aklib_story_この炎が照らす先_FC-4_灼熱の夢_戦闘前

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この炎が照らす先_FC-4_灼熱の夢_戦闘前

流民たちはダブリンに追いつくも、それはすでに死んだ兵士たちであったことに気付く。死者の中に、セルモンは自分の兄を見つけたのだった。


[ターラーの流民] みんな、この先に人がいるぞ! きっと軍隊だ!

[ターラーの流民] あっちは……えーっと、し、七時の方向?

[バグパイプ] あ、大体で大丈夫だべ、わかるから。

[バグパイプ] でも見間違いじゃない? この辺りは民家なんて全くない荒野だし……軍隊がこんな所まで巡回に来ることなんてある?

[リード] 望遠鏡を貸して。

[リード] この辺りは身を隠せそうな地形も少ないし……みんなひとまずここに隠れてて。

[バグパイプ] うちも一緒に行くよ。もしヴィクトリアの軍隊だったら、うちの方が詳しいからね。

[リード] ……うん、ありがとう。

[ヴェン] セルモン、確認してくれないか……この岩の下にしゃがんでれば、敵はどの角度からも私が見えないよね?

[セルモン] ハッ、まぁいいんじゃねぇか。

[ヴェン] よかった。あーあ、この四日間、天災にも猛獣にも遭遇せず無事に荒野を歩いてきたってのに……最後の最後に何か起きでもしたら、不運にもほどがあるよ。

[ヴェン] 君も見てないで、早くしゃがむんだ。こんなに長い間一緒にいて、まだリードさんたちを信じてないのか?

[セルモン] そうさ、アタシが最も信用しねぇのはあいつみてぇなお人よしだ。

[セルモン] あいつは誰の機嫌も損ねねぇようにしてやがるんだ。そうすりゃ、もしトチっても、自分は責められらねぇだろうからな。

[ヴェン] 君って奴は、結局ダブリンの元に行こうとする私たちを阻む彼女が気に食わないだけだろ。

[セルモン] かもな……けど、あんたに対しては別に文句ねぇぜ。

[リード] あれは……ヴィクトリア軍だ。数は少ないけど、装備のグレードから見て付近の駐屯軍ではなさそう。

[リード] もしあんなに優れた装備の相手と交戦することになれば……私たちの勝率はとても低い。

[リード] 私たちの捜索をしているとは限らないけど、万一に備えて隠れていよう。あのまま進めば、きっと私たちには気付かないはず……

[ヴェン] 私に対して文句はない、か……影響力のない私など何の脅威にもならないからだろう。

[セルモン] ……あいつの影響力に脅威を感じてムカついてるってわけでもねぇからな。

[セルモン] ……軍が近づいてきたな。見づれぇからもうちょっと向こうに寄ってくれ。

[ヴェン] おい、頼むからこんな時に面倒を起こさないでくれよ。

[ヴェン] な、何が起きたんだ? どうして急に戦闘が始まったんだ?

[セルモン] ……あの部隊を待ち伏せしてた奴らがいたんだ。

[ヴェン] じ、じゃあもし止まってここに隠れてなければ、私たちも襲われていたってことか? あそこで待ち伏せしてたのは何者なんだい?

[ターラーの流民] おい……あんましはっきりとは見えないが、あいつらが着てる服、セルモンのとちょっと似てないか?

[ターラーの流民] ってことは……ダブリンなんじゃねぇのか?

[セルモン] ……

[フィッシャー] ……ダブリン。

[フィッシャー] 八ヶ月前のある明け方、仕事を終えたばかりの私は、ペニンシュラ郡のレストランで朝食をとっていました。

[フィッシャー] その時、ラジオから声が流れてきました。

[フィッシャー] その声は、「私たちは炎を以て、数百年と積み上げられたこの国の不浄を浄化します。」と宣言したのです。

[フィッシャー] そう、ターラー人の名で……ヴィクトリアに対し宣戦布告をしようとしていたのです。

[フィッシャー] 声の主は、自らを「ダブリン」と名乗っていました。

[特別行動隊兵士] ……そんなもの、貪欲な暴徒が自らを飾り立てるための呼び名にすぎない。

[フィッシャー] 暴徒、ですか。

[フィッシャー] あれが平凡な暴徒たちであったならば、軒並みヒロック郡で命を落としていたはずですよ。

[フィッシャー] かの事件は、ある者が都市中のターラー人を利用し、ターラー出身の公爵を探ろうとしたことに起因するのですが……ダブリンのリーダーが逆にそれを利用するとは誰も予想できなかったでしょうね。

