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価値のない勲章
危険な事故現場に突入し、閉じ込められていた人たちを助け出した勇気と功績を称えられ、表彰を受けることになったジャッキー。だがその式の真っただ中、とある記者によって全てが演出であることを指摘されてしまう。
「重大な源石事故により死傷者多数」
「現場に現れた謎の人物は誰なのか?」
「ヒーロー警官」
[せっかちな記者] すみません! こっちを向いてもらってもいいですか?
[せっかちな記者] 今こうして沈黙を貫いているのは、それが政府からの見解だと解釈してよろしいでしょうか?
[ジャッキー] ……
[無礼な記者] カメラから逃げようとしないでください。
[無礼な記者] あなたは以前からこの件の内情を知っていたのですか?
[ジャッキー] ぼくは……
[フリーランス記者] ジャッキー警官。
[フリーランス記者] 証拠は揃ってんだ。はっきり答えろ!
少し前
[ジャッキー] おおっ!
[ロドスオペレーター] ジャッキー、ここにいたのか。ずっと探してたんだぞ。
[ジャッキー] うわあー!
[ロドスオペレーター] ……
[ロドスオペレーター] ジャッキー、ちょっとテンション高すぎじゃないか……
[ジャッキー] ごめんごめん、平気だった?
[ジャッキー] ケガしてないよね?
[ロドスオペレーター] 平気だよ。俺より自分の心配をしな。
[ロドスオペレーター] 人助けをしたヒーローが表彰式直前にケガなんかしたら、カッコ付かないだろ?
[ジャッキー] えへへ……
[ロドスオペレーター] まったく、服もシワだらけじゃないか。
[ジャッキー] あっ、大丈夫大丈夫。
[ジャッキー] ほら! これでバッチリでしょ!
[ロドスオペレーター] ……
[ロドスオペレーター] またどこに行ってたんだ?
[ジャッキー] へへ、実はこっそり会場を覗いてきたの。たくさんの人が忙しそうにしてたよ。
[ジャッキー] だからついでに機材を運ぶのを手伝ってきたんだ。
[ロドスオペレーター] 裏方の手伝いまでやってたってのか?
[ジャッキー] うん! すっごく重たかった!
[ジャッキー] それでね……表彰台の上に立った時、いつも父さんの授賞式に参加してたことを思い出しちゃって。
[ジャッキー] まあ、ぼくは毎回ステージ下に座って、父さんを見てるだけだったけどね。でも、周りの誰よりもいっちばん大きな拍手を送ってたんだ!
[ジャッキー] だから父さんはきっといつもぼくがどこに座っていたのか、すぐに見つけられたと思う。どんなに真面目な表情をしていても、ぼくと目が合うとこっそり微笑んでくれて……
[ロドスオペレーター] ジャッキー、どうかしたのか?
[ジャッキー] 今度はぼくがステージに立つ番なんだよね……
[ジャッキー] 父さんが任務中で、見に来られないことだけが残念だなぁ。
[ロドスオペレーター] だけど、お父さんはきっとジャッキーのことを誇りに思うはずだ。
[ジャッキー] うん!
[ジャッキー] 授賞式がどんな様子だったのか、今度父さんに会った時にぜーんぶ話してあげるんだ!
[ロドスオペレーター] そうだ、ちょっと来てくれないか?
[ロドスオペレーター] 政府側の担当が、会見前に確認しておきたいことがあると言っていたんだ。
[ジャッキー] うん!
[政府の役人] あの日、危険かつ切迫した状況であったにも関わらず、ためらうことなく現場に突入し、多くの人を救出してくれた……
[政府の役人] その行動力と正義感に本当に感服いたします、ジャッキー警官。
[ジャッキー] えーと、実はぼく、前はただの補助警官で……
[政府の役人] 心配いりませんよ。あなたの状況はすでにロドスに連絡し把握をしております。
[政府の役人] もちろん、鉱石病についてもです。
[ジャッキー] そっか……
[政府の役人] 念のための確認ですが、ロドスからご提供いただいた鉱石病の検査結果に間違いはありませんね?
