aklib_story_ウルサスの子供たち_春になったら

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ウルサスの子供たち_春になったら

占領された学校から逃げ出したゾーヤは、その途中で父親の同僚と出会い、現状を知る。 母親は生死不明、父親は学生を救援する為にペテルヘイム高校へ向かったという。


邪悪は正義には勝てない。どんな作品でもそう語られている。

それは当然の理だと、私はいつも考えていた。

[女性] 本当に行くの?

[女性] ニュースを見たわ。暴徒と警官がもみ合いになってるって。

[女性] 血を流している人もいたわ。たくさんの人が……

[男性] 心配はいらないさ。実際はそこまでひどい状況じゃない。

[男性] 記者たちはいつだって、過剰に煽るものだからね。それでメシを食べている以上、一番ひどい部分を報道して、人々の注目を集めるのは当然さ。

[男性] だからそんなニュースは怖がらなくていい。安心しなさい。

[女性] でも……

[女性] タバコ屋の店主は、最近、貴族からの注文が減ったと言ってたわ。サンタリ勛爵の使用人のニーナおばさんも家に戻ったそうよ。勛爵一家が使用人にしばらく暇を出したとかで。

[女性] ねえあなた。もしかすると、私たちの知らないところで、何か大きな――

[男性] 下手なことを言うな!

[女性] ……

[男性] ……すまない、大声を出してしまった。許してくれ。

[女性] ロバン、私はただ、ただ本当に心配で。

[男性] ああ、気持ちはわかるさ。でも怖がらなくていい。私がいるじゃないか。

[男性] それに君に私がいるように、この都市には私たち軍事警察がいる。周辺には駐在軍もいるんだ。ほら、何も恐れることはないだろう? 私を信じてくれ。

[女性] ロバン……

[男性] 安心するんだ、ダリア。この家も、この街も、私たちが守る。これはかつて私が、固く誓ったことだ。

[男性] だからもう悩むな、なっ? この冬もすぐに終わる。暖かくなったら気晴らしに出かけて、存分に羽を伸ばそう。

[男性] ゾーヤには内緒で、二人でこっそりとね。いいかい?

[女性] ……ププッ。

[女性] もう、あなたって人は……こんな歳になって、まだ浮ついてるんだから。

[女性] 雪が解ければそこら中泥だらけよ。どこで羽を伸ばすの?

[男性] 冬を送るお祭りがあるじゃないか。そこで一緒に踊るのさ。君は家から蜂蜜酒を持って来て、私は手作りのパンケーキを振る舞う……昔のようにね。素晴らしいだろ?

[女性] フフ、そんなことを言って、まだ作り方を覚えてるの? うーん、でもそれもいいわね。ゾーヤの学校が始まって、宿舎に戻ったら行きましょうか。

[男性] よーし、決まりだ! おっと、あとどれほどで学校が始まるんだったか? ちょっと早めに宿舎に返してもいいんじゃないか?

[女性] んもう、冗談言わないの!

[女性] ゾーヤ? ちょうどいいところに来たわね、さあいらっしゃい。お父さんが夜勤に行くから玄関まで送りましょう。

あの頃、日々は幸福で、陽光のように煌めいていた。

あるいは私たちは、変わり映えのない日常の中に、美しさを見出す術を持っていたのかもしれない。

どこにでもある会話と単調な毎日を繰り返し――

今年もいつものように春が来て、郊外の雪が解けたら、干し草を束ねて人形を作り、蜂蜜酒の香りの中で足を泥だらけにして踊るのだと信じていた。

朝には「おはよう」を、眠る前には「おやすみ」を、日中には「こんにちは」を、別れの前には「さようなら」を、言えることが当たり前だと思っていた。

だが、あの日――

私たちの街が目の前で、うねり、変形し、爆発した。

[???] 左前方、敵なし。

[???] チャンス。

[???] ......

[???] 電波が悪いな、やっぱり外には連絡をとれない。

[???] でもあいつらの巡回パターンは読めた。ここまで来られればもう問題ないはず。あとはこの塀を越えれば……

[???] 今回こそ必ず成功させる!

[???] !

[???] (誰か来た!? この場所は巡回部隊のルートではないのに……ダメだ、まずはどこかに隠れないと。)

[レユニオン兵士] (聞き取りづらい話し声)

[レユニオン兵士] (少し興奮した様子の話し声)

[???] (よし、ひとまずここに隠れよう。)

[???] (この声、レユニオンって名乗っている奴らだ。しかも一人じゃない……それに左のあいつは、普段巡回をしてる兵士とは違うように見える。)

[???] (一体どういうことなの、急に現れて私たちを全員学校に閉じ込めるなんて。あの暴徒たちは何を考えているの?)