[フィッシャー] 事件終了後、内部の不安要素を首尾よく一掃したダブリンは、周囲のターラー人からさらなる支持を得ることとなり、ヴィクトリアの目をかい潜って見事に脱出しました。

[特別行動隊兵士] ダブリンのリーダーは確かに貴族のやり方を熟知している。

[特別行動隊兵士] だが彼女の出自と、その背後にいる支持者を考えれば、不思議なことではない。

[フィッシャー] あのリーダーと彼女の諜報員は理解しています。民衆に汚染爆弾を投下したのは駐屯軍であり、それゆえにヒロック郡の事件の真相が突き止められることは永遠にないと。

[フィッシャー] しかし……私は報告を読みました。すべての報告を。

[フィッシャー] こう証言している者がいます。あの日、ヒロック郡に姿を現わしたダブリンの「リーダー」は……一人ではない、と。

[特別行動隊兵士] それは公爵が受け取った他の情報と一致しない。

[フィッシャー] ……ここにパズルのピースが二つあります。これを見てどう思いますか?

[特別行動隊兵士] 全く同じ形だが、それとこの話に何の関係が……

[フィッシャー] 形さえ同じなら、同じ隙間を埋めることができます。そして二つをこのように並べた時、多くの人は一目見て、片方をもう片方の影と見なします。

[特別行動隊兵士] ……影?

[特別行動隊兵士] つまり君が疑っているのは、先日のダブリンと関連するあの放火事件が……

[フィッシャー] 元々は単なる疑念にすぎませんでした。

[フィッシャー] ……あのアルモニというフェリーンが、私の話に対し、面白い反応を示してくれるまでは。

[フィッシャー] ウェリントン公爵が、ゲル王のもう一人の子孫を荒野で野放しにしているなんて、誰が想像できたでしょう?

[アルモニ] ……

[ダブリン兵士] アルモニ様、あなたのご想像通り、今朝農家の者たちを連れ出し、問いただしていた者がいるようです。

[ダブリン兵士] 聞き込みを行ったところ、その者たちは駐屯軍には見えなかったとのことですので、付近の巡回隊の者ではなさそうです。

[アルモニ] うーん……ねぇあなた、もしも長期休暇を取って旅行に行くなら、どこがいいと思う? リターニア? それともカジミエーシュの方がいいかしら?

[アルモニ] いっそ、もっと遠くまで足を延ばしてみるのもいいかもね……私の愛すべき学友みたいに、炎国に行くっていうのは?

[ダブリン兵士] ……おっしゃりたいことがわかりませんが。

[アルモニ] ハァ……

[アルモニ] まあいいわ。うっかり罠にはまっちゃったけど……何とか頑張って取り返さないとね。あの子の安全を確保することが最優先よ。

[ダブリン兵士] あの子とはまさか……

[アルモニ] 我が親愛なる友、ラフシニーよ。

[ダブリン兵士] 奴らの捜索対象がラフシニーだという確証があるのですか?

[アルモニ] あなたは違うという確証があるの?

[アルモニ] 私たちに選択肢はないわ。あの子だって「リーダー」なのよ? みすみす他の人の手に……特にカスター公爵の手に渡すわけにはいかないでしょ。

[アルモニ] さあ、「将校」の所へ行きましょう。

[ターラーの流民] セルモン、どうするよ? お前は俺たちを連れてダブリンの部隊に身を寄せると言ってたが、今彼らが目の前に現れて、あげくに兵士たちと戦い始めたぞ。

[ターラーの流民] 人情的にも、ターラー人側の部隊を助けるべきだし、道理的にも、隊に加わるために忠誠心を示す必要がある……そうだろ?

[ヴェン] ダメだよ、君たち何を言ってるんだ! 私たちじゃあの兵士たちに敵うはずがない!

