aklib_story_尖りの味わい

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「尖り」の味わい

ドッソレスに里帰りしたテキーラは、幾人かの知人と再会した。そして将来についての考えを、より一層明確にするのだった。


ドッソレスシティ カジノ

[懐疑的な客] おい、こんなとこで集まって何見てんだ?

[興奮する客] 店のオーナーが、直々に客と卓についてんだよ。お前もこいよ、そろそろ決着が着くぜ!

[懐疑的な客] さすがに騒ぎすぎだろ。相手はどんだけ身の程知らずなんだよ。ここのオーナーの腕を知らないもぐりか?

[興奮する客] ハハハッ、見てみりゃわかるって!

[興奮する客] お前の言ってた身の程知らずはあいつだよ!

[懐疑的な客] なっ!? あの野郎め、戻って来たのか。いい度胸じゃないか、まさかこの街に帰って来るなんてよ。

[興奮する客] へっ、奴が堂々とここに座ってるってこたぁ、お咎めはなしだ。前のやらかしは市長にとっちゃ、もう大したことないってことなんだろうな。

[ディーラー] リバーです。レイズする方は?

[テキーラ] コールで。

[カジノのオーナー] 本気なんだな?

[テキーラ] あははっ、もちろん。この程度のことで確認しないでよ。

[カジノのオーナー] こんな男のために、なぜお前が首を突っ込むんだ、小僧?

[カジノのオーナー] そんなやつの腕一本守ったところで何になる? 普段は無気力にストリートをうろついてるくせに、カジノに足を踏み入れた途端……チッ――目をぎらつかせるような輩だぞ。

[テキーラ] いやぁ、ここはドッソレスだよ? 大抵みんな、そういう感じじゃない?

[カジノのオーナー] ではなぜ他のテーブルにつかない?

[テキーラ] はぁ……その人は腕が一本しかないでしょ。両腕ともなくなっちゃこれからの暮らしが大変だろうからね。

[カジノのオーナー] 知るか。そいつのザマを見るに、大方なくした腕も、どこかのカジノで負けて持ってかれたんだろ。自業自得だ。

[テキーラ] いや……彼の腕は戦争に持ってかれたんだ。

[カジノのオーナー] 何?

[テキーラ] うちの親父の下で兵士をやってたことがあって、俺がチビの頃からの知り合いでね。

[カジノのオーナー] モリー、おかわりを持ってこい。

[カジノのオーナー] 降りろ、小僧。お前じゃどうあがいても俺の手札には勝てん。

[テキーラ] ハハッ、悪いね。

[テキーラ] (カードをオープンする)

[興奮する客] うわぁ……こりゃあすげぇや。

[懐疑的な客] ロイヤル……ストレートフラッシュだと? おいおい何てこった。この野郎め、運に恵まれすぎだぜ。

[カジノのオーナー] (小声)モリー、この小僧もしや……?

[ディーラー] (小声)彼が何かしたようには見えませんでしたが……人を呼びますか?

[カジノのオーナー] (小声)……いや、いい。

[カジノのオーナー] (小声)サンチェスさんがこの小僧に色々便宜を図ってると聞いた……それが本当なら、恩を売るのも悪くない。

[カジノのオーナー] どうしても、こいつの腕が要るってこといいのか? それならテーブルの上のチップを全部諦めてもらうことになるが、結構な額だ。未練はないんだな?

[テキーラ] 面白いこと言うね。こんな大金と腕一本を引き換えようって提案、君の方こそ断る気なの?

[カジノのオーナー] モリー、そいつを解放してやれ。取引だ。

[ディーラー] 承知しました。

[カジノのオーナー] 指を一本一本丁寧にチェックしてくれて構わんぞ。こんな高額の取引で、手抜かりがあってはいかんからな。

[テキーラ] アハハ、俺がオーナーを疑うはずないでしょ。このカジノの信用と評判は、ドッソレスの誰もが認めるところだしね。

[テキーラ] で、あなたは……見たところ、結構長いことまともに休んでないみたいですし、家に帰ってお風呂に入って、寝るといいですよ。

[落ちぶれたギャンブラー] エルネスト、俺は……

[テキーラ] それじゃオーナー、俺はまだ用があるからこれで。お邪魔したね。

[落ちぶれたギャンブラー] エルネスト! エルネスト! 待ってくれ!

[テキーラ] ん?

[落ちぶれたギャンブラー] ずっと大声で呼んでいたのに、こっちを見ないから、追いかけてきちまったよ。

[テキーラ] まだ俺に何か用ですか?

