aklib_story_孤星_CW-5_開く活路_戦闘後

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孤星_CW-5_開く活路_戦闘後

フェルディナンドはある秘密に気付いたが、それを隠すことにした。サイレンスは目的地の場所を見つけ、ホルハイヤは敵を始末して回っている。ローキャンに会いに行ったロスモンティスは、部屋に足を踏み入れ、彼が自分を待ち続けていたことを知った。


[ローキャン] 先ほどはひどく騒がしかったな。大方、そちらのエンジニア課の主任がまた何か送ってきたのだろう。

[クリステン] ……最後の調整作業にはあと四十五分必要よ。

[ローキャン] それで十分だ。

[ローキャン] このデータを送信し終えたら……我が人生で最も革新的な研究が完成する。

[クリステン] あなたの研究記録は残しておくわ。

[ローキャン] ああ。例のホルハイヤという若い娘に渡そうが、あるいはほかの誰かに渡そうが……私は一向に構わない。

[ローキャン] この命尽きようという時に、まだこの研究を完成させるチャンスに恵まれるとはな。あと少しで生涯の心残りを忘れる間際だった。

[ローキャン] はは……ごほ、ごほっ……ごほっ……

[ローキャン] 君に初めてこれを見せられた時は、ひどく受け入れがたく思ったのをはっきり覚えているよ。

[ローキャン] ……はは。

[ローキャン] はは、はははっ……げほ、ごほっ……ごほっ……

[ローキャン] バカげている、あまりにバカげた話だ。君が今、私の前に並べたものは、己を賢いと思っていた、過去数百年の科学者全員を皮肉ってやるに十分なものだよ。

[ローキャン] ……クソッ……これでは我々の研究など無意味に等しいものじゃないか……

[ローキャン] ……

[ローキャン] ……クリステン、これは何なんだ?

[ローキャン] 君はなぜ、実験を一度もしていないにもかかわらず、この原理と結果についてそこまで明言できるんだ?

[ローキャン] これは……この存在は、私の理解をはるかに超えたものだ。そして何より恐ろしいのは、君が語ったこの黒い立方体に関するおとぎ話は、すべて真実であるということだよ。

[ローキャン] 教えてくれ、クリステン……

[ローキャン] 教えてくれ! 私はこれから一体何を研究することになるんだ!?

[クリステン] それはあなたの仕事よ。

[ローキャン] ……どこでこれを手に入れた? この知識はどこから得たんだ?

[クリステン] ……

[ローキャン] クリステン、私はもうじき死ぬ身なんだ。先の短い老いぼれをあまり苦しめないでくれ。

[ローキャン] 君にこれを授けたのは誰だ? 一体誰が、これを与えた?

[クリステン] ……神よ。

[ローキャン] ……

[ローキャン] 若き天才よ、私は君を買いかぶっていたのか? 君までもがそうして訳のわからないことを言って私を煙に巻き、未知に対する無駄な畏敬を抱こうというのか?

[ローキャン] ……いいや。君はそんな冗談で誤魔化そうとする愚者ではないし、希望を嘘偽りの信仰に託すような、恥ずべき行為はなおさらしないだろう。

[ローキャン] ならば君の言う通り受け止めよう。ハッ、なんとも皮肉なことだ。

[ローキャン] 「神」。

[ローキャン] その「神」が私を哀れんでから一ヶ月余りが過ぎた。

[ローキャン] この間に私が成し遂げた仕事は、これまでの数十年に描いた青写真を超えるものだった。

[ローキャン] フッ、私ですら好奇心を抑えきれんよ……

[ローキャン] 君は我々に……この地に生きる人々に、どのような新しき「奇跡」をもたらそうとしているのだろうな。

[クリステン] ……

クリステンは答えなかった。

彼女はただ無言で窓の外に輝く満天の星々を見つめ、思索にふけっている。

[研究員] 退勤まであと三十分以上あるな……まあいい、夜食をどうするかでも考えていよう。

[研究員] ドーナツか、フライド羽獣か……ホットドッグもいいな。

[フェルディナンド] トリマウンツ中がこの場所のせいで混乱に陥っているというのに、内部の人間はここまでのんきにしているとはな。

[研究員] うおっ!? げほ、ごほっ……ど、どなたですか?

