aklib_story_風雪一過_BI-8_チェックメイト_戦闘後

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風雪一過_BI-8_チェックメイト_戦闘後

複数の戦場において緊張が高まり、もはや全面衝突は避けられないと思われたその瞬間、決意と共に山を下りた巫女のエンヤが、争いを鎮める。


[デーゲンブレヒャー] ……あなたサルゴン宮廷の人間?

[Sharp] ……昔の仕事だ。

[Sharp] まさかサルゴンの剣術まで知っているとはな。

[デーゲンブレヒャー] アーツは興味ないから全然覚えられないけど、武器に関することは忘れたくても忘れられないのよ。

[Sharp] 黒騎士が天性の武者と称されるゆえんだな。

[デーゲンブレヒャー] 天性?

[デーゲンブレヒャー] フッ。

[デーゲンブレヒャー] 「アーツを使えないリターニアの不良品」から、「天性の武者」って呼ばれるようになるまで、どれだけかかったか知ってる?

「キンッ──」

Sharpが持つ盾にひびが入った。

対するデーゲンブレヒャーの体にもいくつかの傷がついたが、彼女はまるで気付いていないかのようだった。

[Sharp] まさか痛覚がないのか?

[デーゲンブレヒャー] 子供の頃に、毎日寝る時以外は苦痛に耐えるって生活をしてたら、誰でもこの感覚に慣れるものよ。

[デーゲンブレヒャー] あなたはどうなの? 死と隣り合わせた経験はどのくらい?

[Sharp] そんなものをわざわざ数えていた知り合いで、長生きした奴は一人もいない。

[Sharp] それよりも、黒騎士は商業連合会への協力を拒んだことにより、三連続チャンピオンという実績を持ちながら追放の後に命を狙われ、カジミエーシュの辺境に姿を消したというが……

[デーゲンブレヒャー] だから?

[Sharp] かつては権力に屈しない象徴として名を馳せた騎士が、今では陰謀家の護衛として、クーデターに加担するか。

[Sharp] その是非を問うわけではないが、それでも少し残念だな。

[デーゲンブレヒャー] 私はてっきり、あなたたちロドスならエンシオディスの考えを理解できると思ってたんだけど。

[Sharp] 理解できるかと受け入れられるかはまた別の話だ。

[Sharp] 実際、ドクターはエンシオディスの考えを理解しているとは思う。

[デーゲンブレヒャー] そう。まぁ、エンシオディスや自分の弁明をするつもりはないわ。そんなの面倒だし、する必要もないもの。

[デーゲンブレヒャー] あの男が一体何をしたいかは、その目で見届けるといいわ──今日を生き延びればの話だけど。

いくつもの難所を越え、ついにエンシアは崖の縁まで登り詰めた。まもなく崖の上へよじ登るというところで、すぐ近くから声が聴こえたため、彼女は反射的に手を止めた。

[シルバーアッシュ家戦士A] あーあ、麓も山頂もめちゃくちゃだな。

[シルバーアッシュ家戦士B] そうだな。まさか大長老が倒れるなんて……下ではアークトスが、兵を引き連れて突っ込んできてるらしいぜ。

[シルバーアッシュ家戦士A] もうこれ以上の大ごとは起きないと思っていたんだがな。これじゃこの先もどうなるか全くわからんな。

[シルバーアッシュ家戦士B] 俺はむしろ最初っから、あれで騒ぎが落ち着くなんて思ってなかったぜ。ただ、こんなことになって、ちょっと悲しいけどな。

[シルバーアッシュ家戦士A] というと?

[シルバーアッシュ家戦士B] 俺たちが蔓珠院を占領してから、エンヤお嬢様──いや、巫女様が主導権を握ったのは明らかだろ?

