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狂人号_SN-7_黄金の回廊_戦闘後
シーボーンは狩人や船長たちと一戦交えたのち、逃げ出してしまった。一方で、アイリーニは偶然ガルシアがピアノを弾く場面を目にし、この副船長にまだ理性があることを知る。その頃、造船士ブレオガンの遺産を前に、グレイディーアはかつての僚友の存在を感じ取っていた。
私は見ていた。
アルフォンソが、自らイベリアと名付けた広間へ毎日足を運ぶところを。
彼は寝室にあった鏡を広間へと運んで、来る日も来る日も自分を見つめ続けていた。
料理長とジェイミーが処刑された今、残ったのは私と彼だけだ。
[ガルシア副船長] ……
[アルフォンソ船長] ああ、来たか。
[アルフォンソ船長] 俺はどのくらい眠っていた? 近頃は眠りが浅くてな。どうにも目を覚まさずにはいられん。
[ガルシア副船長] エ、ト……あンまリ……ダ、けド……
[アルフォンソ船長] 無理に話すな。声を出すと、痛みがあるんだろう?
[アルフォンソ船長] 筆談で良い。あのつまらん怪物どもの血が残っているから、遣ってくれ。
私は頷いた。彼の言う通り、部屋の隅に置かれた容器は獲物の血で満たされている。
[アルフォンソ船長] ……なんだか、やたらと時間が長く感じるんだ。ほんの数時間しか寝ていないのに、その間に見た夢はこの数十年より長かったようにすら思う。
[アルフォンソ船長] ジェイミーの奴と料理長の爺さんが逝ってから、もう随分経った……俺たちも諦めたほうがいいんだろうか? あいつらのところに往くべき時が来たのか……?
……諦めるべきだ。
私の意識は、夢から覚める前のように朦朧として、ぼやけたものになりつつあった。
変化は肉体のみならず、生物として持つあらゆる部分に訪れていたのだ。
もう諦めるべきだ。飲み込まれてしまう前に、自分自身の手で終わらせるべきなのだ。――果てしなく続く海、潮風、波、囁き……
[アルフォンソ船長] ……副船長。ここは俺たちの船であり、理想でもある。
[アルフォンソ船長] 俺たちはいずれ力尽きるだろうが、「狂人号」は止まらない。
[アルフォンソ船長] あの葉巻中毒の技師は正しかった。俺たち全員が死のうとも、この船は沈まないんだ。
[アルフォンソ船長] 今日という日は……長い年月の中にある、たった二十四時間でしかないのさ。
[ガルシア副船長] ……(恐魚の血で文字を書く)
[アルフォンソ船長] ……「諦めないで」、か。
[アルフォンソ船長] はは……今ではお前の青い瞳を覗くことも叶わないというのに。そんな姿になってまで、まだ楽になろうとは思わないのか?
[ガルシア副船長] (筆談)私は、あなたの副船長だから。
[アルフォンソ船長] ……
[ガルシア副船長] ……あナタノ……タめ、ナら。
[アルフォンソ船長] ……無理に話すなと言っただろうに。
[アルフォンソ船長] ありがとう、ガルシア。――お前が何に成り果てようと、この想いは永久のものだ。
[ガルシア副船長] (頷く)
けれども――私は知っていた。アルフォンソが鏡を見ているのは、彼がどんなに強くとも、結局あの怪物には勝てなかったからだということを。
私たちはあれの血肉を口にしてきた。初めこそ火を通していたが、そのうちに、生食せざるを得なくなっていった。
元々、アルフォンソは万能の人だ。最強格の審問官でさえ彼の力に驚嘆していたし、かつては多くの船乗りたちの憧れの的だった。
それでも、これまで長く耐え抜いてきた彼ですら、いずれは怪物に成り果てる。
彼は焦りと苛立ちを抱えていた。
怪物と化した己の身体すら許容できないこの人が、私の今の有り様を受け入れられるはずもなかったのだ。
[グレイディーア] やはり単なるゴミクズね。サルヴィエントで見た醜い植物にも劣る実力だわ。彼女、演出過剰じゃなくって?
