aklib_story_遺塵の道を_WD-7_故郷_戦闘前

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遺塵の道を_WD-7_故郷_戦闘前

ケルシーたちが身を隠していた拠点をサルカズの傭兵が襲撃する。激戦は避けられない。


二十二年前

p.m. 8:05 天気/曇天

サルゴン中部 イバト地区 沁礁周辺

[ケルシー] ……廃墟と化した庭園。ここが君たちの家か?

[イシン] 数年前、一人の商人がこの立派な庭園を造りました。しかし、彼はある時商売で旅に出たっきり忽然と姿を消したのでございます。天災か人災か……それを知る者はおりません。

[イシン] その後、この庭園は我々のような帰る家がない者たちにとっての、絶好の隠れ家となりました。

[ホームレス] ……おい、イシンが新入りを二人連れて来たぜ。

[ホームレス] だが、あの女の格好は貧乏人にゃ見えねぇな……

[ボロを纏った人] 関わらない方がいい……イシンの秘密に、俺たちが深入りする価値なんてないさ。中に戻ろうぜ。

[ケルシー] ……この庭園は何と呼ばれている?

[イシン] (サルゴン語)「眠れるサルゴン」。

[イシン] 住み着いている者たちは皆そう呼んでいます……我々は、この庭を故郷のように感じているのですよ、ケルシー殿。大地で最も贅沢な廃墟で、我々は安らかな眠りにつくのです。

[イシン] 夜が明けるのをお待ちください。今はまだ、ここを出て沁礁の中心へと向かうことができません。

[ケルシー] 沁礁……岩礁が取り囲む地。

[イシン] そう……砂の海の中心部です。

[ケルシー] パーディシャーと首長たちは、より資源の豊富な地域に都市を再建した……そこは忘れられた遺跡であり、無法の地でもある。

[ケルシー] しかし、そこに住んでいた者たちとその末裔にとっては、捨て去ることのできない地だ……

[イシン] あの場所についたら、不法労働者やトランスポーターを雇うがよろしいでしょう。彼らであれば、あなた方の身分を偽装して、サルゴンの国境を問題なく越えさせてくれますからな。

[イシン] しかし……あなたが行こうとしている場所はあまりに遠すぎます。無事たどり着けるかどうかは、イシンには保証できません。

[ケルシー] エリオットの様子は?

[イシン] 寝ています。ここは安全です。あなたは私が思っていた以上に彼を気にかけているようですね。慈悲深さの表れです。

[ケルシー] ……もし彼がその言葉を聞けば、きっと文句を言うだろうな。

[イシン] ふむ、イシンには見えるのでございます……あの子の身の内に燃える怒りが。

[ケルシー] サルゴンでは内乱や衝突など日常茶飯事だ。君ならエリオットのような者はたくさん見てきたんじゃないか?

[イシン] 勇猛果敢で復讐者は世間が思っているほど、ありふれたものではないのでございます。多くは憎しみに呑み込まれ、怒りで理性を失うのです。

[ケルシー] 今回、たまたま私は彼の命を救ったが、それ以上のことはしてやれない。

[イシン] はい……イシンは知っております。彼の運命は、こことは別の場所にある……あなたのその金貨と深く関わっているのでございます。

[ケルシー] なぜ二十二年後なんだ?

[イシン] いわゆる「予言」を行うことはアーツでは不可能です。凡人が時間を弄ぶことなどできません。時間は運命の母、そしてイシンは時間と賭けをするのが好きなだけ――

[ケルシー] つまり……ん、どうしたMon3tr?

