aklib_story_紅炎遣らう落葉_CF-7_心刺す棘_戦闘後

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紅炎遣らう落葉_CF-7_心刺す棘_戦闘後

未来はかつて村に起きたことを語った。その後、ある出来事から怒りを露わにしたリオレウスは火を噴きながら鉱床を飛び出していく。そしてその衝撃に伴って鉱床中の源石が活性化し、予定より早く天災が呼び込まれてしまった。その頃森では、獣たちまで暴れだし――ヤトウと老狩人は危機的状況に陥る。


[学者アイルー] 坑道の中がこんなふうになっているとは思いませんでしたニャ。なんだか火山地域と似てますニャ。

[学者アイルー] ん? なんだか尻尾があったかいような――ニャニャ!

[学者アイルー] あつあつ! あちちだニャ!

[学者アイルー] ニャアア~! わたしの尻尾が燃えてますニャ!

[ノイルホーン] あんたが鉱床を閉鎖したい理由はわかったよ。確かに、ここの状況は俺らが見たらすぐさま採掘を止めさせる方法を考え始めるくらいには深刻だ。

[ノイルホーン] 過剰なくらいに源石を掘り出して、加工所まで建ててんのに、専用の機械を使ってすらいねえみたいだし……

[ノイルホーン] こうなってくると、一つの村の制御下に収まるような話じゃねえな……

[ノイルホーン] 採掘をするなら、きっちり防護策を取らねえと……活性源石が漏れ出して、それはいずれ天災を呼び込んじまう。

[ノイルホーン] だが、一つわからねえのが……

[ノイルホーン] あんたの話じゃ、ここで採掘を始めたのは七年前だったよな? その主導者は今の村長の滝居さんだって話だったが……

[ノイルホーン] たった七年で……ここまで進められるもんか? それとも、まさかこの坑道が勝手にできてたってのか?

[滝居未来] 半分当たりだね。

[ノイルホーン] っていうと?

[滝居未来] この坑道は人力で掘ったものじゃなくて、採掘が始まる前からあったものなんだ。

[滝居未来] 七年前の獣災のこと、話したでしょ?

[ノイルホーン] ああ、とんでもねえ獣災が起きたって言ってたな。狩人だった柏生明……あの爺さんの息子が犠牲になったんだろ。

[滝居未来] そう。あの獣災が起きたのは、ここで採掘を始めたせいなんだ。

[学者アイルー] ウニャッ!

[ノイルホーン] 学者先生、大丈夫か?

[学者アイルー] 平気ですニャ。ただ、なにかが足に引っかかって……

[学者アイルー] ニャ!

[学者アイルー] ほ、骨ですニャ!

[ノイルホーン] 数が多いな……こっちが牙で、そっちが……爪か?

[学者アイルー] 何年も前からここにあったみたいですニャ……

[学者アイルー] どうやらこの形を見るに、大型の肉食系の生き物のようですが……初めて見ましたニャ!

[学者アイルー] この鱗のついた生物は、前足が発達していて、長く鋭い爪も持っていたようですニャ……もしかすると、穴掘りが得意だったのかもしれませんニャ!

[滝居未来] これは鎧爪獣(がいそうじゅう)だよ。

[滝居未来] 蒼暮山地の原生生物で、社会性を持つ捕食者だったの。こういう地下に自分たちの巣を作っていたんだ。

[滝居未来] つまり、この鉱床は昔、鎧爪獣の巣だったってわけ。彼らが長いこと源石鉱脈の中を行き交って、立派な宮殿を築き上げてたからこそ今の坑道があるんだよ。

[ノイルホーン] だが、俺たちはその鎧爪獣を見てないぜ。ここでも、森の中でも。

[滝居未来] ……七年前に、いなくなっちゃったからね。

[ノイルホーン] いなくなった?

[学者アイルー] 一匹残らず……ですかニャ!?

[滝居未来] うん。鎧爪獣が最後に遺せたものなんて、この骨くらいのものだろうね……

[ノイルホーン] そりゃどうして……一体何が起きたんだ?

