aklib_story_痛ましい転機

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痛ましい転機

バベルとの共同任務終了後、レム・ビリトンの採掘エリアに戻ったサベージは、源石採掘員たちの安全を守りながらも、自らの運命が変わる日を待ち続けている。


p.m. 2:03 天気/晴天

アイアンキャロットシティ郊外採掘エリア 26号鉱坑

[レム・ビリトン鉱員] お疲れさま、ヨハンさん。採掘は終わったかい?

[ヨハン] ああ。

[ヨハン] ふぅ……ヘトヘトだ。引っ張り上げてくれよ。

[レム・ビリトン鉱員] へへ、あいにくこっちはまだ服が綺麗なもんで……

[ヨハン] 何を嫌がってんだ。どうせ次の班でお前も下に降りるじゃねえか。

[ヨハン] で、何の用だ?

[レム・ビリトン鉱員] 安全保障員が到着してさ、それで下の状況はどうかって。

[ヨハン] どうもこうもあるか。俺の率いる班が、長年やってきて一度でもしくじったことがあるか?

[ヨハン] あいつらにゃ直接次の班長と引き継ぎをさせとけ。

[ヨハン] 俺は早いとこ、ひとっ風呂浴びてえんだ。もし俺に用があるってんなら、おとなしく待たせときゃいい――

[ヨハン] ……おっと、こりゃあ意外な客だな。

[ヨハン] 小娘じゃねえか。ようやく長旅から帰ってきたのか?

[サベージ] 久しぶりだね、頑固じいさん。

[サベージ] 長旅って……れっきとした仕事だったんだからね。

[ヨハン] わかってるって、細かいことは気にすんな。バベルに駐在して引き継ぎをやって、ついでにでっけぇ仕事をこなしたって聞いてるぞ。

[ヨハン] この二年で、ずいぶん外で見聞を広めたんじゃないか?

[サベージ] そんな大したことじゃないよ……ちょっと別の場所で過ごしてたってだけじゃない。

[サベージ] それに、わたしの仕事は別にそれほど重要な内容でもなかったし。

[ヨハン] フン、相変わらずだな、お前って奴は。

[ヨハン] それにしても、こっちの問題かバベルの問題かは知らねえが、元々うまくやってたのに、突然仕事が終わりになるなんてな。

[サベージ] ……正直言って、わたしにもさっぱり分からないんだよ。

[ヨハン] まあいい。家には戻ったか?

[サベージ] すでに無事は知らせたよ。

[ヨハン] いつ帰ってきたんだ?

[サベージ] 三日前……

[ヨハン] ふん……昔、警備部でお前の同僚だった奴らはみんな出世したぞ。帰任したお前は、今やあいつらの部下ってわけだな。

[ヨハン] しかしこんなに急いで出勤してどうしたんだ? バベルの件は全部片付いたのか?

[サベージ] それは……

[サベージ] ……

[ヨハン] 深刻そうな顔しやがって……何かあったのか?

[ヨハン] 無理に訊く気はないが、言いたいことがあるなら言えばいい。

[ヨハン] それとも、せっかく故郷へ帰ってきて、久々に昔の同僚たちと顔を合わせたってえのに、嬉しくねえのか?

[サベージ] それは……どうかな。

[サベージ] もちろんみんなには会いたかったよ。特に故郷の採掘エリアは一番馴染み深いからね。

[サベージ] だけど……

[サベージ] ……なんだか、あっという間だったなって。

[ヨハン] その様子じゃ、よっぽどいい仕事だったみたいだな。

[ヨハン] それとも、向こうで離れたくない奴でもできたのか?

[サベージ] なっ! そんなのいるわけないじゃん――ただの友だちだよ!

