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翠玉の夢_DV-5_ドロシーの約束_戦闘後
実験の真の目的を知ったサイレンスは、ドロシーを止めると決めた。激戦の中、フィリオプシスが感じ取ったものをきっかけに、失踪した被験者たちがラボで眠りについていたことが発覚する。
よう、メアリー。お前に手紙を書くなんていつぶりだろうな。――ごめん。あの事件以来、お前と話す勇気がなくて。
昨日は一晩中眠れなかったよ。頭の中はぐちゃぐちゃで、思い出すのは子供の頃のことばかりだった。
お前の十五歳の誕生日、中央市街にある大法官の像の肩にこっそり一緒に登ったことがあったよな。
あの時、お前はジョークとして、「これは違法行為よ」とか、「私が保安官になったらいつでもあんたを逮捕できるんだからね」とか言ってたっけ。
それに対して俺は、なんて答えたんだったか。
「誰しも正義と公正によって守られる権利を持つべきだ」とか、そんなことを言った気がする。
当時の俺は、数年後自分がどうなるかなんて想像もしてなかったんだろう。
文明っていうのは脆いもんだ。移動都市を離れてしまえば、だんだんと人も駄獣もそう変わらなくなってくる。
今の俺は、公正について語ることなんかとうに忘れて、毎日、その日を生き延びることだけ考えてるんだ。
そう。つまり俺は、お前と昔の俺が一番嫌ってたタイプの人間に成り下がっちまったのさ。
(文字の上から線を引いて消したあとがいくつも残っている)
もし俺に、もう一度文明の抱擁を受けるチャンスが、昔の自分に戻れるチャンスがあるのなら――
一週間後のお前の誕生日に、サプライズをしてやりたい。俺がどんなにそれを願ってるかなんて、お前は知らないだろうな。
(大きな空白のあとに乱れた筆跡が続いている)
奴らは俺たちを使って危険な実験をしている。俺にできるのは、生き延びる努力をすることだけだ。
[開拓隊の隊員] リ、リーダー、見てくれ! こっちの撃った矢が――
[サニー] ……空中で、止まってる……?
[ドロシー] ――
彼女や部屋の中の機材に向けて放たれた矢は、何かに阻まれたようにそれ以上進めなくなっていた。
そして奇妙なことに、そこで跳ね返されることもなかった。
それは無数の目には見えない手が、鋭利なその矢をそっと握り締めているかのようだ。
ドロシーは片手を上げ、その矢の一つに指先で軽く触れる。
すると、矢じりがブンと小さな音を立てた。
[サニー] 伏せろ!
[開拓隊の隊員] い、今のは一体……
一斉に、鉄の矢が床へと落ちる音が響く。
床に落ちた矢からは矢じりが消えており、それのあった場所には美しい断面だけが残っていた。
いや――正確には、矢じりは消えたわけではない。
[サイレンス] 今の音、聞こえた?
[エレナ] と、思うけど……
[サイレンス] あれは金属が高速で振動する時の音だ。
[サイレンス] 多分、矢じりはその振動で砕かれたんだと思う。
[サイレンス] ドロシーのアーツは……どれだけ強力なの?
[エレナ] ううん、厳密にはあの全部がアーツってわけじゃないよ。
[エレナ] あれは彼女の技術あってのものなの。ドロシーはアーツ応用の専門家だからね。
[サイレンス] ……いずれにせよ、開拓隊の人たちには、彼女に傷を負わせることはできそうもないね。
[奇妙な形状の物体] ――
[エレナ] うん。そうなると、ドロシーより先に心配すべきなのは……
[フィリオプシス] 痛、い……
[サイレンス] そうだね、ジョイスのことだ。彼女を守らないと。今はまだ、予断を許さない状況だから。
[エレナ] それに、サニーたちのほうも……
[サニー] ……火炎瓶を使え!
[開拓隊の隊員] 全部だ、ありったけ出そう!
[サニー] よし、投げろ! 一箇所に集中させないようにな!
[奇妙な形状の物体] ――
[開拓隊の隊員] うっ……うわああっ!
[ドロシー] どうして……話を聞いてくれないの?
[ドロシー] 私は本当に、あなたたちが傷つくところなんて見たくないのよ。
[サニー] その言葉……なんで、あんたに騙されて実験台に上がった奴らには言わなかったんだ?
