aklib_story_火山と雲と夢色の旅路_SL-1_お耳を垂らせる?_戦闘前

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火山と雲と夢色の旅路_SL-1_お耳を垂らせる?_戦闘前

シエスタ観光商店街と未完成区画の再建事業に関する入札が始まり、バイソンとスワイヤーは交渉の中激しく対立する。エイヤフィヤトラは意外な友人たちに出会った。母のかつての教え子であるカーンのほかに、言葉を話せる謎の生物も現れた。


[放送の音] ……1097年から、時を経るごとに活発化する火山活動の影響を受けて、シエスタ自由都市はヘルマン・ドルクス市長の計画の下、「移転プロジェクト」を開始しました。

[放送の音] 1099年初頭までに、九割を超えるシエスタ市民が火山とビーチに別れを告げ、移動都市で新生活を始めたと見込まれています……

[トラックドライバー] 先に言っとくがなお嬢ちゃん。お前さんがくれた金じゃ次の中継所までしか送ってやれねぇぜ。あとの道はお前さんがどうにかしないといけないぞ。

[意気消沈した少女] うん……大丈夫。

[トラックドライバー] ずいぶんあっさり言うなぁ。お前さんくらいの子供が一人で外国に飛び出すなんてな、荒野がどれだけ危険か知ってるか?

[トラックドライバー] なんでまたシエスタに行きたいんだ? 家族に内緒で、好きなバンドの追っかけでもしてんのか?

[意気消沈した少女] 仕事探しに行くんだ。

[トラックドライバー] クルビアからシエスタに仕事に行くだぁ? お前さん、まるでずっと引きこもってた世間知らずみたいなこと言うな。

[トラックドライバー] ちょいと前なら、確かにあそこは金儲けにもってこいの場所だっただろうがな。聞いたとこによると火山で土を掘れば簡単に黒曜石が採れたって話だし。

[トラックドライバー] だが食ってくための仕事を探したいなら、今はクルビアの方がチャンスはあるぞ。

[意気消沈した少女] 大学を卒業する前に、建築会社と契約を結んだんだけど、実習期間が終わった直後に、現場で大きな事故が起きちゃってね。会社が責任逃れしようとして、罪を全部あたしになすりつけたんだ。

[意気消沈した少女] その経歴が残ったせいで、ほかの仕事も見つからなくて、小さな解体作業隊に加わるしかなくてさ。源石爆弾が間違った方法で使われてたから、それで怪我して鉱石病に感染しちゃったんだよね。

[意気消沈した少女] 本当は、できれば移動都市に残りたかったんだけど、今度は医療保険の支払いの時に詐欺に遭っちゃって。結局なけなしの貯金もなくなっちゃったんだよ。

[トラックドライバー] ……そりゃあ、随分と災難だったな。

[放送の音] 鉱石病で苦しんでいる? ならば連邦の創立者、辺境の開拓者になればいい!

[放送の音] 開拓隊は、すべてのクルビア人に、豊かな未来を追い求めるチャンスを提供します……

[意気消沈した少女] それで、場所を変えて生活してみるべきかなって思ったんだ……おじいが、シエスタはきれいな場所だって言ってたから。

[トラックドライバー] そっか、なるほどな。お嬢ちゃん、新しいとこじゃツキが巡ってくるといいな。

[意気消沈した少女] うん。そうなるって信じてる。

[放送の音] 行き先を見失った♪

[放送の音] 道を見失った♪

カーラジオが突然おかしくなり、穏やかな曲に代わってスピーカーからオーディオのハウリングとノイズが響いた。

貨物トラックも急に速度を落とし、荒野の中ゆっくりと停止した。

[トラックドライバー] んだよ、どういうこった?

[トラックドライバー] ……

[意気消沈した少女] ……

[スノーズント] すみません、このサービスデザートをもう一つもらえますか?

[おしゃれな店主] もちろんさ! ついでに、ほかの味も試してみないかい?

