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孤星_CW-3_表舞台と舞台裏_戦闘後
裏をかきあった末に勝利を収めたのは、ロドスの助力を得ていたマイレンダーだった。騒動がひとまず収束したところで、サリアとイフリータはサイレンスと出会う。
[ジャクソン] 「テクノロジーはクルビアの未来だ」という言葉は、ホラ話でも宣伝文句でもないようですね、ヤラ主任。今日は初めて科学の授業を受けた子供のような気分で、本当に目を見張るばかりでした。
[ジャクソン] どうにも時間が短すぎて、まだまだ興味深いプロジェクトがたくさんあるというのに、説明を聞けなかったのが残念です。
[ヤラ] またおいでください、ミスター・ジャクソン。ライン生命はいつでも喜んでお迎えしますよ。
[ジャクソン] ありがとうございます。本日は大勢の方々におもてなしいただいて……あなたにご迷惑をおかけしていなければいいのですが。
[ヤラ] 恐れ入ります。私は案内役を務めさせていただいただけですから、お気になさらず。
[ジャクソン] いやはや、まさか一世を風靡したマリアンナ・ブレイク女史自らガイドを務めていただけるとは思いもしませんでした。トリマウンツでの旅は収穫ばかりですよ。
[ジャクソン] 実を言いますと、私もあなたのファンでしてね。
[ジャクソン] オフィスの壁にはあなたのデビュー作のサイン入りポスターを貼っているんです。
[ヤラ] まあ、本当ですか?
[ジャクソン] ええ。なにせ、あれが妻からの就任祝いだったくらいですからね。はははっ。
[ジャクソン] さて、パヴァール。ライン生命がD.C.で申請している新しい研究開発基地の件について、D.C.政府の審査の進み具合を気にかけておいてもいいかもしれません。
[副大統領秘書] はい、メモしておきました。
[ジャクソン] では、本日はこの辺りで失礼します。
[ヤラ] ええ。このあとのトリマウンツでの旅が、順調なものでありますように。
[ジャクソン] ……
[ジャクソン] ありがとうございます。
[ジャクソン] 今日はなんとか雨に降られずに済みましたが、今後も晴れてほしいものですね。
[記者] 急げ急げ、シャッターチャンスだ……
[記者] 副大統領、今回のライン生命訪問はいかがでしたか?
[ライン生命職員] 皆さん、副大統領は十分間のインタビュー時間を設けてくださっていますので、焦らず落ち着いて、順番に質問をお願いします。
[記者] ……
[ミュルジス] 聞き間違いじゃないわよ。拍手をしているの。
[ミュルジス] メディアが記事にどういう見出しをつけるかは想像に難くないわ。大方「副大統領とライン生命主任、和やかに会談」とか、「副大統領の訪問がライン生命台頭を後押し」とか、そんな感じでしょう。
[ミュルジス] イベントは無事に終了して、現場は異常なし。副大統領は十分後にライン生命を離れる予定よ。
[ミュルジス] ドクター。
[イフリータ] 地図は受け取ったぞ、ドクター。
[イフリータ] つまり、地下に直接通じる秘密の通路があるのに、それはミューからもらった図面にも載ってねーってことなんだよな?
[イフリータ] よっしゃ、オレサマに任せとけ!
[イフリータ] オマエとロスモンティスはパワードスーツとドンパチやってるってのに、オレサマはこの接続階で半日も待ちぼうけで暇してんだ。ここには怪しい奴どころかだーれもいねーしよ……
[イフリータ] え? サリアがこっちに来んのか?
[イフリータ] だとしても先に地下に行かねーとな。副大統領があと何分かで出発するって話だし、リスクは早めに排除しとくべきだろ。
[イフリータ] (小声)連絡は以上。イフリータ、行動を開始するぞ。
[工作員A] 戻った。
[工作員B] 上はどうだった?
