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孤星_CW-10_星間に散る_戦闘前
サリアはミュルジスのもとを通り過ぎ、ついにクリステンの目の前へとたどり着いた。様々な思いが、間違った星の動きのように絡み合う。
[サリア] ――
[統括課職員] こっちだ!
[統括課職員] 彼女を囲め、行かせるな!
[統括課職員] 総員、構え!
[サリア] ……
重力が失われる感覚が再び襲ってきた。
カルシウム結晶が急速に成長し、サリアの手と廊下を繋いでいく。
[統括課職員] 「ディスオーダー」の第二波が来るぞ!
[サリア] ……ディスオーダー?
[サリア] ナスティの傑作か。
[ナスティ] 君は何日も付きまとってきているが、警備課はそこまで暇なのか?
[サリア] お前がライン生命敷地内に施した改築に、以前定めた安全規則に準拠していない部分が十六箇所あった。
[ナスティ] (サルカズ語)「秩序の喪失」だ。
[サリア] ……
[サリア] お前……
[ナスティ] 頭の中に存在する均衡を放棄しろ。混乱に抗うのではなく、そのリズムに合わせるんだ。
[サリア] ……
[ナスティ] 見たいものは見えたか?
[サリア] 主要構造をいくつか再構築したな。一見すると規則性がないようでいて、パーツ間で整合性が取れている。
[サリア] こんな建築が成り立つとは、想像しがたいことだ。
[ナスティ] 直線的な言語は、大方の人間の想像力を制限しているものだ。
[ナスティ] ある未来に到達したいのなら、無理にそのルートを編み出すのではなく、まずその目的地との対話を確立しなければならない。
[サリア] 均衡を……放棄する。
[サリア] 目的地を感じ取って……
彼女は両手を離した。
突然、次の重力変化が訪れる。彼女は天井にぶつかり、その勢いのまま方向転換すると、追っ手たちの頭上を飛び越えていく。
傍らにはカルシウム結晶が浮かび上がり、空中で弧を描いていた。
[パルヴィス] 微生物の構造形態変化のアイデアを応用して、カルシウム元素を操るか……極めて示唆に富んだ試みだね。
[パルヴィス] こうした材料なら転化も早いし、適応性も優れている。人体の各器官と素早く結合できる点を見ても、医学分野での応用に素晴らしい将来性を感じるよ。
[パルヴィス] これは君が大学時代にずっと研究していた分野なんだろう? どうして続けないんだい?
[サリア] ……危険すぎるからだ。
[パルヴィス] それは人工器官の応用における倫理的問題を言っているのかな?
[サリア] それだけではない。
[サリア] 新たな技術が医者の手に渡れば、命を救うことができるだろう。だが犯罪者の手に渡れば、凶器に成り下がることもある。
[パルヴィス] ははっ、忘れるところだったよ。確かに、人体はそもそもカルシウム元素を大量に含んでいるのだったね。
[サリア] ゆえに有効な管理手段が確立されるまで、この研究は中止すべきと判断した。
[パルヴィス] とても残念なことだ。それはわかっているのだろう?
[パルヴィス] 君が考えを変えるのなら、この会社は生命科学に特化した課を二つ持つことができるのに。
[サリア] ライン生命により必要なのは警備課のほうだ。
[サリア] このデータをお前に渡すのは、私の経験に基づいて、嵌合体実験のリスクをより適切に評価してもらいたいと願ってのことだ。
[サリア] あまり行き過ぎるなよ、パルヴィス。一線に触れる代償は誰にとっても高すぎるものだ。
[パルヴィス] では、その一線というのはどこにあるのかな?
[サリア] ……?
[パルヴィス] 無数の研究により、生命の進化というのは初期の学者が考えていたほど順を追って進むものではないとわかってきた。一歩進むごとに振り返っていては、我々はここにすらたどり着けなかっただろう。
[パルヴィス] そして仮に、より高次的な意志を持つ存在が本当にいたとして、それが一線を定め、人類の過去と未来を決めているのなら――
[パルヴィス] そのしもべとなるかそれに反旗を翻すかを決める前に、まず我々は皆その目を直視しようとすべきではないのかな?
