aklib_story_勤勉な人

ページ名:aklib_story_勤勉な人

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勤勉な人

ジュナーからバブルの訓練を任されたシデロカだったが、彼女に逃げられてしまう。その不手際を報告する中、彼女はもっと大事な使命があることに気が付いた。


[シデロカ] もしもし。もしもし、聞こえますか?

[シデロカ] お久しぶりです、会長様。

[シデロカ] あなたが来訪したと聞き、僭越ながら連絡させていただきました。ご休憩のお邪魔になっていなければいいのですが……

[シデロカ] はい……はい。

[シデロカ] 両親の商いはあなたのお陰で赤字を免れることができました。

[シデロカ] ご存知の通り、コリニア人が最も恐れているものは損失ですので。

[シデロカ] ……私、ですか?

[シデロカ] ええ、お陰様でとても元気にしております。

[シデロカ] それで……会長様さえよろしければ、ご一緒に食事でもできたら嬉しいのですが……いかがでしょう?

[シデロカ] ……はい。明後日ですね。わかりました。

[シデロカ] ……ええ、私の方は問題ありません。むしろ、ようやく会長様と共に食事ができるのですから、楽しみで仕方がないくらいです!

[シデロカ] ……はい。はい……

[シデロカ] ……はぁ……普通のお食事、ですか? でしたら、ロドス艦内の食堂はいかがでしょう?

[シデロカ] ……えっ? お口に合わなそう……ですか?

[シデロカ] ……はい!? 個室のあるお店……あの、それは……少々値が張るのではないかと……

[シデロカ] ……い、いえ! 私の気が回らないばかりに、申し訳ありません!

[シデロカ] ……はい、はい。時間は厳守いたします。

[シデロカ] ……はい! ありがとうございます、会長様。

[シデロカ] それでは、失礼します。

[シデロカ] ……ふぅ。

[シデロカ] 知り合ってから随分経つというのに、会長様は相変わらずだな……

[シデロカ] その間、こちらは見聞を広められたというのに……はぁ……

[シデロカ] ……ん?

[シデロカ] 何だ? 向こうの方が騒がしいな……

[シデロカ] ジュナー教官!?

[ジュナー] ……ん?

[ジュナー] ああ、こんにちは、シデロカさん……

[バブル] はーなーせー! はーーなーーせーー!!

[ジュナー] ちゃんと言うことを聞くって約束できるなら放してあげるわ。

[シデロカ] あの……たしかジュナー教官は、ドーベルマン教官と共に任務に出られたはずでは……?

[ジュナー] んん!? あ……あー、それね。

[ジュナー] 実は、その……色々と事情があってね。それで急遽行けなくなってしまったのよ……うん。

[シデロカ] でしたら、私の訓練に付き合ってくれませんか? 実は最近――

[ジュナー] えぇっと……ごめんね。この後、用事があるのよ。

[バブル] うがーっ! 放せ放せはーなーせー!!

[シデロカ] でしたら、私も同行させてください。必ずお役に立ちますから! そして、それが済み次第――

[ジュナー] いや、ほんとに、すっごく、個人的な、用事なの! だから、あなたの手を煩わせるわけにはいかないわ。

[バブル] うがーーーーーっ!!!

[ジュナー] もう、バブル! またドクターの手帳に「反省すること」を書き加えられたいの!?

[バブル] うぅ……

[シデロカ] あの……何か、お手伝いできることはありますか?

[ジュナー] ああ、彼女のこと? そうね――

[バブル] フォルテのお姉ちゃ~ん! 教官がいじめるんだよ~~!

[ジュナー] バブルったら、訓練中に飛び出してきちゃったのよ……

[シデロカ] 訓練……? 訓練があるのですか!?

[ジュナー] あっ、いや……ゲーム! そう、ゲームの最中だったの。

[ジュナー] あなたも知っての通り、この子は気分が昂ぶると全力で走りたがる性分だからね……

[ジュナー] さっきもこの子を止めてなかったら、ここの壁が吹き飛んじゃうところだったわ。

[ジュナー] はぁ……

[シデロカ] ……ふむ?

[バブル] うぅ~~!

