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小隊長
メランサは、行動予備隊A4の隊長の任を担うことに対して自信が持てずにいた。だが、そうであっても、カーディに励まされて彼女は、勇気を出して自分の本当の考えを話した。
10:30p.m.
ロドス訓練室外
[支援オペレーター] どうしてこんな夜遅くに、訓練場の明かりがついてるんだ?
[支援オペレーター] まだ誰か訓練してるのか? うわぁ……よくやるなぁ。
[支援オペレーター] あっ、メランサちゃんだったか! 今日もお疲れ様!
[メランサ] ……こ、こんばんは。
[支援オペレーター] こんな時間まで訓練かい? ここ最近、予備隊の訓練時間がどんどん長くなってきてる気がするけど……
[支援オペレーター] やる気があるのは良いことだけど、くれぐれも身体には気をつけるんだよ。
[メランサ] あ、えと、ありがとうございます……
[メランサ] ですが大丈夫です。ファロン教官がオーバートレーニングにならないようにコントロールしてくださっていますから。
[支援オペレーター] なるほどね。そうだメランサちゃん、晩ご飯はもう食べた?
[メランサ] まだです……でも大丈夫です、お気遣いなく……
[支援オペレーター] まぁそう言わずに。毎日ちゃんと規則正しく食事しないと身体がもたないよ!
[支援オペレーター] ……とはいえ、この時間じゃもう食堂には大したものも残ってなさそうだね。ちゃんと食べるなら自炊するしかなさそうだ。
[支援オペレーター] メランサちゃんは普段料理する? あっ、もしよかったら俺が手伝おうか?
[メランサ] えと……
[ドーベルマン] 通路のど真ん中で何をしている。
[支援オペレーター] あっ、ドーベルマン教官!
[メランサ] ドーベルマン教官、フランカさん!
[フランカ] あらお嬢さん、また会ったわね。
[ドーベルマン] コリン、無駄話している余裕があるということは、今週の書類整理は全て終わっているんだろうな?
[ドーベルマン] しかし、料理を手伝うだと? お前がまともな料理を作ったことなど今まであったか?
[支援オペレーター] それは……ハハッ、ドーベルマン教官、痛いところを突きますね。
[ドーベルマン] そういえば、さっきビンスがお前を探していたぞ。
[支援オペレーター] あ、しまった! まだ仕事が残ってたんだった。それじゃ皆さん、失礼します……!
[支援オペレーター] 主任には俺がここに来たこと言わないでくださいね!
[ドーベルマン] ……
[フランカ] アハハハハッ! やっぱりロドスって面白い人ばっかね。
[ドーベルマン] まったく、あいつは相変わらずだな……恥ずかしい限りだ。
[ドーベルマン] メランサ、コリンのやつが失礼をしたな。悪い奴ではないんだが、いつも軽口ばかり叩いて……迷惑なら無視すればいい。
[メランサ] い、いえ、コリンさんはとても親切ですよ。
[ドーベルマン] そうか、ならいいんだが。
[フランカ] そりゃ親切にするでしょ。こんな可愛いお嬢さんが相手なら、あたしだって親切にするわ。
[メランサ] え、え?
[ドーベルマン] フランカ、何をニヤニヤしている。
[フランカ] あら?
[ドーベルマン] 何か企んでいる顔だ。私の訓練生を怖がらせないでくれ。
[フランカ] あらら。
[フランカ] 厳しい教官さんだこと。メーちゃんもそう思うでしょ? ねえ、この人っていつもこんな感じなの?
[メランサ] メ、メーちゃん? えと……それは違います、ドーベルマン教官はとても優しいですよ。
[メランサ] 厳しい時もありますが、それはすべて私たちのためを思ってくれているからです……
[フランカ] あらあら、褒められてるわよ。人望があるのねぇ、気分はどう? 内心すっごく喜んでたりして——
[ドーベルマン] コホンッ。
[ドーベルマン] それよりも、メランサ。今回の予備隊編成について、すでにファロンから聞いていると思うが——
[ドーベルマン] 検討した結果、お前を隊長に任命することとなった。予備隊コードは「A4」だ。問題なければ明日、署名が必要な書類を準備して渡す。
[フランカ] ロドスには全部でいくつの予備隊があるの?