[フェルディナンド] エネルギーウェル全体と附属施設の構造図、それとエネルギー効率関係のデータをくれ。

[研究員] ええと、あの……そちらは極秘資料なんですが。

[フェルディナンド] 私の服装と通行証をよく見たまえ。まさか、通信を繋げてブレイク大佐直々に説明してほしいなどとは言わんだろう?

[研究員] と、とんでもない! すぐに整理します。

[フェルディナンド] その必要はない。この端末で開いてくれたらいい。

[研究員] ですが上官殿、これはすべて煩雑な生のデータですし、視覚化されたグラフがないと、しょ、少々理解しづらいかと……

[フェルディナンド] ……私はフェルディナンド・クルーニー。

[フェルディナンド] ライン生命のエネルギー課主任だ。

[フェルディナンド] トリマウンツすべてのエネルギー循環システムは私が設計したものであり、君の前にあるこの大型計算端末のコアプロセッサーに使われている源石エネルギーの変換公式は私の名前を冠している。

[研究員] ふ、フェルディナンド公式の!? では、あ、あなたは……

[フェルディナンド] 私の時間を丸二分も無駄にしてくれたな。データを今すぐに出しなさい。

[研究員] は、はい! もちろんです!

[フェルディナンド] ……

時間は刻一刻と過ぎていく。

フェルディナンドには、今にも軍の車列が通りを走る音が聞こえてきそうに思えた。ブレイクは恐らく、すぐにもクリステンを見つけることだろう。

ならば、できるだけ早く……何をすればいいのだろうか?

[フェルディナンド] ……この部分。それと、こちらの部分も。

[フェルディナンド] この二ヶ所、データの変更が入っていないか?

[研究員] いえ、それはありえません! このデータは即座に軍管轄の研究所に送信しなければなりませんでしたので! あれだけ多くの目をかいくぐって、嘘のデータを送ることなどできるはずがありません!

[研究員] 改ざんをするしないというより、軍を怒らせるようなことをしたら……そんなことをしてしまったら……

[フェルディナンド] ……だが、一致しないんだ。

[研究員] はい?

[フェルディナンド] エネルギーウェルの構造図、エネルギーパイプの割り当て、そして現在の推進装置の能率……すべてに問題があると言っている。

[フェルディナンド] チッ、実に巧妙だな。

[研究員] そんなはずは。あなたの見間違い、あ、いえ、申し訳ありません。あなたはあのフェルディナンドさんですし、間違えるはずありませんよね。

[研究員] となると、正式な発射までにはまだしばらく時間があるからではないでしょうか。現在の計画は実験と建設の都合によるものですし、今後エンジニアの手で再調整されるのでは。

[フェルディナンド] その正式な発射計画というのは?

[研究員] え、ええと……

[フェルディナンド] フォーカスジェネレーターは、エネルギーウェル付近の小型移動区画に建設されることになっている。クリステンは区画全体を盗んだということになるぞ。

[研究員] ですが、推進装置はまだここにあるんですよ! 軍は完成したものも建設中のものも、輸送用の推進器はすべてとっくに管理下に置いているんです!

[フェルディナンド] 仮にこのデータを利用したところで、推進装置の能率自体に問題がある以上、彼女は何も……

[フェルディナンド] いや……

[フェルディナンド] ……

[フェルディナンド] ブレイク大佐に通信を。

[研究員] えっ?

[フェルディナンド] 今すぐに。

[ブレイク] ……フェルディナンド。こんな時に連絡してきたんだ、即刻報告すべきレベルの重要情報を期待するぞ。

[フェルディナンド] よく聞いてくれ。ナスティ・ルノレイはクリステン側の人間だ。彼女が設計した推進装置は、フォーカスジェネレーターを発射するという機能要件を満たしていない。

[フェルディナンド] ジャスティンJr.が、クリステンの真の目的を隠すべく軍の科学者を買収していることは間違いない。彼らは共に……

[ブレイク] つまり、君たちライン生命の全員が、クリステンが犯したと思しき国家反逆罪に加担していると言いたいのかね。

[フェルディナンド] ……

[フェルディナンド] そうではなく……

[ブレイク] どうせならもっと新しい情報を聞かせてもらいたいものだな。

[フェルディナンド] 何?