[ドロシー] あの人たちのこと、私は騙してなんかないわ。
[ドロシー] 彼らは今、とっても安全なところにいるのよ。
[ドロシー] この実験が成功すれば、あの人たちはもう危険な荒野に立ち向かう必要なんてなくなるの。
[ドロシー] サニー、あなたもきっとそれを望んでいるんじゃないの?
[サニー] ……
[奇妙な形状の物体] ――
[開拓隊の隊員] 危ないっ!
[サニー] サム……!?
[開拓隊の隊員] ッ……逃げろ……サニー……
[開拓隊の隊員] まだ……生きてる奴らを、連れて……ここを、離れるんだ……
[開拓隊の隊員] 荒野に……逃げれば……企業の、連中は……追ってこられない……
[サニー] 荒野、に……
[開拓隊の隊員] そうさ……俺たちは……開拓者、だからな。
[開拓隊の隊員] は、はは……っ! 奴らは、荒野を……恐れてる、ようだが……俺たちに、とっちゃ……怖くも、なんともねえからな……!
[サニー] ……
逃げるべきだろうか?
この場に背を向けて、仲間たちのことも、求めた答えも諦めて。
そうすれば、生き延びることはできるだろう。望みなんてそれしかないはずだ。
[開拓隊の隊員] 何書いてんだ、サニー……もしかして手紙か? ははっ、まだ都市のほうに手紙を待ってくれてる奴がいるなんて、お前は幸せ者だなあ。
[サニー] もしかすると……これが証拠になるかもしれないからさ。
[開拓隊の隊員] 証拠って、何のだ?
[サニー] 俺たちに何が起きたのかを、外の人に知ってもらうための、だよ。
[開拓隊の隊員] ディルクとみんなを助けに行くだけだろ? そんなの必要なのか?
[サニー] 仮にそれが失敗したらどうする?
[サニー] そのことを考えると、俺は何か残しておきたいんだよ、サム。たとえ全滅することになっても、俺たちが足掻いていたことを知ってもらいたいから。
生き延びたい。彼は当然、そう思っていた。
けれど、それ以上に――自らの怒りの声を、より多くの人に聞いてほしいと思ったのだ。
[サニー] 俺たちにとって、チャンスなんてのは……あんたらに与えられるのを待たないと手に入らないものだ。――でも、そんなのおかしいよな?
[サニー] どう考えたって不公平だろ……!
彼は地面に落ちていた一本の矢を掴んだ。
矢じりはないが、構いやしない。彼にはまだ自分の腕があるのだ。
鉱石病が彼にもたらしたものの多くは不運だったが、一つだけ役に立つものがあった。それは少しばかりの筋力だ。
確かに、力の強い人間と比べれば微々たるものかもしれない。けれども、この矢を真っ二つにするには十分だ。
その断面は鋭く尖った武器となり――目前の敵を討ち倒し、彼に課せられた束縛を破壊するだけの可能性をも秘めていた。
[ドロシー] それ以上進まないで。
[サニー] っ……
折れた矢の制御が効かなくなり、続いて彼の手までもが自由に動かせなくなった。
目には見えない巨大な力が彼の手首を掴まえ、歩みを止めさせる。
[ドロシー] 私の研究は、あなたたちを相手に使うことなんて想定してないの。
[ドロシー] 荒野の獣に対処する時や危険な地形を乗り越える時、天災から逃げようとする時に、それが簡単になるように……
[ドロシー] あなたたちを守るために生みだしたものなのよ!
[サニー] 何が……「守るため」だ……!
[サニー] あんた、俺たちの意志を確かめたことなんかあるのか?
彼は前へと進もうとしていた。押さえ込んでくる力が強くなればなるほど、さらに力強く前を目指した。
矢の断面が彼の掌を裂いて、そこから血が流れ落ちてくる。
[ドロシー] お願い、諦めて……
[サニー] っは……ははははっ!
[サニー] ――嫌だね。
[サニー] 絶対にお断りだ。
[フェルディナンド] 基地の状況は?
[ライン生命研究員] 警備課の担当者からの最新の報告によりますと、今のところ基地を離れた人間はいないようです。
[フェルディナンド] ……計画通りであれば、ドロシーの「メインコア」はすでに完成している。
[フェルディナンド] エレナからの連絡はあったか?
