aklib_story_我が眼に映るまま_価値を知り得ず

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我が眼に映るまま_価値を知り得ず

チェルノボーグ事件から三ヶ月。ドクターはこのたった三ヶ月の中での経験をいまだ引きずっていた。戸惑いながらも思考を巡らせていると、ふと、亡き友人とのかつての出来事を思い出す。


[Ace] 三百賭ける。あれはただのガラクタだ、労力を割く必要はない。

[Scout] そうか? なら、俺は五百賭けよう。あれは俺たちにとって価値があるものだ。

[Ace] その根拠は?

[Scout] 直感さ。

[Ace] おいおい……天災に削られた地表から埋蔵品が出てきたところで、そんなガラクタ、荒野では別に珍しくもないだろう。

[Scout] 直感が俺に囁くんだ。あれはただのガラクタじゃない、ってな。

[ドクター] 何を話してるんだ?

[Ace] おっと、ドクターか。

[Scout] よう、Dr.{@nickname}。

[Scout] 実は昨日の外勤で難民キャンプに行ったんだが……そこでなかなか面白そうなものを見つけてな。

[Ace] いや、ただのスクラップだ。西部の荒野でよく見るようなやつさ。ドクターが気にするほどのものじゃない。

[Scout] けどそのスクラップ……まだ動くんだよ。しかも、音まで出してたしな。

[ドクター] ……音楽が流れるのか?

[Ace] いや、あの音は音楽とは言い難いな。

[ドクター] その時の状況は?

[Scout] ……その難民キャンプの中央に、妙な機械があったんだ。赤いペンキで塗られた、かなり重たいやつさ。それに人が近づくと、変な音を出すんだ。

[Scout] 難民たちはそのスクラップにあまり近づこうとはしないんだが……何故かそれを囲むようにしてキャンプを設営していたな。

[Scout] やっぱあの時回収しとけば良かったんだ。ケルシーさんなら技術面で細かなことまで分かるかもしれないだろ?

[Ace] 金を出してまであんなスクラップを買おうって言うのか? やれやれ……俺たちはいつからそんな道楽者になったんだ?

[Scout] ハハ、そう言うなよ。ほら、あのバンシーなんかにはお似合いのプレゼントじゃないか?

[Ace] まったく……お前たちの関係がどんなに悪かろうが、それを仕事には持ち込むんじゃないぞ。

[ドクター] ……その機械、面白そうだな。

[ドクター] いつか自分も一緒にその難民キャンプへ行けたら、何か分かるかもしれない。

[Ace] おお、そうなれば俺たちの賭けも結果が出るだろうな。

[Scout] なら、約束だ。殿下の件が一段落したら、一緒に行こう。

[Scout] 忘れたフリしてしらばっくれるんじゃないぞ。

不快な機械音が鳴り響く中、あなたは目覚めた。

いつも通りの一日。

目の前に見えるのは、ロドスでは標準的な居住船室の天井だ。据え付けられた家具も非常に標準的に見えるものの、換気システムの音は他の船室よりも低い。

これはあなたに関する数多くの特殊事項の中でも、最も目立たないものの一つだ。そして、あなたはその理由を知っている。

簡単に顔を洗い、口をすすぐ。これは普通の人と同じだ。しかし、健康状態維持のために服用している特別処方薬。これは普通の人とは違う。

次は特製の全身防護服。身動きするには不便だが、あなたの健康状態を考慮すれば必要不可欠なものだ。もっとも、あなたの回復さえ早ければ、こうした特別措置もすぐに不要となるかもしれないが。

これらはすべてケルシー医師の言いつけだ。彼女が言うには、過去のあなたはこれらのことを彼女よりもよく分かっていたらしいが……今や、あなたの健康を確保できるのは彼女だけだ。

[ケルシー] 当然だ、Dr.{@nickname}。君は彼とは違う。

[ケルシー] 我々の同類は誰で――

[ケルシー] ……君の同類は誰なんだろうな。

この大地はあなたに優しい場所ではない。あなたは、それを知っていた。

[アーミヤ] あっ、ドクター。起きてたんですね。

[アーミヤ] もう少し休んでいても大丈夫ですよ。昨晩はあんなに遅かったんですから。

[ドクター選択肢1] 今日は仕事をしろって言わないのか?