[サリア] ……「一線」というのは、今やこの通路のことだろうな。
[サリア] このまま通路に沿って歩いても……永遠にその「目」にたどり着くことはないだろう。
「フォーカスジェネレーター」。
この円形のラボは、誕生した時からすでに人類の認知を覆す準備ができていた。
それはクリステンの夢を実現したものであり、ライン生命におけるほぼすべての主任の英知を凝縮した、コンポーネント統括課の真の作品だ。
サリアは彼ら一人一人の思考習慣を熟知しているが、過去においては自らが同様の方法で思考することなど許さなかった。
[サリア] 無意味なことだ……いや、そんなことはどうでもいい。
[サリア] この壁にはうんざりしていたんだ。
[サリア] 天体観測愛好協会から借りた望遠鏡だが、故障した。
[クリステン] 別にいいわよ。ここなら見晴らしがいいし、肉眼でもたくさん星が見えるから。
[サリア] ああ。ひとまず、最適な位置を見繕って座っていろ。私は望遠鏡を修理してみる。
[ミュルジス] んーと……無敵のサリアさん? すっごく気になってるんだけど、あなたにできないことなんてあるの?
[サリア] 私がこれまでに受けたプライベートレッスンを調べてみるといい。まだ学んでいないことはできない。
[ミュルジス] ……なんて恐ろしい学習マシンなのかしら。
[ミュルジス] うう、それにしても今日は寒いわね……キャンディでも食べる? それかシュークリームとか、ホットチョコレートなんてどう?
[サリア] こんな夜中に甘いものを摂取するのは健康に悪影響だ。
[ミュルジス] つまらないわねえ。
[ミュルジス] クリステン、あの石見てちょうだい。何かに似てると思わない?
[クリステン] ……
[ミュルジス] サリアよ、サリア! こんなに硬い上に「完璧」に輝いてるもの!
[クリステン] ……まるで星みたいね。
クリステンはその輝く石を拾い上げると、高く掲げた。
そして何かと比べるように、石の位置を繰り返し動かしている。
[クリステン] おかしいわね。ここには星があるはずなのに、実際にはない。
[クリステン] あんなに計算したのに……星の軌道が上手く再現できないわ。
[ミュルジス] これだけ失敗しておいて、まだ測定できるって信じてるの?
[クリステン] うーん……どちらかと言うと、私は「信じていない」のよ。
[クリステン] 誰かに言われてきた規則なんて、一切信じていないの。人類が永遠に「星のさや」を突破できないなんて、ましてや星が私たちに見えているような小さなものだなんて信じられないの。
[ミュルジス] あなたまさか、人間が星空高く遠くまで飛べるだなんて思ってないわよね? そんな夢を見るのは子供だけだと思ってたわ!
[サリア] ……子供に詩人、それと科学者くらいのものだろうな。
[クリステン] ふふっ、その通りね。
[クリステン] 科学者は夢が非現実的なものであることなんて信じない。なぜなら彼らは、すべての夢が実現しうるものだということを全人類に証明する人だから。
[ミュルジス] あなたって、本当にそればっかり考えてるわよね。
[ミュルジス] ところでクリステン、あなた本気なの? 我らがラインラボを正式な会社にした時は「ライン生命」って名前にするつもりだって話。
[ミュルジス] あたしの専門は生態学だし、サリアのほうはバイオテクノロジーと微生物学だから、人数的には確かに二対一だけど……あれは冗談で言っただけなのよ。
[ミュルジス] あなたはひたすらに空を飛ぶことだけを考えていた人だし、研究も高エネルギー物理学なのに、「ライン物理」にしようとは思わないの?