[ロドスオペレーター] ええ、ロドスは全てのオペレーターに対し念入りな診断を行っております。
[ロドスオペレーター] 検査報告書の正確性に関しては保障いたします。
[政府の役人] ははっ、私個人としては、体の表面に明らかな痕跡さえなければ、問題はないと思っているんですがね。
[政府の役人] それに、仮に誰かがこの件について批判をしたとしても、ちゃんと対策をしております。
[ジャッキー] 対策?
[政府の役人] かの若き警官は休暇中、外出先で突発的な事故に出くわし、市民を救出する過程で不幸にも鉱石病に感染してしまった……
[政府の役人] そのように対外的に説明いたします。
[ジャッキー] でも、そんなことしたら……
[ロドスオペレーター] ……
[ロドスオペレーター] それはあくまでも最悪の場合になったらの話だ。もちろん、どんな小さなトラブルだって起こらないのが一番に決まってる。
[政府の役人] 何はともあれ、我々にとってジャッキーさんはクルビア警察の誇りです。
[政府の役人] お父上と同じようにね。
[ジャッキー] えっと……父さんと比べたら、ぼくなんて全然だよ。父さんこそが本物の警官なんだから。
[政府の役人] でしたら、これはジャッキーさんにとって絶好のチャンスではありませんか?
[政府の役人] 自分もお父上と同じようなヒーローになれるんだと、本人に証明できるんですよ。
[ジャッキー] ……
[政府の役人] こちらの書類に目を通しておいてください。
[ジャッキー] 「現場に踏み込んだ瞬間、ご家族のことが頭によぎりませんでしたか……」
[ジャッキー] 「お父様も警官だと伺っておりますが、ジャッキーさんの今回の行動についてどう評価していましたか……」
[ジャッキー] 「お身体の加減はいかがですか? 今後の生活や仕事に影響は残るのでしょうか……」
[ジャッキー] どの質問もここに書いてある通りに答えなきゃだめなの?
[ジャッキー] でもそれって……
[政府の役人] 納得がいかないのはよく理解できます。ですが――
[政府の役人] メディアの前でベストの印象を残さないと、お父上ががっかりされてしまうかもしれませんよ。
[政府の役人] そうは思いませんか、ジャッキー警官?
[ジャッキー] 警官……
[政府の役人] ええ、そうです、ジャッキー警官。
[政府の役人] それがあなたの肩書きなのです。
[政府の役人] 今回の表彰式は、政府や警察の輝かしいイメージをアピールするためだけにあるのではありません。
[政府の役人] あなた個人の栄誉を示すものでもあるのです。
[政府の役人] それは回り回って、あなたのお父上の栄誉となります。
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] 分かったよ!
[ジャッキー] えっと、それじゃあ、ちょっと身支度してくるね。
[ジャッキー] うまくやるから、任せておいて!
[政府の役人] それから、会見の前に今回救出された方たちの代表に会っていただくことになっております。
[政府の役人] 助けていただいたジャッキーさんに大変感謝しており、表彰式の前にどうしても直接お会いしたいとおっしゃっていたので。
[ジャッキー] 了解!
[ジャッキー] よし……顔の汚れ、全部取れたよね?
[ロドスオペレーター] ジャッキー、これだけはどうしても言わせてくれ。
[ロドスオペレーター] 政府からロドスへ対して、君を警察隊に復帰させたいといったような要求は今のところ出ていない。
[ロドスオペレーター] だからあの人が何を言おうと、これはただの宣伝で終わる可能性が高いんだ。
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] 服は変じゃないかな? 後ろのほうも大丈夫?
[ロドスオペレーター] いい感じだよ。
[ロドスオペレーター] ジャッキー、俺の話を聞いてたか? 緊張しすぎだぞ。
[ジャッキー] うん……でもぼくが今回初めて表彰台に立つのに変わりはない。
[ジャッキー] どうしてかは分からないけど……
[ジャッキー] 父さんも絶対に見にきてくれるような気がするんだ。
[ジャッキー] もし言っちゃいけないことを言っちゃったり、変なことをしちゃったらどうしよう! すぐに父さんにバレちゃう。
[ジャッキー] でもステージの下には色んな人が座ってるから、ぼくには父さんがどこにいるのか分からないし。
[ジャッキー] ぼくが変なことしちゃったら、父さんはどんな顔をするのかな……
[ジャッキー] がっかりしちゃうかな……
[ロドスオペレーター] ……
[ジャッキー] ぼくはまだ、警官という身分に釣り合っていないのは分かってる。
[ジャッキー] だから警察隊に戻れなくたって構わないんだ……
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] さっきの書類、もう一回見せて!