[スノーズント] さすがは観光地ですね。物価がクルビアとは全然違います……

[スノーズント] ここのデザートはどれもとっても手が込んでいて、カクテルもきれい……

[おしゃれな店主] 当然さ、全部あたしのオリジナルだからね、ほかの場所じゃこんなに美味しいのは食べられないよ。

[おしゃれな店主] それにうちのカクテルにはどれもストーリーがあるんだ、例えばこの「ナツメグビーチ」ね……

[エニス] ちょっとちょっと――

[エニス] 向こうに座ってるあの二人、お友達同士なんすか?

[スノーズント] はい、みんな龍門人で、同じ会社の同僚なんです。とても仲が良いんですよ。

[エニス] 仲が良いなら、なんで今にも殴り合いそうな感じなんすかね……

[スノーズント] 仲が良くても、喧嘩はするものですし……

[バイソン] まさか、スワイヤー局長が直々にシエスタへいらっしゃるとは思いませんでした。

[スワイヤー] 近衛局だって有給はあるのよ。適切にお休みを消化することに、何も問題なんてないでしょ?

[バイソン] スワイヤーさん、あなたが来た目的は分かっています。

[バイソン] 新区画の建設と商店街再建事業の入札者リストの中に、あなたとスワイヤーグループの名前があるのを見た時は、とても驚きましたから。

[エニス] ゲホゲホゲホゲホゲホッ――

[スノーズント] エニスさん! ど、どうしたんですか!

[エニス] 思わず腰を抜かし……いや、むせちゃいました……

[スワイヤー] ふーん、アタシもフェンツ運輸とシエスタの提携の話は早くから聞いてたけどね。アンタたちはこの区画の地理的位置に目をつけて、物流センターを建設しようとしてるんでしょ。ピーターズは?

[バイソン] 現在、このプロジェクトはぼくに全権が委ねられています。

[バイソン] ぼくが代表を務める「フェンレン貿易」は、フェンツ運輸傘下の子会社だと思っていただいても構いませんが、我が社はフェンツ運輸のリソースには一切頼っていません。

[スワイヤー] 「実家のリソースには一切頼っていない」ねぇ、典型的なお坊ちゃまのセリフよね。じゃあ、アンタはここまで自転車にでも乗ってきたってことかしら?

[バイソン] スワイヤーさん、こういう時にからかうのはよしてください……

[スワイヤー] いいわ。ビジネスの話し合いなら、単刀直入に言うとしましょう。

[スワイヤー] 今回のシエスタの建設プロジェクトには将来性がある。それだけに注目が集まっているし、アタシが興味を持つのも当然ね。

[スワイヤー] フェンツ運輸がまだシエスタと正式な契約を結んでないなら、現段階ではアタシたちは公平な競争関係にあるわね。

[バイソン] なら、この区画におけるあなたの建設計画がどういったものかお伺いしてもいいですか?

[スワイヤー] それは、企業秘密だと言っておくべきかしら?

[スワイヤー] ショッピングセンターにしろスキー場にしろ、利益が見込める投資ができるなら、入札に参加する理由はあるものでしょ。

[スワイヤー] そうだ。来る途中で見たけど、ここには人工の火山温泉があるみたいね? ちょっと面白そうだし、あれに投資してこの区画を全部温泉リゾートに改造しようかしら?

[バイソン] スワイヤーさん、ぼくたちは今真面目な話をしているんです。

[バイソン] あなたの一族が龍門の経済を回す上で不可欠な存在であるのも、スワイヤーさんご自身が龍門の発展のために多大な貢献をしてきたのもぼくはよく知っています。

[バイソン] ですがニューシエスタのこの市街地の計画や建設は、単なるビジネスではなく、都市全体の長期的な発展を見据えて行う必要があり、住民の今後の人生まで考慮する必要があるんです。

[バイソン] もしただのお遊び感覚でやっているなら、手を引くことをお勧めします……

[スワイヤー] ねぇ、フェンツ運輸のバイソンさん。

[スワイヤー] もしもアンタが本当に自分の計画にそこまで自信があるなら、入札会で正々堂々とアタシに勝てばいいんじゃないかしら。事前に訪ねてきてこんな話をする必要がどこにあるの?

[スワイヤー] きちんとした国家間の貿易ルートを確立するというフェンツ運輸の試みは、確かにとても革新的よ。でも革新的という言葉にはリスクが高いという意味もあるの。

[スワイヤー] ビジネス的な手段を用いて、利益を生み出そうとしているのはアンタもアタシも同じ。それなのに、どうして自分のやり方のほうが絶対に正しいなんて自信を持って言えるのかしら?

