aklib_story_ドッソレスホリデー_DH-ST-2_インターバル

ページ名:aklib_story_ドッソレスホリデー_DH-ST-2_インターバル

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ドッソレスホリデー_DH-ST-2_インターバル

スワイヤーとホシグマがこの都市について話している。一方、チェンとユーシャはバーで情報交換をしていた。そして、エルネストには……何かやることがあるようだ。


[ラファエラ] ……

[ユーシャ] ……

[ラファエラ] ……

[ユーシャ] (!? 消えた……)

[ユーシャ] (でも、彼女に気付かれたってわけじゃないわよね。)

[ユーシャ] (となると、普段から尾行への対策を取るように訓練されているのかしら?)

[ユーシャ] (あるいは、この近くに人目を欺く秘密の入り口があるとか?)

[ユーシャ] (……まあいいわ。とりあえず、まずはチェン・フェイゼと合流しましょう。)

[D.D.D.] それじゃ最初に、第一ラウンドの通過チームを発表するよ!

[D.D.D.] 今大会の第一ラウンドを突破したのは全部で十五チームだ!

[D.D.D.] 一番人気はやっぱり、皆大好き『龍威鼠心』だね!

[D.D.D.] とはいえ、ほかの通過チームも要チェック! 『グレーフェザー』に『パッカーマン』、『甘い夏』、それから『ご商談は5453-46235までお電話ください』と……

[マネージャー] お疲れ様です、D.D.D.。

[マネージャー] 今回は慣れないことをさせてしまって、本当に申し訳ありません。

[D.D.D.] 大丈夫だよ。市長にもメンツがあるわけだし、オイラも、こういうことには慣れっこだからさ。

[D.D.D.] 確かに初めは、MCなんてしっくりこなかったけど……やってるうちに気が付いたんだ。実はこれ、DJをやる時の感覚と結構似てるんだよね。

[D.D.D.] DJは音楽で、MCは言葉。使うものが違うだけで、皆を盛り上げるのが仕事ってところは変わらないからさ。

[マネージャー] そう思っていただけるのなら、幸いなのですが……もし本当にやりたくなければ、そう仰ってくださいね。その手の案件は、私が全力でお断りしてきますので。

[D.D.D.] 平気だって。ああ、でも強いて言えば、やっぱり、その場しのぎのパフォーマンスだからか、普段のオイラなら絶対に言わないようなことを言っちゃう時があるんだよね。

[D.D.D.] いやー、あれは危ないよ。気を付けとかないと。

[D.D.D.] ところで、話は変わるけどさ! 『龍威鼠心』の活躍は見た?

[D.D.D.] あの二人ってホントにスゴいよね! あれこそまさにスーパーヒロインだよ!

[マネージャー] ああ、確かに。素晴らしい実力ですよね。

[D.D.D.] やっぱりそう思う? 二人を見てたら、オイラも思わずインスパイアされちゃってさ。

[D.D.D.] こうなれば、彼女たちのために一曲作るっきゃないね!

[D.D.D.] このまま二人の試合を特等席で見られるなら、まだまだ頑張れちゃう気がするよ。

[マネージャー] あははっ、それはいいですね。

[ホシグマ] お嬢様、どうも不思議なのですが、試合が終わってからの方が、何やら落ち着かないご様子ですね。

[ホシグマ] ここ数日、熱心に歩き回っているところを見るに、単純なショッピングというわけでもなさそうですけど、一体どうしたんですか?

[スワイヤー] 買い物もしてるわよ、当然、それだけじゃないけどね。

[ホシグマ] やはり何か別の目的が?

[スワイヤー] ええ。アタシ、この都市のことをもっと知りたいの。

[ホシグマ] と、言いますと?