[ドクター選択肢2] ……問題ない。

[ドクター選択肢3] 大丈夫。むしろ、かなり元気なくらいだ。

[アーミヤ] 私だって、毎日毎日ドクターに仕事ばっかり催促するわけではありませんよ。休むべき時はちゃんと休まないと。

[アーミヤ] うーん……ケルシー先生が言ってましたよ、今のドクターには十分な睡眠が必要だから、普段よりも多く寝ないとダメだって。

[アーミヤ] 本当ですか? えっと……それならそれで、少し心配ではあるのですが……

[アーミヤ] あっ、そういえば……ケルシー先生から伝言を預かってます。今日は外出するから会議は明日にしてほしい、とのことです。

[ドクター選択肢1] 今日の予定は白紙になったってことか。

[ドクター選択肢2] 休日にしてもいいかな?

[アーミヤ] はい。ドクター、今日はゆっくり休んでくださいね。

[ドクター選択肢1] 休みか……

[ドクター選択肢2] ……

[ドクター選択肢3] 実に贅沢な言葉だ。

7:33 A.M.

ロドス食堂

[フェン] あっ、ドクター! おはようございます。

[クルース] わぁ~、ホントにドクターだ~。

[ドクター選択肢1] おはよう。

[クルース] 珍しいねぇ、ドクター。朝ごはん食べに食堂まで来る時間があるなんて~。今日はやっとのんびりできそうなの~?

[ドクター選択肢1] ああ……今日は少し休めそうだ。

[ドクター選択肢2] ……

[ドクター選択肢3] 普段そんなに忙しくしてたかな?

[ノイルホーン] おっと、誰かと思えばドクターじゃねぇか。

[ノイルホーン] この時間の食堂であんたと会えるとは、珍しいこともあるもんだ。

[ドクター選択肢1] 自分はどんなイメージを持たれてるんだ……

[ノイルホーン] ドクターのイメージ、なぁ……「年がら年中残業ばっかで休みも取らねぇワーカホリック」ってとこじゃねぇか?

[ノイルホーン] ったく、あんたも少しは休んだ方がいいぜ。龍門を離れてからずっとその調子じゃねぇか。身体壊さねぇように気を付けろよ。

[ノイルホーン] 少しは自分を大切にしろ。なんたって俺たちはあの時――

[ノイルホーン] ――おわっ! ……いてて、何すんだよ!

[ヤトウ] それ以上は言いすぎだ。

[ノイルホーン] えっ? そうか?

[ドクター選択肢1] 大丈夫……ノイルホーンの言う通りだ。

[ドクター選択肢2] 自分一人の命じゃないと、常に忘れてはならないな。

[ノイルホーン] ああ、いや、ドクター、そういうつもりじゃなかったんだが……

[ノイルホーン] ひとまず今のは忘れて飯でも食ってくれ。俺はもう行くからよ。

オペレーターたちが少しずつあなたの元から散らばって行った後、珍しくも、あなたは食堂の一角に腰を下ろした。

ロドス――感染者問題の解決を主目的とする製薬会社。ここは、鮮明でありながら細部までは認識できないあの思い出たちと同じだ。どこか懐かしく……そして見知らぬ場所。

かつてのあなたは、ロドス設立における重要人物にしてロドスの頭脳であり、ここのすべてと密接に関係していた「らしい」。そしてロドスはあなたの意志の延長だった――「らしい」。

「こうだったらしい」という伝聞頼りな「事実」の一部が、徐々に現実味を帯びてきたのを、あなたは実感しつつある。しかし、それが望ましいことなのかどうかは、あなた自身にも分からずにいた。