[工作員A] 地上階までは行ってないからよく聞こえなかったが、特段騒ぎは起きてなさそうだ。
[工作員A] 多分、うまくいかなかったんだろうな。
[工作員B] じゃあ、こっちはどうする?
[工作員A] 俺たちは予定通り計画を実行しよう。大佐の命令通り、信号干渉はオンにしたし、ほかの奴の支援には行かない。
[工作員A] フェルディナンドが提供してくれた侵入経路は巧妙に隠されていたから、この場所には誰も来ないだろう。次の行動時間を再確認しておくよ……うん、もうすぐだな。
[工作員A] 爆薬のほうは準備したか?
[工作員B] さっきお前が状況を確かめに行ってる間に仕掛けておいた。改造プラスチック爆弾が二つもあれば、この階の漏洩防止装置を破壊するには十分だろう。
[工作員B] しかし、フェルディナンドも容赦ないよな。これはエネルギー課専用の液化源石ガスパイプだって話だろ? あいつ、ライン生命に戻るつもりじゃなかったのか?
[工作員A] 大佐が仰るには、あいつも今はこっち側につくしかないんだと。
[工作員B] にしても、今さらこんな爆発起こす意味なんかあるのかねえ……
[工作員B] 副大統領はもうライン生命を離れてるはずだろ。ビルの地下にあるパイプを爆破したとして、ケガなんて負わせられるのか?
[工作員A] 大佐にはお考えがあるんだよ、俺たちは命令通りやればいいんだ。
[工作員A] 誰だ?
[工作員B] ……子供?
[イフリータ] ドクターの情報通りだな。マジで誰かいるぞ……
[イフリータ] おい、オマエら。ここでこそこそ何してんのか知らねーが、今すぐ降参した方がいいぜ。
[ブレイク] 何? 全部隊の通信が途絶した?
[クルビア兵] ……はい。いずれも突然連絡が途絶えてしまいました。
[クルビア兵] 現場の状況を見るに、副大統領とその側近も、記者たちも……誰も変わった反応はしていませんし、恐らくこちらが送り込んだ人員はすべて、実行段階に移る前に制圧されたと思われます。
[クルビア兵] これに加え、ライン生命内部での我々の作戦行動にも混乱が発生しており、パワードスーツによる妨害も受けたという報告もありました。
[ブレイク] ……フンッ。
[クルビア兵] 各通路の監視カメラの信号も次々に遮断されています。
[クルビア兵] 大佐、このままでは我々は現場を掌握しきれなくなります。
[ブレイク] ……
[ブレイク] 我々が綿密に立てた計画も、マイレンダー基金からすれば欠陥だらけというわけか。
[ブレイク] まあ、そもそもこの暗殺計画は急ごしらえのものだ。対応されても不思議ではない。
[クルビア兵] では……撤退しますか?
[クルビア兵] 向こうの反応速度を思うに、ここが見つかるのも時間の問題では……
[ブレイク] 焦るな。
[ブレイク] 副大統領は「優秀な研究員たちと交流する」と言っていたし、私もその希望を叶えてやるつもりでいたんだがな。
[ブレイク] C1、C2のほうはどうなってる?
[クルビア兵] 信号は安定しており、今も指定座標にとどまっています。
[ブレイク] ライカー、コントロールパネル右上についているスイッチの電源を入れてくれ。
[クルビア兵] はい。
ブレイクが電源を入れろと言ったそれは、ロックが付いた旧式の安全弁と、ごく普通のスイッチに見えた。
兵士がパスワードを入力すると、その透明なロックが外れて、赤いスイッチがさらけ出される。
[クルビア兵] 大佐、これはなんでしょう……?
[ブレイク] 爆弾の遠隔起動スイッチだ。液化源石ガスパイプの遮断構造を爆破するために用意した。
[クルビア兵] ……!
