aklib_story_夜の艦内遊覧

ページ名:aklib_story_夜の艦内遊覧

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夜の艦内遊覧

マウンテンは服についていた銅のボタンを失くしてしまったことに気付く。しかし新たな友人であるシャオヘイが、幸いにもボタン探しに役立つ能力を持っていた。


[シャオヘイ] 師匠、ここどこ? 真っ暗で何も見えないよ……

[ムゲン] 心配するな、私がついている。

[シャオヘイ] ねえ、ここには何しに来たの? ひょっとして、何か新しい技でも教えてくれるとか!?

[ムゲン] ……シャオヘイ。大自然の霊を感じ取るとき、五感に頼りきっていてはならない。

[ムゲン] 一時的にお前の視覚を遮ったのは、周囲にある金属の気配をより感じ取りやすくするためだ。

[シャオヘイ] うーん、でも難しいなぁ、何も見えないんだもん……

[ムゲン] とにかくやってみよう。今私は金属の玉を持っているんだが、感じ取れるか?

[シャオヘイ] うん……ぼんやりとだけど、一応感じ取れるよ!

[ムゲン] よろしい。では私はこのままお前の周りを歩くから、お前は金属の気配を頼りに私を捕まえるんだ。あまり遠くには行かないから心配する必要はない。

[シャオヘイ] もし上手くできなかったらどうしたらいい?

[ムゲン] 焦らずゆっくり学んでいこう。では、始めようか。

[シャオヘイ] わかった! ……うーん、左にいるっぽい?

[シャオヘイ] こっちじゃないか……後ろかな?

[シャオヘイ] 捕まえた!? 違う、こっちでもない……

[シャオヘイ] (落ち着け僕、うーん……ここだ!)

[シャオヘイ] ちぇっ、また間違えた!

[シャオヘイ] ねえ師匠、どこにいるの!? やっぱりまだできないよ……難しすぎるってば!

[シャオヘイ] 師匠、なんとか言ってよ……

[シャオヘイ] 師匠、どこ行っちゃったの……?

[シャオヘイ] 師匠!?

[シャオヘイ] ニャオーーン!

[シャオバイ] んん、ふあー……シャオヘイ、どうしたの? 悪い夢でも見た?

[シャオヘイ] ミャ?

[シャオバイ] よしよし、私がいるから大丈夫だよ。

[シャオヘイ] ミィ!

[シャオバイ] さ、もう一回寝よ?

[シャオヘイ] (シャオバイの手をなめる)ミャウ。

[シャオバイ] 私がいるから……だいじょう……スゥ……

[シャオヘイ] (寝ちゃったかな?)

[シャオヘイ] (んん……全然眠れない……)

[シャオヘイ] (外でも散歩してこよっと。)

[シャオヘイ] ここ最近ずっと師匠の夢を見てるなぁ。

[シャオヘイ] いつになったら帰れるんだろ……もうこっちに来てからかなり経ってるし、師匠も僕のこと探してるだろうな。

[シャオヘイ] アグンとシャオバイも、お父さんやお母さん、それからおじいちゃんに会いたいと思ってるだろうし……

[シャオヘイ] 早く戻る方法を見つけないとね。

[シャオヘイ] さて、あんまり遅くならないうちに帰って寝なきゃ……だけど……ここ、どこ?

[シャオヘイ] もしかして僕……迷子になっちゃった?

[シャオヘイ] ゼェ……ハァ……疲れた。

[シャオヘイ] って元の場所に戻ってる!?

[シャオヘイ] あーもう! この船広すぎ! お陰でどうやってここまで来たかわからなくなっちゃったよ!

[シャオヘイ] しかもこんな夜中だから、道を聞ける人なんていないし。

[シャオヘイ] うわっ、まさかケンカ!? それとも悪いヤツが入ってきたの!?

[シャオヘイ] だったら、僕が懲らしめてやらないと。

[シャオヘイ] 物音が聞こえてきたのはこの部屋だけど……

[シャオヘイ] ここって……いつもオペレーターたちが訓練してる場所だよね? あれは……フーさん!?

[シャオヘイ] ……なわけないか。フーさんはあんな服着ないしね。

[マウンテン] 日が昇るまでに、あと四セットはシャドーをこなせそうだ。

[マウンテン] フッ! フッ! ワンツー! ストレート!

[マウンテン] グオオオオ!!! もういっちょおッ!