[サベージ] そっ……それに、取り立てて言うほどの仕事だってやってないし。

[ヨハン] だがお前が引き受けた仕事は、相当でかかったらしいじゃねぇか。あの「ブツ」を掘り出すのに、二年間も費やしたんだからな。

[ヨハン] 採掘工たちはみんな、絶対に外で何かあったと思ってるぜ。

[サベージ] 工事量は確かに多かったよ。けど、わたしが担当してたのは普通の仕事だけ。

[サベージ] 今回の契約では、レム・ビリトンからバベルへ送る「ブツ」の安全とスムーズな引き渡しを保証するために、あらかじめ警備員を派遣して対応する必要があった。

[サベージ] わたしたちの会社が採掘した艦船とコアは、「バベル」の手に順当に引き渡されていった――

[サベージ] その中で、わたしは警備員として、一部の業務を任されてた……ただそれだけだよ。

[ヨハン] つまり、お前は本当に何も知らねぇのか?

[サベージ] ハハッ。わたしがどういう人かなんてよーくわかってるでしょ。

[ヨハン] この小娘ときたら……ハァ、相変わらず肝心なところは適当ときたもんだ。

[ヨハン] まぁいいさ。サルカズのことはサルカズで解決すりゃいいんだ! 大事な部分は曖昧にしておくのがいいのかもしれん。

[ヨハン] しかし、もしお前がバベルに惹かれたんじゃないってんなら、他にどんな理由があるんだ? お前のその憂鬱そうなツラにはよ。

[サベージ] ……昔は、採掘場で一生を終えるんだって強く信じてた。

[サベージ] 外のことは何も知らなかったし、関心を持つ必要もなかったから。

[ヨハン] 今回レム・ビリトンを離れて、考えが変わったのか?

[ヨハン] そういや、お前ときたら出発するまで散々行きたくないってわめいてたな。まったく、これだから若いモンは……

[サベージ] は、はは……

[サベージ] じい、わたしね……外で同族の子と知り合ったの。

[サベージ] 分かるでしょ? 周りがサルカズばかりの環境で、健康に成長していくことがどれだけ難しいか。

[サベージ] だけど彼女は、そんな環境を受け入れてた。忍耐と諦めないことを学んで、常に胸に希望を抱いてたよ。

[サベージ] 学びたいこともまだまだあったみたいで、いつもわたしにくっついては色々質問してきたっけ。

[サベージ] わたしが作る料理や、わたしが話すレム・ビリトンの寓話や物語にも夢中になってたなぁ。

[ヨハン] 小ウサギか。どこの出身だ?

[サベージ] レム・ビリトンだよ。だけど、きっと故郷にはもう二度と戻ってくることはない……

[サベージ] ……どうしてこんなに心配になるのか、自分でも分からないんだ。

[ヨハン] はっ、簡単なことだ――

[ヨハン] その子を守りたいんだろ?

[サベージ] ……うん。

[サベージ] あの子を、守りたい。

[サベージ] だけど、今はその時じゃない。わたしには、あそこに留まる理由がないし、あの子を導くだけの実力もないからね。

[サベージ] だから、今わたしがやるべきなのは、レム・ビリトンへ戻って力を付けることだと思ったの。

[ヨハン] つまり、お前は自分の使命を見つけたってわけだな。

[サベージ] そんな大げさなもんじゃないよ。どうせバベルに残ろうと思っても誰も雇ってくれないだろうし、さしずめ哀れな失業者って感じ! あはは……

[ヨハン] お前ってやつはまったく……

[ヨハン] まあいい。とにかく、戻ってきたからには働いてもらうぞ!

[ヨハン] この採掘場じゃ、俺たち鉱員の命はお前ら安全保障員にかかってるんだからな。

[ヨハン] 特にお前が帰ってきたとなれば、仲間たちも安心するだろうぜ。

[ヨハン] 少なくとも今、俺たちはお前を必要としてる。

[サベージ] ……うん。分かった。

[サベージ] 変だよ、じい。今日は随分とおしゃべりじゃない?

[ヨハン] ふんっ! お前は特別だ。今や外を見てきた人間だからな。俺も二度とお前に威張り散らしたりできなくなったな。

[サベージ] ははっ、冗談はやめてよ――

[ヨハン] ……それで?

[ヨハン] あんなに遠いところまで行っておいて、コータスの伝統的な美徳を忘れてる訳じゃねぇよな?

[サベージ] え? 美徳って?

[ヨハン] この小娘! ……土産だ、土産物に決まってるだろうが!

