カンビュセスの籤

ページ名:カンビュセスの籤

登録日:2023/06/15 Thu 21:45:15
更新日:2025/11/06 Thu 21:18:06NEW!
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藤子・f・不二雄 黒い藤子f先生 漫画 短編 sf短編 終末 考えさせられる話 タイムスリップ カニバリズム ova 徳間書店 中央公論社 シェルター 古代メソポタミア 終末期 残酷なボーイミーツガール


カンビュセスのくじ』は藤子・F・不二雄のSF短編漫画の一作。
徳間書店の小説誌「別冊問題小説」1977年1月号に掲載された。


人類史の終末期を二人の男女の出会いとカンビュセス二世の失われた軍隊の伝承を交えて、極限状態においての人間のありようやそうした状況でも何故生き抜かないといけないのかを説いた作品となっている。


●あらすじ

ペルシア王軍の兵士サルクは一人、食糧となるものが何もない砂漠にて遭難し、故郷に生きて帰る一心で歩き続けていた。
ある夜に光のある場所を発見して辿り着き、エステルという一人の女性に出会った。
しかし言葉が違う上に彼女の身なりと建物の内部の様は明らかに彼が生きていた時代の文明とはかけ離れていた。
言葉が通じる様になり、お互いに身の上を語ったところ、奇妙な共通点があった。


●登場人物

※CVはOVA化時のものを記載。


紀元前500年頃にエチオピア遠征に参加していた兵士。
砂漠の中を彷徨い息絶えそうになっていたところをエステルと遭遇する。
当初言葉が通じないエステルに対して食料を奪おうと襲いかかるなどトラブルはあったものの、星空の下で涙を流すエルテルを抱きしめるなど交流を深めていく。
自身の身の上を話すが、エステルもその境遇とほとんど変わらないところに絶望してしまう。


サルクが辿り着いた建物にいた女性。
サルクの身なりから古代オリエントのものと気づいたり、彼の話からカンビュセス二世のエチオピア遠征のことに気づくなど知識は豊富な模様。
また本人曰く23万年以上生きているが、生活年齢は17歳とのこと。
彼女は人と会話するのは実に一万年ぶりで、言葉が通じる様に翻訳コンピュータを修理している。
現代(2023年)から見てもかなり進んだ文明を持っている。






以下ネタバレ


二人が出会い、日が過ぎ、食料のミート・キューブがなくなった頃、翻訳コンピュータの修理が完了。
ようやくお互いの事情を話し合ったのだが……


  • サルクの事情

主君のカンビュセス二世が5万の軍勢をエチオピアへと向かわせ、サルクはその遠征に参加していたが、食料が尽きてしまった。
荷物を運ばせていた馬などの動物を食料にし、道端に生えている僅かな草でなんとか食いつなぐが、それにも限界があり、砂漠ではそれも不可能になった。
生命のない砂漠で食物を取る方法……。


十人単位で籤を引いて、当たった一人を残りの九人が殺して食べるというものだった。



サルクは運悪くその籤の当たりを引いてしまい、生きていたい一心で逃げ出したのである。


逃げ出したサルクは時空不連続体なるものに迷い込んだことで仲間から逃れ、遥か未来までタイムスリップしてしまったそうだ。
理解できなかったものの、あの地獄のような状況から逃れられたことには神に感謝した。



  • エステルの事情

エステルの事情とは、現在の地球のことに他ならなかった。
今から23万年と10年ばかり前に終末戦争が勃発。
生き残ったのは偶々シェルターにいた、彼女を含む僅かな人間だけだった。


地球は破壊し尽くされ死の星となり動植物も再生せず、それは一万年の人工冬眠を行っても変わらなかった。


残された手段は地球外文明へ向けて救援を待ち続けることだけ。
シェルター内の住人はそのために再び一万年の人工冬眠を行うことを決めるのだが、人工冬眠には体力をつけるために食物を摂ることが必須だった。
生命のない地球で食物を取る方法……。


