aklib_story_塵影に交わる残響_LE-5_月光_戦闘後

ページ名:aklib_story_塵影に交わる残響_LE-5_月光_戦闘後

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塵影に交わる残響_LE-5_月光_戦闘後

ハイビスカスはアフターグロー区の過去を知った。エーベンホルツが不審者を捕らえようとした時、女帝の密偵が突如として現れた。噂を広めた人物はその隙に下水道へと逃れてしまい、二人はその後をつけることに。


[エーベンホルツ] 誰だ!?

[???] 振り返るなと言ったじゃないですか、逃げられてしまいました。

[エーベンホルツ] 一体誰なんだ君は!?

[???] 落ち着いてください、伯爵様。

[???] 私の事はビーグラーとお呼びください。正式な身分を説明するのは少し面倒なので、とりあえずは密偵とでも思っていただければ。

[エーベンホルツ] 君……どうしてこのタイミングで出てきた? おかげで逃げられてしまったんだぞ!

[ビーグラー] どうせ下水道に入ったんです。別の出入り口から外へ出るにはまだ時間がかかるでしょう。

[ビーグラー] それに、彼が入る前に呼び止めるとは……元々あなた方はグルで、何かに感づいて怪しみ、私に演技をして見せた可能性もあります。

[エーベンホルツ] 演技をして見せただって? あいつと!?

[ビーグラー] それとも、この前ゲルトルーデを訪ねていたのは実は脅迫されてのことだとでも? ご冗談でしょう。

[エーベンホルツ] ……

[ビーグラー] 私にとって、あなたは逃げた彼などよりもはるかに価値があるのですよ、ウルティカ伯爵。

[エーベンホルツ] 君では私を止められない。

[ビーグラー] 確かに力ずくでとなると私では止められません。ただ、強硬な方法をとるおつもりなら、よく考えることです。

[ビーグラー] これは女帝陛下の委任状です、ご覧ください。

[エーベンホルツ] ……そんなもの、私は六歳の頃すでに持っていた。

[ビーグラー] 何を言っていただいても私は一向に構いません。しかし女帝陛下に関わることです、口には慎んだ方がよろしいかと。

[エーベンホルツ] 慎む? 君はただの密偵だろう。むしろそっちの方が捕まえる相手を間違えたとなれば、責任を取らなくてはならないのでは?

[ビーグラー] 親愛なるウルティカ伯爵、ご自身の置かれた状況をまだ理解していないようですね。

[ビーグラー] わかりました。ここで時間を無駄にするのはやめましょう。ついてきてください。

[エーベンホルツ] どこへ行くというのだ?

[ビーグラー] 然るべき場所へ。ご安心ください、我々は各階級の容疑者にその方の身分に合った拘置所をご用意しており、あなたは最上級のそれに当たります。

[エーベンホルツ] あのな、ミスター・ビーグラー。

[ビーグラー] 許しを請うおつもりですか? それとも賄賂ですか? もし後者であれば、喜んで受け取りますよ。

[エーベンホルツ] 金を渡しても、君が本当に見逃してくれるかどうかは疑わしいな。金をポケットに入れた後、やはり私を捕まえるのではないか?

[ビーグラー] バレてしまいましたか。

[エーベンホルツ] 君と一緒にいるのが愉快に思えてきたよ、ミスター・ビーグラー。馴染み深いウルティカを思い出すな。あそこでは、多くの者が君のように「高尚」だからな。

[ビーグラー] それはそれは、光栄の至りです。

[エーベンホルツ] しかし、さっきの者が下水道で何をしようとしているのか、本当に気になるのだ。

[ビーグラー] 私が見ている前で彼を呼び止めたのが悪手でしたね。

[エーベンホルツ] この件を地上で解決したいと思ったんだ。

[エーベンホルツ] 恥ずかしい話なのだが、私のある伯爵代理が、悪趣味な話の蒐集を好んでいてな。中でも、下水道の話が私は最も苦手なのだ。

[ビーグラー] フッ、気分が悪いなら、コーヒーでも飲んで落ち着かれては?

[エーベンホルツ] そうしたいのは山々だが、やはり彼が何をしようとしているか気になるのでな。後について入るしかないようだ。

[エーベンホルツ] これもすべて君のせいだ、ミスター・ビーグラー。

[エーベンホルツ] 私を行かせてくれるというならば、逃げないと約束する。この先、常にアーツユニットを私に向けてもらっても構わない。

[ビーグラー] ……

[ビーグラー] 先に忠告しておきますが、無断で私の監視下から逃れたりすれば、それがどんな理由であれ、必ず罰を受けることになりますよ。

[エーベンホルツ] どんな罰だ? 死刑か?