[ライン生命研究員] いえ、ありません。
[ライン生命研究員] 前回通信があった時点では、まだ監視ステーションには到着しておらず、警備課の人間とも合流していないという話でした。
[フェルディナンド] ……
[フェルディナンド] 君は先に戻って、例の伝達物質の最新版を用意しておいてくれ。
[ライン生命研究員] どのくらいご入用ですか?
[フェルディナンド] 三分の一程度だな。
[「大佐」] ライン生命に残された時間は多くない。
[フェルディナンド] しかし、大佐殿。実験は順調で、今や最終ステップを残すのみとなりました。
[「大佐」] それでも、長くは待ってやれんな。
[「大佐」] ヴィクトリア激変の余波は、今も各国を揺るがし続けている。我らの敵も味方も準備を進めているのだ。
[「大佐」] あのような武器は、今もなおどこかの勢力の手にある可能性が極めて高い。
[「大佐」] 仮にその勢力がクルビア都市のいずれかを攻撃してきた場合には、過去一世紀分の努力が一瞬で無に帰すことだろう。
[「大佐」] そうなれば、我々は他国の手にかかり、暗雲の元へ引き戻されることになる。
[フェルディナンド] だからこそ、我々は彼らより先進的な技術を――場所や距離を問わず我々の武器を正確に届けられるような技術を持たなければならない、というお話ですね。
[「大佐」] そう、クルビアには「導き」が必要なのだよ。
[「大佐」] クルーニー、君は聡明だ。その上、ただ賢いだけの連中より使える男でもある。
[「大佐」] 今回の取引を終えたのち、ライン生命の新たな統括と築くさらなる協力関係に期待するとしよう。
[フェルディナンド] お任せください、大佐殿。あなた以上にその未来へ期待しているのは私のほうですから。
[フェルディナンド] 総動員で試薬の梱包作業にあたれ。
[フェルディナンド] ああ、すべてだ。
[エレナ] はぁ……こいつら、ほんとに厄介だね……
[奇妙な形状の物体] ――
[エレナ] 見ての通り、私のアーツはグレイのほど実用的じゃないし!
[サイレンス] うん。あの液体構造を破壊するのは難しいってことは嫌というほどわかってる。
[エレナ] 悪いニュースならまだあるよ。
[エレナ] 私たちの頭上――っていうか研究エリア全体に、アレと同じ物質が大量に保管されてるの。……総量で言うと、目の前のこいつらの数万倍くらいかな。
[サイレンス] ……もっと早く聞かせてほしかった。
[サイレンス] そういえば、アレは実験の副産物だと言ってたけど、その実験の主目的は何?
[エレナ] 従来のアーツユニットに代わる新技術、だね。
[エレナ] エネルギー課は、この特殊物質の研究開発を担当してるんだ。これは振動にすごく敏感で……神経信号を受信してエンコードする媒体として使えるんだよ。
[エレナ] 今は便宜的に、そのまま「伝達物質」って呼んでるんだけどね。
[エレナ] 状況さえ整えたら、アーツ適性が平凡な人でも、これを使えば優秀な術師みたいになれちゃう代物で……
[エレナ] まあ、つまりは……副産物だろうと、これほどの脅威になっちゃうのも――そのせい、なんだけど!
[エレナ] オリヴィア、こんなふうに戦いながら学術的な説明までするのは無理があるよ!
[エレナ] ジョイスの九号デバイスみたいに、イメージするだけで考えが伝わればいいのにって思っちゃう!
[サイレンス] ……それなら、聞き方を変える。
[サイレンス] どうすればこの実験を止められるの?
[エレナ] ……
[サイレンス] この実験のために、あなたがどれだけ努力をしてきたかは想像がつくし、ドロシーに対する気持ちも理解できるけど……
[エレナ] わかったわかった。そうやってあれこれ道理を説かれると、姉さんのこと思い出すなあ……
[エレナ] 確かにこのプロジェクトは私にとってすごく重要なものだけど、明らかにドロシーの様子はおかしいと思うし……私だって何を優先すべきかくらいはわかってるつもりだからね。
[エレナ] 今私がやるべきことは、やっぱり……んー……よく考えてみることかな。
[エレナ] でも私、あんまりこのラボに出入りしてなかったんだよね。こんなことなら、もっとドロシーの様子を見に来てればよかったな……
[サイレンス] ……術者は?