[滝居未来] 順を追って話そうか。……この源石鉱床が発見されたばかりの頃、明兄さんは採掘に反対してたんだ。

[滝居未来] 鎧爪獣の巣を壊せば何か悪影響が出るかもしれないし、源石採掘自体も危険だって言ってね。

[滝居未来] だけど、ほかの村人はみんな……叔父さんまでもが、村の厳しい状況を改善するには、採掘で得られるお金が必要だと思ってたんだ。

[滝居未来] そして、採掘をなるべく安全に進めるために、叔父さんは手段を選ばなかった……それでほかの狩人と一緒になって、巣の中にいた鎧爪獣を全部始末してしまったの。明兄さんには秘密でね。

[滝居未来] その結果、仲間を失った鎧爪獣たちは、村人たちの蛮行に怒り狂って森で暴れ回り……当時の獣災はそれが原因で発生してしまった。

[ノイルホーン] ひでえ話だ……採掘なんかのために、罪のない命を山ほど奪ったってのか。

[滝居未来] ……叔父さんの態度は見てるでしょう?

[滝居未来] 多分、叔父さんはリオレウスのことを、奪った命が形を変えて戻ってきたものと思ってるんじゃないかな。……きっと、明兄さんの死に様が何度も夢に出てるんだと思うよ。

[滝居未来] 自分の弟子で、仲間でもあって、狩人としての意志を最後まで貫いたその人が……自分のせいで亡くなったんだから。

[滝居未来] それに、明兄さんの言ったことは現実になってしまったし……そういう意味でも、恐れを抱いているんだろうね。

[ノイルホーン] 自分のせいで、って……明は村を守るために亡くなったんだろ?

[滝居未来] ううん、違うよ。獣災の進行方向は村じゃなかったし、明兄さんが見つかった場所は村から離れた、鉱床近くの場所だったから。

[滝居未来] 明兄さんは獣災にしても異常なくらいたくさんの獣に囲まれて、恐ろしい襲われ方をしたんだ。

[滝居未来] ……あ、ほら、着いたよ。

源石が密集した、溶岩流れる坑道で――

天空の王者が頭を上げる。

小さな鬼は底を見つめる。

彼らの目には、互いの姿が映っていた。

[ノイルホーン] おいおい、*極東式感嘆スラング*……!

[滝居未来] 見ての通り、リオレウスは大量の源石で自分を囲んでるの。

[滝居未来] 近付きすぎないように気をつけてね。今すぐの対処はしないって決めた以上は、刺激したくないし。

[滝居未来] うっかり怒らせたりしたら、大変なことになるからね。

[ノイルホーン] わかった。学者先生も……って、あれ? どこ行った?

[学者アイルー] 源石を使って……巣を作ったということですかニャ。

[学者アイルー] 想像もしていませんでしたニャ。

[ノイルホーン] あの様子……苦しんでるように見えるが、源石のせいか?

[学者アイルー] そうかもしれませんニャ。周囲に漂う源石粉塵が、さっきより増えてますしニャ……

[学者アイルー] あのリオレウスはもう、特大の感染源になってしまってますニャ。飛んでいった先々に、源石粉塵を振り撒いてしまいますからニャ。

[学者アイルー] 思うに……リオレウスが鉱床に来たのは、生存に適した環境を求めてのことだったのでしょうニャ。この見知らぬ大陸で生き抜こうとしているんですニャ。

[学者アイルー] けれど、この場所では身体に源石が付着するのは避けられないことですニャ。

[学者アイルー] 森へ食糧を探しに行った際に噴いたブレスが、身体についた源石を活性化させ、その源石が粉塵となって拡散してしまった……というところでしょうニャ。

[ノイルホーン] あいつも源石の被害者ってことか……

[学者アイルー] ノイルホーン……本当に、あのリオレウスを討伐せねばならないのですかニャ?