[ヨハン] レム・ビリトンを離れることができねぇ俺にとって、唯一の楽しみが外からの土産だってのに、お前ら若いもんは外に出る機会に恵まれておきながら、俺への土産を忘れちまうなんて……

[サベージ] はは、冗談だよ。忘れるわけないでしょ。

[サベージ] あれこれ何箱分も買い込んで、わざわざ自分で運んで帰って来たんだから。また外に出る機会があるかどうか分からないしね。

[サベージ] はい。じいにはこれ! ヴィクトリアで一番売れてる補聴器だよ。

[ヨハン] わかってるじゃねぇか、そうこなくちゃな! お前と長らくチームを組んできたのも無駄じゃなかったな。

[ヨハン] これがありゃ、孫たちの声もはっきり聴こえるぞ。はぁ、まったく難儀な職業病だ。

[サベージ] はいはい。じゃあわたしは検査に降りるね。

[サベージ] はぁ、懐かしい感覚だなぁ。

[サベージ] 重くて硬いヘルメットと、汗が出ても拭うことすらできない蒸し暑い防護服。

[サベージ] こんな厳しい環境の中で、命の危険を冒してまで採掘し続け、源石と共に生きる……

[サベージ] 仲間たちの生命はすべて、奥へ進めば進むほど深くなるこの鉱坑に消費されていった。

[サベージ] かつては、それがわたしの生活の全てだった。仲間のみんなと同じように。

[サベージ] 今までの日々も、そして未来も、わたしはこうして生きていくの?

[サベージ] だめだめ。あれこれ考えたって意味ないや。しっかり働かなきゃ。少なくとも今は……ヨハンじいのような鉱員たちの命を背負ってるんだから。

[サベージ] ……

[サベージ] でも……どうしても頭に浮かんでくる……

アーミヤちゃん、元気にしてる?

同族がいない環境には、もう慣れた?

わたし……君のことが心配なんだよ。

美味しい故郷の料理を作ってくれる人がいなくなって、ちゃんとご飯は食べられてる?

レム・ビリトンに戻ってから、全然連絡できなくなっちゃった。

アーミヤちゃん……

ドクターとケルシーが、良くしてくれてるよね?

君は、あの人たちの側で強くなって、いつかはきっと自分の使命を持つ。

わたしも……今は、わたしの負うべき責任がある。

だけど、君がわたしを必要とする時は、必ず助けに行くよ。

もし、わたしたちが本当に同じ方向に進んでいるなら、きっとまた会える。

そう信じてるよ。

......

二年後

p.m. 1:34 天気/猛暑

アイアンキャロットシティ郊外採掘エリア 27、28、29号鉱坑

[レム・ビリトン鉱員] は、早く撤退しろ!

[レム・ビリトン鉱員] 粉塵爆発が起こるぞ――

[レム・ビリトン鉱員] う、うわあぁぁ――!

[レム・ビリトン鉱員] 助けてくれぇ、ゴホッ、ゴホッ――

[ヨハン] 落ち着け! 全員酸素ボンベを装着しろ!

[レム・ビリトン鉱員] 助けて、助けてくれぇ――!

......

[レム・ビリトン警備部長] この警報、一体何があったんだ?

[サベージ] 警報レベルマックス――重大事故発生……鉱坑が危ない!

[レム・ビリトン警備部長] 報告しろ!

[レム・ビリトン鉱員] た、大変です! 27、28、29号鉱坑で、活性源石の粉塵爆発が発生しました!

[サベージ] なっ――!

[レム・ビリトン警備部長] チッ……! だから言ったんだ。こんなクソみたいな天気じゃ仕事なんてできないってな!

[レム・ビリトン警備部長] あれっぽっちの産出量のために――

[サベージ] 29号坑……じゃあまさか……!

[サベージ] 現場の状況は? 負傷者はいるの?

[レム・ビリトン鉱員] ほ、崩落した鉱坑内に閉じ込められている鉱員がいます! 負傷者も多数発生している模様!

[レム・ビリトン警備部長] *レム・ビリトンスラング*、サベージ!

[サベージ] 分かってる!

