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この炎が照らす先_FC-1_逃げる者に追う者_戦闘後
死んだダブリン兵を調べたバグパイプは、それがヒロック郡で見たアーツによるものであると認識する。一方リードは、ヴェンの懇願により、このターラー人たちを護送し追跡から逃がすことを請け負うのだった。
[バグパイプ] この兵士たちどうしたんだろう?
[バグパイプ] まともに抵抗しなかったし、うちらの呼びかけにも反応しなかったよね。
[チェン] 彼らはとっくに死んでいたんだ。死亡推定時刻は……四十八時間以上前だな。
[バグパイプ] うーん、警官の判断を疑うつもりはないけど、この人たちはうちらに倒されるまでちゃんと自分の足で立ってたでしょ?
[チェン] ……レユニオンの部隊に、他人を操るアーツを持った奴がいた。
[チェン] だが両者には決定的な違いがある。もしアーミヤ……ロドスのコータスがいれば、その違いをはっきりと感じ取れたはずだ。
[チェン] レユニオンのアーツは、サルカズの戦士の感情と思考を抹消し、生きたまま歩く兵器へと変えるものだった。
[チェン] しかしこのダブリン兵は確実に死んでいた……死後も、強烈な感情が未だに燃え続けているといったイメージに近い。
[バグパイプ] 燃え続けてる?
[チェン] ……そんな感じがするだけだ。
[チェン] もしこのアーツが目に見えるものであるならば、私の赤霄が切り捨てるのは炎だろうという、そういう感覚があったんだ。
[バグパイプ] 待って、うち、見たことある……
[バグパイプ] 紫の炎。
[バグパイプ] 変な紫の炎が、死んだ戦士の目の中で燃えてたべ……
[バグパイプ] チェンちゃんの言ったアーツ、うちヒロック郡で見たことあるよ。
[バグパイプ] それ以来、一回も見てなかったけど……やっと見つけた! 亡霊部隊を率いてたあの術師が、この近くにいるんだ!
[バグパイプ] うち、あの術師の姿は忘れてないよ……もう一度会えれば、絶対にあの人だってわかる。そうすれば、ダブリンの真相がわかるんだ。
[チェン] ……ああ。
[バグパイプ] そんじゃ早く行くべ! 色んな人に聞き込みしなくちゃ。村人とか通りすがりのキャラバンとか……絶対に見つかるよ、本当の亡霊なんかじゃないんだし!
[ヴェン] ……ふぅ。
[ヴェン] 巡回隊の奴ら突然現れたな、私たちの目が良くて助かった。
[セルモン] ハッ、あのヴィクトリアのバカどもは俺らを捕まえに来てんだぞ。事前に知らせてくれるわけねぇだろ?
[ヴェン] 君たちは先に行ってくれ、私は皆揃っているか確認してから行く。突然逃げ出したから取り残された人がいないか心配だ……
[ヴェン] ……あっ、そうだ! 先生は? 誰も彼女に声を掛けてないのか?
[セルモン] あいつは今朝去るって言ってたろ? 構ってどうすんだよ。
[セルモン] それにあいつなら捕まっても大したことにはならねぇだろ? 別に指名手配になってるわけでもねぇんだし。
[ヴェン] なってるはずだ! 私たちが昨日彼女を巻き込んだんだから!
[ヴェン] 日が少し傾いていたから、顔までは見られてないかもしれないけど……ヴイーヴルの彼女は目立ちすぎる。
[セルモン] アンタ、人を助ける力なんてねぇくせに、いつまでも他人の心配ばかりして何になるってんだ?
[ヴェン] それは……
[ヴェン] いや、それよりケリーはここにいるじゃないか……セルモン、君はわざとやったんだな。
[ヴェン] 仲間が見当たらないと嘘をついて、探すのを手伝ってくれと彼女に頼んだんだ……
[ヴェン] なぜなんだ? 彼女はただの親切心から、私たちを助けてくれて、薬まで分けてくれたんだぞ……それなのに、なぜ兵士たちが来るかもしれない場所に置き去りにしたんだ?
