aklib_story_名探偵の事件簿其の一

ページ名:aklib_story_名探偵の事件簿其の一

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名探偵の事件簿・其の一

メイは自分が担当する初めての事件で、手がかり不足に頭を抱えていた。しかし、一時的に助手となったハイディに励まされ、諦めずに手がかりを捜索した結果、なんとか犯人にたどり着くことができた。


[???] ブレッド夫人の死亡推定時刻は昨夜、メイドが扉を閉めた後と見て間違いなし。

[???] この荘園は警備が厳しく、三方を人造湖に囲まれているばかりか、荘園と人造湖の間には高い壁まで建てられているという、とても特殊な立地なのだ。

[???] さらに厳重な防犯設備の施された別荘内部ともなれば、誰にも気づかれないように外から侵入することは不可能なのだ!

[???] つまり……

[???] つまり、犯人はこの中にいるのだ!

[太った商人] メイティスさん、そ、それは本当ですか!?

[貴族の女性] 信じられませんわ! わたくしたちの中に、そんな残忍な人殺しがいるとおっしゃいますの?

[金持ちの男性] 冗談はよせ、そんなことはありえない!

[余裕のある女性] ……そこまではっきり仰るということは、もしかして既に容疑者を特定できる証拠を掴んでいるのですか?

[メイティス] え? そ、それは……

[メイティス] こ、コホン! もちろん証拠はあるのだ!

[メイティス] まず一点目、寝室に置いてあったはずの小さな精錬源石のオブジェが事件後に消えていたという、メイドの証言が引っかかったのだ。

[メイティス] 致命傷と見られる頭部の傷跡を見るに、犯人はまさにそれを凶器として使ったのではないかと考えられるのだ!

[金持ちの男性] まさか、凶器を持っている人物が犯人だとでも言いたいのかね?

[貴族の女性] もしそうだとしても、わざわざ犯人が凶器を持ち歩くとは思えませんわ……

[メイティス] 静粛に、静粛に! 私の推理はまだ終わっていないのだ! 探偵の推理はちゃんと最後まで聞くのだー!!

[メイティス] そもそも私がそんな短絡的な推理をするはずなかろう! 今から二点目を説明するのだ。事件現場は散らかっており、被害者の顔と手には大量の血痕がついていたのだ。

[メイティス] そして、頭部の致命傷以外にも、ブレッド夫人の身体には複数の傷跡が見られたのだ。ハイディさん、それが何を意味すると思う?

[ハイディ] そうですね……犯人は被害者ともみ合いになったということでしょうか?

[メイティス] その通り! しかも血が出るほどに激しいもみ合いだったのだ!

[メイティス] となれば、犯人の体には必ず被害者の血痕が付着したはずなのだ。つまり──

[メイティス] 体に血が付いている者こそが、真犯人なのだ!

[メイティス] ハハッ! 私の推理はどうなのだ?

[ハイディ] ……

[太った商人] ……

[貴族の女性] ……

[金持ちの男性] ……

[金持ちの男性] フン、いい加減なことを! 目をかっぴらいてよく見てみろ。この場に血の付いた者などどこにいる!

[メイティス] えっ!? で、でも!

[メイティス] そんなはずないのだ! ありえない……はっ、犯人は絶対にこの中にいるのだ!

[ズィマー] あのな、オマエはアホか?

[メイ] なっ……なんでいきなり悪口を言うのだ! 私の推理に何か不満でもあるのだ!?

[ズィマー] ハッ、悪口じゃねぇ、本当のことを言っただけだ。

[ズィマー] 人生初の事件って話だし、ズバッと解決に導くのなんて期待しちゃいないけど、それにしたって穴だらけの推理すぎんだろ。

[イースチナ] ふむ……確かに。

[ズィマー] ほら、アンナもこう言ってるじゃねぇか。

[メイ] イースチナ! オマエまでそんなことを……!

[イースチナ] 申し訳ありませんが、ここまで聞いた限りだとそう言わざるを得ません。

[イースチナ] メイさんの推理に間違いがあったわけではありませんが、犯人が血の付いた服を着たまま人前に現れるとは思えません。自分が不利になる証拠は必ず処分するはず……

[ズィマー] フツーに考えりゃ誰だってそうするよな。

[メイ] それは……確かにその通りなのだ。

[メイ] 犯人は血まみれで行動するほどバカではないし、荘園にいた者もみんな、体に血の付いた人物など見かけなかったと証言したのだ。

[メイ] フフン。だがしかし、そんなことにはとっくに気付いてたのだ。だから私は──

[金持ちの男性] ほら見たことか! 全員の持ち物を調べても、血の付いた服など出てこなかったではないか!