[レム・ビリトン警備部長] よし、任せた!

[レム・ビリトン警備部長] 急いで救援に向かえ! 私は現場を指揮する!

[サベージ] ――総員、防護服装着! すぐに出発するよ!

[サベージ] ハァ、ハァ……

[サベージ] 堀り……当てた!

[サベージ] じい、生きてる? じい!

[サベージ] ――ヨハンじい!

[サベージ] しっかりして! わたしの手を掴んで!

[ヨハン] ゴホッ……!

[ヨハン] うぐっ……痛え……

[サベージ] しっかり握って、じい、まだ助かるから!

[サベージ] 彼を引っ張り出して、早く!

[サベージ] ……起きて、ヨハンじい! 眠っちゃだめ!

[レム・ビリトン鉱員] サベージ、救護テントまでは三百メートルだ!

[サベージ] 一気に走るよ!

[レム・ビリトン鉱員] 了解!

[ロドス医療オペレーター] 大丈夫ですか? 私たちは連合応急医療小隊です。こちらへ――

[サベージ] レム・ビリトン鉱業の警備小隊です。ハァッ、ハァッ……怪我人の救護を……!

[ロドス医療オペレーター] わかりました、すぐに負傷者の収容場所を手配します。

[ロドス医療オペレーター] まずは情報の記入をお願いできますか? それと急いでご家族への連絡を……

[サベージ] 会社がすぐに手配するから、先に治療をお願い!

[ロドス医療オペレーター] えっ?

[サベージ] トーマス、ここに残って情報の記入と各部門への連絡を!

[レム・ビリトン鉱員] 了解!

[サベージ] あとの皆はわたしについてきて。まだ救出を待ってる負傷者がいるから!

[レム・ビリトン鉱員] はいっ!

[サベージ] そうだ、あなたは……

[ロドス医療オペレーター] 私を含む三名は、今回派遣されたボランティアの医療チームです。ロドス製薬から来ました。

[サベージ] (ロドス? 聞いた事のない会社だけど……。)

[サベージ] 分かったわ、ロドスね。じいを……お願い。

[サベージ] ……絶対に彼を救って。

[ロドス医療オペレーター] 全力を尽くします。

[サベージ] よし……行こう、他の負傷者を助け出さないと!

[レム・ビリトン警備部長] よくやった、サベージ。

[サベージ] 人数は合ってる?

[レム・ビリトン警備部長] ああ、行方不明者は出ていない。奇跡的に死体も全員見つかったからな。負傷者十二名、重傷者三名、死亡者――

[サベージ] もういい。

[レム・ビリトン警備部長] まぁ、私が言わずとも、お前ほどはっきり分かってる人間はいないだろうからな……

[レム・ビリトン警備部長] 現場の源石粉塵濃度から見て、恐らく負傷者全員が危険な状態だ。

[サベージ] ……

[レム・ビリトン警備部長] どこへ行く?

[サベージ] 救護ステーション。じいの様子を見てくるよ。

[サベージ] そうだ。今回救助に当たったボランティアの中に、「ロドス製薬」から来たっていう医療関係者がいたんだけど、部長はその組織名に聞き覚えはある?

[レム・ビリトン警備部長] ロドス? ……聞いた事がないな。新しくできた会社じゃないか?

[レム・ビリトン警備部長] 行って状況を見て来るついでに、そのロドスとやらの来歴も調べてくれ。

[ロドス医療オペレーター] お疲れ様です。確かあなたは――

[ロドス医療オペレーター] あ、警備部門の方ですね! 第一波の負傷者を運んでくださった。

[サベージ] サベージよ。負傷者の状況を見に来たの。

[サベージ] ……さっき、ヨハンという名の負傷者を登録したと思うんだけど。

[ロドス医療オペレーター] ヨハンさんですか? ご安心ください、医療オペレーターがすでに応急処置を行いました。

[サベージ] 彼の……状態は?

[ロドス医療オペレーター] はい。源石の結晶が腕と脇腹に刺さったせいで、防護服が破断してしまいました。そこから侵入した源石粉塵の含有量も……

[サベージ] つまり「感染確定」でしょ?

