aklib_story_彼方を望む_よりよい自分

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彼方を望む_よりよい自分

ウタゲ、ミルラ、ビーンストークの三人は、任務の最中にイベリアの奇妙な噂話をし始める。しかし噂は噂。本当のイベリアは人々が想像するものとは異なっているかもしれない。


[ミルラ] ウタゲさん、それにビーンストークさんも今回は本当にありがとうございました、一緒に薬草探しをしてくれて。

[ミルラ] わたし一人だったら、きっとここまで順調にはいきませんでした。

[ウタゲ] 大丈夫だよ、あたしもこういう外勤任務は久しぶりだから、意外と新鮮だったし。

[ウタゲ] そんなよそよそしい呼び方じゃなくってさ、ウタゲって呼んでよ。女の子同士でお出かけなんだから、楽しく仲良くしよーよ。

[ウタゲ] あたしたちもう友達でしょ?

[ミルラ] あっ、そ、そうでしたか!? 友達……でもわたし――

[ミルラ] わ、わたしファッションとか何もわからないですし、面白い話もあんまり……本当にウタゲさんとお友達になっていいんですか?

[ウタゲ] 何言ってんの、良い悪いじゃないでしょ? あたしの連絡先に名前があって、一緒に出掛けよーって誘える人ならみんな友達だって。

[ウタゲ] ほら見て、ミルラも入ってるよ。

[ミルラ] すごいです! ウタゲさん……あ、いえ、ウ、ウタゲは知り合いがたくさんいますね!

[ミルラ] あれ、ここにあるグループって?

[ウタゲ] あぁ、それは「お昼休みのネイル」ってグループだよ。あたしの連絡先グループの中では、一番人数が多いんじゃないかな。

[ミルラ] えーっと……

[ミルラ] これは?

[ウタゲ] それは「クーポンシェア」のグループ。

[ミルラ] じゃ、これは……?

[ウタゲ] 「イベントには参加しないけどお金は払う」グループ。フフッ、ここに入ってる人たちはみんな大切にしなきゃいけない友達だね。

[ミルラ] ……

[ミルラ] (もしこのグループに分類されてたら、わたし多分……泣く……)

[ミルラ] (そんなことない……よね?)

[???] なにそれいいじゃん! そのグループの友達あたしに紹介してよ!

[ミルラ] あ! ビーンストークさん、おかえりなさい!

[ビーンストーク] お待たせ~。

[ビーンストーク] この先の道がちょっと険しくてさ、時間かかっちゃった。

[ビーンストーク] ついでに聞かせてほしいんだけど、あたしとミルラはどのグループに分類してるの? まさか今のグループじゃないよね?

[ウタゲ] 安心して、入りたくても入れらんないから。

[ウタゲ] ビーンストークはねー「いつも次は絶対おごるから」。そんで、ミルラは「医療部」だから。

[ビーンストーク] はぁ? 待ってよ、それってどういう意味? あたし結構おごってあげてると思うけど?

[ビーンストーク] ていうかなんでミルラのグループだけそんなに地味なの?

[ミルラ] あはは……わたしはいいと思いますよ……

[ウタゲ] 地味じゃないっしょ! あたしのために治療してくれるんだから、尊重する意味が含まれてるんだってば。

[ウタゲ] (小声)ていうか医者の恨みは買わないよう気をつけないとだし。あたしだってバカじゃないんだから。

[ウタゲ] まぁそんなこと気にすんなって。てか、さっき辺りを確認しに行ったんでしょ、どう? まだ目的の薬草はあった?

[ウタゲ] もしなさそうなら、そろそろ切り上げ時じゃない? もう結構採集できたっぽいし。

[ビーンストーク] フンッ、今言おうと思ってたのに……! あ、グループの話はまた今度ハッキリさせるからね。

[ビーンストーク] コホンッ……

[ビーンストーク] 結論から言うと――確かに収穫は少しだけあったよ。

[ビーンストーク] トレイちゃんたちに探させてみたら、ここから北へもう少し行ったところに、まだ行ってない緑地があった。

[ウタゲ] トレイってビーンストークが飼ってるペット? すごいね。

[ビーンストーク] へへ、あったり前でしょ! うちの子たちはこんなの朝飯前だよ。

[ミルラ] ここから北ですか……うん、確かに湿度や照度、地形からしても、薬草の成長にはピッタリですね!