[???] (……! こっちに来た!)

[レユニオン兵隊長] なあ、メフィストは何を企んでるんだと思う?

[レユニオン兵隊長] 自ら進んでこんな仕事を受けて、向こうの学生たちの世話をするとか……あいつにそんな親切さがあったなんて信じられない。

[レユニオン兵隊長] しかも奴はあの学生たちを全員……貴族の子供たちもほとんど、ぺテルヘイム高校に集めてしまった。どうしてわざわざそんな遠くまで?

[レユニオン兵隊長] とは言え、あの学校は我々の駐留所から距離がある。メフィストが何か企んでいたとしても、こちらから手を出すことは難しいか……

[レユニオン兵隊長] はぁ、奴もこの大局を考慮して、あまり好き勝手しないでくれれば良いのだが。

[レユニオン兵士] あのイカれたガキが考えてることなんて知ったこっちゃねえ。わざとかき乱してるのかもな!

[レユニオン兵士] あいつは狂人だ! 怪物なんだ!

[レユニオン兵隊長] おい、落ち着け。そうだとしても、我々と奴は仲間なんだぞ。

[レユニオン兵士] はっ、どう落ち着けって!? お前はこないだあいつがあの最低最悪なアーツを使ったのを見なかったのか?

[レユニオン兵隊長] ……声を落とせ!

[レユニオン兵士] それともあいつは、俺たちのことを仲間だと思ってるってのか? 寝言は寝てから言いやがれ!

[レユニオン兵隊長] くそっ、静かにしろと言っている! ここにいる学生たちがビビるだろ!

[レユニオン兵士] ……*スラング*!

[レユニオン兵士] すまない、感情的になりすぎた。

[レユニオン兵隊長] わかるさ、お前の気持ちはよーくわかる。誰だってそう思ってるからな。

[レユニオン兵士] 正直、時々本気で、メフィストを地獄に送ってやりたいと思うよ。もし大尉が禁じてなければ、今すぐにでもあいつを殺しに行ってるところだ!

[レユニオン兵隊長] バカなこと言うな。それにお前だけがあいつを殺したくて、私はそうじゃないとでも? そんなわけない。大尉だってきっと同じさ。

[レユニオン兵隊長] だが、奴を殺すのは許されない。同胞である以上、我々は互いに傷つけ合うべきではないからな。そんなことをしたら、我々の初志と大きくかけ離れてしまう。

[レユニオン兵隊長] とは言え、お前が怒るのも間違ってない……奴が今回の作戦でやったことは申し開きのしようがないことだ。

[レユニオン兵隊長] あんな風に手下の身勝手を許すなんて……我々は他人の家に乗り込んで、奪うも殺すもやりたい放題する暴徒だとでも言うのか?

[???] (メフィストって誰?)

[???] (それに何言ってるの……殺すって!?)

[???] (私の聞き間違い? あいつらは学生相手には手を上げてはいないはずだけど、どうして……)

[レユニオン兵士] はぁ、そしたら逆に聞くけど、俺たちは暴徒じゃないってのか?

[レユニオン兵士] お前たち大尉直属の部隊は違うかもしれないが、俺に言わせれば、俺たちはみんな、この街でろくなことはしてないだろ。

[レユニオン兵士] 考えてみろ。俺たちはいったいどれだけの市街エリアを破壊した? 家から引きずり出して殺した市民の数は? 今外がどんな様子になってるか、お前だってわかってるだろ。

[レユニオン兵隊長] それは……

[レユニオン術師] ここにいる人たちが、一部の小隊を特別視してくれるなんて考えないことね。

[レユニオン術師] 私たち同胞の中に、たった一人でもあなたが言うような野蛮な行為を働く人がいれば、ここの人たちの目には、私たち全員が暴徒に見えるのよ。

[レユニオン兵隊長] ……その通りだ。ロレーナ、外の守衛の引き継ぎ準備はもう済んだのか?

[レユニオン術師] ええ。

[レユニオン兵隊長] 今回リーダーから大尉に下された任務の時間は限られている。制圧済みエリアの後処理は、全てお前たちの部隊に任せるぞ。

[レユニオン兵隊長] ……あのサルカズ傭兵たちの行動には注意しろ。

[レユニオン兵隊長] そうだ、学生たちもよく見ておけ。大尉が彼らを残したのは、それ相応の考えがあるからだ。彼らを極力傷つけないことは大前提として、絶対に逃がすな。

[レユニオン術師] わかったわ。でもあのチビたちが大人しく捕まってくれてれば安心だけど、そうじゃなかったら?