[ロドス医療オペレーター] は……はい。

[サベージ] くそっ! ……やっぱり間に合わなかったか。

[ロドス医療オペレーター] ですが、すでにヨハンさんの応急処置は終わっています。ロドスの薬剤を注射し、他の部位への更なる感染拡大は免れました。

[サベージ] えっ……? あれほどの傷で、しかも活性源石の結晶が直接傷口に刺さったのに?

[ロドス医療オペレーター] あなたの心配は分かります。えっと――

[サベージ] サベージって呼んで。今さっき、あなたたちの薬剤を注射して感染拡大を免れたって言ったよね。それは本当?

[ロドス医療オペレーター] はい、サベージさん。この救護ステーションに運ばれてきた負傷者全員に、負傷レベルと感染レベルに応じた薬を投与しました。

[ロドス医療オペレーター] 出血多量の負傷者はまだ予断を許しませんが、患者の源石感染症状については、基本的にはすでに抑制されています。

[サベージ] 全員抑制されたの?

[ロドス医療オペレーター] はい、全て……何か問題でも?

[サベージ] ……いいえ。ただ、そんなによく効く薬が、鉱員たちにおいそれと使用されることなんてないから。

[サベージ] レム・ビリトンの医療部で使われている廉価品の応急薬だと、すでに感染した人に対する作用はかなり限られてるんだ。

[サベージ] だけどロドスの薬は……

[サベージ] あなたたちはボランティアなんだよね? その応急薬も安くはないでしょう。使用した量もかなりのものだろうし……あなたたちって一体――

[ロドス医療オペレーター] あの……わ、私はそのあたりのことは担当していませんので……

[ロドス医療オペレーター] ですが、ヨハンさんはすでに峠を越えましたので、もう少しすればお見舞いもできるようになりますよ。私が保証します。

[サベージ] でも……一旦感染者になってしまったなら、鉱員たちの運命はもう決まったようなものだよ。

[サベージ] 彼らは、更に安価な労働力になることを強いられる……すでに枯渇した鉱坑で、最も辛く危険な、尾鉱の収集作業にあたる。

[ロドス医療オペレーター] ……すみません。患者さんが運ばれてきたときには、ほとんどの人はすでに……

[サベージ] 謝るのはわたしの方だよ。ごめんなさい。あなたたちは十分やってくれたっていうのに……本当にありがとう。

[ロドス医療オペレーター] お……お気持ちは分かります、サベージさん。

[ロドス医療オペレーター] たとえ傷口がふさがり、鉱石病の感染拡大を抑制できても――

[ロドス医療オペレーター] 一旦感染者になってしまうと、理屈では説得できないレベルにまで凝り固まった、社会の恨みと偏見に晒されるのだと、ケルシー主任から教わりました。

[サベージ] そうだね。たしかにケルシーなら……

[サベージ] ……

[サベージ] ……え?

[サベージ] あの、あなたたちの上司って?

[ロドス医療オペレーター] ケルシー主任です。彼女は、私たちロドスの全医療オペレーターのお手本なんですよ。

[サベージ] ケルシー……主任……

[サベージ] まさか……!

[サベージ] じゃ、じゃあリーダーは? あなたたちの――ロドスのリーダーはなんて名前?

[ロドス医療オペレーター] それは、あの……

[サベージ] 教えて、お願い。

[ロドス医療オペレーター] リーダーは――

[ロドス医療オペレーター] 私たちのトップ、ロドスの現リーダーである彼女の名前は――

[ロドス医療オペレーター] 「アーミヤ」さんです。

[サベージ] ……アー……ミヤ……

[ロドス医療オペレーター] ……すみません、それが何か?

[サベージ] どうしてアーミヤちゃんが……? もし本当に彼女だったとして、歳だってまだ――

[ロドス医療オペレーター] ご存知なんですか? ええ、そうです。私たちのリーダーはとても若いんです。

[ロドス医療オペレーター] ですが……一度アーミヤさんと話せば、彼女が年齢を超越した知恵と強い意志を併せ持っていることがすぐに分かります。彼女は本当に優秀なリーダーなんですよ。

[ロドス医療オペレーター] サベージさんがご存じだったなんて……もしかして、アーミヤさんの古いお知り合いですか?

