aklib_story_暴風眺望_9-10_轟く雷鳴_戦闘後

ページ名:aklib_story_暴風眺望_9-10_轟く雷鳴_戦闘後

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暴風眺望_9-10_轟く雷鳴_戦闘後

ホルンは大佐の部下に取り押さえられてしまった。そして、Outcastがロドスのオペレーターと共に撤退準備を整えたその時、空から異常な音が響く。バグパイプがトランスポーターを見つけた瞬間、都市全域への駐屯軍の爆撃が始まった。


[ホルン] いるんでしょう。さっさと出てきなさい。

[副官ヒル] ……中尉。

[ホルン] 私の部下はどうなったの?

[副官ヒル] ここにいますよ。ご安心ください、気を失っているだけですから。

[ホルン] 私が言ったのは、チェロたちのことじゃないわ。

[ホルン] ……誰のことか、わかっているでしょう。

[副官ヒル] ――!

[ホルン] 早く言いなさい。でないと、あなたの首に突きつける武器が盾より鋭いものになるわよ。

[副官ヒル] うっ、ぐっ……もし、この場で剣を抜くおつもりなら、同僚への攻撃……謀反と見なされますが……

[ホルン] ハッ……同僚ですって?

[ホルン] 私たちがヒロック郡に入った時から、あなたたちが一瞬でも、私たちを同僚と思っていたことなんてあるの!?

[ホルン] 答えなさい!!

[副官ヒル] ッ――

[副官ヒル] たとえ……あなたが……ここで、私の喉を掻き切ろうとも……大佐の決定を、変えることは……できませんよ……

[ホルン] あら、そうかしら?

[ホルン] あなたは、特攻隊の戦士たちがどれ程の実力者かなんて聞いたことがないみたいね。

[ホルン] トライアングルが与えた損失は何人分だったのかしら? 中隊の半分くらい?

[ホルン] ここには私しかいないけれど、あなたたちを片付けるだけなら、大して時間はかからないわよ。

[ヴィクトリア兵] ぶ、武器を下ろせ!

[ヴィクトリア兵] さもなくば、こ……こいつを殺すぞ!

[ホルン] ――ッ! チェロ……!

[ホルン] ……

[ヴィクトリア兵] 本気だからな! 少しでも動いてみろ、クロスボウでこいつの首を射抜いてやる!

[ホルン] …………

[ホルン] いいでしょう。

[ホルン] あなたたちの勝ちよ。

[ヴィクトリア兵] 奴を取り押さえろ! 早く! 一斉にかかれ! 盾と剣に触れさせるな!

[ホルン] ヒル。ハミルトンに伝えなさい……

[ホルン] 貴様はヴィクトリアの恥さらしだ、と。

[副官ヒル] フン……大佐には、ヴィクトリアが与える栄誉など必要ない。

[Outcast] 資料の整理は終わったか?

[フレッド] ええ、すべてここにあります。

[Outcast] よし、素晴らしい。

[Outcast] そちらも、メッセージを送り終えたようだね。

[オリバー] はい。パートナー企業宛ての通知は完了しました。彼らとの契約時の条件に基づいて、今後は近隣都市の事務所を訪ねてもらうか、契約を打ち切るか、ってことになります。

[オリバー] はぁ。しかし、こうしてみると、なかなかの損失ですね。

[Outcast] 戦争で損失を被る企業は、何もロドスばかりじゃないさ。

[オリバー] そうですね……仕方ないとは思います。ただ、このテーブルや椅子を見てるとどうにも名残惜しくて……何せ俺がヒロック郡に来たばかりの頃は、この部屋には何もなかったんですよ。

[Outcast] オリバー。感傷的になるのは時期尚早だ。またすぐに戻ってこられるかもしれないだろう?

[オリバー] 確かに、仰る通りですね。はぁ……早いところ、この都市が元通りの落ち着きを取り戻してくれるといいんですが。

[シュレッダー] ……倉庫内にあった、薬の点検が終わりました。

[Outcast] ありがとう。では、この薬を皆で分配しようか。無事に一番近くの事務所まで移動を終えられるように、十分な数の応急薬を持っておいてくれ。

[シュレッダー] ……こうして分け終えた後でも、まだ随分残っているな。

[オリバー] 俺たちは人数もそう多くないし、さすがに全部持って行くのは負担が大きいからな。

[Outcast] シュレッダー。君は相変わらず寡黙だが、私にはちゃんと伝わっているよ。何か考えがあるんだろう?

[シュレッダー] ……街の人たちには、薬が必要だと思うんです。

[Outcast] 気が合うな。私もそれを考えていたところさ。……一度戦火が広がると、生活必需品の補給は急を要することになる。特に、長期間の服用が必要となる、鉱石病の鎮痛薬や抑制薬などはな。

[Outcast] ――付近の病院リストはあるか?