[シルバーアッシュ家戦士B] 大長老が倒れた今となっては、蔓珠院全体が完全に巫女様に従っている。

[シルバーアッシュ家戦士B] そして山の下では、エンシオディス様が全体を掌握している。

[シルバーアッシュ家戦士A] ……

[シルバーアッシュ家戦士A] 言われてみれば確かにそうだな。山の上は巫女様。山の下ではエンシオディス様か。

[シルバーアッシュ家戦士B] お前の言うように、これじゃこの先どうなるかなんて全くわかったもんじゃないな。

[シルバーアッシュ家戦士A] ……俺たち下っぱは、そんなこと考えたってどうにもならんがな。

[シルバーアッシュ家戦士B] そうだな、こんなこと考えててもしょうがない。

[シルバーアッシュ家戦士B] さ、見回りに戻ろうぜ。もうしばらくしたら俺たちも下山するよう言われるかもしれないな。

[エンシア] ……お姉ちゃん。

[シルバーアッシュ家戦士C] おい、ありゃ何だ!?

[シルバーアッシュ家戦士D] 食料庫が燃えている!

[シルバーアッシュ家戦士C] 何だって!? 早く消しに行かないと!

[スキウース] フンッ、ちょろいわね。

[ブラウンテイル家戦士] さすがはスキウース様、あなたらしいやり方ですね……

[スキウース] どういう意味よ!?

[ブラウンテイル家戦士] いえ、褒めたつもりなのですが。

[スキウース] フンッ! 燃えても後で建て直してやればいいのよ。この状況でやり方なんて気にしてられないでしょ!

[スキウース] ぐずぐずしないで。ユカタンが閉じ込められてる場所はもうすぐそこよ! あいつらが火事に気を取られてるうちに!

[ブラウンテイル家戦士] はっ!

[エンヤ] ……ヤエル。

[ヤエル] 何かしら、巫女様。

[エンヤ] 大典の際、群衆の中であなたを見かけたのですが、そばにフードをかぶった人がいましたね。

[ヤエル] ええ。

[エンヤ] 聞くところによると、その方こそエンシオディスが招いたロドスの大事なお客様なのでしょう? ドクターと呼ばれているとか……

[エンヤ] そして、その方は今、アークトス側に付きエンシオディスと対立しているのですね。

[ヤエル] ……巫女様に隠し事はできないわね。

[エンヤ] あなたはどうやってそのドクターと知り合ったのですか?

[ヤエル] 下山してあなたの手紙を送り届けた時に、偶然ね。

[エンヤ] ……そういうことにしておきましょう。

[ヤエル] どうして急にその人の話を?

[エンヤ] ……

[エンヤ] 一度お会いしてみたいのです。

[ヤエル] え?

[エンヤ] 経緯こそ存じ上げませんが、今その方は明らかにエンシオディスの反対側に立っています。

[エンヤ] その方の考えを伺いたいのです。

[ヤエル] ……

[エンヤ] 私は自分のやるべきことこそ疑っていませんが、決断が遅すぎたのではないかと危惧しています。

[エンヤ] そこで、その方の協力を仰ぐ必要もあるかもしれません。

[ヤエル] その点については……心配いらないわ。

[エンヤ] なぜです?

[ヤエル] その人の使者が、すでにあなたの背後に来ているから。

[エンヤ] !?

[エンシア] お姉ちゃん!

[エンヤ] あなたは、エンシア……あぁ、どうやら私は、ついに幻覚を見るようになってしまったのですね。

[エンシア] もぉ~っ! お姉ちゃん、あたしは幻覚じゃないよ。本物のエンシアだよ!

[エンヤ] ──!? エンシア、本当に本物なの!?

[エンシア] そう言ってるでしょ。信じられないなら触ってみる?

[エンヤ] ……!!

エンヤは震える両手で目の前にいるエンシアに手を伸ばす。

しかし彼女は、突然現れた妹が幻ではないかとひどく恐れ、触れるのを躊躇していた。

そんな彼女の手が触れるのを待たず、エンシアはすでに彼女の胸の中へと飛び込んでいた。

そして彼女はすぐに確信した。自分の胸に飛び込んできた人物は、紛れもなく最愛の妹であると。

[エンヤ] ……

[エンヤ] 本当にあなたなのね、エンシア……本当に。

[エンシア] お姉ちゃん、会いたかったよ。

[エンヤ] 私も会いたかったわ、エンシア。

[エンヤ] 外で元気にしてた?

[エンヤ] 病気の具合はどう?