[ビーグラー] 最低でも降爵です。そしてあなたは今後一歩もウルティカの高塔に足を踏み入れることが許されません。たとえ本当に潔白だったとしてもです。

[エーベンホルツ] それは素晴らしい、むしろ逃げてみたくなったな。

[ビーグラー] やれやれ。

[ビーグラー] さて、どうしても入らなければならないというなら、どうぞお入りください、ウルティカ伯爵。

[ビーグラー] 私はしっかりと監視させていただきましょう。

[ウルズラ] ハイビスカスや……あんたね、旦那様にあんなふうに言っちゃダメだよ。

[ハイビスカス] でもツェルニーさんは……

[ウルズラ] 旦那様自身の口からは言えないこともたくさんあるんだよ。これは私から言うしかないねぇ。

[ハイビスカス] ……話していただけますか?

[ウルズラ] アフターグロー区の名前の由来は知っているかい?

[ハイビスカス] いいえ、知りません。

[ウルズラ] 旦那様が以前こう言ったことがあるんだ。

[ウルズラ] 「空が暗くなるからこそ、夕日はより貴く映る。もしも夜が永遠に終わらなければ、温かな夕暮れの光以上に人々の目を奪い、心を揺さぶるものなどあるだろうか?」ってね。

[ハイビスカス] その言葉は確かに素晴らしいと思います。ですが――

[露店の主人] おや、そこにいるのは――ウルズラさんと、ハイビスカスかい?

[露店の主人] ほれほれ、話ならこっちで座ってするといい!

[露店の主人] ハイビスカス、またそんなに眉をひそめて、何かあったのかい?

[露店の主人] 俺の作る料理が不健康でやだったら、炭酸水もあるぞ、ほら来て!

[ハイビスカス] いえ、やっぱり――

[ウルズラ] そんじゃお言葉に甘えさせてもらうよ。

[露店の主人] それで、あんたたち何があったんだ。喧嘩か?

[ウルズラ] 違うよ、適当なこと言わないでおくれ。

[ウルズラ] ハイビスカスに、ちょっとアフターグロー区の昔話でもしてやろうと思っていたところさ。

[露店の主人] アフターグロー区の昔話だって? そいつは俺が一番詳しいぜ。

[露店の主人] 自慢じゃないがな、ウルズラさんだって俺には敵わないぞ。

[露店の主人] このアフターグロー区はな、元々は感染者居住区なんかじゃなく、数あるヴィセハイムの工業区画の一つだったんだ。

[露店の主人] 今でこそ屋台なんかやってるが、当時の俺は数百人分の食事を賄ってたんだぜ。

[ハイビスカス] 工業……ってまさか、ここが感染者居住区になったのは、工業汚染によって鉱石病が広まったことが原因ですか?

[露店の主人] 工業は確かに多くの感染者を生み出したんだが、以前のリターニアには感染者居住区なんてモンはなかったんだ……まぁ、これ以上はやめておくか。

[露店の主人] ある年、「かの陛下」の一声で、ヴィセハイムにあっと驚くようなコンサートホールが建てられた。つまり今のアフターグローホールだな……当時は違う名前だったんだけどよ。

[ハイビスカス] 「かの陛下」って……どの陛下ですか?

[ウルズラ] あれま、ハイビスカス、これくらいは察しておやりよ。

[ウルズラ] 「かの」と言うくらいなんだから……

[ハイビスカス] ……あっ。わかりました。

[露店の主人] ホールが完成したばかりの頃、「かの陛下」はまだ在位していて、誰も何も言えなかった。

[露店の主人] だが「かの陛下」はすぐに亡くなり、ヴィセハイムを引き継いだストロッロ伯爵はこのホールをひどく嫌っていたんだ。

[ハイビスカス] 嫌っていたというか……いち早く忠誠心を示さなくてはならなかったんじゃないですか。

[露店の主人] シッ――めったなことを言うんじゃない。

[露店の主人] 数年が経ち、感染者の待遇を引き上げるよう、上から命令が出た。当時の伯爵は、例のホールを工業区画ごと感染者居住区に組み込んだんだ。

[露店の主人] それ以前は、リターニア中を見渡しても、「感染者居住区」なんてモンは存在しなかった。

[ハイビスカス] 当時の伯爵は……今のゲルトルーデさんではなかったんですか?

[露店の主人] 彼女の父親――それとも兄だったか……? 覚えてないが、いずれにしても本人ではなかったな。

[露店の主人] 当時の伯爵は、この区画を感染者居住区にしたが、俺たちの生死などこれっぽっちも構わず、区画内の工業施設を全部取り壊しちまったんだ……

[露店の主人] 俺たちが生きようが死のうが、まったく気にしてなかったな。

[露店の主人] それからこの場所は貴族たちが言う「アフターグロー区」となり、あのコンサートホールも「アフターグローホール」になったんだ。

[露店の主人] 「アフターグロー」っつーのは、俺たちのような人間は、夕暮れの太陽みたいに、もうすぐ沈んで消えるってことを揶揄してるのさ。

[ハイビスカス] そ――そんなの酷すぎます。

[露店の主人] 確かにずいぶんな話だよ。

[露店の主人] けどよ、当時のアフターグロー区の住民からしてみれば、あながち間違っちゃいなかった。

[露店の主人] 太陽を地平線上にもう少し留まらせたくて、みんな必死に生きた。

[露店の主人] 屋台開いたり、御用聞きで走り回ったり、別区画の金持ちんとこで用心棒をしてるやつまでいたよ……はぁ、あの頃はほんとメチャクチャだった。

[露店の主人] だがその後、ツェルニーさんが立ち上がったんだ。

[ハイビスカス] 立ち上がった?