[ミルラ] よし、すぐに行きましょうか!

[ビーンストーク] ちょっと待ってよ、まだ話の途中だって!

[ビーンストーク] うーんと……支給されたエリアマップはどこだっけ……あった! 二人ともこれ見て。

[ビーンストーク] 今あたしたちがいるのは赤でマークしたここだね。で、その緑地は大体この位置……ここなの。

[ミルラ] あっ、ここは……

[ウタゲ] ん? どれ。

[ウタゲ] ふーん、あたしたち船を離れてからこんな遠くまで来てたんだ……この先のエリア、コレ何て書いてあんの? イ……? もう~字がちっさすぎ……イ、ベリア?

[ビーンストーク] イベリア……

[ビーンストーク] あそこの移動都市は色が変わるって聞いたことがある。しかも、通り過ぎた土地には草一本生えないんだって。ホントかどうかは知らないけど。

[ウタゲ] ええ? ウソでしょ!?

[ミルラ] もし源石エネルギー技術の問題が引き起こす汚染だとしたら、確かに土地に対して一定の影響を与える可能性はありますね。

[ミルラ] でも草一本生えないなんて……ちょっと大げさすぎませんか?

[ビーンストーク] そんなことないって。イベリアの都市は変形するって言う人もいるくらいなんだから!

[ビーンストーク] 都市のブロックがせり上がって組み直して、手足のない巨大なモンスターになって何でも呑み込んじゃうんだって!

[ミルラ] モ、モンスターになるんですか!?

[ミルラ] なんだか、わたしが聞いてたのとは随分違う気がします……

[ウタゲ] そんなことよりさ、今は進むかどうか決めるべきなんじゃないの?

[ウタゲ] それともイベリアの噂話の共有時間? まあそれもいいかもね。

[ウタゲ] どっちみち実際のイベリアに詳しい人はここにいないんでしょ? なら自分たちの知ってることを話してみようよ、なんかの参考にはなるかもよ?

[ビーンストーク] うん……確かにね。どうせ急いでないし。

[ビーンストーク] あたしはもう話したから、次の人ね! じゃミルラ、話して!

[ミルラ] えぇ、わたしもですか?

[ウタゲ] もっちろーん。

[ミルラ] わ、わかりました……参考にはならないかもしれませんが……

[ミルラ] えっと、これは聞いた話なんですが、イベリアにはゴーストシティがたくさんあるらしいです。

[ビーンストーク] (小声)え? それあたしが言ったモンスターの話と一緒じゃ――

[ウタゲ] (小声)いいからいいから、黙って聞こうよ。

[ミルラ] 道に迷った人なんかが、誤ってそこに入ってしまうんだそうです。街の中は恐ろしく寒く、地面に敷かれているのはすべて青い石で、家にも教会にも誰一人いないらしいです。

[ミルラ] でも……よーく見ると、がらんとした街の建物には、たくさんの宝石が嵌められているんです。広場には彫像がいっぱい置かれてて、そのすべてが純金製なんですって。

[ビーンストーク] 宝石! 純金!!

[ビーンストーク] あれ、でもそれってなんかゴールドシティの話に似てるね。うちの父ちゃんがあの歌得意だったよ。あたし子供の頃すごい憧れてたんだから!

[ビーンストーク] 本当にそんな街があればいいなー……辺り一面宝石に純金か……この目で見てみたいよ。

[ミルラ] アハハ……わたしはそんな機会はない方がいいと思いますけど。

[ミルラ] 街の教会では、夜になると見えない何者かが祈りを捧げてて、中に入ると耳元に誰かの溜め息が聞こえてくるそうです!