確かにロドスはあなたを歓迎している。だが自分がその歓迎に値する人物かどうかすら、あなたには分からない。それほどあなたは、数多くのことを忘れてしまっていたのだ。

今、目の前にあるのはあなたの朝食。淡白で味気ないが健康的な食事だ。これもケルシーの言いつけだということを、あなたは分かっている。

この三ヶ月、あなたはずっとこう感じていた――

すべてのことに馴染みがないが、同時にこの上なく懐かしい。これらの感覚は、概念の面から見れば完全に矛盾しているが、しかし現にあなたはその二つを同時に感じている。

三ヶ月前、突如発生した暴動と衝突の中、彼らが――ロドスが、混乱の爆心地からあなたを救い出した。

そして、その衝突の中であまりにも多くの命が失われた。

多くの故人が、あなたを知っていた。けれどあなたは、彼らを知らない。多くの故人が、あなたの噂を聞いていた。けれどあなたは、彼らについて聞いたことがない。

それでもあなたは最善を尽くし、その中でより多くの尊敬を集め、最終的には勝利をもたらした。しかし、勝利には依然として避けられない苦痛が伴っている。

どうしようもないことであったと、あなたは理解している。だが、それでも一つの疑問がくすぶり続けていた。繰り返し自らに問い続けても、未だに答えが見つからない疑問が――

――はたして、このすべてに価値はあったのだろうか?

2:45 P.M.

ロドス総合感染生物処理室

あなたの目の前に広がるのは、ロドスで最も特殊な倉庫だ。

この倉庫には引き取り手のない大量の物品が保管されている。

小柄なペッローのオペレーターが、ひどく損傷した盾を懸命に拭いているのが見えた。

あなたはその盾を、その持ち主を覚えている。

あなたは彼を――大柄で少しがさつで、しかし気持ちのいい笑顔を見せるオペレーターを覚えていた。彼は、かつてのあなたの友だった。そう聞かされたが、あなたは何も思い出せない。

何度も繰り返されるその手の会話に、あなたは嫌気が差していた。しかしそれは、あなたの現状を最も如実に表す事実でもあった。

あらゆることの具体的な細部が、指の間から滑り落ちる。あなたはそれに手を伸ばし、掴もうとするが、記憶の砂粒は重力に引かれ、次々と深淵に落ちていく。

[ビーグル] えっ? ド、ドクター?

[ビーグル] あの、どうしてここに……

[ドクター選択肢1] それは……Aceの盾だろう?

[ビーグル] はい、Ace先輩のです。毎週ここに来て……お手入れしてるんですよ。

[ビーグル] よい、しょ……うぅ~……重い~……

[ビーグル] す、すみません……ドクター……ちょっと手伝ってもらっても、いいですか? まだわたしには重たくて……いつも、棚まで持ち上げるのが大変なんですよね……

あなたは彼女を手伝おうとしたが、そこですぐに気付いた。あなたの力では、その盾を一センチも持ち上げられないということに。

もしかすると、以前のあなたならできたのかもしれない。しかし、まだ本調子でない今は、上手くいきそうもなかった。ケルシーから言われていた通りだ。……すべて……言われていた通り……

[ビーグル] あ、ドクター! 危ないですよ! 腰に気を付けてください!

[ビーグル] はぁ……ごめんなさい、やっぱりわたしがやりますね。

[ドクター選択肢1] ……自分は役立たずだな。

[ドクター選択肢2] でもこれは……Aceの盾だ。自分が……

[ビーグル] 大丈夫です。わたし、みなさんから聞いてるんですよ。ドクターはロドスで一番頭がいい人だ……って。だから、頭脳面で頼らせてください。

[ドクター選択肢1] であれば……せめて、君の補助に入るよ。

[ビーグル] はい! では、こうやって――気を付けてくださいね!

[ビーグル] よい、しょ……っと! ふう、無事置けました。

[ドクター選択肢1] ……そういえば、「みなさん」って?

[ビーグル] それはもちろん、ドーベルマン教官を始めとした教官の方たちのことですよ。あと、エリートオペレーターの方々も言ってましたよ。

[ビーグル] そして……Ace先輩も。

[ビーグル] 以前、Ace先輩がドクターのことを話してたんです。ドクターは一人で何十、何百人もの軍隊にすら匹敵する、って……ふふふ。

[ドクター選択肢1] ……ビーグルはAceと仲が良かったのか?

