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ニアーライト_NL-ST-1_生成発展
メジャー開会式が始まろうとしている。この大騎士領カヴァレリエルキでは、様々な出来事が巻き起こりつつあった。
「――都市とは、怪物である。際限なく人を喰らい、飲み込んで、ひとつところに押し込める。それでもなお、我々は胃袋の底で、もたらされる恩恵を戴いて過ごさねばならぬのだ。」
「日々の生活が我々を緩慢に消化し、やがて赤い血肉と白い骨が露わになる。そのほかの部分はすべて、都市が前進していくための糧となるのだ」
「これこそが、文明の繁栄というものである」
[ビッグマウスモーブ] カジミエーシュ国立競技場へお越しくださった皆々様! ――ようこそ、カジミエーシュ騎士メジャーへ! 私こそ、皆さんお馴染み――ビッグマウスモーーーゥブです!
[ビッグマウスモーブ] さて、ついに本日! 長きにわたる予選を経て、全カジミエーシュが首を長~くして待っていたメジャー本戦――その第一試合を迎えようとしています!
[ビッグマウスモーブ] 決闘、レース、バラエティー競技の三大カテゴリーに分かれ――八大項目、そして四十三の小項目で、名誉と富をかけ、数多の騎士団と騎士たちがメダルを追い求めることになります!
[観客席の騎士] ……なんでモーブがメジャーの実況担当なんだ? どっかの代弁者に袖の下でも握らせたのか?
[ポップコーンを持っている騎士] 普通に選ばれたんじゃないの。メジャーの実況担当だぞ。金だけでどうにかしようとしたら、やばい額になるだろ。
[観客席の騎士] でもさ、モーブって普段、かなりのお喋り野郎だろ? こんな大舞台でちょっとでも口を滑らせたら、どうするつもりなんだよ。
[ポップコーンを持っている騎士] ハッ、そこは知っての通りさ。ほら、前にビッグビアードケイジって人気MCがいたよな? あいつは、メジャーの会場でとある大騎士に「冗談」をかまして……
[ポップコーンを持っている騎士] 次の日には、もう消えちまってた。ポップコーンいるか?
[観客席の騎士] どうせ責任取って辞めたんだろ、よくあることじゃないか。
[ポップコーンを持っている騎士] むしゃ……辞めたんじゃない。……もぐ……いいか? 俺は、「消えちまってた」って言ったんだ。どういう意味か、わかるよな。
[観客席の騎士] えっ……マジで……?
[ビッグマウスモーブ] 今日、この会場で一堂に会しますのは、八つの大騎士団に六十四の騎士団、そして二名の独立騎士!
[ビッグマウスモーブ] 試合にかけるは、熱き思い。勝ち取るは、無二の栄光! 我らカジミエーシュ騎士メジャーは、このテラの大地のすみずみまで、素晴らしき騎士の勇姿をお届けします!
[ビッグマウスモーブ] 本日の第一試合は、ブレードヘルム騎士団vsクラウドヘイズ騎士団! それぞれを代表する十名の騎士たちは、どれだけの戦果を上げてくれるのでしょうかっ!?
[ビッグマウスモーブ] 勝利の先に待っている巨額の賞金プールは、今この瞬間も増え続けております! それはなぜか? カジミエーシュ各競技場での消費すべてが、一定の割合に応じてメジャーの賞金となるからです!
[ビッグマウスモーブ] さあ――今回最も多くの栄冠を勝ち取るのは、どの騎士団になるのでしょうか!? そして何より、決闘を勝ち抜き、今大会のチャンピオンとなるのは一体誰でしょうか~~ッ!?
[ビッグマウスモーブ] 皆さん――どうぞご期待ください!
p.m. 5:43 天気/晴天
大騎士領カヴァレリエルキ チャンピオンウォール展示ホール
[代弁者マッキー] 服の具合はいかがですか? マルキェヴィッチさん。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……はい、お陰様で。
[代弁者マッキー] いえいえ。オーダーメイドの礼装は、我々の必需品ですのでね。
[代弁者マッキー] あの仕立屋の連絡先は控えてありますか? きっと、この先もまた世話になることがあると思いますよ。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……
[代弁者マッキー] ――ワインを一杯もらえるかな。うん、ありがとう。
[代弁者マッキー] なにか気になることでも?