[バイソン] どうやら説得はできないようですね……もしあなたがこの無意味な競争をどうしても続けると言うのなら、ぼくも全力で戦いに備えるしかありません。

[スワイヤー] もちろん喜んで相手になるわよ。正式な入札会まではまだ時間があるわ。それまで各々のやり方で準備するとしましょう。

[スワイヤー] スノーズント、何見てるの?

[スノーズント] あの、スワイヤーさん! エニスさんがここまで送ってくれた時の道順ですけど、問題がありますよ! どう見ても十キロありません……

[スワイヤー] そう。ほんと欲の塊みたいなヤツだったわね……はぁ、その地図はどこから?

[スノーズント] 観光ルートを考えたいから地図を借りたいと言ったら、エニスさんからこれを渡されたんです。ニューシエスタ移転記念版の地図だとかで……

[スノーズント] それで、わたしの金券と引き換えに……

しわくちゃの地図には、何が何だかも分からないルートのような線が引かれ、海と火山の位置に絵本のような落書きが書かれていた。

[スワイヤー] ちょっと、それ街の入り口で無料でもらえる地図じゃないの!?

[スノーズント] えっ!?

[スワイヤー] アイツ……次会ったら、ただじゃおかないわよ。性根を叩き直してやるわ。

[エニス] ふふん~♪

[リラックスした客] ご機嫌だな、エニス! また来たばっかの観光客からぼったくったのか? いつか痛い目見るぞ!

[エニス] 俺は一般人の金は取らないっすよ。今日は金持ちに出会ったもんですから。

[エニス] その人、例の貿易会社のボンボンと何かビジネスの話をしてたんですよ。どうせこれからここで大儲けするんだろうし、俺はシエスタ市民を代表して、少し還元してもらっただけっす。

[エニス] じゃ!

[興味津々な女の子] これかな?

[興味津々な男の子] 違うみたいだよ、隣の山の形を見てみろよ。峰が三つあるけど、写真のは二つだけだろ。違う気がする……

[興味津々な男の子] もっと探してみよう。

[アデル] 火山警告花……? お母さんのノートで、そのような植物を見たと思います。

[ケラー] シエスタには、古くから火山活動に応じて色が変わる植物に関する伝説があってな。カティアとマグナが初めてここにやってきた時、それを探したことがある。

[ケラー] シエスタ火山が活性化したとの記録がある時期に、山の斜面で大量の花が咲いていたのを目撃した人がいると言い伝えられている。花の色と形はとても美しいが、それは危険を警告するものだ。

[アデル] その花はなくなってしまったんですか?

[ケラー] あくまで言い伝えだ。現実にそういった植物の存在を示す証拠は何も見つかっていない。こうした言い伝えの物語だけでは何も推測はできないな。

[アデル] 植物の生物的状態と、生長環境における源石の活性化具合に関連があるというのは、理にかなった話だと思います。

[アデル] もしその花が見つかれば、火山災害に対する備えが増えるのではありませんか?

[ケラー] かもしれないな。だが他の地域でこの花の情報について聞いたことがない。

[ケラー] シエスタはこういう都市だ、観光客を引きつけるための作り話なのか分からないが、実に様々な伝説がある。

[ケラー] 晴れた日に現れるピンク色の雲だとか、火口の白い崖だとか……真に受ける者は常に存在し、こうした伝説の景色を求めてシエスタにやってくる者は毎年かなりの数に上るよ。

[アデル] たしか先生と私の両親はシエスタで知り合ったんですよね?

