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孤星_CW-9_渦巻く恩讐_戦闘前
フェルディナンドは本心を、パルヴィスは狂気をあらわにした。多くの非難を受けながら、フェルディナンドは動じない。
かつて、この大地では、天を仰ぎ見ることに意味などなかった。
それは観察するにも、探索するにも値しない、幻想を抱く人々の拠り所のようなものだった。
しかし今は、誰もが見上げている。その天と地を繋ぐ光を。
これまで触れられなかった空を、見上げている。
星々の中に、光の流れの中に小さく見える人工物が、この時代の人類の野心を掻き立てているのだ。
[フェルディナンド] クリステン……
[フェルディナンド] やはり君は、早くから計画をしていたのだな。国防部のこれまでの行動などすべて、ただの無駄骨にすぎなかったわけだ。
[フェルディナンド] ハハッ、これは一体どういう原理なんだ? これほどの効率と安定性を誇る、高エネルギー収容場など……聞いたことがない。
[サリア] ライン生命への入社時には、お前は高エネルギー物理学の分野で最高の科学者を名乗っていたように思うが。
[フェルディナンド] ……最高の科学者の一人、だ。
[フェルディナンド] いやはや、なんたることか……
[フェルディナンド] サリア、君は幸運だな。取り組んでいる学術分野にクリステンのような人物がいないのだから。
[フェルディナンド] ひどく不公平な話だよ。その上彼女は……こんな成果を発表しようとさえしないときている。
[サリア] ――フォーカスジェネレーターはエネルギーをチャージしている。
[フェルディナンド] 軍の「ホライズンアーク計画」によれば、チャージが完了し次第、そのエネルギーのフォーカシングと二度目の励起を経てから、広範囲に強力な攻撃を行うことになっていた。
[サリア] そうか。そのチャージにはあとどれくらいかかる?
[フェルディナンド] あの計画書はクリステンによって紙くず同然の物になったからな……長くはかからないだろう、としか言えない。
[サリア] 阻止するなら今が最後のチャンスだな。
[サリア] そしてこれは、彼女を止める最後のチャンスでもある。
[フェルディナンド] ……
[サリア] フェルディナンド。何をぼんやりしている、時間がないぞ。
[フェルディナンド] サリア、あそこの密度計を見てくれ。
[サリア] 針がブレ続けているようだが。
[フェルディナンド] 違う、針のブレ自体は高エネルギー収容場では正常な現象なんだ。私が言っているのは……目盛りが表す単位のことだよ。
[フェルディナンド] これが表している単位は、私のラボにあるメーターの何倍に当たると思う?
[フェルディナンド] 今これが吸収したエネルギーは、クルビアの全移動都市で消費されるエネルギーを少なくとも半年は賄えるようなものだ。
[フェルディナンド] しかも、それでもなお止まる気配すらない。
[フェルディナンド] そして我々は今その膨大なエネルギーを抱えたラボの中心にいる。
[サリア] ……
[フェルディナンド] たとえナスティが天才でも、現在の認知レベルを超えたエネルギーを蓄える容器など作り出せはしない。
[サリア] つまりお前は――
[フェルディナンド] 最終的にどの方向へ照準を合わせるにせよ、二度目の励起が始まればこのラボは難を逃れることなどできないと言っているんだ。
[サリア] 彼女の目標が変わったことなどない。
[フェルディナンド] その目標が本当に空にあるとして、それがこれほどのエネルギーを以て挑まねばならない場所なのだとしたら……
[フェルディナンド] 空には一体何があるのだろう?
[サリア] ……興味は湧かんな。
[サリア] 私にわかるのは、これが軽率で無謀な実験だという事実だけだ。
[フェルディナンド] それも、墜落する定めのな。
[フェルディナンド] サリア。君は今すぐここを離れて景色のいい山でも見つくろい、酒を飲みつつ、クルビアの歴史に永遠に刻まれるかもしれない花火を鑑賞してもいいんだぞ。
[サリア] そうはなりえない。
[サリア] お前はどうするんだ? こんなリスクを負う気などないだろう。
[フェルディナンド] 私か?