[シュレッダー] ……はい。まとめてあります。

[Outcast] では、何とかして届けに行くとしよう。いいか、できる限り多くの医療機関に提供するんだ。それが誰のための病院であろうとも、関係はない。

[Outcast] ああそうだ、路地でいくつか小さな診療所を見かけたが、ああいう場所も忘れないでくれ。ほとんどは看板すら出していないが、この辺りにはそうした診療所を頼りにしている人が大勢いるからね。

[オリバー] ですが、Outcastさん。本当に、こんなことをしてもいいんでしょうか? 我々は普段、地元の製薬会社を通さずに、直接医療機関や個人へ医薬品を提供することはありませんし……

[Outcast] 非常事態にはイレギュラーな対応がつきものだ。それに、親切な市民からの「匿名の寄付」を拒絶する病院なんてそうないだろう?

[オリバー] なるほど! そこまでお考えの上だったんですね。それなら運搬係は誰にしますか? 近くの人たちには、俺たちがロドスの人間だって知られちゃってますけど……

[ジェニー] ……あたしが行きます。シュレッダーさんが薬を詰めるのを手伝った後、そのまま届けに行きますよ。

[Outcast] ジェーン、大丈夫なのかい?

[ジェニー] もう、血は止まりましたから。

[Outcast] 傷の具合のことじゃない。

[ジェニー] みんなが頑張っている時に、あたしだけ隠れて泣いてるなんていやなんです。

[Outcast] ふむ……手伝ってくれるのは有り難いんだが、決して少なくない量だぞ。

[ジェニー] なんてことありません。ヴイーヴルの身体能力を信じてください。

[Outcast] 信じているさ。だが、君自身になにか計画があるなら、ロドスの任務がそれを妨げることになるのは望ましくないと思っているのさ。

[ジェニー] 大丈夫です。ここから交戦地帯へ向かえば、ちょうど病院や診療所の前をいくつか通っていくことになりますから。

[ジェニー] 薬を届け終わったら、そのまま部隊に戻るつもりです。

[ジェニー] あと少し……もうちょっとで詰め終わります。

[Outcast] では、全員そろそろ出発しようか。

Outcastはそう言うと、腰のホルスターから、リボルバーを引き抜いた。

[オリバー] うわっ……それが、あなたの銃ですか?

[Outcast] ああ。

[Outcast] サンクタの身支度というのは、銃に弾丸を籠めることでようやく整うものだからね。

[オリバー] あれ? 弾倉全部に弾は入れないんですか?

[Outcast] ああ。普通の状況であれば、一度に五発撃てたらそれで十分だ。

[オリバー] ははっ……以前、ロドス本艦に戻ってバティたちと飯を食った時、外勤時のあなたの話をたくさん聞かせてもらいましたよ。

[オリバー] その昔、たった一発の弾丸でクルビアの盗賊たちの首領三人を仕留めたとか、はたまた、三発の弾丸で傭兵隊をまるまる一つ蹴散らしたとか……

[オリバー] そんなあなたが、六発も撃つに値する敵なんて、まずいないということですね?

[Outcast] いや、そうとも限らんよ。何しろ、より大きな難題というものは、いつも先々に控えているものだ。

[Outcast] ただ、私にはある人物との約束があってね。そうそう六発目を撃つことはない――というのも、そういう賭けだからなんだが。

[ジェニー] 賭け……? あなたにそこまでさせるなんて、一体何をどう賭けたらそうなるんですか?

[Outcast] それが少々、説明するには難しい事情でね。

[Outcast] まあ、ようはその友人は、私が引退後の生活を悠々自適に楽しめるよう、色々と考えてくれてるのさ。

[Outcast] けれども私には、一つの予感があるんだ。私のような人間は、いつか本当に引退したとしても、穏やかに過ごすことなんてできないのだろうという予感がね。

[ジェニー] ちょうど今みたいに、ですか?

[ジェニー] でもあたしも、まさかヒロック郡がこんなふうになるなんて思ってもみませんでした。二、三日前には、みんなでトランプをしたり、お茶を飲んだりしてたくらいなのに……

[Outcast] ――情勢とは往々にして、空模様のように移ろいゆくものさ。

[Outcast] 無論、私に選択権があれば、今回の撤退がなるべく何事もなく終わることを選ぶがね。何しろ、弾を使わずに済むのなら、それに越したことはないのだから。

[シュレッダー] ……Outcastさん。準備が整いました。

[ジェニー] じゃあ……これでお別れだね、みんな。

[オリバー] ジェニー……

[ジェニー] そんなに悲しそうな顔しないでよ、オリバーおじさん。きっと大丈夫だから、また会えるよ――あたし、Outcastの言葉を信じてるから!

[シュレッダー] 気を付けてな、ジェーン。

[ジェニー] ありがとう、シュレッダーさん。みんなも、気を付けてね。

[ジェニー] えっ……今のって、雷?

[シュレッダー] ……それなら、すぐに雨が降り出すはずだ。

[Outcast] ――いや。この音は雷だとは思えない。ジェーン、外に出るな。ここにいるんだ!