[ケラー] ……そうだ。

[アデル] 両親から聞いた話だと、当時二人は火山のフィールドワークに行くつもりでシエスタを訪れたらしいです。そしたら街のとあるカフェで、隣の席で論文を書く学生を見かけたとか。

[アデル] その学生もたまたま地質学の専攻であることに気付いて、興奮してそのままその人を連れて火山に登ったんですよね。

[ケラー] 私の専攻はその時はまだ火山ではなかった……あの火山に登ったのもあの時が初めてだったよ。とてもきれいな景色を見てね、私の論文提出も延期となった。

[アデル] 両親は、いつもあの時のことを懐かしんでましたよ。

[アデル] ケラー先生、できればその時のことを話してもらえませんか? 二人の昔の話をもっと知りたいんです……

[ケラー] ……

学者は視線をそらし、手元の分厚い書類を整理している。思いがけず訪れた思い出に浸る空気は、それほど長くは続かず、すぐに目の前の現実に押し流された。

[ケラー] ……まずは目の前にある仕事に集中しよう、今はおしゃべりの時間ではない。

[カーン] お話中に失礼します、ケラー教授。

[ケラー] シティホールでの会議は終わったか?

[カーン] ビーチを捨てることについての反発が大きいです。シティホールは正確な噴火時期の把握にこだわっていて、提示した予測が正確であることを保証しろと私たちに要求してきました。

[カーン] 要求はきっぱり断ってきました。それは不可能かつ無責任だとね。私たちは正確性の高い予測を出すことに最善を尽くしますが、科学的観測は政府の世論調査に対する責任は負いません。

[ケラー] 私の代わりに雑務に当たってくれてご苦労、カーン博士。

[カーン] 大丈夫ですよ、ヴォルケーノミュージアムはケラー教授が担当するプロジェクトです。私が手伝うのを約束したのは、教授がやるべきことに集中できるようにするためですから。

[カーン] これが全火山学者にとって意義のあることだと信じていますし、同時に――

[カーン] アデル……?

[アデル] カーン先輩!

[ケラー] 忘れていたよ、君たちは知り合いだったな。

[カーン] ……

[カーン] ……もちろんです。

[カーン] 教授がアデルを呼んだんですか?

[ケラー] 博物館の収蔵品にはナウマン夫妻の研究成果も含まれるし、シエスタ火山の噴火も貴重な観測の機会だからね。アデルの意思を尊重したのだよ……

[カーン] ですがこの程度の仕事ならびょう……か弱い子供に加わってもらうまでもないと思いますが。

[アデル] カーン先輩、実は休暇のついでに立ち寄って手伝ってるんです。このくらいの仕事は私にとって負担でも何でもありませんし……

[ケラー] カーンの言うことももっともだな、確かに君の体の状態を無視すべきではない。十分気を付けてくれ、アデル。

[ケラー] 今日はここまでにしようか。カーン博士、アデルを宿泊先まで送ってやってくれるか?

[カーン] ……もちろんです。

[おしゃれな店主] お疲れさん。珍しく店のためにお客さんを呼んできてくれたじゃないか。それ、ご褒美のカクテルだよ。飲んでみな。

[エニス] そんなこと言って、どうせまたオリジナルカクテルの毒見だろ……

[おしゃれな店主] 「サンセット・コットンファズ」って名前にしたんだけど、味はどうだい?

[エニス] うーん……なんか……めっちゃ新しい感じだな。

[おしゃれな店主] 手厳しい評価だね。

[おしゃれな店主] そうだ、さっきのお嬢ちゃんは、あんたの友達かい?

[エニス] あの人は……いや、あの人と友達になる度胸はないな。

[おしゃれな店主] おや、それは残念だね。

[おしゃれな店主] ところで、配達ドライバーにトランスポーター、チケット売りに、少し前は水泳のインストラクターもやってたね。あんたこれで何個目のアルバイトだい?

[エニス] 観光シーズンだからな。この機会に稼いどかないとだろ……

[おしゃれな店主] そんなに急いで金が必要なんて、さては好きな女の子でもできたんだろう。

[おしゃれな店主] もし小遣いが足りなければ、前借りしたっていいんだよ。

[エニス] いや――

[エニス] いいって……ここ数ヶ月の店の売上を見るに、俺の飯代をもらえるだけでも喜ぶべきだろ。本当に余裕があるなら、チビ二人の学校の寮費の心配でもしてやりな。

[おしゃれな店主] バカにするんじゃないよ、これしきのことはね、あたしが昔経験した荒波に比べたらどうってことないさ。

[エニス] またあの話かよ。バーをやる前のあんたはシエスタのロック界のカリスマで、シエスタに来る前はロックンロールでカジミエーシュの民衆を励まして、領主へ反対の声を上げさせたんだろ?