[スワイヤー] この都市の塀を一つ隔てた外に広がっているのは、ボリバル――三つの政府によって分割された国家よね。

[スワイヤー] リターニアが支持する『シンガス政府』、クルビアが支持する『連合政府』、その二つに抵抗するべく立ち上がった、『トゥルーボリバリアン』……

[スワイヤー] 今こうして、アタシたちがここに座って話している間にも、三政府の間では、大小様々な摩擦が絶えず生じているはずよ。

[スワイヤー] だけど、ドッソレスはアタシたちがここへ来るまでに通ってきたボリバルの都市なんかとは全然違うでしょ。

[スワイヤー] もう、栄えているどころの騒ぎじゃないわ。このアタシですら、これほどまでに贅沢尽くしで娯楽に満ちた都市なんて見たことがないくらいよ。

[スワイヤー] ボリバルみたいな国の中に、どうしてこんな都市があるのか、アンタは気にならないの?

[ホシグマ] 気になるかと言われれば気になります。ですが、ここは龍門ではありませんし、わざわざ深掘りしようとは思いませんね。

[スワイヤー] ほんとアンタときたら。何でもわかってるくせに、龍門やチェンに関係ないことには丸っきり興味持たないんだから。

[ホシグマ] もう体に染み付いているんですよ。私のことはいいですから続けてください。お嬢様は何か思うところがあったんですね?

[スワイヤー] ここがパッとしない都市だったら、なにも不思議に思わなかったけどね、それとは真逆だもの。嫌になるほどの活気に満ちてるじゃない?

[スワイヤー] もし、都市に心臓があるとしたら、龍門のものは、生気に満ち溢れていることでしょう。鮮やかな赤色をした健康的な血液が絶えず心臓に運ばれて、元気に脈打っている状態ね。

[スワイヤー] だけど、それに比べてこのドッソレスの心臓はすごく変なの。汚れた黒い血液が絶えず心臓に送り込まれているのに、鼓動が衰えることもなく、むしろ龍門よりも強く脈打っている。

[スワイヤー] まさしくそれがこの都市を、龍門よりも栄えた場所であるように見せかけているの。

[スワイヤー] しかも。龍門は外部勢力からの圧力だって少ないけど、さっき言った通り、ここは情勢が複雑なボリバルの都市なのよ。

[スワイヤー] そう考えると、今の状態は本当に奇妙だわ。

[ホシグマ] なるほど。

[ホシグマ] つまり、あなたが気になっているのは、本来成り立つはずのないこの都市が、どう成り立っているか、ですね?

[スワイヤー] ええ。ドッソレスは犯罪を起こるに任せ、賭博を奨励し、結果ここでは欲という欲に溺れることができるわ。毎日、誰かが一夜にして莫大な財を手にする一方で、破滅して行方知れずになる人もいる。

[スワイヤー] それは人々に、一種の誤解を与えることでしょう――惹きつけられてやってきた観光客こそが頼みの綱で、この都市は観光業と娯楽産業を主な収入源としているんだ、って誤解をね。

[スワイヤー] でも、ただの娯楽産業じゃ、都市運営を支えることなんて到底できないわ。だからこそ、犯罪に対しても娯楽産業に対しても規制を緩和してるの。そういう政策で、その手の人々を誘っているのよ。

[スワイヤー] その結果、ドッソレスは――偽りの、崩壊しかけた繁栄を謳歌している。

[スワイヤー] こう考えると筋は通っているようにみえるけど。

[スワイヤー] でも、果たして本当にそうなのかしら?

[ホシグマ] うーん……私は、お嬢様が少々大げさに捉えすぎているのでは、と思いますが。

[スワイヤー] はあ!? 何ですって!?

[ホシグマ] まあ確かに、あなたのようなお嬢様からすれば、この都市の運営方式は珍しく、とても野蛮に見えるでしょう。

[ホシグマ] しかし私からしてみれば、それなりに親しみ深いものですよ。

[ホシグマ] 何せご存知の通り、極東もボリバルのことを言えないですからね。外でドンパチやっていても、オフィスではお偉方が何事もないかのように過ごしている、というのはよくある話なんです。

[ホシグマ] 詰まるところ、ドッソレスと私が知るそうした都市とは、本質的には同じようなものなんですよ。

[ホシグマ] ああ、ですが、言われてみれば、娯楽産業と観光業だけで都市を維持するのは確かに不可能です。

[ホシグマ] 極東にだって、そんな都市はなかったはずですしね。段々、私も気になってきました。

[ホシグマ] お嬢様。あなたは何にお気付きになられたのですか?

