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更新日:2024/04/18 Thu 20:18:54NEW!
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本項目では藤子不二雄A氏のブラックユーモア短編として描かれた『黒イせぇるすまん』について記述する。
雑誌初出は『ビッグコミック』1968年11月号、アニメ版は1993年4月6日に放送された「春の特大号」にて『弱肉強食』(動画配信等での話数は118話)というサブタイトルで放送された。
【概要】
『忍者ハットリくん』『怪物くん』で漫画家として円熟期に達していた藤子A氏がビッグコミック編集部の依頼を受けて執筆した、藤子A氏にとって初めての青年誌での作品である。
好評を受けて翌1969年に漫画サンデーにおいて『黒ィせぇるすまん』の連載、20年後に『笑ゥせぇるすまん』のアニメ化、再連載が始まるなど、『笑ゥせぇるすまん』シリーズのの全ての始まりとなった。本作をヒントにしたかは不明だが、相方の藤子・F・不二雄氏も1969年『ミノタウロスの皿』で青年誌に進出するなど、この当時は両藤子氏にとって少年漫画という枠を飛び越えた転換期となった。
【あらすじ】
とある会社の社員寮での麻雀で、青菜仁志夫がリーチをかける。
「青菜!リーチなんかかけて大丈夫か?」
対面に座る牛河が青菜を煽り立てる。
「おまえまたデッカイのふりこんでもしらないぞ」そう言って牛河も追っかけリーチをかけた。他の同僚たちがでかそうと言って降りる中、青菜に回ってくる。
「もってくるな!もってくるな!」
青菜がそういって中を捨てると……
「ガハハハハハ」
「ドン!」
中単騎待ちの四暗刻・小三元を振り込んでしまった。
次局においても牛河がまたリーチをかける。
青菜が恐る恐る四萬を捨てると……
「ドン!」
「メンタンピン三色ドラドラバンバン跳満だ!」
2回連続で振り込まれたショックで青菜は心臓にひきつけを起こしてしまった。
牛河たちはそんな青菜を見ていられなくなり。自室へ返すことにする。青菜は負けた分のお金を払って退出した……
自室に戻った青菜は、机の中から牛河の写真を取り出し、クッション代わりの本の上に置いて腹いせに写真を殴りつけるが、勢い余って机の上を殴ってしまい、痛さのあまり悶絶してしまう。
牛河にはかなわないと涙を流す青菜だが、そんな中ドアのノックが聞こえる。青菜が恐る恐るドアを開けると、たれ目で歯をむき出しにした大きな口と明らかに怪しい顔の男━━喪黒福造の姿があった。
「こんばんは……」
「あ、あ、あなたはいったいだれです?」
「あたしはセールスマンです」
【登場人物】
CV:大平透
後の笑ゥせぇるすまん。今回は「友愛事業団」なる詳細不明の組織の外務主任という肩書になっている。
今回は口八丁手八丁のセールストークで客をじっくりはめていく姿を堪能できる。
『ファウスト』のメフィストフェレスをモデルにしているためか、連載版と比べて鼻が高く耳がとがっているという、「悪魔」のイメージが強く出ている。
- 青菜仁志夫*1
CV:結城比呂(現:優希比呂)
25歳のサラリーマン。小柄で眼鏡をかけて気弱そうな顔つきという、藤子A氏の描く気弱な男のテンプレキャラの容貌の持ち主。
小学校の頃から社会人となった現在に至るまで牛河にいじめられるという引っ越しや転職を考えなかったのかと突っ込みたくなるような地獄のような人生を送っており、そのたびにうらみがましい目つきをすることしかできないという卑屈な性格になっていた。
匂いを嗅いだだけでもめまいを起こすほどの大の肉嫌いである。
