2拍名詞の4類5類アクセント

ページ名:2拍名詞の4類5類アクセント

祖母と母を対象にした2拍名詞4類・5類のアクセント調査記録。大学時代(2010年)に日本語学の講義のレポート課題として提出したものを、一部修正した上で掲載する。


講義において、現在の関西地方では京阪式アクセントの2拍名詞4類・5類の統合が起こっている、との話に関心を持った。私の地元である滋賀県湖東地方の方言ではどうか、祖母と母にアクセントの聞き取り調査を実施した。

調査方法は、あらかじめ選んでおいた30例ずつの4類と5類の2拍名詞を、それぞれ漢字とルビで示して、例文を思い起こしてもらいながら、発音してもらい、直接聞き取った。選んだ名詞は次のとおり(五十音順)。

  • 4類:跡・息・板・何時・糸・稲・臼・海・瓜・帯・笠・鎌・杵・今日・錐・今朝・汁・空・罪・苗・中・箸・肌・針・船・松・味噌・麦・罠・藁。
  • 5類:青・赤・秋・朝・汗・兄・虻・雨・鮎・井戸・桶・影・黍・蜘蛛・黒・鯉・声・琴・猿・白・足袋・常・露・鶴・鍋・春・鮒・前・窓・繭。

調査結果は次のようなものであった。(アクセントの高低を●○、下降拍を▼で表す。?は話者自身が不明確と断ったもの)

  祖母     祖母
跡/跡が ○●/○○● ○●/○●○   青/青が ○▼/○●○ ○●/○●○
息/息が ○●/○○● ○●/○●○   赤/赤が ○▼/○●○ ○●/○●○
板/板が ○●/○○● ○●/○○●   秋/秋が ○▼/○●○ ○●/○●○
何時/何時が ○●/○○● ○●/○○●   朝/朝が ○▼/○●○ ○●/○●○
糸/糸が ○●/○○● ○●/○○●   汗/汗が ○▼/○●○ ○●/○●○
稲/稲が ○●/○○● ○●/○○●   兄/兄が ○▼/○●○ ○●/○●○
臼/臼が ○●/○○● ○●/○○●   虻/虻が ○▼/○●○ ○●/○●○
海/海が ○●/○○● ○●/○○●   雨/雨が ○▼/○●○ ○●/○●○
瓜/瓜が ○●/○○● ○●/○○●   鮎/鮎が ○▼/○●○ ○●/○●○
帯/帯が ○●/○○● ○●/○●○   井戸/井戸が ○▼/○●○ ○●/○●○
笠/笠が ○●/○○● ○●/○○●?   桶/桶が ○▼/○●○ ○●/○●○
鎌/鎌が ○●/○○● ○●/○○●   影/影が ○▼/○●○ ○●/○●○
杵/杵が ○●/○○● ○●/○●○   黍/黍が ○●/○○● ○●/○●○?
今日/今日が ○●/○●○ ○●/○●○   蜘蛛/蜘蛛が ○▼/○●○ ○●/○●○
錐/錐が ○●/○○● ○●/○●○   黒/黒が ○▼/○●○ ○●/○●○
今朝/今朝が ○●/○●○ ○●/○●○   鯉/鯉が ○▼/○●○ ○●/○●○
汁/汁が ○●/○○● ○●/○○●   声/声が ○▼/○●○ ○●/○●○
空/空が ○●/○○● ○●/○●○   琴/琴が ●○/●○○ ●○○/●○○
罪/罪が ○●/○○● ○●/○●○   猿/猿が ○▼/○●○ ○●/○●○
苗/苗が ○●/○○● ○●/○○●   白/白が ○▼/○●○ ○●/○●○
中/中が ○●/○○● ○●/○●○   足袋/足袋が ○▼/○●○ ○●/○●○
箸/箸が ○●/○○● ○●/○●○   常/常が ○▼/○●○ ●○/○●○
肌/肌が ○●/○○● ○●/●○○   露/露が ○▼/○●○ ●●/●●●
針/針が ○●/○○● ○●/○○●   鶴/鶴が ○▼/○●○ ○●/○●○
船/船が ○●/○○● ○●/○●○   鍋/鍋が ○▼/○●○ ○●/○●○
松/松が ○●/○○● ○●/○○●   春/春が ○▼/○●○ ○●/○●○
味噌/味噌が ○●/○○● ○●/○●○   鮒/鮒が ○●/○○● ○●/○●○
麦/麦が ○●/○○● ○●/○○●   前/前が ○▼/○●○ ○●/○●○
罠/罠が ○●/○○● ●○/●○○   窓/窓が ○▼/○●○ ○●/○●○
藁/藁が ○●/○○● ○●/○○●   繭/繭が ○●/○○● ○●/○●○

4

祖母は「今日が」「今朝が」の2例を除き、伝統的なアクセント形を保っていた。

母は15例で伝統的なアクセント形を保ち、残りは異なるアクセント形に変化していた。変化のほとんどは「~が」のアクセントの5類化であるが、「罠/罠が」と「肌が」は東京式と同じ頭高型であった。

なお、祖母・母ともに、「~が」の伝統的なアクセントは、実際には○○●よりも○○○のように聞こえることが多かった。

5

祖母は「黍/黍が」「琴/琴が」「鮒/鮒が」「繭/繭が」の4例を除き、伝統的なアクセント形を保っていた。「琴/琴が」は東京式と同じ頭高型で、そのほかの3例は4類のアクセント形であった。

母は下降拍が消滅していた。弱く下降拍に聞こえるものもあったが、聞き直すと全て○●であった。また「琴/琴が」が頭高型なのは祖母と同じであるが、「常」も頭高型となり、「露/露が」は高起式平板型になっていた。「黍/黍が」「鮒/鮒が」「繭/繭が」の4類化は見られなかった。

予想どおり、祖母は比較的4類と5類の伝統的なアクセントを保ち、母には4類と5類の統合傾向が確認できた。これについては、調査前には「アクセントなんてほんなに変わらへんやろ」と言っていた母自身も、調査後のデータに「うわ、確かにお母ちゃん(=祖母)とアクセントが違てる!へぇー」と驚いていた。アクセント変化は本人の無自覚のうちに起こるのだと実感させられた。

予想していなかった現象として、祖母の5類アクセントのなかに、「鮒/鮒が(○●/○○●)」のように4類のアクセント形をとるものが見られたことである。4類との統合の兆候とも受け取れうるが、母には「鮒が(○○●)」のようなアクセント形はないので、近年の4類・5類の統合とはまた別の現象とも考えられる。

「今日/今日が」「今朝/今朝が」「琴/琴が」については、祖母・母ともに、予想される4類・5類のアクセント形とは異なるものであった。滋賀県湖東方言においては、今回確認できたアクセント形が伝統的なアクセント形と言えるのかもしれない。

あとがき

のアクセントも調査対象に加えれば、3世代の比較で、よりはっきりした4類と5類の統合傾向の確認ができたかもしれない。しかし、私は滋賀県を離れて3年以上が経ち、また講義等を通じて4類と5類の違いを知識として持っているので、滋賀県方言の自然な資料としては使い物にならないと考えて、対象にはしなかった。地元の中学・高校に通う従妹弟(祖母が同じ)に協力を頼んでも良かったが、今回は調査時間不足で断念した。恐らく、私の母以上にアクセントの変化が起こっていることと思う。

また、今回は名詞のみの単純な方言調査であったが、はっきりとアクセントを聞き取れずに聞き直すことが何度もあった。今後方言の調査をする際には、単純な調査であってもしっかりと音声を録音・保存し、あとで確認ができるようにするべきだと感じた。

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