籤引きでね二十三回冬眠したわ……
残ってるのはあたしだけ


すると……あの……
ミート・キューブは……

そう、ミート・キューブとは人間を加工して作られていた食料だったのである。
因果なことにサルクは再び同じ状況に置かれていたのだ。



エステルは生き残る方と食べられる方を決めるために籤を差し出した。
サルクにとってはあまりにも受け入れがたい現実だった。
何故そうまでして生きねばならないのかと悲嘆に暮れるサルクだったが、エステルも何故生き抜かなければならないかと説いていた。



あたしたちには生きのびる義務があるのよ
人間からビールス*1に至るまで植物も含めて
全ての生命あるものの行動の目的は一点に集約されるのよ
生命を永久に存続させようという盲目的な衝動……

ただそれだけ

この世にありたいということ

ありつづけたいということ

ただそれだけ

サルクはもはや死から逃れられないと悟ると、自身を食料に、エステルが生き延びることを願う。
しかしエステルは籤は絶対のものとして自身が食物になることを譲らなかった。
彼女は食べられる方の籤を引いたのである。}


しかし、いままでの冬眠と違い、彼女は希望を抱いていた。
冬眠が解除される僅かな時間に、遥か過去からやってきたサルクと出会えたことで、大いなる宇宙意志の存在を確信したのだという。
今度こそ地球外文明への信号が届いて悲願が達成されると感じていた。


あたしを食べるのがあなたでよかったわ
いくら覚悟したって嫌いな人の血や肉になるのはうれしくないもの


最期にサルクに対して自身の想いを伝えた後、自身をミート・キューブにする方法を説明を始めるのだった。
この時服を脱ぎ裸になっているのだが、ちっとも嬉しくないサービスシーンである。


●カンビュセス二世の失われた軍隊の伝承

元ネタとなった失われた軍隊の伝承とは、カンビュセス二世の軍隊がアメン神の神託所を攻める際に砂漠を横断する中で、巨大な砂嵐で全員生き埋めになったというもの。
上記のクシュ(エチオピア)の征服の出兵では、軍隊は砂漠を横断することができず、深刻な敗北を喫して帰還を余儀なくされたという話であり、微妙に異なる。
人が人を食う様な状況になったかどうかは不明。



●余談

  • 1991年に藤子・F・不二雄のSF短編のOVAシリーズ「藤子・F・不二雄のSF(すこしふしぎ)短編シアター」の一作としてアニメ化された。
    人類史の終末期が舞台となっているからなのかシリーズの最終作(6巻)となっており、また唯一単独での収録作品となっている。

  • OVA版は原作を忠実に描いているが、以下のような補完もされている。
    ・エステルたちがシェルターに入るまでの経緯が語られている。当時エステルは7歳だった。
    ・シェルターを作ったのは科学者だったエステルの父親であり、そのシェルターを利用したいという親戚や友人を招待しての見学会が行われていた。そして偶然その最中に終末戦争が勃発し、中にいたエステルたちは助かったということになっている。
    ・エステルもかつてはサルクと同じく何故そこまでして生きなければならないのかと疑問を持っていたが、次第にこの地球を救うために何とかしなくてはならないと考えるようになったという。

  • このように原作ではあまり語られなかったエステル側の心情や過程が描かれており、原作の補完がされているという特徴がある。
    また遂に願いが通じたのか地球に巨大な発光体が接近するというラストになっている。

