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遺塵の道を_WD-1_囲まれたレッドホーン_戦闘前
現代。サルゴンへと任務に向かったシェーシャとヘビーレインは、謎の来客を受ける。それは、二十数年前にイバト地区で起きた、とある箱の争奪戦に関する、数奇な因縁と繋がっていた。
現代
p.m. 2:48 天気/晴天
サルゴン中部 イバト地区 名もなき町
[ヘビーレイン] ……
[ヘビーレイン] 誰もいませんね。(……やはり人影すら見当たりません。何かあったのでしょうか……?)
[シェーシャ] ――っかしいな、約束した場所ってここだろ?
[ヘビーレイン] 座標に間違いはありません。
[シェーシャ] 砂嵐にでも遭って遅れてるのかもな。まっ、焦ることはねぇ。
[ヘビーレイン] シェーシャさん……それはあまり良くないのではありませんか。
[シェーシャ] あぁ? 案内役がまだ来てねぇし、ずっとかしこまってても仕方ないだろ。ぼーっと突っ立って睨めっこでもしてろってか?
[ヘビーレイン] ……そうだとしてもゲーム機で遊ぶのはいけません。そもそもどうしてそんな物を持ってきてるんですか?
[シェーシャ] んなことどうだっていいじゃねぇか――
[ヘビーレイン] ……せめて一度くらいは定時連絡があってもいいはずなんですが。何かあったのかもしれません。
[シェーシャ] ……
[ヘビーレイン] ……何らかの対処をした方がいいんじゃないでしょうか?
[シェーシャ] そう焦んなって、俺たちに何ができるってんだ? ここでおとなしく連絡を待ってるのが一番だろ。
[ヘビーレイン] でも……あまりにも遅すぎます。
[ヘビーレイン] あ、今何か――
[???] (サルゴン語)おはようございます、お二方。
[シェーシャ] ヘビーレイン! 待て!
[ヘビーレイン] うっ――
[ヘビーレイン] ご、ごめんなさい、反射で手が出てしまいました……
[???] (サルゴン語)おや。見かけによらず、気性の激しいお嬢さんのようだ。しかしそのやり方は、せっかくの出会いの印象をあまりよろしくないものに変えるだけですよ。
[???] (サルゴン語)ここは沁礁闇市、そして我々はみな商売人です。物騒なものを持ち出さずとも、すべて話し合いで解決できるはず――そうでしょう?
[シェーシャ] (サルゴン語)今日はなんつー日だよ。「サンドソルジャー」に出くわすなんてな。
[「サンドソルジャー」] (サルゴン語)ほう、私のことをご存知でしたか。
[シェーシャ] (サルゴン語)沁礁闇市トップの情報屋で、イバトで起きる大半の武力紛争の黒幕である人物。現地の連中は奴のことを「ジュジュ」と呼んでる。
[シェーシャ] (サルゴン語)古い言葉で、まじないだとかお守りって意味だ。
[シェーシャ] (サルゴン語)だが俺はお前の公の通り名を知ってるぜ――「サンドソルジャー」、お前みたいな大物がここで一体何の用だ?
[「サンドソルジャー」] (サルゴン語)そう警戒なさらないでください。私はただ、お話をしに来ただけです。あなた方お二人と……ええ、ロドスと、ね。
[「サンドソルジャー」] (サルゴン語)それとも、お邪魔でしたか? 例えば……ここで、どなたかと落ち合う予定であったとか。
[ヘビーレイン] ……!
[ヘビーレイン] (サルゴン語)……私たちのオペレーターはどこですか?
[「サンドソルジャー」] おや? お嬢さんもサルゴン人でしたか。なるほど、なるほど。では回りくどい真似はやめて単刀直入にお話をしましょう。
[「サンドソルジャー」] ご安心ください。あなた方のオペレーターは五体満足で、身の危険もありませんし、あの薬の原料にも全く手は触れていません……今のところは。
[ヘビーレイン] ……彼らはどこですか?
[「サンドソルジャー」] ……さあ、どこでしょうね。
[ヘビーレイン] あなた――
[シェーシャ] ヘビーレイン、落ち着け!
[「サンドソルジャー」] その通り、落ち着いてください。ここで私と争っても、あなた方に良いことなど何もないのですから。
[「サンドソルジャー」] 高価な薬の原料と比べれば、どこのどなたか存じない運び屋数名の命など、私にとっては何ほどのものでもありません。
[ヘビーレイン] あの原料が目的なのですか?
[「サンドソルジャー」] ……そうだと言ったら?