[エンヤ] ロドスってどんな場所なの?

[エンシア] もう、お姉ちゃん、それ全部手紙で聞いたやつじゃない……

[エンシア] あのね──

Sharpが数歩後ろに退がり、かすかに息を吐いた。

彼はその生涯の中で数多くの強敵に遭遇し、ロドス所属の強者たちとも腕を競ってきた。直接手合わせしたことのない相手でも、彼らの実力をその目に収めてきた。

だがそんな彼も認めざるを得なかった。このデーゲンブレヒャーのような相手……彼女のような「純粋なる力の権化」には会ったことがないと。

スピードとパワー、それはすべての戦士が備えてしかるべき基本的な素質である。

しかし、デーゲンブレヒャーはそれ以外に何も備えていない……なぜなら、それ以外に何も備える必要がないからだった。

すべてを凌駕する圧倒的パワーとスピードを有する者に、それ以上何が必要だろうか?

幸い、Sharpがエリートオペレーターになれたのも、その二つを備えていたからだ。

[Sharp] ......

[デーゲンブレヒャー] ……

[Sharp] エンシオディスを相当信用しているようだな。

[デーゲンブレヒャー] どうしてそう思うの?

[Sharp] 金のためであってもここまでする奴はそうそういない。

[Sharp] それにお前は、そもそも金で動くような奴じゃないだろう。

[デーゲンブレヒャー] そういうあなたは? 口ではただの仕事とか言ってるけど、もう完全に仕事の範疇を超えてるわよ。

[Sharp] 俺は自分の気に入った仕事しかやらない。

[デーゲンブレヒャー] あっそう。……私はカジミエーシュが嫌いだった。あそこは騒々しいし、誰も彼もがやかましい。

[デーゲンブレヒャー] はじめはイェラグも好きになれないって思ってたわ。

[デーゲンブレヒャー] でも、意外といいところよ。

[Sharp] 素晴らしい理由だな。隠居生活の地盤を固めておくのも大事ということだな。

申し合わせたかのごとく、双方ともに数歩、後ずさった。

相手を倒すには、これまでと同様の攻撃では意味がないことを、互いに悟ったのだ。

さらなる奥の手を出さざるを得ないだろう。

デーゲンブレヒャーは剣を投げ捨てると、腰から二本の鐧(カン)を抜いた。

Sharpもまた、盾を投げ捨て、両手で刀を握りしめた。

若木から伸びた一本の枝が、雪の重さに耐えきれずに、「パキリ」と音を立てる──

──同時に、Sharpとデーゲンブレヒャーの姿が、その瞬間までいた場所から消えた。

[エンヤ] あなたったら、驚きすぎて何から話せばいいかわからないわ。

[エンヤ] 人の目を避けるために、麓から崖を登ってくるなんて。

[エンシア] えへへ、そうでもしないとお姉ちゃんに会えないでしょ。

[エンヤ] さっき、ドクターという人があなたを来させたと言っていたわね。

[エンヤ] 何のために来させたの?

[エンシア] お姉ちゃんのそばにいてあげるべきだって言われたんだ。状況に応じてお姉ちゃんを守るか、連れて逃げろって。

[エンヤ] 状況に応じて?

[エンシア] うん……ひょっとするとお兄ちゃんが、お姉ちゃんに何か良くないことをするかもって。

[エンヤ] ……

[エンシア] えっと……

[エンシア] お姉ちゃん、あたしの考えはこうだよ。

[エンシア] お兄ちゃんには自分の考えがあって、きっとあたしじゃ止められないんだ。

[エンシア] でも、もしお兄ちゃんの考えが最終的にお姉ちゃんを傷つけることになるんなら……

[エンシア] あたしは命を懸けてでもお兄ちゃんを止める。

[エンヤ] ……

ドクターがなぜ妹を自分のもとへ送り込んだのか、エンヤは唐突に理解した。

守る、あるいは逃げる──これらは、ドクターが妹に与えたもっともらしい指示に過ぎない。

ドクターは私の考えも読んでいるに違いない。私が妹に会うということ自体が、事態を大きく変化させるということを理解しているのだ。

エンシアが私を守る?