[ブレイク] モニターを見ろ。フェルディナンドが提供した侵入経路の情報によると、ライン生命ビルの西側には、エネルギー課専用の液化源石ガスパイプが数本ある。
[ブレイク] ライン生命エンジニア課の仕事は実に丁寧でな……
[ブレイク] 防護装置に加え、一定範囲内に地下遮断構造が増設されていて、特殊な材料を使用することで、液化源石ガスが漏洩しても爆発の連鎖は防げるようになっている。
[ブレイク] 当初の計画では、この遮断構造を爆破して液化源石ガスを漏洩させることで騒動を引き起こし、地上部隊がジャクソンに接近するチャンスを作り出す予定だった。
[ブレイク] だが偶然にも、ジャクソンの車列が通る予定の帰還ルートには、件のガスパイプラインと交差する点が一カ所あるんだ。
[工作員A] 君は……ライン生命の職員か?
[工作員A] なかなか強気に見えるな……警備課には気性の荒い連中も多いとは聞いているが、こんな小さな子供を雇うなんておかしいだろ……
[イフリータ] ……
[イフリータ] 降参したほうがいいっつってんのに、何おしゃべりしてんだよ。
[イフリータ] まあ、オマエらをケシズミにしないように、ちゃんと手加減してやるよ。ドクターとサリアも、オマエらみたいな悪者を自分で取り調べしたいとか、証人にしたいとか都合があるかもしれねーし。
[工作員B] 待ってくれ、君が持ってるのは……火炎放射器か?
[工作員B] 危ないぞ! この周りには液化源石ガスのパイプが張り巡らされてるんだ!
[イフリータ] ……
[イフリータ] そういうことか……
炎の如きサヴラの子は、一秒もかからず判断を下し――火炎放射器のロックを締めると左の男に思い切り投げつけた。
そして次の瞬間全力で右へと突っ込んで、男の頬に拳を振るう。
それは炎が明滅するような素早さで、一仕事終えたイフリータはパンパンと手をはたいていた。
[イフリータ] ……
[工作員A] ぐっ……
[工作員B] っ、鼻が折れてそうだ……
[工作員B] 君、早くこの場を離れなさい……
[イフリータ] ん……?
[イフリータ] 何の音だ?
[イフリータ] まずい、こいつなんかのスイッチを……
[イフリータ] タイマーか! あと一分もねーぞ……!
[クルビア兵] そんな……C1とC2は戻ってこられるんですか……?
[ブレイク] 上官たちには私のほうから、彼らを含め今日殉職したすべての戦友に勲章を授与していただけるよう申請するつもりだ。
[クルビア兵] ですが大佐、副大統領の車列には、五台の車両と十人以上の随行員も含まれています。それにもし、ライン生命の職員や記者、通行人が付近にいたら……
[ブレイク] 命令に従え、ライカー。
[クルビア兵] その……
[ブレイク] スイッチは私が押す。それがここに立っている私の任務だ……君はC1とC2からの爆破信号を受信したら即座に私に報告しなさい。
[ブレイク] ――将来私は軍事裁判にかけられ、決められた通り、あるいは道徳に基づいて裁かれることになるかもしれない。だが、その時は自己弁護などせずに受け入れよう。
[ブレイク] だから今は、自分の部下の説得に時間を浪費させないでくれ。
[クルビア兵] ……わかりました。
[クルビア兵] 信号を受信しました!
[クルビア兵] 副大統領の車列も、間もなくライン生命西側の指定エリアに到達します。
[クルビア兵] ……大佐?
[ブレイク] ……
ブレイクがそのスイッチに手を置けば、ひやりとしたものが瞬時に指を駆け上がり、彼は二秒ほど動きを止めた。
兵士が上官をちらりと見やると、サングラスの奥に見える眉根はきつく寄せられている。
ふと、兵士は気付いた。実のところ上官のほうが、自分よりも張り詰めた気持ちでいたことに……
[ブレイク] (小声)*クルビアスラング*!