[スワイヤー] アンタがあれこれ言ってくるから、言う気も失せたわ。

[ホシグマ] まあ、そう仰らずに。私が間違ってましたから……ね?

[ホシグマ] 店員さん、サマースムージーを一つ、こちらのお嬢さんに。

[店員] かしこまりました。

[ホシグマ] ほら、お嬢様。機嫌を直してください。

[スワイヤー] ふん……アンタ、アタシたちがこのドッソレスに入った時のことを覚えてる?

[ホシグマ] ええ、覚えてますよ。あなたがカードを見せた途端、すぐに入ることができましたよね。

[スワイヤー] それはアタシが事前に準備してたからよ。龍門とこの都市には貿易協定があるから、アタシのカードをそのまま使えば入ることができるってわけ。

[スワイヤー] って、もう! そうじゃなくて、アタシが言ってるのは、周りにいたほかの人たちのことよ。

[ホシグマ] ああ、そちらでしたか。確か落ちぶれた様子の人たちが何人か、街の中へ入りたがっていましたね。守衛がいくつか彼らに質問したあと、入れてやっているのを見ました。

[ホシグマ] その上、守衛は親切にも彼らに道か何かを教えているようでした。

[スワイヤー] うんうん、そうよね。それと、街の中心エリアの外に工場がたくさんあるのを見なかった?

[ホシグマ] ええ、見ましたが。

[スワイヤー] でしょう? つまりね「そういうこと」よ。

[ホシグマ] ははあ、なるほど。ボリバルのような場所は政治情勢が目まぐるしく変化しますから、生活必需品の供給を貿易頼りで賄うのは危険が伴いますしね。

[ホシグマ] 詰まるところ、この都市は、自分たちのライフラインを自分たちで握らなければならない、と。

[ホシグマ] そして、それらを賄う工場で働いているのが、あの貧しい人たちというわけですか。

[スワイヤー] そうよ。この前の夜、バーでちょっと聞いてみたんだけど、ここの工場労働者の給料はすっごく高いんですって。

[スワイヤー] だからこそ、ほかの都市からたくさんの人が野を越え山を越え、戦火の中に飛び込んででも、ここで働こうとするのよ。

[ホシグマ] もし、この都市へ根を下ろすことができれば、外と比べたらいくらか経済的な余裕も持てますからね。

[スワイヤー] そうよ。連合政府やシンガスの下で戦争をして稼ぐ金額には遥かに及ばないでしょうけど、でも、ここの仕事には安全面でのメリットがあるもの。

[ホシグマ] ははっ、路地裏で殴り殺されるリスクと戦場で死ぬリスクでは、どちらがマシかなんてわかりませんがね。

[スワイヤー] ちょっと、水を差さないでよ。それで、ニュースも調べてみたんだけど、この都市は娯楽産業以外にも、お酒、コーヒー、それと砂糖の分野でも、ボリバルで一流だって有名なんですって。

[スワイヤー] 三政府のどの陣営だろうと関係なく、とにかくボリバル全土の大物たちがこぞってドッソレスから、こうしたものを買い入れる必要があるそうよ。

[スワイヤー] もちろん、お客はボリバル国内だけじゃないわ。アタシの家でもボリバル産のテキーラやコーヒーをよく見かけるの。生産地まで覚えていなかったけど、ここの工場のロゴは絶対見たことあるのよね。

[ホシグマ] お金持ち御用達というわけですか。その上、守衛たちも活力に満ちていて、装備も優れたものですし……

[ホシグマ] つまり、この都市に娯楽産業と観光業に加えて、誰もが無視できないほどの嗜好品産業をも手中に収めているんですね。

[ホシグマ] お嬢様の言いたいことは分かりました。この都市は表面上混乱しているようで、その実、基礎がしっかり整っている。さらにいずれ龍門のような秩序立った都市になり得る可能性すら秘めている、と。