[ミルラ] それに、街に迷い込んでしまった人は、徐々に体が固まっていき、動くのも話すのも老人のように遅くなって、だんだんと何も考えられなくなるらしいです……

[ウタゲ] うわ、そりゃひどい呪いだね。

[ミルラ] 最終的に体が全く動かなくなり、話すことも考えることもできなくなるそうです。まるで広場の黄金像みたいに……ううっ、あの彫像はもともと生きた人だったんですよ!

[ビーンストーク] ……め、めっちゃ怖いんだけど!

[ビーンストーク] う、嘘だよね? そんなことあるわけないよ……さっきのあたしの話よりも嘘くさいよ……

[ウタゲ] きっと嘘だよ。話は面白かったけどさ……それが本当だとしても、生きて戻った人がいないならその噂はどこから来たのってなるし。

[ミルラ] そうですね……

[ミルラ] だから言ったんですよ、参考にはならないって。

[ミルラ] これは前にハルモニーと一緒に探検した時に、人から聞いた話なんです……全然信憑性のある情報じゃないですよ。

[ビーンストーク] 探検?

[ミルラ] あっ……実はわたし、ロドスに来る前、友達とよく色んなところに探検に行ってたんです。危険な場所ほど珍しい薬草があるものでして。

[ウタゲ] へぇ! これは知らなかったな。ミルラも結構やるじゃん。あんま外に出ないで、ずっと部屋にこもって薬の調合してるような子なのかと思ってたよ。

[ビーンストーク] そーそー。臆病なイメージのね。

[ミルラ] そ、そんなことないですよ……

[ウタゲ] じゃあ次はあたしが話す番かな?

[ウタゲ] 思い出したけど、あたしも誰かにそういう話聞いたことあるよ。

[ミルラ] えぇ!? この類の話、まだ続くんですか!?

[ビーンストーク] ウタゲってほんとこういうの好きだよね……

[ウタゲ] ただの噂話だって。

[ウタゲ] えーっと、イベリアにはとあるお祭りがあるらしいんだけど――噂話なんかじゃなくて、実際にあるやつ。本で見たことあるよ。

[ウタゲ] それはすっごい賑やかなお祭りらしくて、昔はたくさんの旅行客が見物に来たんだって。でも今ではもうずっと音沙汰がなくて、このお祭りは廃止になったって言う人もいる。

[ウタゲ] でもさ……あたし聞いちゃったんだよねぇ……

[ビーンストーク] 何を? ちょ、ちょっとその話し方やめてよ、なんかゾワゾワしてきた……

[ミルラ] 確かにちょっと……

[ウタゲ] わかったよ、もう驚かしたりしないから。

[ウタゲ] 大したことじゃないよ。お祭り自体は廃止されてないけど、参加してるのが普通の人じゃないってだけらしい。

[ウタゲ] その日になると、お墓から這い出てきた手や足のない死体が街中にいて、そいつらがお祭り騒ぎをするんだってさ。街の人たちは家に入って扉を閉めて、絶対に外に出ちゃダメらしいよ。

[ビーンストーク] もし、出ちゃったら?

[ウタゲ] それは知らないけど、色んな噂がある。

[ウタゲ] 食べられちゃうっていう話もあれば、呪いにかかったみたいに列を成して、街の東にある森へと首を吊りに行くって話もある。

[ウタゲ] なんにせよ、どれも良い結末じゃないけどね。

[ウタゲ] はい、おーしまい。

[ウタゲ] どう、もっと聞きたい?

[ビーンストーク] ……

[ウタゲ] あれ、顔がこわばってるよ。まさか……怖いの?

[ビーンストーク] そ、そんなわけないでしょ! あたしが怖がるなんて――

[ウタゲ] はいはい、ビーンストークは平気だね。じゃあ続きを話そっかな。

[ビーンストーク] ううっ……

[ミルラ] ハハッ……

[ミルラ] (ウタゲの顔……あれ完全に楽しんでるよね。)

[ミルラ] (はぁ……)

[ミルラ] あの……話がそれちゃってませんか?

[ビーンストーク] あ……そうだった!

[ミルラ] 仕事を忘れないでくださいね……

[ミルラ] こんな奇妙な話ばかりじゃ、なんの参考にもならないと思います。

[ミルラ] でも……なんだか――

[ウタゲ] なんだか「気味が悪い」……そう言いたいんじゃない?