[ブレイク] 君が寄越した例の研究員が本当に役立つようなら、私はすぐにも盗まれたフォーカスジェネレーターの中からそちらの統括を引きずり出すことができるんだ。

[ブレイク] 言い換えれば、ライン生命内に国の安全を脅かす危険分子がどれだけいるのかを把握するのも時間の問題ということだ。

[フェルディナンド] そうなったら、ライン生命は……

[ブレイク] ほかに、より重要な報告事項はあるかね?

[フェルディナンド] ……

[フェルディナンド] いいや。

[フェルディナンド] あなたの任務達成にお祝い申し上げよう、大佐。

[フェルディナンド] データファイルを閉じてくれ。

[研究員] はい。それで、あの……ほかに何か、ご入用のものはありますか?

[フェルディナンド] 点検用の飛行ユニットはないか? フォーカスジェネレーターの理論上の浮遊高度に近付けるような物がほしいんだが。

[研究員] あります!

[フェルディナンド] では、それを貸してもらいたい。

[研究員] ですが、推進装置の問題で、フォーカスジェネレーターは飛べないはずだと仰いませんでしたか?

[フェルディナンド] ……本当に、そうなのだろうか?

[フェルディナンド] (小声)思えば君の言う通り、初めは共にこの道を選び、足を踏み入れたのだ。

[研究員] はい?

[フェルディナンド] いや、君の言う通りだと言ったんだ。私も間違う時はあるだろう。

[サイレンス] 伝達物質が激しく反応してる。前方に……大量の伝達物質があるのを感じる。

[ブレイク] ……ここは単なる市街地のはずだろう。

[クルビア兵] はい、大佐。前方に下水処理施設と大型のゴミ捨て場があり、住民はごくわずかですが。

[ブレイク] つまり、クリステン・ライトはフォーカスジェネレーターを別の建築物に隠しており、我々はそれを見つけ出せなかったというのか。

[クルビア兵] 恐らく、ターゲットはこの近辺にジャミング装置を設置しているものと思われます。以前捜索部隊がこのエリアを通過した際は、何も異常な電気信号を感知できませんでしたので。

[ブレイク] *クルビアスラング*な科学者どもめ、手間をかけさせてくれる。

[クルビア兵] 人員を一斉に投入して、しらみつぶしに探しましょうか?

[ブレイク] ダメだ、時間がかかりすぎる。敵の警戒を招きかねんしな。

[ブレイク] 君なら正確な位置を特定できるのだろう?

[サイレンス] そちらの神経電気刺激発生器を貸してもらえたら。

[ブレイク] 使い方はわかるのか?

[サイレンス] これはライン生命が開発したものだったかと。

[ブレイク] ……どこまで行っても、君たちと無縁ではいられんな、まったく。ほら、彼女に貸してやれ。

[クルビア兵] はい、上官。

[サイレンス] 機械を起動したら、経頭蓋への電気刺激が、私の体内にある伝達物質の共振反応を誘発します。

[サイレンス] その特性上、付近にある伝達物質も強烈な同期反応を起こし、結果あなたたちが持つ通常のセンサーでも検出できるようになるはずです。

[ブレイク] では、早速始めてくれ。

[サイレンス] ……

[クルビア兵] 測定値が……上昇しています! 反応の方向も鮮明になりました!

[サイレンス] 出力をもう10パーセント上げてください。

[クルビア兵] ええと……

[サイレンス] ッ……うう……っ!

[クルビア兵] てんかんの前兆が出ています! 大佐、私が代わりましょうか? パワードスーツなら操作したことがありますし、身体に遠距離アーツユニットを埋め込んでいますから。

[ブレイク] 彼女が注射したのは359号基地の伝達物質でな。それ以外のものでは反応しないんだ。

[サイレンス] つ……続けてください。

[サイレンス] 私は……大丈夫ですから。

[クルビア兵] 出ました! 信号、安定しています!