[クリステン] ……思わないわ。
[クリステン] 「ライン生命」がいいの。
[クリステン] 私は、私たちの見ている星が一体何なのかを知りたい。
[クリステン] 私たちを覆う阻隔層の外には、何があるのかを知りたい。
[クリステン] ……もし本当に、星々の間まで行き、そこに立って大地を振り返ることができるのなら、私たちが暮らすこの場所が、どんなものなのかを知りたいの。
[クリステン] ……
[クリステン] 私の知りたい答えのほとんどは、「私たち」に関わるものだから。
[ミュルジス] そして、その「私たち」は……みんな、この小さな片隅に閉じ込められている生命だものね。
[サリア] ……
[ミュルジス] それで、あたしの生態研究園に穴を空けちゃうなんて、どう埋め合わせしてくれるのかしら? サリア。
[サリア] お前は初めからクリステンの計画を知っていたんだな。
[ミュルジス] それは「アーク・ワン」のこと? ……それとも、「星の庭」のことかしら?
[サリア] 「アーク・ワン」はもとより軍を欺くためのダミー計画であり、実現不可能な紙くずの山にすぎない。
[サリア] 「星の庭」というのが、このラボ、あるいはこの飛行ユニットの唯一の名前と言うべきだろう。
[サリア] ハッ……確かに彼女が付けそうな名前だ。
[ミュルジス] ええ。彼女の頭にはそれしかないもの。
[サリア] お前はここに再び生態研究園を築いた。クリステンはこの場所と共に阻隔層を突破するつもりか?
[ミュルジス] 彼女にしてみれば、「星のさや」を引き裂くだけじゃ全然足りないでしょうからね。
[サリア] ……間違いなく、そうだろうな。
[サリア] 彼女が見つめ続けてきたのは阻隔層ではなく、その外に広がる前人未踏の領域だ。
[サリア] 彼女は空高くへと、本当の意味で足を踏み入れようとしている。その場所に人類が残せるものをすべて残そうとしているのだろう。
[サリア] そしてその中には……
[ミュルジス] この生態研究園にある、すべての生命も含まれる。
[ミュルジス] 「星の庭」計画のことを初めて聞いた時から、あたしは阻隔層の外の環境にも適応できそうな植物の収集に着手していたの。
[ミュルジス] さっき確認してみたけど、クリステンはここに、753種すべてを置いてくれていたわ。
[ミュルジス] あたし、とっても嬉しいの……もうすぐ、一緒に答えを見つけられるんだもの。
[サリア] お前は、星々の間で生命が存在できるかどうかを知りたいんだな。
[サリア] 中でも……お前自身が。
[ミュルジス] ……そうよ。
[ミュルジス] あたしと、同族の仲間たちは……ますます狭まっていくこの檻の中に閉じ込められている。
[ミュルジス] 時間が流れていくうちに、指の間を抜けていく水のように、吹き抜ける風のように、枯れ萎れていく木のように、この変わり続ける土地の上で消えていく定めにあるの。
[ミュルジス] だけどそんな時、彼女があたしに言ってくれた……
[ミュルジス] 「それなら一緒に行きましょう」って。
[ミュルジス] 「この大地はあなたの帰る場所じゃないけれど、大地の外には……もしかしたら源石に侵されていない空間が、あなたたちを真に受け入れられる場所があるかもしれないわ」って。
[サリア] それは単なる想像にすぎない。
[サリア] これまでには、阻隔層の突破はおろか、接近可能な探査機すらも存在しなかった。ゆえに阻隔層外に源石がないと断言できる者はおらず、ましてや生命が星空の中で生き延びられる保証もない。
[ミュルジス] わかってるわよ。
[ミュルジス] これは夢なの。どんなデータの裏付けもない、検証不足で、これまで受けた科学教育のすべてに反するようなもの。
[ミュルジス] だけど……科学者は夢が偽りであることなんて信じない。なぜなら彼らは、すべての夢が実現しうるものだということを全人類に証明する人だから。
[サリア] クリステンの言った言葉だな。
[ミュルジス] ええ。彼女は何も変わってないわ。
[サリア] ……
[ミュルジス] でも、あたしたちはどう?
[ミュルジス] サリア……
[ミュルジス] あたしたちは……変わっちゃったのかしら?