ブレイクはスイッチを押した。
一部のモニターに爆発の映像だけが流れる。音はしなかった。
その小さな画面の中、一瞬で崩れ落ちる街路は発泡スチロールのようで、炎はもはやただの白い光と映っていた。そうして画面は突然消えた。飛んできた瓦礫でカメラが壊れてしまったのだろう。
この場は無音であるにもかかわらず、ブレイクとその兵士には、耳をつんざく爆発音が聞こえたような気がした。
[イフリータ] ――
[イフリータ] この方向なら、地上は近いはずだけど、石壁が完全に道塞いじまってて見えねーな……
[イフリータ] おい、二人とも大丈夫か?
[イフリータ] クソッ、爆発が連鎖してやがる……
[???] イフリータ!?
聞き馴染んだその声は、爆発の余波と崩れ落ちる土石の音を突き抜けてイフリータの耳に届いた。
[イフリータ] サリア!? ここだ、こっちだ!
[サリア] わかった……もう少し持ちこたえろ!
[サリア] お前の居場所は特定した!
イフリータはかすかに震えるサリアの声をはっきりと聞いた。暗闇の中で何かが彼女の指に触れる……それは、サリアのアーツがもたらすカルシウム結晶のように思えた。
硬い結晶は、流れる水の如く瓦礫の隙間に沿って素早く結合すると突然広がり、音を立てて周囲の構造物を押し出した。
サリアは崩れた地下構造に、狭い通路を無理やり作り出したのだ。
その隙間から手が差し伸べられ、イフリータは飛び上がって掴む。すると力強く地上へと引き上げられて、背後で通路はバラバラに砕けていった。
[サリア] じっとしろ。
[イフリータ] 大丈夫だって、ちょっと汚れただけだから。
[サリア] その顔……泣いていたのか?
[イフリータ] な……泣いてねーし! ちょっと焦っただけだよ!
[サリア] そうか。
[イフリータ] あーもー、サリアの手だって灰まみれだぞ! そうやって拭けば拭くほどオレサマの顔につくだろ!
[サリア] ……ああ、すまない。
[サリア] ところで、この二人は?
[イフリータ] 地下で爆弾仕掛けてた連中だよ。液化源石ガスのパイプを爆破した犯人だから、とにかく連れ出してきたんだ。
[イフリータ] でも、爆発までは止められなくてさ……
[サリア] お前は十分よくやってくれた。
[サリア] ……本当に。
[イフリータ] ……
[サリア] イフリータ、何を見ているんだ?
[イフリータ] ――サイレンス? なんでここに?
[サリア] ……サイレンス。
[サイレンス] あなたたちこそ、どうしてここにいるの?
[ヤラ] 副大統領、ミスター・パヴァールも。お待たせしました、お車へどうぞ。
[ジャクソン] 先ほど出発した車列はどうなったのでしょう?
[ヤラ] ご安心ください、パワードスーツが数体壊れただけです。
[ジャクソン] ……
[ヤラ] この自家用車はエンジニア課が改造したもので、地味ではありますが安全性には万全を期しています。
[ヤラ] お手数ですが、ミスター・パヴァールに運転していただいて、ライン生命ビル東側の特別通路からお帰りいただけたらと思います。すでに新たなルートは確保しておりますので。
[ヤラ] 随行員の方々につきましては、事が片付いてから数回に分けてお帰りいただく予定です。
[ジャクソン] あなたたちは、今の爆発まで想定していたのですか?
[ヤラ] いいえ。事前に情報を得ていたのであれば、この規模の爆発の発生は防いでいます。
[ヤラ] ただ、副大統領がお住まいに戻られるまでは、ライン生命とマイレンダーの仕事は続いているというだけのことです……向こうの計画がいくつもあるように、我々にも対応策はいくつもありますから。
[ジャクソン] なるほど。
[ジャクソン] そういえば、明日の新聞で「トリトンの二の舞」などという見出しを見たくはないのですが……
[ヤラ] 記者のほうには手配済みですので、ご安心ください。
[ヤラ] では改めて、このあとのトリマウンツでの旅が、順調なものでありますように。
[ジャクソン] ありがとうございます。
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