[ジャッキー] やっぱりぼくは最高の自分をステージの上で披露したいよ。本当に父さんが下で見てくれているような気持ちでね!
[フリーランス記者] こんにちは。ジャッキー警官ですか? スタッフの方からあなたがここにいるとお聞きしたんです。
[フリーランス記者] お忙しいところ申し訳ないのですが、会見前に単独インタビューをさせていただくことは可能でしょうか? お時間は取らせませんので。
[フリーランス記者] あっ、こちらが私の名刺です。申し遅れましたが、私は……
[ロドスオペレーター] すみません、今ちょっと立て込んでおりまして。
[ロドスオペレーター] 会見にて質疑応答の時間を設けておりますので、取材はそちらでお願いします。
[フリーランス記者] すぐに終わりますから!
[フリーランス記者] さっき書類がどうとかおっしゃっていましたよね? それってその冊子のことですか? すみません、わざと盗み聞きをしたわけじゃないんです。
[フリーランス記者] ただ大事な用件がありまして。
[ロドスオペレーター] 本当にすみません。
[ロドスオペレーター] ジャッキー、行こう。人を待たせてるんだ。
[フリーランス記者] あっ、ちょっと待ってくださいよ!
[ジャッキー] ごめんね!
[ジャッキー] 会見の時にちゃんと答えるから!
[フリーランス記者] ……
[ジャッキー] (ぼくは出会ったすべての人に父さんの武勇伝を聞かせてきた。父さんはすごい人なんだ! 悪いやつを捕まえるのも、人助けも、父さんにかかればお手のものだって。)
[ジャッキー] (ニュースも新聞も、父さんは警察のお手本だっていつも報道してたしね! でも父さんはぼくが自分の記事や写真を持ち歩くのは嫌いみたい。)
[ジャッキー] (父さんが助けた人もほとんど会ったことある……)
[ジャッキー] (みんな父さんを訪問しては、ぼくにお父さんのような立派な警官になってねと言うんだ。その時、父さんは決まって、この子はまだ補佐警官だから、まだまだ学ぶことはたくさんあると返してた。)
[ジャッキー] (そういえば、父さんがもらった勲章を直接見たことは一回もないんだよね。どうして家に持って帰ってこないんだろう?)
[ジャッキー] (だから、今日ぼくがもらう勲章は、家に飾られる一番最初の勲章なんだ!)
[生還者代表] ジャッキー警官! そうですよね!
[ジャッキー] えっと……
[生還者代表] やっぱりそうだ! 見間違うはずがありませんよ!
[生還者代表] でもジャッキーさんは俺のこと分からないでしょう? あの時はみんな灰を被って顔が真っ黒に汚れてましたからね、あははは。
[ジャッキー] あっ! きみか!
[ジャッキー] 車椅子、押してあげるね!
[生還者代表] いえいえ、お気遣いなく。もう体力もかなり回復してきてますし、ほら!
[ジャッキー] それでもまだ無茶しちゃだめだって。 ぼくに押させて!
[生還者代表] ははっ、分かりましたよ。
[生還者代表] 本当にありがとう、ジャッキー警官。
[ジャッキー] えへへ……
[ジャッキー] うん!
[せっかちな記者] 市長、こちらに目線お願いできますか?
[無礼な記者] すみません市長、も一枚いいでしょうか?
[ジャッキー] ……
[せっかちな記者] そちらの警官の方、もう少し市長に近寄っていただけますか?
[せっかちな記者] お二人のツーショットが撮りたいんです。いいですね、ありがとうございます。
[ジャッキー] ……
[無礼な記者] もう少しそのままで! 警官さん、もう少し背筋を伸ばせますか?
[無礼な記者] それと服も整えてくれますか? お願いします!
[ジャッキー] ……
[せっかちな記者] ジャッキー警官、あの日現場に踏み込んだ瞬間、ご家族のことが頭によぎりませんでしたか?