[ジュナー] ……

[ジュナー] あっ!

[ジュナー] そうだ、シデロカさん! 一つお願いがあるんだけど、聞いてもらえないかしら?

[シデロカ] 伺います。

[ジュナー] 見ての通り、今のバブルって元気が有り余ってるじゃない? だから発散させる必要があると思うのよ。

[ジュナー] で、シデロカさんは訓練の相手を探していると。

[シデロカ] ええ、そうですが……

[ジュナー] だったらバブルはうってつけよ。特に力比べの相手としてはね。

[ジュナー] 単純な力比べなら、教官団ですら敵わないんだから。

[バブル] そうだそうだー!

[ジュナー] それにシデロカさんもなかなかの腕前だし、是非バブルに色々と教えてあげてほしいのよ。だからお願い。この子の訓練に付き合ってあげて。

[ジュナー] ダメ……かしら?

[バブル] えー……ヤダ。教わりたくない。

[シデロカ] ……では、訓練室の手配をお願いできますか? 教官。

[ジュナー] それなら既に第六訓練室の使用許可をもらってるわ。そのまま使ってちょうだい。

[シデロカ] わかりました。

[ジュナー] それじゃ、今日はバブルのことお願いね。

[ジュナー] 思いっきり訓練してきなさい!

[バブル] ……

[シデロカ] こんにちは、バブル。今日は一緒に訓練しよう。

[シデロカ] うわっ!

[バブル] うがーーーーっ!!

[シデロカ] おい、どこへ行くんだ!? 訓練室は向こうだぞ!

[ジュナー] 良い訓練になることを願ってるわ!

[ジュナー] ……

[ジュナー] ふぅ……二つのトラブルが一気に片付いちゃうなんて、これぞ正しく僥倖ってやつね。

[ジュナー] さてさて……シデロカ対バブル、その結果はどうなることやら。

45分後

第六訓練室

[バブル] 驚いたぞ。フォルテのお姉ちゃんって、意外と走れるんだね。

[シデロカ] 君も筋は悪くない。すごい体力じゃないか。

[バブル] ふふん! ボクはサルゴン中走り回ってたんだから当然だぞ。

[シデロカ] そうなのか?

[バブル] うん! ボクはすっごく強いんだ! だから、ちょっと走ったくらいでへばったりしないんだぞ!

[シデロカ] そうか。ならば丁度良い。

[シデロカ] バブル、次は組み手をしよう!

[バブル] くみて……? なにそれ、全然面白くなさそうだぞ。

[シデロカ] 組み手とは……そうだな、全力でぶつかり合う訓練のことだ。

[バブル] んん? でも、そんなことしたら、フォルテのお姉ちゃんが吹っ飛んじゃうぞ?

[シデロカ] いいから、まずはやってみろ。きっと受け止められるはずだ。

[バブル] わかった。

[バブル] それじゃ、いっくぞーー!

[バブル] ドーン!

[シデロカ] はぁっ!

[シデロカ] ……ふぅ、さすがセラトだな。

[シデロカ] ははっ。

[バブル] へっ? あ、あれ?

[バブル] ちょ、ちょっと待って! タイム……タイムだぞ!

[シデロカ] どうした? どこか痛めたか?

[バブル] ううん、そんなのはしてないぞ。

[バブル] とにかく、さっきのはナシだ!

[バブル] ボク、全力出してなかったし!

[シデロカ] そうか、わかった。

[シデロカ] では、もう一度だ。

[バブル] ふん。

[バブル] ここからなら、十分だな。

[バブル] うーん……

[バブル] ううん、もっと距離が欲しいぞ。

[バブル] もっと、もーーっと遠くから……

[バブル] よーし!

[バブル] フォルテのお姉ちゃん、痛くても泣いちゃダメだぞ!

[シデロカ] ああ。

[バブル] じゃあ、いくぞ!

[バブル] はああーーっ! えいやーー!

[バブル] どっかーん!

[シデロカ] はああっ!

[シデロカ] う、ぐ……

[バブル] 力比べなら、ボクは無敵だあ!

[シデロカ] それはどうか――なっ!

[バブル] うぐっ!