[ビーグル] えっ? うーん……仲が良かったか、ですか……

[ビーグル] Ace先輩はみなさんと仲が良かったんです。あの人は、そういう人でしたから。

[ビーグル] とても頼りになる人でした……訓練の時は、わたしたちにたくさんのことを教えてくれたんです。集団戦の立ち回りや協力の仕方、それに包囲の突破方法なんかも……

[ビーグル] エリートオペレーターの方々は毎日本当に忙しいんですが、それでも先輩はよく訓練場に来てくれました。

[ビーグル] ……わたし、ずっとこう思ってたんです。いつかわたしも、先輩と同じくらい頼りになる人になりたいなって……

ビーグルは悲しげな笑みを浮かべ、その盾を見つめる。倉庫に舞い散るほこりが彼女の顔と髪にかかっていたが、そのペッローのオペレーターは全く気にしていないようだった。

あなたは部屋を見渡す。すると、棚の隅にあったとある箱が、あなたの注意を引いた。

その小さな箱には、様々な写真やアクセサリーが乱雑に入れられており、底には色あせた身分証がいくつか入っていた。

[ドクター選択肢1] これは……

[ビーグル] あっ……ええと、それは……

[ビーグル] ……

[ビーグル] ドクター、やっぱり見ない方が……

[ドクター選択肢1] どうしたんだ?

[ビーグル] ……その箱に入っているのは、えっと……以前……龍門での出来事の時にいた……レユニオンの人たちの……遺品です……

[ビーグル] 処理室のオペレーターがずいぶん話し合って、最終的に全部ここに置くことにしたんです。

あなたは数枚の写真をめくった。古く色あせて、染みのついたそれらの写真に写っていたのは、ほとんどがウルサス人だった。

写真の中の人々の多くがボロボロの服を身に纏い、カメラに対して気まずそうな顔や、嬉しそうな顔、あるいは無表情な顔を向けていた。

そして、箱に入っていた銀のアクセサリーの裏にはウルサス語で文字が刻まれている――

――「愛する娘、ヤガンナへ。幸せでありますように。」

彼らの中にはかつての敵、そしてかつての友がいた。

最後までロドスと敵対した者もいれば、危機に際してロドスの盟友となった者もいることを、あなたは知っている。

あなたは、彼ら一人一人の物語を知らない。しかし、感染者の苦しみは知っている……当事者的な実感のない、単なる知識を持つだけで、「知っている」と言えるならの話だが。

[ビーグル] 時々、わたしたち――作戦に参加したオペレーターも、自分に問いかけることがあるんです……

[ビーグル] ウルサスは……感染者は……そして、わたしたちは……災いを経験しました。でも……

[ビーグル] でも……このすべてに……はたして、価値はあったんでしょうか?

[ドクター選択肢1] ......

[ビーグル] あっ、ごめんなさい。こ、こんな気の滅入る話、すべきじゃありませんよね……いつもこの場所に来て、これを見ていると、つい……

[ビーグル] と、とにかく、何も聞かなかったことにしてくださいね、ドクター……ドクター?

[ドクター選択肢1] ……いや、大丈夫。何でもない。

[ビーグル] そ、そうですか――って、もう三時!? すみません、わたし、そろそろ訓練場に行かないと。遅刻なんてしたら、またドーベルマン教官に怒られちゃいます~!

[ビーグル] それではドクター、お先に失礼します! あっ、出るときは鍵を閉めるのを忘れないでくださいね!

ペッローのオペレーターが慌ただしく去って行く。あなたと、持ち主を失った物たち、そしてゆっくりと落ちるほこりだけを残して――

あなたが振り返り、その場を去ろうとした時……一つの奇妙な赤い物体が視界に入り込んだ。確かにそれは奇妙ではあるが、あなたの歩みを止めるには至らない。

……「ただの奇妙な赤い機械だ」。そう感じさせただけだった。

p.m. 3:53 天気/曇天

ロドス本艦 下層エリア

[W] ねえ……あんたたち一日中こんな所にいて暑くないわけ? たまには上に行ってみようとは思わないの?

[サルカズボイラーマン] この程度の温度なら、俺たちゴリアテ人にとってはちょうどいいくらいさ。それに、誰かが設備を見なきゃいけないしな。

[サルカズボイラーマン] 何せロドスが正常に稼働できるかどうかは、すべてこの動力システムにかかってるんだ。

[W] あっそ。じゃあ好きにすれば?