[ジャッキー] ……
[せっかちな記者] 現場の危険性については、ジャッキー警官はこの場の誰よりも理解していたはずです。
[せっかちな記者] 一瞬でも突入するのを躊躇したりしなかったのでしょうか?
[ジャッキー] ぼくは……
[市長] ははは、ジャッキー警官は酷い事故を経験したばかりなんです。それに、表彰台に立ったのは初めてなんですから、さぞかし緊張していることでしょう。
[市長] だから皆さん、そんな風に詰め寄らないで、質問はひとつずつでお願いしますよ。
[市長] そういえば、ジャッキー警官のお父上も優秀な警官でしたね。彼もここで表彰を受けたことがあるんですよ。
[市長] 今のあなたと同じ、緊張でずいぶんと落ち着きがなかったっけ、はははっ。
[ジャッキー] あっ、ぼくもまだ覚えてます! もう何年も前なので、ぼくが小さい頃のことだったけど。
[ジャッキー] あの時、父さんはまだ地方警察に配属されていたごく普通の警官でした。
[ジャッキー] 父さんはあの時、勤務中で……
父さん……
もし父さんが今、ステージの下に座っていたら……
[せっかちな記者] ジャッキー警官?
[ジャッキー] はい!
[ジャッキー] ぼくはただ、警官としての務めを果たしただけに過ぎません。
[ジャッキー] あの時は一刻を争う状況でした。ためらっているヒマなんてなかったんです。閉じ込められている人たちにとって、ほんの一秒の迷いですら命取りですから。
[ジャッキー] 現場に踏み込んだ瞬間は――
[ジャッキー] 確かに父さんのことが頭に過りました。でも、そのほとんどが父さんからの励ましと……期待の言葉だったんです。
[ジャッキー] そのおかげで、閉じ込められている人たちを絶対に助け出すぞと、さらに決意が固まったんです。
[せっかちな記者] お父様のことが話題に挙がりましたが、ジャッキーさんの今回のご活躍についてどう評価していましたか?
[ジャッキー] 父さんは今この瞬間も、警官として現場で奮闘を続けています……
[ジャッキー] だから、今日この場に来られないのがとても残念ですが――
[ジャッキー] 父さんはきっとぼくのことを誇りに思ってくれてるはずです。
[せっかちな記者] では、ジャッキーさんが警察に入ろうと思ったきっかけもお父様ですか?
[せっかちな記者] 警官として誰かを助けることで、お父様に自分を証明したかったのでしょうか?
[ジャッキー] うーん……
[ジャッキー] ぼくが誰かを助けるのは、警官だからではありません。
[ジャッキー] 父さんも同じです。父さんは……
[市長] コホン……
[生還者代表] あのぉ……
[生還者代表] すみません、発言いいですか?
[生還者代表] ジャッキー警官にしろ、彼女のお父様にしろ、一番大切なのは二人のような精神が警察内で受け継がれていることです。
[生還者代表] 俺たちのような一般市民にとっても、それを知れてとても安心しました。
[生還者代表] それと、命を救ってくれた恩人と直接お会いする機会を設けていただけるなんて、市長には感謝してもしきれません。
[市長] とんでもない。こちらこそ、そう言っていただけて光栄です。
[市長] そして、この精神は警察だけでなく、政府の各機関にも受け継がれていかなければいけないことです。
[市長] 役所に所属する全員が、心より公民のために働き、人々の模範、そして守護者になっていければと願う所存であります。もちろん、私自身もね。
[せっかちな記者] ジャッキー警官、ツーショットが撮りたいので、もう少し近寄れますか?
[ジャッキー] ……
[無礼な記者] 警官さん、ほらもっと笑って。
[ジャッキー] ……
ジャッキー警官!
ジャッキー警官!
ジャッキー警官!
[ロドスオペレーター] もう大丈夫だ。ここならバク転しても誰にも見られない。
[ジャッキー] よっと!
[ジャッキー] (深呼吸する)
[ロドスオペレーター] 平気か?
[ジャッキー] わ、分かんないけど!
[ジャッキー] つまり、最初から全部決まってたってこと?
