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登臨意_WB-4_往昔を念はず_戦闘前
リーがリン・ユーシャを訪ね、玉門の数十年にわたる変遷の物語を語り始めた。ズオ・ラウとドゥ・ヤオイェが鋳剣坊で遭遇し、予期せぬことに山海衆に囲まれ、その首領とされる者が再び姿を現わした。
[ドゥ] モンおじさん! モンおじさん、中にいないの? 聞きたいことがあるのよ!
[ドゥ] あたしよ。ドゥ・ヤオイェよ!
[付近の遊侠] 嬢ちゃん、扉を叩いても無駄だよ。入り口に掛かってる札が見えないのかい。
[付近の遊侠] 夕飯の時にはもう閉まってたぞ、用があるなら明日また来な。
[付近の遊侠] おい、なんで無視するんだ……
[ドゥ] モンおじさん! あたしに何か隠し事してるんじゃないの?
[ドゥ] これ以上反応がなかったら、勝手に入るからね。
[ズオ・ラウ] ……
[付近の遊侠] おいおい、まだいるのかよ……
[付近の遊侠] どうして今時の若いもんは、みんな夜中に鍛冶屋へ駆け込むんだ。
[ズオ・ラウ] あれ? あなたは行裕客桟のテイ番頭の……
[ドゥ] あんた、前に父さんを訪ねてた若い役人ね?
[ズオ・ラウ] いつ玉門に? こんな時間になぜ鋳剣坊に?
[ドゥ] 人探しよ。
[ドゥ] あんたの方こそ何しに来たのよ?
[ズオ・ラウ] 捜査です。
[ドゥ] 役人が鋳剣坊まで捜査に来るなんて、まさかモンおじさんは本当に何かしたの?
[ズオ・ラウ] あなたの言い方からするに、ここには本当に問題があるようですね……
[ドゥ] 質問してるのはあたしよ。
[ズオ・ラウ] ……
[ズオ・ラウ] もしもドゥさんがこの件と無関係であるなら、捜査の邪魔はしないでいただけますか。
[ドゥ] どっちが邪魔してるだか……
一閃。月光と見まがう軌跡が、ドゥ・ヤオイェの言葉を遮った。
鋳剣坊の門を閉じていた錠が地に落ち、「一時休業」の札は二つに割れているのを確認したときには、ズオ・ラウはすでに中に飛び込んでいた。
[付近の遊侠] (モンの兄貴に見張るよう言われたが、まさか本当に騒ぎを起こしに来る奴がいるとは。)
[付近の遊侠] (ダメだ、助けを呼びに行かないと。)
[ドゥ] 何してるのよ!
[ズオ・ラウ] ……
[ドゥ] ね、聞いてるの!
[ズオ・ラウ] あなた――
[ドゥ] 殴ったからってなに! これが役人の捜査のやり方ってわけ?
[ズオ・ラウ] 出てきなさい!
[ドゥ] ……
[ユーシャ] どうぞ。
[ユーシャ] リーさん。
[リー] いやぁちょうどワイフーが出て行くのを見ましてね。ものすごい勢いで、おれが呼んでも気付かない始末でした。
[ユーシャ] ……
[リー] 大学を卒業したばかりで、血気盛んな年頃ですからねぇ。あの時分は何事も単純に考えて突っ走りがちだ。できれば、ユーシャ嬢ちゃんから色々教えてやってほしいもんです。
[ユーシャ] リーさんの部下に指図する資格なんて、私にはありませんよ。
[リー] なんのなんの、水臭いことは言いっこなしにしましょうや。若者ですからね、見識を広めておくのもいいことですよ。
[リー] まああの子の腕なら、多少の悪人に出くわしたところで、心配は無用でしょうけどね。
[ユーシャ] 昨日の夜、お父さんがリーさんを訪ねましたよね。何か頼み事でもされたんですか?
[リー] 頼み事とまではいきません……人探しのついでに、色々小耳に挟みましてね。探偵の耳っつーのは良く音を拾うもんですから。
[リー] もし何かユーシャ嬢ちゃんの捜査の役に立てば、それに越したことはありません。
[ユーシャ] どうぞお座りになって。話をするなら立ってるのは大変でしょう。
[リー] どこから話すとしますかねぇ……
[リー] 例えばですよ。もしウェイさんと、あなたの親父さんの気が合わないとしたら、龍門はどうなります?