水流は八方から伸びる手のように、サリアを壁に押しつけた。
サリアは、ミュルジスがこれほど激しい水を作り出すところを初めて見た。それは滝のようでもあり、荒波のようでもあり、幾度も発される叫び声のようでもあった。
カルシウム結晶はサリアの手で生成され続けていたものの、出来たそばから波に洗われて形を成すことができない。
彼女はミュルジスを探し出そうとしたが、繰り返し押し寄せる水流の中、その奥にあたる至る所に、エルフの目が隠されているように思った。
それは静かで悲しい目だ。
水が怒号を放っているが、エルフは涙を流している。
[ミュルジス] あの星の光が輝く夜、あたしは心底……心底から、こんなふうに三人でずっと一緒に座っていられたらと願ったわ。
[ミュルジス] でも、あたしじゃ二人を同時に引き止めることなんてできないの。
[ミュルジス] 三人で踊るダンスなんて……やっぱり難しすぎたのよ。
[サリア] ッ……ぐっ……
[ミュルジス] 彼女を止めるチャンスなんて、与えないわ。
[ミュルジス] だって……ふふっ、二対一だもの。今回は、あたしと彼女が二のほうだけど。
[サリア] ミュル……ジス……
[ミュルジス] 目を閉じて、サリア。寝ていてちょうだい。
[ミュルジス] あなたはとっくに傷だらけだし、疲れ切ってるでしょう。これ以上戦わなくていいの。あたしたちの夢はもうすぐ叶うんだから。
[ミュルジス] 目を閉じていたら、水があなたを連れ出してくれるわ。次に目が覚めた時には、あたしとクリステンはもう終点にたどり着いてるはずよ。
[サリア] ……いいや。
硬いカルシウム結晶は柔らかな水流を無意味に突き刺していたようでいて、その実もう一方の壁へ到達していた。
サリアはわかっていたのだ。まもなく、次の「ディスオーダー」――秩序の喪失が訪れるということを。
[電子音声] 警告――
[電子音声] エネルギーが過負荷状態になりました。すべてのサブ船室重力システム、及びダンパーに故障が発生しています。
[電子音声] ご注意ください。エネルギーが過負荷状態に――
[ミュルジス] えっ……!?
[ミュルジス] どうして……急に……
[サリア] これは急なことではない。
[サリア] お前の言った通り、クリステンは何も変わっていないんだ。
瞬時に重力が変化したことで、荒れ狂う水流は方向を失った。
壁に突き刺されたエナメル質はサリアをしっかりとその場に固定していたが、ミュルジスは水と共に外層へと投げ出される。
[ミュルジス] サリア!
[サリア] お前も相変わらずだな。緊張すると、自分の本体の弱さをすぐに忘れてしまう。
[ミュルジス] うう……やだ、引っ張ってちょうだい! ここを離れたくないの……一人ぼっちで残されるのは嫌よ……
[サリア] すでにエネルギーは過負荷状態だ。
[サリア] 充填が完了すれば、このプラットフォームも崩壊する。たとえ阻隔層への接近ないし突破が叶ったとしても、メインの船室は長くは持たないだろう。
[サリア] クリステンはお前を助けたいんだ。
[サリア] ……私もな。
[ミュルジス] サリアは……
[サリア] ああ。彼女を連れ戻したい。
[サリア] ミュルジス……重力が戻り次第、ここを離れろ。
[サリア] ここからは私たち二人の問題だ。
[ミュルジス] ……サリア!
[ミュルジス] っ! 何かに掴まらないと――
[電子音声] ID認証――失敗しました。
[電子音声] 権限が失効しています。「星の庭」生態研究エリアには、入場できません。
[電子音声] 権限が失効しています。「星の庭」生態研究エリアには、入場できません。
[ミュルジス] サリア! このバカ、石頭、でくの坊! 開けてったら!