[ジャッキー] 父さんも同じだったの? あの人たちの言われた通りに……
[ロドスオペレーター] ジャッキー、これはただの宣伝なんだよ。
[ロドスオペレーター] 君に無理やり押し付けた肩書きも、質問の回答内容も、全部彼らが企画した宣伝に過ぎないんだ。
[ロドスオペレーター] 君はこんな形で自分を証明する必要なんてないよ。ジャッキーが正義感のある優しい子なのは、ロドスのみんなが一番よく分かっているんだから。
[ロドスオペレーター] 君のお父さんが本物の英雄だってこともね。
[ロドスオペレーター] もし本当にもう限界なら……バックれたっていいさ、別に。
[ロドスオペレーター] あとの処理はロドスのほうで済ませる。
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] だめ! ここで逃げるわけにはいかないよ!
[ジャッキー] 宣伝とか栄誉とか、そんなことはどうだっていいんだ。
[ジャッキー] ぼ、ぼく……やれるよ! ほんとだよ!
[ロドスオペレーター] だったら何をそんなに気にしてるんだい?
[ジャッキー] 「娘や市民の模範になれるような、真の警察官になることが私の目標です」
[ジャッキー] ぼくがステージ下で聞いた言葉は……
[ジャッキー] 父さんの……本心だったのかな? 父さんは本当にぼくにそう伝えたかったの?
[ロドスオペレーター] それでも……
[ロドスオペレーター] 君が誰かを救ったのは紛れもない事実だよ。
[ロドスオペレーター] 彼らの本当の意図がなんであれ、あの勲章は君が受け取って然るべきものだ。
[ジャッキー] うん……
[ロドスオペレーター] ステージに戻るか?
[ジャッキー] うん、戻ろう!
[市長] 私は全政府機関及び全警察……
[市長] ひいては生還者たちとその家族を代表し……
[市長] この場で、今回の救助活動において勇気のある素晴らしい活躍を見せてくれたジャッキー警官に、勇敢勲章を授与いたします。
[市長] 今後も政府や警察の模範的代表として、この街の市民の皆様に貢献していけること、そしてさらなるご活躍を期待しております。
[ジャッキー] ありがとうございます。
[フリーランス記者] 待った!
[フリーランス記者] ひとつ質問がある!
[政府の役人] 誰だね君は!? 取材許可証は持っているのか?
[フリーランス記者] ジャッキー警官――
[フリーランス記者] あの日唯一現場にいた当事者であるあんたに聞きたい。この写真の二人に見覚えはあるか?
[ジャッキー] ……
[フリーランス記者] 答えてくれ。
[ジャッキー] この二人は、現場で亡くなった犠牲者だよ。
[ジャッキー] 助けようとはしたんだけど……
[フリーランス記者] じゃあ、あんたは最終的に何人助けた?
[ジャッキー] 四人……
[フリーランス記者] その人たちはこの写真に写ってるか?
[ジャッキー] ……分からないや。当時の現場はすごく混乱していたから、ひとりひとりの顔を気にする余裕なんてなかったんだ。
[フリーランス記者] じゃあ、そこの代表者に聞こう。あんたはこの写真に写っている人たちに見覚えはあるか?
[生還者代表] ありませんね。
[フリーランス記者] ないだと!? 本当だな?
[政府の役人] いい加減にしてください!
[政府の役人] 今すぐ警察に通報して! 許可なく乱入してきたそこの不届きものをひっ捕らえるのです!
[フリーランス記者] おいおい、ちょうどそこにこの街を代表するヒーロー警官さんがいるじゃないか。彼女に俺を捕まえさせりゃいい。
[フリーランス記者] そうすりゃまた大手柄を立てられるだろ?
[政府の役人] 貴様!
[政府の役人] ジャッキー警官、彼を確保するのです!
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] さっきの話の続きを聞かせてよ。
[フリーランス記者] フン、いいだろう。いつまで芝居を続けられるのか見ものだな。
[フリーランス記者] 今回の事故の被害者は七人家族だと報道されている。原因は一家の中で感染が最も深刻だった次男、そして市長によって行われた、口にするのも憚られる行動も一因となっているそうだ。
[市長] 口を慎め!