[グレイディーア] これでは、海が変化しているとは到底思えなくてよ。
[シーボーン] ……Gla-dia……
[シーボーン] ……会いた、かっタ。自由、ナったか?
[グレイディーア] ……
[シーボーン] ここ、同胞いル。閉じ込メ、らレてる。必要だ、助ケが。一族ノ、元へ帰さナ、くテは。
[シーボーン] ここデ、同胞、多く、死ンだ。先代、許さナい。助ケ、ナくてハ。
[グレイディーア] その見るに堪えない顔で言葉を話したところで、誰も喜びはしないわよ。
[シーボーン] オ前、海に帰ル、だロう? 戦う必要、ナい。
[シーボーン] 我々ハ、共に――
[グレイディーア] あなた方の戯言にはうんざり。ここで終わらせてあげるわ。
[シーボーン] ……Gla-dia。私ヲ、食べルか?
[シーボーン] 食べ、たラ。強く、なルか? 元気、ナるカ?
[シーボーン] 首につイた、鱗。成長しテ、広ガって、元ノ姿、戻れルか?
[グレイディーア] ――!
アビサルハンターの血は繋がっている。
シーボーンはほかに比べて小さな体をゆっくりとよじらせ、そして――
――自分の身体に歯を立てて、その一部を噛み千切った。
[シーボーン] 私、切り分ケ、た。こノ肉、食べロ。
[シーボーン] 足りなケれバ、もっト、やル。スべて、差し出そウ。
グレイディーアは、床に落とされた血塗れの肉を呆然と見た。
彼女は動揺していた。
その動揺は、シーボーンにも、そしてそれの行動自体にも関係のないものだった。
しかし、シーボーンはそのわずかな一瞬の間を、彼女が提案を受け入れた証だと判断した。
[シーボーン] ……まタ、会オう。
シーボーンはその場を去ったが、グレイディーアはそれを追いかけはしなかった。
サメとスカジの匂いを感じ取ったのだ。どの道、シーボーンに逃げ去るつもりがない以上、今追う必要はない。
グレイディーアは振り返ると、匂いがした方向へと目を向けた。
[グレイディーア] ……海の匂い……血の匂い、そして狩人の匂い。――この船にいるというの? どうして、こんなに近くなるまで気付かなかったのかしら……
[グレイディーア] ありえないわ……!
[審問官アイリーニ] 私たち……どうすればいいのかしら?
[スカジ] まさか、ここにまだ生存者がいるなんてね。恐魚さえ片付ければ、すぐに船を取り戻せると思ってたわ。第二隊長も、さも簡単そうに言ってたんだけど。
[スペクター] ……
[スカジ] ……スペクター、何を見てるの?
[スペクター] 鏡よ。
[スペクター] 鏡に映った自分を見ていると、今この瞬間にも、忘れていた記憶がどんどん蘇ってくるの。
[スペクター] ほの暗いドームに、100メートルはある彫刻……青い水晶でできたオペラ座や、氷の結晶が降り注ぐ滝。これって、どこの景色なのかしら?
[スカジ] ……あなたの故郷よ。
[スペクター] 「故郷」……段々思い出してきたわ。
[スペクター] ねじれた肉が彫刻の至る所を這い回っていて……それも大きな音を立てて崩れ去っていくの。
[スペクター] だけど……そんな記憶があるのに、体験したことはない気がするのよね。
[スカジ] そう言われても、私にはわからないわ。だってあなた、自分の住んでいたところは私たちが知り合うより前、ずっと昔に陥落した、って話しかしなかったもの。
[スカジ] きっと、あとになってからニュースでも見たんじゃないかしら。
[審問官アイリーニ] ちょっと、その話あとにしてくれる!?