[ホシグマ] 面白い。私も興味が湧いてきましたよ。

[スワイヤー] 大げさに捉えすぎだとか言ってたくせに。

[ホシグマ] スワイヤーお嬢様は大変見識が広いお方です。小官のようなしがない下っ端が、どうして同じ目線に立つことなどができましょう? どうぞご容赦を。

[スワイヤー] ほんと、口だけはよく回るんだから。

[ホシグマ] しかし、お嬢様。私の経験から考えるに、あなたが求めている答えというのは、実のところ非常に単純なものかもしれませんよ。

[ホシグマ] 何しろ、制御不能な不安要素の存在などを許しておく支配者はいませんからね。

[ホシグマ] ドッソレスが今の姿を維持し続けられるからには、我々が混乱状態と捉えているものは、この都市の支配者からすれば問題にもならないということなのでしょう。

[ホシグマ] 言い換えれば、この都市には強大かつ狂気的な支配者がいるに違いないということです。

[スワイヤー] そうね。そこはアタシも同じ結論だわ。

[スワイヤー] ここの市長は、カンデラ・サンチェスという人なの。

[スワイヤー] 龍門とドッソレス間の貿易には、アタシの家も関わっているけど、アタシ個人としては、今までこの都市についてあんまりよく知らなかったのよね。市長についてもそう。

[スワイヤー] でも、こうなるとすごく気になってきちゃうわ。自分の都市をこんなふうに築き上げた彼女って、一体どんな人なのかしら。

[ホシグマ] 直接伺ってみてはいかがです? あなたほどの身分であれば、向こうもきっともてなしてくれるはずですし。

[スワイヤー] ダメよ、言葉は人を惑わせるわ。けど、結果は嘘をつかない。

[スワイヤー] 行きましょう。まだまだたくさん回りたい所があるんだから。

[スワイヤー] ほら、早くしなさい。今日は郊外の工場を見に行くわよ。

[店員] お客様、お待たせしました。スムージーでございます。

[ホシグマ] もう行くんですか、お嬢様、スムージーが来ましたよ。

[ホシグマ] ……まったく、あの人ときたら。チェンと同じで、時々やたらせっかちになるんだよな。

[ホシグマ] 仕方ない、自分で飲むとするか。

[ホシグマ] ――お嬢様、待ってくださいよ!

[チェン] ……

[チェン] (緑の髪に、あの角……ホシグマ、か?)

[ユーシャ] 何? どうかした?

[チェン] いや、何でもない。昔なじみを見たような気がしただけだ。

[ユーシャ] どこ? 龍門の人?

[チェン] 人が多すぎてすぐに見失ってしまった。まあ、あまり気にするな。あいつがここにいるわけがないし、多分見間違いだろう。

[チェン] そんなことより、お前。ここで落ち合おうと自分から言い出しておいて、なぜ遅刻してきた?

[ユーシャ] ちょっと寄り道してただけよ。ほら、中に入りましょ。

[チェン] このバーは……あの日お前が騒ぎを起こした店だろう? 大丈夫なのか?

[ユーシャ] 今はもう私のシマだから平気。いいから、早く入って。

[カジノのオーナー] 姐さん、お帰りなさいませ! 何かご用ですかい?

[チェン] …………

[ユーシャ] 彼女と話があるの。人払いをしてちょうだい。

[カジノの下っ端] かしこまりました! そいじゃ、何か飲まれますか?

[ユーシャ] そうね、ウイスキーを出して。

[チェン] ……私は炭酸水でいい。

[カジノのオーナー] 承りました!

[チェン] それで? お前は理由もなく私を飲みに誘いはしないだろう。

[チェン] 話というのは一体何だ?

[ユーシャ] 第一ラウンド中に、あるチームの後をつけてみたの。そうしたら、そいつら、試合の騒ぎに紛れてあの住宅地に爆弾をいくつも仕掛けてたのよ。

[ユーシャ] 彼らの会話から推測するに、少なくとも3、4チームは同じことをしていると思うわ。

[チェン] お前、さっきは収穫なしだと……

[チェン] ああ、なるほど。エルネストを疑ってのことか。

[ユーシャ] あなた、少しも疑ってなかったの?