エンシアが私を連れて逃げる?

いや、逆だ。

私こそがエンシアを守るべき人。

私こそがエンシアを連れて逃げるべき人。

そして私こそが──立ち上がって戦うべき人。

[エンヤ] エンシア、昔編んであげたミサンガ、まだつけてたのね。

[エンシア] もちろんだよ、これからもずーっと外さないよ。

[エンヤ] もうボロボロじゃない。時間ができたら、また編んであげるわね。

[エンシア] ほんとに!?

[エンヤ] ええ。

[エンヤ] それで、エンシア。

[エンシア] ん?

[エンヤ] 今はお姉ちゃんに、手を貸してくれる?

[エンシア] いいよ、何をすればいいの?

[エンヤ] そばにいてほしいの。

[ユカタン] ……

[ユカタン] (外は静かだが、あの二人の看守はまだいるはずだ。)

[ユカタン] (窓……この角度で気付かれないように脱出するには、まずは看守をどこかにおびき寄せるしかないな。)

[ユカタン] (巡回の奴は……一日に五回ほどここを通る。恐らくまもなくのはずだ。)

[ユカタン] (無理やり鍵を壊せば目立ちすぎる。だが、もしこじ開けられれば……)

[ユカタン] (……きっとチャンスが来る。)

[若い護衛] ……エンシオディス様は……今回こそ……

[ユカタン] (──来た! 巡回だ。)

[若い護衛] 三家……衝突は避けられそうにない……だが……

[年長の護衛] ……ブラウンテイル家の……燃え……スキウース……

[ユカタン] (スキウースだと……!?)

[ユカタン] (ウースがどうしたって? まさか何かあったのか!?)

[ユカタン] (クソッ、遠すぎてよく聞こえない!)

[ユカタン] (……いや、きっと大丈夫だ。まずはここからなんとか脱出して、それからウースとお義姉様に合流して……)

[シルバーアッシュ家戦士] 待て、何者だ!?

[シルバーアッシュ家戦士] 早くそいつらを止めろ──グハッ。

[ユカタン] ──!?

[ユカタン] (何の音だ? 入り口で何かが起きている……)

[スキウース] ユカタン、大丈夫!?

[ユカタン] ウース!? なぜここに──

[スキウース] なぜここに、ですって? バカなこと言わないで、あなたを助けに来たに決まってるでしょ!

[スキウース] ほかの人じゃ頼りになんないから、あたしが助けに来たのよ!

[ユカタン] そんな……危険すぎる!

[ユカタン] ウース、部下は何人連れてきたんだ? お前が自分で来るなんて……僕のために危険を冒してほしくないんだ!

[スキウース] ……

[スキウース] ユカタン。

[スキウース] それ以上言ったら、ぶん殴るわよ。

[ユカタン] なっ……

[スキウース] いい!? あなたがあたしのために危険を顧みないというのなら、あたしだって同じなのよ。

[スキウース] わかった? 二度と忘れちゃダメよ!

[スキウース] ……あたしを一人で置いていくなんて許さないんだから。

[ユカタン] ウース……

[ユカタン] そんなことはしない……わかってるだろ。

[スキウース] フンッ、もちろんよ!

[スキウース] とにかく無事でよかったわ……さあ、行くわよ! 今はまだほかにやることがあるの。あなたを救出したら別の任務に取り掛かるってラタトスに約束したんだから。

[ユカタン] 任務?

[ブラウンテイル家戦士] スキウース様! シルバーアッシュんとこのヴァイスが、兵を連れてここにやってきます!

[スキウース] ほら、もう来ちゃったわ。詳しい話はあとでゆっくりしてあげる。とにかく、あたしたちの任務はシルバーアッシュを目いっぱい困らせることよ。

[スキウース] それと……探したい人もいるんだけど、まあ、これはあと回しにしましょ!

[スキウース] 正直状況はあまり良いとは言えないわ。ヴァイスもなかなか厄介な相手だし……でもあなたがいれば大丈夫! でしょ、ユカタン?

[ユカタン] ……

[ユカタン] 当然だ。お前が必要とするなら、僕がずっとそばにいる。

[マッターホルン] 包囲網を狭めろ!