[フェルディナンド] どうやら、思ったより早く友人が到着したようでね。
[フェルディナンド] 君の言う通り、私はリスクなど負わない。マニュアルには脱出ポッドの位置が記載されていたし、どこにあるかは把握済みだ。
[フェルディナンド] 私を解雇した人間に会うつもりはないし、君も私の助けなど必要ないだろう。
[フェルディナンド] それに、この規模の高エネルギー物理現象を記録する機会など滅多にないんだ。こんな機会を逃すわけにはいかない。君も次の四半期にはジャーナルで私の新しい論文を目にすることになるかもな。
[フェルディナンド] それはきっと一時代を築く論文になると約束しよう。
[フェルディナンド] クリステンは己の知恵のすべてを個人的な執着に結びつけたが、私は彼女とは違う。
[フェルディナンド] 私は……テラの学界全体を変えるに足る知識をこのまま葬り去ることになど、決して同意できない。
[フェルディナンド] さあ、時間はあとわずかしかないぞ。君は自分の用事を済ませに行きたまえ。
[サリア] お前も無事で。
[フェルディナンド] ……
[ブレイク] フェルディナンド。
[フェルディナンド] 久しぶりだな、大佐。
[ブレイク] 君が生きていたこと自体は意外でもないが、私が君の立場なら、死んだことにでもしておくだろうな。
[ブレイク] そしてここを出て、ヴィクトリアかリターニアにでも向かう。君の能力なら、教職に就くことくらいは容易いだろう。
[フェルディナンド] らしくないことを言うものだな。
[ブレイク] では、はっきりと言おう。もう終わったんだ、フェルディナンド。
[ブレイク] 副大統領とは話したが、国防部は完全に敗北した。
[ブレイク] 本件の挽回がまだ可能か否かも、私の命が誰の手に委ねられるかということも、私は実のところ、もはやそこまで関心はない。
[ブレイク] お互いにメンツを保つとしようじゃないか。潔く退け、そうしてくれれば私もこの矢を自分のために取っておけるからな。
[フェルディナンド] ……何か言ったか? 失礼、聞いていなかった。
[フェルディナンド] ところで、そこを退いていただけるかな。放射線メーターを見たいのでね。
[サイレンス] このエネルギーウェル、思っていたよりもずっと深い……
[サイレンス] 多分、軍はこの構造を完全には把握してなかったんだ。
[サイレンス] 伝達物質の反応が一番強いのは……ここ。
[サイレンス] ……あなたは……
[???] サイレンス、なぜここに?
[サイレンス] パルヴィス……先生……
[パルヴィス] このラボの場所は秘密にしていたはずなんだが、どうやって見つけたんだい?
サイレンスは懸命に目を大きく開けて、室内のものを識別しようとした。
部屋の隅では計器が呼吸にも似た音でうなっており、透明なタンクの中には伝達物質が浮き沈みしている。そしてその反対側には、黒い表紙の本が数冊置かれていた。
その時、サイレンスの存在を感知したように、伝達物質がいくらか活発化した。それに伴い押し寄せる強烈なめまいに、彼女は眉根をきつく寄せ、少しふらついた。
[パルヴィス] ああ、そういえば君も伝達物質を持っていたんだったね……
[パルヴィス] この活性傾向を見るに……自分に伝達物質を打ったのかな? 意外ということもないが。
[パルヴィス] 時々不快感を覚えないか?
[パルヴィス] そうだとしたら、それは正常な反応だよ。私の身体にもこれが注入されているんだが……君たち若者なら大丈夫かもしれないけれど、私のような年寄りにはやはり少々こたえるな。
[パルヴィス] とはいえ、反応プロセスをより適切に制御するにはこうするしかないからね。
[パルヴィス] まあ、大丈夫さ。実験が終われば伝達物質の距離を超越したもつれは失われ、注射を受けた人間の健康状態には影響しなくなる。
[サイレンス] 実験? ここで実験をしているんですか?
[パルヴィス] おや? サイレンス、手を怪我したのかい?
[サイレンス] ……
[パルヴィス] 活動に支障は?
[サイレンス] いえ、大丈夫です。
[パルヴィス] それなら、これ以上は尋ねまい。今が一番大事な時だからね。
[パルヴィス] 君がここを見つけてくれたことは、恐らく本当に、私の役に立ってくれるだろう。
[パルヴィス] 実は先ほども思っていたところだったんだ。もし君がここにいてくれたら、データの処理がもっと楽になるのに、とね。
[パルヴィス] 私は近頃……いや、やめておこう。
[サイレンス] あなたは一体、何の実験をしているんですか?