[レユニオン兵隊長] 言っただろう、極力傷つけるなって。

[レユニオン術師] 本当に必要に迫られたらどうするの? 学生の中にはアーツを使える子だっているのよ。もし反抗されたら、こっちだって黙っているわけにはいかないでしょう。

[レユニオン兵隊長] ……

[レユニオン兵隊長] ロレーナ、お前の言うことはわかる……その怒りもな。だが俺たちに勝手は許されない。これは大尉の命令なんだ。

[レユニオン兵隊長] お前個人の感情で、判断を鈍らせるな。

[レユニオン術師] はぁ。大尉の言うことなら、私も聞くわ。

[レユニオン兵隊長] ああ、そうあってほしいものだ。

[レユニオン兵隊長] 三十分後に移動を開始する。その後、この場所のことはお前たちに任せる。……具体的な対応は、お前が判断しろ。

[レユニオン術師] 私が判断する? 心から言ってるの?

[レユニオン術師] 命令には従うけど、彼らを傷つけないやりようなんていくらでもあるのよ。威嚇に恐喝……恐怖で残りの子たちを従わせることなんて簡単だわ。

[レユニオン術師] ……冗談よ。そんな目で私を見ないで。どうすればいいかは、私もわかってるわ。

[レユニオン兵士] チッ、怖いこと言ってくれるぜ。

[レユニオン兵士] マジな話、俺はお前たちの言うこれからの計画ってやつには興味がない。だが考えてもみろ、この都市が使い物にならなくなったら、俺たちはどこに行けばいいんだ?

[レユニオン術師] ……

[レユニオン術師] 私たちは、元々どこへも行けないのよ。

[レユニオン兵隊長] 違う。どこにだって行ける。いつの日か必ず、行きたい所へ行けるようになる。

[レユニオン兵士] チッ、聞こえはいいけど、そんな日が本当に来るのか?

[???] ......

[???] (……あいつら、一体何者なの!?)

[???] (急に現れて街を占領して、無理やり私たちをここに閉じ込めて! それ相応の考えがあるだなんて、何を考えてるっていうの。ふざけてる、この悪人たちめ!)

[???] (それに、問題が起きたのは学校だけじゃないみたいだし……)

[???] (クソっ、外は一体どんな状況になってるの?)

[???] (ああ、父さん、母さん……)

[???] (もうこれ以上ここにいるわけにはいかない。急いでここを離れないと。)

[???] (あいつら、こっちに気付いてない……今のうちに!)

[レユニオン術師] あっ。

[レユニオン兵隊長] なんだ? 何か物音がしたような……

[レユニオン術師] ……したかしら? 聞き間違えじゃない?

[レユニオン兵隊長] そうか? 変だな……

[レユニオン兵隊長] とにかく、今はそういう状況だ。ここからはお前たちに任せる。

[レユニオン兵士] チッ、さっさと行けよ。お前たちの任務とやらに遅れるぞ。

[レユニオン兵士] ……

[レユニオン兵士] おい、行ったぞ。

[レユニオン術師] そうね。彼は自分のやるべき仕事へ向かった。私たちも、やるべきことをやりましょう。

[レユニオン兵士] やるべきこと? 俺たちの仕事は、あの学生たちをどこへも逃さないことじゃないのか?

[レユニオン術師] そうよ。それがどうしたの、何か言いたいの?

[レユニオン兵士] とぼけるな、さっき逃げたあいつはどういうことだ?

[レユニオン術師] ……

[レユニオン術師] 気付いてたのね。

[レユニオン術師] 大尉の下での専門的な訓練で、洞察力が磨かれたようね。あなたがそんなふうになるなんて、思ってもみなかった。

[レユニオン兵士] 話を逸らすな。

[レユニオン術師] はいはい。私も回りくどいのは嫌いよ。

[レユニオン術師] もし私が、わざとあの女学生を見逃したって言ったら、あなたは信じる?

[レユニオン兵士] なんだよ、俺をバカにしてんのか?

[レユニオン術師] いいえ、そんなことないわ。

[レユニオン術師] そうだ、あなたはこの都市出身だったわね。

[レユニオン兵士] だったらどうなんだ、お前もそうだろ? はっ、俺は欺けないぜ。旧区でお前を見たことがあるからな、裁縫家のロレーナ。

[レユニオン兵士] いや、やめとこう。そんな話をしたって何の意味もない。俺もお前ももう感染者なんだ。

[レユニオン兵士] 俺たちがやってきたことは変わらない。出身がどこかなんて関係ないだろ?