[サルカズボイラーマン] ……ん? もう行くのか?

[W] ええ。ここにいたところで退屈なだけだし……それに、ケルシーのババアもあたしのことが目障りでしょうし、ね。

[サルカズボイラーマン] ああ……正直なところ、驚いたがな。まさか、ケルシー女史がまた君をロドスに上がらせるとは……

[W] アハハッ! でも、あのババア、あたしに対していくつも保険を用意してたみたいよ?

[W] しかも、それだけじゃないわ。ほら、あの廊下……見える? 曲がり角には、一体誰が立ってるんでしょうね?

[サルカズボイラーマン] ……次は、ヴィクトリアへ行くのか?

[W] まあね。だからその前に、古いお友達であるあんたたちと少しお喋りしとこうと思ったの。

[サルカズボイラーマン] そうか。……君の目的を、俺たちは皆知ってる。たとえ止めたところで、君は止まるような人ではないことも、な。

[サルカズボイラーマン] だが、それでも俺はこう言わずにはいられない。W……本当にヴィクトリアへ行くつもりなのか? 賢い選択とは言い難いぞ、それは……

[サルカズボイラーマン] サルカズであれば、誰もそんなことは……

[サルカズボイラーマン] はぁ……いや、俺はただのボイラーマンに過ぎない。君にこんなことを言うべき立場にはないだろう。……今言ったことは、忘れてくれ。

[W] ずっと気になってたんだけど……大半の人が去ったってのに、どうしてあんたたちはまだここに残ってるわけ?

[W] あんたたちの腕なら、どこへ行ってもうまくやっていけるでしょ?

[サルカズボイラーマン] ……

[サルカズボイラーマン] 殿下が俺たちに残してくださったこの家を、去る理由などないさ。

[サルカズボイラーマン] それに……居場所があるというのは、荒野を彷徨うよりいいものだからな。

[サルカズボイラーマン] そして何より……

ガタイのいいサルカズの大男は、そばにある機械を軽く叩いた。

[サルカズボイラーマン] 殿下が残されたものは、我々が守らなければならない。これは君がやろうとしていることと、そう変わらないことだ……そのくらい、君が一番よく分かっているだろう? W。

[W] ……ボイラーを守るのが使命ですって? ハッ、ボイラーがあんたの家ってわけでもあるまいし……

[サルカズボイラーマン] いいや、そのようなものさ。W、俺はな……ボイラーマンとして預かるこの仕事こそが、自分の使命だと常々思っているんだ。笑いたければ、いくらでも笑えよ。

[W] ……ったく、この状況じゃ笑えないわよ。そのくらい、あんただって知ってるでしょ。

[サルカズボイラーマン] ははっ。君がまだ気にかけてくれることだけで、俺たちは十分感謝しているんだがな。

[サルカズボイラーマン] では、道中気をつけろよ。

[W] はぁ~……あいつらときたら……

[???] ……疾く去るがいい。

影から声が聞こえてきた。Wはすぐさま見上げたが、そこに明かりはなく、影の中から何者かがじっと彼女を凝視していた。

[W] はいはい、よーく分かってるわよ……アスカロン。実は他の誰よりあんたが一番感情を抑えられないのよね。違う?

[W] でも、本当にあの「ドクター」や龍女にも会わせてくれないの? 二人には話したいことがたーっくさんあるんだけど。

[???] ......

[W] ハッ、冷たい奴ね。

[W] それじゃあ、話題を変えましょうか。やっぱりイネスはまだ生きてるの? ロンディニウムの現状は?

[W] それと、あんたはどうするつもり? 確か、以前はテレシスと――

[???] ......

[W] ……はいはい。黙ってるだけであたしをビビらせられる人なんてそういないのよ? 前はこんな無口じゃなかったのにね……そんなにあたしがムカつく? ならもう行くわ、それでいいでしょ?