[ヘビーレイン] ……
[シェーシャ] うちのオペレーターたちを解放すりゃ、ブツは全部くれてやるよ。どうだ?
[「サンドソルジャー」] ほう、そんなにあっさりと?
[「サンドソルジャー」] ほんの数名をご案内しただけで随分と潔ぎのいい……少々疑わしく思えてしまいますね。
[「サンドソルジャー」] 量は多いとはいえませんが、決して安くはない金額でしょう。「ロドス製薬」は、むやみやたらに気前のいい企業ではなかったと記憶しています。本当にそう簡単に手放せるというのですか?
[シェーシャ] まあそう言ってくれるなって。ところ変わりゃ、事情も変わるもんだろ。俺たちにとっちゃ人命が何よりも最優先なのさ。
[「サンドソルジャー」] なんとも人道的な考え方ですね。しかし誰が彼らの命の価値を決めるのですか?
[「サンドソルジャー」] あの「ケルシー」さん、ですか?
[ヘビーレイン] ……ケルシー先生を知っているのですか?
[「サンドソルジャー」] どうでしょうか。珍しくない名ですのでね、これまで私も随分と人違いを繰り返しました……何度も。
[シェーシャ] なあ、さっきの話に戻ろうぜ。ブツはやる。うちのオペレーターたちはどこだ?
[「サンドソルジャー」] これは失礼。あなた方のお仲間ですが、この扉の外でお待ちになっています。それと、先ほどのお嬢さんの質問にお答えすると、私はあなた方の荷物には一切関心がありません――
[シェーシャ] ――ヘビーレイン。
[ヘビーレイン] ……確認してきます――シェーシャさん、気を付けてください。
[「サンドソルジャー」] どうぞご存分に。
[シェーシャ] あのよ……俺たちみたいな新参者をただ脅かすためだけに、わざわざ闇市のお偉いさんが来るわきゃねぇよな?
[シェーシャ] ロドスはサルゴンの闇市にツテを持ってるわけじゃねぇ。俺たちはクルビアに差し止められた薬の原料を手に入れるために、仕方なくあぶねぇ橋を渡ったんだ。
[シェーシャ] 鉱石病はこっちの都合に合わせちゃくれねぇからな。それだけさ。俺たちは別に対立してねぇはずだ。
[「サンドソルジャー」] 「シェーシャ」、そう名を変えていたのですね。あなたを存じ上げておりますよ、武器整備師の「ブリッジ」。かつて三社の地下武器商にサービスを提供し、いずれにおいても素晴らしい評判でした。
[シェーシャ] そいつはどーも。
[シェーシャ] ……で、お前はなんでロドスに接触してきたんだ?
[「サンドソルジャー」] いつも通り帳簿の確認をしておりましたら、全く瑕疵のない取引記録を発見しましてね。ああ、ご存知でしょうがこの沁礁でやり取りされる金貨はすべて、私の耳目の及ぶところを通るのです。
[シェーシャ] ……だから?
[「サンドソルジャー」] 瑕疵がないと申し上げた通り、警戒なさらなくとも、あなた方には何も怪しいところはありません。あなた方の取引にも関心などありません。ただこの契約の……サインには、非常に興味があります。
[「サンドソルジャー」] さて、幸い今日の私は時間に余裕があるのです。教えていただけますか? ロドス製薬とは、一体どのような場所なのです?
「大地の上を歩む、幾千万の命あるものが如く。」
二十二年前
p.m. 1:09 天気/晴天
サルゴン中部 イバト地区 レッドホーン
[負傷した傭兵] 撃ってきた! 伏兵がいるぞ! 伏兵だ!
[負傷した傭兵] 撤退を――うっ!
[負傷した傭兵] 奴ら気でも狂ったのか!? この辺りはまだ大勢の一般人がいるんだぞ!
[怒る傭兵] 早く! こっちに隠れろ!
[負傷した傭兵] 危なかった。ありがとよ。
[逃げる市民] ――うあぁ、火、火だ! 俺の家が――(喉を射抜かれる音)ドッ
[逃げる市民] 早く逃げろ! 早く!!
[逃げる市民] うわあああ――!!
[怒る傭兵] 一般人が大勢巻き込まれてるぞ……奴らイバトの首長軍をまるごと全部引き寄せる気か!?
[負傷した傭兵] 首長軍? 奴ら自身が変装した首長軍の可能性もあるがな。
[怒る傭兵] なにっ――?