その容貌や肉嫌いというところからわかるように、モデルは作者である藤子不二雄A氏。
- 牛河
CV:松尾銀三
何の因果か小学校の頃から青菜と同じ学校・会社・社員寮という幼馴染。
青菜を見るとついいじめたくなるという、ドSを通り越して鬼畜と化した性格破綻者。
のちの喪黒の「ドーン!」の原型になった、人差し指を指して「ドン!」という癖がある。*2
- ヨシ子
CV:久川綾
牛河たちか常連の焼肉店の店員。通称「ヨッちゃん」。かわいい。
肉嫌いの青菜にクッパを出したり、アニメ版では「青菜とお似合い」と言われて「あたしはうれしいわよ」というなど優しい素振りを見せ、青菜に好意を持たれるが……
- トン子
CV:高乃麗
焼肉店の店員。通称「トンちゃん」。ブタ鼻のブス。
【顛末】
まず、喪黒は青菜の部屋にずかずかと上がり込んで腰を下ろす。この態度に青菜は非常識だと訴えるが、「まあまあおちついて!青菜さん」と喪黒は諫める。
「えっ!どうしてぼくの名を!?」
「いやなに……表札でよんだんですよ」
そして青菜を座らせる。青菜は保険や物品のセールスかと思い込み、そんなものを買う金はないと訴えるが、喪黒は「わたしのセールスしているものはお金では買えないものです」と否定する。
「いったいぜんたいなにを売りにきたんですか!?」
「それは友情ですよ」
「?」
「わたしどもは友情を売るセールスマン…… つまりわたしはあなたの友達となって力をおかししにまいったのです」
今までに聞いたこのもない「友情」の押し売りを訝しんだ青菜は「友情」の値段がいくらか聞いてみる。
「さっきもいったとおりお金でお売りするわけじゃありませんから、支払い方法はお金以外のいろんな形式をとっているわけです」
青菜はお金がいらないなんてずいぶんと鷹揚だと感心するが、「友情も友達も必要ない」と言って断ろうとした。
「いや!そんなことはない!」
喪黒はそんな青菜の言い分を否定する。
「あなたはわたしを必要としている!!」
人差し指を指して強く断言する喪黒の姿に、青菜は牛河の「ドン!」をダブらせる。
「あなたは弱い! 腹がたってもまともにおこることもできない! やりたいことがあっても勇気と意志と体力がともなわない!」
ここまで言われて青菜は腹を立て「あんたとは関係ない」というが、喪黒は「友情を売りに来た以上あなたを強い男に仕立てなければならない」とさらに人差し指を指して断言する。
「よ よけいなお世話だ!」
「そんなことを言うとあとで後悔しますよ。わたしどものお客にえらばれたことをあなたは幸運に思わなければならない!」
喪黒の迫力にとうとう青菜も「わかったからその指さすのだけはやめてくれーっ!!」と折れた。
ここで、喪黒が友情の証のプレゼントとして、布に綿を詰めて人型にしただけの人形を取り出した。喪黒はその人形に先の牛河の写真を巻き付け、さらにアクセサリーとして黒猫の足を人形のそばに添える。
青菜が困惑の顔で見つめる中、喪黒は人形の右手に針を刺した……
ギエ〜〜ッ
翌日、青菜は会社で牛河たちと遭遇する。牛河は青菜が出て行った後も大勝ちして機嫌がよかった。
今日の昼飯をおごるという牛河の右手を見ると、そこには絆創膏が張られていた。なんでも麻雀をしているときに虫に刺されたというが、青菜は昨日の儀式のことが頭に浮かぶ。
「偶然だ、たんなる偶然に違いない」
「ドン!」
青くなった青菜を牛河は脅かして「ガハハハハハ」と笑うのだった。
昼休み、青菜は牛河のおごりということで、同僚たちとともに焼肉店にわざと連れていかれた。青菜はその肉臭さに気分が悪くなる。