[W] 今回はたまたま、あのババアに確認したいことがあって来ただけだし……でなきゃ、あたしだってこんなとこに足を運ばないわよ。

[???] ……この協力関係は一時的なものだ。

[W] 「協力」、ね。あたしはこんなの協力とは呼べないと思うけど? ただ万が一今後戦場で会った時、間違って敵の敵を傷つけないようにするための決め事でしょ。

[W] そうふらふらとロドスに遊びに来たりはしないから安心して頂戴。確かにあの新人たちの目は面白いけど……一度戦場に立ったら、あの子たちもこういう――

[???] ......

影の中のサルカズは黙したままだ。

Wは知っている。これはアスカロンが仕事をする時に時折見せる習慣だ。もう一言でも無駄口を叩けば、すぐさま首を落とされることだろう。

[W] ……親愛なるミス・アスカロン、あんたはもうあたしの上司じゃないのよ。

[W] それじゃ、また会いましょう。ロンディニウムで……ね。

[サルカズボイラーマン] W? まだ行ってなかったのか……って――

[サルカズボイラーマン] ……あれ? 誰もいない……

4:10 P.M.

ロドス本艦 下層エリア

機械が放つ轟音が、ロドス最下層に響き渡る。ここはロドスの動力エリアだ。

サルカズの――より正確に言うならゴリアテ人のオペレーターたちがこのエリアの管理を担当しており、技術スタッフを除けば、普段最下層に出入りする者はほとんどいない。

あなたは、そんな場所をあてもなくぶらついていた。

すでに三ヶ月をロドスで過ごしているが、未だロドスの全エリアに足を踏み入れたわけではない。

ロドスはまるで小さな移動都市だ。規模ははるかに劣るものの、必要なものはすべて揃っている。

そして内部構造は見た目よりも複雑であり、動力エリアはその最たる例の一つだ。

[サルカズボイラーマン] なぜ今日はこうも賑やかなのでしょう。普段こんな場所に人が来ることなんて滅多にないのに……ん?

[サルカズボイラーマン] おや、ドクター。あなたでしたか。

[ドクター選択肢1] クロージャから聞いたよ。用があるんだって?

[ドクター選択肢2] 人事部の人から聞いた。何か用があるとか?

[サルカズボイラーマン] ……はい、そうです。実はずっと……ええ、ずっとあなたとお話がしたいと思っていまして……

[サルカズボイラーマン] しかし……わざわざあなたが足を運ばずともよかったのですよ。見てください、この全身の汗を。ご覧の通り、ここは室温が高すぎるんです。

[サルカズボイラーマン] ですから、まずは場所を移しましょう。よろしいですか?

[ドクター選択肢1] 問題ない。しかし、自分に何の用が?

[ドクター選択肢2] ……

[ドクター選択肢3] 勿論。だが、なぜ急に会いたいと言ってきたんだ?

[サルカズボイラーマン] ただ……少し、昔話をしたい気分で。聞いていただけますか。

ガタイのいいサルカズの大男は、手に持っていたレンチを置き、汚れた作業用手袋を外した。

そして工具箱の一番下から、その無骨で巨大な手とは対照的な代物――小さなティーポットとティーカップを取り出した。

[サルカズボイラーマン] お茶はいかがですか?

[ドクター選択肢1] お構いなく……

[ドクター選択肢2] もしかしてお邪魔だったかな?

[サルカズボイラーマン] いえいえ、大丈夫ですからご遠慮なさらず……むしろちょうどいいタイミングなので、私も休憩にしようかと。せっかく来ていただいたことですし、一杯くらいご馳走させてください。

[ドクター選択肢1] では、遠慮なく。

[サルカズボイラーマン] ……ははっ、正直に言いますと……実は、こうしてあなたとお話ができるなんて思ってもみませんでした。

[サルカズボイラーマン] なんだかご気分が優れないようにお見受けしますが、どうかなさいましたか? もしや、天気のせいでしょうか?