[負傷した傭兵] これを見ろ。
[怒る傭兵] ……赤いラベル? この契約書、敵が持っていたのか――?
[負傷した傭兵] そうだ、俺たちは身内に謀られたんだよ! 今このあたりの勢力図はぐちゃぐちゃだ……お前に講義してやっても理解できるかわからんほどにな――
[負傷した傭兵] あの小隊を狙っているのは俺たちだけじゃない……クソッ! 何がブツを奪えば金が手に入るだ。これじゃ全面戦争じゃねぇか――
[負傷した傭兵] 偵察員がやられる前にここにいる全部隊の座標を送ってくれた。こんな狭い場所に、識別コードの違う小隊が四つもいやがる!
[負傷した傭兵] これがどういう意味かわかるか? 全員殺して大儲けするか、逆に殺されるか……もしくは今投降すればまだ命は助かるかもな!
[怒る傭兵] ――クソッ! イカれてやがる!
[???] ハア……ハア……ゴホッ、ゴホゴホッ……
[???] ……きっと、誰もいませんよね……
[???] ゴホッ……
[???] ……だ、誰?
[怒る傭兵] ……チッ、ガキかよ……しかも死体なんか背負ってやがる……気色わりぃな、さっさと失せろ!
[怒る傭兵] いや待て……その格好、クルビア人か!? お前、まさか「サンドソルジャー」小隊の!?
[怒る傭兵] こちらB8、生存者を一名発見した。リーベリのガキだ、成人男性の死体を背負っている――
[???] ——!
[怒る傭兵] おい、待て!
[イライラした傭兵] よし! いいかテメェら、聞こえただろ? 「サンドソルジャー」に生き残りがいる! 必ず連れてくぞ!
[イライラした傭兵] 俺たちの目標のブツは、すでに他の連中の手に渡っている可能性もある。万一の場合に備え、遭遇した奴は全員殺せ。どの首長の奴だろうと――たとえムラドパーディシャー本人だろうとな!
[イライラした傭兵] 忘れるなよ、銀の箱だ。空が暗くなる前に持ってこい! 俺がそいつの上に座って勝利の歌を歌ってやる!
[サルカズ傭兵A] ……奴らの通信を傍受した。「サンドソルジャー」小隊に生存者がいるようだ。
[サルカズ傭兵A] 死体を背負った子供を発見したらしい。パーディシャーが欲しているものも、そいつが持ってるのか?
[サルカズ傭兵B] ……あの町から撤退した部隊はいない。つまり、ターゲットはまだ発見されていないんだろう。
[サルカズ傭兵A] 当たり前だ、馬鹿の一つ覚えのように全員であんな小さな町に突っ込んだところで、いたずらに混乱を招くだけ……時間の無駄だな。
[サルカズ傭兵A] 待て、術師から連絡が……状況が動いたようだ。
[サルカズ傭兵B] なに?
[サルカズ傭兵A] 輸送車が一台来たらしい……クルビアトカロントのナンバープレートで……セントラルスモークバザールの近くに停車した。乗っていたのは……
[サルカズ傭兵A] 女一人と化け物? 化け物だと? 何を言ってるんだ――おい。
[サルカズ傭兵A] ……通信が切れた。あいつでもヘマをすることがあるのか?
[サルカズ傭兵B] いや、あいつの待ち伏せ地点はバザールから少なくとも一キロは離れている、そんなに早く見つかるはずがない。そいつらがここの地形に明るいか……恐ろしく腕の立つ奴じゃない限りな。
[サルカズ傭兵A] ヴイーヴル人か? それともクルビアに雇われた他の勢力か?
[サルカズ傭兵B] ……ひとまず様子を見よう。
[???] ハァ……ハァ……
[???] ゴホゴホッ……どうして……先生……ゴホゴホッ!
[???] ——!?
[捜索中の傭兵] 必ずこの近くにいる! 死体を背負ってるんだ、そう遠くへは――
[捜索中の傭兵] チッ、邪魔が入ったか。構わん! 殺せ!!
[???] ……あいつら、き、来てない……?
[???] ……先生、先生……起きてください……
[???] 血が……血が止まらない……先生、まだ先生から教わってないことがたくさんあります……僕はどうすれば……
[捜索中の傭兵] ……ターゲット発見。
[???] ——
[捜索中の傭兵] 動くな! 動いたら首を落とすぞ!
[捜索中の傭兵] 死人に向かって独り言とは、そんなにショックだったか? あん?
[捜索中の傭兵] 背負ってるそいつを下ろせ。ブツはどこだ? とっとと答えろ!