[ノイルホーン] ……源石を振り撒いちまう状態で放っておくのは危険すぎる。村と俺たち自身の身を護るためには、あいつを狩るのが最善だろうな。

[学者アイルー] では、もしあの源石に対処できれば……ああ、もっと時間が欲しいですニャ! 双眼鏡で細かく観察すれば、きっとほかにも方法が……

[学者アイルー] きっと……何か、何か見つかるはずですニャ……!

[学者アイルー] ニャ? あの痕跡は……?

[ノイルホーン] 学者先生、戻れ! 近付きすぎだ! その辺、地盤が緩んでるぞ!

[学者アイルー] ニャ?

[学者アイルー] ニャニャッ!

[ノイルホーン] っ、つ、掴まえた……!

[学者アイルー] ニャアア、怖いですニャ! 絶対手を放さないでくださいニャ!

[学者アイルー] もう! どうして早く注意してくれなかったんですかニャ!?

[学者アイルー] ……今の、見ましたかニャ?

[ノイルホーン] ……おう。

[学者アイルー] 双眼鏡が……リオレウスの頭に落ちましたニャ。

[ノイルホーン] だな。

[学者アイルー] り、リオレウスの口から、火が漏れ出てますニャ!

[滝居未来] 早く離れて! この辺はもう崩れちゃうよ!

[学者アイルー] に、逃げましょうニャ!

[ノイルホーン] 走れ!

[滝居未来] 鉱床の源石が全部活性化なんてしたら……予測してたよりずっと早くに――

[滝居未来] 天災が来ちゃう!

空は黒い靄に覆われ、川と山とがひび割れていく。

風が立ち、山が叫び、火焔は紅い波となる。

草木は灰燼と化し、生命は炭となっていく。

堅い扉は砕かれて、家々は崩れ落ち――

万物が逃げ惑う中、天より災厄が降りてくる。

[ヤトウ] ぐっ――はあっ、はぁっ……

[ヤトウ] 機敏な動きだな……なかなか攻撃が当てられない……!

[柏生義稜] お前の洞察力が足らんだけだ。弱点を狙え。奴の下あごだ、あの部分は柔らかいからな。

[柏生義稜] そこを貫いて――こうだ。これで、喉を掻っ切れる。

[ヤトウ] ……わかった。

[ヤトウ] (狙いを定めて――六段斬りを!)

[ヤトウ] 効いた! ――あっ……!

[柏生義稜] この畜生、これでも喰らえ!

[ヤトウ] うわっ――

[ヤトウ] やったな!

[オトモアイルー] お二人とも、後ろだニャ!

[柏生義稜] 何? クソッ!

[ヤトウ] (ここは……二段斬りだ!)

[柏生義稜] ふん……

[ヤトウ] 礼は不要だと言っておこうか。

[ヤトウ] しかし、今のは……急に手の力が抜けたような……

[オトモアイルー] ……波の如く絶え間なく押し寄せる竜の群れ……昔、旅の途中で、ある村にそういった現象があるとは聞き及んでおったが、まさかここで体験できるとは……ニャ。

[ヤトウ] 獣災が落ち着く兆しはないが、ここで身動きを取れずにいると、いずれ力尽きてしまいそうだ。突破口を探さなければ。

[ヤトウ] ……あそこに大きな木がいくつもある。あのてっぺんまで登れば、進行方向を見極めて、群れを避けることができるだろう。

[柏生義稜] 良い方法を思いついた。

[ヤトウ] ……これは?

[柏生義稜] 獣を引き寄せる粉だ。お前らは知ってるはずだろう? 奴を呼び出すためにこれを角獣に使ったんだが……量が多すぎたせいで、暴れさせちまったからな。

[柏生義稜] 実際これを人間に使ったことはないし、そんなのは自殺同然だってことはわかってる。だが今は……こいつらの動きを確実に変えるには、これしかない。

[ヤトウ] だが、それでは……

[柏生義稜] この粉を塗った奴は、獣どもに囲まれるだろうな。だが、突破口を開けるなら、そうする価値はあるだろうよ。

[ヤトウ] そんなことはさせられない。……縄はまだあるな?