[セルモン] そんなの言うまでもねぇだろ? あいつが注意を引いてくれれば、アタシたちは安全に逃げる時間が稼げる。
[セルモン] それにあいつが捕まったところで重要な情報が漏れることはねぇ。アタシたちがどっちに向かったかは知らないし、ましてアタシたちの目的がダブリンを探すことだなんて想像もついてないだろ。
[ヴェン] で……でも彼女は死んでしまうんだぞ!
[ターラーの流民] そうだな、けどあいつが一人で行ってたら、遅かれ早かれ巡回隊に出くわすだろう。
[ターラーの流民] さっさとあいつの荷物を奪っとくべきだったな。せめてヴィクトリアのバカどもの手に渡らないように。
[セルモン] あいつが自分でそうすることを選んだようなもんさ。ヴェン、あいつがアタシを見た時の表情に気付かなかったのか?
[セルモン] あいつはダブリンをよく知っていた、だがダブリンに対して好意を抱いてるようには見えなかった。しかも訛りのないヴィクトリア語を話してやがったんだぞ。
[セルモン] ああいう奴はな、本物のヴィクトリア人なんかよりよっぽどアタシたちのことを恨んでるんだよ。
[ヴェン] ……私は信じないぞ、セルモン。私は自分の人を見る目を、直感を信じてるんだ。
[巡回隊隊長] そう緊張する必要はない、お嬢さん。
[リード] 悪いけど、私はここの状況をよくわかっていないんだ。
[巡回隊隊長] ああ、君がダブリンの仲間じゃないことはわかっている。やむを得ない事情で一時的にあの反乱者たちと一緒にいただけだろう。
[巡回隊隊長] (ターラー語)君はダブリンを殺したことがあるな。
[リード] ……
[巡回隊隊長] ターラー語がわかるのか、だったら間違いないようだな。この辺りでターラー語を理解するヴイーヴルはほとんどいない。
[巡回隊隊長] 昨夜、あのダブリン兵は君たちをどこへ連れて行った?
[リード] 違う……彼らはダブリンではないし、ダブリンとも関係ない。
[リード] 私もダブリンの人間を殺したことなんてない。
[巡回隊隊長] 正直になって構わない、報復の心配は無用だ。
[巡回隊隊長] この辺りは駐屯軍の厳しい監視下にある。トレント侯爵はどこかの貴族のような無能ではないからな、ダブリンにあちこちで好き勝手に扇動させたりはしない。
[巡回隊隊長] これも君の正体がわかった理由の一つだ。
[巡回隊隊長] 数日前、トレント郡の航路に近い集落の住民が、ダブリンに関する情報を駐屯地に報告した。
[巡回隊隊長] しかし数名のダブリン兵たちは、集落を襲う前に白髪のヴイーヴルに倒された。
[巡回隊隊長] 詳しく聞かせてもらおうか。君の身分、動機、それに昨晩のあのダブリンの手法に似せた放火……
[巡回隊隊長] ──止まれ! 逃げる気か?
[巡回隊隊長] 彼女を捕らえろ! あのヴイーヴルは我々の追及を恐れている。何か秘密があるに違いない!
[巡回隊兵士] ──か、刀が折れた? こいつどこにそんな力が……!
[リード] 話せることは全部話したから。もう行ってもいいでしょう……?
[リード] それがお互いのためだよ。
[巡回隊隊長] あのターラーのクズどもをかばう気なら、お前も奴らと同じ身の程知らずのカスと見なすことになるぞ。
[巡回隊隊長] 撃て! 矢が数本刺さったところでヴイーヴルは死なない。まずは足止めするんだ!
[リード] キミは……どうしてそんなにも彼らを敵視するの? そういうキミ自身もターラー人だというのに……
[巡回隊隊長] 黙れ! その名前で──私を呼ぶことは許さん!
[リード] ……
[巡回隊隊長] ……小さい頃からターラー語を話していればターラー人なのか? 私が子供の頃には「ターラー人」なんて言葉すらなかった!
[巡回隊隊長] ダブリンを撃退したのが本当にお前であれば、「ターラー人」などというのはあの悪党どもが秩序を壊すための口実に過ぎないことを理解し、きっぱりと縁を切るべきだ。
[リード] ……「ターラー人はヴィクトリアの虚栄に蝕まれた。それゆえに、多くの者が悪党へと身を落とした。」
[リード] これは……何年も前に、ある先生が教えてくれた言葉。
[リード] ごめん。
[巡回隊隊長] ハァ、ハァ……戦わないのか。お前は自らの槍が他人を貫くことに恐れすら抱いているだろう。
[巡回隊隊長] ──私たちを侮っているのか?