[金持ちの男性] メイティス・ジェラルディンさん! こんな茶番はそろそろ終わりにしたらどうだ?

[メイティス] そ、そんなはずはないのだ。きっと何かを見逃しているのだ……

[太った商人] しかし結果はご覧の通りですぞ。

[貴族の女性] ええ。荷物検査を拒否する方はいらっしゃいませんでしたし、怪しい物なんて一つもありませんでしたわ!

[貴族の女性] こうなった以上、もはやこの事件は警察にお任せするべきですわ。わたくしたちも帰ってよいかしら?

[太った商人] まったくその通りですよ。既にかなりの時間を費やしてしまいましたし、これ以上はお付き合い致しかねます。

[メイティス] か、帰ってはダメなのだ! もう少しだけ時間がほしいのだ! このまま諦めてしまうわけにはいかないのだ!

[メイティス] 私が絶対に……証拠を、真犯人を見つけ出してみせるのだ!

[メイティス] だからお願いするのだ。もう少しだけ時間を……

[貴族の女性] そんなことを言われても……

[太った商人] はぁ……ハイディさん、あなたの意見は?

[ハイディ] そうですね……

[ハイディ] 皆さん……もうしばらくここに残っていただけませんか?

[メイティス] ……ううっ、ハイディさん!

[太った商人] ハイディさん、まさかあなたまで私たちの中に犯人がいると考えておられるのですか?

[ハイディ] いえ、この中の誰かがこんなに恐ろしい罪を犯すだなんて、もちろん信じたくはありませんわ。だからこそ、探偵さんに証拠を見つけていただき、私たちの潔白を証明してもらいたいのです。

[ハイディ] 今この場を離れてしまったら、もし仮に警察も真実を暴けなかった場合に、世間からどんな邪推をされるかは想像に難くないと思います。

[ハイディ] そういったゴシップに真実性は重要ではありませんから。

[貴族の女性] うーん……それもそうですわね。

[金持ちの男性] 仕方ない。ハイディさんの顔を立てて、もうしばらく待ってやってもいい。

[金持ちの男性] この自称探偵に、一体どんな証拠が見つけられるのか、見せてもらおうではないか!

[メイティス] 「自称」とは失礼な……私は正真正銘の探偵なのだ!

[メイティス] 私は……その、こういう事件は確かに初めてだけど……必ず見事に解決してみせるのだ!

[メイティス] そこの高慢ちきめ! 覚えておくのだ!

[太った商人] ハァ……メイティスさん、あまり気にしないでください。もちろん私たちはあなたのことを信じていますから……

[メイティス] ありがとうございますなのだ! ハールさん!

[メイティス] ……あれ?

[メイティス] ハールさん、そのコートとネクタイは合っていない様に見えるが、もしかしてセットじゃないのだ?

[太った商人] そ、そうですか? 多分出かける時、使用人が合わせるコートを間違えたのでしょう。いやはやお恥ずかしい。

[太った商人] では、これ以上メイティスさんに無駄なお時間を取らせるのも悪いですし、私は一休みいたします。朗報をお待ちしていますよ。

[メイティス] ……

[ハイディ] ほら、ぼーっとしていても事件は解決しませんよ。

[ハイディ] ウィリアム卿は少し横柄な態度ですが、それでも協力的だと考えていいと思いますよ。

[ハイディ] メイティスさんは、ウィリアム卿が犯人だと疑っているのでしょうか……?

[メイティス] そういうわけではないのだ……

[メイティス] ……疑っている相手は別にいるのだ。

[メイティス] それより……調べてほしいと頼んでいた件だが、結果はどうだったのだ?

[メイティス] 部屋の捜査も空振りに終わり、まったく犯人を特定できないこの状況では、信用できるのは依頼人のハイディさんだけなのだ!

[メイティス] そう、つまりそういうことなのだ! 喜ぶがいいぞ、ハイディさんこそが私の初代助手なのだ!

[ハイディ] ……光栄ですね。

[ハイディ] でも、実は依頼人が犯人だという可能性もありますよ?