[マッターホルン] アークトスを山道に行かせるな!

[ペイルロッシュ家戦士] 旦那様、このままだと囲まれます!

[アークトス] ……フンッ、強行突破もここらが限界か。

[マッターホルン] アークトス様、投降してください。

[アークトス] ヤーカ家のせがれか……エンシオディスのどんな甘言に乗せられてそこまでの忠誠を誓ったというのだ。

[アークトス] ペイルロッシュ領でもその名が知られるほどのヤーカ家が――

[アークトス] まさかイェラグを支配しようとするエンシオディスに加担するほど愚かだったとはな!

[マッターホルン] ……

[アークトス] 投降と言ったか?

[アークトス] ありえん。

[マッターホルン] アークトス様を捕らえろ……できるだけ生きたままで。

[「チェゲッタ」] ……

[アークトス] 来るがいい、シルバーアッシュ家の愚図どもめ! 死にたい者からかかって来い!

[「チェゲッタ」] ……!?

[マッターホルン] ……オーロラさん!?

[マッターホルン] まさか──

[ドクター選択肢1] 間に合ったようだ。

[ドクター選択肢2] やあ。

[ドクター選択肢3] (フードの先をつまんで挨拶する)

[マッターホルン] ドクター!?

[マッターホルン] デーゲンブレヒャーが向かったはずでは……

[アークトス] ドクター、やっと来たか!

[ドクター選択肢1] 突然の吹雪で、少し時間がかかった。

[ドクター選択肢2] 監視をかいくぐるのに、少し時間がかかった。

[アークトス] ハハッ、確かにイェラグの雪は異邦人にとっては厄介だろうな。

[アークトス] 構わん。まさに願ってもないタイミングだ!

[アークトス] フン。援軍も到着した今、もう俺たちは止められんぞ。

[エンシオディス] アークトス、喜ぶにはまだ早いのではないか?

[アークトス] エンシオディス!

[エンシオディス] ドクター、久しぶりだな。

[ドクター選択肢1] 確かに「久しぶり」だ。

[ドクター選択肢2] 本当に「久しぶり」か?

[ドクター選択肢3] ようやく会う気になってくれたか。

[エンシオディス] お前とは語らいたい話題がたくさんあるが、残念ながら今はその時ではない。

[アークトス] エンシオディス、今すぐこの腑抜けた包囲網を打ち破り、巫女様を救出して見せよう! 全イェラグに向けて貴様こそが逆賊だと証明してやる!

[エンシオディス] そうか。期待している。

[アークトス] 戦士たちよ、ペイルロッシュ家の古来よりの責務を思い出せ!

「イェラグを外敵から守り、この土地に安寧を守ることだ!」

[アークトス] 今! エンシオディスは巫女様に害をなすばかりか、巫女様を自らの道具に仕立て上げようとしている!

[アークトス] 我らペイルロッシュ家がそれを認めるのか!

「認めない! 認めない!! 断じて認めない!!!」

[アークトス] 時は満ちた……俺に続いてカランドに突貫せよ! エンシオディスを打ち破り、巫女様を救い出せ!

「エンシオディスを打ち破り、巫女様を救い出せ!」

「エンシオディスを打ち破り、巫女様を救い出せ!!」

「エンシオディスを打ち破り、巫女様を救い出せ!!!」

[「チェゲッタ」] ……

[シルバーアッシュ家戦士] 巫女様、何をなさるおつもりです!?

[エンヤ] 山を下ります。

[シルバーアッシュ家戦士] ですがエンシオディス様が──

[エンヤ] 一体いつから、身共の行動にエンシオディスの同意が必要になったのですか?

「チリン」「チリン」「チリン──」

澄んだ鈴の音が寺院に響き渡る。

次の瞬間、エンヤとエンシアを除き、その場にいた全員が地面に倒れた。

[エンシア] お姉ちゃん……すごい。

[エンヤ] ヤエル。

[ヤエル] 巫女様、どうして私がいるのがわかったのかしら?