[ドーベルマン] 私が何もかも教えると思うか?
[フランカ] 別に。聞いてみただけでしょ。
[ドーベルマン] ……
[フランカ] それに安心して、ただの好奇心よ。BSW規模の組織からすれば、ロドスがいくら予備隊を組織したところで、何の脅威にもならないし。
[フランカ] 結局外部のパートナーより、身内の育成に力を注ぐ方が重要よね。わかるわかる。
[フランカ] でも……ほら、予備隊の新隊長さんは何か心配事があるみたいよ?
[ドーベルマン] ん?
[ドーベルマン] ……メランサ、どうした。何か言いたいことでもあるのか?
[メランサ] あの、教官……
[メランサ] 私——
[メランサ] もうパンも残ってない……
[メランサ] (今日はやっぱりちょっと遅くなりすぎたみたい……参ったな)
[メランサ] (職員の人もいない。呼び出したら迷惑をかけるだろうし……仕方ない。今日は食べるの我慢して、戻って早く寝よう)
[メランサ] はぁ……
[???] ため息なんてついてどうしたの!?
[メランサ] うわぁ!
[カーディ] うわぁ!?
[カーディ] わわわっ、なに!? ビックリしたよ!
[メランサ] えっ……あっ、メイリィ。
[カーディ] えへへ、私だよ~
[カーディ] メランサちゃんはここで何してたの? ディナーの営業時間はもう終わっちゃってるよ?
[カーディ] あっ、もしかしてメランサちゃん、まだ晩ご飯食べてないの!? お腹すいてる? アドナキエルくんがお菓子を作ってくれたから、一緒に食べようと思って探してたんだよ。
[カーディ] そう言えば、今日の訓練で教官に残るように言われてたけど、何の話してたの? いい話? メランサちゃんが私たちの隊長になるってスチュワードくんが言ってたけど本当!? それに――
[カーディ] ――あっ!! いっけない、スチュワードくんはこれは内緒だよって言ってたんだった!
[メランサ] ……
[カーディ] まぁいっか、もう言っちゃったし。それにこーんな嬉しいこと黙ってられないよ! 本当なの? 本当だったらいいなぁ!
[メランサ] えと……メイリィ、本当に私で務まると思う?
[メランサ] 教官、私じゃ……A4の隊長は務まらないと思います。
[メランサ] 申し訳ありません……
[メランサ] ファロン先生と教官でもう一度……人選し直していただけますか。
[フランカ] あら、まさかの回答ね。
[フランカ] この子、自分じゃ無理だと思ってるみたいだけど、あなたはどう考えてるの?
[ドーベルマン] ……
[フランカ] 何か言ったら? あなたたちみたいに生真面目な人って、なんでこんなにだんまりさんが多いの?
[フランカ] はぁ……メーちゃん、じゃああなたは、誰なら隊長にふさわしいと思うの?
[メランサ] 例えば……スチュワードさんなら、私よりも物事を全体的に捉えることができます。
[メランサ] 以前の模擬戦で私たちは三回ミスしましたが、スチュワードさんがすべて陰でカバーしてくれていました。そのおかげで最終的に好成績を収めることができましたし、みんなから信頼されています。
[メランサ] アンセルさんは、常に私たちの健康状態を気にかけてくれてます。何も言わなくても私たちの体調を見抜いて、その対策をしてくれるんです。
[メランサ] アドナキエルさんは……えっと、彼が何を考えているかはまだよくわかりませんが、チームが火力を必要とした時、いつも皆の考えをいち早く察知し、最適のポジションからサポートしてくれます。
[メランサ] メイリィ……カーディは明るいムードメーカーでありながら、気配りもできる人です。戦闘ではチームメイトの防衛を第一に考えてくれるので、カーディを中心に陣形を展開することがほとんどです。
[メランサ] 隊長には、この四人のうち誰かがふさわしいと思います!