[ユーシャ] ……
「天災が目前に迫っているこの状況で、しかも都市内じゃ山海衆が騒ぎを起こしてて、将軍自ら兵を率いて城門を守ってるんだぞ。こんな時に民間人と会う時間なんてあるはずないだろう?」
「だが、この人は将軍の知り合いだと聞いたぞ。」
「やはり将軍に知らせておこう。万が一本当に何か重要な話があるとしたら困るだろ?」
......
「上がっていいぞ。将軍の許可が下りた。」
「将軍は城楼におられる。」
夜はすでに深かった。
城壁には軍用源石式サーチライトが埋め込まれており、階段に沿って敷かれた明かりは、周囲を昼間のように照らした。
城楼を目指すモン・ティエイーの歩みは遅く、背後にいる兵士も催促しなかった。
彼はもう十年以上玉門の城楼に登っていなかった。
[モン・ティエイー] ……
[ズオ将軍] ……
[モン・ティエイー] 平祟侯に、ご挨拶申し上げる。
[ズオ将軍] ……来意を申せ。
[モン・ティエイー] 都市から出ることを許可してほしい。
[モン・ティエイー] 信使部隊が襲撃に遭い、遺体すら残ってないと聞いた。
[モン・ティエイー] 部隊の中には鋳剣坊の人間も何人かいた。誰かが迎えに行かにゃならん。せめてあいつらが死んだ場所に酒をまいて、砂を持って帰るべきだ。
[ズオ将軍] 誰かある。
[巡防営守備軍] はっ。
[ズオ将軍] 都市封鎖の命は、既に都市全体に伝達したか?
[巡防営守備軍] ……はい。
[モン・ティエイー] ……
[ズオ将軍] 聞こえたな?
[モン・ティエイー] だから平祟侯を訪ねて来たんだ。
[ズオ将軍] 門が開かれることはない。
[巡防営守備軍] 客人、玉門は現在一日数十里の高速で砂漠の只中を移動している。今あなたを出したところで、何の意味もありませんよ……
[ズオ将軍] 誰が発言を許した。
[モン・ティエイー] そうだな。玉門は現場からもう相当遠くまで離れた。砂漠は風も強いし、あいつらをどうやって連れ戻すってんだろうな。
[ズオ将軍] 死者の時は止まったままだ。だが玉門は前進し続けるのだ、遅れは許されん。
[ズオ将軍] 信使部隊を殺害した賊は、すでに都市内に潜入している。戒厳令を敷き、一刻も早く奴らを一網打尽にすることこそ、亡くなった者たちへの手向けとなろう。
[モン・ティエイー] なら、俺たちにも犯人の調査をさせてほしい。
[モン・ティエイー] ここしばらくは街もごたついている、俺たち江湖の渡世人なら、力になれる。
[ズオ将軍] 犯罪者を捕らえ、そして玉門の安寧を守ることは、我ら玉門の軍人たる者の責務だ。
[ズオ将軍] かようなことで民の手を煩わせれば、このズオが無能というもの。
[モン・ティエイー] ……
[ズオ将軍] 用件はこれだけか?
[録武官] あれほどの力を込めて空中で剣を繰り出し、なお当を失することなく自在に収めるとは。
[録武官] 羽獣が川面へと舞い降り鱗獣をくわえて空へと反転する様とは、このこと。水面にただ細波を残すのみの絶技です。姉弟子の力の制御は、また新たな境地に達しましたね。
[録武官] 姉弟子、もう一度見せていただけませんか?
[チュー・バイ] ……
[チュー・バイ] さっき驚いて隠れてしまった小さな砂地獣を、もう一度地面から出すことができるならいいですよ。
[録武官] ……それはできません。
[チュー・バイ] いわゆる技や型というのは、人の反応を理解しやすいよう整理したというだけのものです。そして、本来人の反応に決まったものはありません。武術の真髄とは、その場の変化の中にあります。
[チュー・バイ] 遍く天下の武術を記録するからには、些細な型の動きばかりにこだわらない方がいい。
[録武官] 「形」は型、「意」は精神、先生も以前にそう教えてくれました。
[チュー・バイ] 人というのは、頭ではわかっていながらも、変えられないものがあるのです。
[チュー・バイ] あなたも本当に不器用ですよね。
[チュー・バイ] あれは?