[エレナ] えっ?
[サイレンス] 目の前のこれがアーツで作られたものだとしたら、その術者はどこにいるの……?
[サイレンス] 操作しているのがドロシーじゃないことは想像がつく。アレはただドロシーのそばにいるだけだから。
[エレナ] もしかして……消えた開拓者たちが……?
[サイレンス] このラボの中で、ドロシーが私たちを近付けたがらない場所と言えば……
[サイレンス] 彼女の背後だ。エレナ、そこを狙ってアーツを!
[エレナ] OK、最大出力でいいよね!
きらめく星の光が空から降り注ぐ。それはほんの一瞬だったが、全員の注目を集めるには十分だった。
――全員というのは、奇妙な銀色の「何か」も含めてのことだ。
[奇妙な形状の物体] ――
[ドロシー] やめて、行かないで!
[ドロシー] エレナ、そんなことをしてはダメ……!
[エレナ] な、何が起きてるの……? 立っていられない……!
[エレナ] 手足の自由が全然効かない……! 何かに掴まらないと……!
[サイレンス] 私たちだけじゃない。開拓隊の人たちも、みんなそうなってるみたい……
[開拓隊の隊員] こ、こいつは地震なのか……!?
[サニー] わからん、とにかく耐えろ!
[フィリオプシス] 星……星々が……
[エレナ] ジョイス、しっかり! ……どうしよう……私も、手の感覚が……
[エレナ] このままじゃ、ジョイスを支えていられない……!
[エレナ] そうだ、アーツを使って――
[エレナ] っ……よし……! 感覚が戻った! ちょっと電気を流せば、その部分はしばらく動かせそう……!
[サイレンス] ……電気?
[サイレンス] それでアーツの効果をしばらく阻害できる、ってなると……
[サイレンス] ――この研究、根底にあるのは振動だって言ってたよね?
[エレナ] そうだけど……
[サイレンス] そうか、砂……!
[サイレンス] ラボ中に砂が撒かれてるんだ。私たちの身体にまでついてる……小さすぎて今まで気付けなかった。
[サイレンス] エレナはそのまま被験者たちを探して!
[サイレンス] 私がドロシーを止めてみせる!
[ライン生命研究員] 試薬の梱包が完了しました。
[フェルディナンド] よし。359号基地へ行くぞ。
[ライン生命研究員] ご自分で向かわれるおつもりですか?
[フェルディナンド] そう言わなかったか?
[ライン生命研究員] いえ、人手なら向こうに十分いるように思っただけなのですが……
[フェルディナンド] では、教えてくれたまえ。革新的な研究ほど、実験を幾度も繰り返す必要があるのはなぜだね?
[ライン生命研究員] それは、間違いが起こるのを防ぐためで……
[フェルディナンド] ――肝心の結果が、完璧で信頼できるものでなければならないからだよ。
[ライン生命研究員] フランクス主任のことは……信頼できないと仰るのですか?
[フェルディナンド] ドロシー、か。あの驚くべき成果をもたらしたのは、彼女の感情という強大な原動力であることは事実だ。
[フェルディナンド] しかし、あまり感情的になりすぎると、それが重要な局面で弱点になる可能性は否めない。
[ライン生命研究員] 向こうにはエレナもいますが……
[フェルディナンド] ……彼女がそこまで成長してくれていたら、どれだけよかっただろうな。
[フェルディナンド] 目標達成への意欲はとても強くはあるが、あまりに経験が足りていないのが現状だ。私のアドバイスがなければ、最適な決定を下すことはできないかもしれない。
[フェルディナンド] 残念ながら、ライン生命で最も信頼できる人間は、この私自身なのだよ。
[ドロシー] ……
[ドロシー] サイレンスさん……
[サイレンス] げほっ……こんにちは、フランクス主任。
[ドロシー] どうやってここまで来たの? この振動が手足の神経信号を遮断していたはずなのに。
[サイレンス] 私は医者だから、あなたより少しだけ人体に詳しいんだ。
[ドロシー] そう。……嫌な思いをさせてしまってごめんなさい。
[ドロシー] だけど、もう少しの辛抱よ。実験はもうすぐ成功するの。そうなれば自由にしてあげられるから。
[サイレンス] ……そのあとはどうするつもり?