[???] ……僕は……僕は。
[???] 知らない……
[???] うっ――
[捜索中の傭兵] ふざけやがって、このクソガキが……あ?
[捜索中の傭兵] この死体……「サンドソルジャー」のリーダーか? どうしてお前が……まさかブツはこいつが?
[???] ――触るな!
[捜索中の傭兵] くっ、てめぇやる気か――どけ!!
[???] うぐっ……
[捜索中の傭兵] 銀の箱! やっぱり持ってたか……フフッ、ハハハッ!
[???] この、き、汚い手で触れるな! 先生から離れろ!
[捜索中の傭兵] はっ、ブツは手に入れたんだ、てめぇを生かしておく必要はないな。
[捜索中の傭兵] すまねぇな、ガキ……これも仕事なんだ――
[???] ——
[捜索中の傭兵] なっ、何だコイツは――!?
[Mon3tr] (低いうなり声)
[捜索中の傭兵] 何なんだよ――おい、誰か聞こえるか? 今正体不明の――
[Mon3tr] (雄たけび)
[捜索中の傭兵] ――うおっ!
[捜索中の傭兵] 機械……いや、生物か!? 一体何なんだお前は!?
[捜索中の傭兵] 来るな! ――クソッ、なんで矢が効かない? くっ、来るな! 来たらガキを殺すぞ! 来るなあああ!!
[Mon3tr] (あざ笑う)
少年の目の前で、深い翡翠色に輝く化け物が、鋭く尖った腕のようなもので傭兵の体を刺し貫いた。
そして、寝起きに伸びをするかのように、悠々と躰を反らせた。
[謎の女性] ……Mon3tr。
[Mon3tr] (返事をする)
[???] あ……あぁ……
少年は身動ぎひとつできずにいた。彼の声はとうに涙と共にかれていた。
少年はただ、冷たくなった遺体を抱いてうずくまっていた。先生と呼び慕った者の体から流れ出た血液が、少年の胸元で凝固する。まるで深紅の花びらのように――
[謎の女性] ……
[謎の女性] 君はもう安全だ、エリオット。
[エリオット] ……!?
[エリオット] あ、あなたは誰です……僕を知っているんですか?
[謎の女性] ブライアン創生科学研究所の尊敬に値する科学者のことならば、私はみな知っている。
[謎の女性] しかし君たちは、自身が今どのような陰謀に巻き込まれているかを知らない。私は君たちを止めに――そして守りに来たのだ。
[エリオット] 守りに……?
[エリオット] もう遅い……遅すぎる……
[謎の女性] 君が恩師の遺産を裏で糸を引いてる者たちの手から守りきったのであれば、それだけでも十分よくやったと言える。
[エリオット] ……
[エリオット] やっぱり。何が守るだ……
[エリオット] あんたが守りたいのは、これだろうが! この図面で、このサンプルだ。僕じゃない! 先生でもない!
[エリオット] 先生は死んだ! 僕たちを助けようとした人たちも死んだんだ! あんたは……あいつらと何も変わらない。この箱が欲しいだけで、こんな箱のためにあんたたちは――ゴホゴホッ、ゴホッ――!
[謎の女性] ……
[通信機の声] 顧問、各地の首長に雇われた傭兵を三部隊、及び町の外の崖にいる所属不明のサルカズ部隊を確認しました。
[通信機の声] 我々の計画では、あと七分です。
[謎の女性] ……こちらは生存者を一人発見し確保した。目的物は彼が所持しているものだと思われる。
[通信機の声] 撤退ルートは安全です。
[謎の女性] 三分後に落ち合おう。
[エリオット] ……
[謎の女性] 教えてくれエリオット。君が背負っているヴイーヴルの戦士は、何のために死んだ?
[エリオット] ……黙れ。
[謎の女性] 君は今、ここに立って――生きている。この作戦区域に展開する、すべての傭兵たちが求めているものを携えてな。
[謎の女性] 小隊コードネーム「サンドソルジャー」……だが、その名でサルゴンにやってきたのは、研究者とトカロントの一般的な護衛隊で構成された集団だ。
[謎の女性] 君を逃した者、君の背にいる者、彼らは最期の瞬間まで職責を果たそうとしたのではないか。君を守り、そして重大な任務を君に託したのではないか?
[謎の女性] 君は、自らの未熟さのせいで、戦士たちの努力をすべて無駄にしたいのか?