[パルヴィス] 私が本気で注力している研究は、最初からただ一つだろう。
[サイレンス] ……嵌合体(かんごうたい)実験、ですね。
[パルヴィス] そう、これは嵌合体実験における最終課題なんだ。
[サイレンス] ですが、ここは……
[サイレンス] 先生、この文献は何ですか? この文字は、なんだか……
[パルヴィス] とても「邪悪」な気配がする、と言いたいんだろう? これはサルカズの古い書物でね。枝分かれしたとある種族の「歴史」が記録されているんだ。
[パルヴィス] サルカズの中でもその種族は長い寿命を持つのみならず、肉体の束縛を超越し、純粋な精神だけの状態で存在することができるんだ。
[パルヴィス] それは、「レヴァナント」と呼ばれる種族でね。発音は非常に困難だが、ヴィクトリア語の記録もいくつか見つけることができた。
[パルヴィス] サイレンス。君は、魂のレベルでの嵌合がどのような影響を与えるものかを考えたことはあるかな?
[サイレンス] 魂の……嵌合?
[パルヴィス] この「レヴァナント」のような存在……古代のアーツとサルカズの巫術におけるいわゆる「魂」は、後天的な手段によって生じることはあるのだろうか?
[サイレンス] あなたは――
[サイレンス] 人工的に「意識」を作ろうとしているのですか?
[パルヴィス] やはり君は、一番優秀な教え子だ。
[パルヴィス] 私はこれまで、何十年もこの研究に取り組んできたが、進展はほとんどなかったんだ。フェルディナンドがドロシーと共同で、この特別な「伝達物質」を作り上げたと教えてくれるまではね。
[パルヴィス] その時私がどれほど興奮したか……君には想像もつかないだろう!
[パルヴィス] 「伝達物質」の性質は……人工意識誕生の土壌となるに足るものだということは間違いない。
[パルヴィス] だが、この大地では、どれほど素晴らしいラボを以てしても、ノイズは常に存在するものだ。こうしたノイズに私は長年悩まされてきた……
[パルヴィス] 無論考えられる原因はいくつもある。伝達物質活性化のためのエネルギーが不十分であるとか、ラボの密閉度が足りず、源石が意識の生成と集合を妨げているだとか……
[パルヴィス] しかし、そんなことはもはや重要ではないんだ。すべての問題は今日解決されようとしているんだよ、サイレンス。
[パルヴィス] これは私の最後の研究となる。
[パルヴィス] 最高に理想的な実験環境が整おうとしているんだ。
[サイレンス] 先生……あなたは伝達物質を用いて、「アーク・ワン」の操作精度問題の解消を担っていた。そしてここは……伝達物質の新たなメインコアなんですね。
[パルヴィス] クリステンは危険を承知で望みを実現しようとしているし、自分の仕事に大きな意義があると信じている。同業者の成果を評価することなど好かないが、我々研究者が長年臆病すぎたのは事実だ。
[パルヴィス] 皆凡庸で、退屈で、保守的で、優柔不断だったんだ……だが我々のように知識や能力を持つ人間の使命は、単なる「探求」や「進歩」だけにあるわけではない。
[パルヴィス] 我々は科学を背負い、それに命令され、それに駆り立てられ、強大な魂を以てしなければ担えぬ責務を担うことを求められている。その責務こそ――
[パルヴィス] ――新たな時代を切り開くことなんだ。
[サイレンス] ……「新たな時代を切り開く」?
[パルヴィス] サイレンス……君には、私と共にこの真に偉大な成果の誕生を見届ける資格がある。
[パルヴィス] もうすぐ……もうすぐなんだ。平凡な時代は終わりを告げ、科学の神が在るべき御座に戻る時が来ようとしている。
[サイレンス] ……先生、身体が震えていますよ。あなたのそんな様子を見るなんて滅多にないことです。
[パルヴィス] そうかい? 伝達物質の反応が強すぎるのか……あるいは本当に年を取ったからかもしれないね。
[パルヴィス] だが、君なら理解してくれるだろう。
[サイレンス] ええ、わかります。
[サイレンス] この瞬間を本当に楽しみにしていらしたんですね。
[パルヴィス] 無論だとも。
[サイレンス] では、率直に申し上げましょう。私は、メインコアを破壊するつもりです。
[パルヴィス] ……今、何と?