[おしゃれな店主] あら、よく覚えてるじゃないかい。

[エニス] 寝る前におとぎ話を聞かなきゃいけない年齢はとっくに過ぎてるってのに……

[エニス] ところで、相談したいことがあるんだけど。

[エニス] ほら、この店は去年から売上が振るわないだろ。向こうの人工火山温泉の方はなかなか景気が良いって聞くから、それで……

[おしゃれな店主] 待った待った、今度はどんなバカなこと考えてるんだい?

[エニス] ……

[おしゃれな店主] 若いの、あんまり焦るんじゃないよ。あんたはまだ、この店を継いだわけでもないんだから。ここの名義上のオーナーはまだあたしだよ。

[おしゃれな店主] この店は、シエスタで一番イカしたカクテルバーなんだ。ニューシエスタでも何も変わりゃしない、ほんの数ヶ月ぽっち商売が冷え込んでるからって捨てる理由はないよ。

[エニス] 今の状態は一時的なことじゃないんだって……シティホールの役人も何度もここに来ただろ。この通り自体が取り壊されるかもしれないんだ。

[おしゃれな店主] そんなことを言ってる割には、あんた隣の店の看板は喜んで直してたじゃないか……そうだ、あんた、うちの看板だって壊れて何日も経ってるのにどうして直してくれないんだい?

[エニス] 看板を掛けたら、この店が潰れずに済むのかよ……

[おしゃれな店主] あんたね、訪れてもいないことに悩んでるんじゃないよ。今の暮らしは、まだあんたが想像するほど酷かないんだから。

[おしゃれな店主] 悪い方にばっかり考えすぎないで、あんたの年齢くらいの子がやるべきことをやってればいいのさ。

[エニス] ……この件が片づいたら、俺も外に出てみようと思ってんだ。

[おしゃれな店主] いいじゃないか。クルビア、それともヴィクトリアかい?

[おしゃれな店主] もっと遠くへ行ったっていいんだよ、あの人みたいにね。もっと外の大地を見て、視野を広げて、価値観を磨いてこそ、考えることにもより意味が出てくるんだ。

[おしゃれな店主] 前々から言おうと思ってたんだ。あんたくらいの年の子は、あんまり急いで現実的なことにエネルギーを費やす必要はないんだよ。

[エニス] 俺が言いたいのは……少し長い間ここを離れるかもしれないってことなんだけど。

[おしゃれな店主] ちょっと、どうしたんだい?

[エニス] うわ、さっき荷物を運んでる時にぶつけちまったやつだな。そんなにひどくないと思ってたんだけど。

[おしゃれな店主] うーん、今年の夏はちょっと乾燥しすぎてるからね。野菜や果物をたくさん食べな。特製メニューでも作ってあげようか?

[エニス] いつまでも子供扱いはやめてくれって……

[おしゃれな店主] なら人の心配が必要そうな姿を見せるんじゃないよ。他人の世話をする前に、まずは自分が、頼れそうな男になりな。

[エニス] ……分かったよ、母ちゃん。

[アデル] カーン先輩、こんな遅くにわざわざ送っていただいてありがとうございます。

[アデル] まだ仕事が忙しいですよね。ここまでで大丈夫です。あとの道は私一人でも帰れますから。

[カーン] やっぱり……

[アデル] すみません、もう少し大きな声で話してもらえますか? 外が少し騒がしくて、よく聞こえないんです……

[カーン] ……

[アデル] 私を心配してくれたんですか? 大丈夫ですよ、慣れているので日常生活を送るのには問題ありませんから。

[カーン] まさかシエスタで、君と再会するとは思わなかったよ……最近はどうだい?

[カーン] 君の病気は……

[アデル] うーん……どうしても鉱石病の悪化は避けられませんが、総体的に見れば抑えられてますよ。

[アデル] 普段から補聴器は手放せませんし、フィールドワークの時も眼鏡が必要になりますけど……でも慣れてきてますから。そうだ、読唇術もマスターしたんですよ!