[シャオヘイ] すごいパンチだ……少し殴っただけでサンドバッグがぐにゃぐにゃにしなってる。

[シャオヘイ] 僕とどっちが強いかな……

[マウンテン] (耳をピクリとさせる)ん……

[マウンテン] (素振りを止めて振り向く)誰だ!?

[マウンテン] ……フェリーンの子供? ロドスの患者さんですか?

[シャオヘイ] ううん、僕もオペレーターだよ。

[マウンテン] その若さで……? いやはや信じがたい……作戦ではどういった役割を任されているのですか?

[シャオヘイ] ……僕を甘く見るなよ。信じらんないなら、今ここで勝負したっていいぞ。

[マウンテン] やめておきましょう。私の拳は手加減できそうにありませんので。

[シャオヘイ] 手加減なんていらないよ!

[マウンテン] しかしそれは……あまりよろしくはないかと。端から見れば大人が子供をイジメてるように映るでしょうし……

[シャオヘイ] やってみなきゃ分からないでしょ?

[マウンテン] (しっかりした構えだ。足腰も安定している。どうやら少しは腕に覚えがあるようだが……まあいいだろう、子供のトレーニングということで少し付き合ってやるか。)

[マウンテン] では坊や、怪我には充分気を付けるのですよ。

[シャオヘイ] そっちこそ!

[マウンテン] フッ──

[マウンテン] まさかその齢でこれほど俊敏な動きができるとは……私も拳速には自信があるのですが、どれも有効打には至っていません。

[シャオヘイ] (汗を拭う)

[シャオヘイ] お前の攻撃もすごいね、避けるのがギリギリってとこだったよ。

[マウンテン] ハハハ! どうやらこの船には、すごい実力を持ったオペレーターがまだまだたくさんいるようですね。それにしても、どうしてこんな遅い時間に訓練室へ?

[シャオヘイ] 眠れなかったから散歩してたんだけど……まだあんまりここに慣れてないし、迷子になっちゃって……帰り道を探してたら、ここから物音が聞こえて来てみたんだ。

[マウンテン] なるほど。慣れていないということは、まだこちらに来られて日も浅いのですね。確かにこの船は巨大で複雑ですから、道を覚えるのもひと苦労でしょう。

[マウンテン] しかし眠れないとはまたどうして……?

[シャオヘイ] えっと……ずっと考え事をしててさ。

[マウンテン] (今時の子供というのは、この年齢でもう色々と悩み事を抱えているのか?)

[マウンテン] ふむ……とは言えあまり遅くなるのもよくありませんし、今日はここまでにしましょう。私が宿舎まで送りますよ。

[マウンテン] ……おや?

[シャオヘイ] どうしたの?

[マウンテン] 服のボタンが一つ取れてしまっていたようです。

[シャオヘイ] ボタン? じゃあ新しいのを付けなきゃね。

[マウンテン] いえ、あのボタンはもう生産されていないんです。新しいものはもう手に入らないでしょうね。

[シャオヘイ] じゃあ違うのに変えたら?

[マウンテン] そうしたいところですが、あれは私にとって特別な意味を持つものなんです。父がよく好んでジャケットに合わせていたボタンで……紛失したとなると残念です。

[マウンテン] とりあえず先に宿舎まで送りましょう。ボタンは明日にでも落ちていそうな場所を探してみることにします。

[シャオヘイ] そんなに大切なものなの?

[マウンテン] ええ、このボタンを見ていると父を思い出しますので。

[シャオヘイ] そのボタンって……金属製?

[マウンテン] はい。

[シャオヘイ] なら探すの手伝ってあげるよ! 僕は金属を探知できるんだ。もし近くにあれば、絶対に見つけ出せるから。

[マウンテン] なんとも珍しいアーツが使えるのですね……しかし坊や、やはり今日は戻って休みましょう。もし明日探してみても見つからなかった時にはお願いするということで、いかがです?

[シャオヘイ] 僕なら大丈夫だよ。まだまだ元気だし、戻っても目が冴えて眠れないから。

[マウンテン] なるほど……ではお願いしましょうか。ああ、私はアンソニー・サイモン。以後お見知り置きを。「マウンテン」とコードネームで呼んでいただいても構いません。貴方のお名前は?

[シャオヘイ] 僕はシャオヘイ!

[マウンテン] シャオヘイさんですね、よろしくお願いいたします。では早速探しに行きたいところですが、少々心当たりの場所が多いので、抱っこしてお連れしましょうか?