[バブル] ぐぬぬぬぅ~~~!

[シデロカ] せい、やァ!

[バブル] うそぉ!?

[バブル] この……負けるもんかー!

[バブル] えいやーっ!

[バブル] はぁーーっ! やぁー!

ドン!

[シデロカ] はぁ……はぁ……

[シデロカ] ジュナー教官の言う通り、力比べであればバブルは最適……いや、尊敬に値する訓練相手になるな。

[バブル] そんな……負けた……

[バブル] フォ、フォルテのお姉ちゃんはどうしてそんなに力持ちなの!?

[シデロカ] 常に鍛錬しているからな。

[シデロカ] だから、バブルもたくさん体を動かせば強くなれるはずだ。

[バブル] ……お姉ちゃんは嘘つきだぞ……

[バブル] ボクだって毎日走り回ってるけど……あまり強くなってる気がしないぞ……

[シデロカ] だとすれば、方法が間違っているのかもしれないな。

[バブル] うーん……

[バブル] ねえ、フォルテのお姉ちゃんとケーちゃんのヴァルカンお姉ちゃんが戦ったら、どっちが強いの?

[シデロカ] ヴァルカンか……それなら、恐らく彼女だろう。

[シデロカ] ミノスでは、誰も鍛冶屋を敵に回そうとは思わないしな。

[バブル] でも、フォルテのお姉ちゃんだってすっごく強いぞ。

[シデロカ] 私はまだまだ未熟だ。だからもっと自分を磨いて、より強くならなければならない。

[バブル] なら、ボクも強くなりたいぞ! ケーちゃんに勝ちたい!

[シデロカ] ケオベに?

[バブル] うん! ケーちゃんは力持ちじゃないのにメチャクチャ強いんだ。

[バブル] いつか絶対、ケーちゃんを地面に叩きつけてやるぞ! わうーー!

[シデロカ] ふふ、それは面白そうだ。

[バブル] だからボク、特訓したいぞ、特訓!

[バブル] さあ、もっとやるぞ、フォルテのお姉ちゃん! 次はボクが勝ってやる!

[シデロカ] ああ! やる気があるのなら、とことん付き合おう!

[バブル] よーし、特訓だ!

[シデロカ] うむ、特訓だ!!

2時間後

[バブル] フォ……フォルテのお姉ちゃん……ボク、もうへとへとだぞ……

[シデロカ] 何を言っている。限界まで自分を追い詰めてこその訓練だろう。

[シデロカ] 君の意志の強さを私に見せてみろ、バブル!

[シデロカ] さあ、来い!

[バブル] えぇ~……ま、まだやるの~……

[シデロカ] 偉大な戦士は訓練場で倒れたりなどしないぞ。

[バブル] うぅー……それじゃあ、行く……

[バブル] ぞ~……

ぱた……

[バブル] も、もう……一歩も……動けない……ぞ……

[バブル] う~……

[シデロカ] これは、もっと持久力を鍛える必要がありそうだな。

[バブル] へとへとだぁ……部屋に戻って寝たいぞ……

[シデロカ] いいや、駄目だ。

[バブル] えぇ~っ、なんでぇ……!?

[シデロカ] ジュナー教官から、今日一日面倒を見るよう任されたんだ。つまり私には責任がある。

[シデロカ] それに、今寝てしまったら先ほどまでの特訓が全て無駄になってしまうぞ。

[シデロカ] 筋肉痛を防ぐためにも、せめてストレッチくらいはするべきだ。

[バブル] ま、まだ体を動かさないといけないの~!?

[バブル] い~~や~~だ~~!! もう動きたくない~~!!

[バブル] うわ~~~~~ん!

[シデロカ] 泣く元気が残っているなら、訓練を続けるぞ。

[バブル] う~……

[バブル] ヤダ! ボクは帰って寝る!

[シデロカ] む――まだ元気があるじゃないか!

[シデロカ] こら、逃げるな! 戻ってこいバブル! 体力を無駄にするな!

......

[監視カメラ] ……

[シデロカ] くっ……見失った……

[シデロカ] だが妙だな……筋力と持久力は私の方が有利のはず。

[シデロカ] それなのに、なぜこうも容易く見失ってしまうんだ?

