登録日:2018/02/08 Thu 07:55:23
更新日:2025/12/02 Tue 21:31:43NEW!
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藤子・f・不二雄 sf短編 短編 読み切り 黒い藤子f先生 衝撃のラスト 相互理解の困難さ バッドエンド 誘拐 みんなのトラウマ うさぎ
「ヒョンヒョロ」とは、藤子・F・不二雄のSF短編。
1971年に「SFマガジン」へ掲載。
地球人と異星人の価値観の違いをテーマに描いたドタバタSFギャグ漫画…だと思ったか?
ベッドシーンの描写があることからもわかるように、絵柄は子供向けに見えるもれっきとした青年漫画である。
あらすじ
ある日にマーちゃんは両親へ「うさぎからもらった」という手紙を見せる。
なんとその手紙はきょうはく状だった!
ヒョンヒョロをください
くださらないと誘拐するです
マーちゃんどの
意味不明な内容に、最初は子供の悪戯だと思っていたマーちゃんの両親だったが本物のうさぎ(?)が現れて…?
登場人物
マーちゃん
年齢不詳だが、まだ文字の読み書きもままならないような年の男の子。
大人の興味を引こうと、「緑色の狼を見た」「空飛ぶ大男を見た」「空から落ちてきた星を拾った」などと突拍子もない嘘を吐く癖があるらしい。
「きょうはく状」の宛名はマーちゃん本人だった。
うさぎ
名称不明。「ヒョンヒョロ」で検索するとコイツの画像が出てくるのでコイツを「ヒョンヒョロ」だと勘違いする人もいるが、作中では「うさぎ」「大うさぎ」としか呼ばれない。
「ヒョンヒョロ」なるものを求めており、ヒョンヒョロが渡されなければ誘拐を実行するという旨の脅迫状をマーちゃんに送った。
見た目は二足歩行するデフォルメされた身長2メートル程のうさぎと言ったところ。台詞は漢字以外全てカタカナで表記される。
その外見通り地球上の生物に非ず、異星人らしい。繁殖方法は分裂とのことで、そもそも哺乳類なのかどうかも怪しい存在。
詳細は不明だが地球人とは技術力が図抜けており「次元が違う」ため、壁を通り抜けて突然現れたり銃弾が全然通用しなかったりと凄まじい能力を持っている。
それ故このうさぎが誘拐を主張したりしても、マーちゃんの父母や警察は全く対処できなかった。
基本的には温厚かつ誠実な性格で、地球における「取引」というものもちゃんと勉強してから来ている…のだが、
なぜか「誘拐」が地球における一般的な交渉手段だと思い込んでいる節がある。
また地球人の繁殖方法に興味を示し目の前でピーすることを求めるなど、一切の常識が通じない。
「子供を巻き込むな」というマーちゃんの父親の要求には「変則的ダガ約束スルデス」と条件を飲んでいるなど、誘拐犯(?)ながら譲歩の姿勢も見せる。
脅迫状の内容をマーちゃんに聞かれても恥ずかしがって読もうとしないなど、純情(?)な性格。…ぶっちゃけコイツがちゃんと脅迫状の中身をマーちゃんに説明していれば悲劇は回避できた(地球人の大人にも同じことは言えるが)。
マーちゃんの母親
厳しい性格。きょうはく状を渡してきたマーちゃんを、息子による悪質な悪戯と決めつけてマーちゃんのお尻を叩こうとした。
「うさぎ」の存在は頑として認めようとはせず、当初は頭の問題だと思っていた。
マーちゃんの父親
母親に比べると温厚で、マーちゃんの突拍子もない話にも付き合ってあげている。
母親と同じく、当初うさぎを幻覚の類だと思い込もうとしていた。
うさぎの存在を認めた後は「子供を巻き込まないでくれ」と求めるなど、父親らしいところもある。
刑事
偉そうな刑事。なぜかサ行の音が「しゅ」になる奇妙な喋り方をする。
一度目は「きょうはく状」を見せられ念のため通報したマーちゃんの両親に呼ばれて登場。
当たり前だが「単なる悪戯」と判断し、まともに取り合おうとはしなかった。
しかし、うさぎが刑事ドラマを見て新たに書き直した「続・きょうはく状」に受け渡し時間と場所(ドラマを参考にしただけなので、ドラマのものそのまま)が明記されていたことで流石に真面目になる。
直後に非常識極まりないうさぎの存在を認識してしまったせいで半狂乱と化すが。
結局うさぎの猿芝居に付き合わされる羽目になる(繰り返すが、うさぎはこれが「地球人の正当な交渉手段である」と思い込んでいるだけである)。
「誘拐予定事件捜査本部」なるものを作らされたり、部下たちがうさぎを取り押さえようとして全員ズタボロにされたり、
犯人であるうさぎの指示に従って受け渡し現場に警察官を張り込ませたりと、作中でも屈指の苦労人。
午前0時、公園の電話ボックスまで「ヒョンヒョロ」を持ってこいという要求を呑む羽目になった大人たち。
マーちゃんの父親は「家中ひっくり返したが、ヒョンヒョロなんてものは見つからない」と、とりあえずこれで許してもらうべくあるだけの現金や貴金属類を持ってくる。
だが、うさぎは「ナンダコレハ! コンナ紙キレデゴマカスキデスカ」と取り合おうとしない。
当然大人たちは「我々はヒョンヒョロなんてものは知らない」と正直に打ち明けるが…
ヒョンヒョロヲシラナイ!?