[録武官] 千人隊長が部隊を集結させているようです。
[チュー・バイ] 優に百人は超えていそうですね。随分と大きな部隊……
[巡防営守備軍] 千人隊長、部隊の集結が完了しました。
[千人隊長] 装備の確認をしたら、街の南にある鋳剣坊まで向かうぞ。総員、俺に続け。
[巡防営守備軍] はい。
[千人隊長] チューさんと録武官の方だったか。
[チュー・バイ] 隊を整えているということは、もしや山海衆の行方を突き止めたのですか?
[千人隊長] タイホー御史が鋳剣坊近くで重傷を負ったため、兵を率いて調査するようズオ・ラウ公子に命じられたんだ。
[チュー・バイ] あなた方が動くことを平祟侯はご存じですか?
[千人隊長] 将軍は外城楼を守っておられてな、昨日すでに、三日の間将軍直属の兵を動かす権限を、公子に与えたのだ。
[チュー・バイ] 鋳剣坊の所業であるという、証拠はあるのですか?
[千人隊長] 具体的なことはまだわからないんだ。
[チュー・バイ] ズオ・ラウはどこに?
[千人隊長] 公子はすでに一足先に向かった。
[千人隊長] タイホー御史が負傷して、公子も焦っているんだ。
[チュー・バイ] ……
[ズオ・ラウ] ――
[ズオ・ラウ] 門戸を閉じ、悪党がたむろしていながら鋳剣坊だと? 笑わせる。
[陰険な山海衆メンバー] 目当ての人物はいませんでした。
[陰険な山海衆メンバー] 持燭人と裏でやり取りしていたとは、あのモンという奴はやはり信用なりません。
[山海衆頭目] 天災データはまだモンが持っている。あいつを探し出すぞ。
[山海衆頭目] まずはこのガキどもを片づけろ。
[ドゥ] あんたたち、一体何者よ! モンおじさんは? あんたたちの手にかかったの、それともあんたたちとグルなの?
[山海衆頭目] ……
[ドゥ] ダーチーとシャオチーはどこにいるのよ?
[山海衆頭目] ……
[ドゥ] だんまりを決め込む気?
[ドゥ] なら、口を割せてやるだけ――
――刀身がドゥ・ヤオイェの側をかすめる。ズオ・ラウが前へと踏み込んでいた。
彼は何も言わず、険しい顔で、刀を相手に向ける。
ドゥ・ヤオイェが言葉を遮られたのは本日二度目だ。
[ドゥ] ちょっと――
年老いた刀匠は言っていた。自分が帰るまで、部屋に隠れて、安静にしておけと。
何者かが中庭に侵入し、混乱が起きているようだ。役人が自分の居場所を突き止めたのだろうか?
ジエユンが剣をきつく抱きしめた。
師匠は、この鋳剣坊は見つけやすいと言っていた。
玉門には客桟と同じ数だけ鋳剣坊も存在している。しかし具体的な名を告げずに、ただ「鋳剣坊」へはどう行けばいいかと尋ねたなら人々が指すのはそこしかない。
師匠の言っていた通りだ。
鋳剣坊は大きくない。炉がいくつかあり、老木が一本あって、決して派手ではないと。
しかし顔見知りが常に出入りし、酒を飲み歌を歌い、武芸を磨く。彼らの身分は異なれど、肩を並べて戦場で戦い、様々な場所に赴いた。
彼らは交代で炉の火を継ぎ、刀匠のハンマーをひったくって鉄を打つ者もいた。炉の火は激しく燃え、闇夜でさえ近づくことはできない。
師匠は、どの都市にもこのような場所があると言っていた。
決して派手ではないが、かけがえのない場所だ。
師匠が死ぬ間際になると、昔のことをぽつぽつと語るときだけ……そこにいた人々と、思い出の場所について話すときだけ、目が少し生き生きとした。
[陰険な山海衆メンバー] 何者だ!
ここを壊させてはいけない。
[ジエユン] やめて。
[ジエユン] 庭がぐちゃぐちゃになってる。やるなら外でやって!
[ズオ・ラウ] ……
[陰険な山海衆メンバー] まだ仲間が隠れていたか。
[ジエユン] (くっ――)
[山海衆頭目] どうしてあの剣がこいつの手元に……?
[陰険な山海衆メンバー] お頭、このガキは手傷を負ってます!