[落ちぶれたギャンブラー] 覚えているかどうか知らんが、俺は君に会ったことがあるんだよ。あの時、君はまだ俺の膝にも届かんくらい小さかった。そして君の母親はドアの枠にもたれかかって立っていた。

[テキーラ] ……覚えてます。全部覚えてますよ、ホセさん。

[テキーラ] 当時、家にはほとんどお金が残っていなかったので、ホセさんが戦場を横断して、最前線から物資を届けてくれなかったら、きっと俺も母も、ひどく辛い冬を過ごすことになったと思います。

[落ちぶれたギャンブラー] 俺はただパンチョさんの命令に従っただけに過ぎないさ。そんなに長い間気にかけてもらうような価値はないよ、エルネスト。

[テキーラ] 軍に入ってから、あなたにお礼がしたいと思っていました。だけど親父が、あなたは既に負傷して退役したって。

[落ちぶれたギャンブラー] ああ、腕一本失って、戦場に俺の役目はなくなっちまったんだ。

[落ちぶれたギャンブラー] 今回はパンチョさんに面会……いや、お見舞いに来たのか?

[テキーラ] はい、昼に会う約束をしています。

[落ちぶれたギャンブラー] そうか、じゃあ俺は戻るよ。遅れないよう、急いだ方がいいぞ。

[落ちぶれたギャンブラー] はぁ……昔の出来事は、全部忘れちまったもんだと思ってたがな。君に会ったら、あの日々がまたはっきりと蘇ってきた感じだ。

[テキーラ] 俺も、ほとんど忘れたものだと思っていました……

[テキーラ] ホセさん……ギャンブルからはもう、足を洗ってください。

[落ちぶれたギャンブラー] ははっ、勘違いしないでくれ。戻るっていうのは、自分の家にだ。危ないところを君に助けられたわけだし、懲りずにまた出向くほど馬鹿じゃないさ。

[テキーラ] もし……必要なら、俺を訪ねてきてください。場所はここです。俺が提供できる仕事は、そんなに稼ぎの良いものじゃないですけど、生活を立て直すには十分なはずですから。

[落ちぶれたギャンブラー] わかった……

[落ちぶれたギャンブラー] ありがとう、エルネスト。

ドッソレスシティ 監獄

[パンチョ] 遅かったな。もうかれこれ一時間もお前を待ってたんだぞ。

[テキーラ] ごめん、親父。来る途中に色々あって、手が離せなかったんだ。

[パンチョ] 自分がぐずぐずしていたことへの言い訳か? エルネスト。

[テキーラ] 俺が悪かったよ、ほんとにごめん、親父。

[パンチョ] ふん……あのロドスとやらで一年ほど過ごして、お前の口先だけのおべんちゃらも減ってきたようだな。

[テキーラ] ロドスには機嫌を取らないといけない人も少ないから。前みたいに八方美人な話し方も必要なくなったんだ。

[パンチョ] そうなのか? お前からの手紙には書いていなかったが。

[テキーラ] わざわざ書く必要もないくらいのことだから。

[パンチョ] 確かにあの小さな紙切れには、そんなに多くのことは書けないな。

[テキーラ] ふぅ、俺だって親父に伝えたいことはたくさんあるんだけどな。

[テキーラ] でもロドスでの業務は思ったより複雑でさ。腰を据えて手紙を書く時間を作るのもけっこう大変なんだ。だから大事なことだけを選んで、簡潔に書いてた。

[テキーラ] 知ってる? ロドスにはボリバル出身のオペレーターも結構多いんだよ。ドーベルマンさんっていう、親父と同じく軍人の出の人もいた。

[テキーラ] それに俺はロドスで武器屋も経営してるんだ。なかなかわかる人も多くて、彼ら相手に商売するのはすごく楽しいよ。

[テキーラ] それと、ドクターとケルシー先生って人が――

[パンチョ] そんなことはどうでもいい、エルネスト! お前が出ていく前に、私が何と言ったか忘れたか?

[テキーラ] 安心してくれよ親父、ラファエラの面倒はちゃんと見てる。あの子は元気だし、ロドスでの生活をすごく楽しんでるよ。

[パンチョ] そんなのは、お前があの紙切れに何度も何度も書いていたことだ。

[テキーラ] でもあの子も……もう大人だからさ。ちょっと俺が口出ししづらいこともあるんだよね。

[パンチョ] もういいエルネスト。私が言っているのはそんなことではない!