[ドーベルマン] ………
[ドーベルマン] お前が今言ったことはすべて……
[ドーベルマン] ……まぁいい。自分で気付いた方が良い物事もある。
[ドーベルマン] とにかく、現時点でこの任命を撤回はしない。こちらにもこちらの判断というものがあるのでな。
[メランサ] 教官!
[ドーベルマン] 今日はこれ以上議論する余地はない。戻ってよく考えてほしい……できれば小隊のメンバーとも話し合ってくれ。そして明日、改めて回答をくれ。
[ドーベルマン] その時は、我々はお前の判断を尊重しよう。隊長として相応しいかどうか——できるかできないかは、自分で決めるんだ。
[ドーベルマン] だがその前に、お前に一つ訊いておきたいことがある。
[ドーベルマン] メランサ、お前はなぜ前線のオペレーターであることにこだわる?
[メランサ] 私は——
私はよく知っている。香りをまとったあの美しいものたちを。
澄み渡る午後の日差し、キラキラと煌めくガラス瓶、きめ細やかなベルベット……それ以外にも優雅で、文明的で、享楽的なものたちを、私はよく知っている。
当然だ。なぜならそれらはすべて、私がかつて過ごしてきた日々の欠片なのだから。
でも血が流れる戦場は、それらとは違う。
私はどうして戦場に立たなきゃならないの?
どうしてそんなリスクやプレッシャーを背負わなきゃならないの?
私は一体……
私は一体どうしたいの?
[メランサ] メイリィ、私は……オペレーターに相応しくないんじゃないかな?
[カーディ] ちょ……! 何バカなこと言ってるの!!
[メランサ] えっ? ちょっとメイリィ、待って、落ち着いて!
[メランサ] テーブルが――メイリィ、そんなにテーブルを叩かないで!
[カーディ] テーブルなんてどうでもいいよ!
[カーディ] だって、どこが相応しくないの!? 自分でそんなふうに言っちゃダメだよ、メランサちゃんが一番——いっちばんいいんだから!
[メランサ] やめて、私はそんなに褒められるような人じゃないよ……
[カーディ] もうっ! 反論は許さないからね! メランサちゃんは自分のことをわかってないんだよ! 私の方が何百倍もメランサちゃんのことをわかってるよ! 自分をそんなふうに言うのは私が許さない!
[カーディ] それでも反論するつもりなら、いいもん! 私がメランサちゃんの良いところをたーくさん教えてあげる!
[カーディ] メランサちゃんはいつも私の訓練に付き合ってくれるし、私のために新しい防御戦術のテストもしてくれる——
[カーディ] 私のためにいつも予備の装置を用意してくれてる。それをわざわざ言うようなことはしないけど、私はちゃんと知ってるんだから! メランサちゃんはサイコーだよっ!
[カーディ] いつもみんなに美味しいおやつを分けてくれるし、よく見たら全部みんなが大好きな味なんだ! メランサちゃんはサイコーだよっ!
[カーディ] 他にも、こっそり教官の髪を結ぶイタズラにまで付き合ってくれるんだよ! メランサちゃんは、ホントにサイコーなんだよっ!!
[メランサ] ま、待って、最後のは、私やった覚えがないよ!
[カーディ] えへへ、さすがにそこは騙せなかったか。スチュワードくんは全然気付かなかったんだけどな。
[カーディ] あっ、でも最後の以外は全部ホントだよ! メランサちゃんが誰よりもチョーチョーサイコーなのは間違いないんだからっ!
[カーディ] ふふーん、まだ反論はある?