[ウタゲ] でもさ、それって地区全体が封鎖されてるからじゃない? だから噂話がだんだんと大げさになるんだよ。そりゃ仕方ないって。

[ウタゲ] ……で、まだ北へ向かうつもり?

[ビーンストーク] コホンコホンッ!

[ビーンストーク] 薬草はもう結構採れたんだっけ? じゃあ……えーっと。

[ビーンストーク] ……やめとこっか?

[ミルラ] うーん……

[ウタゲ] ん? ミルラ、どうしたの? 急にボーっとして……

[ミルラ] あっ、大丈夫です、なんでもありません。

[ミルラ] ただちょっと気になって……

[ミルラ] こんなに恐ろしい噂がたくさんあるなんて……イベリアはいったいどんな場所なんでしょう?

[いたずらっ子] 待て、この! 逃げるな!

[小柄な子供] ……

[いたずらっ子] ホセ、俺の言うことが聞けないってのか? 待て、逃げるなって!

[ホセ] あっ!

[ホセ] ううっ……

[いたずらっ子] おまっ……おい、なに泣いてんだ、自分で勝手に転んだんだろ? 俺は触ってないからな!

[いたずらっ子] 早く立てって! これ以上ふざけたマネはすんなよな……いいか、お前がデタラメなことを言ったせいで、俺は先生にメチャクチャ怒られたんだ!

[ホセ] 言ってない、僕は嘘なんか言ってないよ!

[ホセ] 僕見たもん! テーブルに置いてあったミリッサおばさんのお金を盗んだのは、アントニオ――君じゃないか!

[アントニオ] はぁ? お前まだ言うか! このチクリ魔!

[ホセ] 違うもん! ぼ、僕は、チクリ魔じゃないもん!

[???] こらこら、やめなさい、君たち。

[???] 一時の怒りは過ちを招きます。感情に流されてはいけません。ほら、立ちなさい。

[アントニオ] 誰だ? 余計なおせっかいしやがって――

[アントニオ] うわっ……!

[アントニオ] お前――いや、あなたは……!

[ホセ] ありがとうございます……大丈夫です、支えていただかなくても、自分で立てますから。

[ホセ] 僕は泥まみれなので、あなたの手が汚れてしまいます……

[???] あぁ、お気遣いありがとう。

[???] でもその必要はありません。泥が汚いものと誰が言ったんです? 私たちの衣食のもとは、すべて土から育つのですよ。

[???] 私の手につかまりなさい、しっかり立って……そうです。

[アントニオ] あの……あなたは街からやってきた人ですよね?

[???] 私をご存知なのですか?

[アントニオ] 村中に知れ渡ってますよ、今日は街から偉い人がやってきて、村でえん、えん……なんだっけ……?

[アントニオ] えんぜつ……そうだ! 演説をしてくれるって!

[アントニオ] あなたは演説しに来たその偉い人なんですよね?

[???] そうです。君は賢い子ですね。

[???] 私は皆さんに、我々の尊く崇高な規律について語る任を受けて来たのです。

[ホセ] あなたが教会の宣教師さんなのですか!?

[宣教師] はい、そうです。

[アントニオ] 教会の教えを聞かせてもらえるんですか? それと、ラテラーノの物語も?

[宣教師] そうです。しかし賢き子よ、私が語るものはそれだけではありませんよ。

[宣教師] 我々の規律は教えています。「崇高なる規律は崩れることはない。これを信じ、遵守し、崇めるべきである」。確かにその通りです。それは正しい……正しいのですが、現実からはやや離れている。

[宣教師] 私はただの凡人であり、私の考えが他者よりも高尚というわけではありません。ですから私は、称賛すべき身近な物語を語ることにより、我々と、神の教えとの距離を縮めるために来たのですよ。

[アントニオ] 宣教師さん……話が難しすぎてわからないです。

[アントニオ] ねぇ、宣教師さんはこれからどこに行くんですか? もし村長の家なら俺が案内しますよ!