[ヴェン] そ、それに……リードさんたちがどう思うか……

[ターラーの流民] あの人たちはあっちで身を隠しているから、俺たちが加勢しても気付かないって。

[ターラーの流民] くそ、また一人やられたぞ……

[ターラーの流民] ……このままターラー人が殺されてくのを、指を咥えて見てるだけでいいのかよ?

[セルモン] ……ヴェン、リードたちがどんな反応してるか見てくれ。

[特別行動隊隊長] 全員撤退、追撃から逃れることを優先しろ!

[特別行動隊隊長] 調査任務はすでに完了した! ダブリンの伏兵が多すぎるが……ここで時間を無駄にはできない。

[特別行動隊兵士] 隊長、三時の方向に人の動きを確認。

[特別行動隊隊長] ……何者だ?

[特別行動隊兵士] ただの流民のようです、自作の武器を所持しています。

[特別行動隊隊長] まずは接触を図り、状況を確認しろ。全員、双方向からの敵の対処に備えよ。

[特別行動隊隊長] ダブリンの正規部隊が民間人に偽装している可能性を警戒せよ。

[バグパイプ] あれ、あの人どうして物陰から顔を出してるの!

[バグパイプ] あっ、軍の人にバレちゃった。あっちに向かってるよ。

[バグパイプ] うちが軍の人にここにいるのは全員民間人だって言ってみるよ。

[リード] ダメ、ターラーの駐屯軍は、きっと民間人を信じてくれない……

[リード] ……彼らが私たちを守ってくれたことなんてない。

[ダブリン兵士] ……

[ターラーの流民] ハァ……ハァ……や、やあ……俺たちはターラー人で、ダブリンに入りたいんだ……

[ダブリン兵士] ……

[ターラーの流民] ……おーい?

[ターラーの流民] うっ──ど、どうして!

[チェン] 下がれっ!

[チェン] ……すぐに撤退しろ。両部隊が同時に私たちを攻撃している。

[ターラーの流民] でもダブリンは……ターラー人を守るんじゃなかったのか?

[チェン] ……その問いに私は答えられない。私が知っているのは、この兵士たちはもう死んでいるということだけだ。

[特別行動隊隊長] その制式破城矛、ヴイーヴル……お前はまさかテンペスト特攻隊の元メンバーか?

[バグパイプ] あれ、どっかで会ったことあったっけ?

[バグパイプ] 知り合いなら話は早いべ。うちらは伏兵じゃないし、ダブリンとも関係ない、おめーさん勘違いしてるよ。

[特別行動隊隊長] ……ハッ、フィッシャーの奴からは手がかりをたどるよう言われただけだったが、まさか本当に探していたものと遭遇するとはな。

[特別行動隊隊長] いや、あいつは俺に、ここでお前たちを待たせたかったのだろう。

[特別行動隊隊長] バグパイプ、お前はなぜターラー人を守ろうとする?

[バグパイプ] えっ、だってこれがうちらの責務でしょ? ターラー人だって、同じヴィクトリア人だよ。

[バグパイプ] 誤解が解けたなら、手を止めてくれる? 民間人に対する攻撃は、軍規違反だよ。

[特別行動隊隊長] ……お前はなぜまだそんな甘いことを言っていられるんだ?

[バグパイプ] えっ、うち何か変なこと言った?

[特別行動隊隊長] お前はここの情勢をまだよく理解していないようだな。

[バグパイプ] そんなことない、よく分かってるよ。

[バグパイプ] さっきうちの友達が、おめーさんたちはターラーの民間人を守ってくれないって言ってたけど……ほんとにその通りなんだね。

[バグパイプ] おめーさんたちはヒロック郡にいたハミルトン大佐と同じ考えなんでしょ?

[バグパイプ] だからこそうちは、たとえ退役していようとも、ヴィクトリア軍人の責務を果たし、おめーさんたちがやろうとしないこと──

[バグパイプ] 民間人の命を守るってことをしなくちゃならないって確信してる。

[特別行動隊隊長] では、お前は一緒にいるあの白髪のヴイーヴルに正体を尋ねたことはあるのか?

[ヴェン] い、行こう、セルモン……

[ヴェン] みんな逃げてるよ!

[セルモン] ……いや。

[ヴェン] おい、この期に及んで意地張ってる場合か!