[鍛冶屋アイルー] たくさん作っといたニャ!

[ヤトウ] よし、これなら長さは問題ない……数人分の体重にも耐えられるだろう。あの大樹に引っ掛けてうまく使えば、囮になった人を連れ戻すこともできるはずだ。

[ヤトウ] 私が奴らを引きつけるから、あなたは……

[柏生義稜] いいや、囮は俺が引き受けよう。

[ヤトウ] ダメだ、危険すぎる。あなたが犠牲になったら、私が助けに来たこと自体意味を失ってしまうんだぞ。

[柏生義稜] 俺には、囮になったお前を助け出せる自信はない。だが、逆なら何とかなるだろう。

[柏生義稜] お前になら俺を救えるはずだ。違うか?

[ヤトウ] ……わかった、そうしよう。

[柏生義稜] 来い、畜生ども! こっちだ!

[柏生義稜] そうだ、それで良い。俺を追ってこい!

[ヤトウ] 今だ!

[ヤトウ] (――突進連斬!)

[ヤトウ] はあッ!

[オトモアイルー] 無事突破できた……ニャ!

[ヤトウ] 柏生さんを連れ戻すぞ! すぐに縄を掛けてくれ!

[柏生義稜] こいつら、狂ったような勢いで襲いかかってきやがるな。

[柏生義稜] ――獣災の向きが……本当に変わった。不思議なもんだ。

[柏生義稜] さすがにこの数相手はどうにもならんが……

[柏生義稜] あの日……あの夜……七年前の獣災も、こうだった……

[柏生義稜] なあ、小僧……お前は、こんなふうに死んだのか?

[柏生義稜] お前も……こんな光景を見てたのか?

[柏生義稜] こいつらがお前を取り囲んで……牙が目の前に迫り、その口から流れ出るよだれすらもよく見えて……

[柏生義稜] きっとそうだったんだろう。自分の矛を振るって、獣を殺し続けたんだろう……

[柏生義稜] だが、いくら仕留めようと、こいつらはまたやってくる。

[柏生義稜] ぐっ――はアッ! さっさと消えろ!

[柏生義稜] 忌々しい……奴らの目に映るお前はもはや生き物じゃなく、食い物でしかなかった。お前もきっとそう感じたはずだ。

[柏生義稜] それでも、お前の性格を考えると……どうせ何も言わなかったんだろう。

[柏生義稜] 矛を掴む力すら失うまで、戦い続けたんだろう。

[柏生義稜] そして岩に背をもたれ、ゆっくりと倒れこもうとした時……奴らはそんなことお構いなしに、お前に襲いかかったんだ……!

[柏生義稜] ああ……きっと、そうだったんだな……

[ヤトウ] 柏生さん! 私の手を掴め!

[ヤトウ] 何をしているんだ、急げ!

[ヤトウ] よし、そのまま掴んでいてくれ。

[ヤトウ] ――縄を引いてもらえるか!

[ヤトウ] やっと、切り抜けたな……

[オトモアイルー] 待たれよ、ヤトウ殿。向こうだ、木がなぎ倒されているニャ!

[ヤトウ] ……

[オトモアイルー] さっきより多くの獣たちがこちらに向かってくるぞニャ!

[ヤトウ] くっ……! 何か切り抜ける方法は――

[オトモアイルー] ……! 今度は群れが散っていくニャ!

[オトモアイルー] ニャ……空から、音が――

[オトモアイルー] ! リオレウスが空を飛んでおるニャ! あれは……

[柏生義稜] クソッ!

[ヤトウ] 天災が……

知恵なきものが万物を飲み込もうとしているかのように、狂える風が火焔を巻き込み、天地を貫いた。

燃える渦の至る所で、大樹が木くずと化し、山すらも石と砕かれていく。

どんなに勇敢な戦士も抗うことはできず、どんなに敬虔な祈りも届きはしない。

訪れしものは、この大地の裁きなのだ。

[ヤトウ] 衝撃に備えろ! 下へ跳ぶぞ!