[シデロカ] ふむ……

[シデロカ] やはり30時限の関連講義だけでは足りなかったか……今後は追跡技術の訓練を中心に、教官団にご指導頂く必要があるな。

[シデロカ] ……ん?

[シデロカ] こんにちは、スズランさん。

[スズラン] こ、こんにちは、シデロカお姉さん。

[バブル] (任せたぞ、スズラン! 君と君のしっぽが頼りなんだ!)

[バブル] (ボクのこと、しっかり隠してね!)

[スズラン] (ちょっ、動かないでください、バブル! バレちゃいますよ!)

[シデロカ] 先ほど、この辺りでバブルを見ませんでしたか?

[スズラン] い、いえ……見てませんけど。

[シデロカ] おかしいな。ここは行き止まりだし、突然消えるはずが……

[スズラン] も、もしかしたら、換気用のダクトを抜けて行っちゃったのかも……なんて……あ、あはは……

[シデロカ] なるほど、彼女の体型であれば確かに可能ですね。

[バブル] (あれ? スズランのしっぽ、なんで一本だけ揺れてるんだろ?)

[バブル] (……そういえば、嘘をつく時しっぽを揺らす癖を持つ人がいるってパパから聞いたことがあるぞ。あの話って本当だったんだ!)

[バブル] (スズラン、君はなんていい人なんだ!)

[バブル] (で、でも、できれば……ボクの鼻先で揺らすのは……やめてほしい……ぞ。うぅ……くすぐったいぃ……)

[バブル] (ま……まずい……!)

[バブル] (は、は――)

っくしゅん!

[シデロカ] ん?

[スズラン] きゃっ!

[スズラン] (し、しっぽを掴まないでください~!)

[スズラン] ご、ごめんなさい、シデロカお姉さん……実は、ちょっと風邪を引いちゃいまして。

[スズラン] くちゅん。

[シデロカ] 風邪……ですか? それはさぞお辛いでしょう。医者には診てもらいましたか?

[スズラン] その……まだなんです。あまりご迷惑をおかけしたくなくて……

[スズラン] ですので、少し休んでから行こうかなと……

[シデロカ] それはいけません、今すぐ診てもらわないと。

[スズラン] だ、大丈夫ですから! ちょっとだけ……本当にちょっとだけ風邪気味かもって程度ですので。これくらいであれば、自分で医務室に行けます。

[スズラン] (ハンカチを取り出して鼻を拭う)

[シデロカ] あの……もしかして節約をされているのですか?

[スズラン] …………はい?

[スズラン] そ、そんなことはありませんよ!

[シデロカ] ううむ……

[シデロカ] その慌てぶり……やはりそうでしたか。

[バブル] (うぇ!? もしかして気づかれた!?)

[スズラン] (どうしよう……シデロカお姉さん、何か勘違いされてるみたいです……)

[シデロカ] お気持ちはわかります。私の故郷にも節約のためと医者に行かず、病で命を落とした人が大勢いましたから……

[シデロカ] ですが、あなたはまだ幼い。そんな子に苦労などさせるわけにはいきません。

[シデロカ] 診療代が払えないのであれば、私が代わりにお支払いします。

[バブル] (な、なに言ってるんだ? このフォルテのお姉ちゃん……)

[スズラン] いえいえいえ! 本当に……本当に大丈夫ですから! それに、ロドスはオペレーターを無料で診察してくれますし……きゃっ!

[バブル] (しまった! 今度こそ気づかれた!?)

[バブル] (見えてませんように見えてませんように見えてませんように!)

[シデロカ] 皆まで言わなくて結構です。すぐ医務室へお連れしますので。

[スズラン] え……ええぇぇっ!?

[スズラン] ご、誤解です! 誤解ですってば、シデロカお姉さん! パパとママは毎月生活費を送ってくれてますし、お手紙や写真だって――

[スズラン] お願いですから……話を聞いてくださ~い!

[バブル] ふ、ふぅ~……

[バブル] もうちょっとで見つかるところだった……けど、スズランのしっぽのおかげで何とかなったぞ。

[バブル] ごめんねスズラン! この恩はいつか必ず返すから!