[バグパイプ] コックさん! コックさんはいる!?

[マクマーティン] うわっと! い、いますよ、いますから! ドアを叩くのはやめてください、この事務所のドアは油と煙で脆くなってるんです。

[バグパイプ] いてくれてよかった……実はトランスポーターを探してるんだ。大事な情報を街の外に届けてもらわないといけなくて!

[マクマーティン] な、なるほど。わかりました。……っと、そういえば、ちょうどあなたに渡したいものがあったんです。

[バグパイプ] んえ? これなんだろう? ……誰かのメモ?

[マクマーティン] ええ。駐屯軍の――ルイス・ケリーという人から、さっき渡されたばかりで。

[バグパイプ] ケリー大尉が? どうしてコックさんを知ってるの?

[マクマーティン] ああ、ご心配なく。あの人に俺の正体が知られてたってわけじゃないんです。ただ単に、彼と最後に会ったのが俺だったってだけで……

[マクマーティン] 元々、俺は俺で周囲に探りを入れてたんです。まだ自分の本業を忘れたわけじゃありませんし……にしても、駐屯軍が彼を逮捕するところに出くわすとは思ってませんでしたけどね。

[バグパイプ] 逮捕、って……えっ? ケリー大尉が、身内に捕まっちゃったってこと?

[マクマーティン] はい……鉱石病患者を匿った罪、だそうです。でも、彼の息子さんは数ヶ月前、鉱石病で亡くなっていて……しかも、病気のことはすぐに報告してましたし、街の皆も周知の事実なんですよ!

[バグパイプ] あの人たち……そんな悲惨な目に遭った人を、傷口抉るような口実つけて逮捕したの!? 最低だよ!!

[マクマーティン] まったくです。ただ、こういうことはこれまで何度も起きているんですよ。色々な差別を正当化したい人からすれば、鉱石病は本当に都合のいい口実なんでしょうね。

[マクマーティン] ……今回、駐屯軍が軍内部のターラー人を粛清するためにそれを利用したようにね。

[マクマーティン] 今や、将校だろうが一兵士だろうが、ターラーの縁故者であれば皆……一夜にして自由を奪われてしまいました。

[バグパイプ] ターラー人を粛清? 人手が足りないはずの戦時中に? なんだかすごく嫌な予感がする……

[マクマーティン] だから、ケリー大尉は必死でこのメモを俺に託したんです。「最近この近くをうろついている、駐屯軍ではない兵士」に渡してくれ、と――

[バグパイプ] ――!?

[バグパイプ] コックさん、このメモは……駐屯軍が、違法な源石武器を製造してることの証拠だよ!

[マクマーティン] なんですって!? ――ハミルトン、あのイカレ野郎が!

[バグパイプ] コックさん、今すぐ信頼できるトランスポーターを探して。このメモと、うちらの小隊からの亡霊部隊に関する報告を、早くヒロック郡から持ち出さないと。

[バグパイプ] 大尉の最後の頑張りを、絶対無駄にはできない。

[マクマーティン] ですが……こんな重要情報、民間のトランスポーターに任せるわけにはいきません。――だから、こうしましょう。バグパイプさん、俺が行きます。

[バグパイプ] コックさん……おめーさん、トランスポーターだったの?

[「ランプライター」] お忘れになっちゃ困ります。情報伝達も俺たちランプライターの職務の一つなんですよ。……いやあ、しかしようやくまともな任務に関われるなんて、興奮で手足が震えてきましたよ!

[バグパイプ] ま、待って! 外から変な音が……

[「ランプライター」] 雷じゃないですか?

[バグパイプ] あんまり雷っぽくないけど――

[「ランプライター」] 大丈夫ですって。ヒロック郡には長年住んでますから、気まぐれな天気にはもう慣れっこなんです。

[「ランプライター」] 雷雨くらいじゃ、俺は止められませんよ。じゃあ、行ってきます!

トランスポーターは振り返りもせず、通りの奥へと走って行った。

彼の頭にはバケツをひっくり返したような大雨が降り注いでいた。響き渡る雷鳴は徐々にその間隔が短くなり、大きくなり――

[バグパイプ] こ……この音、雷なんかじゃない!

[バグパイプ] 待って、コックさん――

[バグパイプ] ――これは――砲声だよ!!

彼女の言葉は、トランスポーターには届かなかった。

無数の砲弾が大雨と共に降り注ぎ――地面に、壁に、触れた瞬間炸裂する。

衝撃波がその表面を容易に引き剥がし、凄まじい高熱が金属を溶かしていく。そして何より恐ろしいのは、都市の骨格へと潜り込んでくる病の種子――

不完全な燃焼反応が、巨大な源石クラスターを形成する。そしてそれは、街路や建築物の傷口に密集し、凝固していく――まるで、汚れた雨の中で咲き乱れる漆黒の花のように。

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