[代弁者マルキェヴィッチ] いえ、何も……
[代弁者マルキェヴィッチ] その、こんなに盛大なパーティーに、ただただ圧倒されてしまって……恐らくそれだけです。
[代弁者マッキー] ……ふむ。恐らく、ですか。
[代弁者マッキー] 恐らく、まだ実感が湧いていないのでしょうね。チャルニーさんの件は、我々も皆残念に思っていますよ。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……!
[代弁者マッキー] 彼は実に勤勉な人でした。一社員としても、商業連合会の代弁者としても、最善を尽くしていました。
[代弁者マッキー] 私は、代弁者になってから彼と知り合ったのですが、メジャーの仕事に関しては、彼のほうこそが先輩でした。
[代弁者マッキー] 見込んだ人物には本当に良くしてくれる方でしたよ、チャルニーさんは。
[代弁者マルキェヴィッチ] ええ、恐らく……そうだったと、思います。
[代弁者マッキー] 恐らくは、もうやめましょうか。笑ってくださいマルキェヴィッチさん。
[代弁者マッキー] 今日は開会式翌日です。チャンピオンウォールが一般に開放されるこの良き日に、その管理者が辛気臭い顔をしていては何事かと思われますよ。
[代弁者マルキェヴィッチ] お……仰る通りですね。大変申し訳ございません……
[代弁者マッキー] そう、ご自分を低くなさらずに……こうしましょうか。我々の間では敬語を使わずとも結構です。堅苦しくしすぎると、コミュニケーションに差し支えますしね。
[代弁者マルキェヴィッチ] この歓声は何でしょう……? 何か起きたのでしょうか?
[代弁者マッキー] ああ。
[代弁者マッキー] 時間を見るに、スペシャルゲストとしてお招きした騎士だな。彼女は常に時間厳守で動く人でね。すべての騎士が彼女を見習ってくれたら言うことはない。
[代弁者マッキー] ……さて、挨拶をしてくるから、少々失礼させてもらうよ。良い酒が揃っているから、好きなものを持って来させるといい。我々に許されたものに慣れておくことをおすすめする。
[代弁者マルキェヴィッチ] あ、はい……
[代弁者マッキー] 君はもう、甘い酩酊を楽しめる立場だ、マルキェヴィッチ君。
[代弁者マッキー] ドロステさん、ご機嫌よう。
[ドロステ] ご機嫌よう。遅れてしまいましたか?
[代弁者マッキー] いいえ、少しも。ご参加いただきましたことに御礼申し上げます。
[代弁者マッキー] 今宵、燭騎士(しょくきし)のもたらす光が、宴の幕開けに美しき彩りを添えてくださること、大変嬉しく思いますよ。
p.m. 6:15 天気/曇天
大騎士領カヴァレリエルキ 商業連合会ビル 応接室
[プラチナ] ……
[プラチナ] …………
[プラチナ] 私は――
[???] おっと。釈明はいらないぜ、プラチナ。俺たちだって別にお前をどうこうしようってわけじゃないんだ。けどなぁ……これは「仕事」だ。わかるだろ?
[???] だから、体裁だけはちゃんとしないといけないのさ。
[プラチナ] ……
[プラチナ] 今回は、私のミス。
[???] はぁ〜あ。ミス、ミスねぇ……俺たちは普通のサラリーマンじゃないんだぞ。お仕事での「ミス」は、命取りだぜ。
[???] 文字通り、な。
[プラチナ] ……
[???] ま、今回の件はそこまでじゃない。耀騎士(ようきし)に感染者のいる違法居住区まで入られたってだけだしな……あ、でもお前、モニークの方には注意しとけよ。
[???] あいつの任務はドローンで違法居住区を吹っ飛ばして、レッドパイン騎士団を零号地に連行することだったからな。
[???] 元は楽な任務だったってのに、耀騎士が現れたせいで全部おじゃんになっちまった。
[???] お陰であいつはご機嫌斜めさ。想像つくだろ? あいつの素の性格がアレだし、その上ボーナス稼ぎを邪魔されたんだ、すげーめんどくさいことになってるよ。
[プラチナ] ……モニークのターゲットなんて知らないし……
[???] いいや、知ってたろ。っつーか、知ってようが知らなかろうが言い訳になんねーけどな。
[???] 「感染者の追跡調査」は元々お前の任務だっただろうが。担当変更に関しちゃとっくに伝えてあったはずだよな?