[カーン] ……君みたいな若い子にとって、こんな境遇はあまりに不公平だ。

[アデル] 公平も不公平もありませんよ……

[アデル] 私はロドスで、たくさんの感染者を見てきました。中には私よりも若い子もいれば、何も分かっていない小さな子供もいます。自分の命がどこで終わるのかは誰にも分かりません……

[アデル] 少なくとも今、私は明確な理想を持っていますし、私の体もまだ何かを行うくらいには動きます。他の沢山の人に比べて、もう十分恵まれてますよ。

[カーン] 君をロドスに送ったのがまるで昨日のことのように思えるのに、もうこんなに経ったんだね。噂は聞いているよ。今でも火山のフィールドワークに行ってるんだって? しかもますます頻繁に。

[カーン] あんな環境では君は……アデル、君の行動はとても危険だよ。

[アデル] リスクについてはロドスのお医者さんたちも話してくれました。私に残された時間も、大体分かっています……

[アデル] ですが、まだやり残したことがたくさんあるんです……両親の研究をこのまま終わらせるわけにはいきません。私が、このまま終わらせたくないんです。

[カーン] それは君がやらなければいけないことじゃない、君は……病人なんだから。

[アデル] でも、それなら、もし研究をしないなら、私はほかに何ができるんでしょう……

[アデル] カーン先輩、実は私……お父さんとお母さんがとても恋しいんです……

[???] 可哀そうなアデル。君はなぜ厳しい道を進んで選ぶんだい。

[アデル] え? 私はこれが厳しい道だとは思いません……

[カーン] アデル、何言ってるんだい?

[アデル] えっと……あれ?

[カーン] アデル……これだけは知っておいてほしい、私は昔マグナ教授のもとで長年学んでいたんだ。

[カーン] マグナ教授は私が最も尊敬する指導者だった。彼女が私を辺ぴな田舎の町から連れ出して、科学研究の道に導いてくれたんだ。

[カーン] あの人が私の人生を変えてくれた。彼女に出会わなかったら、私は今頃ただ無為に時間を使い切るばかりだっただろう。この恩は、返しきれないほど大きなものなんだ。

[アデル] ……お母さんもよくカーン先輩の話をしてました。先輩は一番見込みがあるって。

カーンは一度言葉を飲み込むように止まり、それからゆっくりと口を開いた。まるで、とてつもなく大きな決心をしたように。

[カーン] だから私は、二人の犠牲が得体の知れない影で覆われうやむやになるなんて、絶対に受け入れられない。

[アデル] カーン先輩、それってどういう意味ですか、よく分からないのですが……

夜風がそよそよと吹き、肌に感じる風の中には、アコースティックギターの音がかすかに混じる。

道の両側の街灯がぱらぱらと灯り始めた。ぼんやりとした光の塊が連なって線となり、街の中心の「火山」を指し示す。さらに遠くでは、温泉の湯気が立ち上って夜空一面を覆った。

アデルは目をこすった。

[カーン] ご両親が亡くなる前の一年ほど君は二人に会ってなかっただろう。

[アデル] はい。当時の二人はいつも忙しくて、大学の研究室に寝泊まりしていたような状態でした。会いに行きたいと言っても、色んな理由で断られていました……

[アデル] 先輩は、あの期間に何かが起きていたと言うんですか?

[カーン] 私は科学者だ。先入観に囚われた推論を重ねて結論を導くのは良くないと理解している。だが疑わざるを得ないんだ……

[???] あーらら、また一人頭が痛くなるほど頑固な奴が出てきたなぁ。

[アデル] えっ……?

[カーン] アデル、私はケラーを信じていない……君も彼女には気を付けるべきだ。

[???] ホントに分からないなぁ。人はどうして自分が知らない物事をもっともらしく議論したがるんだろ? どうして自分の見識を超えた知恵を持っているふりをするんだろう?

[アデル] すみません、カーン先輩……私の補聴器に不具合があるみたいで、今おっしゃったことがあまりはっきり聞こえませんでした……

[カーン] ……すまない、私の方こそ久しぶりに君に会って、ちょっと感情的になってしまった。

[カーン] もう遅いから、早く戻って休みなさい。

[カーン] ……それじゃあ。

[アデル] カーン先輩は、一体何が言いたかったんだろう……

[???] ねぇねぇアデル。

[???] コホンコホン、おーい、聞こえてる?

[アデル] 誰かが私のことを呼んでる……?

[???] やぁ。

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