[レユニオン術師] ……さっきの学生、もし私が彼女を捕えたとしたら、その後はどうすると思う?

[レユニオン術師] 少なくとも片足を折って、寮で大人しくしていてもらうわ。これは命令違反じゃないわよね? そこまでひどい仕打ちってわけじゃないもの。

[レユニオン兵士] はぁ、怖え奴だな。

[レユニオン術師] それかいっそのこと殺してやってもいいわ。どちらにせよ大尉の部隊はもうすぐここを離れる。あの遊撃隊がいなければ、学生を一人や二人手にかけても誰も気にしないわ。

[レユニオン術師] 私たちは、他の学生たちに見せつけてやらないといけないのよ。大人しくしてないとどんな結末を迎えるかを。

[レユニオン兵士] ……

[レユニオン兵士] お前はそんなことしないだろう。俺はわかってるぜ。お前は大尉の言うことには従うって。

[レユニオン術師] ……正解よ。

[レユニオン術師] パトリオットの大旦那さんの部下も大変よね。そうでしょう? ここ一週間ちょっとの間、あの学生たちにはかなり手を焼いているもの。

[レユニオン術師] もし何か見せつけてやらなければ、学生たちは恐怖を知ることはないわ。今だって怖いもの知らずの子がしょっちゅう外に出ようと暴れてる。

[レユニオン術師] あの子供たちは状況が全くわかってないの。外がどれほど荒れた状況になってるかだってもちろん知らない。

[レユニオン術師] それに、貴族の子供たちはまだ役に立つかもしれないけど、他の学生たちが一体何の役に立つの?

[レユニオン術師] 大尉が私たちに無理やり学校を制圧させたのは、あの子たちを守るためじゃないの?

[レユニオン兵士] ……俺に言ってもしょうがないだろ。

[レユニオン術師] あら、あなたもさっきわざとあの学生を見逃したんじゃないの? 私に捕まったらひどいことになると思ったからかしら?

[レユニオン兵士] 違う。

[レユニオン術師] 強情にならなくていいわ。

[レユニオン術師] ただ気になっただけよ。でも違うなら……まさかあなたは、ここの住民に同情してるの?

[レユニオン術師] 病気になったことを理由に、あなたや兄弟にあんな仕打ちをした彼らを、恨んでないの?

[レユニオン術師] ――あら、その顔を見る限り、恨んでないわけじゃないのね。

[レユニオン兵士] うるせえな、有る事無い事言うんじゃねえ! 俺はただ、学生が一人学校内を歩き回ったところで、問題は起きないと思っただけだ。

[レユニオン兵士] そうさ、ただそれだけだ。

[レユニオン術師] 私にどころか、自分にまで嘘をつくのね。

[レユニオン兵士] はっ、ぬかせ! 自分に嘘だと? お前だってそうだろ! あの子供に気付いてたんだからな!

[レユニオン兵士] チッ、口では恐ろしいことを言いながら、お前があの子をとっ捕まえて罰を与えてないのはどうしてだ? ただ単に、大尉の命令だからってだけじゃないだろ。

[レユニオン術師] 私はあなたとは違うわ。

[レユニオン兵士] ああ? お前のほうが強情になってるじゃねえか――

[レユニオン術師] あなたと一緒にしないで、あなたとは違うと言ったでしょう。

[レユニオン術師] 私があの子を捕まえようとしなかったのは、あの子がただ学校内を動き回ろうとしているだけじゃないとわかっていたからよ。

[レユニオン術師] あの子はここから逃げ出そうとしていた。向かった方向を見れば明らかよ。

[レユニオン術師] あの子は自らこの「制圧」された場所を出ていくことを選んだの。外はここみたいに平和じゃないのに。

[レユニオン兵士] ……待て。

[レユニオン兵士] この**が、なんて止めなかったんだ! **、バカどもが、外に出たら、あいつらは……

[レユニオン術師] ええ。死ぬでしょうね。

[レユニオン術師] でもどうして止めないといけないの? 仮に捕まえたとしても、彼女に何かすることはできないわ、大尉の言いつけに背くわけにはいかないから。

[レユニオン術師] だから逃したの。

[レユニオン術師] 言ったでしょう、私とあなたは違うって。あなたはまだ心を鬼にできていない。今だってまだ、あの学生たちを心配する心の余裕がある。

[レユニオン術師] でも私は、自分と家族がこの街で受けた仕打ちを忘れられないの。

[レユニオン術師] 私は、ここにいる人全員を恨んでいるわ。

[レユニオン術師] 心の底から、あの学生が長生きしてくれることを祈るわ。ハハッ、目をひん剥いてこの街で起きていることを全部、目に焼き付けてくれれば最高よ。

この街のこんな姿は初めて見た。

建物が破壊され、道路が封鎖され、残った建物の窓はどこも寒風を凌ぐためかのごとく閉め切られている。崩れたレンガが、片付けられなかった積み木のように、路上に散らばっていた。

