aklib_story_空想の花庭_HE-3_徒手では天へ還られぬ_戦闘前

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空想の花庭_HE-3_徒手では天へ還られぬ_戦闘前

フォルトゥナの光輪が徐々にその光を失っていく。オレンが修道院内に姿を現す中、レミュアンが怪物の襲撃を受ける。


それは形容しがたい感覚だった。

額から得体の知れないむず痒さが伝わってきて、頭上の光輪が不安定に明滅を繰り返す。

目の前のすべてが、段々と明るさを失っていく。

フォルトゥナの瞳には老いた司教の見開かれた両目が映り、耳には周囲の喧噪が入る。

彼女はこれまでと同じように、目の前の老人の考えを感じ取ろうと試みた。しかし相手の感情が、彼女の心に流れ込んでくることはなかった。わずかな心の動きでさえも──

彼女は、自分以外のサンクタの感情を感じ取れなくなっていた。

もはや、彼らの一員ではなくなっていたのだ。

[クレマン] 堕天……?

[クレマン] どういうことですか……フォルトゥナの身に一体何が起きたというのです? か、彼女は、病気なのですか?

[リケーレ] それは後で説明します。今は目の前の問題に対処しなくては──

[フォルトゥナ] ステファノおじいさん……!

[フォルトゥナ] フィーナを助けて! お願い、あの子を、早く……!

[修道院司教] フォルトゥナ、落ち着いて話しなさい……一体何があったのだ?

[フォルトゥナ] フ、フィーナが、血がいっぱい出てて、どうやっても止まらなくて……助けてくれる人が、いなくて……

[フォルトゥナ] ただ、ただちょっとケンカしただけなのに、フィーナが私の守護銃を渡せって言って。渡してあげればよかったのに……どうして素直に渡さなかったんだろう?

[フォルトゥナ] 悪いのは、全部私なんだ……!

[修道院司教] 大丈夫、大丈夫だ……自分を責めないでいい。

[フェデリコ] 現状から判断するに、これは危害を加えようという主観的な意図を含まない、過失事故だと思われます。

[修道院司教] 執行人! 口を慎みたまえ!

[修道院司教] あなたはこの子が……同胞を傷つけたと非難するつもりか!?

[修道院司教] よくもそのような言いがかりを──

[フェデリコ] ……これが最も合理的な推測です。

[フェデリコ] 戒律がもたらす忌避感は、決して絶対ではありません。衝動的に破ることは、ままあります。それが事故であればなおさら。

[修道院司教] ……ふざけたことを!

[フォルトゥナ] 違うの……その人の言ってることは間違ってない……私が、私が引き金を引いたの!

[修道院司教] フォルトゥナ! だがお前は……

[フォルトゥナ] ……ステファノおじいさん、悪いのは私なの。どんな罰だって受け入れる!

[フォルトゥナ] けど今は……フィーナがケガしてるんだよ! 早く助けてあげて!

[修道院司教] あ、ああ、今すぐに──

[スプリア] 私が行くよ。

[スプリア] 応急処置なら得意だから。どこにいるのか教えて。

[フォルトゥナ] わ、私の部屋に……

[クレマン] 案内します!

[修道院司教] ……

[修道院司教] 頼んだぞ、クレマン。

[スプリア] 無駄話はいいから、早く案内してちょうだい。

[クレマン] こっちです!

[クレマン] 着きました、ここです!

[クレマン] ドアが開いている……

[クレマン] なんて血の量だ……

[クレマン] デルフィナ!

[スプリア] 大声出さないで! みんなに知られたいの!

[スプリア] どいて、私が診てみる!

[スプリア] ……ダメだ。傷口が深すぎて止血できない。

[スプリア] それにこの傷は……

[スプリア] ……

[クレマン] 一体どうすれば?

[クレマン] 花……そうだ! 確か聖堂の花は薬用にも使えると司教から聞いたことがある! き、きっとそれなら……

[クレマン] 今すぐ摘んできます!

[スプリア] やめなさい。

[クレマン] 止めないでください! い、今ならまだ間に合うかも──

[スプリア] 意味ないんだって! たとえ止血できたって、もう間に合わない!

[クレマン] どういうことですか? そんなはずは……

[スプリア] 無駄なんだよ。

[スプリア] 至近距離で弾丸に貫かれて、大量に失血してる。息もしていない。

[スプリア] 蘇生法は試したけど、何の効果もなかった。脈が戻らないのよ。

[クレマン] 呼吸も……脈も……ない……?