[謎の女性] 私が求めているのは、君の回答だ。
[謎の女性] その図面が、いかなる首長の手にも渡っていないことさえ確認できれば、その他のことには私は興味がない。私自身がその箱を欲しいわけではない。それだけは理解してほしい。
[エリオット] ……
[謎の女性] なるほど、警戒心が強いのだな。まだ口を開くつもりはないか。
[謎の女性] だがようやく、しっかりと顔が見えた……やはり君が背負っているのは、ソーン教授か。ブライアン創生科学研究所の首席研究員の。
[謎の女性] 彼は研究員で戦士ではないが、真に戦士であるとも言える。
[エリオット] あんたは……
[謎の女性] 彼を下ろしてやれ。それとも彼と共に砂漠の黄砂に埋もれる気か?
[謎の女性] 彼は、自分の死を意味のある死だと思っていることだろう。それを事実にできるのは君だけだ。君は彼の犠牲を無駄にすべきではないし、彼の遺志に背くべきではない。
[エリオット] 嫌だ……
[謎の女性] 彼はもう死んだ。
[エリオット] 違う! もう構わないでくれ!
[謎の女性] せめて尊厳ある弔いをしてやろう。
[謎の女性] ……Mon3tr。
[Mon3tr] (雄たけび)
[エリオット] な、何をする気だ!
[謎の女性] 伏せろ。
[エリオット] うっ――!
[エリオット] ……この穴に……先生を埋葬しろと?
[謎の女性] 私もソーン教授とは旧知の仲であるから、他に方法があればよかったと思うが、状況が状況だからな。これ以上の丁重な扱いはしてやれない。
[謎の女性] 人の命というのは、どれも長き戦いだ。
[謎の女性] 彼の先祖は何らかの理由でサルゴンを去った。彼は各地を放浪し、己の人生を見つけたが、最後にはやはりサルゴンの砂漠に戻ってきた。
[謎の女性] 彼の成したこと、彼の正義、彼の探究の終着点はここだった。
[謎の女性] 私の知るソーン教授は聡明で、決して道理のわからぬような者ではなかった。彼は自身の死と率直に向き合い、最期の一瞬まで抵抗を試みただろう。
[謎の女性] エリオット、もう彼を楽にしてやれ。
[エリオット] 僕は……
[謎の女性] これは故人に対する尊重だ。君ならわかるはずだろう。彼は君の足手まといになりたいと思うだろうか?
[エリオット] わ……わかりました……
[謎の女性] (古いヴイーヴル語)彼の者の霊魂が、遥かなる水の流れにたゆたい帰らんことを。
[エリオット] ヴイーヴル語……? あ、あなたはヴイーヴル人なんですか?
[謎の女性] (古いヴイーヴル語)彼の者が、積もる砂のように常しえに安らかであらんことを。
[謎の女性] (古いヴイーヴル語)彼の者と共に郷里の風が在り、彼の者が岸辺の彼方までつつがなく至らんことを。
[謎の女性] (古いヴイーヴル語)我らの朋友はここに永き眠りに沈み、浩大な輪廻の渦へと還るだろう。
女性は静かに俯いて祈りを捧げる。戦の砲火もこの時ばかりは途切れたかのようだった。
[エリオット] ……
[謎の女性] ……時間がない。でき得る弔いはしたがここまでだ。さあ、君のことに移ろう。エリオット、君は今すぐこの場で選択をしなければならない。
[Mon3tr] (警戒するかのように低くうなる)
[謎の女性] そうだな、数は少なくない。だが陣形は乱れている。それに彼らは一糸乱れぬ連携が取れるような武装集団ではない。
[謎の女性] 私たちが遭遇する前に、彼らはお互い潰し合って自滅するだろう。
[エリオット] ……ようやく思い出しました。あなたの顔を見たことがある……昔……ずっと前に先生があなたを紹介してくれました……
[エリオット] 僕はてっきり、あなたはただの理論研究者だとばかり……
[エリオット] 確か……あなたの名前は――
[エリオット] ケルシー……?
[ケルシー] そうだ。
[ケルシー] いい記憶力だな、エリオット。
若き研究員、エリオット・グラバーは、歩き出した謎の女性の方を見向きもしなかった。
彼は恩師が埋葬されたばかりの場所に盛られている砂をぼうっと眺めていた。 空気中にはいまだ舞い散る砂塵が残っていた。
彼は思う。 恩師の遺体を火葬して弔う力さえ、今の自分にはないのだと…… そしてその思いはエリオットを、哀しみの淵へと突き落とし、深く深く彼を染め上げた。
再び砲火の音が鳴り響くその時まで――
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