[プラチナ] ……
[???] おいおい、んな怖い顔で睨むなって〜。いや、普段からそういう感じだったっけか? ペガサスちゃん。
[プラチナ] ……
[???] ま、毎月十七、八回休みを申請してるような奴が、四六時中そんな顔してるわけねーよな。
[???] 新聞の大見出しに「耀騎士、違法居住区へ!」とか、「弓を手にした謎の殺し屋と大立ち回り!」とか書かれてないことを喜んでくれよ。
[???] メディアの大部分は俺らのパートナーだが、あいつらは稼ぎ時を見逃さねえ連中だ。あれこれもみ消すにも、結構金がかかるんだぜ。
[プラチナ] ……損失の分は、私が負担するから。
[???] 自覚があるなら結構。実現可能かは別だけどな、あんまやらかしすぎるなよ、理事会がお前に払ってる給料って、そこまで高くないだろ?
[プラチナ] ……ごめん。
[???] ふっ、まあいいさ。俺は説教役は嫌いなんだ、この辺にしとこう。
[???] 俺たちは「いい同僚」なわけだし、な?
[プラチナ] アンタがそう思ってるならそうじゃないの、「ロイ閣下」。
[ロイ] ははっ! お前にそう呼ばれると変な感じするぜ、「プラチナ」セントーレア閣下。……ほら、そんなふうに呼ばれるとなんか居心地悪くねーか? 愛称で呼び合おうぜ、ペガサスちゃん。
[プラチナ] ペガサスなんて、カジミエーシュには山ほど居るでしょ。
[ロイ] 俺がお前を呼んでるってことが、わかりゃいいんだよ……っと、そうだ。もう一つ、ちょっとしたことなんだが。
[プラチナ] ……アンタがわざわざ伝えてくることが、「ちょっとしたこと」とは思えないんだけど。
[ロイ] そうか? だったら誤解されてるな。お前に話してるのは、ちょっとしたことばっかだよ。でっかいことは、まぁ……あは。
[ロイ] ――それで、だ。シェブチックの息子を見逃したんだって?
[プラチナ] ……あの時点で、チャルニーは解任されてたから。アイツの命令を聞いて子供に手出しする必要はなかったってだけ。
[ロイ] お〜、正直じゃねーの。まあそれはいいさ。
[ロイ] チャルニーの奴も可哀想だったが、面倒なのは別件だ。……簡単に言うと、合成樹脂騎士シェブチックが失踪した。
[ロイ] シェブチックは別に名家の出身ってわけでもない。ひたすら競技でのし上がっただけの典型的な競技騎士だ。
[ロイ] もとから消すつもりはなかったが、あいつもロアーガードの所有物だからな、よその奴に主導権を握られるのはよろしくない。連合会からクレームが来ることになるだろうよ。
[プラチナ] なるほど。誰の仕業?
[ロイ] 感染者だよ。
[プラチナ] ……ただの感染者騎士がほんの数人集まっただけで、そんなことできるの?
[ロイ] 俺が知るかっての。っつーか、それこそ俺らがはっきりさせなきゃなんねーことだろ、プラチナちゃん。
[ロイ] でもな、一個だけ誤解するなよ?
[プラチナ] 何を?
[ロイ] 今俺たちが相手しなきゃなんねぇのは、「カヴァレリエルキの感染者全員」だ。「ほんの数人」なんかじゃねえ。
[ロイ] ミェシュコ工業は、既に八つの新たな移動式プラットフォームを提供してる。零号地はすぐにでも、その役割を果たすことになるだろう。
[ロイ] 言ったろ? 忙しくなる、って。
[プラチナ] そう、わかった。
[ロイ] ……うんうん、わかったなら良し。ところでー……あー、ごほんごほん……
[プラチナ] ……
[ロイ] ふぅ……今日さあ、マジ暑くねえか? ヘルムを被らなくていいってのは幸いとしか言いようがねーよなあ~……
[プラチナ] ……?
[ロイ] ――って、おい……こんだけアピってんのに、まだ気付かねえの?
[プラチナ] ……あっ。
[プラチナ] 髪、染めた?
[ロイ] そうそう、そーゆーこと! 尻尾もぜーんぶ染めたんだぜ。なあ、どう思う? 似合ってるかな?