[メイティス] えっ? も、もちろんなのだ! その可能性は忘れていないのだ!

[メイティス] ハイディさんにはアリバイがあるとはいえ、私は油断など決してしていないのだ!

[メイティス] 探偵がこうやって容疑者を信用するフリをするのは、相手を油断させるための手段なのだ……そう、ただそれだけのことなのだ!

[ハイディ] フフッ、分かりました。じゃあ私は疑いを晴らすために頑張らないといけませんね。

[ハイディ] それで、私の調査結果を聞きますか、探偵さん?

[メイティス] もちろん──聞かせてもらうのだ!

[メイティス] 荘園内部の調査結果はどうだったのだ? 誰かが勝手に厨房に入ったり、夜に暖炉を使ったりした痕跡はあったのだ? あるいは他に火をつけられそうなところは──

[ハイディ] 残念ながら、私が調べた限り、答えはいずれも「ない」です。

[ハイディ] 厨房には常に複数の使用人がいたそうで、全員が誰も出入りしていないと証言しました。また、すべての部屋の暖炉には火をつけられた痕跡もなく、誰かが物を燃やしたようには見えませんでした……

[メイティス] つまり、相変わらず手がかりは何もなしということなのだ?

[メイティス] そんな……

[メイティス] だが、犯人はどうにかして証拠隠滅するに決まっているのだ。となれば、一番シンプルに燃やしてしまった可能性が高いのだ!

[メイティス] いや、ひょっとして……アーツを使ったのかもしれないのだ!

[メイティス] アーツを使えば、道具を使わずに証拠を燃やせてしまうのだ……もしそうだとすれば、証拠を見つけるのはさらに困難なのだ!

[メイティス] いや、違う……精錬源石で作られたオブジェはそう簡単には燃えないのだ。絶対に何か痕跡が残るはずなのだ!

[ハイディ] しかし、荘園の中はもう隅から隅まで調べましたよ。

[メイティス] その結果、何も見つけられなかった……

[メイティス] (凶器さえも見つけられないとなると、この事件は一体どうやって解決すればいいのだ?)

[メイティス] (……やっぱり私一人では無理なのか……)

[ハイディ] ……メイティスさん、もう諦めるのですか?

[メイティス] 違うのだ、諦めないのだ!

[メイティス] 私はただ……

[ハイディ] 証拠を消されたら、もう希望はないとお考えなのでしょうか?

[メイティス] 確かに手がかりは見つけられなかったのだ……

[メイティス] (ハイディさんはきっと依頼人としてがっかりしてるだろうな。)

[メイティス] (ううっ、まずいのだ。涙がこぼれそうなのだ……出るな、引っ込むのだ!)

[メイティス] ほ、本当に、申し訳……ないのだ。私で不満なら、その、もっと経験豊富な探偵にコンタクトしてみることもできるのだ!

[メイティス] でもその前に、もうだけ少し時間が欲しいのだ!

[メイティス] 私が絶対……何が何でも見つけるから……まだ私を見捨てないでほしいのだぁぁ……グスン……

[ハイディ] ……

[ハイディ] 私は見捨てるとも依頼相手を変えるとも言ってませんよ。

[メイティス] ……えっ?

[ハイディ] メイティスさんはまだまだ新人ですが、一生懸命手がかりを探す様子を見ていると、立派な探偵になる素質があるように思えます。

[ハイディ] 手がかりの一つや二つがなくなったとしても、きっと他の切り口があるはずです。

[ハイディ] 真実は変わることなく、いつもそこにある――そうでしょう?

[メイティス] 真実はいつもそこにある……

[メイティス] ……「犯罪を働けば必ず痕跡が残る」……

[ハイディ] その通りです!

[ハイディ] 今はきっと一時的に捜査が停滞しているだけですよ。私が期待を寄せる探偵さんは、そんなことではへこたれないはずです。

[メイティス] で、でも私はまだ名もない探偵だし、こんな大事件は初めてだし、ううっ……わ、私では……

[メイティス] 私一人では……

[ハイディ] うーん、そうでしょうか? ……私が依頼した相手は、自信満々な探偵さんだったはずですけどね。

[ハイディ] それに、一人なんかじゃないでしょう?

[メイティス] どういう意味なのだ……?

[ハイディ] あら、私が探偵さんの初代助手ではなかったのかしら?