[山海衆頭目] まずはガキを片づけろ。
急に風が吹いたかのように、中庭に細かな砂が舞った。人影がいつの間にか交錯する。
負傷した異族の少女は、傷口を押さえつつ後退し、槐樹の老木にもたれて息を切らす。ドゥ・ヤオイェが近づいていることに彼女は気付かなかった。
覆面をした賊は、再び軒下の影に潜んだ。
年若い持燭人が中庭の中央まで進み、二人の少女の前に立つ。彼の腰にはいつの間にか剣が一本あり、しっかりと固定されている。
[ジエユン] 私の剣!
いつの間に持っていかれたの? さっきの衝撃……
切断された革が地面に落ちていた。獲物の毛皮で部族の人が作ってくれたベルトだ。しなやかで頑丈であり、剣を縛っておくのに最適だった。
彼女にとって命よりも大事な剣を縛っておくのに。
[ズオ・ラウ] これは宗師の剣です。
[ズオ・ラウ] あなたが山海衆と無関係であるというなら、実物が私の手元に戻ってきたことですし、ひとまず剣の件は不問とします。軍営に侵入した罪は、後ほど追及します。
[ジエユン] ……お前!
[ジエユン] 返せ!
[ジエユン] 誰? 止めないで!
[ドゥ] あんたの傷は軽くないわ、むやみに動かない方がいいわよ。
[ドゥ] あたしは剣とかどうでもいいの。でも、あんたずっと鋳剣坊の中に隠れてたってことは、モン・ティエイーを知ってるわよね。
[ドゥ] 教えてちょうだい。モンおじさんはどこへ行ったの? 鋳剣坊の中で二人の尚蜀の若者を見なかった?
[ドゥ] 黙ってるつもりなら、あんたの傷口にもう一発お見舞いするわよ。
[ジエユン] ……
[陰険な山海衆メンバー] どうやらこいつらは仲間じゃないようだな。
[陰険な山海衆メンバー] 外にいる者たちは出口を塞ぎ、奴らが逃げないようにしろ。
[???] ......
[陰険な山海衆メンバー] 聞こえないか? 返事をしろ!
[???] ふんっ。
その声はすぐ近くにあった。彼が慌てて振り返る。
痛みは遅れてきた。動くにつれて痛みが増し、真っ二つになった通信機器を目にして、ようやっと脳がはっきり斬られたことを理解する。
彼は後悔する間もなかった。
[ズオ・ラウ] チューお姉さん。
[チュー・バイ] 外は片付けました。
[山海衆頭目] !!!
[チュー・バイ] 以前市場であなたを襲撃した者の仲間ですね。山海衆ですか?
[ズオ・ラウ] はい。
[チュー・バイ] 軽率が過ぎます。
[チュー・バイ] どうやら、あなたは武術に進歩が見られないだけでなく……
[ズオ・ラウ] この者たちを捕まえてから、チューお姉さんのお説教を聞きます!
[チュー・バイ] ……待って。
先ほどは気付かなかったが、剣を数回しか振っていないのに、手の平には汗がにじんでいた。
[チュー・バイ] ……
[チュー・バイ] この庭……この温度……
[ズオ・ラウ] 暑くなってきているようです。
[ズオ・ラウ] まだ三月で、今は太陽も出ていません。暑くなるわけが……
[ズオ・ラウ] まさか鋳剣坊の源石鍛造炉……
[チュー・バイ] 炉の火はとっくに消えています。
[憤慨する山海衆メンバー] お頭、あの女にうちの者が何人もやられました。
[山海衆頭目] これ以上時間を無駄にするな。
[???] 徒に時を費やした自覚があるとは。
三月半ばのこの時期に、季節外れの蝉の声が響く。
空気中の湿気がずんと圧力を増して、衣服がべったりと張り付く。決して早春の露などではない。
その場にいた者たちは皆等しく異常を感じ取った。
一粒の水滴が、チューバイの顔に滴った。
北地の春は訪れが遅く、槐樹の老木に若葉は未だ生えていない――
これは刃に凝結した水滴だ!
[チュー・バイ] ――
[山海衆頭目] 先生。
[山海衆首領] モン・ティエイーは?
[山海衆頭目] 鋳剣坊にはいません。
[山海衆頭目] ……
[山海衆頭目] ちょうど去ろうとしたところに、こいつらに遭遇しました。
[ズオ・ラウ] その刀……
[ズオ・ラウ] タイホーさんを傷つけたのはあなたですね!
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