[サベージ] あ……うん。あの子は私の……昔の親友なんだ。

[サベージ] あ……あなたたちはアーミヤちゃんと連絡が取れるの? わたしの名前を出せば、すぐに分かってくれると思うんだけど。

[ロドス医療オペレーター] そういえば確かにアーミヤさんは、とっても仲のいい友達が、今はレム・ビリトンにいるかもしれないっておっしゃっていました。

[サベージ] 本当に……本当にアーミヤちゃんなんだ……ねぇ、彼女に会うにはどうすればいいの?

[ロドス医療オペレーター] ロドスのトランスポーターと連絡を取ってみます。サベージさん、何か彼女に伝えたいことがあれば――

サベージの耳に届く声が、次第に遠くなっていった。

彼女は戸惑い、そして思いを巡らせている。

この二年の間、サベージはレム・ビリトンの採掘エリアに駐屯し、片時も離れたことはなかった。

彼女は今後の人生を、このレム・ビリトンで心穏やかに過ごすべきなのではないかと考えていた。

しかし今――自身がかつて共に過ごし、思いやってきた者の名が、他人の口から発せられたその瞬間。

サベージの闘志と決心は、いとも簡単に燃え上がった。

そしてサベージは直感した。自分がどのような決断を下すのか……

十五日後

アイアンキャロットシティ郊外 ロドス医療救護所 感染者病室内

[ヨハン] 自分が感染者になったと知った瞬間、「あれ? もしかして死んだ後に貰える補償金がありゃ、家族にもっといい生活をさせられるんじゃねえか?」なんて考えちまったよ。

[サベージ] そんなこと言わないでよ。

[ヨハン] なに、ただちょっと頭に浮かんだだけさ。ハァ……

[ヨハン] 分かるか? 俺がまず考えたのは、一体どんな顔して家族と会えばいいかってことだよ。

[ヨハン] うちの嫁さんと子供は、俺が怒るのが嫌いなんだ。俺の嘆き悲しむ顔なんてもっと嫌いに決まってる。

[ヨハン] だから悲しい顔は見せたくない。けどな……あいつらに会う時に、俺は本当に笑えるんだろうか? ってな。

[サベージ] らしくないよ、じい。

[サベージ] じいが、この辺りじゃ一番楽観的な人だってことは、誰もが知っていることだよ。

[サベージ] じいまでが耳を垂れて家族に会わなきゃならないっていうんなら、他の人たちはどうすればいいの?

[レム・ビリトン鉱員] そうだ、その通りだ!

[レム・ビリトン鉱員] ヨハンさんが浮かない顔をしてたら、俺たちみんなの気持ちもダメになっちまうだろ!

[ヨハン] ふんっ、お前らみてぇに養ってるガキがいねえ奴らには、この辛さは分かんねえだろ。生活していくのも大変なんだぞ。

[レム・ビリトン鉱員] 俺たちの今後の暮らしだって大変さ――

[ヨハン] はぁ……サベージ、こいつらの口を塞いどいてくれ。気が滅入る。

[ヨハン] よし、俺は決めたぞ。このままレム・ビリトンで鉱員を続けても、今後の待遇じゃ家族を養えねぇ……

[ヨハン] 体が動くようになったら、俺たちは思い切ってクルビアへ行って、皆で「大開拓」に参加しよう。

[サベージ] じい……ここを離れるつもり?

[ヨハン] かつての俺は、レム・ビリトン鉱業内で一番勤勉な、一番労働力になる鉱員だった。

[ヨハン] だが、今の俺は感染者だ。残った命がどれだけ持つか知らないが、最期まで、家族に幸せで安定した生活をさせてやる必要がある。

[サベージ] じい、考えたことはある? レム・ビリトンに埋まっている鉱石がすべて掘り尽くされる日まで、この繰り返しの毎日は……

[ヨハン] サベージ。

[ヨハン] 人や世代によって、皆それぞれに背負わざるを得ない使命や責任というモンがあるんだ。

[ヨハン] 俺は今まで、採掘場の鉱員である自分を恥じたことは一度もねぇ。レム・ビリトンにゃ、そんな風に思う奴はいねぇよ。

[ヨハン] だがサベージ……お前はここを離れて、二年前に戻って来てから、考えが変わったんだろう?