[ヴェン] 受け入れられないのはわかる。でも……チェンさんが言ったことはどうやら本当みたいだ……だから、まずはここを離れよう。

[ヴェン] 行こう、まずは生き延びて、それから今後の……

[ヴェン] ……誰を見てるんだ? あれはまさか……

[ダブリン兵士?] ……

[セルモン] ……

[セルモン] ……兄ちゃん。

[リード] これで大丈夫、ヴェン……この傷も前の足の怪我と同じで、そこまで深刻なものじゃない。

[リード] でも、それでも少し痛むと思う。

[ヴェン] ううっ、構わないよ……血が見えなきゃ、あとはどうだっていい。

[ターラーの流民] お前ほんとビビりだよな、セルモンを助けるとか言っときながら、結局リードに担がれて逃げてくるなんてよ。

[ヴェン] い、いいじゃないか、少なくとも逃げてこられたんだから。みんな逃げ出せたんだ。

[ヴェン] ……ハァ。

[ヴェン] リードさん、質問させてくれないか……ずっと訊きたかったんだ。

[ヴェン] 君や君の友人はその道のプロみたいだから間違いはないんだろう。でも、やっぱりわからないんだ、君たちはどうしてあの人たちが……あのダブリンたちが死んでいると言うんだい?

[ヴェン] もし彼らが夢遊病だったら? もしくは伝説にあるような人の意識を失わせる巫術を受けているとしたら?

[ヴェン] も……もしそういう類いの話だったら、なんとか目を覚まさせてあげることもできるんじゃ……

[リード] ……目は覚めない。生きている可能性にすがりたい気持ちはわかるけど、あのアーツのことは知ってるの。

[ヴェン] ……そうか。私はただ少し怖いだけなんだ。でもセルモンはどう思うだろうか?

[リード] セルモンが……どうしたの?

[ヴェン] ……

[ターラーの流民] なんだよ、教えろよ、ヴェン。俺たちもセルモンのことはよく知らないんだ。お前が信頼のおけるいい子だって言うから、俺たちはついてきたんだぞ。

[ヴェン] 実は……私は彼女から略奪を受けて、それで知り合ったんだ。もちろん、最終的にはちゃんと彼女と話し合って和解したけどね。

[ヴェン] あれは厳しい冬の日だった……彼女のお兄さんが、底が半分取れた靴で歩いていたせいで凍傷になってしまったから、丈夫な靴が欲しかった――そんな事情を聞かされたよ。

[ターラーの流民] それでお前は靴をやったのか?

[ヴェン] いや、すぐには用意できないと言うと、お兄さんはダブリンに加わると言って去って行った。私も難民を匿ってやるのに忙しくて、手が回らなくてね……

[ヴェン] 実は彼女は、お兄さんを探すためにここまで来たんだ。

[ターラーの流民] は? あいつが俺たちを連れてダブリンに加わろうとしてたのはそのためか?

[ヴェン] いや、そうとも言えない……

[ヴェン] 二年前、彼女はお兄さんと一緒にダブリンの所へ行こうとしてた。でも途中で逃げ出したんだ。

[ヴェン] ……今日お兄さんに追いついた時、彼女はどんな思いを味わったのだろうか。

[ターラーの流民] ……ハァ、うちの家族はどうしてるやら。

[ターラーの流民] あいつらはまだ村に住んでるから、そろそろ屋根を覆ってる茅葺きの交換時期だな。落ち着ける場所に着いたら、近況報告をトランスポーターに頼まなきゃな。

[ヴェン] その時は、私がトランスポーターを探してあげよう。大丈夫だよ、君の家族はきっと無事だ。

[ターラーの流民] ああ。

[ターラーの流民] ……でも俺たちはこれからどうすりゃいいんだ? 追っていたダブリン部隊は死人だったし、セルモンの目標もなくなった……俺たちはどこへ行けばいい?

[ヴェン] ハァ……リードさん、君はどうしたらいいと──

[ヴェン] ……あれ、リードさん? リードさんは?