[シャオヘイ] そんなのいいよ。僕、子供じゃないし。

[マウンテン] ハハハ! そうですか、分かりました。では、はぐれてしまわないように、しっかりと付いてきてくださいね。

[マウンテン] 今朝ここで読書をしていたので、もしかすると本棚の辺りに落ちているかもしれません。何か感じ取れますか?

[シャオヘイ] うん……なんか小っちゃくて丸っこいのがある。

[シャオヘイ] (手を伸ばして拳を握りしめる)

[シャオヘイ] あれ? ボタンじゃなくてコインだった。いる?

[マウンテン] これは……ゲームコインですね。私は不要ですので、テーブルに置いておきましょう。他にも何か探知できますか?

[シャオヘイ] ……ないみたい。ごめん。

[マウンテン] お気になさらず。……シャオヘイさん、こちらにあるゲームで遊んだことはありますか? オペレーターたちの娯楽用に後方支援部が様々なカセットやディスクを仕入れているようで人気なんですよ。

[シャオヘイ] ゲームはあんまりやらないんだ。マウンテンは?

[マウンテン] 私も今ではあまりやりませんね。ここに来るのもほとんど本を借りるためですし。本にご興味は?

[シャオヘイ] ……本も読まないなぁ。字が全然わかんないから。

[マウンテン] 読んでみたいですか?

[シャオヘイ] 読みたい! でも……

[マウンテン] 確かここに子供の教育用の絵本が……あったあった、こちらはどうです?

[シャオヘイ] うーんと、絵ばっかりの本? ありがとう……

[マウンテン] 真面目に読みさえすれば、文字であろうが絵であろうがきっとためになりますよ。

[マウンテン] よし、ではこちらの本は借りることにして、次はラナさんの庭園に行きましょう。昼間に物を運んだので、その拍子に取れてしまったのかもしれません。

[シャオヘイ] わかった。

[キララ] ……行ったかな? 誰とも会わないようにわざわざ夜中に来てるってのに、まさか人が入ってくるなんて。

[キララ] もう、戻ってこないよね……?

[キララ] よし、セーブポイントから再開だ。えーっと……装備を変更っと、このステージのザコ掃除には弓一択だけど、ボス戦は近接武器の方がいいんだよなー……どうしよ?

[キララ] (コントローラーを置く)

[キララ] はぁ……勇気を出して挨拶してみればよかったかな……

[マウンテン] これは運がいい! 満開のゲッカビジンに出くわすとは。

[シャオヘイ] キレイなお花だね。それに柔らかくていい香りがするよ。

[シャオヘイ] (思いっきり息を吸う)

[シャオヘイ] よし……それよりボタン探すんでしょ? ここになかったら他も行かないといけないから、早く調べちゃおう。

[マウンテン] そう急がなくても大丈夫ですよ。シャオヘイさん、ここが気に入ったのなら、しばらく植物を眺めていきましょう。

[シャオヘイ] いいの?

[マウンテン] もちろん。

[マウンテン] ここはラナさんが丹精込めて作り上げた庭園でして、植えてある花のほとんどが彼女の調香素材です。もしまた眠れないようなことがあれば、入眠用のアロマを注文してみてはいかがでしょうか。

[シャオヘイ] ふーん……ラナさんってあそこに立ってる男の人?

[エンカク] ……

[マウンテン] あれは恐らくラナさんに花摘みを頼まれたオペレーターでしょう……ゲッカビジンは夜にしか花を咲かせませんから、摘みに来るのはこの時間でなければならないんです。

[シャオヘイ] へぇ〜、あの長い剣で刈り取るのかな。きっと切れ味も抜群なんだろうね。

[シャオヘイ] それにしても……

[シャオヘイ] (このゲッカビジンってお花、すごく人を惹きつける匂いがする。食べられるのかな……一口くらい食べても平気だよね?)

[シャオヘイ] あーん──

[エンカク] ……おかしなガキだ。文字通り「花を味わう」とはな。

[シャオヘイ] おかしくなんかないよ! ……この花って食べられないの?