[テキーラ] ああ……そうか。

[テキーラ] 親父が言ってるのは……あの話のことか。

[パンチョ] 忠告したはずだ。自分が将来やりたいことを早めに決めておけと。

[パンチョ] 目の前の日々にかまけているだけではダメだ。自分の才能を、楽な生活を追い求めることだけに浪費してはいかん。大いなる志を抱く人間になれ。

[テキーラ] 俺はボリバルに戻るつもりだよ。ただ、今はその時じゃない。

[パンチョ] それはいつなのだ! お前の髪が真っ白になる頃か? ボリバルが完全に崩壊する時か!?

[テキーラ] 親父、俺には、まだ答えが出てないことがたくさんあるんだ。自分のこと、ボリバルのこと、どれもよくわかってないんだ。

[パンチョ] どうやら私は、カンデラがお前に与えた影響を軽く見過ぎていたらしい。ドッソレスを離れて直接の接触がなくなっても、お前の頭には常にあの女のやり口が焼き付いている。

[テキーラ] 親父がカンデラさんのやり方を認めなくても、彼女には彼女なりの道理があるということを、俺は決して否定したりしないよ。

[パンチョ] お前のその優柔不断な性格は本当に母親似だな。あいつの頼みなど聞かずに、お前を私の元に置いて育てるべきだった。そうすれば、少なくともお前は果断に富んだ兵士になれたものを。

[テキーラ] 母さんの何が間違ってたって言うんだよ。あんな環境で俺を育てるのは大変って一言じゃ足りないし、並大抵の精神力じゃ耐えられないことだったはずだ。親父にそんなことを言われる筋合いはない。

[パンチョ] 悪かった、エルネスト。

[テキーラ] ……親父、今日俺が来る途中で誰に会ったと思う?

[パンチョ] 誰だ?

[テキーラ] ホセさんだよ。親父の下で三年間、伝令官をやってた。

[パンチョ] あいつか。

[テキーラ] あの人、親父の命令で母さんと俺たちに何度も物資を届けてくれただろ?

[パンチョ] ああ。

[テキーラ] まだ母さんのことを覚えてるって言ってた。冷たい写真の中の母さんなんかじゃない。あの人の記憶の中で、母さんはまだはっきりと生きてるんだ。

[テキーラ] そんな母さんのことを覚えてるのは、もう俺だけだと思ってた……

[パンチョ] お前は、私があいつのことを覚えていないとでも思っているのか、エルネスト?

[テキーラ] 母さんが死ぬ前に教えてくれたんだけど、親父と初めて会った時、胸元に一輪の花を挿していたらしいな。その花が、親父を自分のところに連れてきてくれたって言ってた。

[テキーラ] 親父、それが何の花だったか、思い出せるか?

[パンチョ] それは……

[パンチョ] 思い出せん。

[テキーラ] ふぅ――

[テキーラ] 残念だ。親父が答えを教えてくれたらいいと思ってたんだけど。

[市長のボディーガード] エルネストさん、お待ちを。

[テキーラ] やあ。久しぶりだね、ブッカーさん。

[市長のボディーガード] カンデラ市長が、あなたがドッソレスに帰ってきていると聞いて、一目会いたいと。

[テキーラ] カンデラさんがどうして俺に会いたいのか、訊いてもいいかな?

[市長のボディーガード] まずは車にお乗りください。目的の場所に着きましたら、市長自らあなたにお話しなさるでしょう。

[テキーラ] わかった……俺もちょうどカンデラさんに会いに行こうと思ってたところなんだ。よろしく頼むよ、ブッカーさん。

[テキーラ] ここは……結婚式場? カンデラさんがこの中に?

[市長のボディーガード] こちらへどうぞ。カンデラ市長は一番前のテーブルにいらっしゃいます。

[カンデラ] (フォークでグラスを叩く)

[カンデラ] 指揮者の方、その美しい旋律をしばしの間止めていただけるかな。新郎新婦のお二方にいくつか伝えたいことがある。

[カンデラ] 私のこの短い半生は、結婚という言葉と無縁だ。かつて人を深く愛したことはある。しかし愛というものが、私にこのような特別な契約を結ぶ勇気をもたらしてくれることはなかった。

[カンデラ] 一体、どれほどの勇気を持てれば、血も繋がっていない他人の手をとり、その相手に己の財産も、身体も、感情も、そして運命までをも託せるというのか。

[カンデラ] 式の前に、私は新郎であるウィル氏に問うたことがある。「君のしようとしていることは、裸で荒野の上を行くような危険な行為であるとわかっているのか」と。

[カンデラ] しかしウィル氏は私に向かってこう言った。「僕は一輪の花に会いに行くために、嵐をも越えていくのだ」と。

[カンデラ] (グラスを掲げる)ならば行きたまえ、ウィル。勇敢なる歩みで吹き荒ぶ暴風へと踏み込み、いついかなる時も彼女のことを思い、幸せにしてやるのだ!