[サイレンス] 「ここで起きているすべてを止める」と言ったんです。
[サイレンス] 統括の計画も、あなたの野望も、見直す必要がありますから。
[サイレンス] 私がここに来たのはそのためなんです。
[パルヴィス] ……
[パルヴィス] あの子は君の科学への忠誠心を揺るがしたが、私は今でも、君が研究者らしい気質の持ち主だと信じている。
[パルヴィス] だから、君を本気で責めたことなどなかった。
[パルヴィス] だが、今回ばかりは……君がくだらない冗談としてそれを言ったのだとしても、決して容認することはできない。
[パルヴィス] 謝罪と撤回をしてもらおうか。
[サイレンス] ……
[サイレンス] 自分の言葉を取り消すつもりはありません。
[サイレンス] あの当時も今も、自分がしたことを間違いだとは思っていません。あなたたちが本当に求めているのは、好き勝手ができる権力でしょう。
[パルヴィス] ……バカげたことを。サイレンス、君は完全に間違っているよ。
[パルヴィス] 確かに、私が求めているものを権力と言うこともできるだろう。だがそれは、どの研究が重要で、どの研究であれば未来を切り開けるのかを私が知っているからだ。
[パルヴィス] 「科学は大衆のものだ」などと、くだらないことを言うつもりであれば――
[パルヴィス] 断じてそれは違う!
[パルヴィス] いいかね、サイレンス。科学は超人のものなのだ。
[パルヴィス] 凡人は政治家を選ぶことも、リーダーを崇拝することもできるものだが……
[パルヴィス] 唯一、科学に限っては、彼らが手出しできぬ領域なんだ。
[サイレンス] それなら、あなたはどうなんですか? あなた自身は、ご自分が望む「超人」なのですか?
[パルヴィス] 私は……
[パルヴィス] ……私には、もうチャンスはない。
[パルヴィス] けれどもし、私が作り出すこの「意識」が十分に理性的で壮大なものであれば、きっと――
[サイレンス] それは不可能です。
[サイレンス] 人間すら信じていないあなたに、生まれたばかりの意識がこの大地のすべてを超越するなどということが信じられるのですか?
[パルヴィス] 君はわかっていない。
[サイレンス] あなたが嵌合体実験というプロジェクトに心血を注ぎ、バイオテクノロジーで強力な創造物を作り出すことに期待を持ち続けてきたのは……
[サイレンス] 自分の弱さから逃れられないからではないんですか?
[パルヴィス] 私は……!
[パルヴィス] ……サイレンス、そうやって私のことを決めつけないでくれ。
[パルヴィス] これは……自分の凡庸さから抜け出すための、最後の希望なんだ。
[サリア] ……ここでお前たちに――
[サリア] 警備課で共に働いていた元部下に会うことになるとはな。
[???] まったくですね、サリア主任。
[???] でも俺たちは今、コンポーネント統括課に所属してるんです。
[サリア] 「コンポーネント統括課」……か。
[統括課職員] ですから、ここを通すわけにはいきません。
[サリア] 前回よりはマシになったな。
[統括課職員] それはどうも。
[サリア] ……お前たちはクリステンの目論見を知っているのだろう。そんなことをしていれば――
[統括課職員] そんなの知りませんし、気にしてもいません。
[統括課職員] 私の社員番号はご存知でしょう。
[サリア] 011番。あの当時はまだヤラがいなかった。私とクリステンが面接をしていた頃だな、ジェームス。
[統括課職員] ええ。実は当時、他社からもオファーを受けていたんですよ。ヴォルヴォート・コシンスキーにビーチブレラ……でも私は、一秒だってよそに入るか考えたことはありませんでした。
[統括課職員] それは、ずっとサリアさんを、クリステンさんを、信じていたからです。あなたたちは、ほかの連中とは違うと思っていたんですよ。
[サリア] それはお前のエゴでしかない。ジェームス、もうじきこの機体は墜落するぞ。今すぐ脱出ポッドで離脱したほうがいい。
[統括課職員] だったら墜落の瞬間まで待ちますよ。
[統括課職員] だけどその前に、特別な景色を見たくありませんか?
[統括課職員] ナスティさんが言うには……
その時、サリアは廊下全体が動いていることに気付いた。
[サリア] これは――
[統括課職員] ……こんな高さから大地を見下ろすのは初めてです。
[サリア] ――フォーカスジェネレーターが角度調整を始めている。
[サリア] 時間がない、どいてもらうぞ!
[ブレイク] クソッ……どうなってる? 機体が回転しているのか?