その時、あなたはふと感じた。

このサルカズはあなたよりもロドスのことを熟知している。彼と彼の同僚たちがロドスの運行を維持しているのだ、と。

彼らはこの陸上船の生命線を握っている。しかし、あえて人前に姿を現すことはしていない。

あなたは彼らの行いに感謝の気持ちを抱いたが、その理由までは分からなかった。

[サルカズボイラーマン] ここで仕事をしていると、天気が把握できないんですよ。下層の窓から外を見ても、キャタピラーに巻き上げられた砂ぼこりしか見えませんので。

[サルカズボイラーマン] ……私はただのボイラーマンです。ですから、あなたがどんな複雑な問題を抱えているのか分かりません。

[サルカズボイラーマン] それに私は、頭脳労働が得意な方でもありませんし……

[ドクター選択肢1] 何か言いたいことがあるんだろう。

[ドクター選択肢2] 皆とは色々話すべきだと思っている。言ってくれ。

[サルカズボイラーマン] では、お言葉に甘えて……ドクター。アーミヤとケルシー女史は、喜んであなたに力を貸してくれますよね。なら、あなたは……もっと二人と話すべきではないか、と私は思います。

[サルカズボイラーマン] 多くの場合……考え事を心にしまい込んでおくのは、いい選択ではありませんので……

[ドクター選択肢1] 話しづらいこともあるんだ……

[ドクター選択肢1] 君は多くを知る人らしいがロドスに来てどれくらいだ?

[サルカズボイラーマン] ……ロドスの中では古株かと。実は、私たちは知り合いだったんですよ。覚えていらっしゃらないでしょうが……技術的な仕事をする前にも、あなたの指揮を受けたことがあるのです。

[サルカズボイラーマン] さて、私からあなたにアドバイスできるのは――何か思うことがあるのなら、あの二人に話してみるべきだということです。彼女たちに答えられないことならば、他に答えられる人などいませんから。

[サルカズボイラーマン] (声を落として)……あなたたちは、彼女から信頼された者同士……彼女の信頼を受けたあなたと、同じく彼女の信頼を受けた二人なのだから。

[ドクター選択肢1] 「他に答えられる人などいない」……か。

[サルカズボイラーマン] ……実は、先ほどWに会ったんです。

[ドクター選択肢1] えっ……Wが来ていたのか?

[ドクター選択肢2] ……

[ドクター選択肢3] 意外だ。ロドスへの接触を、ケルシーがまだ許すとは。

[サルカズボイラーマン] ドクター、お気づきかと思いますが……Wはロドスとも、あなたの過去とも関係がある人物です。

[サルカズボイラーマン] エンカクのようなサルカズまでもがロドスに現れた時から、こんな日が来ることは予期してましたが……

[サルカズボイラーマン] 不思議なもので……カズデルからウルサス、龍門へと歩みを進めてきて、これからも共に前へと進んでいくというのに――

[サルカズボイラーマン] 最後には結局、最初に出会った人々や出来事、そして彼らが残した影響と……向き合うことになるのでしょうね。

6:22 P.M.

[アーミヤ] あっ、ドクター。おかえりなさい。

[アーミヤ] 今日は一日見かけませんでしたけど……どこへ行ってたんですか?

[ドクター選択肢1] 艦内をぶらついていただけだ。

[アーミヤ] そうでしたか。適度な休息も、仕事の内ですからね。

[ドクター選択肢1] 一日中仕事をせずにいると、少し不安になる。

[アーミヤ] ……ドクター。

[アーミヤ] あの、ドクター。今から話すことは……ケルシー先生には絶対秘密にしてくださいね。

[アーミヤ] 実は、今日のケルシー先生の仕事は、そこまで急ぎではなかったんです。しかも、外出する必要もなかったんですよ。

[アーミヤ] 先生は、最近のドクターの疲れ切った様子を見て、休息を取ってもらうためにこうしてくれたんです。

[ドクター選択肢1] ……そうだったのか。

[アーミヤ] それにしても、なんだか嬉しそうですね。何かいいことでもあったんですか?

[ドクター選択肢1] いや、こんなお喋りをしたのは久しぶりだと思って。

[ドクター選択肢1] そういえば、アーミヤ。

[ドクター選択肢1] オペレーターたちの遺品室で妙な物を見たんだ。

[アーミヤ] 遺品室、ですか……それは……いえ。それより、妙な物とは……?