[スプリア] おそらく一撃で絶命してる。

[スプリア] この子は、もう死んでしまったの。

[リケーレ] 門は閉じてきた。幸い近くには誰もいなかったようだから、目撃者はそれほどいないはずだ。

[リケーレ] どう対処する?

[フェデリコ] スプリアの処置の結果を待ちましょう。

[フェデリコ] 堕天使の光輪に、色調の変化が現れました。彼女の堕天はかなりのスピードで進行しているようです。

[フェデリコ] 修道院内部の安全を考慮すれば、本日の説教は直ちに中止し、住民たちに漏れないよう情報を遮断した方がよろしいかと思われます。

[修道院司教] ……

[フェデリコ] 一つ提案があります。

[フェデリコ] 不必要な混乱を避けるため、これからしばらくの間、私と私の同僚がこちらの巡回を引き継ぎます。

[フェデリコ] 早急に住民全員を自室に戻らせ、明日の最終決議まで待機させておくべきです。

[フェデリコ] これ以上の突発的な事故の発生を防ぐには、これが最善だと思われます。

[修道院司教] ……執行人よ、修道院の帰属先がまだ決まっておらん以上、ここはラテラーノの領土ではないのだぞ!

[フェデリコ] それは承知しています。

[修道院司教] ……修道院内の問題は我々が自ら解決する。ラテラーノの客人の手を借りるには及ばん。

[修道院司教] あなたも言うように、これはただの事故に過ぎない。デルフィナの容態が不明である以上、すべては単なる杞憂だったという可能性もあり得る……

[フェデリコ] 事故であろうとなかろうと、彼女が堕天しているのは事実です。

[フェデリコ] 堕天使に関する問題は、教皇聖下、及び枢機卿団が直々に判断し、処理する規定があります。

[修道院司教] ……あなたはこの子をラテラーノへ連れ帰るつもりか? だが私はラテラーノの街で頭に角の生えたサンクタなど見たことがない! 一度もだ!

[修道院司教] 教えてくれ、執行人。あなたの言う処理とやらを、私はどうやって信用すればいいのだ?

[リケーレ] なぁ……フェデリコ。一つ言っとくと、お前は今回、教皇聖下からくれぐれも大きな諍いは起こすなって注意を受けてるよな?

[フェデリコ] それが何か? 私は諍いなど起こしていません。

[リケーレ] ああ、いや、つまりだな……その、もう少し穏便な手段を考えた方がいいんじゃないかと思うんだが……

[フェデリコ] ……言っている意味がよく分かりません。

[フェデリコ] ですが、助言には感謝します。

[リケーレ] お前な……はぁ、まあいいや。

[リケーレ] ……ここで言い争っていても埒が明かないと思うぞ。しばらく修道院にいるってんなら、まずどこかでその……フォルトゥナさんを休ませてあげたらどうだ?

[リケーレ] 詳しい状況把握、それと皆が落ち着くのを待とう。具体的な解決策については、その後で話し合っても遅くはないはずだ。

[リケーレ] 司教もラテラーノに対して不信感を抱く必要はありませんよ。過去に似たような例がなかったわけではありませんし、悪意による戒律違反でなければ、厳罰が科せられることもないはずです。

[リケーレ] そうだよな、フェデリコ?

[フェデリコ] ええ。ですが、あなたにその情報を開示する権限はありませんよ、リケーレ。

[リケーレ] 非常時権限ってやつだよ。

[修道院司教] ……

[リケーレ] 両名の意見としては?

[フェデリコ] 私に異論はありません。

[修道院司教] しかし……

[フォルトゥナ] ……ステファノおじいさん、もういいの……

[フォルトゥナ] 私の責任だから……どんな罰だって、私は……

[修道院司教] フォルトゥナ!

[フォルトゥナ] 私を連れて行ってください……

[リケーレ] じゃあ、とりあえずそうさせてもらおうか。

[リケーレ] 俺はフォルトゥナさんを休ませてきます。二人はここで頭を冷やしていてください。

[リケーレ] この部屋は良い感じだな。その……ずいぶん広いじゃないか。

[リケーレ] あまり心配するな。あんたの事情はちょっと特殊だから、教皇聖下自らが事情を訊きに来られるはずだ。わざと傷つけたわけじゃないんなら、重い罰にはならないと思う。

[フォルトゥナ] ……

[フォルトゥナ] ……フィーナは……

[リケーレ] フィーナってのは……ケガをしたサンクタのことか?