[審問官アイリーニ] 今はもっと大事なことを考えないと! あの二人を追うか、あるいはこの隙に船を奪還して、ええと……港まで戻るか、とか……?
[スペクター] あの人たちが六十年間実現できなかったことなのよ? そう簡単にできるとは思えないわ。
[スペクター] ゆっくり待ってましょうよ。隊長が解決方法を探してくれるか、ら……っ、ん……?
[スカジ] スペクター、大丈夫!?
[スペクター] ちょっとだけ……めまいがするわね。
[スペクター] 思い出したの……あの連中が、私に何をしてくれちゃったのか……
[スペクター] ――あら……?
[スペクター] これは……グランファーロで見た、あの人……?
[スペクター] 彼女、私と話したがってたのよね。偽善に満ちた態度で、本心を隠していたけど……
[スペクター] ……ここにいるみたいだわ。
[審問官アイリーニ] 何よ、それ……生存者がほかにもいるってこと?
[スカジ] いいえ、船に潜り込んだ敵と考えていいわ。海を渡ってここまで辿り着いている以上、それ相応の相手だもの。
[スカジ] 二手に分かれましょうか。あなたはどうする?
[審問官アイリーニ] ……私は……
[審問官アイリーニ] ……
[審問官アイリーニ] ……私は、イベリアの審問官なのよ。この船を我が国へと帰すという責務を果たさないと。
[審問官アイリーニ] だから、私は……アルフォンソを追いかけるわ!
[恐魚] (慌てたように這いずる音)
[ガルシア副船長] グ、ァア――!
[アルフォンソ船長] おお、そう焦るなガルシア。すぐに追いつけるさ。
[アルフォンソ船長] あの無神経なエーギルどもに手傷を負わされている以上、あれは我が「ヴィクトリア」から「ボリバル」を通って甲板へ向かい、海へと飛び込むつもりなのだろうな。
[アルフォンソ船長] だが、この船は奴が気ままに足を踏み入れて良い場所ではないと教えてやろう。
[アルフォンソ船長] ……「リターニア」か。俺たちが若い頃には、何人かの将校を連れてあの国へ行ったこともあったな。覚えているか?
[アルフォンソ船長] あの選帝侯たちは実に嫌な面構えをしていたが、芸術を尊重する精神だけは本物だった。あれには、実に驚かされたものだ……
[ガルシア副船長] ゥ……?
[アルフォンソ船長] 今日は良い日だ。何人もの、生きた人間に出会えたからな。……とはいえ、さっさと出て行ってほしいとは思っているが。
[アルフォンソ船長] さて、ガルシア。「リターニア」へ行ってくれないか? お前が昔好きだった曲を、弾いて聴かせてほしいんだ。
[アルフォンソ船長] 愛しい人よ。俺の狩りに華を添え、勇気づけておくれ。
[ガルシア副船長] (頷く)
[シーボーン] ――!
[ガルシア副船長] グ、ァッ――!
[シーボーン] お前、鱗アる。食べ物、いルか?
[恐魚] (取り囲むようにして這いずる音)
[シーボーン] 栄養ハ、足りテいる。ダが、こノ海は、完璧でハない。生物ガ、無益に、死んデいキ、循環ガ、でキ、テいない。
[シーボーン] だカら、早ク――
[シーボーン] ――なゼ、だ? 捕食、無意味。我々にハ、一族の使命、あル。
[アルフォンソ船長] 貴様で十数匹目だったか。いつから言葉を話せるようになった?