  • 2013年8月9日にNHKラジオ第1放送にて「”耳で楽しむ“藤子・F・不二雄の世界」というタイトルで間引きと共に朗読劇化されている。







「すると……あの……追記・修正をしたのは……」
「アニヲタ民よ 優しい人だった」



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  • エステルの最後のクジは単なる口実で、実際は最初から自分をサルクに食わせるものだったって考察あるな。長年の孤独に押しつぶされ、それでも多くの人から背負わされた責任ゆえに死ぬこともできず、そのバトンを引き継げる人間が偶然現れたから内心喜んで引き継ぎを実行したと。「やさしい人」だったというヘンリーおじさんも似たような感じでエステルを生かしたのでは? -- 名無しさん (2023-06-16 07:30:23)
  • OVA版は見てないけどエステルが亡くなった後で発光体が来たの?あと巨大な発光体はサルクを救ってくれる希望なのか…? -- 名無しさん (2023-06-16 10:19:58)
  • ↑2 -- 名無しさん (2023-06-16 11:56:23)
  • ↑3周りのの大人たちも流石に子供を喰うのは忍びなかったから、クジ引く時は絶対にエステルだけは当たらないようにしてた説 -- 名無しさん (2023-06-16 11:57:58)
  • なんかどこかで聞いた事のあるような話で、「カンビュセスの籤」という言葉もどこかで聞いた事があった気がしてたけど、こんな感じの物語だったんだ・・・重いな・・・ -- 名無しさん (2023-06-16 15:26:16)
  • SF短編で一番好きな作品。生きたい一心でクジを反故にしたサルクが今度は人類の最期の一人として生きることを強制されるのがほんと皮肉。ちなみにOVA版で最初に”ミートキューブ”になるのはエステルのお父さん。 -- 名無しさん (2023-06-16 15:46:34)
  • ↑ものすごく読ませるしとても面白い。けど心へのダメージが強すぎてこれとミノタウロスの皿は苦手。改めて藤子先生は天才だと思う。 -- 名無しさん (2023-06-16 19:21:09)
  • 「運悪く」シェルターに入ってしまったばっかりに、どちらかの側になって「死ぬほど」後悔した人もいるのだろうな -- 名無しさん (2023-06-16 19:42:04)
  • 突っ込むのも野暮だが後のほうになるほど一人分の割り当て食料が増えるから逆に最初は何人いたんだ?っていう・・・長く人口冬眠すると人体を維持する構成要素が失われていくからそれを補完するって感じかしら? -- 名無しさん (2023-06-16 19:58:01)
  • 地球外文明人が来た時にサルクだと説明が面倒になりそうだけど大丈夫なのかね。 -- 名無しさん (2023-06-16 21:37:29)
  • さすがに電子データかなにかで人類に関する文化、歴史、こうなった経緯などの概要はまとめてあるんじゃない?だれが生き残ったとしても人間が全部説明するのはちょっと無理でしょ。 -- 名無しさん (2023-06-16 23:35:29)
  • ↑3 仮に独り占めしたとしても10年分の食料が人体23個という、普通に考えたら全然足りない状況なので、ミートキューブで補充しなきゃならない「栄養」はごくわずかなんだろう。ミートキューブの消費期限が1万年以下だから次回に持ち越せず、都度製造しなきゃならないだけで。 -- 名無しさん (2023-06-17 05:16:50)
  • エステルの主張もサルクのなぜそこまでって疑問も納得できるのがツラい。 -- 名無しさん (2023-06-17 19:10:09)
  • 最初は互いに言葉通じなかったけど、多分サルクの方は古代ペルシア語で、エステルの方は英語。 -- 名無しさん (2023-06-17 22:01:19)
  • ラスト事前ポイのは、男女で人類を未来に残す行為だからと思っている -- 名無しさん (2023-06-18 18:49:54)
  • 最後に救いがあったのかどうかを描かないことに意義がある作品だと思う -- 名無しさん (2023-06-19 23:53:49)
  • 原作でのセリフと細かな描写が問題になっているため、ある程度取り除いた編集を行います。 -- 名無しさん (2023-06-25 22:13:12)
  • 編集を行いました。 -- 名無しさん (2023-06-26 21:34:23)
  • ↑×3ラストの描写がないことに意味があるんだろうけど、救いがあったと信じたい。 -- 名無しさん (2023-07-03 20:55:35)
  • なんか、ピンとこない話。舞台仕立てがガバすぎるせいか -- 名無しさん (2023-07-29 08:12:07)

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*1 ウィルスのこと

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