[リケーレ] 今のところは容態がはっきりしないが、俺の同僚が処置に当たっているはずだ。前向きに考えよう。ひょっとしたら、それほどひどいケガじゃないかもしれない。

[フォルトゥナ] ……

[フォルトゥナ] この角……

[リケーレ] ん?

[フォルトゥナ] 私の頭に、どうしてこんな……

[フォルトゥナ] サルカズみたいな角が……?

[リケーレ] それか。実のところ、俺も詳しくは知らないんだよ……とにかく、ラテラーノに着いたら向こうの人が説明してくれると思う。

[リケーレ] 今はとりあえず、ここでゆっくり休んでな。

[フォルトゥナ] ……分かりました。

[リケーレ] 俺は部屋の外にいるから、何かあったらノックして呼んでくれ。

[リケーレ] さて……フェデリコの奴は一体どう対処するつもりだろうな。

[リケーレ] ……

[リケーレ] 知ってたか? 俺って実はけっこう繊細な男なんだぜ。背後で誰かがこそこそ動いてたら、つい冷や汗が出てきちまう程度にはな。

[リケーレ] 隠れてないで出てこいよ、オレン。

[???] ......

[オレン] どうやって俺に気づいたのか、聞かせてくれねぇか?

[リケーレ] 単にカマかけてみただけさ。本当に出てくるとは思わなかったぜ。

[オレン] ……そんな言葉を信じるとでも思ってんのか?

[リケーレ] 悪いか? どのみち、結果的にはうまくいったしな。

[オレン] そうかよ、このペテン師野郎め。

[リケーレ] そう言うな。これでもスプリアよりはいくらか誠実だぜ、俺は。

[リケーレ] スプリアの奴はお前んとこの人間だろ? あいつは嘘をついていたからな。

[リケーレ] いや……嘘、とまでは言えないか。話してないことがあるってとこだな。

[オレン] どういうことだ?

[リケーレ] 前にフェデリコがお前に関する質問をした時、あいつは「知ったことじゃない」みたいなことだけを言って、それ以上は何も情報を出そうとしなかった。

[リケーレ] 明らかにその質問を避けていたんだ。

[オレン] ……それだけであいつを嘘つき呼ばわりするってのか? 普通の人はそうは考えねぇと思うが。

[リケーレ] 俺もそういうことが得意だからかもな。それに、ここの状況を鑑みれば、お前がどういった行動を取るかは簡単に推測ができる。おそらくフェデリコの奴も、そのことには思い当たってるはずだ。

[オレン] 食えねぇ野郎だぜ。

[オレン] やっぱ、合間を見てあいつを飲みに誘うべきかもな。

[リケーレ] その後お前は、あいつに教皇庁まで連行されるってオチか?

[オレン] この修道院におわすお方は、お前の想像を遥かに上回る大物だぜ。そんときになったらフェデリコは、案外俺のことを捕まえようって気が失せるかもしれないぜ。

[リケーレ] ……どうやらここには、まだまだ厄介事が潜んでるらしいな。

[リケーレ] それで、お前とスプリアが企んでるのは、具体的にどういったことなんだ?

[オレン] 計画を言えば、手を貸してくれるってのか?

[リケーレ] そうだな……確約はできない。

[リケーレ] ひとまず聞いてからじゃないとな。

[スプリア] フェデリコ、悪い知らせよ。

[スプリア] あっ……待って、今って傍に誰かいる?

[フェデリコ] リケーレならいません。

[スプリア] あいつがいるかどうかなんて聞いてないって!

[スプリア] ……あのフォルトゥナって子が近くにいる?

[フェデリコ] いません。リケーレが居住エリアまで彼女を送りに行きました。

[フェデリコ] 何か発見したことがあるなら聞きます。攻撃を受けた公民の容態については、把握しておく義務がありますので。

[スプリア] ……分かった。ならはっきり言うけど──私たちが着いた時には、もう遅かったの。

[フェデリコ] 死亡を確認したんですね?

[スプリア] 間違いないよ。銃撃による致命傷だった。奇跡でも起きない限り、蘇生の見込みはないね。

[スプリア] そうだ、私と一緒に向かったあのクレマンって人だけど、花を摘みに行きたいって言うから、構わずに行かせてあげた。

[スプリア] かなり動転した様子で出て行ったけど……

[フェデリコ] 花、ですか?