[ハイディ] メイティスさんがそう言ったんでしょう。こんな早く取り消すのは無しですよ。

[メイティス] ……ううっ……

[メイティス] うわあああんハイディさあああん……!

[メイティス] もちろんなのだ! 私はいずれ、誰もが知る名探偵になるのだ! その時には、ハイディさんも私の初代助手として脚光を浴びるに違いないのだ!

[ズィマー] うわっ、キモっ。鳥肌が立ったぜ。

[イースチナ] ソニア、言い過ぎですよ。食事中に聞くのには向いていないやり取りというだけです。

[ズィマー] それ、アタシが言ったことと変わんなくね?

[ズィマー] つーか、犯人はどう考えてもデブった商人だろうが? なんのひねりもねーじゃねぇかよ。

[メイ] 二人で私をバカにして! ひどいのだ!!

[メイ] さっきのところは、この事件において二番目に感動的なエピソードなのだぞ!! 落ち込む探偵と、それを優しく励ます助手の心温まる姿と言ったら……

[メイ] 涙がちょちょ切れない者などいるはずないのだ!!

[イースチナ] ふむ……そうですね、確かに感動的なシーンのはずです、多分。

[イースチナ] 探偵と助手の掛け合いを売りにした小説は数多くありますからね。広く読まれている定番の作品もほとんど、互いを引き立て合う探偵と助手が描かれているものです。

[メイ] その通りなのだ! ヘヘんっ……

[イースチナ] ……

[イースチナ] (片割れの探偵がこの有様では、文学性などあったものではありませんけどね。)

[ズィマー] つーかその助手とはそれっきり会ってねぇんだろうが。いつも助手を取っかえ引っかしやがって、こないだなんかは勝手にスカイフレアのお嬢様を七代目助手に任命してブチ切れられてただろ。

[ズィマー] ホント焼き殺されなくてよかったな。そのハイディとやらも、適当に励ましてただけで、感動してたのはオマエだけじゃねえのか!?

[メイ] ふん、そんなわけないのだ! 探偵と助手の深い絆は、オマエなんかには分からないのだ!

[ズィマー] へいへい、アタシにゃ分からねぇよ。つーか鬱陶しくてメシもゆっくり食えねえから、さっさと最後まで話しやがれ。

[メイ] 続きはまぁ、もちろんこの私が立ち直り、大活躍したのだ……

[メイティス] ふむ、現場は前に調べた時と変わっていないのだ……

[メイティス] (現場は何度も調べたのだ。これ以上やっても、たぶん新しい手がかりは出てこないのだ。)

[メイティス] (他を当たってみるのだ。)

[メイティス] うーん。

[メイティス] (ここにもない……それもそうか。血の付いた重要な証拠品をこんな見つかりやすいところに捨てるわけがないのだ。)

[メイティス] くっ! 痛たた……

[メイティス] 頭がテーブルの角に……

[メイティス] ……

[メイティス] (ない。ない。ここも異常なしなのだ。)

[メイティス] (おかしい、どこか見逃しているに違いないのだ……けど、いったいそれはどこなのだ?)

[メイティス] (まさか本当にすべての証拠を完全に消されたとか……)

[メイティス] ……

[メイティス] いやいや! そんなはずがないのだ!!

[メイティス] 犯罪を働けば必ず痕跡が残るのだ! この私の目を誤魔化せはしないのだ!!

[メイティス] (ここが最後のエリアなのだ。もしここにもなかったら……)

[メイティス] (閉ざされた荘園の中で、完全犯罪なんて本当に可能なのだ?)

[メイティス] (……あれ?)

[メイティス] (窓越しに見えるあれは……)

[メイティス] (荘園を囲んでいる……人造湖?)

[メイティス] (ちょっと待つのだ、この高さからも人造湖が見えるなら、事件現場からも見えるはずなのだ!)

[メイティス] この辺……この位置からならきっと!

[メイティス] やっぱり見えるのだ!

[メイティス] ここの部屋は別荘周囲の塀より高い場所にあって、窓は外の人造湖に向いているのだ!

[メイティス] やっと見つけたのだ……

[ハイディ] 待ってください……ふぅ……メイティスさん、急に慌ててどうしたんですか……

[メイティス] ハイディさん!

[ハイディ] ええ、何でしょう。

[メイティス] 手がかりが見つかったのだ! ついに見つけたのだ!

[メイティス] 答えは火ではなく、水だったのだ!