[クルビア兵] 正確な座標を大佐及び全指揮官の端末に同期しました!

[ブレイク] よろしい。フォーカスジェネレーターの位置はこれで明白だ。

[ブレイク] 戦闘員は準備完了次第、全速力で指定座標へ向かえ!

[サイレンス] はぁ……う、っ……

[ヤラ] 顔中が汗まみれよ。ほら、これで拭いて。そのままじゃ前が見えないでしょ?

[サイレンス] あ……ありがとうございます。

[サイレンス] ヤラ主任は、あの軍人たちに……何もされませんでしたか?

[ヤラ] そうね、普通に会話をしただけよ。

[サイレンス] でしたら……あの人たちに何か話したんですか?

[ヤラ] ……何も。

[ヤラ] 私は本当に何も知らないの。笑っちゃうでしょう? クリステンが私を理解しているように、私もクリステンのことを理解している。だからわかるのよ。

[ヤラ] 私が、クリステンが危険を冒すことには同意できないのと同じように……あの子も、私があの子のために自分の晩年を捧げることを拒んだの。

[サイレンス] 統括は幸運な人ですね。あなたのような人がそばにいてくれて。

[ヤラ] 幸運、ね……

[ヤラ] それは違うわ、サイレンス。私にはそうは思えない。

[ヤラ] 私にとってクリステンは、意気軒昂で底知れないライン生命統括なんかじゃなくて……あの頃のままの、何があっても頭を下げようとしない頑固な子に見えるのよ。

[ヤラ] ……あの子も私も、二十年前のあの日から抜け出せていないのかもしれないわね。

[サイレンス] それは……統括のご両親が、飛行中事故に遭われたあの日ですか?

[ヤラ] あの日の空は晴れ渡っていたはずだった。

[ヤラ] 私が感じているのは、無念かしら。それとも後悔かしら。

[ヤラ] それを感じる原因は、私が夫婦の飛行計画を注意深く確かめることなく、みすみす二人の末路を見届けてしまったからなのか……

[ヤラ] あるいは事故のあと、まだ多感なあの子が夫婦への誹謗中傷にさらされる中――政府や資本家たちが、わが身可愛さにそれを止めようともしないあの状況を想像もしていなかったからか。

[ヤラ] ……違うの。どれも違うのよ。

[ヤラ] 私にとって唯一の失敗であるにせよ、あれはあくまで単なる失敗。経験豊かなエージェントにとっては大したことでもないわ。

[ヤラ] それでも、あの子の目が忘れられないの。空から落ちてきたあの火はそのまま彼女の目の中に灯ったかのように、今でもずっと燃え続けている……

[ヤラ] それから幾度の夜が過ぎたけど、その火は繰り返し私の夢に現れるのよ。

[ヤラ] 私には、それが再び消えてしまうのを黙って見てはいられない。

[サイレンス] あなたは……統括のために、マイレンダー基金を離れたんですね。

[ヤラ] 科学者が被験者に個人的な感情を抱いたら、その人はもはや単なる科学者ではなくなるわ。そういうものでしょう?

[サイレンス] ……

[ヤラ] サイレンス。この気持ちを一番深く理解してくれるのは、あなただと思うわ。

[ヤラ] 母親になったことなんてないけれど――

[ヤラ] 私には、我が子と呼べる子がいるの。

[クルビア兵] 大佐、第三・第四小隊は全員揃いました。

[クルビア兵] 目標の建物に異常はないようです。現在、付近に武装兵力がないかをスキャンしています。

[クルビア兵] 待てよ、上空のあれは……! マイレンダーのドローンだ!

[クルビア兵] *クルビアスラング*なエージェントめ! 人員を送ってこないと思えば、こっちの飛行ユニットを追跡してたのか!

[クルビア兵] それだけの実力があって、なぜあいつらはこの区画の問題にもっと早く気付かなかったんだ? まさかわざと先延ばしにしておいて、こちらが事を終えたらおこぼれにあずかろうとでもいうつもりか?