[ヤトウ] 皆、無事か?

[柏生義稜] ああ、問題ない。

[オトモアイルー] ワシも無事だ……ニャ。

[柏生義稜] 燃える空に、真っ赤な火柱……まったく大した状況だな。

[ヤトウ] この光景……似たような記録をロドス本艦で読んだことがある。

[ヤトウ] 天災が引き起こした暴風は山火事を飲み込み、猛火の嵐へと転じて辺りを焼き尽くしながら進んでいくという。

[ヤトウ] その上、この一帯は森林だ……大惨事になるぞ。

[ヤトウ] なぜ……天災の訪れが早まったんだ?

[柏生義稜] あの暴風の近くに……鉱床があるからだ。

[ヤトウ] 鉱床だと!?

[ヤトウ] ――!

[???] 喰らいな!

[ノイルホーン] おっ! やっぱりここだったか! ほら見ろ学者先生、俺の言う通りだったろ?

[ヤトウ] ノイルホーン、無駄話はよせ。後で状況報告をしてもらうからな。

[ノイルホーン] はいよ、ちゃんと覚えてるって。

[滝居未来] あれっ、柏生さん! どうしてここにいるの?

[柏生義稜] それを聞きたいのはこっちだ、未来。

[ヤトウ] 現状、これを手放しに幸運だとは言い難いが……天災が来たお陰で獣の群れから逃れることができた。

[ヤトウ] 村の状況は不明……天災の中心はまだ遠く、移動速度もそう速くはないものの、獣災のことを思うと……

[ヤトウ] なるべく早く村に戻らなければ。何か良い考えはないか?

[滝居未来] あ、この近くなら……あれを使えば、びゅーんってすぐに山から下りられるんじゃない?

[柏生義稜] あれか……大分前から放っておかれているが、まだ使えるのか?

[ノイルホーン] その「あれ」ってのは何のことだ?

[滝居未来] トロッコのこと! 採掘を始めたばかりの頃、山を楽に登れるように敷かれたんだけど、洞窟が使えるようになってから放置されてるの。

[滝居未来] でも安心して、絶対まだ使えるから。だって、あれはあたしが最初に設計した作品だしね。

[ノイルホーン] 生態学者がトロッコの設計なんかやってるのか? 逆に不安になってきたぜ……

[ヤトウ] 柏生さん。この先の戦いはさらに困難を極める。心の準備をしておいてくれ。

[柏生義稜] 今度は休んでろと言わないんだな。

[ヤトウ] あなたがそう望むなら、もちろん尊重するが。

[柏生義稜] ほう?

[ヤトウ] 私は、時折自分の意志を貫くことに執着しすぎて、周りの人の考えを無視してしまう。これは私の直すべき欠点だと理解している。

[ヤトウ] この欠点が原因となって、私は過ちを犯した。あなたに失礼なことを言ってしまったことをお詫びするよ。本当に申し訳ない。

[ヤトウ] 何も知らない状況であんな発言をして、任務の妨げとなったばかりでなく、あなたを無闇に傷つけてしまった。

[柏生義稜] ああ……

[ヤトウ] どうか、この謝罪を受け取ってはもらえないだろうか?

[柏生義稜] はあ……仕方がないな。

[ヤトウ] 良かった。ありがとう、柏生さん。

[柏生義稜] ……なあ、小娘。

[柏生義稜] お前は俺の気持ちがわかると言ったが……その理由はなんだ?