[メランサ] ……
[カーディ] ないならもう心配いらないね! メランサちゃんが隊長に相応しくないなんて思ってる人は、私たちの中には一人もいないよっ!
[カーディ] でも……やっぱり一番重要なのは、メランサちゃんがどうしたいかだと思うな。
[メランサ] 私がどうしたいか……
本当に私でいいの?
私にそんな能力があるの? みんなの期待に応えられるの?
[メランサ] わ、私は多分、力不足だと思う。きっとまだ学ばないといけないこともたくさんあるし……
他の人の考えはともかく、私は……私自身はどう思ってるの?
私は一体どうしたいの?
[メランサ] 私はみんなを守れる力が欲しい。お父さんやお母さんに守られてばかりで、家族と連絡もとれないなんて、そんなのはもう嫌……
[メランサ] 私……挑戦してみたい! 一人前の隊長になって、みんなと一緒に頑張りたい!
[メランサ] メイリィ、私……大丈夫かな?
[カーディ] もちろんだよっ!
[カーディ] これまでだってずっと一緒に頑張ってきたでしょ!?
[メランサ] ……うん、ありがとう、メイリィ。
[カーディ] うんうん!
[カーディ] えへへ、よかった、やっとメランサちゃんが笑った!
[アドナキエル] うーん……もうオレたちも出てって大丈夫なんじゃない?
[アドナキエル] 冷凍庫で冷凍食品を見つけて、レンジで温めてるところみたいだけど……スチュワード、どうする? このお菓子も持っていこうか?
[アンセル] そもそもなんでずっと隠れてるんです?
[スチュワード] 待って、アドナキエル、アンセル、まだ行かないで。しばらく二人だけにしてあげよう。
[スチュワード] メランサがあんなにうれしそうに笑ってるのは初めて見たよ。
[アドナキエル] いや、でも……
[アンセル] なるほど、スチュワードさんの言う通りですね。今出ていっても雰囲気を壊すだけです。
[アドナキエル] そうじゃなくて、カーディに機械を操作させると……
[カーディ] ええっ! なんで? どうして動かないの?
[メランサ] これは……加熱ボタン? 接触不良みたいだけど、そうやって回すものじゃないと思う……
[カーディ] 大丈夫大丈夫、やり方はわかってるから。機械は大体こうやれば動くはずだよっ!
[カーディ] へへっ、見てて!
[アドナキエル] ……あんな使い方してたら、そろそろレンジが壊れちゃうけど、本当にいいの?
[スチュワード] そういうことは早く言ってくれよ!!
[スチュワード] 待て、カーディ! そのスイッチに触るな! ダイヤルにも!! メランサ、カーディを止めて!!
[アドナキエル] アハハ! もう間に合わないよ、やっちゃったね。
[アンセル] ……はぁ。騒ぐのは構いませんが、ケガはしないでくださいよ。
[ドーベルマン] ……
[フランカ] あら、頭痛?
[ドーベルマン] ……ちょっとな。
[フランカ] それは部下がキッチン用品を壊して、また請求書が増えたから? それともあの恥ずかしがり屋の小隊長さんが原因?
[ドーベルマン] 両方だ。メランサは自分にもっと自信を持つべきなんだが……
[フランカ] そう? あたしはそんなに悪いことだとは思わないけど。
[フランカ] 力不足なのにいっつも自信満々な奴より、慎重な人の方が信頼できるでしょ?
[フランカ] それにあの子が言ってたこと、覚えてる?
[フランカ] あの子は、隊員一人一人をよーく見てるわ。それこそ隊長の資質があるって証拠じゃないの。
[ドーベルマン] そこに彼女本人が気付いてくれればいいんだがな。
[フランカ] 安心しなさいよ、あの子たちならきっと問題ないわ。
[フランカ] そうだ! あの子も剣使いよね? なら、あたしに指導させてよ。少しは自信をつけさせてあげるから。
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