[サイレンス] 実験が成功すれば、今みんなを傷付けたことを帳消しにできるとでも思ってるの?
[サイレンス] ちゃんと見て。この瞬間も苦しんでいるあの人たちを。
[サニー] みんな……諦めちゃダメだ!
[サニー] 俺の手を握れ……そうだ、しっかり掴まってろよ!
[サイレンス] ……未来しか見ていない人は、目の前で起きていることを無視しているもの。
[サイレンス] 私は、ライン生命でそういう人たちを大勢見てきた。
[サイレンス] だけど……あなたは、そんな人たちとは違う。
[サイレンス] あなたがサニーや開拓隊の人たちを見る時……目に涙が浮かんでるから。
[ドロシー] ……
[ドロシー] 私も、彼らが苦しんでいるのはわかってるわ。
[ドロシー] でも、この一瞬苦しむことと、果てしない苦しみのなかで生きること……耐えがたいのはどっちだと思う?
[ドロシー] あの人たちは、言うなれば泥沼の中で立ち往生しているのよ。
[ドロシー] 私は、彼らをそこから引き上げたい。私やあなたがかつて手にしたものと同じようなチャンスをあげたいの……
[ドロシー] 確かに、溺れかけてもがいている人は、誰かに手を引かれたりしたらもっと激しく暴れてしまうこともあるけれど……
[ドロシー] その反応は、本当に拒絶なのかしら?
[ドロシー] たとえ泥水が彼らの口を塞いでも、私には助けを求める声が聞こえるの。もうすぐ引き上げられるところまで来ているのに、掴んだ手を離すわけにはいかないわ!
[サイレンス] それでも、実験は止めてもらう。
[ドロシー] これは……あなたのドローン? いつの間に……
[サイレンス] あなたと話してる間に。
[サイレンス] 私はライン生命を去ったあと、色々な場所へ行ったんだ。その中にはこの砂だらけのラボよりひどい環境もいくつかあった。
[サイレンス] 医療機器を清潔に保ち続けることは、戦場に立つ医師にとって必要なことだから。
[ドロシー] ――だとしても……
[エレナ] ドロシー……やっぱり諦めないつもりなんだ。本当、頑固なんだから……
[エレナ] (また、手が痺れてきちゃった……)
[エレナ] (もう一回電気を流せば――ううん、やりすぎると手首の神経をダメにしちゃいそう……)
[フィリオプシス] ……光……
[エレナ] ……? 私のアーツのこと? キミは私のマジックに興味持ったことなんてないじゃない。
[フィリオプシス] 明るい……星……
[フィリオプシス] はるか、遠くの……
[エレナ] どういうこと……? 何が見えてるの?
[エレナ] ――いや、違う……何かが見えてるって訳じゃないみたい。
[エレナ] むしろ、何かを感じ取っているっていうか……私やオリヴィアにはわからない何かを受信してるのかな?
[フィリオプシス] 家……
[フィリオプシス] 光の、中に。
[エレナ] あれ……?
[エレナ] どうして動けるの……?
[エレナ] そうか、さっきまで気を失ってたから……振動の影響をそこまで受けてないんだね。
[エレナ] キミが指差してるのって……
[エレナ] ……銀色のアレが集まっていく方向と、同じ?
[エレナ] なるほどね。消えた人たちがどこにいるのか、見えてきたよ。
[開拓隊の隊員] リーダー、見てくれ! あそこのドアが開いた!
[サニー] あれは……
[ドロシー] えっ……ドアが……?
[ドロシー] っ、危ない――
その時、すべての振動が停止した。
銀色の「何か」は一瞬で崩れ落ち、無害な水たまりに姿を変える。
ドロシーが動きを止めた。サイレンスのドローンが首のすぐ後ろまで飛んできても、抵抗する素振りすら見られない。
彼女の目に映るのは、そのドアと、そしてその向こうにあるすべて――
彼女が守ると誓ったもの。ドロシーが背負う、自身と無数の人々の夢だ。
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