[ドクター選択肢1] うーん、色は赤で……

[ドクター選択肢2] 機械……何かの装置のようだった、かな……

[アーミヤ] あっ、ドクターが言ってるのは、あの「真っ赤なスクラップ」のことですね。

[アーミヤ] きっと覚えてませんよね……あれはScoutさんとAceさんが賭けに使った物なんです。ある日突然、二人があの機械をロドスに持ち帰ってきて……

[アーミヤ] それをクロージャさんが長い間研究していたんですけど……結局使い道のない物だと判明して、倉庫に置かれることになったんです。

[ドクター選択肢1] もう一度見に行ってもいいだろうか?

[アーミヤ] ええ……もちろんです。

倉庫内に置かれた様々なスクラップたちの中、その奇妙な装置がそびえ立っている。

この二メートル以上ある箱型の装置は、表面に赤いペンキこそ塗られてはいるが……砂嵐に晒され続けたためか、すでにひどく摩耗していた。

[クロージャ] さーて、これのことだよね! 突然こんな物に興味を持つなんて、ドクターも変わってるなー。

[アーミヤ] 二人が持ち帰ったばかりの頃は、人が近づくと箱から音が鳴っていたんですが……クロージャさんがいじったせいか、壊れちゃったみたいですね。

[クロージャ] んなっ、あたしがいじったせいで壊れたって何さ~! あたしはただちょ~っと「研究」しただけだよ。この機械は持ち込まれた時からこうだったんだから!

[クロージャ] でも、未だにこれが何なのか分からないんだよね。本当は分解してみようと思ったんだけど……この筐体ってば、かなり硬くってさ。切断機が三台も犠牲になったんだよ!

[クロージャ] それで……ドクター、これ何だか分かる?

[ドクター選択肢1] 金庫かな?

[ドクター選択肢2] ……分からない。

[ドクター選択肢3] 空飛ぶ機械かも?

[クロージャ] こーんなおっきい上に、鮮やかな赤で塗ってるんだよ? 金庫だったら泥棒に狙われ放題でしょ。お間抜けさんもいいとこだって。

[クロージャ] やっぱ、ドクターでも分かんないかー。

[クロージャ] ……大丈夫? もしかして……疲れすぎてバカになっちゃった?

あなたはその奇妙な装置を注意深く観察する。ひどく摩耗した金属筐体の下には、ボタンも隙間もない。

こんなものを見るのは初めてだ。少なくとも今ある記憶の中には、心当たりはなかった。

好奇心から、あなたは筐体を軽く叩いてみた。

[クロージャ] は……えええええっ!?

[アーミヤ] ド、ドクター! 気を付けてください!

[ドクター選択肢1] な、何もしてない……はずだよな?

[クロージャ] そんなのどうだっていいから、さっさと離れて!

激しい雑音の後、その設備は「ビー」という音を発した。

すると突如、箱が開きだした。隙間など全く見当たらなかった筐体はハッチのように上下に開く仕組みだったのだ。

箱の中には、金属光沢のある人工物が入っていた。

箱の外側とは違い、その中は時間の経過を感じさせない。すべてが作られた当初のままであるかのようだった。

そして……あなたたちはその人工物の造形に少し見覚えがあった。

[クロージャ] ……

[アーミヤ] ……これは……

[クロージャ] これって……瓶ビール……だよね?

[ドクター選択肢1] どこからどう見ても……ビール、だな。

[クロージャ] なーんだ! すんごいものが入ってるかも~って期待してたのに!

[クロージャ] こんだけいじっといて結局ただの自動販売機だったとか……でも、なんでこんなに頑丈なんだろ? 源石爆発にでも備えてるのかな?

[クロージャ] うーん……でもこのビール、色が普通じゃないみたいだね。これは調べる必要がありそうだよ……

[ドクター選択肢1] ......

[アーミヤ] ……ドクターは、これが何かご存知ですか?

[ドクター選択肢1] 何でもない、ただのガラクタだよ。

[ドクター選択肢1] 重要なのはそれが今瓶ビールを提供したという事実だ。

[ドクター選択肢1] クロージャ、このビール……

[ドクター選択肢1] ……Aceの盾のそばに、置いておこう。

[ドクター選択肢1] 何せこれは――賭けだったんだろう?

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