[チェン] まあ……言われてみれば、確かにな。相手の動きは規模の大きなものだ。カンデラさんの耳に届いたのが、たった一度の密輸事件だけというのはおかしな話か。

[チェン] 彼女に知らせが届くまでの間に、情報操作をした人物がいるだろうと考えると、エルネストはかなり疑わしい。仮に彼が犯人でなくても、必ず誰かそれを実行していた奴がいるはずだろうな。

[ユーシャ] そうね。さっきは一人だったから、あなたが推測してるようなところまでは深く調べられなかったわ。ただ少なくとも、仕掛けられてた爆弾なら、実物が一つ私のカバンに入ってる。

[ユーシャ] どう? 触ってみる?

[チェン] ……いや、やめておく。

[チェン] 爆弾を仕掛けていたというのは、どのチームだ?

[ユーシャ] 『グレーフェザー』よ。

[チェン] あのチームが?

[ユーシャ] ええ。私も驚いたわ。

[チェン] ……つまり、彼らは組織的かつ計画的に、何らかの企てを実行に移しているというわけか。

[チェン] その上、爆弾まで使用しているとなると、だいぶ大がかりな計画のようだな。

[ユーシャ] それで、どうする?

[チェン] まずはカンデラさんに知らせるべきだろう。

[ユーシャ] 本気でそうするつもり?

[チェン] 何が言いたい?

[ユーシャ] この都市の華やかな姿が、一体何によって支えられているのか、あなたも気付いてないわけじゃないでしょ、チェン・フェイゼ。

[ユーシャ] しかも、ここの市長であるにもかかわらず、カンデラさんはすべてわかった上で放任している。

[ユーシャ] こんな都市を、人を、助ける価値なんて本当にあるのかしら?

[チェン] ……爆弾を仕掛けた連中の肩を持つつもりなら、もう一度やり合っても構わんぞ。今度は決着が着くまでな。

[ユーシャ] あら、そんなつもりないわよ。それどころか……

[ユーシャ] 私はこの都市の在り方にも、この先ここがどうなっていくのかってことにも、大して興味ないもの。

[ユーシャ] ウェイ長官の代理としてここにいる以上、私が気にかけているのは長官のイメージなのよ。

[ユーシャ] 言うなれば私には最初から、カンデラさんの依頼を完遂するという選択肢しかないの。

[ユーシャ] でも、そこへ来て気がかりなのがあなたの存在よ。その溢れんばかりの正義感のために、私との対立を選びはしないかが懸念点。

不意にチェンが顔を上げ、リン・ユーシャへとまっすぐに視線を向けた。

[チェン] それはどういう意味だ?

見つめられたユーシャに怯んだ様子はなく、同じように、まっすぐ視線を返した。

[ユーシャ] 「会ったこともない人たちに対して、関心を向けてるフリをするのはやめなさい」って意味よ。

[ユーシャ] あなたにはこの都市に関することについて、首を突っ込む資格は一切ないし、私を非難する資格だってないんだから。

――バシッ、という音が、静かなバーの中に響いた。 拳と手のひらがぶつかり合ったその鈍い音は、重さだけを場に残して消えた。

チェンの放った拳がリン・ユーシャの目の前で止まっている。 きっちりと合わせられた手のひらが、拳を阻んでいた。

[チェン] …………

[ユーシャ] …………

二人とも波一つない水面のように静かな顔つきだった。瞳の奥底に見える獰猛な輝きだけが、彼女たちの意思を表していた。

傍にいたオーナーは、二人の間に落ちた沈黙の中で、不可視の炎が燃え盛っているように感じた。火勢は強まるばかりで、今すぐあたり一帯を巻き込んで爆ぜても不思議だとは思わなかった。

彼は思わず、この店の内装にいくら費やしたかを思い返し、周囲のどの店であれば改装費が比較的安く済みそうかを考え始めていた。

しかし、その炎は、彼が思い描いたほどの――火山の噴火のごとき爆発に発展することはなかった。

しばらくの沈黙の後、チェンは拳を下ろし、リン・ユーシャもまたその手を下ろしたのだ。

[チェン] ――私に資格がないと言ったところで、自己弁護にはならんぞ。

[ユーシャ] 自己弁護なんてしてないもの。

[チェン] いつかお前に縄をかけてやるからな。

[ユーシャ] ふっ。

[ユーシャ] 私を捕まえるだなんて、一体どこの縄を使うおつもりなのかしら?ねえ元・龍門特別督察隊隊長、チェン・フェイゼさん?