[フリーランス記者] 政府は被害者の顔写真を公表していないが、俺は個人的にこの一家の写真を入手できた。それが今見せた写真だよ。
[フリーランス記者] 亡くなった被害者は二人、救出されたのが四人。そして事故の原因になったと思われる次男を加えればちょうど七人だ。
[フリーランス記者] それなのに、そこの代表さんは写真に写っている人たちに見覚えはないと言った。あんたは自分の家族の顔すら分からないのか?
[ジャッキー] えっ!?
[生還者代表] いや、その……
[生還者代表] 俺の家族はみんな無事だ! なんでそんなデタラメを言うんだよ!
[ジャッキー] きみは一体何がしたいの?
[ジャッキー] この人は大変な目にあって、命を落としかけたんだよ?
[ジャッキー] なんのためにそんなひどいことを聞くのさ!
[フリーランス記者] あんたの隣に立ってるのは、免職された元警官だよ。ほら、そいつのプロフィールだ。
[ジャッキー] ……
[フリーランス記者] それとこれを調べている途中で、妙なことに気付いた。ジャッキー警官、どうしてあんたの記録は警察署のどこにもないんだ?
[フリーランス記者] クレームも、表彰も、残業すらも一度もなかったというのか?
[フリーランス記者] 現場には多くの警官がいたのに、突入できたのは都合よく突然現れたあんただけ。
[フリーランス記者] ああ、そうだった。あんたの父親も英雄なんだっけ? 英雄の娘も英雄になったんだな。
[フリーランス記者] ハハハハ、こいつは話題になるぞ! なんていい宣伝材料だ! 市長の次の選挙での投票数アップにも、悪化の一途をたどっていた政府のイメージアップにもピッタリだな!
[ジャッキー] ぼくは……
[フリーランス記者] あんたの父親は確かに優秀な警官だ。そいつは俺も認める。
[フリーランス記者] だけど、あんたは本当にそうなのか?
[ジャッキー] ……
[フリーランス記者] あんたは本当に、警官なのか?
[せっかちな記者] ジャッキー警官!
[せっかちな記者] 今こうして沈黙を貫いているのは、それが政府からの見解だと解釈してよろしいでしょうか?
[ジャッキー] ……
[無礼な記者] カメラから逃げようとしないでください。
[無礼な記者] あなたは以前からこの件の内情を知っていたのですか?
[ジャッキー] ぼくは……
[ロドスオペレーター] ジャッキー、すでにロドスにこの件の事実確認を要請しておいた。
[ロドスオペレーター] ことが明らかになる前は発言を控えてくれ。
[せっかちな記者] 市長、今の話は全て真実なのですか?
[市長] 彼の言ったことは全くの事実無根だ!
[市長] これは我らがヒーローに対するいわれなき中傷と侮辱です!
[市長] 誰か! そいつを拘束しろ!
[政府の役人] はやく!
[ジャッキー] ……
[政府の役人] なっ! ジャッキーさん!?
[市長] ジャッキー警官、一体何をしてるんだ!
[ジャッキー] その人を連れて行っちゃだめ。まだ聞きたいことがあるの。
[ジャッキー] みんなどいてよ!
[フリーランス記者] 俺に聞きたいことって?
[ジャッキー] 実はぼくもね、今日一日ずっと何が起きてたのかよく分かってないんだ。
[ジャッキー] ぼくはただ、自分が助けた人が無事な姿でここに来てくれたのが、すごくうれしかっただけ。
[ジャッキー] だけどきみは、そこにいる生還者代表が偽物で、全部初めから決められていた演出だって言ったんだよね?
[フリーランス記者] 違うのか?
[ジャッキー] あの日の事故は絶対に演出なんかじゃない。これは確信をもって言えるよ。
[ジャッキー] ぼくが助け出した人たちも……不幸にも現場で亡くなった人たちも……
[ジャッキー] 偽物のはずがないんだ。
[ジャッキー] だから、本当にぼくが助けた人たちはどこにいるの?
[フリーランス記者] 知らないな。
[ジャッキー] どうして?
[フリーランス記者] 俺が知ってるわけないだろ。逆になんでここに来てないのか、こっちが聞きたいくらいだ。
[フリーランス記者] 俺じゃなくて、全てを仕組んだあいつらに聞くべきじゃないのか?