[プラチナ] そうだね。似合ってるんじゃない。
[ロイ] な~んでそんなめんどくさそうな顔すんだよ~。
[プラチナ] アンタ個人の問題だし、私の意見なんて必要ないでしょ。
[ロイ] そんなこと言わずに、考えてもみろって。「プラチナ」のお前は白い髪に白装束、称号にピッタシだろ? モニークの奴も生まれつき髪が青いから、ラズライトの制服着てると超絶キマってんだよ。
[ロイ] けど俺ってほら、真っ黒だろ? 同じラズライトだってのにモニークと並ぶと地味で全然映えねえし、俺だけ仲間外れみたいじゃん。
[ロイ] そこで、企業イメージってやつを考慮して青に染めてみたんだよ。あはっ。
[プラチナ] ……はぁ。
[ロイ] ん~?
[プラチナ] ……好きにすれば。
p.m. 1:22 天気/晴天
大騎士領カヴァレリエルキ 区画の隙間にある感染者居住区
[ソーナ] ただいまー!
[ユスティナ] ……遅かったね、ソーナ。
[ソーナ] え~っと、なんていうか色々あってね。
[ユスティナ] ……
[ユスティナ] 灰毫(かいごう)から聞いた。例の工業事故の時、耀騎士が助けてくれたんだって?
[ソーナ] あはは、有名人の影響力ってやつかな。なんだか、みんなに知られてる気がしてきた……
[ユスティナ] 彼女は……
[ユスティナ] 耀騎士は、どんな人だった?
[ソーナ] あら、珍しいわね。あなたが他人に興味を持つなんて。
[ユスティナ] ……故郷に……
[ユスティナ] 私の故郷には、競技場がある。
[ユスティナ] 大した試合があるわけでもなく、流行りに乗って建てられただけの小さな競技場。
[ユスティナ] でも私はそのおかげで……騎士に憧れ始めた。そこで、耀騎士の伝説を聞いて育ったの。
[ユスティナ] もう、何年も前の話。
[ソーナ] そうなの? 今まで私たちに話してくれたことなかったわよね。
[ユスティナ] それを言うなら、君の小さい頃の話だって聞いたことがない。
[ソーナ] 確かに! じゃあ、これからは昔のこともたくさん語り合う?
[ユスティナ] 長い道のり……すごく遠かった。
[ユスティナ] 私が旅して大騎士領までやって来たのは、故郷を思い出すためじゃないから。
[ソーナ] そんな真面目に振り返らなくてもいいの。ただのおしゃべりよ。
[ユスティナ] おしゃべり……うん。
[ユスティナ] 私たちが、スイーツの店で堂々と過ごせるような日が来たら、そこでおしゃべりしよう。灰毫と野鬃(やそう)も呼んで、午後中ずっと。
[ソーナ] ……いいアイディアね。
[ユスティナ] ところで……まだ、答えを聞いてない。彼女は、どんな人だった?
[ソーナ] あー、実はね、ばったり会っただけだから、何とも言えないの。彼女があたしの顔をはっきり見たかどうかすらわからないっていうか……すごく突然だったしね。
[ユスティナ] ……
[ソーナ] そ、そんなにがっかりしないでよ! 無冑盟の殺し屋が目の前にいる状況で、暢気におしゃべりなんてできるわけないじゃない!
[ソーナ] でも、彼女があたしっていう感染者を助けてくれたのは確かよ。自分が誰かに監視されているのを知っていてなお、彼女はそうしてくれたの。
[ユスティナ] ……うん。
[ユスティナ] 本当に、あの耀騎士なのかもしれないね。……感染者たちが想像している通りの、「耀騎士」……
[ソーナ] その言い方って――ま、いいわ。それより、あなたが助けた気の毒な人はどうなったの? ほら、あのおじさんよ。
[ユスティナ] 彼なら――
[???] ――俺がどうなったって?
[合成樹脂騎士] ……矢はすでにつがえたぞ、感染者
[合成樹脂騎士] あの低俗な殺し屋どもに、報いを受けさせるのだ。
[老齢の騎士] アーミヤ女史、そしてロドスのドクター。どうぞお入りになって。こちらが、あなた方のお部屋です。
[老齢の騎士] お二人のお部屋はこの上に。医療プロジェクトにご参加いただくお医者様方には、十二階でお休みいただく手筈となっております。
[アーミヤ] お心遣い、ありがとうございます閣下。
[老齢の騎士] ふふ、そう畏まらないでくださいね、アーミヤ女史。
[老齢の騎士] それにしてもロドスのリーダーが、このように可愛らしい女性だったなんて。まさに若き俊英といったところかしら。
[アーミヤ] わわっ、そのようなことは……!