[エンヤ] あなたは聡いですから、どこかに隠れてこの状況を見ているだろうと思っていました。

[エンヤ] 私はカランドを下ります。後のことはあなたに任せましたよ。

[ヤエル] えっ、こんな面倒なことを私に押しつけるの?

[エンヤ] ええ。山の下ではより面倒なことが待っているからです。

[ヤエル] そう言われちゃ、どうしようもないわね。

[ヤエル] ……

[ヤエル] あなたは知らないでしょうけど、歴代巫女の選抜のたびに、私は侍女に扮して、試練を受ける子たちを陰から観察していたのよ。

[ヤエル] あなたはあの年の六人目だったわね。

[ヤエル] 元々あなたにも、何ら期待していなかった……最近の巫女たちは、みんな退屈な子ばかりだったからね。

[ヤエル] 候補の子たちはみんな、強靭な肉体を持っていたのかもしれない。でも強い意志を持つ子はいなかったわ。結局、最終的には長老たちの操り人形になっていった。

[ヤエル] 時々考えていたの。彼女たちが──この国の人々が停滞してしまうのは、イェラグがあまりに閉鎖的だからではないかって。

[ヤエル] でもあなたは違った。

[ヤエル] あなたはとても面白い子だったわ、エンヤ。

[ヤエル] 巫女になるためじゃなく、怒りと失望に衝き動かされて選抜に参加するなんて、普通考えられないもの。

[ヤエル] あなたが吹雪に凍えながらカランドの山道を歩いていた時……体力が尽き果てても諦めようとしなかった時、あなたが心の中にずっと抱いていたものは──

[ヤエル] 巫女になるという意志でも、イェラガンドの代理人にならなくてはという責任感でも、イェラグ人の幸せを願う祈りでもなかった。

[ヤエル] あなたが抱いていたものは、兄に対する失望、他の両家への嫌悪、巫女になり彼ら全員を見返してやりたいという怒り。

[ヤエル] そしてそれ以上に私を驚かせたのは、あなたのイェラグに対する考え方よ。

[ヤエル] もちろん、正しくはあなたたち兄妹が揃って私を驚かせたと言うべきだけれど。

[ヤエル] あなたの兄は早くから答えを出していたわ。

[ヤエル] そしてあなたは、あなた自身の答えをずっと模索していた。

[ヤエル] ここ数年、あなたは蔓珠院から受けるあらゆる冷遇に耐え、人々を助ける様々な方法を探していた。結果的に、それらがあなたの糧となった。

[ヤエル] そして今、それらの糧によってあなたは成長し、今回のような騒動の中でも自分を見失うことなく、あなた自身の選択をした。

[ヤエル] 私の子、私の代弁者、私の友人、私の姉妹――あなたに、祝福を贈るわ。おめでとう。

[ヤエル] 道を示してあげられないことを許してちょうだい。私はこの土地に自らの烙印を軽率に押してしまったことを、今でもずっと後悔しているの……

[ヤエル] でもせめて今は、あなたの門出に際し、心ばかりの彩りを添えさせてもらうわ。

静寂の中、ヤエルは微笑みを浮かべ、軽く二回手を叩いた。

「パンッ」「パンッ」

そして、すべてが変わった──

[グロ] 痛くもかゆくもねぇぜ!

[ヴァレス] くっ……

[グロ] ヴァレス、アークトス様は、確かにお前に取り返しのつかねぇことをしたのかもしれねぇ──

[グロ] だが、エンシオディスの野郎だってろくな奴じゃねぇだろうが!

[ヴァレス] 言ったはずです──

[ヴァレス] イェラグは変わらなくてはなりませんの!

[ヴァレス] これは、あなたのように優秀な戦士をもう二度と無駄死にさせないためでもありますわ!

[グロ] 俺にお前を殺させないでくれ、ヴァレス。

[ヴァレス] それは私のセリフですわ、グロ将軍。

双方が一歩ずつ退がり、身構えた。

今日、恐らくどちらか一方がここで倒れなければならないことを、二人は感じ取っていた。その時──

[グロ] ……何だありゃ?

[ヴァレス] 雲が……散った?