[アルフォンソ船長] ああ……こうしてよく見れば、貴様には見覚えがあるな。貴様の両親を食った時、貴様とその兄弟たちがそれを傍観していたことは記憶にあるぞ。
[アルフォンソ船長] 奴らの中でも、貴様は最弱の個体だったな。哀れな化け物め。
アルフォンソは、笑いながらシーボーンの傷口を抉る。血がその刃先を伝って床へと流れ落ちていく。
[シーボーン] 我々ハ、血族だ。我々を、捕食しタお前、我々トなる。先代ガ、オ前を捕食し、お前タちに、捕食さレたよウに。
[アルフォンソ船長] 貴様らが条件次第で変化していくというのなら、その変化をより良いものにする方法はないのか? 無論、肉質の面でな。
[シーボーン] 捕食、生きルため。捕食、優劣、なイ。
[アルフォンソ船長] それは残念だ。
[グレイディーア] 匂いは……ここで途切れているわね。
[グレイディーア] まさか、意図的におびき寄せられたとか……
[グレイディーア] ……
グレイディーアは、その狩人を深追いしようとはしなかった。
彼女は辺りを見渡した。
この船に用いられている素材も、装飾も、そして技術も、彼女には深い懐かしさを感じさせるものだ。
エーギルが誇る科学アカデミーの天才、ブレオガン。ここは紛れもなく、彼の築いた場所だった。
この船が何十年も沈まなかった理由や、ブレオガンがエーギルに伝えたかった情報、それに源石と陸の技術を組み合わせて生み出した新しい産物。
それらは、一体どういったものなのだろうか?
グレイディーアは懐から鍵を取り出した。
そうして、周囲を注意深く見渡す。
[グレイディーア] ブレオガン……あなたは、どこに秘密を隠したのかしら?
[審問官アイリーニ] (この船はどうして宮殿みたいな造りなの……? どこもかしこも装飾に溢れてるし、彫刻すらあしらわれてるじゃない……)
[審問官アイリーニ] (っていうか、この彫刻だの花模様の絨毯だのに至るまで、綺麗に手入れされてるんだけど……もしかして、この状況でも掃除をしてるってこと……?)
その時、ふと遠くから音楽が聞こえてきた。
[審問官アイリーニ] ……この音、ピアノかしら?
[審問官アイリーニ] 方向は――こっちね!
[審問官アイリーニ] ……!
アイリーニは歩みを緩めた。
廊下の突き当りに部屋がある。扉の隙間から中を覗くと、そこには――
崩れかけたピアノの鍵盤を叩く、シーボーンの姿があった。
[審問官アイリーニ] (アルフォンソと一緒にいたシーボーンだわ……! どうしてここにいるのかしら?)
[ガルシア副船長] (楽しげに鍵盤を叩く)
[審問官アイリーニ] うっ、ひどい音……適当に叩いてるだけじゃない……
[審問官アイリーニ] (アルフォンソはいないみたいだけど……シーボーンを追っているのかしら? でも、どうして副船長だけここに……?)
[審問官アイリーニ] (まあ、今は放っておきましょう……)
――海岸よ、海岸♪
[審問官アイリーニ] ――え……?
[審問官アイリーニ] (今のメロディー……偶然よね? 見る限りは、乱暴に叩いてるだけみたいだし……)
[審問官アイリーニ] ……止まった……?
[ガルシア副船長] ……
[ガルシア副船長] ……海岸……ヨ、海岸……♪
[ガルシア副船長] 英雄、ト……偉、人を……見送っテ……♪
[審問官アイリーニ] ――
[ガルシア副船長] ――! ッ……!
副船長が驚いたように振り返る。アイリーニは、その動きに驚きと恐れを読み取った。
それは、アビサルハンターに出くわした時でさえ見せなかった、大きく慌てふためくような動きだったのだ。
[審問官アイリーニ] あなた、適当に鍵盤を叩いていたわけじゃないのね……?
[審問官アイリーニ] 今弾いていたのは……イベリアの軍歌じゃない? 一体、どうして……?
[ガルシア副船長] ウ……!
[ガルシア副船長] ……
[ガルシア副船長] …………
[ガルシア副船長] ア、なタ……は……
[審問官アイリーニ] ……! ま、まさかまだ人としての意識があるの? 自分が誰かもわかってるってこと……!?