[Mon3tr] (不愉快そうな雄たけび)

[イシン] おぉ……なんと美しい生き物か。

[イシン] イシンにはわかります。それがあなたの仲間であることを。そしてあなたたちが支え合っているということを……

[イシン] あなたたちは果てしなく長い道を、共に歩んできたのですね。

[ケルシー] ……確認しよう。行くぞ、Mon3tr。

[イシン] おぉ……意思の疎通まで……まさしく心を通わせている。

[イシン] イシンは感じます……あなたのその生物に対する信頼を――まるで唯一のパートナーのような……

[イシン] しかし……あなたのその果てしなく長い旅の伴は……この美しい生物だけなのですか?

[イシン] ケルシー殿、あなたの栄光はそれほどまでに孤独なのですか?

[ケルシー] ……孤独かどうかは私の責務に何ら影響しない。

[ケルシー] 追っ手が来たようだ。対処してくる。君はここに残り、エリオットを守ってくれ。

[イシン] もちろんです。イシンは長年隠れてきましたから、身を隠す方法はいくらでもございます――

[エリオット] ケルシーさんは?

[イシン] 彼女は襲ってきた敵と戦っています。信頼するパートナーと共に。

[エリオット] パートナー? ああ、あの奇怪な生物のことか……

[エリオット] ……どうして遠くを眺めてるんです? 彼女が心配なんですか?

[イシン] いえ、そうではありません。彼女の魂は強靭で果てしない。たとえ死でさえも、彼女の旅を止めることはできないと確信しています。だからイシンは彼女を尊敬し、彼女に問いたいのです……

[エリオット] ……何をです?

[イシン] 百年余り……イシンは同じ夢を繰り返し見てきました。

[イシン] 砂漠の中にある、あの雄大な都市の夢です。都市は移動し、そこから眺める空は澄み渡っている……

[イシン] 目の前に広がるのは果てが見えず、草の一本すらもない土地……若きパーディシャーはイシンのそばに立ち、何かを訴えている……

[イシン] ……イシンには彼の声が聴こえない……イシンは忘れてしまった。イシンの罪は赦されない。

[エリオット] (また独り言が始まった……)

[イシン] イシンはその答えをずっと探し続けている。イシンはその栄光を、その知識を持つ人をずっと待っている。

[イシン] かつてその都市と関わったすべての人が、皆夢の中で生きている。一部の者は忘れ去ってしまったが、依然として多くの者が、自分の故郷を想っている……

[イシン] ……偉大なるパーディシャーの指揮を受けて、我々はこの手で都市を建設した。たとえ天災に破壊されたとしても、それは偉大なる都市。その都市こそが「沁礁の地」の始まり……

[イシン] イバトのサルゴン人は、沁礁の町について、たとえ断片であっても忘れるべきではない。しかし……しかしイシンは忘れてしまった。イシンの罪は赦されない。

[エリオット] あなたは……待っているのですか? 忘れてしまった夢の断片――それについて教えてくれる人を……

枯れ果てた雰囲気を放つ占い師が振り返る。むき出しになった彼の指は、その年齢に全く釣り合わぬほど綺麗だった。そして不気味な表情を浮かべると――

イシンは嬉しそうに笑った。

[ケルシー] ……

[Mon3tr] (咆哮)

[サルカズ傭兵] ……見覚えがある……お前は、あの小隊のリーダーだな。

[サルカズ傭兵] どうやって俺たちに気付いた、クルビア人?

[ケルシー] ……サルカズ、私はクルビア人ではない。

[ケルシー] (サルカズのとある部族の言葉)

[サルカズ傭兵] ――なっ?

[サルカズ傭兵] 何だこれは……俺の精神に影響を与えている?

[サルカズ傭兵] 撃て! 奴の術を止めろ。

[ケルシー] (サルカズのとある部族の言葉)

[Mon3tr] (雄たけび)

[サルカズ傭兵] くっ! 化け物め……最高スペックの矢でも射抜けねぇだと?

[サルカズ傭兵] やはり情報が少なすぎる。気を付けろ、あいつは術師のようだ。

[ケルシー] サルカズ人よ……お前たちはイバト首長に雇われたのか?