牛河が店員のトンちゃんに焼き肉を4人前注文する中、青菜は肉気のないものを頼むが、トン子は「そんなものはない」と怒る。と、そこにもう一人の店員のヨシ子がやってきて、それなら肉のないメニューを持ってくるといって丸く収めた。青菜は顔が赤くなる。
「いよーヨッちゃんずいぶん親切じゃないか」
「あーら、あたしもあまりお肉好きじゃないからよ」
同僚の一人が青菜ももてることがあるんだなと冷やかした。
「フン!青菜のやつ あれだけのことですっかりもてた気になってやがる!」
「ナマで食うのが一番うまいよ!!」*3
牛河たちが焼肉を食べているときに青菜だけが気分が悪くなる中、ヨシ子がクッパを持ってきてくれた。
「いただきまーす」
「焼き肉もひとつ食ってみろ!それ!!」
赤くなりながらクッパを食べようとする青菜の口の中に牛河が肉をひと切れ投げ入れる。
「ゲゲゲーーッ」
青菜は吐き出した肉を牛河の顔面に飛ばす。これに切れた牛河が青菜につかみかかろうとしたところをヨシ子が止めに入った。
「やめて!いやがる人に無理やり食べさせるなんてひどいじゃないの!!食べ物の無理じいする人なんて最低よ!!」
アニメ版では喪黒がこの光景を見つめていた……
その夜、自室で青菜は昼間のことを思い出していた。自分にやさしくしてくれたヨシ子の姿を思い出してデレ〜っとなるが、直後に肉を食わせようとする牛河の顔を思い出して吐き気を催す。怒りにかられた青菜は牛河の人形の左足に恐る恐る針を突き刺す。
ウワ〜〜ッ
「フフフ だいぶ勇気がつきましたな」
いつの間にか青菜の後ろに喪黒がいた。
「わたしはあなたの影のようなものですからいつでも近くにいるのです」
喪黒は青菜が自分の意志で針を刺したことを「自分の怒りを表明した大変な進歩」と褒めるとともに以下のように励ます。
「わたしは人間は加害者タイプか被害者タイプのどちらかに分けられると思います。つまり人間の社会は強者と弱者、加害者と被害者から成り立っているのです。現代の適者生存の社会では加害者は成功者といわれ被害者は敗残者と言われるのです」
「あなたはきょうまで被害者として生きてきたが、その針を人形の足にさした瞬間から加害者側にはいれたのです。」
「さあ!自信をもって!あなたは強い男の仲間に一歩足を踏み入れたのです!」
喪黒はそこまで言うと、お土産にと焼肉を差し出した。青菜はその焼き肉を見て気分が悪くなるというが、喪黒は「なにをこどもみたいなことをいってるんです!」と笑う。
「肉食が闘争心と活力をつけて強い男を作るのです!アマゾンの奥地では勇士が死ぬとその勇士の力を自分のものにするため、その肉を食べる原住民さえいるくらいです」
喪黒はこの肉はめったに手に入らない特別な肉と言ってとにかく食べるようにいう。
「ほら……全然なまぐさくないでしょ?それどころか香ばしく食欲をそそる匂いがするでしょ?」
喪黒の誘いにのって青菜が恐る恐る肉を一口口に入れると……
「ドヒー!」
「うまい!ふしぎだかうまい!」
「そりゃよかった!そういってもらえればわたしも満足です」
青菜は肉がこんなにうまかったのかと感激して涙を流しながら肉を食べるのだった……
翌日の昼休み、青菜が上機嫌で外出しようとするところに、牛河と出くわす。
牛河は松葉杖をついて足にギプスをはめていた。*4 飲みに行った帰りに駅の階段を踏み外して捻挫したという。青菜はまたもや昨日の儀式を思い出してその場を立ち去る。
青菜はこの儀式の恐ろしさに震え、帰ったら人形を燃やすことを決めた……
青菜は、ヨシ子の顔を思いかべながら焼き肉店に入るが、トン子によると今日はヨッちゃんは休みだということで落胆する。
ちょうどそこに牛河たちが入ってくる。牛河の「肉も食えないのに何しにきたんだ」との問いに青菜は「肉を食べられるようになった」と言い訳するが、