[マウンテン] 失礼、若者の柔軟な考えはなかなか読めないものです。どうかお気になさらぬよう。

[エンカク] 勝手にするがいい。だが俺の邪魔だけはしてくれるな。

[シャオヘイ] じゃあ仕事の邪魔にならないようにちょっと離れとくよ。

[エンカク] 違う、別に仕事をしているわけじゃない。

[エンカク] 俺はここで、命が儚く散りゆく一瞬にのみ広がる絶景を待っているだけだ。まばたき一つで見逃してしまわないように、神経を研ぎ澄ませておく必要がある。

[シャオヘイ] うーん……よくわかんないや。

[マウンテン] おそらく、ゲッカビジンはほんの数時間しか花を咲かせないため、儚く散ってしまう前に心ゆくまで鑑賞すべきと仰っているのでしょう。

[シャオヘイ] そんなちょっとしか咲かないの? じゃあ食べるのはやめて、僕もカンショウしておくよ。

[エンカク] (首を振る)やれやれ、これだからガキは……

[シャオヘイ] ねえマウンテン。あの人……たぶん剣術の腕とかすごいよね?

[マウンテン] ハハハ、まさか手合わせしたいのですか? くれぐれもここではやめてくださいね。自分の庭園で争いごとなんて、ラナさんが見たら心を痛めると思いますので。

[シャオヘイ] 分かってるよ……それじゃ、次の場所に行こう。

[シャオヘイ] あ、ちなみにさっきのとこ、今度シャオバイとアグンも連れていっていい? 二人は僕の友達なんだけど、キレイだったから見せてあげたくて。

[マウンテン] もちろんです。ラナさんの庭園は皆さんに開放されていますので、いつでも訪ねてみるといいですよ。

[マッターホルン] おっと、マウンテンさんでしたか。こんな時間に食堂にいらっしゃるとは珍しいですね。てっきりまたイーサンかと思いましたよ……ところでそちらの方は?

[シャオヘイ] 僕はシャオヘイ、マウンテンのボタンを探してあげてるんだ。

[マウンテン] 実は服のボタンを失くしてしまいまして、今日行った場所をしらみつぶしに探しているんです。何かそれらしきものは見かけませんでしたか?

[マッターホルン] すぐには思い出せませんね……掃除の際に見つけた落とし物ならそちらのボックスに入れてありますので、確認してみてください。

[マウンテン] わかりました。ありがとうございます。

[マッターホルン] いえいえ。

[シャオヘイ] ねえマウンテン、ここに金属のものはないみたいだよ。

[マウンテン] そうですか……こちらに来た後は、シャオヘイさんと会うまで訓練室にこもりっきりでしたから、ここにもないとなると……

[シャオヘイ] じゃあもう一周調べ直してみようよ。そしたら見つかるかもしれないし。

[マウンテン] いえ、ここまでにしましょう。お手伝いいただき本当にありがとうございました。宿舎まで送りますよ……こんな夜更けまで起きてると、背が伸びなくなってしまいますからね。

[シャオヘイ] じゃあボタンは? もう探さないの?

[マウンテン] ふむ、他の方が拾ってくださったのかもしれませんし、明日にでも落とし物の掲示板を確認してみます。

[シャオヘイ] そっか……ごめん、役に立てなくて……

[マウンテン] 気になさらないでください。手伝っていただけただけでとても感謝していますよ。

[シャオヘイ] ……

[マッターホルン] 探し物はありましたか?

[マウンテン] 残念ながら見つかりませんでした。しかもそのせいで、この子は私よりも落ち込んでしまった様子で……

[マッターホルン] そうですか……シャオヘイさん、私の故郷のお菓子をどうぞ。どうか元気を出してください。

[シャオヘイ] ありがとう……

[マウンテン] (シャオヘイの頭を撫でる)さあ、行きましょうか。

[マウンテン] シャオヘイさん、読み書きの勉強にご興味はありませんか? 最近は時間も空いているので、私で良ければお教えしますよ。

[シャオヘイ] うん……

[マウンテン] マッターホルンさんのお菓子の味はどうでしたか?

[シャオヘイ] まだ食べてない……

[マウンテン] ……シャオヘイさん、そう落ち込むことはありませんよ。ただのボタンですからね。

[シャオヘイ] でも大事なものだって……

[ヘイズ] うにゃ、また会ったねデカいの。そんなカワイイフェリーンの子を連れて、どしたの?

[マウンテン] ヘイズさんこそ、こんな夜中にどうしたんです?

[ヘイズ] シーッ……こいつが散歩散歩ってうるさくてさぁ。だからしかたなく付き添ってあげてるってだけ。

[シャオヘイ] こいつって……誰もいないよ?

[ヘイズ] この帽子だよ。せっかく落ち着いたとこなんだから、刺激しちゃダメだにゃ~。

[シャオヘイ] (この人……ふざけてるのかな……)

[ヘイズ] うわわっ、あーもう……この二人にちょっと挨拶しただけだよ。もう行くから暴れないで~。

[ヘイズ] わかってるって、たしかに午後訓練室に行くときにぶつかったのはこのデカイのだけど、向こうも謝ったんだし許してあげなよ。

[シャオヘイ] (小声)ねぇ、あの人ずっとブツブツ誰と話してるの?