[ドクター選択肢1] 彼女のいないロドスなど、有り得ないくらいだ。
[ドクター選択肢2] アーミヤはいつも頑張っている。
[アーミヤ] ド、ドクターまで~……
[老齢の騎士] まあ、恥ずかしがってらっしゃるのかしら?
[老齢の騎士] ほんと、愛らしいお嬢さんですこと。アーミヤ女史のような孫が欲しかったわ。私に孫娘がいればきっと同じくらいの歳ですもの。
[アーミヤ] そ、そんな……
[老齢の騎士] あらあら、お顔が真っ赤になっていますよ。ふふ。
[老齢の騎士] でも、この度は、ご不便をおかけしてごめんなさいね。皆さんの特殊な立場を考慮すると、正式な面会ができかねるものですから。
[アーミヤ] はい……大丈夫です。事情は理解しています。
[老齢の騎士] ありがとうございます。……さて、「グラベル」。
[セノミー] ――こちらに。
[老齢の騎士] 彼女は第四階級の征戦騎士ですの。どうぞ、「グラベル」とお呼びください。この子もあなたと同じように、有望な若者ですよ。
[グラベル] ……こんにちは。
[老齢の騎士] このカヴァレリエルキにおいて、お二人の安全は彼女が確保いたします。何かありましたら、彼女に任せるようにしてくださいね。
[老齢の騎士] メジャー期間中、各国の来賓や貴族、そして御社のような素晴らしいパートナー企業に損失を被らせるわけには参りませんので、このような対応をさせていただいておりますの。
[アーミヤ] わかりました、ありがとうございます。
[老齢の騎士] ご理解に感謝申し上げますわ。長旅でお疲れでしょう、お休みの邪魔にならぬよう、私は失礼させていただきます。
[老齢の騎士] グラベル。ロドスの方々をしっかりとお守りしなさい。
[グラベル] かしこまりました。
[グラベル] それじゃあ……あたしはドアのすぐ外にいるから、何かあったら遠慮なく言ってちょうだいね。
[アーミヤ] はい、グラベルさん。よろしくお願いします。
[グラベル] ……
[ドクター選択肢1] アーミヤ。彼女、君のことを見ているぞ。
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] 何か用事でも?
[グラベル] 一つだけ、お願い……ちょっと近付いてもいいかしら? うん、ありがとう。これでいいわ。
[グラベル] ……ちゅっ。
[アーミヤ] ――!?
[グラベル] ん? どうして顔が真っ赤になったの? 初めましての挨拶で、特別な意味なんてないわ。
[グラベル] では改めまして、カジミエーシュの騎士グラベルよ。よろしくね、ふふ。
[アーミヤ] ……
[アーミヤ] い……今、あの……!?
[ドクター選択肢1] 「初めましての挨拶」だと、言っていたが。
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] カジミエーシュ人の挨拶は変わってるな……
[アーミヤ] そ、そういえば、貴族の間では挨拶代わりのキスをすることもあるとか……き、騎士階級の方ですし、それなら……?
[アーミヤ] きっと、仰る通りの意味、ですよね……? たぶん……
[アーミヤ] ……はぁ……びっくりしました……
[ドクター選択肢1] まだ緊張しているか?
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] やっと一段落だな。
[アーミヤ] あっ……確かに、まだ少し緊張しています。
[アーミヤ] ですが、初めにお会いした監査会の騎士の方々に比べると、先ほどのおばあさんはずっと優しい方でしたから。
[アーミヤ] ……ドクター? もしかして、お疲れですか?