[ブレイク] マイレンダーの監視の目は本当にどこにでもあるな。

[ヤラ] この二十年で、クルビアは急速に変化してきた……

[ヤラ] かつて私がライト夫妻のような人たちのそばにいたのは、科学の進歩に反対する陰謀論者から守るためだったのだけれどね。

[ブレイク] ハッ……偉大なるマイレンダーも予測を見誤ることがあるのだな。

[ブレイク] あの狂った科学者たちを見ろ。今や奴らこそが最大の脅威だ。

[クルビア兵] 大佐、マイレンダーから通信です。

[クルビア兵] 彼らはドローンのデータを共有してきました。目標の建物から10キロ以内にある生命反応は十に満たない数のようです。

[ブレイク] ……クリステンが消える前、我々は精鋭部隊を一つ費やして彼女を見張らせていたんだ。

[ブレイク] ただの科学者とその協力者数名が、こちらの特殊部隊数十名を始末したとでもいうのか。

[クルビア兵] もしや、場所を間違えたのでは……

[サイレンス] ……いいえ。

[サイレンス] 私の知る統括なら……それができます。

[ブレイク] ……

[ブレイク] 総員注意しろ、決して警戒をおこ――

[ブレイク] 何事だ?

[クルビア兵] 報告! 前方にある何かに衝突したようです!

[クルビア兵] いえ、センサーには何も表示されていないのですが……

[クルビア兵] そうか、これは……風だ! 風で作られた壁にぶつかっているようです!

[クルビア兵] 飛行ユニット――体勢維持不能!

[クルビア兵] 現在急速に落下中! クソッ……地上から五百メートル、四百、三百五十――

[ブレイク] どけ、私がやる!

[クルビア兵] 大佐、あれは……あれは建物の外壁です! このままではぶつかります!

[???] 一つ目。

[クルビア兵] 何が起きてるんだ!?

[クルビア兵] あれは……大佐の飛行ユニットだ! 十時の方向、ビル群に墜落――第三小隊、ただちに救助を!

[クルビア兵] 敵はどこだ? 空から来たのか? なぜマイレンダーのドローンは警告してこなかったんだ!

[クルビア兵] 違う……! 通信がすべて途絶えている!

[クルビア兵] マイレンダーの目が……ひとつ残らず、失われたのか?

[???] 二つ目。

[クルビア兵] マイレンダーとの通信が完全に切断されただと!? *クルビアスラング*、あいつらの装備は最先端なんだろう!?

[クルビア兵] 敵だ! 大量の敵が出現した! 数は十体――いや、もっといる!

[クルビア兵] 大佐への連絡を急げ! 我々は待ち伏せされていた!

[沈黙するパワードスーツ] ――

[クルビア兵] 多すぎる! 倒し切れんぞ!

[クルビア兵] ごほ、ごほっ――! 守りを固めろ!

[クルビア兵] マイレンダーの連中、生命反応は十未満だと言ったよな!? データが間違ってたのか!? それとも俺たちが騙されたのか!?

[クルビア兵] うっ――!

[ブレイク] ……データが間違っていたわけではない。

[クルビア兵] 大佐! よかった……! ご無事でしたか!

[ブレイク] 隊形を整えろ。

[ブレイク] 第三・第四小隊は先に非戦闘エリアへ撤退し、遮蔽物を見つけろ。パワードスーツ隊を前に出すんだ。

[ブレイク] 総員に告ぐ――

[ブレイク] 敵は最新鋭の無人式パワードスーツだ。

[ホルハイヤ] はい、これで三つ目ね。

特殊構造の壁にあらゆる叫び声が阻まれて、室内にはその音は入ってこない。だが、監視モニターに映る場所はすべて、爆発に伴う炎で満たされていた。

それでも、ホルハイヤはモニターには目もくれない。最初の獲物が罠へと足を踏み入れた時から、彼女は両目を本へ向けたまま視線を離さずにいた。

そうしてただ退屈そうに尻尾を振り、ボタンを次々に押しては、そう遠くない場所で演じられているアクションシーンの演出をしている。

[ホルハイヤ] ……どこへ行くの?