[ヤトウ] その件については……長い話になるが。

[柏生義稜] 言いたくないなら、聞かなかったことにするさ。

[ヤトウ] いや、構わない。――実は、ロドスに入る前まで、私は殺し屋だったんだ。

[柏生義稜] なっ……

[ヤトウ] あの頃は、命じられるまま毎日、毎晩、人の命を奪っていた。

[ヤトウ] しかしある日、自分の血まみれの両手を見て、心の底から恐怖心が湧いてきた。次の日に受けた命令は、とある親子を処分しろというものだったが……私はその時、彼女たちを守ることに決めたんだ。

[ヤトウ] 殺し屋から足を洗いたかったから……そして、その日出会ったのがノイルホーンだった。当時の彼は同業者だったが、私の言葉をきっかけに、殺しをやめると決めてくれてな。

[柏生義稜] ……

[ヤトウ] だが、私は間違っていたんだ……自分だけが人殺しをやめたところで無駄なことだった。

[ヤトウ] 助けた親子は私を怖がっていたから、安全な場所に送り届けるだけに留めてしまった。その時の私は、もう人を傷つけなくていいと思うと心が軽くて、気が緩んでいたんだ。

[ヤトウ] けれどその結果……彼女たちは、ほかの殺し屋に殺された。

[柏生義稜] お前は……それを後悔してるのか?

[ヤトウ] ああ。以来長い間、彼女たちが夢に出てくるんだ。なぜ置いていったのかと、いつもそう問いかけてくる……

[ヤトウ] 私は罪のない人を傷つけたくなかった。なのに結局、罪のない人が死ぬという結末は避けられなかった。

[ヤトウ] ……こんな私では誰のことも守れないのではないかと、そう思わされたよ。

[ヤトウ] それでも、幸い私は救われた……彼のお陰で、決意を固めることができたんだ。

[柏生義稜] あの若造か?

[ヤトウ] ああ。

[柏生義稜] ふっ、そうか。

[ヤトウ] 当時、彼は珍しく私に説教をして……こう言ったんだ。

[ヤトウ] 「過去を振り返るな。……お前の罪も後悔も、すべて未来で償っていけばいい。」

[柏生義稜] 愚直なように見えて、案外知恵のある奴だな。

[ヤトウ] 彼の言葉は、正しいと思った。だから、私は過去への執着を捨てたんだ。

[ヤトウ] 私たちは誰かを守ることを使命と定め、そして私は、彼に連れられてロドスに加入した。同じ目標を持つ人がいるからこそ、今日までやってこられたんだ。

[柏生義稜] そんなお前らを雇う組織のほうも大したものだな。

[柏生義稜] 他人を守ることが、お前たちの償いなのか?

[ヤトウ] 最初はそうだったが、今は少し違う。

[ヤトウ] 私はこの目で数え切れないほどの死を見てきた。人は、様々な理由で自らの命を諦めることもあれば、無知によって死ぬこともある。

[ヤトウ] あなたは、私が自分の正義を他人に押し付けているといったが、命に関わる場合はそうするしかないと思うんだ。彼らを死なせるわけにはいかないから。

[ヤトウ] 命がこの大地に生まれてくるのは、軽々に死ぬためではない。生きてこそ、可能性を持つことができるんだ。

[ヤトウ] だから私は力を尽くす。

[ヤトウ] これ以上……廃墟の前で涙に暮れ、その場を離れようともしない誰かの姿なんて見たくない。

[ヤトウ] 後悔をしたくないんだ。

[ノイルホーン] ヤトウ! 爺さん! トロッコ見つけたぞー! まだ使えそうだ!

[ノイルホーン] うおっ、なんで二人して俺をそんなに見てくるんだ? もしかしてマスクになんかついてんのか?

[ヤトウ] なんでもない。すぐに行くよ。

[ヤトウ] ――柏生さん。これからの戦いも、よろしく頼む。

[ヤトウ] (手を差し出す)

[柏生義稜] ……いいや。

[柏生義稜] 何度も言ったはずだろう。奴は俺の獲物だと。

[柏生義稜] お前らは横に突っ立ってろ。それで、俺の戦いぶりに拍手でもしててくれりゃいいんだ。

[ヤトウ] 今のは聞かなかったことにしよう。

[柏生義稜] ……

[柏生義稜] ……お前の選んだ道は険しいものだ。

[柏生義稜] それでも行くというのなら……せめてお前の幸運を祈ろう。

[ヤトウ] ああ。私も、あなたの幸運を祈るよ。

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