訓練センター入口

[ジュナー] で、結局……バブルは消えちゃったと?

[シデロカ] はい……

[シデロカ] スズランさんを医務室へ送った後、再び捜索に当たったのですが……どこを探しても見つかりませんでしたので、こうして報告を……

[シデロカ] これも全て、あの子をちゃんと見ていなかった私の責任です! 申し訳ありません、教官!

[シデロカ] どうか、私に罰をお与えください!

[ジュナー] い、いや、そこまでするほどのことじゃ……

[ジュナー] それにバブルなら、今頃部屋で休んでると思うわよ。宿舎の管理人にも確認したし。

[ジュナー] あんなに大人しいバブルは初めて見たって驚いてたわ。これもきっとあなたのお陰ね、ご苦労様。

[シデロカ] は、はあ……

[ジュナー] 今日はありがとう。他に用がないのなら、あなたも早く部屋に戻って休みなさい。

[シデロカ] ……

[シデロカ] 教官、実は一つ気になっていることがありまして……

[ジュナー] 気になること? 何かしら?

[シデロカ] 教官から見て……私の偵察及び追跡の訓練の出来はどうでしたか?

[ジュナー] 優秀だったわよ、とても。それがどうかしたの?

[シデロカ] 私は、今のままでは不十分だと感じています。人を追跡する際……いつも失敗ばかりしていますので……

[シデロカ] これはつまり、まだ成長の余地があるということでは?

[ジュナー] えっ……と……

[ジュナー] それらの失敗は、極めて特殊なケースよ。いわば例外ってやつね。

[ジュナー] ほら、普段の生活環境と戦場とではまるで別物だもの。戦場でのあなたの追跡能力には申し分なんてま~~ったくないわ。

[シデロカ] そう……でしょうか。

[ジュナー] ええ、嘘じゃないわ。

[シデロカ] ……そのお言葉を聞いて、安心しました。

[ジュナー] うんうん。

[シデロカ] では、生活環境における偵察及び追跡の訓練を申請させて頂けませんか? この方面も勉強しておくべきだと思うんです。

[ジュナー] うんうん……――ん?

[ジュナー] あ、えーっと、それは、そう……ね。

[ジュナー] 他の教官たちと相談する必要があるし、二、三日ほど時間をちょうだい。そうすれば、あなたにも良い提案ができると思うわ。だから今日は宿舎に戻って休みなさい。もう遅いし……

[シデロカ] はい。ありがとうございます、教官。では、お先に失礼します!

[ジュナー] うん、それじゃあね!

[ジュナー] ……

[ジュナー] ……で、あなたはどう思う? ドーベルマン教官。

[ジュナー] 彼女、薄々勘付いてるみたいよ。

[ドーベルマン] 適切なケースを想定して訓練内容を提示すれば、まだ誤魔化しが利く範疇だろう。

[ジュナー] けど、それにも限界ってものがあるんじゃない?

[ドーベルマン] ならば……それまでに解決方法を見出すしかないな。

[ドーベルマン] ……まあ、最も効果的な追跡方法さえ学ばせなければ、こちらにも逃げ道が残されているのは不幸中の幸いだとは思うが……

[ジュナー] 逆に言えば、彼女がそれを知ったが最後、ドクターどころか私たちまで逃げられなくなるってことだけど……ね。

[ドーベルマン] それで、バブルの方はどうなんだ?

[ジュナー] 監視カメラの映像、確認しておいたわよ。

[ジュナー] あなたにもぜひ見ておくべきだわ。

[ジュナー] 帰ってお風呂に入るなり、すぐ部屋に入ったきり出てこないって管理人が言ってたわ。食事さえもルームメイトに運んでもらっていたそうよ。

[ジュナー] 少なくとも数日くらいは、「シデロカ」の名前を聞いただけでガクガク震えちゃうんじゃないかしら?

[ドーベルマン] ……

[シデロカ] 教官、お呼びですか?

[ジュナー/ドーベルマン] !?

[ジュナー] ど、どうして戻ってきたの?