[サルカズ傭兵] 教える義理はないな。

[ケルシー] ……見間違いでなければ、さっきの矢はヴィクトリア式のものだ。だが、イバト首長は個人的な恨みからヴィクトリアをひどく憎んでいるはず。どうやら……

[ケルシー] お前たちの真の雇い主、現任パーディシャーのムラドの手腕は、私の想像をはるかに上回っているようだ。

[ケルシー] ただの忍耐強い統治者と思っていたが、こうも各勢力をやすやすと扇動するとは……まさかクルビアと地元の首長たちの計画は、初めからすべて彼の掌の上だったというのか?

[サルカズ傭兵] ほう……パーディシャーの存在を知っていながら、サルゴンの地で好き勝手に振る舞うとは大胆な……お前らクルビア人は何を考えているのか本当にわからねぇな。頭の中に源石でも詰まってんのか?

[サルカズ傭兵] パーディシャーはあの箱を回収したいだけだ。箱を渡せば、俺たちは仲良くできるはずだぜ。

[サルカズ傭兵] お前はまだあれを処分しちゃいないだろ?

[ケルシー] 私のものではないからな。

[サルカズ傭兵] フンッ……減らず口を。

[サルカズ傭兵] イバト首長はな、あまりに調子に乗りすぎたせいでパーディシャーの怒りを買った……雇い主が誰だろうと、あのクルビアの傭兵どもはもう戦闘力を失っている。

[サルカズ傭兵] ムラドパーディシャーは、幕を引く役目を俺たちに任せた。このくだらねぇ争いはもうすぐ終わるんだ。

[ケルシー] それが本当だとして、なぜ傲慢なサルゴンのパーディシャーは、自らの兵を送り込むのではなく、傭兵を雇った?

[サルカズ傭兵] ……この件はクルビア内のいろんな事情に関係しているからな。だが今のお前にゃ関係ねぇよ。ただ自分がこの砂漠で孤立無援だってことを知ってりゃそれでいいんだ。

[サルカズ傭兵] さぁ、箱を渡すか渡さねぇのか、とっとと決めろ、顧問!

[Mon3tr] (軽く体を伸ばす)

[サルカズ傭兵] ……(あの生物を警戒しろ。全く予測がつかねぇ、手強いぞ。)

[ケルシー] (サルカズのとある部族の言葉)

[サルカズ傭兵] ――!

[サルカズ傭兵] お前――

[サルカズ傭兵] ――くそっ! これは単純なアーツなんかじゃねぇ――

[サルカズ傭兵] これは魔族の言葉か!? クルビア人がなぜ――

[サルカズ傭兵] (サルゴン語)やめろ!

[サルカズ傭兵] (サルゴン語)ヴィクトリア語かサルゴン語で話せ! でなけりゃ総攻撃を仕掛けるぞ!

[ケルシー] お前たちはカズデルから来たのか?

[サルカズ傭兵] ……カズデル?

[サルカズ傭兵] ……お前みたいな術師が、サルカズとどういう関わりがあるのかは知らねぇが、そんな子供騙しの伝説が今のこの状況と関係ねぇのは確かだ。

[サルカズ傭兵] ぐずぐずするな。箱を渡すつもりはあるのか? パーディシャーが欲してるのはそれだけだ。

[ケルシー] あれはサルゴンを滅亡に導く引き金だ。ムラドパーディシャーは科学者でも何でもない、あれがもたらす損害を彼が理解することはできない。

[サルカズ傭兵] パーディシャーが理解する必要はねぇ、俺たちもな。

[ケルシー] サルカズ……お前の故郷はサルゴンか?

[サルカズ傭兵] ……ああ、物心ついた頃から、サルゴンで暮らしていた。

[サルカズ傭兵] 俺たちは、角を隠して暗い路地の中を逃げ回り、一番汚ねぇ場所で生活した。

[サルカズ傭兵] なぁに簡単さ、俺たちは生まれつき感染者みてぇなもんだ。武器を振り回すことが飯の種。殺らなきゃ自分が殺られるだけだったよ。

[サルカズ傭兵] チッ――で、お前は何が言いてぇんだ?