[メイティス] 私の推理通りならば、証拠はあの下に眠っているはずなのだ……あれを見るのだ!

[ハイディ] あれとは……人造湖ですか?

[ハイディ] つまり、犯人は血の付いた服を脱ぎ、荘園の外にある人造湖に投げ捨てたということですか?

[ハイディ] 確かに……人造湖は荘園の外なのでまだ未捜索です!

[ハイディ] でも……

[メイティス] ふっふっふ……服みたいにヒラヒラしたものをあんな遠くまで投げるのは不可能だと、そう言いたいのだろう?

[メイティス] だが、よく考えてみるのだ。私たちが探していたのは、血塗れの服だけではなかろう!?

[ハイディ] ……!

[メイティス] そう。凶器も、なのだ!

[メイティス] 怪しい人物の目撃情報なかったのは、犯人が事件現場を離れた時にはもう血の付いた服を着ていなかったからなのだ!

[メイティス] そして、凶器が見つからないのは、血塗れの服にくるまれて、一緒に湖に投げ込まれたからなのだ!

[メイティス] これで、すべてのつじつまが合ったのだ!

[ハイディ] しかし……もしすべての証拠が湖に沈んだのなら、見つけ出すのはそう簡単じゃないかもしれません……

[メイティス] ハハッ! 「そう簡単じゃない」程度であれば、この私を煙に巻くことなどできないのだ!

[メイティス] あの人造湖をひっくり返してでも、絶対に証拠を見つけ出して犯人を確保してやるのだ!!

[ズィマー] ……

[イースチナ] ……

[メイ] こらこら! 今のシーンはクライマックスなのだぞ!? もっと盛り上がるのだ!

[メイ] せめて拍手くらいしてもいいだろう! だんまりなんてひどいのだ……!

[イースチナ] ……

[イースチナ] (無言で拍手する)

[ズィマー] もったいぶってねぇで続きは?

[ズィマー] ここで終わりってわけじゃねぇだろ?

[メイ] あ、ああ……もちろん続きはあるのだ! そ、それから私が無事立ち直り、大活躍したのだ……

[ズィマー] そのセリフはさっきもう聞いた。

[メイ] 細かいことは気にしちゃダメなのだ! まさかオマエは私の事件捜査大冒険記にケチをつけるつもりなのだ!?

[メイ] とにかく、この物語のエンディングは──

[貴族の女性] もう十分でしょう? 一体いつになったらわたくしたちを解放してくれるの?

[金持ちの男性] バカバカしい! 皆さんは本気でこんな小娘の探偵ごっこを信じているのか?

[太った商人] メイティスさん、そろそろ証拠を出してもらわないとその……話にならないのでは……

[メイティス] フッフッフ……

[メイティス] フフッ、フフフフ、ハッハッハッ!

[金持ちの男性] な、何が可笑しい!

[メイティス] 何がだって? もちろん犯人の愚かさがなのだ! ここまで来て、まだ私の目を誤魔化せると思い込んでいるとは笑止千万……

[メイティス] 犯罪を働けば必ず痕跡が残るのだ。そしてそれを見つけるのは、探偵の仕事であり──

[メイティス] 証拠はもう掴んだのだ!

[貴族の女性] 本当ですの!?

[太った商人] ……

[メイティス] 長らくお待たせしてしまって申し訳ないのだ。だが、今回の事件は間もなく幕を閉じる……さあ、見るがよい! これこそが、犯人に繋がる重要な証拠なのだ!

[貴族の女性] これは……ハールさんが先日着ていたコートのようですね。どうしてこんなびしょびしょになっているのかしら?

[貴族の女性] ……! このシミは、もしかして血痕!?

[金持ちの男性] それに精錬源石のオブジェまで……これが例の凶器なのか!?

[ハイディ] どうやら間違いなさそうですね。ハールさん、ご説明いただけませんか?

[太った商人] ご、誤解です!

[太った商人] 私はただ、えっと……その……

[メイティス] 無駄なあがきはやめるのだ!

[メイティス] ふんっ、この私を舐めたらこうなるのだ! 確固たる証拠を突きつけられた以上、おとなしく捕まるのだ!!

[貴族の女性] 驚きましたわ……どうやって見つけたのか想像もつきません……!

[金持ちの男性] フン、どうやら探偵としての腕は確かなようだな……こうなれば認めざるを得まい!

[貴族の女性&金持ちの男性] さすがは名探偵!