[リード] 違う、私は……
だって、一瞬で、彼らは荒野の灰になってしまうから。
[「リーダー」] やりなさい、ラフシニー。キミがしたことが表沙汰にならないようにする最善の方法は、すべての目撃者を一掃すること。
[リード] ……違う、私はそんなことしない。
[巡回隊隊長] うっ──!
[巡回隊兵士] 隊長!
[巡回隊兵士] 一旦……隊長を連れて撤退! 上に報告して、支援を要請しろ!
[リード] 大丈夫……きっと追いつかれない。
[リード] 早くここを去ろう。ヴィクトリア軍の行軍速度はよく知ってる。
[リード] ……これでいいんだ。
[リード] ──誰?
彼女は警戒するように槍を突き出した。
──槍先は茂みの前で止まった。
[茂みの後ろの声] わ、私だよ……
[ヴェン] ……私だ、君に危害を加えるつもりはない。
[アルモニ] ええ、わかっています。トレント郡がこのような取引のために航路を変更することはありません。ですからこちら側も受け渡し日時を延期して、移動都市が近付くのを待っても構いません。
[アルモニ] もちろん、ここまで高純度の源石燃料を産出できるのは王室専用の採掘場だけですし、トレント侯爵の善意には大変感謝しています。
[アルモニ] 今回の業務提携については、私たち双方が満足いくものだと思っております。
[アルモニ] ……ヒューズさん、今そちらの秘書の方が署名済みの契約書を持って出ていったようですが。
[ヒューズ] ええ、一足先にオフィスへ戻しました。重要な契約でもヘマはしない優秀な秘書ですから、どうかご心配なく。
[アルモニ] もちろん、あなたの秘書の業務能力を疑っているわけではありませんよ。
[アルモニ] 彼を出て行かせたのは、より重要なことを二人で話し合いたいからではありませんか?
[アルモニ] わざわざこんな辺鄙な場所にある旧宅を選び、使用人たちまで人払いしたんですもの。
[ヒューズ] もちろんお察しの通りです。ハハッ、このような手配をしたのは、あなたに私の誠意をご理解いただくため。私は……
[ヒューズ] ……これから話すのは、我々がかつて同じ前衛学校で学んだよしみということで。ロッ──
[アルモニ] ストップ。ここでその名前を言うのはなしよ。
[アルモニ] ……まだ覚えていたなんてね。
[ヒューズ] ハハッ……「彼女」は舞踏会の有名人だったからな。
[アルモニ] だからこそ、酔っ払ってどこかで倒れて、そのまま表舞台から消えてしまうのも筋は通っているじゃない?
[ヒューズ] 確かにな。本当に事故に巻き込まれたにせよ、背後で何者かが糸を引いていたにせよ、消えた人物のことを探るのは、避けるべきだと皆わかっている。
[ヒューズ] ……わざわざ驚くふりをしてくれて感謝するよ。
[アルモニ] 本当にちょっとは驚いてるのよ。
[アルモニ] 学校から姿を消し、ヴィクトリアのいかなる記録にも存在しない名前を口にしたら……すぐに「亡霊」が現れちゃうじゃない。
[ヒューズ] うむ、その通りだな。
[ヒューズ] 率直に言わせてもらおうか。君はなぜ私に連絡をしてきたのだ? 今や私は各界の商人と付き合いのある小貴族にすぎない。君が暗に示した情報については、私に協力できることなどないよ。
[ヒューズ] スパイのお嬢さん、君は私を通じて上層部の誰かの目を避け、自らの膨張した野心を満足させたいのか、それとも……
[アルモニ] 話がわかってるなら、それ以上とぼけても反感を買うだけよ。
[アルモニ] 私はただ同じ前衛学校で学んだよしみから、わざわざあなたに……それと、亡霊部隊をずっと探し回ってる二人にちょっと忠告をしに来ただけよ。
[ヒューズ] 知っていたのか……
[アルモニ] ええ、もちろん彼女たちがあなたを訪ねたのは知ってるわ。それに半年前、あなたが二人のためにヒロック郡に輸送されたという源石製品について調査したことも。
[アルモニ] ある種の人間から見れば、あなたは脇が甘過ぎるのよね。