[カンデラ] 終わりなき歳月へ、不滅の愛へ乾杯!

[参列者] 乾杯!

[テキーラ] (唇を噛みしめる)

[市長のボディーガード] (小声)カンデラ市長、彼がお見えになりました。

[カンデラ] エルネスト、久しぶりだな。

[テキーラ] ……カンデラさん、お久しぶりです。お身体の調子はどうですか?

[賓客A] どうしてこんなところにやつが……? ここはカンデラ市長主催の披露宴だぞ。いい度胸だな。

[賓客B] シーッ……声が大きい。カンデラ市長が招いたんだよ。特別な客人が来ることになってるって、式典の前に言ってたぞ。

[カンデラ] 皆さん。ご存知だと思うが、こちらの彼はエルネスト・サラスだ。私の最も優秀な部下の一人であり、かつては国際貿易管理部に所属していた。

[賓客B] よくぞドッソレスへお帰りになられた、エルネストさん。

[テキーラ] 歓迎のお言葉をありがとうございます。

[カンデラ] 長期休暇はいかがだったかな、エルネスト?

[テキーラ] お気遣いありがとうございます、カンデラさん。色々ハプニングもありましたが、非常に良い休暇でした。

[カンデラ] ほう、詳しく聞かせてもらっても?

[カンデラ] ……目が少し赤くなっているようだが、大丈夫か?

[テキーラ] はい。長らく離れていたせいで、ここのビーチに吹く風はいつも激しいものなのをすっかり忘れていました。

[カンデラ] ふむ。私としては今宵の風は穏やかで、心地よい気分だが。

[テキーラ] ……あの船を引き上げたのですか?

[カンデラ] ああ、今年の終わりに一通り改修を施して、引き続き使用するつもりだ。

[テキーラ] あれほどのパニックや爆発を経て、人工海に沈んだ船が、務めを果たすことができるんでしょうか?

[カンデラ] この船が過去に見せた有用さは、まったくケチがつけようのないものだった。私は今でもこの船の未来に期待をしているし、今後も大いに成し得ることがあるはずと信じている。

[テキーラ] あなたはそのように、古い物にこだわる方ではなかったと思うのですが。

[カンデラ] 古いかどうかは私の考慮の範疇にはない。私が気にしているのは、純粋にそれが長く使えるかどうかだけだ。

[カンデラ] それに、良い物というのは、いつまで経っても色褪せはしない。このテーブルにあるラム酒のようにね。私の所有する酒蔵で作られた七年物、それも特に優れた樽の一瓶だ。

[カンデラ] 七年――暗闇の中で静かに待ち続ける時間は、酒の芳醇さをたまらなく増してくれるものさ。

[カンデラ] 一杯、試してみるか?

[テキーラ] あははっ。いただきます、カンデラさん。半分ほどで結構ですよ。ずいぶんここを離れていたせいで、俺の酒量も以前ほどではなくなりましたから。

[カンデラ] そうか。ブッカー君、客人にグラス半分ほど注いでやってくれ。

[テキーラ] 大丈夫です、自分でやりますから。

[カンデラ] (眉を吊り上げる)こういうことには慣れていると思っていたが?

[テキーラ] ……お手数をおかけします、ブッカーさん。

[市長のボディーガード] どうぞ。

[テキーラ] ありがとうございます。ではカンデラさん、いただきます。

[テキーラ] (グラスを持って一口すする)

[カンデラ] どうだ?

[テキーラ] ゴホン……重厚な口当たりで、素晴らしい香りです。さすが、センスの良さはお変わりないようですね。

[カンデラ] 気に入ってもらえたかな?

[テキーラ] ははっ、カンデラさんのコレクションを飲ませていただいているんですから、そんなこと考えるだけで恐れ多いですよ。

[カンデラ] 父君に会ったそうだな、エルネスト。彼の様子はどうだった?

[テキーラ] はい、父の体調はすこぶる良好でした。これまでずっと面倒を見ていただいてありがとうございます。このご恩は忘れません。

[カンデラ] はぁ……あの頑固な老人のことだ。きっと囚われの身となっても、私のやり方について君に二言も三言も文句を言っていたのだろう?