[スプリア] 資料にあった、修道院の特産品ね。もうほとんど残ってないみたいだけど、今は重要じゃない。

[スプリア] 今回の事件は、確かに銃の暴発による過失事故みたいね。あの子、嘘は言ってないよ。それほど重い罪に問われるようなものじゃ……

[フェデリコ] それは教皇聖下が判断されることです。

[スプリア] そうね……モスティマの件でさえ大事にはならなかったわけだし、我らが教皇聖下ならきっと、いつもみたく寛大な心でお許しになるはずだよね。

[スプリア] 後で私からリケーレに、好きに動いていいって伝えとくよ。あの子のことは、むやみに出歩かないように私が見張っとくから。

[スプリア] それから、レミュアンとオレンのことだけど……

[フェデリコ] あなたはオレン・アルジオラスと連絡を取り合っているのですか?

[スプリア] ……私を疑ってるの?

[フェデリコ] 私の判断としてはイエスです。

[フェデリコ] 特に行動を制限されていないにも関わらず、オレンは教皇庁と連絡を取っていません。

[フェデリコ] この件にサルカズが関与している以上、オレンがこの場から離れることはないと推測します。そして彼がここで何かしらの行動を取るつもりであれば、必ず誰かの協力が必要になります。

[スプリア] それで私に疑いが掛かったってわけね……だったらリケーレの方はどうなの?

[フェデリコ] リケーレが単独行動を取っていた時間は、あなたと比較して長くはありません。彼に掛かる嫌疑は相対的に下がります。

[スプリア] あははっ、あなたってほんとに頭がいいね、フェデリコ。

[スプリア] 回答は拒否するよ。全部あなたの憶測で、私が何か言ったわけじゃないもの。

[スプリア] じゃあそういうことで。また連絡するよ。

[スプリア] ああそうだ、司教は今そこにいる?

[フェデリコ] はい。

[スプリア] その……さっきの知らせ、彼にもう一度伝えた方がいい?

[フェデリコ] 必要ありません。

[フェデリコ] すでに聞こえていますから。

[修道院司教] ……デルフィナ……

[修道院司教] この目で……確かめなくては。私自ら……確認しに行かねば……

[フェデリコ] 司教には行動の自由が保証されています。

[フェデリコ] ですがスプリアは判断を誤りません。時間の浪費は避けた方が賢明だと思います。

[フェデリコ] 差し当たっての推測として、オレン・アルジオラスがいまだこの地に留まっており、何らかの計画を企てている恐れがありますので。

[フェデリコ] 今は、彼が失踪前、修道院内に留まっていた期間に取った行動の詳細と、それに加えて直近の修道院内部における人々の行動状況を知る必要があります。どうかご協力ください。

[修道院司教] ……

[修道院司教] 執行人よ、あなたにとって、必要なこととは何だ? 必要か否かをどのように区別しているんだ。

[修道院司教] 同胞の慟哭が聞こえないのか? あなたにとって、感情とはそれほどまでに無価値なものなのか?

[フェデリコ] ……否定はしません。

[修道院司教] だとしたら、あなたに楽園の先導者たる資格はない。

[修道院司教] あなたがラテラーノを代表すると言うのなら……

[修道院司教] ラテラーノなど、信ずるに値せん。

[フェデリコ] ……

[フェデリコ] 私の質問にお答えください、司教。オレンは修道院内で何か異常な行動を取ってはいませんでしたか? 最近修道院内に滞在していた人間は、他にいませんか?

[修道院司教] ……もはや話すことなど何もない。

[修道院司教] 勝手にするがよい、執行人よ。

[レミュアン] ……

[レミュアン] これで終わり、か……

[レミュアン] とんでもなく分厚い手記だったわね。よくも最後の一頁まできっちり埋めたものだわ。

レミュアンは一息つくと、目の前にある飾り気のない古びたノートを閉じた。

表紙の上の、様々な経緯によって刻まれたであろう傷跡を、彼女の指がなぞる。

[レミュアン] もしあの時……

[レミュアン] ……もう、私ったら何考えてるのかしら。

[レミュアン] さて、次は……いよいよ私も動かなきゃね。

[レミュアン] スプリアたちが到着した以上は、もうグズグズしていられないわ。

[レミュアン] あら?

[レミュアン] 外に誰かいるの? 何か用があるんなら、入って来て構わないわ。

[うごめく化け物] ……

[レミュアン] ……あらあら、これは意外なお客さんね。

[レミュアン] ごめんなさい、タイミングが悪かったみたい──今はお茶の用意もしてあげられないのよ。

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