたよ!

[アドナキエル] 駆動回路がちょっと腐食している以外は、特に問題ナシです。

[アドナキエル] 腐食も少しだけなので駆動に影響はありませんが、ケアが必要なら今オレがやっちゃいますよ。

[アドナキエル] あとで職人たちが戻ってきたら、信頼性証明にサインしてもらうといいですよ。

[アドナキエル] (小声)もう必要ないかもしれませんが。

[アドナキエル] はい、お返しします。

[アレーン] どーも。

[アドナキエル] 次はアンブリエルの長銃ですね――よっと。

[アンブリエル] よろ~。

[アレーン] 自分で銃の整備しないの?

[アンブリエル] するよー。

[アンブリエル] でもさー、めんどいときってあるっしょ。

[アレーン] そしたら壊れるまで使えばいいんじゃない?

[アンブリエル] それはダメっしょ。

[アンブリエル] 銃がなきゃ給料もらえねーし。

[アンブリエル] 給料もらえなきゃサボれねーし。

[アンブリエル] あたしもそんなバカなことはしないよー。

[アレーン] ふーん、真面目なんだね。

[アンブリエル] 銃を使う機会がないならさ、別に隅っこで埃かぶっちゃっててもいいけどさー。

[アンブリエル] まぁラテラーノじゃそういうこともあるかもしんないけど、本当に埃まみれにしたら、次の日には親戚とか友達にとやかく言われて、面倒くさいしさ。

[アンブリエル] だから、ちゃんとしとかないとねー。

[アドナキエル] アンブリエル、銃に問題はなさそうです。

[アンブリエル] そりゃそうっしょ、先週整備したばっかだし。

[アンブリエル] オイルで手入れしてくれればそれでおっけ~。

[アドナキエル] はいはい……

[アレーン] 今どき銃を持ち歩くのは面倒じゃない?

[アンブリエル] 別に。

[アンブリエル] 何とでもなるっつーか。

[アレーン] ラテラーノを出て、ここに来たみたいに?

[アンブリエル] へぇ。

[アンブリエル] ほんと遠慮ないよねー。出会ったばかりの女子にそんなズケズケ質問すると嫌われちゃうよ?

[アレーン] ごめん。嫌だった?

[アンブリエル] 別にいいけど。

[アンブリエル] まあほんとに何とでもなるって思ってるから。ラテラーノってとこはマジであたしに合わなかったし。

[アンブリエル] 守衛隊のとこで毎日栄光とか誇りのためになんてくだらない話聞かされるより、自分の財布を膨らませてた方がいいっしょ。

[アンブリエル] 自由気ままにお気楽に~。

[アンブリエル] 最高っしょ。

[アレーン] ラテラーノに未練はなさそうだね。

[アンブリエル] フツーに暮らせんなら、どこだっていいっつーか。

[アンブリエル] それに、サンクタ人が一生ラテラーノにいなきゃいけないって決まりはないわけだしさ。

[アンブリエル] この大地は広いんだから、あちこち見ないともったいないじゃん。

[アドナキエル] お手入れが終わりましたよ、アンブリエル!

[アンブリエル] あざーっす。

[アンブリエル] お~、自分で磨くよりピカピカになってんねー。

[アンブリエル] じゃああんたらはどうぞごゆっくり~。あたしは帰って寝っから。またねー。

[アドナキエル] ではまた!

[アレーン] ……

[アドナキエル] そろそろ食事の時間ですね。アレーン、まだ何か手伝うことはありますか?

[アドナキエル] なければ工房を閉めてランチに行こうと思いますが。

[アレーン] ?

[アレーン] ああ、行っていいよ。

[アドナキエル] 一緒にどうです?

[アレーン] いや、イグゼキュターとかいう公証人役場のオペレーターと約束があるんだ。僕に知らせがあるみたいでさ。

[アレーン] ついでにアンブリエルの出没情報を教えたら、恩を売れるかな?

[アドナキエル] え? 冗談ですよね?

[アレーン] まあね。

[アドナキエル] ジョークも程々にしてくださいね……

[アドナキエル] オレは見抜けるからいいですが、ほかの人だったら誤解されちゃいますし、気をつけたほうがいいと思いますよ。

[アレーン] ご心配なく。

[アレーン] そうだ、午後もここにいる?

[アドナキエル] えっ? いますよ。ランチを食べたらすぐに戻ります。師匠たち以外誰も来ないとしても、工房は基本的には開けておかないといけませんし。

[アレーン] わかった。

[アレーン] うーんと、あんたの観察力は確かにスゴいけど、一つ勘違いしてそうだから言っておくよ。

[アレーン] 僕、午後にまた来るから。

[アレーン] 例のガンジェクト師匠の話に興味が湧いてさ。会ってみたいし、それならもう一回来てもいいかなって。

[アレーン] じゃあ、またあとで。

[アレーン] ただいま、センセー。

[アレーン] うん、もちろん工房に行ってきたよ。

[アレーン] あ……でもこれは渡せないな。

[アレーン] バレてる? そうだよ。工房に職人がいなかったから、このサインはコピーで、職人本人のものじゃないんだ。

[アレーン] はあ、やっぱり見破られるのか。「ロドスのドクター」は伊達じゃないね。アドナキエルの言ってた通りだ。

[アレーン] 安心して、午後にまた行ってくるからさ。証明書をもう一部ちょうだい。職人たちが帰ってきたら、ちゃんとサインをもらうから。

[アレーン] 何? 僕が急に真面目になったって?

[アレーン] ハハッ、ヤだなー。僕はこれまでだってずっとセンセーの言うことを聞いてたでしょ?

[アレーン] ちょっとセンセー、なんだよその顔。

[アレーン] 気が変わった理由?

[アレーン] う~ん……

[アレーン] 面白い人たちを見つけてさ。それに時間を割くのも悪くないかなって思って。

[アレーン] どう?

[アレーン] 悪くない理由でしょ?

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