[マウンテン] (小声)帽子です。

[ヘイズ] それじゃあデカいの、おチビちゃん、あたしはもう行くね。これ以上ブツブツ喋って変人扱いされてもたまんないからにゃ。

[シャオヘイ] あれ……?

[シャオヘイ] (待って、あの人……間違いない、あの人が持ってる!)

[シャオヘイ] ねえ、ちょっと待って!

[ヘイズ] うにゃ? もしかしてお姉ちゃんの怪しいつぶやきを聞いてたいのかな?

[シャオヘイ] ううん、そうじゃなくて……ポケットの中に何か入ってない?

[ヘイズ] あるけど……小物ばっかりだよ?

[シャオヘイ] (手を伸ばして拳を握りしめる)

[ヘイズ] なっ、なにこのアーツ!? ポッケの中身が飛んでって……!?

[シャオヘイ] (拳を開く)マウンテン、探してたボタンってこれ?

[マウンテン] なんと、まさしくそれです。ヘイズさん、どうして私のボタンを貴方が持っていたのですか?

[ヘイズ] うにゃ~……バレてしまったかにゃ。まあ、あたしが持ってるってことはそういうことでしょ。

[マウンテン] ……他にもっと価値のあるものはあったでしょうに、なぜあえて銅のボタンを盗ったのです?

[ヘイズ] だってキレイな模様だったから我慢できなくてさ〜。高価なものでもなさそうだし、しばらく眺めたら返すつもりだったんだよ。

[シャオヘイ] 高価じゃなくたって、マウンテンにとってはすごく大事なものなんだよ! 失くなっちゃってすっごく悲しんでたんだから!

[マウンテン] 実はそのボタンは、父が生前一番好んで付けていたものでして……今ではあまり流通していない品ということもあり、私にとってはとても大切なボタンなんです。

[ヘイズ] ……それは悪いことをしちゃったにゃ。そんなに大事なものだなんて知らなかったから……悪気はなかったんだよ。

[ヘイズ] お詫びと言っちゃなんだけど、もし何か手伝ってほしいことがあったときは、いつでもあたしを呼んでいいからね。

[マウンテン] いえ、そこまでしていただかなくても構いませんよ。このボタンが見つかっただけでなによりです。

[ヘイズ] (シャオヘイをハグする)おチビちゃん、ありがとねぇ~。

[シャオヘイ] な、なにするの!?

[ヘイズ] もし君がいなかったら、あたしは自分で決めたルールを破っちゃうとこだったよ。そんなのあたしもこの子もヤだもん。

[シャオヘイ] わ、わかったから、放してよ!

[ヘイズ] にゃはは、照れ屋さんだにゃ~。

[ヘイズ] じゃあねおチビちゃん。あなたってばカワイイし、またの機会にお喋りしましょ。

[シャオヘイ] 変な奴……僕のせいで泥棒がバレたのにありがとうなんて……

[マウンテン] 彼女にも、自分なりのプライドとルールがあるのでしょうね。

[シャオヘイ] 怒らないの?

[マウンテン] 今は怒りよりも貴方への感謝の気持ちでいっぱいですよ。シャオヘイさんがいなければ、こんなに早くは見つからなかったはずですから。

[シャオヘイ] 感謝なんていいよ。僕たちもう友だちでしょ。

[マウンテン] 貴方の友人になれるとは身に余る光栄です、シャオヘイさん。

[シャオヘイ] ふわぁ──

[マウンテン] こんなに夜更かしをして、明日は大丈夫なんですか?

[シャオヘイ] へーきへーき、特に大事な用もないし。

[シャオヘイ] ……

[マウンテン] ……どうして寝つけなかったのか、今なら教えていただけますか?

[シャオヘイ] ……師匠……師匠に会いたくなったの。

[マウンテン] そういうことでしたか。

[マウンテン] シャオヘイさん、私がこのボタンを身に付けているのは、父と同じことをしていれば、自分も父に近づける気がするからなんです。

[マウンテン] 父がいなくなっても、こうしていればなんとも温かい気持ちになれるものです。

[マウンテン] ですから、貴方も師匠がやっていたことをやってみる──というのはいかがでしょうか? 少しはマシになるかもしれませんよ。

[シャオヘイ] 師匠がやっていたこと……

[医療オペレーター] どいてどいて! マウンテンさん、シャオヘイくん、道を開けてください!