[太った商人] くそっ……おのれ探偵め!

[太った商人] このまま捕まってたまるものか!

[メイティス] 逃さないのだ! 喰らえ!

[メイティス] えいっ! ハッ! てやー!

[太った商人] ぐはっ!

[メイティス] ホールドアップ! フリーズ、なのだ!

[メイティス] この名探偵に解決できない事件なんてないのだ!

[メイティス] ハールさん。

[メイティス] この事件の犯人は──オマエなのだ!

[ズィマー] 待て待て――!!

[ズィマー] おい! どう考えてもこの展開はおかしいだろ!!

[ズィマー] なんでいきなり犯人を暴くところになんだよ! 終わり方も雑すぎるし、他の連中から認められたところだって、絶対オマエがでっち上げただろ!?

[メイ] なななにがおかしいというのだ! 一同が私の雄姿に感服して褒めちぎるくらい……当然のことなのだ!

[メイ] ズィマー、いい加減にするのだ! それはこの名探偵に対する侮辱行為なのだ!

[ズィマー] ハッ、オマエが名探偵だって言うなら、アタシは警察のトップにでもなれちまうぜ。

[ズィマー] 途中まではまあまあだったが、終盤はあの『容疑者イリイチの死』よりもお粗末だぜ……

[メイ] こ、このぉ! フンッ、オマエでは話にならないのだ!

[メイ] イースチナ! オマエなら理解してくれる……のだ?

[イースチナ] ふむ……

[イースチナ] ソニアは少々言い過ぎですが、確かに説明が不十分な点がいくつもあります。

[イースチナ] 例えば、すべての証拠が確実に湖の底まで沈むように、犯人は精錬源石のオブジェを返り血の付いたコートでしっかりと解けないように包んでいたはずですよね。

[メイ] うんうん、その通りなのだ!

[イースチナ] となると、ひとかたまりになって湖の底に沈んでいる証拠を短時間で見つけるのは、容易いことではないと思います。

[メイ] それは……むぅ、確かにかなり時間はかかったのだ。私も何日も泥にまみれて、最後は警察も捜索に加わってくれて、やっと見つけることができたのだ……

[ズィマー] じゃあオマエがいなくても見つかってたんじゃねぇかよ。

[メイ] 私には湖に繋がる手がかりを見つけた功績もあるのだ!! しかも三日間もかけて湖の底を必死で探したのだぞ! 最後に証拠を発見したのだって私なのだ!

[メイ] ちょっと時間が掛かりはしたが、ちゃんと犯人を暴いたんだからよいのだ!

[イースチナ] それからもう一つ。

[メイ] え、ええ? まだ何かあるのだ!?

[イースチナ] 今回はたまたま証拠が残っていましたが、もし犯人が本当にアーツを使って証拠隠滅を図っていたらどうしましたか?

[メイ] それは……ううう……実は、それはよくあることなのだ。

[メイ] その可能性が疑われる場合、一般的には警察がアーツを使用した犯罪に対するいろいろな検証を行うものなのだ……

[ズィマー] はぁ? そりゃ尚更オマエがいてもいなくても変わんねぇだろ。

[メイ] うるさいのだ!!

[イースチナ] 他はともかくとして、おバカな探偵と賢い助手のプロットはそこそこ面白かったと思います。

[イースチナ] そのハイディさんとは、それ以来会っていないのですか?

[メイ] 「他はともかく」ってどういう意味なのだ……

[メイ] その事件が解決して間もなく、私はあの怪しいペンギンに出会ったのだ。それからそいつを追って、潜入調査を開始して――

[メイ] って何でもないのだ! 私は何も言ってないのだ!

[メイ] (小声)しーっ! 潜入調査の話は聞かなかったことにしてほしいのだ!

[ズィマー] (小声)……マジで誰にもバレてねぇと思ってんのか?

[メイ] ゴホンッ。とにかく、その後ハイディさんには一度も会っていないのだ。

[メイ] だが心配無用なのだ。この名探偵の初代助手を担った人物である以上は、ハイディさんもどこかで大活躍していることだろう!

[メイ] 私が名探偵として名を轟かせたあかつきには、きっとまた会えるはずなのだ!

[メイ] 今はまず、この名探偵の大きな一歩として──

[メイ] あの金のネックレスをした小太りペンギンの犯罪の証拠を掴んでみせるのだ!

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