[テキーラ] いえ、むしろ父はずっと俺への文句を言ってました。「お前というやつは志が足りん、私とは似ても似つかん」ってね。

[カンデラ] まったく年寄りは嫌だね、自分の息子のことすら理解できなくなってしまったらしい。

[テキーラ] あははっ……冗談はやめてくださいよカンデラさん。父親が息子を理解できないはずないでしょう。

[カンデラ] 君には決して志がないわけじゃない。むしろ君は、このドッソレスよりもはるかに大きなものを心の内に宿すことができる。

[テキーラ] カンデラさん……おっしゃっていることがよくわかりません。

[カンデラ] ドッソレスも、未来永劫変わらずに私の都市であり続けるわけではない。私は老いていくが、この街の栄光は日ごと輝きを増し、それを羨む周囲の人間も増えていく。私には同志が必要なんだ。

[カンデラ] 猛獣がうろつく環境で、この街を守り抜くための同志が。そして私が亡くなったあとも、引き続きこの街を遥か未来へと導いてくれる人間がな。

[カンデラ] さあ、もう一杯いかがかな?

[テキーラ] (手に持ったグラスを撫でる)

[カンデラ] この酒を持って帰ってゆっくり味わってくれても構わないよ。いずれ君もその味を気に入るかもしれないしな。

[介添人の女性A] こっちに投げて、こっちよ!

[介添人の男性B] ほらほら、俺に俺に!

[介添人の女性B] あれ、どこに飛んでったのかしら?

[介添人の男性A] なんてこった、遠くまで投げすぎだろ。

[テキーラ] わっ!? え?

[カンデラ] あっははははは! どうやら君からは良いニュースが期待できそうだな。

[テキーラ] これは……困りましたね。新婦さんにお返しして、もう一度やり直してもらいましょうか。

[カンデラ] もらっておきなさい。吉兆だと思えばいいじゃないか。ドッソレスには良い娘たちがたくさんいるぞ。

[カンデラ] そろそろ暗くなってきたな。もし帰宅するのが面倒であれば、近くのホテルに泊まっていけばいい。既に君のために部屋を一つ用意させてある。

[テキーラ] ……ありがとうございます、カンデラさん。お手数をおかけいたしました。

[カンデラ] 私は用事があるから、先に失礼するよ。

[テキーラ] おや? まだ何かお仕事が?

[カンデラ] エルネスト……君は、ボリバルから完全に離れてしまった方が自由に生きられると考えたことはないか?

[テキーラ] (首を横に振る)

[カンデラ] 理由は?

[テキーラ] この街の尖り具合が、俺の唯一の楽しみだからです。

[カンデラ] ならば行きたまえ、エルネスト。勇敢なる歩みで吹き荒ぶ暴風へと踏み込み、いついかなる時も君の「楽しみ」を思い、幸せにしてやるのだ!

[テキーラ] ううっ、頭が割れそうだ……久々にあんな強い酒飲んだ……

[テキーラ] まったく……何でブーケなんかここまで持ってきたんだ俺は? ……まあいいや、後でゴミ箱にでも捨てておこう。

[テキーラ] 何だ? 前の方に人だかりができてるな……すみません、ちょっと通してもらってもいいですか?

[テキーラ] ……昨日のカジノか。

[カジノの客] 小僧、今は無理だぜ。さっきカジノで死人が出たからよ。

[テキーラ] 死人?

[カジノの客] とあるツイてねぇ野郎が、たまたま大勝ちしちまったんだが、急な刺激に耐え切れなくてその場でぽっくり逝ったってよ。

[テキーラ] はぁ、それはそれは……運命のいたずらってやつですね。

カジノのど派手で煌びやかな扉が開き、担架に乗せられた人が運ばれてきた。白い布の下から遺体が微かに覗いている。エルネストは眉根を寄せながら、足早にその場を離れようとした。

突然、一陣の風が吹き、布の端がめくれ上がった。その下から覗いた腕は、半ばから欠け落ちていた。

[テキーラ] ……

[テキーラ] (拳を握りしめる)

[テキーラ] こんにちは、少しいいですか?

[カジノの従業員] 兄ちゃん、話なら後にしてくれや。死人を運んでるのが見えねぇのかよ?

[テキーラ] ちょっとだけ待ってくれ、ちょっとだけでいいから。

[カジノの従業員] 何をしてやが……ハハッ、なんで死人の胸元に花なんかを挿してんだよ? 何だ兄ちゃん、こいつのこと知ってるのか?

[テキーラ] はい。

[カジノの従業員] 誰なんだこいつは?

[テキーラ] 名前を聞くほどでもないですよ。ごく普通の、どこにでもいるボリバル人です。

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