[アーミヤ] 考えてみれば、それも当然ですね。カジミエーシュに着いてからというもの、ずっと契約や礼儀作法のことで気を張っていましたし。
[アーミヤ] 今のうちに、一息ついてください。
[アーミヤ] ふふっ……私も一安心です。
[アーミヤ] 共同医療任務の担当者の方が、先ほどのおばあさんのように話のわかる騎士ばかりならいいのですが。
[アーミヤ] ともあれこれも、またとない機会ですよね。
[アーミヤ] 聞くところによると、カジミエーシュの大騎士領は数年ごとに、発展の著しかった移動都市から三都市を選んで、中枢区画と合併するらしいですよ。
[アーミヤ] 驚くほど壮大な話です。
[ドクター選択肢1] 外の広告灯が眩しかったね。
[ドクター選択肢2] もっと厳粛で堅苦しい都市だと思っていた。
[アーミヤ] ……私も、少し意外でした。
[アーミヤ] ニアールさんから、よく故郷の話を聞いていたのですが、まさかそのカジミエーシュの中心部がこのような場所だったなんて。
[アーミヤ] ……
[ドクター選択肢1] 街巡りでもしたくなった?
[ドクター選択肢2] 何か買いに行く?
[アーミヤ] えっ? あっ、いえ、違うんです。ただ、こんなに栄えた都市へ来るなんて滅多になかったので。
[アーミヤ] 感染者がこうした都市の高層ホテルに泊まれるというのも、本当に珍しいことですし……
[アーミヤ] ロドスが医療業務の契約を得られていなければ、我々はこんな良い待遇を受けなかったでしょう。
[アーミヤ] ……その。
[アーミヤ] ニアールさんは……今どうしているのでしょう。
[ドクター選択肢1] ロドスを離れると急に申し出てきた時は、本当に驚いた。
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] 彼女は耀騎士だ。この地こそ帰るべき場所なんだろう。
[アーミヤ] ……そうですね。
[アーミヤ] 私たちはニアールさんを、彼女の判断を信じるべきです。
[アーミヤ] ただ彼女が無事でいてくれることを祈っています……
[アーミヤ] シャイニングさんとナイチンゲールさんが、そばにいるので、きっと……大丈夫ですよね?
[アーミヤ] ……そうですね! ニアールさんを信じましょう。
[アーミヤ] 耀騎士は――カジミエーシュ騎士の頂点に立つ一人なんですから。
[アーミヤ] あっ……! ドクター、外の大型スクリーンを見てください。
[アーミヤ] あれ、ニアールさんですよね?
[マリア] 完成したよ、お姉ちゃん!
[マリア] この前もらった意見を基に、武器の重心を調整して、伸縮機能を付けてみたんだ。これならきっと……
[マリア] ……お姉ちゃん、聞いてる?
[マーガレット] ……
[マリア] 何か考えごと?
[マーガレット] あぁ、マリアか……すまない。今、何か言ったか?
[マリア] お姉ちゃんがぼーっとしてるなんて、珍しいね。どうかしたの?
[マーガレット] ロドスにいた頃から、噂には聞いていたが……
[マーガレット] ここは、本当に……随分変わったんだな。
[マリア] そうだね……家具をたくさん売っちゃったから。
[マリア] ムリナール叔父さんは、あんな態度だけど……叔父さんがいてくれなかったら、去年のうちにこの屋敷から出て行くことになってたかも。
[マリア] 実は昨日、騎士協会の人がまた催促しに来たんだよね。私でも、お姉ちゃんでもいいから、どこかの騎士団として出るか、一族を代表して出場しろって。さもないと……
[マーガレット] ……安心しろ。私が解決する。
[マリア] えへへ、さすがお姉ちゃん。
[マリア] あっ、そうだ。はい、これ! お姉ちゃんの武器だよ。コーヴァル師匠と私で調整しておいたから。
[マリア] でも、この数日、試合はなかったはずだよね? どうしてあそこまで損傷してたの……? まるで爆弾で襲われたみたいな状態だったけど……
[マーガレット] ――これまでは、思ってもみなかったんだ。この大騎士領に、まさかあんなにもたくさんの感染者がいたとは。
[マリア] お姉ちゃん……?