[シデロカ] ドーベルマン教官もいらしたのですか。外勤任務は早くに終わられたのですね。

[ドーベルマン] あ、ああ……ロドス本艦周辺で訓練に最適な場所を見繕っていただけだからな。

[シデロカ] それは何よりです! 実は、明日からでも訓練を始められないか、お伺いしたいと思いまして。

[ドーベルマン] その件についてだが――

[ジュナー] 待ってね、まずは私とドーベルマン教官で相談しないと。

[ドーベルマン] (小声)おい、お前の方が機転が利くだろう。なんとかしてくれ。

[ドーベルマン] (小声)……ジュナー?

[ジュナー] (小声)……実は以前、シデロカさんのことをよく知る人と話したことがあるのだけど……

[ジュナー] (小声)その時、とても建設的な意見をくれたの。まあ、今のシデロカさんの状態には驚いていたみたいだったけど……

[ジュナー] (小声)とにかく、私に合わせてちょうだい。

[ドーベルマン] (小声)ああ、わかった。

[ジュナー] シデロカさん。

[シデロカ] はい!

[ジュナー] 実はね。

[ジュナー] 私たち、話し合っているうちに気づいたのだけど……

[ジュナー] あなたの求めている技術を得るためには、訓練だけでは足りないと思うの。

[ドーベルマン] (小声)おい、突然何を言い出すんだ!?

[ジュナー] (小声)いいから! この場は私に任せて!

[シデロカ] と、言いますと……?

[ジュナー] あなたがドクターの護衛の任に就いた時、よくドクターに逃げられてたわよね。

[シデロカ] うっ……それは……私の不手際です……申し訳ありません!

[シデロカ] だからこそ、私はもっと――

[ジュナー] もっと他の方面からドクターを気にかけてあげないと。違う?

[シデロカ] はい……? それは、つまり……?

[ジュナー] 最近のドクターは体調が良くないみたいじゃない? 寝不足に見えるし、食生活も不規則だし、ちょっとした……本当に軽度だけど、慢性的な病気も患ってるみたいだし……

[ジュナー] 戦闘技術の向上はもちろん重要よ? でも、ドクターの健康を守ってあげるのはそれ以上に重要なことではないかしら?

[シデロカ] ですが……

[ジュナー] 私の言葉の意味、しっかり考えてみて。おやすみ、シデロカさん。

[シデロカ] ……おやすみなさい……教官……

[ドーベルマン] (小声)お前たちクルビア人は全員腹黒なのか?

[ジュナー] (小声)酷い言い草ね。ちょっと知恵が働くだけよ。

[ジュナー] (小声)ほら、グズグズしてないで行くわよ!

[ドーベルマン] (小声)しかし、あれが効くとは到底思えんが……

[ジュナー] (小声)でも、今は考えてくれてるじゃない。その隙にこの場を離れましょう!

[ジュナー] (小声)また訓練の話でもされたら、間違いなく徹夜コース確定よ……

[シデロカ] ……

[シデロカ] ……教官の言う通りだ。

[シデロカ] 私は……

[シデロカ] 私は、ドクターに必要なのは護衛だけだと思っていた……

[シデロカ] ……しかし、それは間違いだった。

[シデロカ] 護衛は雇い主の安全さえ守れればいいと……勘違いしていたんだ……

[シデロカ] 本当はもっとしてあげられることがあるはずなのに……それを考えようともしなかった……

[シデロカ] ああ……そうか……

[シデロカ] 会長様が仰っていたのは、そういうことだったのか!

[シデロカ] 私は食に拘りなどないが……たしかに、たまに贅沢な料理を堪能すれば生活の質は向上するだろう。

[シデロカ] だと言うのに……私は……せっかく来てくださった会長様に対し……あろうことか食堂の料理を勧めてしまうだなんて……

[シデロカ] これは間違いなく……私の配慮不足だった……!

[シデロカ] ドクター、あなたもきっとそう思っていたんだな。

[シデロカ] ただ、鈍感な私にそれを言うのを躊躇っていただけで……くっ!

[シデロカ] ……

[シデロカ] ……よし、決めたぞ。

[シデロカ] ドクターは、私が救ってみせる!

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