[宣教師] 感謝します。

[宣教師] 私の言ったことは重要ではありません。大切なのは、君が何を聞いたか、です。決して背伸びする必要はないんですよ。

[宣教師] 道はこちらですか? おっと、気を付けて、そこのお花を踏まないように。伸び伸びと成長させてあげましょう。

[ホセ] ま、待ってください……

[ホセ] 宣教師さん!

[宣教師] ん?

[宣教師] どうかしましたか?

[ホセ] ……

[ホセ] あの……さっきのこと、全部見てました……?

[アントニオ] ――!

[ホセ] 見て……いましたか?

[ホセ] ……僕がさっき言ったこと、全部、聞いていましたか?

[宣教師] ――否定はしません。

[宣教師] 君が転んでからの一連のやり取り、おそらく私はすべて聞こえてしまいました。

[アントニオ] せ、宣教師さん、お、俺――

[ホセ] 宣教師さん! 違うんです、デタラメなんです!

[ホセ] 僕が言ったのは全部デタラメです、だから聞かなかったことにしてください!

[アントニオ] ……

[宣教師] 自分が言ったことはバカな作り話だったと、本当にそう思っているのですか?

[ホセ] 僕は……

[ホセ] アントニオは別に悪い子じゃないんです! ただ……アントニオはただ……

[ホセ] ……

[ホセ] ……そうです! ぼ、僕はバカな作り話をしたんです! 見間違い……そう、僕見間違えちゃったんです! アントニオは何も盗んでないんです、宣教師さん! だから見逃してあげてください!

[アントニオ] ホセ!

[アントニオ] ホセ、お前……やめろよ!

[宣教師] ……

[ホセ] う、嘘はいけないってわかっています。でも本当はアントニオが妬ましかったんです。僕の方が成績良いのに、お腹一杯食べられないし、もうすぐ学費も払えなくなるし……彼に嫉妬したんだ!

[ホセ] 人の物を盗んだら捕まる、僕はそれを知っていました。隣のフーゴお兄さんは、街で店の物を盗んで捕まって、二度と帰ってきませんでした……

[ホセ] だから僕は先生に告げ口して、無実のアントニオを陥れました! 全部、卑怯な僕が悪いんです!

[ホセ] 僕が悪いんです……捕まえるなら僕を捕まえてください。ううっ、アントニオを捕まえないで……

[宣教師] ……「他人を欺くなかれ。同様に、自らを欺くことなかるべし」。

[アントニオ] お前何言ってんだよ! 誰がそんなこと言えって言ったんだよ!

[アントニオ] 俺です! 宣教師さん聞いてたでしょ? 俺がミリッサおばさんのお金を盗ったんです……!

[ホセ] アントニオ!

[アントニオ] もう何も言うな、ホセ。もう……俺のために嘘をつくな。

[アントニオ] お前は嘘つくような奴じゃないだろ! 前にペドロさんがお前の足が折るまで殴った時も、お前は嘘をつかなかったじゃないか!

[ホセ] ……僕は……

[宣教師] 嘘とは……

[宣教師] 単なる嘘は、己も他人も滅ぼす卑劣なものです。しかし……善なる心から出た嘘は人を成長させます。

[宣教師] 続けなさい、君。

[アントニオ] これ以上言うことなんてない!

[アントニオ] 俺はミリッサおばさんのお金を盗った、いつか返すよ! もう街で仕事を見つけたんだ、給料だってすごくいい!

[アントニオ] 盗んだ俺が悪かった、謝りに行くよ。でももう少し時間があれば、お金を返せるんだ。

[ホセ] でもどうして、どうしてこんなことをしたの?

[アントニオ] ……

[アントニオ] ……学費だよ……

[ホセ] え?

[アントニオ] お、お前は勉強を続けたいだろ!? お前はみんなより頭が良いんだ。学費が足りないんだろ? あとちょっとだけ――

[アントニオ] う……

[ホセ] ……

[アントニオ] チッ、今のはナシだ! ハッ、お前には関係ねぇよ!

[アントニオ] 俺は盗りたいから盗ったんだ! 金は後で返すって言っただろ? お前に見つかった俺の運が悪かったんだ。どんな罰でも受けるよ!