[ユカタン] ……

[ヴァイス] くっ、しぶといですね。甘く見ていました。

[ヴァイス] ですが、僕を倒したところで何の意味もありませんよ。

[ヴァイス] あなたたちでは旦那様を止められません。

[ユカタン] ……構わない。

[ユカタン] お義姉様──ラタトス姉さんはずっと、イェラグに対して自分の理想を持っていた。

[ユカタン] 人々の歩みを進め、良い生活を送れるようにすることを望んでいたんだ。

[ユカタン] ただ、それを実現する力がなかった。

[ユカタン] だから、あの人は、あなた方の言うところの「狡猾なラタトス」になるしかなかったんだ。

[ユカタン] あなた方からすれば、姉さんはただの邪魔者かもしれない。

[ユカタン] しかし私にとっては、あの人はいつまでも敬愛する姉さんなんだ!

[スキウース] ユカタン……

[ヴァイス] ……

[ヴァイス] あなたたちに個人的な恨みはありません。諦めてくれさえすれば、あなたたちの身の安全は保証します。

[ユカタン] だが、私たちも大人しくエンシオディスとお義姉様の交渉材料になるつもりはない。

[ユカタン] どけ、シルバーアッシュ家のヴァイス。さもなくばあなたを殺す。

[ヴァイス] ……それは僕のセリフですよ、ブラウンテイル家のユカタンさん。

[ヴァイス] 今日、ここから出ることは叶いません。

[スキウース] ユカタン、頑張って!

[スキウース] えっ……?

[スキウース] カランドの方角……雲が裂けた!?

Sharpが振り返ると、デーゲンブレヒャーは鐧(カン)をゆっくりと腰に戻していた。

彼らの周囲は、まるで天災が一瞬で大地をなぎ払ったかのように、至る所に裂けた木々や砕けた岩が転がっていた。

Sharpは自分の手から刀が滑り落ちたことに気付かなかった。彼の右腕はすでに感覚を失っていたのだ。

彼は負けた。

[デーゲンブレヒャー] 三ヶ月は右腕を酷使しないことね。

[Sharp] 忠告感謝する。どうやら短期の病欠を申請する必要があるらしい。

[デーゲンブレヒャー] 落ち込んだりはしないのね。

[Sharp] この戦いの勝ち負けは、作戦に何ら影響しない。

[Sharp] お前をここにこれだけ足止めした時点で、俺の任務は完了した……あとはほかの奴らがやってくれる。

[Sharp] 仕事は終わった。終業の時間だ。

[デーゲンブレヒャー] あなたにとって、仕事ってそんなに重要なの?

[Sharp] 言っただろう、プロ意識を重要視していると。

[Sharp] 良い雇用主とはなかなか巡り会えない。少なくとも俺は、この仕事を大事にしているということだ。

[Sharp] お前は? 俺が時間稼ぎに来たことを初めから知っていて、それが達せられた今となっても平然としているようだが。

[デーゲンブレヒャー] ……

[デーゲンブレヒャー] 少し興味があるのよ……あなたが私を止めたとして、あなたたちに何ができるのかってね。

[Sharp] どうやらエンシオディスの護衛は、噂で聞くように彼の敵を問答無用で一掃するような奴ではないようだ。

[Sharp] 人々が知るのは、エンシオディスが黒騎士を金で買い取ったということだけ……それは黒騎士がエンシオディスを認めたということと同義だとは思っていないのだろう。

[Sharp] お前はエンシオディスと同様に傲岸不遜な奴だ。

[デーゲンブレヒャー] ……あなたの名は覚えておくわ、Sharp。

[Sharp] 俺の名など覚える必要はないさ。だがドクターの名前は覚えておくといい。

[デーゲンブレヒャー] ――あれは?

[Sharp] カランドの方角か。一体何が起きた?

[アークトス] ……

[エンシオディス] ……

[アークトス] 戦士たち、整列!

[ペイルロッシュ家戦士たち] はっ!

[エンシオディス] 全軍──

[「チェゲッタ」] ──!

[シルバーアッシュ家戦士たち] ……!

[エンシオディス] ──!?

[アークトス] 何が起きた?