[審問官アイリーニ] そんな……だ、だけど……裁判所は、似たような状況の深海教徒を処分したことがあるの。そういう姿になってしまったら、もう元には戻れないのよ……
[ガルシア副船長] ……
[審問官アイリーニ] きゃっ……! な、何のつもり!? その手は一体――
[ガルシア副船長] (アイリーニの頭に優しく手を置く)
[審問官アイリーニ] ど……どういうこと……?
[ガルシア副船長] ……
副船長と呼ばれたシーボーンは、婚礼用のヴェールのような布越しにアイリーニをじっと見つめる。
その瞳は濁り、苦難に蝕まれていたが、それでいて――
――慈愛と郷愁に満ちていた。
[審問官アイリーニ] ……ねえ。あなたが本当に、人間としての意識を保っているのなら……
[審問官アイリーニ] こんなにも長い間、一体どうやって……
[ガルシア副船長] ――ッ!
[ガルシア副船長] ――船、長――!
[審問官アイリーニ] な、何!?
[審問官アイリーニ] っ、待って!
[シーボーン] ……捕食。捕食? オ前の、行為。捕食でハ、なイ。お前ノ目的、変化、しテいる。揺れ、動ク。そウ。動揺、しテいる。
[アルフォンソ船長] チッ……
[アルフォンソ船長] ピアノを弾いていてくれと言っただろう、ガルシア。こんな連中に関わるのは止せ。
[ガルシア副船長] (首を横に振る)
[アルフォンソ船長] ……ふっ。
[アルフォンソ船長] ならば、共に獲物を仕留めるとしよう。手早くいくぞ。奴の身体は変化を始めているからな。
[シーボーン] お前、タち。飢えテ、いナい。
[シーボーン] ナんの、たメ?
アルフォンソはその問いには答えず、まな板に乗せた肉を切るようにしてそれを切り刻んでいく。
副船長はシーボーンに噛みつき、押さえ込んでいた。戦いの中、冠が床へと落ちていったが、それを拾いに行く余裕はない。
アルフォンソがシーボーンの触手を斬り落とす。触手は冠のそばへと転がり落ちて――その一瞬、ガルシアの動きが止まった。
ああ、ガルシアよ。
己が冠と、その触手とを見るがいい。今の自分がどんな姿をしているか――あなたは、わかっているのか?
[シーボーン] ……こコ、離レる。マた、会オう。
[アルフォンソ船長] どうした、ガルシア!
[ガルシア副船長] ――!
副船長が顔を上げた時には、シーボーンの姿はなくなっていた。
ガルシアは黙って冠を拾い、自らの頭に乗せてから、アルフォンソの元へ近付いて、詫びるように彼の手を撫でた。
[アルフォンソ船長] ……怪我でもしたのか? あるいは、あの招かれざる客たちに気を取られたのか?
[ガルシア副船長] ……
副船長は答えなかった。
敵に噛みついた瞬間、「同族に噛みついている」と感じたことなど言えなかった。
自らの姿を改めて認識したことで、罪悪感が芽生えてしまったことなど言えなかったのだ。
[アルフォンソ船長] ……心に何か感じるものがあったなら、それはお前がまだ人として生きていることの証左だ。ジェイミーの奴が最期に言ったことを思い出せ。
[アルフォンソ船長] 「今の俺には後悔も、心残りも、恐れすらもない」――あいつはそう言っていた。人として生きる資格を失うのは、何も感じられなくなった時だけさ。
[アルフォンソ船長] だから気にするな。次の狩りはすぐに終わらせられるし、そうしてまた繰り返していくだけだ。
[ガルシア副船長] ……(頷く)
[アルフォンソ船長] ……何かあったのか?
[ガルシア副船長] (首を横に振る)
[アマイア] ……ああ、使者よ。
[シーボーン] ……同胞。鱗、なイのか?