[アントニオ] 宣教師さん、俺を捕まえますか? じゃあ連れて行ってください!

[ホセ] アントニオ……

[宣教師] 落ち着いてください。

[宣教師] 自分は過ちを犯した、そう思っているのでしょう? なら、今懺悔をしますか?

[ホセ] そ、そうだ! 懺悔!

[ホセ] 間違いを認めれば、許しを得られて罰を受けなくていいんだよ。

[ホセ] 宣教師さんお願いです。彼を――アントニオを許してください! 彼はちゃんと悔い改めますから!

[アントニオ] 俺は……過ちを犯しました。規律には、盗みを働いてはならない、欺いてはならないとあります。

[アントニオ] ……でも俺は後悔してない。この方法しか思いつかなかったから、たとえ罰を受けたとしても、後悔はしない。

[アントニオ] 宣教師さん、後悔しない人でも懺悔していいんですか?

[宣教師] それは君の考えによります。君自身の考えです。

[宣教師] 私たちには皆、弱さを持つ。誰が絶対に過ちを犯さないと保証できるのです?

[宣教師] 過ちを犯しても、懺悔すれば許しを得られるのですか? しかし誰が他人の罪を許すことができるというのです?

[アントニオ] ……わかりません。

[アントニオ] 俺がやったことは間違いなんでしょう? 間違ったことをしたのに悔い改めないなんて、俺は本当に悪いやつです……

[宣教師] 一時の小さな過ちで、その人はすっかり悪人になるのですか?

[宣教師] 悪意を持って過ちを犯しても、相応の罰を受ければ、その悪意は本当に消え去り、罪人は罪人でなくなるのですか?

[ホセ] それは……違うと思います……

[宣教師] アントニオは盗みを働き、戒律を犯しました。そして君、ホセ……君は先ほど彼を守るために、私に嘘をついて、戒律に反しました。

[宣教師] 規律において嘘は恥ずべき行為です。なら君は自分が悪人だと思いますか?

[宣教師] 君は、君のために盗みを働いた彼を悪人だと思いますか?

[ホセ] 僕は……

[ホセ] 思いません……でも僕は確かに間違ったことをしました。アントニオもです。彼が懺悔しないなら、どうすれば許しを得られるのですか?

[ホセ] まさか許容される悪事があるというのですか?

[宣教師] もちろん違います、ホセ。それは違いますよ。

[宣教師] 規律は我々に生活する上での規範を与え、悪に罰を与え、善を指し示します。法典のもとでは、許容されるべき悪行などありません。

[宣教師] 規律が与えるのは罰。それには力があり、本当に過ちを犯した罪人を罰します。

[宣教師] ですが、罰だけでは善を指し示すことができません。

[アントニオ] ほかにどんなことが?

[アントニオ] 俺の父ちゃんは棍棒とホウキだって言ってました。

[ホセ] 本には……悔いることとありました。まず悔いて、それから過ちを認めて、改める……

[宣教師] どれも間違っていません。

[宣教師] 君たちは過ちを知り、友愛を理解し、互いを思いやる。これはとても良いことです。

[宣教師] しかし「過ちを指摘するなら、まずは正しい例を示しなさい」ともあります。

[宣教師] アントニオ、君はまずこの問題を自分に問いかけてみなさい。

[宣教師] 自分の心に問うのです……何がどう間違っていた時に、我々は罪を犯すのでしょう?

[宣教師] アントニオ、君はなぜ盗みを働いたのです?

[アントニオ] ……俺は大人より力がないから、雇ってくれる人は少ない。だからお金を貯めることができなかったんです。

[ホセ] 違うんだ! アントニオは僕を助けるために……僕が不甲斐なかったから、ううっ……

[アントニオ] な、泣くなよ! 違うって言っただろ!