[セルモン] ……十三、十四、十五……昼間より三人減ってる。

[セルモン] ……マジでわけがわからねぇ。こりゃ一体どんなアーツなんだ? 見てるだけで辛くなる。

彼女は岩の後ろに隠れて様子を伺っていた。

暗い荒野の上、兵士たちは彼らの心の中にある終着点に向かって、未だ行軍を続けている。

ダブリンの制服は泥と埃で色あせ、皆同じようなシルエットになり見分けがつかない。それらはどこからか射し込んでくる微かな光で照らされている。

[セルモン] 手早く襲撃して……それから撤退する。何も問題ねぇ。

百メートル。

セルモンが隠れている岩に向かって彼らが近づいてくる。

[セルモン] チッ、あいつ部隊の一番後ろじゃねぇか、小隊長にはなれなかったみてぇだな。手紙にはいつも偉そうなことばっか書いてたくせに。

[セルモン] こいつらが向かう方角は……手紙に書いてあった通りだ。

五十メートル。

セルモンは手の中の棍棒を握り締めた。

[セルモン] ……アンタが行こうとしてる都市は、アンタにとってそんなに重要な場所なのか?

[セルモン] 誰に行けって言われたんだ? 死んでも行きてぇのか?

[セルモン] たとえこうして風に吹かれて、雨に打たれて、何度も何度も殴られても、それでも行きてぇのか?

三十メートル。

彼女は二年前に初めてダブリンの部隊を見た時のことを思い出していた。

あの人たちは言っていた。決心がついたら、自分たちの所に来ればいいと。リーダーはすべてのターラー人に生きていく場所を与えてくれると。

[セルモン] ……ごめん。

[セルモン] アタシは……兄ちゃんみてぇに強い意志は持ってねぇ。兄ちゃんとは違って振り返っちまう。

彼女は岩陰から飛び出した。

昼間のヴィクトリア兵たちの攻撃や、チェンの斬撃がそうだったように、一撃一撃が速く強烈であれば、この死んだ者たちも再び倒れる。

そうして倒れた者は、ターラーの土の中で静かに眠りに就き、もう二度と立ち上がることを強要されはしないのだ。

[ダブリン兵士] ……

[セルモン] ──!

兵士は倒れなかった。

首の後ろに攻撃を受けた兵士は、少しよろめいただけで、すかさず振り返ると、剣を抜き放った。

彼は一言も発さない。

[ダブリン兵士] ……

[セルモン] てめぇら、邪魔すんじゃねぇ! 一緒に始末してほしいのか!

[セルモン] いいぜ、やってやるよ!

[セルモン] 兄ちゃんを探しに来ただけなんだがよ、アンタらも一緒だ……

[ダブリン兵士] (無言で武器を振る)

[セルモン] ──うざってぇ! せめて何か喋れよ!

[セルモン] くっ……

[セルモン] 当たった……

[セルモン] ハッ、クソッ。正面から頭をぶん殴っても、まだ倒れねぇのか。

兵士の頭部に直撃した反動で、彼女の棍棒は宙を舞っていた。

同時に、兵士のマスクがはがれ落ちた。

[セルモン] ──

彼女は錯覚に陥った。武器を振るう相手の動作が一瞬だけ止まったように感じたのだ。

子供の頃ヴィクトリアの警官に立ち向かった時と同じように、兄が自分に向かって両手を広げ、自分を腕の中で守ってくれるのだと、彼女はそう感じた。

そして彼女は、その見慣れたはずの顔をはっきりと見たのだった。

彼の額には鮮血すら滲んでおらず、目は自らの妹を見てもいない。

その両目ははるか遠くのおぼろげな地平線を望み、渇望の炎がその中で燃え盛っていた。

──まるで彼がダブリンの元に行くことを決めたあの夜のように。

ダブリン兵が彼女を取り囲む。セルモンはただ、呆然と目の前の男へ向かって手を伸ばした。

尊敬、憧れ、後悔――そして無念。

彼女の指先が彼に触れた途端、その冷たい炎にあらゆる感情が呑み込まれていった。

恐怖。

残ったのは恐怖のみ。死してなお燃える狂気じみた渇望への恐怖。

次の瞬間、炎が激しく巻き上がり、眩しい火が夜空に放たれた。

指先のほんの少し向こうで炎の花弁が綻び、そして彼女が掴む前に消えた。兵士は地面に崩れ落ち、もはや動きはしない。

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