[ローキャン] 最後の望みを叶えに行くんだ。

[ホルハイヤ] また誰かに会いに行きたいっていうの? あなたを助ける余力はないし、外で死ぬことになるわよ。

[ローキャン] ごほ、ごほ……げほ、ごほごほっ。

[ホルハイヤ] 任務を終える前に死なないほうがいいと思うけど。

[ホルハイヤ] でないと――

[ローキャン] 私からあれを奪うことはできんぞ。

[ローキャン] あれはまだ正常には起動しない。ごほ、ごほっ……早まったことをすれば、君とて惨めな死を迎えるだけだ。

[ホルハイヤ] わかってるわ。そう何度も警告してもらわなくて結構よ。

[ローキャン] これは……死にゆく人間からの、ささやかな忠告だと思ってくれ。

[ローキャン] 君はまだ若い。迫る終わりに伴う狂気など、その顔に表れるべきものではないよ。

[ホルハイヤ] 残念だけど、時間は不公平なものなのよ。さあ、行きなさいな、お爺さん。死があなたを迎えに来る前に、最後の夢を見にいくといいわ。

[ホルハイヤ] おやすみなさい。

[ホルハイヤ] 私も……最後に残った面倒事を片付けないとね。

ホルハイヤは本を置くと、尻尾を使って本の山からあるものを引っ張り出した。

それは金属でできた頭だ。

彼女はそれに軽く息を吹きかけ、白んだ吐息が金属の殻を抜けていくのを見つめる。それはどこへ行くでもなく、すぐ霧散していく。

[ホルハイヤ] マイレンダーのエージェントと特殊部隊が共同戦線を張るなんて、珍しいこともあるものね。

[ホルハイヤ] 親愛なる上司さんは本当に生き返らないおつもりなのかしら?

[ホルハイヤ] それじゃ、このあとの一番面白いシーンを見逃すことになるわね。

[サイレンス] げほ、ごほっ……ごほごほっ、ごほっ……敵は……何者……?

[ヤラ] マイレンダーの目をすべて、それも瞬時に無効化できるのは、内部の識別コードを把握している人間だけよ。

[サイレンス] では、マイレンダーの人まで統括についているということですか?

[ヤラ] ええ、私も今確信を得たわ。私の後を継いでクリステンのことを監視していたのは、マイレンダーの上級エージェントで、コードネームはホルハイヤというのだけど、彼女も裏切っていたのね。

[サイレンス] ホルハイヤ?

[ヤラ] ……「昨日」。

[ヤラ] 「ホルハイヤ」という言葉が意味するのは「昨日」なの。本当のところ、これは彼女のコードネームではないのかもしれないけれど、かといって本名かどうかを知る人間もいないわ。

[ヤラ] 一年前、クリステンが彼女をライン生命に連れてきたの。私に対しては、ライン生命が新たに招いた文献学の顧問だって言ってね。

[ヤラ] 私は彼女を調査したわ。でも、ほとんど収穫はなかった。

[ヤラ] 無論、マイレンダーが大半の資料を隠したのは事実でしょうけど、私からすればそんなことは問題にもならない。それでも、情報は得られなかったのよ。

[サイレンス] では、マイレンダーですら彼女の過去を調査できなかったということですか?

[ヤラ] 彼女は、本当に過去から現れたかのような人物なの。その知識も能力も、そしてアーツも……すべてが現代の技術とはほとんど繋がりがないのよ。

[ヤラ] こんな話を聞いたことはあるかしら? この地がまだ荒野だった頃のとある伝説よ。

[ヤラ] 「彼女はリーベリであり、フィディアでもある。」

[ヤラ] 「彼女は夜風に乗り、星と踊る。」

[ヤラ] 「彼女は、この大地において空の力をいまだ失わざる最後の神民なのだ。」

[パワードスーツ兵] 進め!

[パワードスーツ兵] 隊形を保ち、互いに援護しろ!

[パワードスーツ兵] 上空に注意! ――敵影、急速に接近中!

[パワードスーツ兵] 狙え――!

[パワードスーツ兵] ビームガン照射……なっ、そんな!? どうして動かない!? 武器を攻撃されたのか!?

[パワードスーツ兵] いや、武器は正常だ! 何か起きてるのは……空のほうか!

[パワードスーツ兵] 空間自体が未知の力の干渉を受けているような――

[パワードスーツ兵] うわっ!