[アントニオ] ……俺わかりました、宣教師さん。もし俺にもう少し力があれば、もう少し早く仕事が見つかれば、お金も手に入って、あんなことはしませんでした。

[ホセ] 僕も……もし僕がもう少し強ければ、仕事ができて、アントニオやほかの人を巻き込むことはなかった……

[宣教師] 君たちが今回の問題の要に気付いてくれて、私は嬉しい。

[宣教師] 我々の肉体は往々にして貧弱です。結果、たとえ初志が善意でも、目的達成のため不当な手段を用いてしまうのです。同胞たちの多くはそれによって過ちを犯す……私は悲しく思います。

[宣教師] しかし――当然ながら、我々はこうした困難にも打ち勝てます。ラテラーノより継承された、我々の規律は、先賢が種を撒き、育て、我々の足元にあるこの大地に長きにわたる光をもたらしました。

[宣教師] それは、百年前の天災後に訪れた、真っ暗な日々を生き抜く手助けとなり、我々自身の貧弱さに打ち勝つ力にもなってくれています。

[宣教師] 私は同胞に、規律が一種の束縛であると思ってほしくないのです。その中に秘められた、最も純粋な部分を見てください。

[アントニオ] あの、それはどういうことですか? 難しくてよく理解できません……宣教師さん、俺たちはどうすればいいんですか?

[宣教師] 信仰するのです。君たちはすでによくできていますよ。

[宣教師] 我々は団結し、善に向かって良いことをする……これは規律が我々の心を浄化し、本来心の中にある善を改めて認識させ、その本来の姿を思い出させてくれるからです。

[宣教師] そしてこれから言うことこそ、私が君たちに伝えたかったことなのです――

[宣教師] 信じなさい。心には力があると信じるのです。敬虔、友好、愛。これらを忘れてはなりません。

[宣教師] 「助けを必要とする人を助け、優しくしなさい。自身の手足のように思いなさい」。アントニオ、君はホセのために盗みを犯した。そしてホセ、君も友を庇い嘘をついた。

[宣教師] 窃盗と虚言、どちらも同じく過ちです。しかし過ちを認めれば、この小さな間違いもすぐに改められるでしょう。

[宣教師] このことで二人を責めはしません……むしろ、兄弟のように接し、友愛により行動なさいと言いたいのです。個人個人は極めて小さいかもしれませんが、友愛や団結は我々を強く大きくしてくれます。

[宣教師] 法典の教えを信じ、その中にある善への励ましと呼びかけを掘り起こすのです。そうすれば、親しい兄弟姉妹のように、我々の心はより近づくでしょう。

[宣教師] これによって、我々は最終的に心を呼び覚ますのです。心の中に潜んだ善の力を呼び覚ませば……

[宣教師] その力は、我々をどんな困難にも負けないようにしてくれます。

[アントニオ] うーん……やっぱりよくわからないです、宣教師さん。

[ホセ] 僕もよくわからない……

[ホセ] 宣教師さん、僕らには難しそうです。

[宣教師] 大丈夫です、今はまだ理解できなくとも、君たちの心にあるものが損なわれることはありません。

[宣教師] 困難や苦しみを、恐れないでください。それだけわかっていれば大丈夫です。

[村の女性] 司教様! なぜこんなところに!? 演説の準備は整っています。皆が司教様のお言葉を待っておりますよ!

[村の女性] こ、これはどういうことですか? まさかこの子たち、何か失礼なことを!?

[イベリアの司教] いいえ、二人共とても良い子です。

[イベリアの司教] さて行きましょう、皆さんをあまり待たせるわけにはいきません。アントニオ、案内をお願いします。

[アントニオ] は、はい!

[イベリアの司教] それにホセも……さぁ、一緒に行きましょう。

[イベリアの司教] 広場に立ち、皆さんと共に、己の過ちを見つめ直しましょう。そして自らをより強く、より善良に、より美しくするのです。

[イベリアの司教] 将来何をするにしても、まずは自分の本意を明らかにし、自分の心に問うのです……この考え、この衝動は、本当に自分の本心から来るものなのかを。

[イベリアの司教] イベリアを――我々をより良くしてくれる力は、心の奥から来るのです。

[イベリアの司教] 覚えておきなさい、子供たち。

[イベリアの司教] ただ自分を信じれば良いのです。

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