[クルビア兵] 恐らく、マニュアルにあった「姿勢調整」かと。これが二次励起の前段階と思われます。
[クルビア兵] 上官、手をお貸ししましょうか?
[ブレイク] ……なぜ通路の扉が閉じた? フェルディナンドはどこだ?
[クルビア兵] 奴は先ほどの隙を見て――
[ブレイク] チッ、奴を追え!
[フェルディナンド] 通路の遮断扉以外に自衛用のシステムはないのか……?
[フェルディナンド] 私なら、ここをパワードスーツで埋め尽くしておくが。
[ブレイク] 動くな、フェルディナンド。
[ブレイク] 観念しろ。
[フェルディナンド] 私はただこれ以上邪魔をしないでもらいたいだけなんだよ、大佐。ここでの一分一秒は本当に貴重だからな。
[フェルディナンド] あなたたちに割いている余力などないんだ。
[ブレイク] 我々は似た者同士だと、冷静に利害を天秤にかけて判断できる理性的な人間同士だと思っていたんだがな。
[ブレイク] どうやら見誤っていたらしい。
[ブレイク] さあ、我々と来い。
[フェルディナンド] 放射線励起の目盛りは1.22か……ここに定数を入れて、公式全体を整える必要があるのだろうな……
[ブレイク] 何を言ってる?
[フェルディナンド] あなたをバカにしているんだよ、ブレイク。
[フェルディナンド] 権力だの勲章だの、国防部での地位だの……哀れにもそういうものから永遠に目が離せずにいるあなたを、あざ笑っているのさ。
[フェルディナンド] 我々は今まさに、人々がほとんど触れたこともない高さに立ち、科学の奇跡に囲まれているんだぞ。ここは手を伸ばすだけで、計器から新たな公式を抜き出せるほどの場所なんだ。
[フェルディナンド] この場所にいると、あなたが執着している栄誉なんてものが、どんなにちっぽけかがはっきりと見えてくる。
[ブレイク] だったら君はどうなんだ、フェルディナンド?
[ブレイク] 君が執着しているものもそうではないのか?
[フェルディナンド] 一つ訂正しておくが、私が見ているのはライン生命ではなく、それが表しているものだ。
[フェルディナンド] ライン生命は私の手段であり、はしごであり、腕でもあるが、目的ではない。
[フェルディナンド] あなたはお忘れかもしれないが、私はこの大地に……いや、今やこの大地と空において、最も優秀な高エネルギー物理学者の一人だと誇りを持って断言できる。
[フェルディナンド] かねてより、私が見ているのは科学そのもの、ただ一つだ。
[フェルディナンド] しかし、クリステンという人は……
[フェルディナンド] これだけのものを創造し、そして使い捨てるなんて、まったく贅沢な天才だ。
[フェルディナンド] 私は彼女に強く嫉妬しているが――
[フェルディナンド] 同時に、これを思うさま享受していることも認めざるを得ない。
[フェルディナンド] さて、そういうわけで今の私には、一分一秒が非常に大切なんだ。わずかな時間であろうとも、あなたのために浪費することはできない。
[ブレイク] 私は君に命令できる立場なんだぞ、フェルディナンド。誰の命令に従うべきかを、そして誰が君に新しいチャンスを与えてやったのかを忘れるな!
[フェルディナンド] 好奇心旺盛な科学者を止める方法をご存知かな? 大佐。
[フェルディナンド] それはその人間を満足させるか、殺すかの二択だよ。
[ブレイク] ……
[ブレイク] いいだろう。
[ブレイク] 奴を始末しろ。時間を無駄にするな。
[フェルディナンド] ああ、それともう一つ。兵士諸君に忠告しておこう。
[フェルディナンド] このフォーカスジェネレーターは二次励起の後墜落する。我々もろともな。
[フェルディナンド] 君たちにとってこのデータは無意味なものかもしれないが、君たち自身の命のほうは……とても重要なものだろう。
[フェルディナンド] 脱出ポッドの場所を知りたいと思うなら、急いで手を下すことはお勧めしないな。
[フェルディナンド] 無論あなたもだ、ブレイク。その矢は取っておいたほうがいい。最後にそれをご自身に向けるか、あるいは直属の上司に向けるかは勝手にすればいいと思うがね。
[フェルディナンド] ただし、私の計器を壊すことだけはやめていただきたい。
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