[露店の主人] ツェルニーさんは最初そこまで有名じゃなかった。

[露店の主人] 何曲か出していたが、感染者という身分だったから、どれも匿名での発表だったんだ。

[露店の主人] 曲はどれも素晴らしくてな、高塔のお偉いさんなんかの注目も受けたんだが、ツェルニーさんがアフターグロー区の住人だと知ると、どいつもきびすを返していったもんさ。

[露店の主人] 彼が『夕べの夜明け』を作り上げるまでにな。

[露店の主人] 『夕べの夜明け』の話についてはウルズラさんの方が詳しいから、彼女に話してもらいな。

[ハイビスカス] 聴かせてもらえますか、ウルズラお婆さん?

[ウルズラ] はぁ、実はとても単純な話なんだよ。

[ウルズラ] 旦那様にピアノを教えた先生には娘がいてね、彼女と旦那様は仲が良かったんだ。

[ウルズラ] 二人はたいそう仲良しでね、ピアノの腕も同じくらいで、お互いに競い合いながら、相手よりも上手くなろうと頑張っていたんだ。

[ウルズラ] でも、旦那様が二十歳の時、その娘は亡くなってしまったんだよ。

[ハイビスカス] ……

[ウルズラ] 旦那様は大きなショックを受け、口数も減り、日に日にやせ細っていくのが目に見えてわかったよ。

[ウルズラ] だけどある日突然、楽譜の束を見せてきて、「新曲を作った、今回は何が何でも匿名での発表はしない」って言うじゃないか。

[ウルズラ] 当時の伯爵様――もう今の女性伯爵になってたんだけどね。

[ウルズラ] どういうわけか、その伯爵様が旦那様を訪ねてきたんだ。

[ウルズラ] 彼女は旦那様のパトロンになっただけでなく、全力で望みを叶えてくれたんだよ。あの手この手を使って、ついに『夕べの夜明け』を作曲ツェルニー名義のままアフターグロー区から送り出したんだ。

[ハイビスカス] そんなことがあったんですね。

[ハイビスカス] 少しわかりました。ツェルニーさんが言っていた、このコンサートが重要である「意味」が……

[ウルズラ] 『夕べの夜明け』の評判はすこぶる良くってね、高塔の大物たちもさすがに今回ばかりは無視することができず、旦那様の才能を認めるしかなかったんだよ。

[ハイビスカス] その後、ツェルニーさんはアフターグロー区で、音楽の才能がある人たちを指導するようになったんですか?

[露店の主人] そうさ、ここはリターニアだからな、音楽家は山ほどいるのさ! 俺なんかは才能なんてからっきしだけど……

[ウルズラ] なに謙遜してるんだい。

[ウルズラ] 数年前まではアコーディオンを弾きながら、ザワークラウトを売ってたくせに。

[露店の主人] ハハッ、工場で大勢の人に食べてもらおうと思ったら、声を張り上げるより、アコーディオンを使う方がずっと有効だっただけだよ。

[ウルズラ] とにかく、音楽がアフターグロー区とは切り離せなくなって、ようやくここの危機が解消されたんだよ。

[ウルズラ] 作曲に演奏、教育、楽器製作……

[ウルズラ] 多くの人が未だに作った曲を匿名で発表し、アフターグロー区から出ることができない……けれど、この産業がもたらすお金で、アフターグロー区はどうにか生活基盤を築けたんだ。

[ウルズラ] ただ、その後しばらくしてから、旦那様は伯爵様と大喧嘩したみたいなんだよ。

[ハイビスカス] 大喧嘩?

[ウルズラ] 理念の食い違いやら何やら……私にゃそういうのはわからんがね。

[ウルズラ] 伯爵様は今でも旦那様のパトロンだけど、あれからというもの、二人はめっきり付き合いが減っちまったんだ。

[ハイビスカス] アンダンテさん? どうかされましたか?

[ハイビスカス] クライデさんのお爺さんが――いなくなった?

[ハイビスカス] すぐに戻ります!

[クライデ] ありがとうございます! ではまた!

[仕立屋店主] ありがとうございました! もし何か不具合があれば、遠慮なくお申し付けください。いつでもお直ししますので!

[クライデ] (すっかり暗くなってしまった……エーベンホルツさんはもう帰ったのかな。)

[クライデ] えっ、あれは何……?

[クライデ] オリジムシ?

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