「ガハハハ……ドン!」
牛河はヨシ子目当てで来た青菜に追い打ちをかける。
「だけと気の毒だな。あの子にはちゃんと彼氏がいるんだぜ!」
この言葉に青菜はハンマーで殴られたようなショックを受ける。
「ちょっと親切にしてもらっただけでもう自分に気があるように思いやがって…… あっちの方じゃおまえのことなんかすっきり忘れて彼氏とデートしてるさ!」
「とんだお笑い草だ!!ガハハハハハ」
アニメ版では牛河たちが最初から青菜をはめるつもりで「ヨシ子は青菜に気がある」と吹き込んでいる分、さらに悪辣さが増す。
牛河たちの嘲笑に耐えかねて青菜は逃げるようにその場を退散した……
自宅に戻った青菜は迷うことなく人形の心臓の部分に針を突き刺した。
ギエエエエエエ
「とうとうやりましたね!これであなたは強い男になったのですよ」
青菜の頭の中に喪黒の声が聞こえてきた……
翌日、牛河が行方不明になったということで、同僚たちが青菜にも牛河がどうしたか知らないかと聞くが、当の青菜は「知るもんか」ととぼけるだけだった。
青菜が社員寮の前庭で牛河の人形を燃やしているところに喪黒が現れる。喪黒は新しい上等の肉を手に入れたということですき焼きを作ろうと持ち掛けた。
二人は電気コンロに鍋、肉に野菜に缶詰めに瓶ビールを持ち込み、強い男になった祝いのパーティーを始める。青菜は改めて先程の肉を口にほおばる。
「あーうまい!これはほんとにうまい肉ですね! こうして肉をバリバリ食っているとほんとにからだじゅうにモリモリ力がわいてくるような気がしますよ!」
「気がするだけはでなくて本当にそうなりますよ。なにしろわたしの仕入れる肉は特別な品ですから」
「それにしてもあんたはへんな人ですね。僕にまとわりついてもなんの得にもならないのに……」
「これがわたしの仕事なのですから」
「あーうまい!ほんとにうまい!」
そういう青菜の姿はいつしか牛河に近づいていた……
牛河たちの嘲笑を受けた後、河原でむせび泣く青菜のもとに喪黒がやってくる。
ぼくはどうしようもないダメな男なんだと落ち込む青菜に対し、喪黒は「あなたやられっぱなしじゃダメですよ」といって、新しい肉を食べて強くなるよう励ます。心が折れてしまったのか「もういいんです」と青菜は言うが、
「あなたは強くなれるのです!」
「ダメですよ、ぼくなんか」
「大丈夫!あなたは強くなるべきなのです!あなたは強くならねばなりません!!ドーーーーン!!」
青菜は自室で改めて人形の心臓部分を何度も何度も執拗に突き刺す。
グワァァァァ!!!
牛河は苦しみながら断末魔をあげた……
青菜は先程もらった肉を焼いて食べ始める。
「うまい…… うまい……」
青菜の体がどんどん膨れ上がっていく。
「やっぱり、喪黒さんにもらった特別な肉は最高だなあ……」
肉を食べる青菜の姿は牛河を思わせるほどに大きく太っていた……
「青菜さん、とっても強くなってよかったですなあ。でも、強くなった青菜さんもいつかは弱いものに負ける、これが世の習いというものですねえ。ホーホッホッホッホ」
「ぼかあ、編集ページを見ただけで気分が悪くなるんだ」
「なにをこどもみたいなことをいってるんです! 追記・修正が闘争心と活力をつけ強いwiki籠りをつくるのです!」
*2 藤子A氏の旧友が麻雀でロンをする際の癖に由来
*3 アニヲタwikiの当該項目にもあるように、食中毒の恐れがあるので肉はきちんと火を通しましょう
*4 青菜は劇中で人形の左足に針を刺していたが、漫画版ではなぜか右足にはめていた。アニメ版では左足に修正。
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