そこら中で火が起こり、見慣れた家屋を燃やしていた。あたりに充満する煙。響き渡る、悲鳴や泣き声。

武器を持った人々は高らかに声を上げながら、壁に、地面に彼らのシンボルを刻みつけた。私は彼らの名を聞いた。人殺したちが誇らしげに叫んだその名を。

彼らは自らをこう呼んだ――レユニオン。

[???] ……っ、痛い……

[???] (学校からミッドタウンまで、二時間くらいかかった?)

[???] (耳鳴りで音が聞こえない……。でもこれはきっと一時的なもののはず。だけど左手は……感覚がない。小指が折れてるかも……)

[???] (お腹もキリキリ痛い。でも我慢しなくちゃ。)

[???] (焦っちゃダメ、ゾーヤ。もうここまで来たんだから、このまま進んで行けばいい。慌てないで、あの人たちだけ避ければ……)

[???] (……まただ。)

[???] (また爆発だ、今度は公園の方向みたい。)

[???] (もうこれで何回目?)

[???] (いったい、一体何が起きてるの……! 警察は? 軍隊は? どうして誰もこの状況を収めようとしないの?)

[???] (正面は通れなさそう。あの戦っているのはレユニオンの人? まだ抵抗してる人もいるんだ……)

[???] クソっ、もう少しで家なのに、なんでこんな時に!

[一般人] 逃げろ、早く逃げろ!

[一般人] クソッタレ共が! 化け物だ、あいつらみんな化け物だ!

[???] (みんな大混乱になってる、この恐れようは普通じゃない……)

[???] すみません、前の方では一体何が――

[一般人] どけ! 邪魔だ!

[???] !

[一般人] 何してんだ、逃げろ! 早く逃げろ!!

[女性] 私の子供が、子供がまだあそこにいるの!

[一般人] あいつらが追ってくる、*スラング*、早く、ここから逃げるぞ!

[子供] ううっ、ママ、ママ……

[???] 危ないっ!

[???] (うっ、傷口にぶつかった、痛い……)

[???] 大丈夫? 怪我してない?

[子供] うう、うわーん!! やだ! やだ! 放して!

[???] あっ、待って!

[警官] 下がれ! 下がれ!

[???] (やっと警察が来た! これでもう大丈夫……)

[警官] この市街区は封鎖中だぞ! 前方で緊急事態が発生してるんだ!

[警官] おい君! 死にたいのか!? その先へ行くな、向こうにもレユニオンの奴らがいる!

[警官] ……いや待て、君はゾーヤじゃないか! どうしてここに!

[???] ヴァレリーおじさん!

[???] 一体何があったの、あの街中をめちゃくちゃにしてるレユニオンっていうのは一体何!? みんなは?

[一般人] 俺たちを通してくれ!!

[一般人] ここから逃げるんだよ! あいつらは、あいつらは人殺しだぞ、警察がどうにかするべきじゃないのかよ!?

[ヴァレリー] 慌てるな! 冷静になれ! ここは我々が対処――

[ヴァレリー] ――!

[???] ヴァレリーおじさん!

[ヴァレリー] 大丈夫だ……

[警官] おい、押すな! 止まるんだ! お前たち*スラング*冷静になれと言っただろう!

[一般人] 言うことを聞くと思うか!? 警察が何をしてくれたんだ!? 役立たずのゴミどもめ、さっさとあの感染者たちを止めろよ!

[一般人] あいつらが来る、来るぞ、俺たちはみんな殺される――

[???] ちょっと! そんな言い方ひどいよ!

[一般人] ゴミが! どけ、どけよ……死にたくない……死にたくないんだ!

[ヴァレリー] 彼らを抑えろ!!

[???] ひどいよ、みんなどうして……! ヴァレリーおじさん、大丈夫?

[ヴァレリー] ああ。ここ数日で多くの市民が混乱に陥った。こんなことはもう何度も経験済みさ、そろそろ慣れたよ。

[???] どうしてこんなことに……

[ヴァレリー] それはさして重要ではないな。今は現状を何とかしなくては。

[ヴァレリー] まずはあの住民たちを止めるぞ。あのまま進むのは危険だ。あの先に待っているのは、普通の感染者とは比べ物にならない怪物だからな!