[シャオヘイ] どうしたんだろ?

[マウンテン] この先は医療部ですから……きっと急患が出たのでしょう。

[シャオヘイ] 医療部って毎日こんな遅くまで仕事してるの?

[マウンテン] ええ、彼らの仕事には朝も夜もありませんからね。不測の事態に備えて、常に持ち場を守る方が必要なんです。

[シャオヘイ] あっ、あそこが医療部かな。昼間みたいに灯りがついてる……

[マウンテン] そんなに興味津々で……見に行きたいのですか?

[シャオヘイ] うん、知り合いの患者さんがいるんだ。最近会ってないから様子を見に行きたいなって。

[マウンテン] なるほど、では行ってみましょう。

[ススーロ] 肺患部の源石結晶が急激に広がって肺機能もかなり低下してる……まずい、心拍数低下! 急いで救命措置を!

[ススーロ] 薬剤は届いた!?

[医療オペレーター] はい、こちらです!

[ススーロ] じゃあ助手をお願い、私が緊急オペをやるから。

[シャオヘイ] すごい忙しそうだね……また明日来ることにするよ。

[マウンテン] ええ、それがよさそうですね。

[意識朦朧な患者] コヒューーコヒューー

[医療オペレーター] ススーロさん、患者の呼吸がかなり苦しそうです! 気管挿管を行いましょう!

[ススーロ] 麻酔担当は直ちに麻酔の用意! 応急用チューブをちょうだい! それからメスも!

[医療オペレーターB] 準備できました、患者を起こします。

[ススーロ] ……

[意識朦朧な患者] スゥーースゥーー

[ススーロ] (汗を拭う)ふぅ……これでよし。じゃあオペ室に運んで次の治療に取りかかろう。

[マウンテン] シャオヘイさん、行かないのですか?

[シャオヘイ] あの人……すごいね。

[マウンテン] そうですね、あの医療オペレーターたちはロドスの誇りですよ。

[シャオヘイ] これから僕が受ける任務も、あんなふうに石の病気の人たちを助けるものなのかな?

[マウンテン] 石の病気……鉱石病のことですか? 医療オペレーターと私たちは少し役割が違いますね。私たちには病気を治療する任務ではなく、感染者の暮らしを良くするための任務が割り振られます。

[マウンテン] まぁ、感染者たちが引き起こした暴力事件を鎮めるといった極端な任務もあるにはありますが……

[シャオヘイ] 師匠がやってることと似てるかも。師匠は住む場所のなくなった妖精たちを助けてあげてるんだ。それから、悪いことをした妖精を捕まえたりもしてるよ。

[マウンテン] はて、妖精……? ともあれ、シャオヘイさんがこれから取り組む任務は、まさしくそのお師匠様のやっていることそのものですよ。いかがですか?

[シャオヘイ] ……師匠と同じことができるなんて、嬉しいし、誇りに思う。

[マウンテン] そうでしょう。素晴らしいことです。

[マウンテン] さて、少しは気が晴れたでしょうか?

[シャオヘイ] うん!

[マウンテン] なによりです。では、そろそろ戻りましょうか。さすがに寝た方がよさそうですしね。

[シャオヘイ] 借りた本は全部読み終わっちゃったし、またマウンテンに何冊かオススメを借りてみようかな。

[シャオヘイ] あれ、マウンテンだ。ちょうどいいや、挨拶しにいこっと。

[シャオヘイ] ニャオ!

[マウンテン] おっと、ミス・クリスティーン……ではなさそうですね。

[シャオヘイ] (誰それ……というか、マウンテンの前ではまだこの姿になったことないんだった……)

[シャオヘイ] ミャウ……

[マウンテン] ん? 貴方からはシャオヘイの気配がしますね……もしかしてお知り合いですか?

[シャオヘイ] (しばらくはそういうことにしとくか……)

[シャオヘイ] ニャオーーン。

[マウンテン] おや、貴方も本に興味があるのですか? ハハハ、ではこちらへどうぞ。一緒に読みましょう。

[シャオヘイ] ミィ……

[シャオヘイ] (何が書いてあるのか全然わかんないや……)

[シャオヘイ] (あくび)

[シャオヘイ] (眠いな……)

[シャオヘイ] くぅ……

[マウンテン] 肩の上で眠ってしまうとは……まあいい。起こさないようにページをめくるとしよう。

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