[チェン] 私が用いるのは「公正」だ。

[ユーシャ] ふうん。「正義」よりは多少いい響きね。まあ、本当にそんな日が来るのなら、首を洗って待っててあげる。

[チェン] 他にまだ何かあるか?

[ユーシャ] いいえ、もうないわ。あなたがどう動こうが私は構わないし、私も私のやり方でやるから。私はただ、あなたに事実を伝えただけ。

[チェン] そうか。この件を知る者は少ない方がいい。だが、少なくともカンデラさんには伝えておくべきだろう。

[ユーシャ] 仮に伝えたとしても、彼女にできることも多くはないわよ。

[ユーシャ] 向こうの目的は今のところ不明瞭だし、しらみつぶしに調査したり捕まえたりあれこれやってみたところで、現状だと、ただ相手の警戒心を高めるだけよ。

[ユーシャ] それと、もう一つ言っておくことがあったわ。携帯端末は使わないでちょうだい。

[チェン] そのくらい、言われずとも心得ているさ。

[ユーシャ] ふっ。それもそうね、盗聴なんてサツからすれば得意分野だし。

[チェン] どうやら、お前はよほど喧嘩がしたいらしいな。

[ユーシャ] 別に。それほどでもないわ。

[ユーシャ] 話しておきたいならカンデラさんの所に行ってきたら? 私はほかにやることがあるから行かないけど。

[チェン] ああ。

[ユーシャ] まさか、あなたと協力し合う日が来るなんてね。

[チェン] それはこちらのセリフだ。

[エルネスト] 本当、力もないのに偉ぶったって、何の意味もないのに……はぁ。

[エルネスト] ん……ごめんね、今日は休業日だよ。

[???] 「釣り竿を買いに来た」。

[エルネスト] ――入って。

[???] ……ね、お兄ちゃん、毎日暗号変えるのやめない? いちいち覚えるのが面倒くさいよ……

[エルネスト] いいや、ダメだ。

[エルネスト] ラファエラ、警戒を怠るなって言ってるだろ? この間あったやらかしだって、単なる武器の密輸事件に偽装するのにどれだけ苦労したことか……

[エルネスト] もし、あれをカンデラさんに本気で捜査されてたら、俺たちはとっくに終わってたんだぞ。

[エルネスト] だから、やるからには徹底的にやらないとダメなんだよ。

[ラファエラ] はぁい、わかったよ。

[エルネスト] 別に、お前を責めてるわけじゃないからな。確かにお前はぼんやりしてるけど、やるべきことはちゃんとやってるし。

[エルネスト] 俺がムカついてるのは、事態の重さを理解してないバカな連中に対してだよ。

[エルネスト] 確かにこの都市は娯楽に溢れた場所だけど、本当にそれだけなら、ボリバルでこんな上手くやってけるわけがないっていうのに。

[ラファエラ] 責めてはなくても、ぼんやりしてるって言ってる……

[エルネスト] ぼんやりはしてるだろ、可愛い妹よ。

[ラファエラ] ふーんだ。

[ラファエラ] 今さっきだって、後をつけられてたのなんとなく感じたし。

[エルネスト] 本当か?

[ラファエラ] わかんない……そんな気がしただけ。

[エルネスト] それなら、参加チームの連中に知らせておこうかな。試合中じゃなくても気を付けておけ、って。

[エルネスト] ……いや、いいか。あいつら、「仕事」の時以外なら普通の住民と変わらないし。何か気取られる方が難しいくらいだろ。

[エルネスト] よし。一旦その話は置いとくとして、「仕事」の進捗は?