[ヴァレリー] アントン、一小隊を連れて住民を止めろ!

[警官] はっ!

[ヴァレリー] ふぅ……

[ヴァレリー] そうだ、ゾーヤはどうしてここにいるんだ?

[ヴァレリー] 奴らのリーダーの言葉が確かなら、学生たちはそれぞれの学校に閉じ込められていたはずだろう。

[ヴァレリー] 君の学校からここまではやや遠い。どうやって……いや、それは今すべき話じゃないな。私と来るんだ! ここはあまりにも危険だ!

[???] 待って、おじさん。ここで一体何が起こってるの!?

[???] 私は抜け道を通ってあの人たちを避けながら来た。でも進めば進むほど混乱はひどくなって……

[???] そこら中が爆発して、崩れて、怪我人だってたくさんいたよ。それにあの人たちが放火してるのも見た……どうしてそんなヒドいことができるの?

[???] 父さんたちもあのレユニオンと戦ってるの? それに、母さんは? 探しに行かないと――

[ヴァレリー] ……

[???] どうしたの……どうして、どうして何も言わないの……

[???] ヴァレリーおじさん、父さんと母さんは……

[ヴァレリー] ……君の父さんに危険はないだろう。

[???] 本当に!?

[ヴァレリー] だが――

[ヴァレリー] 君の家があるエリアは、初めに襲撃を受けたエリアの一つだった。

[ヴァレリー] あのレユニオンと名乗る感染者たちは、まず市街地を破壊した。だから我々は、最も危険なエリアの住民を優先して避難させたんだ。比較的安全だと判断した、君の家があるエリアは後回しにしてな。

[ヴァレリー] 私と……君の父さんが、それを決定したんだ。

[ヴァレリー] 我々は状況に応じた判断に迫られる。どんな時にも、自分の肩章に責任を持ち、取捨選択をしなければならない。

[ヴァレリー] ……結果、救援隊が君の家のあるエリアに到着した時には、取り返しのつかない事態になっていた。

[ヴァレリー] その光景はまさに地獄だった。あんなことが起きるなんて、想像すらできなかった。

[ヴァレリー] 高温が……全てを熔かしていたんだ。草木も、レンガも、鉄筋も、全てをだ。焼け焦げた大地には、もう雪も積もることはなかった。

[ヴァレリー] 君の母さんは逃げ延びた可能性があるなどと、嘘で取り繕いたくはない。君は頭の良い子だ、そんな嘘で君は欺けない。

[ヴァレリー] すまない。間に合わなかったんだ。

[???] ......

[???] 噓、嘘だよ。おじさんはきっと私に嘘をついてるんだ。そうでしょ……。

[ヴァレリー] ゾーヤ!

[ヴァレリー] ゾーヤ……聞くんだ、これは嘘ではない。

[???] だって、あり得ないよ。父さんは言ってたんだ……

私たちを守るって……

[男性] 怖がらなくていい。

[男性] この都市には私たち軍事警察がいる。周辺には駐在軍もいるんだ。

[男性] この家も、この街も、私たちが守る。これはかつて私が、固く誓ったことだ。

[男性] ゾーヤ、将来は何になりたい?

[男性] 父さんと同じ? ハハ、そうか、そりゃ大変だぞ。

[男性] ゾーヤが大人になればわかるさ。お前が父さんのやるべきことを理解し、それでも考えが変わらなければ、ゾーヤと同僚になれる日を楽しみにさせてもらうとしよう。

......

そうだよ、父さんは言ってたでしょ。

守ることが父さんの天職だから、私も母さんも守るって。そして……

「この街を守る」って。

泣いちゃダメ。

まだ泣いちゃダメ。

私も父さんみたいな人になりたい。私も……

[???] ......

[ヴァレリー] ゾーヤ。

[???] ……大丈夫。私は大丈夫だから。

[???] 続けて。

[ヴァレリー] あ、ああ……

[ヴァレリー] とにかく、今はあの恨めしい感染者たちが、どこから湧いて出たのかも不明な状況だ。しかも奴らは数が多い。

[ヴァレリー] 一定の規律を守っている奴らも一部いるようだが、ほとんどが暴徒化して好き放題やっている。おかげで街中どこもかしこもめちゃくちゃさ。

[ヴァレリー] それに軍隊も、通信は明らかに通じているはずなのにまだ到着していない。向こうで何かあったのかもしれない。

[ヴァレリー] 我々軍事警察だけでは、彼らを抑えることは難しい。……という状況だから、君はこれから私と行動するんだ。たぶんそれが一番安全だからな。

[ヴァレリー] そうだ、大事なことを伝えておこう。君の父さんはこちらのチーム内にはいない。彼はぺテルヘイム高校へ向かったんだ。

[???] ぺテルヘイム高校……またぺテルヘイム高校?