[サベージ] ……そうだね。

[ヨハン] お前は小さい頃から、普通のガキじゃあなかった。さっきも言った通り、人にはそれぞれ、自分の使命と責任がある。

[ヨハン] お前のハンマーが俺たちの命を救ってきた。そしてこれからの日々でも、もっと大勢を救うつもりなんだろ。

[ヨハン] もしも守るべき奴がいるなら、ここを離れりゃいい。俺も同じだ。

[サベージ] ……

[ヨハン] ……

[ヨハン] へっ、その顔……本当はもうとっくに決めてたんだろ?

[サベージ] そんな、わたしをレム・ビリトンへの情がない人みたいに言わないでよ、じい。

[サベージ] でも、これはわたしがやらなきゃいけないことなの。

[サベージ] 必ず守らなきゃいけない友達がいるんだ。

[サベージ] やっと……彼女を見つけて、また会えることになったんだ。

[サベージ] たとえ微力だとしても、彼女のために、わたしのすべてを尽くす。

[ヨハン] ふんっ。「すべてを尽くす」価値があるものなんてねぇよ。お前ら若いモンは純粋すぎるんだ。

[サベージ] あはは……じいだって一緒じゃない? 家族のために鉱山に入り、今度は家族のためにこの街を離れようとしているのは誰なの?

[ヨハン] どこが一緒だってんだ? 家族を養うってことはだな――

[サベージ] はいはい。

[ヨハン] ふん……

[ヨハン] で、いつ出発するんだ?

[サベージ] 今日だよ。だから最後にじいに会いにきたんだ。このあとすぐに出発するつもり。

[ヨハン] この二年間、お前のおかげで、俺たちは事故を起こさずに済んだ。

[ヨハン] そして今回、お前は死ぬところだった俺たちを助け出してくれた。心から感謝してる。

[サベージ] そんな事言われたら、名残惜しくなっちゃうよ……

[サベージ] じい、わたしが救った命を大切にしてよ。これからも元気でね。

[ヨハン] 小娘。

[ヨハン] またな。

[サベージ] またね、じい。

[サベージ] (……しばらくお別れだね、レム・ビリトン。)

[サベージ] 待たせてごめんなさい。

[ロドス医療オペレーター] サベージさん、お別れの挨拶は済みましたか?

[サベージ] まったく……じいってば、最後の最後で、もう一度家に戻って真面目に別れを告げてこいだなんて……

[サベージ] 昨日家で両親に挨拶したときに、母さんから「次に帰ってくるときにはきっと良い人が見つかってるわね」なんて茶化されたばっかりなんだよ!

[サベージ] ……わたしはわたしの成すべきことのために行くっていうのに!

[ロドス医療オペレーター] あは……あははは。

[ロドス医療オペレーター] とても……和やかな家庭ですね。

[ロドス医療オペレーター] さて、ロドス本艦と連絡を取って急きょ提出した入職申請ですが、すでに通りました。こちらは招聘契約書です。

[ロドス医療オペレーター] 職務の詳細は登艦後に説明を受けてください。というわけで、ロドスはサベージさんを歓迎いたします。

[ロドス医療オペレーター] それでは……サベージさん、お気を付けて。

[サベージ] ……いよいよ、ついに。

[サベージ] あなたに会える。

[サベージ] アーミヤちゃん、どんな風に成長したの?

[サベージ] もうリーダーにまでなっちゃったなんて。本当にすごいね。

[サベージ] 待っててね、アーミヤちゃん。今、そっちで何があったのか、どんな使命を背負っているかはわからないけど――

[サベージ] 話したいことがたくさんあるんだ。聞いてくれるかな?

[サベージ] この二年間に、あなたとわたしがそれぞれに経験した、楽しかったこと、辛かったこと全部――

[サベージ] 顔を合わせて、心ゆくまで話そうね。

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