巨大な力が兵士を強く引っ張った。

こんなにも硬い金属の殻を身にまとっているにもかかわらず、彼はその時、自分が裸の赤子同然に弱く無力であるように感じた。

兵士は思わず無意味に手足を動かしたが、自らの身体も、それを包むパワードスーツもうまく操れはしない。

そうしてプラスチックのおもちゃのごとく吹き飛ばされて、彼は同僚と――もう一体のパワードスーツと衝突させられた。

スーツは砕け、その間から銀緑の影が抜けていく。

立ち込める煙の中、揺れ動く一つの人影がゆっくりとこちらに近づいてきた。

[クルビア兵] げっほ、ごほっ……う、ごほっ……!

[クルビア兵] G212α-13、パワードスーツを放棄する! こちらで敵を発見した! し、支援を要請する――

[パワードスーツ兵] 了解、向こうの人数は?

[クルビア兵] ひ……ひと……

[ホルハイヤ] ……一人よ。

[ホルハイヤ] ごめんなさいね。あなたたちが立ち向かうべき相手は私一人なの。

[ホルハイヤ] さて、投降する時間をあげたほうがいいかしら?

[ミュルジス] んー……着いたみたいよ。

[ミュルジス] 目の前にあるこれが、クリステンがローキャンのために用意した隠れ家ね。

[ドクター選択肢1] 地下を何時間も歩かされたな。

[ドクター選択肢2] 通路の果ては案外普通だな。

[ドクター選択肢1] ところでミュルジス、この情報はどこで?

[ミュルジス] それは……えーっと、真っすぐな性格のエンジニアの友達がいて、うまいことお願いしてみたの。

[ミュルジス] それにしても、ここの臭い……いい香りとは言えないわね。

[ミュルジス] クリステンの奴、本当に相変わらずだわ。彼女って、一度実験に没頭したら周りがゴミ捨て場同然になろうと一切お構いなしだもの。

[ミュルジス] 前なんて、彼女の服さえあたしとサリアで選んであげてたのよ。サリアのほうが彼女よりファッションに気を遣ってたの! それにね……

[ドクター選択肢1] ここはもう軍に見つかっているのか?

[ドクター選択肢2] 向こうは交戦中のようだ。

[ミュルジス] いけない、急がないと時間がなさそうね!

[ドクター選択肢1] 時間?

[ドクター選択肢2] 慎重を期すべきじゃないか?

[ミュルジス] だって……ローキャンは数百年級の懲役刑を食らってる重犯罪者なのよ。ロスモンティスを彼に会わせたいのなら、あいつらより早く着かないと!

[ミュルジス] あたしたちが彼と一緒にいるのを軍とマイレンダーに見られたら、言い訳のしようがないでしょ?

[ドクター選択肢1] ロスモンティス……

[ドクター選択肢2] ロスモンティス?

[ロスモンティス] ……

[ミュルジス] 子ネコちゃんったら、どうしたのかしら? ぼんやりしてるみたいだけど、何か考え事?

[ドクター選択肢1] 彼女は本来、戦場の環境に敏感なはずだ。

[ドクター選択肢2] 何かほかの要因が、彼女の思考を妨げているらしい。

[ミュルジス] じゃあ、とりあえずドクターはこの子を見てて。あたしはこの建物に入る方法を考えるわ……ええと、水を操って通気口から入って、隔離ドアの電気回路を解除すれば……

[ドクター選択肢1] ミュルジス、その必要はなさそうだ。

[ドクター選択肢2] ロスモンティス、ドアが開いたぞ。

[ミュルジス] これが……

[ドクター選択肢1] クリステンはここにラボを作っていたんだな。

[ドクター選択肢2] ローキャンのラボか。

[ロスモンティス] ローキャン……

[ロスモンティス] この場所、覚えてるよ。

[ロスモンティス] 私の記憶の中にはないし、この廊下を歩いたこともないけど……私の目が、耳が、口が、感情が……全部が言ってるの。似たような通路を歩いたことがあるって。

お帰り、ナルシッサ。「私たちの家」へ、そして君のために用意した法廷へようこそ。

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