その瞬間、時が止まったようだった。

巫女の足音だけが山にこだまする。

吹雪はいつの間にか止んでいた。

空を埋め尽くしていた黒雲が、彼女に道を開くように、ゆっくりと両側に裂けていった。

雲間を突き抜けた光が巫女の行く道を照らす。巫女が天から降りてきたのではないかと、人々はふいに錯覚を起こした。

あるいは、錯覚などではないのかもしれない。

神……

神の御業だ。

これは神の御業だ!!!

その瞬間、すべての戦士の胸中にあるのは、たった一つの思いだけとなった。

──巫女に敬虔なる祈りを捧げねば。

[侍女] ヤエルさん。

[ヤエル] 下がっていいわ。私が大長老を看るから。

[侍女] はい。

[大長老] ……

[ヤエル] 考えてみれば、本堂は何度も修繕されてきたとはいえ、その年齢は恐らく主よりほんの少し若い程度ね。

[ヤエル] 大長老という肩書きも、ほとんど同じよ。

[大長老] ……

[ヤエル] イェラグの団結を今日まで存続させたのは、蔓珠院の存在であるということは誰も否定しないわ。

[ヤエル] でも、これまで正しかったことが、今も正しいとは限らない。

[ヤエル] もし時代に適応できなければ、どれだけ強大であろうとも、それは捨て去られる運命よ。

[ヤエル] イェラグはここで歩みを止めるべきではないわ……少なくともそれを望まない人がいる。

[ヤエル] 大長老、良い夢を。

[ヤエル] あなたも、そしてあなたたちも、今までお疲れ様。

[ヴァレス] ……どういうことですの。

[グロ] ……ありゃ何だ?

[グロ] まさか、神の御業ってやつか……?

[ヴァイス] カランドで何が起きたのでしょう?

[ヴァイス] ……全員、戻れ。

[スキウース] 何が……起きたの?

[ユカタン] これは……まさかイェラガンドが起こした奇跡か?

[ラタトス] ……

[ラタトス] イェラグは……これからどうなるんだ……

[デーゲンブレヒャー] ……まぶしいわね。

[デーゲンブレヒャー] 教えて、これもあのドクターの計画の一部なの?

[Sharp] 俺にもわからん。

[Sharp] オペレーターたちは皆、口を揃えてドクターにできないことはないと言うが……

[Sharp] 正直、もしこれがドクターの計画の一部なら、あるいは少なくともこの可能性を予想していたというのなら……あまりにも桁外れだ。

[デーゲンブレヒャー] ……

[エンシア] お姉ちゃん、あたし怖いよ……

[エンヤ] 怖がらないで、エンシア。

[エンヤ] お姉ちゃんがあなたを守る。

[エンヤ] お姉ちゃんが……イェラグを守る。

山道にいるすべての兵士たちがこの瞬間、武器を置いた。

生涯を通じて信仰してきた雪山の神が、今まさに奇跡を起こした。真の主の前では、争いごとなどあまりに矮小で馬鹿馬鹿しかった。

[アークトス] ……

[アークトス] ……ペイルロッシュ家当主、アークトス・ペイルロッシュ。ここに主の代理人である巫女様へ、敬虔なる祈りを捧げます。

短い沈黙の後、彼はゆっくりと巫女に礼を行い、片膝をついた。

その場にいたすべてのペイルロッシュ家の戦士たちも、彼の所作にならって次々とひざまずく。

[ノーシス] ……エンシオディス、君は今、後悔しているか?

[エンシオディス] 後悔?

[ノーシス] 私の最初の意見を聞き入れず、さらにはあのドクターをイェラグに招いたことを。

[エンシオディス] 我々が負けたと思っているのか?

[ノーシス] 君の概念において、この結果は敗北を意味すると思っていたが。

[エンシオディス] 過去であれば、確かにそうだった。

[エンシオディス] だが今日は……必ずしもそうではない。

エンシオディスが一歩踏み出す。

彼はゆっくりと群衆から抜け出して、巫女の前までやってくると、片膝をつき、祈りを捧げた。

そして、シルバーアッシュ家の戦士たちも、揃ってひざまずいた。

こうして、雪山事変は、誰も予想だにしなかった形で幕を閉じた。

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