[???] あそこに何をしに行ったの?

[ヴァレリー] あの学校の噂を聞いているか? 君の学校の生徒も含めた一部の学生たちが、感染者によって、あそこに集められているんだ。

[ヴァレリー] 不思議なのは、彼らは学生たちに何かするつもりはなさそうだということだ。これまで特に大きな動きは見られていない。

[ヴァレリー] だがここ数日で、あの場所にいた感染者が撤退しているという情報を得た。彼らが何をするつもりであれ、我々は対策を練らなければならない。

[ヴァレリー] とは言え、現状ほとんどのエリアが混乱に包まれていて、大きな暴乱が起きていないエリアはほんの僅かだ。ぺテルヘイム高校の異変はごくごく少数で調査せざるを得なかった。

[???] つまり、父さんは?

[ヴァレリー] その役割を買って出てくれたよ。君の父さんは経験豊富だからな。彼が行ってくれるなら私も安心さ。

[ヴァレリー] 君が無事であれば、彼も安心するだろう。だが今はこんな状況だ、残念ながらすぐには連絡が取れない……

[ヴァレリー] どこもかしこも人手不足だ、*スラング*! この感染者たちはどうしてこうもイカれてやがる!

[ヴァレリー] 残りの話は後にしよう。軍隊の支援もいつ到着するかわからない……クソッ、こんな時に第三集団軍はどこへ行ったんだ!

[???] ......

[ヴァレリー] とにかく、ゾーヤ、まずは避難だ! 軍隊がここを引き受ければ、あの暴徒たちはもう我々ウルサス軍人の相手ではないはずだ!

[ヴァレリー] 安心していいぞ。こちらの人員が浮いたら、すぐにぺテルヘイム高校まで学生の救助と君の父さんの応援に向かう。もちろん、君の学校や他の学校も同じさ。

[???] ......

[???] もし、もし今人手が足りないなら、私が行く。

[ヴァレリー] なんだって?

[???] だから、もし人手不足なら、私が父さんの応援に行く!

[ヴァレリー] 何を言っているんだ! バカなことは言うな! 絶対にダメだ、危険すぎる!

[ヴァレリー] それに君一人で行って、何ができると言うんだ!?

[???] ヴァレリーおじさん!

[???] それでも行きたいの。聞いてればわかるよ、今の状況はかなりの緊急事態で、しかも本当は……どんどん悪化してるって。そうでしょう?

[???] 先延ばししたらそれだけ危険になる。それにいつまでも支援が来なければ、人手を割く余裕なんてなくなる。そんな状況なら、誰の手だって借りたいところでしょう?

[???] 私、あいつらが学校の巡回をするタイミングも、一小隊に何人いるかもわかってるよ!

[???] 私が知ってるのは自分の学校の状況だけだけど、きっとどこも大差ないだろうし……

[???] ぺテルヘイム高校には昔行ったことがあるから、校内の構造だってわかってる! それに、私はレユニオンの目を避けながらここまで来たんだよ!

[???] だから、私が力に――

[ヴァレリー] それとこれとは別だ!!

[???] !

[ヴァレリー] いいかい、しっかり聞きなさい。これは君が以前に警察局で見て、体験した演習とは違うんだ。もちろん模擬訓練などでもない、君が考えているほど簡単じゃないんだ。

[ヴァレリー] ゾーヤ、君に実力があることは知っている。君はこれまでもずっと優秀だったからね。だが君はまだ学生で未成年だ! 今は我々を手伝おうなどと思わず、自分の身を大切にするんだ!

[???] ......

[???] おじさん、私、わかってるよ、みんなの迷惑になるって。私じゃ何も力になれないって、全部わかってる。

[???] でも、でも私は……

だって、それ以外、私に何ができるの?

[???] 私はやっぱり……

考えるのが怖い、まずは行動しなきゃ。

[???] お願い。私に行かせて……

[ヴァレリー] はぁ。

[ヴァレリー] どうやら何を言っても無駄なようだな。

[???] ごめんなさい……

[ヴァレリー] これを持っていきなさい。

[???] えっ?

[???] これは何……?