[ラファエラ] 住宅地の分の爆弾は、仕掛け終わったよ。

[エルネスト] 誰にも見つかってないだろうな?

[ラファエラ] うん。途中で、お兄ちゃんのチームにいる紫色の髪の人には出くわしたけど……言われてた通り、正面からやり合わないように避けといたし。

[エルネスト] ……リンさんの反応はどうだった?

[ラファエラ] んー……向こうも、わたしたちには特別構ってこなかったよ。

[エルネスト] なるほど。俺の方にも何も言ってこないってことは、確かに感づかれてないのかもしれないな。

[エルネスト] いや、待った。その保証はない。彼女はチェンさんに比べて、明らかに俺を信用してない様子だし、事態に気付いた上で、あえて俺を泳がせてるって可能性もあるだろう。

[エルネスト] だけど、たとえ気付いていたとしても、今はまだ下手に手出しもできないはず……

[エルネスト] はぁ。あの二人、バラバラに行動したがるから困るんだよなあ。俺一人じゃ両方は見張れないってのが、ほんと面倒くさいよ。……ああそうだ、一応連絡も入れとこう……

[エルネスト] ……聞こえるか? 俺だ。

[兵士] お疲れ様です。ご用向きは何でしょう。

[エルネスト] 市長がもし、競技エリアで何かしらの捜索を始めたら、すぐ、俺と親父に連絡してくれ。

[兵士] 了解しました。

[エルネスト] ふぅ、ひとまず、こんなところかな。

[エルネスト] そういえば、第一ラウンドの通過状況を確認しておいたけど、最初の40チーム中、俺たちの仲間が12チーム。そこから9チームが勝ち残った、となるとまあ、大体予想通りって感じだね。

[ラファエラ] うん。もしあの青い髪の方の邪魔が入らなければ、あと一つか二つくらいのチームを片づけられそうだったけど。

[エルネスト] 目立つ場所にある金塊を使ってほかのチームをおびき寄せ、それを片付けることで仲間の通過率を上げるなんて、もともとそんなに確実性の高いやり方じゃないしな。この結果で十分だよ。

[エルネスト] 第一ラウンドの作戦は無事に成功したんだし、次のラウンドは冷静にほかのチームを妨害していけばいいさ。

[エルネスト] そもそも第二ラウンドでは、カンデラさんの部下たちが大量に動員されて、近道の至る所で待ち伏せしてるから、このまま爆弾を仕掛け続けるのには都合が悪いしね。

[エルネスト] それを加味して、次のラウンドでの俺たちの目標は、試合終了後、クルーズ船に乗り込む選手がなるべく俺たちの仲間だけになるようにすることなんだ。ってのは、ちゃんと覚えてるよな?

[ラファエラ] もう……お兄ちゃん、わたしのことバカにしてるでしょ。

[エルネスト] 一応な、一応。

[エルネスト] そうだ。お前が来てくれたことだし、話しておかないとな。計画に変更点があるんだ。

[ラファエラ] どうして? あの二人、そんなにすごい人たちなの?

[エルネスト] うん。なんていうか、あの二人は……ちょっと強すぎる。

[ラファエラ] じゃあ片付けた方がいい?

[エルネスト] いや、そこまでする必要はない。

[エルネスト] そもそも、そんなことしたら代償が高くつきそうだし……

[エルネスト] ……それにさ、あの人たちって良い人なんだよ。

[ラファエラ] 「良い人」?

[エルネスト] そう、良い人。

[エルネスト] もっと早く知り合ってたら俺たちに協力してもらえるように、説得したかったくらいにはね。

[ラファエラ] そしたら、あの人たち協力してくれたのかな?

[エルネスト] どうだろうな。どの道、今となってはもう無理な話だけど。

[エルネスト] まあ、だから二人を船に乗せちゃうのはリスクが高いんだ。親父に近付かれかねない状況は、どう考えても危険だしさ、俺は第二ラウンド中、できる限り事を起こして二人の妨害に回ることにするよ。

[エルネスト] ただ、そうすると、結果的に俺は船まで辿り着けなくなる可能性がある。もしそうなったら、陸でやれることをやっておくから。

[ラファエラ] わたしも何か手伝った方がいい?