[生還者代表] ……
[生還者代表] 俺は何も知らないぞ! だから俺に聞くな!
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] 市長、これは一体どういうことなんですか!
[市長] ジャッキー警官。
[市長] あなたはすでに一線を越えてしまっている。これはあなたが関与すべきことじゃないんですよ。
[市長] 今の自分の立場をよく考えてください。あなたはこの街の警察の代表です。今のあなたはお父上の尊厳も背負っているのですよ!
[ジャッキー] ……
[記者] なぜ事件当時、助けに向かおうと思ったのですか? あれほどの数の暴徒に対峙することへの恐怖はなかったのでしょうか?
[記者] あなたの軽率な行動が、暴徒たちの残虐行為に火を付け、複数の人質が負傷する結果を招いたとの批判もありますが、それについてはどうお考えでしょうか?
[記者] 娘さんも警官だとお聞きしましたが、もし今回の状況であなた自身が人質に取られていた場合、娘さんにも自分と同じ行動を取ってほしいと願いますか?
[ジャッキーの父親] ……
[ジャッキーの父親] 本音を申し上げますと、私はこんな質疑応答にはなんの意味もないと思っておりますし、この件を報道する必要性も全く感じていません。
[ジャッキーの父親] ですが、どうしても答えなければいけないというのなら……
[ジャッキーの父親] 救える人を見殺しにするわけにはいかないでしょう。
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] ぼくは警官なんかじゃない。父さんこそが本物の警官なんだ。
[フリーランス記者] つまり認めるんだな?
[ジャッキー] 今のぼくに父さんを背負えるはずがないよ。
[ジャッキー] 父さんこそが真のヒーローだ! 反対意見は受け付けないよ!
[ジャッキー] ぼくが気になるのは、いなくなった四人のことだけ。
[ジャッキー] ぼくが助けた人たちは、この場に来てなきゃいけないはずなのに、どこにもいない。
[ジャッキー] あの人たちはどこにいるの!?
[フリーランス記者] ……
[生還者代表] ……
[ジャッキー] 市長さん。
[ジャッキー] ぼくの質問に答えてください。じゃなきゃ……
[市長] 貴様に何ができる!
[ジャッキー] ふんっ!
[ジャッキー] えっ、本当にこんなとこにいるの?
[ロドスオペレーター] ああ、調べはついている。四人がここにいるのは間違いないよ。
[ロドスオペレーター] 彼らは全員、あの事故によって鉱石病にかかってしまった。だから……
[ジャッキー] たとえクルビアであっても、政府は彼らが公共の場に姿を現すことをよしとしなかったんだろう。
[ロドスオペレーター] あの事故の原因は、政府にとって恥でもあるしな。
[ロドスオペレーター] 「若き警官が休暇中、外出先で突発的な事故に出くわし、市民を救出する過程で不幸にも鉱石病に感染してしまった」か。
[ジャッキー] うん。
[ロドスオペレーター] 何が起きていたとしても、奴らはもっともらしい言い訳を仕立て上げてただろう。
[ロドスオペレーター] ただ今回は、君がたまたま格好の材料だったってだけの話だ。
[ジャッキー] ……
[ジャッキー] 四人は無事なの?
[ロドスオペレーター] ロドスが現地の医療機関に協力して治療を行えるよう、政府と掛け合うつもりだ。
[ロドスオペレーター] だけど今回のひと悶着があったから、話し合いは難航するかもしれないな。
[ジャッキー] えっ! ごめん!
[ジャッキー] あの時はつい……
[ロドスオペレーター] 君のせいじゃないさ。
[ロドスオペレーター] クルビアに派遣されたばかりなのに、あんな大事故の中、自分の身の危険も顧みずに、迷うことなく四人を救い出した。
[ロドスオペレーター] ドクターが知ったら、きっと喜ぶよ。
[ロドスオペレーター] 本当にお疲れ様、ジャッキー
[ロドスオペレーター] あれ? その勲章、結局手元に残すことにしたのか?
[ジャッキー] うん
[ジャッキー] だって父さんにも今回のことを話してあげなきゃいけないからさ。
[ジャッキー] えへへ。
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