[ミュルジス] ……
[ミュルジス] あは……あはは……
[ミュルジス] あたし……また、置いてかれちゃったのね。
[ミュルジス] サリア……あなたは間に合うといいわね……
[サリア] ……
サリアはラボの最奥にあるドアの前に立つ。目標の人物がこの中にいるのはわかっていた。
だが、ドアを破るためカルシウム結晶を凝縮させる前に、ロックは自動的に解除された。
先ほどまでの機械や設備で満たされた空間に比べ、ここは無数の星の神殿のようだった。
球体を構成する金属素材には傷一つなく、柔らかな照明の下で驚くほどの美しさを見せている。
大きさの異なる一つ一つの球体が既定の軌道をゆっくりと移動し、一定の時間ごとに、その軌道が変化しているようだった。
その不規則な動きは、互いに絡み合いながらも、言葉にならない調和を成している。
星の位置であれ、軌道変化の精度であれ、このアーミラリ天球儀はいかなる占星学者の想像をもはるかに超えるものだった。
けれども、そうした星の信徒がいれば、次の瞬間には怒り狂っていただろう。
[クリステン] いわゆる占星学者というのは、盲信的な愚者と同じようなものよ。
[クリステン] 数万年もの間、彼らは星々の軌道の探索に力を尽くしてきた。
[クリステン] 彼らにとって、その軌道の変化はどれも、新たな啓示であり、意味のある前兆だった。
[クリステン] 実際、その行動も理解できないわけじゃないわ。
[クリステン] 星の軌道は予測できないという事実は、多くの人を恐れさせるに足るものだから。
[クリステン] 星々は未知なる存在の手駒であり、その動きや軌道の変化には意味があるのだと信じるほうがずっと安心できるでしょう。
[クリステン] だけど――
クリステンが天球儀に手を伸ばす。
すると、星の庭を覆うドームが突然開いた。
偽物の星の光が、とめどなくラボに降り注いでいく。
クリステンの手が自在に宙を滑れば、天球儀の様子は一変した。
[クリステン] それは偽りであり。
星々の軌道がひどく乱れ始める。
[クリステン] 間違いであり。
いくつかの星が衝突し、それは砕けこそしないものの、ぶつかり合う音が室内の静寂を一瞬破った。
[クリステン] 事実の歪曲なのよ。
しかし、クリステンの眼差しにはまるで変化が起こらない。
まるですべてがそうあるべきとでも言うかのように。
[クリステン] 星々の動きに本当に規則性がないのなら、これまでの長きにわたる歳月を、私たちはどうやってほかの星と衝突せずに生き延びてこられたのかしら?
[クリステン] 私たちはそんなに特別なの?
[クリステン] 私たちの住む土地は一体どんな場所なの?
[クリステン] 私たちはどこへ向かっているの?
[クリステン] ……
[クリステン] こういう疑問は……あなたの前で、何度も口にしてきたわね。
[サリア] ……
[クリステン] サリア、その「星」をそっちに動かしてくれない?
小さな金属の球体がひとつ、サリアの手元を通り過ぎた。
「星」と呼ばれるそれだ。
だが、彼女は星に触れることはなく、軌道から外れていくままにするばかりだった。
[クリステン] 残念だわ。
[クリステン] 阻隔層を突破するまで、この星々をどれほどいじっても、正確な軌道にとどめておくことなんてできないのよね。
[サリア] ……もうやめろ、クリステン。
[サリア] お前がこの星の庭と共に阻隔層にぶつかる前に、引き返すだけの時間は残っている。
[クリステン] 「星の庭」……ここはあなたに語った通りの場所でしょう?
[クリステン] 私がここを作り上げた時には、あなたがライン生命を離れてしまっていたのは残念だったわ。
[クリステン] でも、こうして帰ってくることはわかっていたの。私の夢が実現しようとしているこの瞬間……あなたは必ずいてくれるって。
[クリステン] 立っているのが私のそばであるにしろ――
[サリア] ……
[クリステン] ――私と向かい合う場所であるにしろ、ね。
[クリステン] 今度は先手を取らせてもらうわ。
クリステンが手を上げると、サリアの最もよく知る外骨格操作システムがあらわになる。彼女はそれを軽く握った。
銀色の液体がクリステンの背後にある天球儀から噴き出し、すべての星が一瞬で軌道を離れて、肉眼では捉えられないほどの速度で同じ場所を目指して進んでいく。
銀河全体が、サリアに向かって降り注ぐ。
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