マーガレットは黙したまま遠くを見た。視線の先にあるのは、高層建築ばかりだ。
しかし――暗くゴミだらけの地下で炸裂した炎の明るさを、彼女は忘れられなかった。
[マーガレット] ……今は感染者でも騎士になれる時代だ。その先駆者となった血騎士は、確かに素晴らしい人物だと思う。結果だけで言えば、彼は多くの感染者を不幸な境遇から救ったのだから。
[マーガレット] だが、「騎士」とは本来そうあるべきものではない。感染者たちもまた、鉱石病というだけで、このように貶められ、もてあそばれていいはずがないんだ。
[マリア] ……
[マリア] ソーナもきっと……感染者たちを助けたかっただけ、なんだよね。
[マリア] ……レッドパイン騎士団は帰る場所のない感染者たちを、お金を出して買い取ったんだって。
[マリア] 工場は稼働し続けてるし、坑道での採掘も止まらない。おかげで都市は発展するけど、一方で感染者はどんどん増えていって、労働力にならなくなった彼らは荒野に追放される……
[マリア] レッドパイン騎士団は、そうした人々を保護してるんだって、この間コーヴァル師匠が聞かせてくれたの。
[マーガレット] しかし、それだけでは何も変えられない。彼らもまた、都市に居場所を持っているわけではないからな。
[マリア] そうだね……前にも、感染者騎士の何人かが、こっそり似たようなことをやってたけど、貧しい感染者たちがたくさん都市に隠れ住むなんて、商業連合会が許さなかったし。
[マーガレット] ……監査会も許しはしないだろうな。
[マーガレット] 彼らのような――政権を掌握する貴族たちは、感染者が街中を堂々と歩くことを快く思わないだろう。恐らく、何かしらの措置を講じてくるはずだ。
[マリア] そういえば最近、テレビでよく感染者のニュースとか、鉱石病関係の研究会議について報道されてるような……
[マーガレット] メディアはそうして、人々の間に恐怖を撒いているんだ。
[マーガレット] たとえその報道によって、感染者騎士法が再び、抑止力を失うことになろうとも、彼らは、一般の民衆が持つ感染者への恐れを煽ろうとしている。
[マーガレット] ――そして、何より恐ろしいのは……その目論見がまず間違いなく成功してしまうことなんだ。
[ムリナール] ……
[???] そう難しい顔しなさんなって。辛気臭いやつのところには金は降ってこないぞ。
[???] 耀騎士がやってるのは偉大な行いだよなぁ。都市で息を潜めて暮らす感染者たちを助けるなんて、高潔すぎて震えるぜ。
[ムリナール] それで?
[ムリナール] 助けたとして、そのあとは? 感染者の人生に活路を開いてやれるのか? 鉱石病を治療してやれるのか? 社会全体に抵抗するのを支え続けてやれるのか?
[???] できないなんて誰が言ったよ。
[ムリナール] 大概にしろ、トーランド。
[ムリナール] ほかにすることがないのなら、さっさと大騎士領を離れて、お前の根城に帰るがいい。
[トーランド] おいおい、可愛い姉妹の安全を確かめた途端、お払い箱ってか?
[ムリナール] 報酬は渡してあるだろう。
[トーランド] まあ、もらうもんは確かにもらったが、ありゃあ単なる駄賃だろ。俺とお前の仲じゃねえか。俺らが今、何を掛け金に駆け引きしてるかなんて、よ〜く分かってるだろ? ムリナールの旦那よ。
[ムリナール] お前に私室に上がり込む許可を与えた覚えはない。
[トーランド] ほ~う、こいつはなかなか良いカーペットだな……リターニアの織物か。明日には売りに出しちまうんだろう? もったいねえなあ。
[ムリナール] お前には関係ないことだ。
[トーランド] そうかよ。ところで、あの二人のサルカズ騎士の正体だが、大体の見当はついたぜ。同族としちゃ、ああいう「騎士」の末路には正直同情するよ。
[トーランド] ただ、一つ言っておくと……こいつはもう、お前との取引の範疇を超えてる。俺の仕事はとっくに終わってんのさ。
[トーランド] それでも、久々にこのカヴァレリエルキまでやってきたのは、俺にも目的があるからだ。本当なら、お前を説得できたらと思ってたんだが――どうやら望みは薄いらしいな。
[ムリナール] ……
[トーランド] ったく、そんな顔すんなって。俺らの関係は、昔とは変わっちまったんだぜ、ムリナールくん。
[トーランド] 今の俺は無名のバウンティハンター。大騎士領とは無関係の、名もなき男に過ぎねえってこった。それに引き換えお前は――おっと。
[トーランド] あ〜すまん。今となっちゃ、お前も「何者でもない男」だったな。お仲間じゃないか。
[ムリナール] ……
[ムリナール] …………
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