[エルネスト] いや、今のところ大丈夫。必要になったら声を掛けるから、その時は頼めるか?

[ラファエラ] うん、いいよ。

[エルネスト] よし。それじゃ、もっと気楽な話でもするか。

[エルネスト] そうだな、ラファエラ。お前もこの都市で暮らし始めて、もう何年も経つことだし、ドッソレスの名前の由来くらい知ってるだろ?

[ラファエラ] え? 聞いたことはないけど……んー……ドッソレスは、「二つの太陽」って意味だよね……?

[エルネスト] 正解。じゃあ、その二つの太陽って、何のことだと思う?

[ラファエラ] うーんと……一つは、空にある太陽?

[エルネスト] そう、そこまでは簡単だよな。空を見上げれば見える物だし。

[ラファエラ] それじゃ、もう一つは……水に映る太陽、かな?

[エルネスト] 大正解! つまり、この都市の海には、空の太陽が収まってるって考え方なわけだ。

[エルネスト] にしても、よく知ってたなー。お前にはきっと当てられないと思ってたぞ。

[ラファエラ] もう……そのくらい、パパが教えてくれたから知ってたよ。

[エルネスト] へえ? だったら、ここが実は「トレッソレス」――「三日市」に改名するかもしれなかった、っていうのは知ってるかな?

[ラファエラ] ……三日市? ううん、知らない。

[エルネスト] そうかそうか。じゃあ問題! その「三」の由来である、三つ目の太陽って何だと思う?

[ラファエラ] 三つ目の、太陽……

[ラファエラ] もしかして、市長自身……だとか?

[エルネスト] ハハハッ、確かにそうとも言えるかもな。カンデラさんは実際、この都市の太陽みたいなもんだし。ドッソレスが存続していられるのは、すべて彼女がいるお陰だ。

[エルネスト] でも、残念。不正解だよ。

[ラファエラ] えぇっ? 違うの?

[エルネスト] ああ。市長はすごくプライドが高い人だけど、自分と太陽を比べたりなんてしないんだ。何せ、比べるまでなく自分はそれよりも上の存在だと思ってるからね。

[エルネスト] そんな彼女が、自分を三つ目の太陽に数えるはずがない。それどころか、「三つの太陽すべてが私のものだ」とか言うんだろうな。

[ラファエラ] じゃあ、その三つ目の太陽って何なの?

[エルネスト] 答えはすごく簡単なんだ。三つ目は、お前のパパの船にある。

[ラファエラ] お前のパパって言うけど……血の繋がりで言えば「お兄ちゃんの」パパでしょ。わたしにとっては、育ててくれたパパだし……で、それってもしかして、あの可愛い純金像のこと?

[エルネスト] ハハッ、そういうこと。あれがこの都市の「三つ目の太陽」だよ。

[エルネスト] 改名されそうになった当時は、皆必死でカンデラさんを説得してなんとか止めたんだってさ。

[ラファエラ] ……

[ラファエラ] なんか、ちょっとつまんない。

[エルネスト] この都市には、大して面白いものなんてないだろ。

[ラファエラ] でも、お兄ちゃんはここでの生活を楽しんでるでしょ。

[エルネスト] ……楽しんでるように見えたか?

[ラファエラ] 違うの?

[ラファエラ] わたしは、ここ何年かお兄ちゃんが市長のとこでお仕事してるの見てて、楽しそうにしてるなあって思ってたよ。

[エルネスト] 本当に俺がそんな奴だったら、どうして親父に協力するっていうんだよ。

[ラファエラ] わかんない。だって、ずっとお兄ちゃんは協力しないだろうと思ってたから。

[エルネスト] ……はぁ。いつもながら鋭いな、お前の直感は。

[ラファエラ] さっきは、わたしのこと、ぼんやりしてるって言ってたくせに。

[エルネスト] ハハハッ。ごめんごめん。

[エルネスト] まあ、今はとにかく試合の準備を進めるとしよう。

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