[ヴァレリー] 軍隊に連絡できる通信装置だ。使い物になるかはわからないがな……

[ヴァレリー] ぺテルヘイム高校に到着した後、運が良ければ軍隊に連絡がつくかもしれない。そしたら学校の状況を報告するんだ、うまくいけば私たちの大きな助けになるだろう。

[ヴァレリー] 私に君を止めることはできない。本当のところ、今はやらなければならないことが多すぎて、君を見張っておく余裕もないんだ。行くか残るかは君が自分自身で選び、その責任を負いなさい。

[ヴァレリー] だが……ゾーヤ、君は我々公務員とは違う。そして本来は我々が守るべき対象であるということを覚えておいてくれ。

[ヴァレリー] 無理はせず、何が起きてもまずは自分の身の保護を優先するんだ。

[ヴァレリー] 君の父さんも、君が危機に陥るのを見たくないはずだよ。

[???] ……ありがとう。

[???] ありがとう、ヴァレリーおじさん。

[???] 私は絶対に……

絶対に、何?

それ以上は言わなかった。

こんな時に言う「絶対」は、無力な慰めに過ぎないって、私もおじさんも知ってるから。

私は人混みをすり抜け、崩れてくるレンガを躱し、街を破壊する凶悪な暴徒たちを避けながら進んだ。

何も考えなかった。考えたくなかった。ただ目標に向かって進み続けた。

[???] (ふぅ、なんとかここまで来た。)

[???] (ぺテルヘイム高校……前に来たのは、学校交流会の時だった。)

[???] (ここを見張ってるレユニオンも、あの学校と同じだ。一時間おきに一小隊が巡回する……躱すのは難しくない。)

[???] (学校は何も問題なさそうだけど……それにしても静かすぎる。どういうこと?)

[???] (あれ? あれは……)

[???] !?

これは……

[???] (何が起こったの!?)

[???] (これは、これは……全部、学生?)

一体何なの?

[???] (あるいは、「学生だったもの」って言うべきかもしれない。)

[???] (地面にも、壁にも火の跡がある。周りは全部焼け焦げてる……でもこの学生たちの死因は火だけじゃない……)

[???] 刃物、鈍器、あとは踏みつけられたみたいに……

[???] (クソッ、一体どうしたらこんな風になるの!?)

[???] (まさかレユニオンがやったの? でも傷口を見た限りあの暴徒たちのやり口には思えない。)

[???] (それに、学生にはまだ使い道があるとかで、レユニオンは攻撃しないはずでしょう?)

[???] あれ? これは……

[???] あっ……

焼け焦げた地面の、学生服の山の中、音符が一つだけ楽譜から滑り落ち、重く、強く鍵盤を叩いた。

それは私が考えたこともなかった、夢の中でさえ見たことのない光景だった。

[男性] そろそろ天気も暖かくなる頃かな? うーむ、ゾーヤ、この服はどうかな?

[男性] えっ? ああ、ただ先に用意しておこうと思ってな、母さんと約束があるのさ。うーむ、普段は制服ばかりだから、他の服を着るとなるとどうも慣れないな。どれを着ればいいかさっぱりだ。

[男性] ゾーヤも一緒に? フフッ、それはダメさ。

[男性] これは父さんと母さんのデートだからな。

[???] あ、ああ……

[???] 父さん……?

この冬が終わって暖かくなりはじめたら、一緒に冬を送るお祭りに行こう。

蜂蜜酒を飲んで、炉端を囲んでパンケーキを焼くんだ。手を繋いで歌い踊り、柔らかくなり始めた泥を踏み鳴らす……凍土にだって、小さな花は咲くからね。

この街の春は、いつも通りやってくる。

[支援オペレーター] はい、手続きは以上で終わりです。

[支援オペレーター] こちらが新しい記録カードです、大切に保管してください。

[アブサント] ありがとう。

[アブサント] (よし、今回もうまくいった。)

[アブサント] (慣れてしまえば簡単だね。)

[アブサント] (お腹が空いた……ついでに食堂カードにチャージしよう。)

[アブサント] あれ?

[グム] ホントに面白かったんだよ! ドクターはすごいの、トランプは一回も負けなかったし、コインをパッと出すマジックも教えてくれたよ! こんな風に……えいっ!

[ロサ] フフ、確かに面白かったわね。次はリェータも一緒にどうかしら?

[リェータ] ああ? 私は別にいいよ……

[グム] ええっ! 来てよ! ねえねえねえ絶対来て!!

[イースチナ] ふむ……グム、声が大きいですよ。

[ズィマー] フンッ、来なくても別にいいけど。どうせアタシに負けんのが怖いんだろ。

[リェータ] はぁ? 誰が怖いって? 誰が誰に負けるのを怖がってるか、試してみるか!?

[ズィマー] 望むところだ!

[アブサント] ……

[アブサント] あの制服、あの人たちは――

あの学校の……!

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