[アマイア] ひどい傷ですね。まだ生まれたばかりなのですから、焦ってこの船へ上がるべきではないでしょうに。
[シーボーン] コこ、いる。助ケ、求メる、同胞。
[アマイア] 確かに、仰る通りです。けれど、あなたは怪我をしたでしょう。その同胞たちには、歓迎されていないということですよ。
[アマイア] 彼らは皆、自分の在るべき姿をまだ受け入れられずに、戸惑っているのです。
[シーボーン] 在ルべき、姿? 受け入、レる?
[アマイア] ……理解する必要はありませんよ。この海はまだ不完全ですし、すべての個体を導くためには、あなたもより完璧に近付いていく必要があるでしょうから。
[シーボーン] 時間。栄養。ほシい。
[アマイア] 私が時間を稼ぎ、栄養のあるものを用意してきましょう。
[アマイア] あの礼儀知らずの船長は、恐魚を狩り、食糧としていながら、手を尽くして進化を拒んでいます。循環する生命の中から一部を奪っておいて、その輪に加わることを拒絶しているのです。
[アマイア] 彼らの貪る血肉は、あなたにこそ与えられるべき糧だというのに……この船は、新たな生態系の誕生を滞らせています。
[アマイア] 使者よ、どうか私を拒まないでください。「テラ」という名は、いずれ巣の代名詞へと変わることでしょうから。
[シーボーン] ……
[シーボーン] 同胞よ。私ハ、拒絶しなイ。
[シーボーン] 時間。長クは、かカらない。
[シーボーン] まタ、来る。マた、会おう。
[アマイア] ……てっきり、この機を逃さず、使者と私を殺しに来るかと思っていたのですけれど。
[アマイア] 見逃してもらったことを感謝すべきでしょうか? ウルピアヌス。
[ウルピアヌス] 奴はクイントゥスより貧弱だ。あの程度、殺そうと思えばいつでも殺せる。
[アマイア] まあ、なんて辛抱強い方なのでしょう。
[ウルピアヌス] サルヴィエントでは、グレイディーアも何かを探るべく深海教会に身を投じていた。無論、彼女はそうしたことが不得意な性格であるにもかかわらずな。
[アマイア] あなた方は誰しも、その手のことが不得意だと思っていましたけれど……あなたが変わっているだけでしょうか?
[アマイア] 段々と口数も増えてきているようですし。
[ウルピアヌス] ……
[アマイア] あら。あなたの沈黙に法則性を見いだすのは難しそうですね、ウルピアヌス。
[ウルピアヌス] 馴れ馴れしく名を呼ぶのはよせ、リーベリ。貴様はその重みを理解していない。
[ウルピアヌス] 我々は敵同士なんだ。
[アマイア] 心の底では、そんなふうには思っていないのでしょう? ああ、もちろん、未だ「敵意」を抱かれていることは知っていますけれど。
[アマイア] 何しろあなたが置かれているのは、飢えて迷える旅人が、山中で寒さに凍える裂獣を見つけた時のような状況なのですから。
[ウルピアヌス] ……
[アマイア] ブレオガンの遺産は、あなたを満足させるようなものでしたか?
[ウルピアヌス] いいや、まだ足りん。
[ウルピアヌス] シーボーンの歴史がエーギルより古いというのなら、奴らの歴史に転換点が訪れたことには理由があるに違いない。
[ウルピアヌス] 神の言葉を気にかけたければ好きにしろ。だが、シーボーンと奴らの父は神ではないということは確かだ。
[ウルピアヌス] 俺は、貴様らの神の死に様を見た。海流の中で泣き叫ぶ声がし、血肉は海の奥深くへと沈んでいった。奴らの血族が頭上を泳ぎ回る中で、俺はエーギルにとって未知の領域へと落ちたんだ。
[ウルピアヌス] 俺がこの目で見たそれは、過去に築き上げてきた信念のすべてを打ち砕くに足るものだった。――俺はそれを再構築し、再びエーギルを支えてみせる。
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