[ヒューズ] ……
[ヒューズ] 君の身分がどれだけデリケートで、どれだけ責任が重いかは十分に理解している。安心してくれ、この機密情報は絶対に誰にも漏らしはしない。
[ヒューズ] あの無鉄砲な同級生たちについては、ほどほどにするよう私からそれとなく忠告しておく。
[アルモニ] そう。じゃあ私の方も、今回の取引の行方について、あなたサイドにちょっとだけ調査のための手がかりを残しておくわね。
[ヒューズ] ご厚意に感謝する、しかし私のようなしがない商人は、あまり多くを知るべきではないだろう。
[アルモニ] いいえ、そうご謙遜なさらずに。何せ、あなたは商業連合の副会長なんだから。背後にいるあの伯爵も、あなたがビジネスの中で収集する情報をとても気にしていらっしゃるでしょうね。
[アルモニ] 未だに沈黙を貫く鉄公爵は、果たして頼るに値するのかしらね? 彼もそろそろ自分の立場を選択する時だと思うけれど。
[ヒューズ] ──
[ヒューズ] アルモニ、君の主人はヴィクトリアの例の方では……いや、君は一体誰のために尽くしているというのだ──
[アルモニ] ──ヒューズさん、次の私たちの契約は一体どのような内容になるのでしょうね……あなたからの知らせを一日も早く受け取ることを心待ちにしております。
[ヴェン] お、驚かしてごめん……本当に君を傷つけるつもりはないんだ。
[ヴェン] ハァ、さっきは出ていく勇気がなくて、君を助けられなかった……
[ヴェン] ……ハハッ、私は何を言ってるんだ。君みたいな槍の達人に助けなんていらないだろうに……それにしても、あっという間に兵士を気絶させてしまったね。
[リード] もうここを離れたのではなかったの。
[ヴェン] 私たちは……ハァ、そうさ、君の予想通りだよ。
[リード] それじゃ、キミも彼らに置き去りにされたの?
[リード] ……でも、彼らはキミを見捨てるような真似はできないはず。
[リード] キミは行商人としてのツテを頼って仕返しする手段がたくさんあるから、彼らも復讐が怖いだろうし……
[ヴェン] いや、そうじゃないんだ。実は……君を呼びに戻ってきたんだ。私たちと一緒に逃げないか。
[ヴェン] 来るのが遅いのはわかってる。罪悪感もあったし、もし戻って兵士に遭遇したらなんて考えていたら遅くなってしまったんだ。
[ヴェン] でもよかったよ。君が、兵士なんてへっちゃらなくらい強くて。
[ヴェン] ……うーん、えーっと、何か話してくれ……くださいよ。なんだか怖いよ。
[リード] 私が? ……どうして?
[ヴェン] どう謝れば君の気が済むかわからないから。でも彼らも普段は本当に良い奴なんだ。ただここしばらくは気が狂いそうな日々で──
[リード] 言わなくてもいい……大丈夫、気にしてないから。
[リード] だって……そのくらい、道端に生い茂る葦のようなものだから。
私を毒で殺すことも、押しつぶすこともない。せいぜいくすぐったいと感じさせるだけ。
[リード] そんな些細な嘘なんて、誰も気にしないよ。
[ヴェン] でも君の顔には悲しいと書いてあるよ。
[リード] 私が……悲しんでいるように見える?
[リード] ……私なら心配はいらない。でもキミたちは早く逃げて。
[リード] 昨晩の火事の後、軍はきっと都市からより多くの兵士を投入して、この荒野を捜索しているはず。
[ヴェン] ああ、わかってる。もちろんそうするよ……
[ヴェン] ……えっと、実はもう一つ、ちょっと言いにくいんだけど。
[ヴェン] 君は逃げろと言ったけど、私たちは狩り場の野獣のように、十日以上もずっと兵士に追われて荒野をさまよってる……つまり逃げたくても逃げられないままなんだ。
[ヴェン] だから、もう一つお願いしたい。
[ヴェン] 逃げるための輸送車に乗るまで、私たちを護送してくれないか?
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