宇宙最高最大ノ価値アル、アノヒョンヒョロヲ!?
非常識ナ!アマリニモ非常識ナ!!
イーヤ信ジラレナイ!!
誘拐ヲ実行スル!!
翌朝。
世界には静寂が満ちていた。
誰もいない家の中でマーちゃんは母親へ呼びかける。
返事はなく、マーちゃんはおもちゃで遊びだす。
するとおもちゃ箱の中から一粒の小さな球が出てきた。
「ママ!! ぼくうそつかないよ」
その球を持って外に駆け出すマーちゃん。
「どこへ行ったの。こないだひろったおほしさまだよ。ヒョンヒョローって空から落ちてきたんだよ」
その声に応えられる者は、もはや誰もいない。
…そう、誘拐は実行されたのだ。
解説
- うさぎの非常識さに最初は目を向けてしまうが、実のところ地球人側もうさぎとはまともに交渉しようとはしておらず、互いに相手を理解しようという気持ちが根本から欠けているのがわかる。
・テーマとしては「相互理解の困難さ」と言ったところだろうか。「超技術を持った『何か』が突然日常に入り込んでくる」というのは「ドラえもん」「オバケのQ太郎」「忍者ハットリくん」「チンプイ」など多くの藤子系列の作品で見られるが、本作は基本的にはハッピーな作風のそれらにおける最悪のバッドエンドの一つとも言えるかもしれない。
- 読み返せばわかるが、伏線は丁寧に貼られている。
・マーちゃんの吐いた「嘘」の中に「お星さまを拾った」というものがあること。
・うさぎが一貫してマーちゃんに対して交渉相手として接していること(なので「子供を巻き込むな」という要求に「変則的ダガ約束スルデス」と返している)。
- なぜ最後にマーちゃんだけが残されたのかについては2通りの解釈がある。
・①父親に「子供を巻き込むな」と言われたのでその約束を忠実に守っている。
・うさぎは非常識だが、誠実である。一度交わした約束は確実に守ろうとしているため、結果的にマーちゃんだけが「誘拐」に巻き込まれずに済んだという解釈。
・②そもそもマーちゃんは交渉相手であり、「誘拐」の対象がマーちゃん以外の全人類だった。
・「きょうはく状」のあて名がマーちゃんであることを考えれば、人質はマーちゃん以外であるとも捉えられる。
交渉相手を「誘拐」するのも変な話である。
・「きょうはく状」やうさぎの主張は「ヒョンヒョロを渡さなければ誘拐する」なのだが何を誘拐するかは明示していない。
読者と地球人たちはマーちゃんが誘拐対象だとミスリードされていたが、うさぎは最初からマーちゃんを交渉相手、それ以外の全人類を誘拐対象と見做していたと思われる。
うさぎと地球人側の間における「詳しく言わなくても相手は分かるだろうという常識」が大きく隔離している描写はそれまで何度も描かれている。
・この考察を押し進めると、そもそもこのうさぎは「子供」という概念を理解していなかったのではないか?という推測もされている*1。
前述のようにうさぎの繁殖方法は地球の生物とは全く異なっており、「地球人の中で小さい個体を総称して子供と呼ぶ」ことは分かっていても、「子供は一般的に交渉相手として相応しくない」ことを感覚として理解していなかった、と考えても矛盾はない。
- 「ドラえもん のび太とブリキの迷宮」に登場する「タップ」は、目の焦点が合っていないなど、本作のうさぎによく似ている。
余談
東京エンカウント弐第40回では堀江由衣をゲストにゲーム「藤子・F・不二雄キャラクターズ 大集合! SFドタバタパーティー!!」がプレイされたが、そのゲームの中のミニゲーム「一発勝負! ヒョンヒョロを探せ!」をプレイすることに。
中村悠一は「ヒョンヒョロってなに? 探すヤツを分かっていない…」とある意味核心を突いた発言をするが、直後の大ウサギによる「誘拐」の表情に堀江共々驚いていた。
ミュージアム内のFシアターでのみ観覧できるアニメのオープニングでは、本作のうさぎが登場し、ヒョンヒョロらしきものを手に持って悪どい笑みを浮かべている。
また、「ドラえもん」と「21エモン」のコラボ作品(2012年~2013年公開)にもモブキャラとして登場した模様。
追記・修正ヲ実行スル!!
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