[ケルシー] あの言語は、サルカズ呪術の一種だ。強固な意志を持ったサルカズだけが古代語の暗示から逃れられる……お前の意志はどこから来ているんだ? 使命か? あるいは欲望か?

[サルカズ傭兵] ……お前の暗示は確かに効果があるようだ。その証拠に、俺は今もまだ攻撃命令を出していない上、怒りを抑えてお前と会話までしてるんだからな。

[ケルシー] 私の目に映っているのはただ必死に生きているサルカズだ。自分が最も簡単だと思い込んでいる方法で、な。

[Mon3tr] (警戒するように周囲を見渡す)

[サルカズ傭兵] いい加減にしろ。クルビアの傭兵のリーダーは、全員お前みてぇに話が長いのか?

[ケルシー] ムラドパーディシャーは、己の最も汚れた秘密がサルカズに知られることを許さないだろう。

[ケルシー] お前たちは、争奪戦に参加したすべての小隊を殲滅した。その中に傭兵を装った首長たちの部隊がなかったはずはない。

[ケルシー] 莫大な貢ぎ物や税金と、サルカズの殺し屋数名の命、両者を秤にかけたときムラドパーディシャーはどちらを選ぶと思う?

[サルカズ傭兵] そんなことはもちろん俺たちもわかっている……だったら今お前を見逃しゃ、俺たちはもっと多くの金を得られるのか? それとも、すぐに鉱石病の治療が受けられるようになるのか?

[サルカズ傭兵] 勘違いするな、俺たちはパーディシャーの目の届く範囲でしか生きられねぇ魔族だ。選択肢などない。

[ケルシー] 私なら、お前たちに選択肢を与えてやれるかもしれない。

[ケルシー] (サルカズのとある部族の言葉)

[サルカズ傭兵] くっ――俺たちに、寝返って忠誠を尽くせってのか――

[サルカズ傭兵] ――しかも見たことすらねぇ……カズデルに?

[サルカズ傭兵] この術師め、ふざけんじゃねぇぞ! サルカズの国だと? そんなもん廃墟にすぎねぇ。つまりこの大地は「カズデル」だらけだ! お前みてぇなインテリ野郎が誰よりも分かってるはずだろうが!

[サルカズ傭兵] (術師に準備させろ、あの化け物に集中砲火を浴びせてやるんだ。お前ら二人は、俺と一緒に隙を見てあの女をやるぞ。)

[ケルシー] 残念だ、交渉決裂のようだな。

[サルカズ傭兵] そもそも交渉にすらなってねぇんだよ――チッ、何だよその憐れむような目は? 今囲まれてるのはテメェの方だぜ!

[サルカズ傭兵] 確かに……お前は大層な手段を持っているかもしれねぇ。けど、明日までにパーディシャーが望む結果を出さなけりゃ、俺たちゃ全員死から逃れられねぇんだ。

[サルカズ傭兵] さっきも言ったように、俺たちに選択肢はねぇのさ。

[サルカズ傭兵] 撃て!

[サルカズ傭兵] 煙の中にいるのは……あの化け物か?

[サルカズ傭兵] ……全くダメージがねぇだと……?

[サルカズ傭兵] 「カズデル」から来た術師……お前は一体何なんだ?

[Mon3tr] ———

[ケルシー] お前は本来、他人の道具などに落ちぶれなくとも済んだはずだ。

[サルカズ傭兵] 俺はただ、生きたいだけだ。

[サルカズ傭兵] 今までも、そしてこれからもずっとそうだ。サルカズが遠大な理想なんざ持つべきじゃねぇ。

[サルカズ傭兵] 剣を抜け、総員突撃だ!

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